SPDR ゴールド・シェア(金 ETF)

SPDR ゴールド・シェア(金 ETF)
2016 年 3 月 30 日
◆ 金(ゴールド)は有力な分散投資先
特別調査レポート
市場データ
(NYSEアーカ取引所)
価格(3月29日終値、ドル)
118.76
ティッカー
GLD
時価総額(億ドル)
328
発行済口数(千口)
東証コード
時価総額(億円)
発行済口数(千口)
◆ 金には普遍的な価値が認められている
275,900
(東京証券取引所)
価格(3月30日終値、円)
金(ゴールド)を投資ポートフォリオに加えることは、賢明な判断である
と思われる。金は、世界的に普遍的な価値が認められており、価値
保全手段として優れている。これまで安全資産とみなされてきた日本
円には、日本銀行のバランスシート問題を契機に見方が一変する可
能性が生じており、国内投資家にとって金への分散投資は利用価値
が高まっていると思われる。
13,270
1326
古来より、金には普遍的な価値が認められてきている。劣化しない品
質とその輝きから、宝飾や金貨等において各地で幅広く重用されてき
ている。また、取引市場も確立していることなどから、世界的に高い流
動性も有している。この実物資産としての安定した価値を背景に、有
事の際には資産の逃避先としても活用されている。
36,612
275,900
◆ 基軸通貨ドルの代替資産としての性格も
その価値の普遍性から、金は基軸通貨ドルの代替資産としても見な
されている。その結果、基準となるロンドン金地金価格(ドル建て)は、
基本的にドル実効為替レートと逆相関の関係にある。実際、ドル実効
為替レートの下落や金融危機等を要因に、金の価格は 2001 年から
2011 年にかけて大きく上昇した。
◆ 国内投資家には更に利用価値が高まる可能性も
日本の投資家にとっては、日本銀行のバランスシートと日本円に対す
る中長期的なリスクを考慮すると、金への投資を検討する価値が更
に高まっていると思われる。名目 GDP 並みに膨れ上がる日銀のバラ
ンスシートにはリスクが高まっており、日本円の信認にも悪影響が及
ぶ事態が懸念される。
◆ 金 ETF(上場投資信託)
キャピタル・パートナーズ 証券
調 査 部
土屋 直樹
投資手段としては、利便性の点で金 ETF が優れている。証券取引所
で小ロットから売買でき、取引きコストも安価である。また、金 ETF の
中では、世界最大の時価総額を有する SPDR ゴールド・シェアがグロ
ーバル・スタンダードとして注目できる。
このアナリスト・レポートは、投資の参考となる情報提供を目的としたもので、投資勧誘を意図するものではありません。投資の決定はご自身の判断と責任で
なされますよう、お願い致します。また、ご利用に際しては、巻末の免責事項の記載も必ずご覧下さい。
1
Ⅰ. 金(ゴールド)の魅力
普遍的な価値
金(ゴールド)は、古来より、他の資産にはない優れた価値が認められている。
それゆえ投資対象としても長年に亘って広く活用されてきているが、その価値を改めて整理
すれば下記の通りとなる。
(1)実物資産
金には、宝飾用や工業用、金貨等において、それ自体に価値が認められている。発行体の
信用によって成り立つ債券や株式等のペーパー・アセット(紙の資産)とは異なり、金自体に
価値が認められており、いわゆる発行体の信用リスクがない。
(2)劣化しない品質
腐食などにより劣化することがなく、金の品質は物理的に安定している。よって、資産の保全
手段として優れている。
(3)高い流動性
世界中で金の価値は普遍的に認められており、取引市場も確立していることから、金は高い
換金性を有する。同じ実物資産である不動産等に比し、金の流動性は秀でている。
(4)安全資産
地政学的リスクなどにより株式や通貨などは大きく値下がりする場合があるが、金には有事
の買いも入り易く、資産価格が安定している。継続的に通貨価値が下落するインフレに対し
ても強い。
(5)希少価値
世界で採掘済みの金は約 17.7 万トン(体積:約 9 千㎥、時価換算:約 760 兆円)、未採掘の
金は約 5.5 万トン程度とされており、地球上で限りのある希少資源である。
このアナリスト・レポートは、投資の参考となる情報提供を目的としたもので、投資勧誘を意図するものではありません。投資の決定はご自身の判断と責任で
