市場混乱期の インデックス運用

インデックスを語る
市場混乱期の
インデックス運用
ここ数年の市場の混乱がもたらした
インデックス運用への変化
デイビッド・ブリッツァー
ここ数年の市場は 1930 年代以来の激しい動きとなり、金融危
日公表されるため、投資家は何を保有しているか正確に把握
機の影響で株式市場は 50%以上下落し、
過去 10 年間で 2 度目
することができます。さらに、E TF はインデックスに連動し、
となる大きな弱気相場を招きました。経済は大恐慌以来で最
優良なインデックス・プロバイダーは商品の構築方法や算出
悪の景気後退に陥り、住宅価格も 1930 年代をやや上回る下落
方法に関する資料を提供するとともに、その改訂についても
を示しています。私たちの両親や祖父母が話してくれた金融
情報を発信しています。ファンド自体は至って単純です。そ
の恐ろしい話が再現されているように思われます。それでも、
うしたファンドは、インデックス構成銘柄をインデックスと
この逆境はインデックス運用に好機をもたらしています。
同じ割合で保有することでインデックスに連動する投資成果
第一に、金融市場参加者の間に新たな需要が生まれており、 を目指します。株式の分析、或いはグロースからバリューへ
インデックス運用はそうした需要を満たすのに適していると
の転換やグロースへの戻しなどといった問題を心配する必要
考えられます。第二に、インデックス運用は、最悪の金融情
はありません。
勢下でも何らかのものが提供できることを実証してきました。
さらに、インデックスは公表されており、アナリストによ
第三に、混乱や逆境により、インデックスの設計や開発など
りフォローされています。また、インデックスにもよります
数々の分野において技術革新や発明が促進されました。
が、投資家は様々な専門家の意見や助言に触れることができ
ます。S&P 500 株価指数のような一般的なインデックスの場
市場参加者の需要
合、インデックス変更の度に数多くの解釈や分析がなされる
住宅市場が崩壊し、リーマン・ブラザーズが破綻する前の
平穏な日々では、複雑で中身が見えない投資が大流行でした。
ので、投資家は市場や保有銘柄の変更についての解説を得る
ことができます。
危険を冒してフロンティア市場に投資できた時には、優良株
の分散ポートフォリオのように単純な戦略など誰も見向きも
金融市場が厳しい時期におけるインデックス運用
せず、通貨にはハイパーインフレの気配が漂っていました。
金融危機の最中におけるリスクは、インデックスファンド
投資適格の債務担保証券に比べて米国債は儲けの少ない退屈
に投資している人にとっても、従来型の単純な個別銘柄選択
な投資対象と考えられていました。ところが状況は一変しま
をしている人にとっても、同様に恐ろしいものです。しかし
した。今や透明性は必要とされ、当然のものとして期待され
ながら、インデックス運用は良いときも悪いときも同様に戦
ます。
「投資対象が理解できないならば、買ってはならない」
略としての有効性を実証してきました。S&P の SPIVA レポー
という考え方が、新たな支持者を集めています。単純である
トによると、S&P500 株価指数を下回った大型株アクティブ
ことは恥ずかしいというより、むしろプラス面として捉えら
運用ファンドは 2008 年は全体の 64%、2009 年は 51%、そし
れるようになりました。
て 2010 年には 66%となりました。1 。勿論、インデックスフ
インデックス運用や、インデックスファンド、上場投信
ァンドが必ず儲かるというわけではありませんが、インデッ
(ETF)は、投資家やその投資アドバイザーが追い求めてい
クスファンドが危機の悪影響を受ける中で、アクティブ運用
る透明性や単純さを提供しています。E TF では保有銘柄が毎
のマネジャーが常に危機を予知してうまく逃れられるとは限
November / December 2011
らないことをこの事実は示しているように思われます。これ
ィを目標として、所定のスケジュールに沿って、所定の割合
らの結果から言えることは、インデックスファンドなら最悪
通りにキャッシュと株式の比率を調整する一連のリスクコン
でも市場と同等のリターンを確保することができますが、ア
トロール指数を開発しました。この割合は、ポートフォリオ
クティブファンドについては約 3 分の2 が2010 年の戻り相場
