多様化する専門職大学院(2006.10新作)

産学連携
~多様化する専門職大学院~
九州経済産業局調査課長(九州大学産学連携センター客員教授)
松田一也
ロースクールやビジネススクールなどは専門職大学院と呼ばれ、高度で専門的な職業能力を
持った実務家の養成に特化した教育が行われており、近年、その多様化には目覚しいものがあ
ります。今月はその紹介です。
【専門職大学院の誕生】
専門職大学院のモデルは、米国の「ロースクール(法曹関係者養成)」、「アカウンティング
スクール(会計士養成)」等のプロフェッショナルスクールだと言われています。とりわけ、
ビジネススクールの修了で得られる「MBA(経営学修士)」の称号は、経営戦略、財務、マー
ケティング、マネジメント、問題解決能力及びリーダーシップの育成などの実践的な教育を受
けた証として、弁護士や公認会計士と並ぶほどのステータスがあるものです。
そのような中で、日本の大学院においても、現場の第一線で活躍する各分野のスペシャリス
トなどを教員に招き、最新の知識を学ぶなど、レベルの高い専門教育と実務教育を行うべきだ
という機運が、特に、法曹、ビジネス、医療分野において高まりました。
このような時代の要請を受け、まず、1999年度に高度職業人養成に特化した教育を行う
「専門大学院制度」がスタートし、次表のとおり、2002年度までにビジネス系、医療系の
6つの「専門大学院 」が誕生しました。
2000 年度開設 一橋大学大学院 国際企業戦略研究科・経営・金融専攻
〃
京都大学大学院 医学研究科・社会健康医学系専攻
2001 年度開設 九州大学大学院 医学系学府・医療経営・管理学専攻
〃
青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科・国際マネジメント専攻
2002 年度開設 神戸大学大学院 経営学研究科(MBA プログラム)
〃
中央大学大学院 国際会計研究科(アカウンティングスクール)
また、専門大学院を発展させる形で誕生したのが、2003年度からはじまった専門職大学
院制度です。新たな設置基準が設けられ、次表のとおり、3大学4専門大学院が開校しました。
上記の 6 つの専門大学院も専門職大学院へ移行し、2003年度には、あわせて8大学10専
攻の専門職大学院となりました。
□2003年度に開設した専門職大学院
芝浦工業大学大学院 工学マネジメント研究科・工学マネジメント専攻
早稲田大学大学院 公共経営研究科・公共経営学専攻
早稲田大学大学院 アジア太平洋研究科・国際経営学専攻(早稲田大学ビジネススクール)
九州大学大学院 経済学府・産業マネジメント専攻
【多様化、増加する専門職大学院】
その後、2004年度になると、法曹(法律専門家)のエキスパートを養成する法科大学院、
いわゆる、ロースクールが、全国68校で一斉に開設されました。その後も、2005年度、
2006年度と数多くの専門職大学院が、全国各地に誕生しています。また、その分野は、会
計、公共政策、デザイン、MOT(技術経営)
、映画プロデュース、ファッション等、多岐に
わたるものになっています。
専門職大学院の特徴は、現場経験のある実務家の教員が一定数配置され、理論教育と同時に
実務教育が行われる点です。標準的な修業年限は概ね2年ですが、修了すると「専門職学位」
が授与されます。修了要件についても、研究論文の提出は必須ではなく、修得すべき単位数は、
概ね30単位以上で、現地調査、インターンシップなどの実践的な教育が行われています。
【今後の専門職大学院への期待】
まさに、今が旬の専門職大学院ではありますが、期待を込めて、その課題と今後の方向性に
ついて、私見を述べさせて頂きます。
□専門的職業人の地位の確立
今後の専門職大学院の成長の鍵は、専門職職業人の地位や価値を確立させることからはじ
まります。専門職の必要性が声高に叫ばれる一方で、未だその地位は確立されておらず、便利
屋的に取り扱われることもあります。今後の社会において、各種専門職の必要性と位置づけを
明確化し、その地位を確立してこそ、専門職大学院の発展があると考えます。
□専門職学位と資格の付与との関係の明確化
米国のビジネススクールで付与されるMBAに比較すると、日本の専門職学位の価値や効力
は不透明です。また、専門職学位を取得しても、それぞれの資格試験等の際は、特に有利に働
かない場合も多くなっています。学位取得者への資格取得のための各種試験等の一部免除等を
含め、学位と各種資格の関係を整理していくことが必要であると考えます。
□カリキュラム、教員の更なる充実
この分野は、実社会に近く、講義内容や教材等は、世の中の流れにあわせて大きく変わりま
す。また、専門職大学院間の競争も激化しており、それぞれの大学院は、競って時々の学生に
合わせたカリキュラムを、常に更新、改良していくことが不可欠です。また、それを支える教
員の資質や経験等も重要で、それらに対する適切な評価と正当な報酬も必要になります。
□実(社会や企業等)と大学の融合化
前述の方向性を目指すためには、これまで以上に、実と大学の融合化を図ることが必要です。
大学は、もはや象牙の塔ではなく、この世でもっとも、社会に開かれた場所です。この考えは
産学連携においても共通なものです。専門職大学院と産学連携を車の両輪とすることにより、
大学の新しい姿が描けるようになると考えます。