なされますよう、お願い致します。また、ご利用に際しては、巻末の免責事項の記載も必ずご覧下さい。
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Ⅱ. 金の価格推移
ワシントン協定(1999 年)以前は軟調
前世紀終盤の金価格は、穏やかな下落トレンドを形成した。ベルリンの壁崩壊(1989 年)に
象徴される東西冷戦の終結等が有事の金の価値を減価させる方向に働き、また中国などの
新興国の経済成長が始まり、金利や配当を生まない金が敬遠され易くなったことなどが影響
したと見込まれる。また、米国の双子の赤字(財政収支と経常収支の赤字)が改善し、ドル高
が進行したことも金価格の下落要因として挙げられる。加えて需給面では、各国の中央銀行
が金の売却を継続したことや、鉱山開発により豪州などの生産量が増加したことなども、金
相場の下押し要因となった。
【金(ゴールド)の価格とドル実効為替レートの推移】
$/toz
2,000
1,600
2011年8月22日
1,888ドル
金価格(左軸)
ドル実効為替レート(右軸、逆目盛)
70
80
90
1,200
1,235 ドル
100
800
400
110
2001年9月
米国同時
多発テロ
120
0
130
(出所)ニューヨーク商品取引所、BIS
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ワシントン協定以後は上昇トレンド
1999 年締結のワシントン協定が、金相場の最初の転換点となった。同協定により、主要国の
中央銀行による、金の年間売却量に上限が設定され、需給改善の第一歩となった。次に
2001 年の米国同時多発テロ事件が、第 2 の転換点となった。米国はアフガニスタンやイラク
との戦争へ突入し、有事の金の価値の見直しに繋がった。また、両戦争は米国の双子の赤
字を再燃させたことなどからドル安を招き、これも金相場の上昇要因となった。加えて需給面
では、金を投資対象とする ETF(上場投資信託)の登場(2003 年)が年金基金等の機関投資
家の新たな需要を掘り起こし、また新興国を中心に中央銀行が金の買い越しに転じたことも
プラス要因となった。
さらに 2000 年台後半はリーマン・ショックやギリシャの財政危機等で金融市場が大きく動揺し、
また FRB が量的金融緩和政策によりドルの大量供給に踏み切ったことなどから、資産の逃
避先として金が選好され、2011 年夏まで金の価格は力強い上昇トレンドを描いた。
2013 年からは反動が出る
2013 年に入ると、金融市場において米国経済の回復期待と FRB の量的緩和政策の終了が
意識される展開となり、また金の ETF から資金が流出したことなどから、金の市況は調整局
面に移行した。日本銀行の異次元緩和もあって更に為替市場でドル高が進行したことも、追
加の悪材料となった。その後も、欧州経済の低迷や中国経済の減速が懸念される中、独り
米国経済の堅調さが際立ち、為替市場でドルが一段高となったことから、2015 年末に向けて
の金価格は調整を余儀なくされた。需給面では、特に ETF からの売却が継続したことが特筆
された。
【金の分野別需要量】
Tonnes
3,000
2,000
1,000
0
-1,000
2002年
2004年
宝飾品
2006年
2008年
金地金・金貨
2010年
ETF
2012年
工業用
2014年
中央銀行
(出所)World Gold Council
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今後の見通し
金は、旧来より基軸通貨ドルの代替資産として見なされており、ドルの値動きとは基本的に
逆相関となる。そのドル相場を実効為替レート(多通貨に対する貿易加重平均為替レート)で
見れば、既に現在は歴史的な高値に迫っている。また実際に米国の輸出等にドル高の弊害
が顕在化している状況下では、ドル実効為替レートが更に大きく上昇する可能性は低下して
いると思われる。また、世界経済の不透明感や地政学的リスクなどを鑑みれば、安全資産と
しての金の価値が減価する可能性も低いと見込まれる。よって、金の価格が下値を固める素
地は既に整いつつあると見込まれる。
希少資源
また、中期的には、金の希少性も価格のサポート要因になり得ると期待される。金の現在の