の株式部分の実現ボラティリティと目標ボラティリティ水準
に乗り遅れたということです。SPIVA レポートは、アクティ
の相違を参考にしています。結果は完璧とは言えないものの、
ブ運用に関して良いマネジャーも悪いマネジャーも存在して
感情を数学で置き換えることでポートフォリオのボラティリ
いることを示していますが、厳しい市場環境においてはイン
ティを目標に近づけることができます。
デックスより巧く運用することができるマネジャーが少ない
ことも示唆しています。
リスク管理において、インデックスを用いる技術革新を説
明するには、一つのコラムの僅か数パラグラフでは収まらず、
書物数冊分が必要です。
「リスクを測定できないならば、的確
技術革新及び発明
にリスクを管理することはできない」と主張する人には、VI X
技術革新の矛先はインカムとリスク管理に向かっている
指数として知られている CBOE ボラティリティ・インデック
と考えられます。両分野において、インデックスは成功を収
スがあります。一般に「恐怖指数」として知られている VI X
めています。
指数は、指標としては 20 年ほど前から存在しており、すでに
インデックス・プロバイダーは、主に銘柄選択や加重方法
金融のニュースや解説では定番となっていました。株式市場
に変更を加えることで、配当収入を生むインデックスの設計
が乱高下すると、VI X 指数はニュースなどで大きく取り上げ
にかなりの労力を注ぎ込んでいます。そうしたインデックス
られ、投資家もこれに注目します。
の銘柄選択では通常、無配当銘柄を除外することから始めら
VIX 指数はリスクを測定する手段を提供します。しかし
れますが、それには収益や配当性向に加え、企業がどれだけ
VIX 指数を通してリスクを管理するためには、それに投資す
長期間にわたり配当を支払ってきたか、或いは増加させてき
る手段がなくてはなりません。そこで、 VIX 指数先物や VI X
たかを示す測定手段や、または配当が削減されそうな銘柄を
指数先物に連動するインデックスが開発されました。これに
特定する測定手段も含まれます。さらに、インカム指向のイ
より、株式市場のリスクを測定・管理することが可能になり
ンデックスは、支払い配当額や、配当利回り、或いはインカ
ました。その成果として、VI X 指数による測定が株式やコモ
ム発生のその他の尺度に基づく加重方式を利用します。その
ディティ市場など、その他の市場に広がりを見せました。
結果、分散ポートフォリオに基づきつつ、市場全体の利回り
技術革新の最も心強い部分は、その規模の大きさです。
よりも大幅に高い利回りを提供するインデックスが構築され
2005 年から 2011 年半ばまでにおいて、米国株式市場の水準
ます。
はほとんど変化していないにも関わらず、資産価格に連動す
技術革新は時として、昔から知られていたアイデアと結び
る米国の E TF や ETP の市場規模は 3 倍に拡大しました 2 。イ
付き、リスク管理方法が改善されることがあります。投資家
ンデックス型の金融商品の範囲は、株式や債券、為替、コモ
は、ポートフォリオのボラティリティを抑える方法の一つと
ディティから不動産に至るまで、ほとんどの資産クラスをカ
して、保有キャッシュを増やし、株式の比率を下げることが
バーしています。市場の混乱から金価格が史上最高値を更新
有効であると理解しています。そのためには、ポートフォリ
しましたが、混乱に伴う逆境により、インデックスの技術革
オをリバランスし、株式を避けると同時に、株式の持つ成長
新が黄金期を迎えました。
の可能性を諦めることが求められます。そうした決定には、
厳格な分析とともに、期待、恐怖、そして感情も関わってく
ることがよくあります。S&P では、一定水準のボラティリテ
巻末注
1. S&P SPIVA レポートは、2008 年、2009 年、2010 年通年の各期間において、大型株と S&P 500 のパフォーマンスを比較しています。詳しくは、
www.SPIVA.standardandpoors.com をご覧ください。
2. ETF と ETP の運用資産額は、ブラックロック・インベストメント・インスティテュート発行の「ETF業界の状況ハイライト、2011 年 7 月末」に基づきま
す。市場水準は S&P 500 に基づきます。
November / December 2011