学校気象台」を利用した小学校4年生における授業実践-天気による気象

科教研報 Vol.24 No.1
「学校気象台」を利用した小学校4年生における授業実践
―天気による気象要素の日変化を事例として―
The Practice Example Through a School Meteorological Observatory in Fourth Grade
The Case Study on the Change of Meteorological element depend on a Weather
○熊谷 詩子*,
名越 利幸*,
高橋 長兵**,
黄川田 泰幸**
*
*
*
KUMAGAI UTAKO , NAGOSHI TOSIYUKI , TAKAHASI TYOUBEI , KIKAWADA YASUYUKI**
岩手大学*, 岩手大学教育学部附属小学校**
*
Iwate University , Elementary School attached University of Education Iwate University **
[要約]「学校気象台」は,地域の学校と大学の連携事業として,大学が盛岡地域のいくつかの地点に
おける局地気象情報をリアルタイムで提供しながら継続的に記録することが出来る者である。本研究は,
天気による気象要素の変化が1日の中でどのように変化するかを学習する際に「学校気象台」を利用する
ことによって,気象に対する児童への教育効果がどのようなものであるかを調査する。
[キーワード]学校気象台,ネットワーク,気象要素,グラフ化
間の気温変化の特徴を捉える事ができるため,主
観的な感覚を正確なデータで裏付ける事ができ
た。特に,従来のデータでは最高気温しか発見す
る事ができなかったが,24時間のデータを扱うこ
とで,児童の多くが最低気温を発見する事ができ
た。一方,本来であれば学習内容には含まれて
いない湿度概念を,“空気の湿り気具合”と表現し
て触れた。湿度変化のグラフを気温変化のグラフ
と共に見ることで,湿度と気温の相関に気づかせ
ることができた。以上2点から,気象台ネットワーク
の利点が生きたと言える。
1.はじめに
本研究は小学校理科4年生の授業実践を通
して,学校気象台が学習においてどのような効果
を発揮するか,その効果を明らかにする。
本研究における授業は,小学校学習指導要
領理科・第 4 学年 B 生命・地球(3)天気の様子の
内容であり,学校気象台を利用することで本内容
をより深く理解することを目的とする。
授業の事前,事後には児童にアンケートを行
い,アンケート結果をグラフにして比較することに
よって,学校気象台が児童にどのように効果があ
るのかを考察する。
4.事前、事後アンケートについて
事前アンケートは以下の8個の項目について質
問を行うとともに,気象という言葉から連想する言
葉を記述式で記入してもらった。記述式の質問以
外は5つの選択肢から答えを選んでもらった(事
後アンケートについても同様)。
2.授業実践の内容
①8 時 30 から16 時 30 分まで,気象台ネットワ
ーク・棒温度計・百葉箱を利用した気温の変化,
天気を観測する。記録する際には,天気、気温の
他に,空気の湿り気や風など,肌で感じた様子に
ついても記録する。この作業を,晴れ,雨,曇りの
3 日間行う。
②記録したデータを折れ線グラフに表す。
③天気によって,1日の気温変化が異なること
を学校気象台の利用を通して考える。
3.授業実践の考察
観測結果から児童自ら作成した折れ線グラフを
もとに,天気による気温の変化の仕方に違いがあ
ることに気づくことができた。ただし,ここで利用し
ているデータは児童達が学校生活を送っている,
限られた時間のデータである。1日の気温変化の
予想を立てる際には,登校時間以外の気温は自
分の感じ方で予想を立てていた児童が多かった。
気象台ネットワークのデータを加えたことで,24 時
51
質問1:理科は好きですか(理科好き)
質問2:「学校気象台」のモニターパネルを見て
データを読み取ることが出来ましたか
(データ読み取り)
質問3:「学校気象台」ネットワークを学校生活
の中で利用できそうですか
質問4:折れ線グラフをうまく書くことが出来まし
たか(グラフ作成)
質問5:天気の変化に決まりや規則があると思
いますか
質問6:天気の変化について興味や関心があり
ますか(規則発見)
質問7:理科は得意ですか(理科得意)
質問8:天気の変化の学習は、おもしろいです
か(興味・関心)
記述:気象という言葉から連想される言葉はな
んですか
気象という言葉から連想される言葉を記述して
もらったところ,8割以上の児童は気温,温度,湿
度,天気といった言葉を記入していた。中には百
葉箱,テレビ,天気予報,お天気ニュース,177
(NTT による天気予報電話サービス)体で感じる,
といった言葉を連想する児童もいた。このことから,
気象というのは我々人間の身の回りで起こってい
る現象であり,様々なところから提供されている気
象に関わる情報を児童たちは気象に関わる情報
として利用しているということが分かる。
事後アンケートは以下の10個の項目について
質問を行うとともに,「学校気象台」についての感
想や意見など感じたことを記述式で記入してもら
った。
質問1:理科は好きですか(理科好き)
質問2:「学校気象台」のモニターパネルを見て
データを読み取ることが出来ましたか
(データ読み取り)
質問3:「学校気象台」ネットワークを利用して,
気象についての関心が高まりましたか
質問4:今後,あなたは学校生活の中で,「学校
気象台」のデータを利用したいと思いま
すか
質問5:気温,湿度,風向,風速の意味が分か
りましたか
質問6:1日の気温の折れ線グラフをうまく書くこ
とが出来ましたか(グラフ作成)
質問7:折れ線グラフから何かきまりや規則を見
つけることが出来ましたか(規則発見)
質問8:今日の授業で,天気の変化についての
興味や関心が高まりましたか
(興味関心)
質問9:理科は得意ですか(理科得意)
52
質問10:今日の授業の内容は,全体的に満足
できましたか
記述:「学校気象台」についての感想や意見な
ど感じたことを自由に書いてください
感想や意見の中には以下のような記述が書か
れていた。
・学校気象台は気象に関するいろいろな要素
を知ることが出来るので便利だとおもった
・授業だけでなく生活の中でも使えると思う
・学校気象台を利用して理科やきしょうがすき
になった
・空の天気を観察しながら学校気象台をチェッ
クし、それぞれのデータが一致するかを確認
してみたい
・学校気象台を利用して気象予報士になった
感じがした
以上の記述に加えて無回答の児童、学校気象
台に対しての否定的な解答が一切なかったことを
考えると,学校気象台を利用しない従来の気象の
授業に比べて学校気象台を利用した気象の授業
の方が満足度が高いといえると思う。
尚,事前,事後で関連のある6個の項目に関し
てはグラフを作成してアンケート結果を比較し,授
業がどのような効果をもたらしたかについて考察
する。
5.まとめと課題
児童たちが記録したデータに気象台ネットワー
クのデータをくわえることで,岩手大学教育学部
に設置されている測器から,附属小学校と大学の
データを比較した際に「一緒だ!」という児童の発
言があったことから,場所が異なっても気温の時
間変化が同じであることに気づき,気温の水平方
向の広がりとして認識されたと考える。
学習指導要領の内容をより深く理解できること
から,有用である。同時に,他地域との比較が出
来るため,設置数を増やし,範囲を広げることで,
さらに発展的な活用も今後期待できる。学校気象
台ネットワークの完成と同時に,より深まった実践
ができると考える。
[文献]
文部科学省:『小学校学習指導要領解説 理科
編』,16(2),40-41,2008.
名越利幸:『気象に関する懸賞論文 入選論文
集』, 「学校気象台」の構築と夢のネットワーク
構築,51-60,2005
三浦 登ほか:『新編 新しい理科4上,平成 21 年
度用補助教材』,2008