推定埋蔵量は約 5.5 万トン程度とされており、現状の年間採掘量(約 3 千トン)を前提にすれ
ば残りの採掘可能年数は約 18 年程度と計算される。再利用も含めて金の流通市場は確立
しているため、仮に埋蔵量が枯渇しても金の入手がすぐに困難になる訳ではないが、金の希
少性が再認識される契機にはなると予想される。
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Ⅲ. 日本の投資家にとっての金の価格
安定的に推移しやすい
円建ての金の価格は、ドル建ての金価格にドル/円の為替レートを乗じて決定される。つま
り、円建て金価格には、①ドル建て金価格と②ドル/円為替レートの 2 つの変数が関係する。
しかし、円建ての金価格は、ドル建ての金価格よりも変動幅が小さくなる傾向にある(価格が
より安定している)。なぜならば、ドル建て金価格と逆相関の関係にあるドル実効為替レート
とドル/円為替レートは連動する場合が多いので、ドル建て金価格とドル/円為替レートも
また逆相関になるケースが多いからである。為替市場において円の独歩高や独歩安が進行
する局面は例外となるが、多くの場合、ドル建て金価格の変動とドル/円為替レートの変動
が相殺し合うことにより、円建ての金価格は相対的に安定的に推移しやすい。
【金(ゴールド)価格とドル/円為替レートの推移】
600
金価格(ニューヨーク商品取引所)
500
金価格(東京商品取引所)
ドル/円 為替レート
400
300
200
100
0
(出所)ニューヨーク商品取引所、東京商品取引所、Bloomberg のデータよりキャピタル・
パートナーズ証券が作成。また、1995 年 1 月末の値を 100 として表示。
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【金(ゴールド)価格と東証株価指数等の推移】
500
金価格(東京商品取引所)
東証株価指数(配当込み)
400
定期預金(1年物)
300
200
100
0
(出所)東京商品取引所、日本銀行、Bloomberg のデータよりキャピタル・パートナーズ
証券が作成。定期預金は 1 年物を毎年再預金した際の運用成果を掲載。
1995 年 1 月末の値を 100 として表示。
【日米の金(ゴールド)価格と株価指数の年平均騰落率】
過去10年間
過去20年間
-1%
東証株価指数
(配当込み)
11%
1%
金価格(東京
商品取引所)
12%
-2% 0% 2% 4% 6% 8% 10% 12% 14% 16% 18%
(出所)東京商品取引所、Bloomberg のデータよりキャピタル・パートナーズ証券が作成。
9%
過去10年間
S&P500指数
(配当込み)
12%
17%
過去20年間
10%
金価格
(ニューヨー
ク商品取引
所)
-2% 0% 2% 4% 6% 8% 10% 12% 14% 16% 18%
(出所)ニューヨーク商品取引所、Bloomberg のデータよりキャピタル・パートナーズ証券が作成。
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Ⅳ. 金 ETF(上場投資信託)
使い易いツール
実際に投資をするに当たっては、利便性の点で金 ETF が優れていると思われる。金 ETF は、
その値動きが金の価格に連動するように設定された上場投資信託である。証券取引所で株
式等と同様に小ロットから売買することが可能であり、高い流動性と低いコストを兼ね備えた
便利な投資手段となっている。取引時間中であればリアル・タイムで取引きが可能であり、ま
た、金地金のような保管コストが掛からない。
SPDR ゴールド・シェア
SPDR ゴールド・シェアが、世界最大の金 ETF である。金現物を裏付けとした上場投資信託で
あり、時価総額は約 3.6 兆円を有している。東京証券取引所でも 2008 年 6 月より売買されて
おり、ロンドンの金地金価格と為替レートの変動を反映した価格形成がなされている。
<SPDR ゴールド・シェアの概要>
東証コード:
1326
連動対象 :
ロンドン金地金価格
売買単位 :
1口
時価総額 :
約 3.6 兆円
上場取引所: 東京証券取引所、NYSE アーカ取引所他
管理会社 :
ワールド・ゴールド・トラスト・サービシズ
信託受託者: ザ・バンク・オブ・ニューヨーク
マーケティング・エージェント:ステート・ストリート・グローバル・マーケッツ
事務取扱機関: 中央三井信託銀行
*金現物の裏付けがある信託受益権(1 口当たり約 3.1g の金の裏付け)
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8
【SPDR ゴールド・シェアの価格の推移(米国 NYSE ア-カ取引所)】
200
$
160
120
80
40
0
(出所)Bloomberg
*米国市場でのお取引きについてはお問い合わせ下さい。
【SPDR ゴールド・シェアの価格の推移(東京証券取引所)】
16,000
円
12,000
8,000
4,000
0
(出所)Bloomberg
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Ⅴ. 日本銀行のバランスシート
金投資を検討するべき、もうひとつの理由
既述の通り、金には他の資産にはない独特の価値があり、投資対象として魅力的であるが、
日本の投資家にとっては、今後、更にその投資価値を活用すべき事態が発生する可能性が
ある。つまり、日本銀行のバランスシート(以下、B/S)と日本円に対する信認の問題である。
これまでの安定的な見方から、一変する可能性もあり、今後、注視していくべきポイントであ
ると思われる。
膨れ上がる日銀のバランスシート
2013 年 4 月に決定された量的・質的金融緩和政策(異次元緩和政策)以降、日銀の B/S は
急激な膨張を続けている。昨年 9 月末(上期決算末)時点で、すでに日銀の総資産は 366 兆
円(うち国債が 309 兆円)、総負債は 362 兆円(うち当座預金が 242 兆円)に達している。日銀
の経済展望レポートによれば、目標としているインフレ率 2%に達するのが 2017 年前半であ
るから、少なくとも 2016 年度中は現在の量的・質的緩和政策が続けられる公算が高い。その
結果、2016 年度末(2017 年 3 月末)の日銀の B/S は、概算で総資産が 491 兆円(うち国債
が 430 兆円)、総負債は 486 兆円(うち当座預金が 362 兆円)程度に達していると試算される。
つまり、日銀の総資産は、日本の名目国内総生産(GDP)にほぼ匹敵する規模に膨らむ見通
しなのである。また、内容的にも国債が資産の約 87%を占める、かなり歪んだ構造になってい
る見込みである。
金利変動に対して脆弱
この巨大な日銀のバランスシートは、特に金利の上昇に対して脆弱とならざるを得ない。
まず、保有国債に大きな含み損の発生リスクが懸念される。2016 年度末には長期国債を約
370 兆円程度は保有していると予想されることから、平均残存年数を 7 年と仮定すると国債
利回り 1%の変動につき約 24 兆円相当の時価評価が変動すると見込まれる。同年度末に日
銀は純資産約 5 兆円弱と各種引当金約 5 兆円程度を有していると見込まれるが、市中金利
が 1%上昇すると含み損失をカバーできず、実質ベースでは債務超過に陥る状況が想定さ
れる。日銀は保有国債について満期償還を原則とし、その評価については償却原価法を採
用していることから、損益計算書上、国債の評価損を計上する必要性はないが、巨額な含み
損とそれを考慮した場合の実質的な債務超過状態についての批判は避けられないと思われ
る。
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【日本銀行のバランスシートの模式図】
資産491兆円
負債486兆円
銀行券95兆円
資産324兆円
負債320兆円
銀行券90兆円
国債430兆円
当座預金362兆円
資産165兆円
負債162兆円
⇒
国債270兆円
⇒
当座預金202兆円
銀行券84兆円
国債125兆円
当座預金58兆円
その他負債20兆
その他40兆円
純資産3兆円
<2013年3月末>
その他54兆円
その他負債28兆
純資産4兆円
<2015年3月末>
その他負債29兆
その他61兆円
純資産5兆円
<2017年3月末予想>
(異次元緩和前)
(出所)日本銀行の決算書より、キャピタル・パートナーズ証券が作成。
予想は、キャピタル・パートナーズ証券。
【日本銀行の総資産と日本の名目 GDP の推移】
600
日銀の総資産は、
名目 GDP に接近か?
兆円
名目GDP
500
400
日銀総資産
300
日銀の国債
保有残高
200
100
0
(出所)日本銀行および内閣府のデータより、キャピタル・パートナーズ証券が作成。
予想は、キャピタル・パートナーズ証券。
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異次元緩和からの出口戦略は、難易度が高い
日銀の目論見通りインフレ率が 2%に達した場合には、当然、物価や資産価格のオーバーシ
ュ-トを防ぐため、異次元緩和からの出口戦略が求められる。
この場合、その手段として保有国債の売却がまず考えられるが、実行は難しいと見込まれる。
なぜならば日銀が買いから売りに回ると債券相場が急落する可能性が高く、国債を保有す
る民間金融機関へのインパクト等が計り知れないからである。加えて、国債の売却は、償却
原価法を採用してきた日銀の会計方針とも相容れない手法である。
次善策にも、大きなリスク
代わりに取り得る手段として有力なのが、日銀の当座預金金利を通じた短期金融市場の市
場金利の引き上げである。日銀の当座預金金利は理論的には短期金利の下限となることか
ら、当座預金金利を通じて市中金利をコントロールし、国内の景況感や物価に対して影響力
を及ぼしていく政策手段である。
但し、この手段の欠点は、日銀の支払い金利負担が大幅に膨らむことである。2016 年度末
には付利対象の当座預金(超過準備部分)が約 350 兆円前後に達している公算が高いこと
から、仮にインフレ率 2%と同等の 2%の付利を行うと、日銀の支払い金利負担は年間約 7
兆円程度に上ると計算される。日銀の単年度の経常利益は約 1 兆円強程度であるので、当
該年度は大幅な最終赤字(約 5 兆円強の赤字)に陥り、B/S 上も純資産(2016 年度末予想で
は約 5 兆円弱)と各種引当金(同約 5 兆円)の過半を失う可能性が高いと試算される。また、
長期国債を中心とした日銀の B/S の縮小には何年も要することから、この手段の実行に伴う
赤字決算も複数年に亘って続くことが予想される。その結果、日銀の B/S は債務超過に転
落する可能性が高いと見込まれる。
日本銀行(中央銀行)は、当座預金もしくは銀行券の発行を通じて自分自身で資金調達でき
ることから(つまり倒産はしないことから)、仮に債務超過に陥っても日銀のオペレーションに
は問題はないとの議論もある。しかし、実際に債務超過に陥った場合には、日銀に対する信
用力の低下は避けられず、その結果、日銀が発行する銀行券(日本円)の価値やそれと表
裏の関係にある物価(インフレ)に対するコントロール力を喪失していくと懸念される。
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金 ETF が金融資産の防衛策
よって、この様な異常事態を回避するため、政府による日銀への資本注入が必要となってく
ると予想される。但し、資本注入を受けることによって B/S は改善できても、以後、政府の介
入を招きやすくなることから(日銀の独立性が低下することから)、日銀がかつての信用を取
り戻すことは簡単ではないことが懸念される。
日銀の B/S は GDP に匹敵するほど巨大に膨れ上がるのであるから、たとえ若干の金利変動
でも大きな弊害が発生しやすく、またその正常化には多大なコストがかかることは当然の帰
結とも言える。異次元緩和以前の日銀は、だからこそ一定の範囲内に限って量的緩和政策
を実行していたものと思われる。今後は、折しも異次元緩和策に踏み切った黒田総裁の任期
終了(2018 年 4 月)などが視野に入ってくるタイミングであり、日本円の信頼性を揺るがしか
ねない、日銀の巨大な B/S の危険性を認識し、相対的に安全な資産と目される金(ETF)へ
の投資を検討しておくことが賢明と思われる。
【主要国の国債格付け】
S&P
Moody's
英国、ドイツ、カナダ、豪州
Aaa
米国、ドイツ、カナダ、豪州
AA+
米国
Aa1
英国
AA
フランス
Aa2
フランス、韓国
AA-
中国、韓国
Aa3
中国
日本
A1
日本
~
A+
~
AAA
BBB+
スペイン
BBB-
イタリア
Baa2
スペイン、イタリア
(出所)S&P、Moody’s
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免責事項
このアナリスト・レポートは、キャピタル・パートナーズ証券が信頼できると判断した情報に基
づいて作成したものですが、その内容の正確性や完全性を保証するものではありません。ま
た、このレポートに記載された内容等は作成時点のものであり、今後、予告なく変更されるこ
とがあります。このレポートを使用した結果について、キャピタル・パートナーズ証券は如何な
る責任も負いません。目的の如何を問わず、ご自身の判断と責任においてこのレポートをご
使用下さいますよう、お願い致します。
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商 号 等:
キャピタル・パートナーズ証券株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第 62 号
加入協会:
日本証券業協会
http://www.capital.co.jp/
[事業所]
◆本社・本部
〒101-0047 東京都千代田区内神田 1-13-7 四国ビルディング
電話番号:03-3518-9300(代表)
◆大阪支店
〒530-0057 大阪府大阪市北区曽根崎 2-5-10 梅田パシフィックビルディング
電話番号:06-6232-8370(代表)
◆名古屋支店
〒460-0003 愛知県名古屋市中区綿 2-19-19 広小路センタープレイス
電話番号:052-220-3690(代表)
◆福岡支店
〒810-0801 福岡県福岡市博多区中洲 5-5-13 KDC 福岡ビル
電話番号:092-272-0873(代表)
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