格差生じる各国の 景気減速ペース

07-NRI/p40-50/欧 01.7.5 4:56 PM ページ 40
欧州経済
格差生じる各国の
景気減速ペース
(1)欧州主要国の景気減速が鮮明化してき
どを考慮すると、消費は低迷した状態が続
ている。ユーロ圏全体の 2001 年第1四半
くとみられる。また、建設投資が弱く、総
期の実質 GDP 成長率(季節調整済み)は、
固定資本形成は減少する可能性が指摘され
前期比 0.5 %、前年同期比 2.5 %となった。
る。一方、外需は引き続き経済成長率に対
国ごとにみると、ドイツがそれぞれ 0.4 %、
してプラスの寄与度になると予想される。
2.1 %、フランスは 0.5 %、2.7 %、英国は
輸出需要の低迷が続くとみられるが、内需
0.4 %、2.6 %の成長である。各国・地域と
の減速が輸入の伸びを抑えるためである。
も一時は前年同期比 3 %台半ばから 4 %程度
こうした状況を考慮すると、2001 年の実
の実質経済成長率に達していたが、その水
質経済成長率は 1.6 %へ低下し、2002 年
準を大きく低下させている。また、国によ
の回復も緩やかなものにとどまると予想さ
って成長率に格差が出始めている。今後、
れよう。
この格差が拡大していく可能性が高いとみ
られる。
(3)フランスでは、安定した雇用情勢が
続いている。2000 年から 2002 年にかけ
(2)ドイツでは、2001 年年初から所得税
て実施される週 35 時間労働制の効果による
減税が実施されている。しかし、物価の上
ものと考えられる。賃金が凍結される傾向
昇、貯蓄性向の高まりが消費の拡大を抑制
にあるものの、雇用が減り難い環境となっ
している。年後半に物価は徐々に安定化し
ている。雇用の安定、ドイツに比べて低い
ていくと予想されるが、雇用環境の悪化な
物価上昇率、所得税減税の効果などにより、
消費の減速はドイツより緩やかなものにな
ると予想される。したがって、2001 年の
表 1 ユーロ圏(EU11 ヵ国)の経済予測
(単位 : %)
2001年(予)2002年(予)
2000年
実質GDP成長率
2.5
3.4
2.3
2.5
内需寄与度
3.1
2.8
1.2
1.7
外需寄与度
-0.5
0.6
1.1
0.8
家計は住宅ローンの借り換えなどを行い、
消費者物価上昇率
1.1
2.3
2.7
1.5
バランスシートの改善を進めている。住宅
失業率
9.9
8.9
8.5
8.8
投資と民間消費は今しばらく緩やかな減速
-6.2
-31.8
-30.2
-23.6
が続こう。また、ポンドが対ユーロで高め
経常収支(十億ドル)
注 1)EU(欧州連合)11ヵ国とは、ベルギー、ドイツ、スペイン、フランス、アイル
ランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、オーストリア、ポルトガル、
フィンランド
2 )統計誤差などのため、内外需の合計がGDP成長率にならない場合がある
出所)ユーロスタット(EU統計局)および欧州中央銀行の統計、予測は NRI ヨーロッパ
40
実質経済成長率の低下も 2.6 %程度にとど
1999年
まると予想される。
(4)英国では、利下げが行われた。しかし、
のため、企業収益は厳しい状態にある。民
間需要は減速傾向が続こう。ただし、景気
刺激的な財政支出により、2001 年の実質
知的資産創造/2001年7月号
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GDP 成長率は 2.4 %に踏みとどまり、
2002 年は景気回復へ向かおう。
図1 ユーロ圏の実質GDP成長率
(前年比、%)
4
3
輸入インフレと特殊要因に
左右されるユーロ圏の物価
2
1
0
ユーロ圏では、景気循環要因から生じた
-1
景気の鈍化が、本格的な減速局面に移行し
-2
始めている。次ページの図5に見られるよ
うに、ユーロ圏の鉱工業生産は、3月に季
節調整済みで前月比0.2%減少し、前年同月
比伸び率は3.3%へ低下した。また、企業の
外需寄与度
内需寄与度
実質GDP
-3
1992
93
94
95
96
97
98
99
2000
99
2000
01 02年
(予)(予)
99
2000
01
02年
(予) (予)
99
2000
01
02年
(予) (予)
出所)ユーロスタットの統計および NRIヨーロッパ予測
01
02年
(予) (予)
図2 ユーロ圏の消費者物価上昇率
(前年比、%)
4
受注残に対する判断は低下し、在庫過剰感
3
が上昇傾向を強めている。米国をはじめと
した域外景気の減速、そして民間消費を中
2
心とした域内需要の鈍化が、生産の伸びを
1
抑制し始めている。
0
1992
こうした動きからユーロ圏各国の稼働率
はピークを打ち、需給ギャップから発生す
93
94
95
96
97
98
出所)ユーロスタットの統計および NRIヨーロッパ予測
る物価押し上げ圧力は徐々に低下し始めて
図3 ユーロ圏の失業率
いる。しかし、ユーロ圏全体の消費者物価
(%)
12
指数である HICP の上昇率は、4月に前月
11
比 0.5 %、前年同月比 2.9 %へ上昇し、イン
フレ傾向が強まっている。その主要な背景
10
として2点があげられる。第1は、家畜の
9
伝染病(狂牛病、口蹄疫)によって上昇し
8
1992
た食品価格である。第2は、これまでのユ
ーロ安、原油高によるエネルギー価格上昇
から生じた、その他製品価格への二次的な
影響である。
食品価格の前年比でみた物価押し上げ寄
与度は、フランスで狂牛病が発生した2000
年 11 月の前月である 2000 年 10 月は 0.4 %、
93
94
95
96
97
98
出所)ユーロスタットの統計および NRIヨーロッパ予測
図4 ユーロ圏の経常収支
(十億ドル)
140
120
100
80
60
40
2001年4月は0.9%である。つまり、0.5%
20
程度が家畜の伝染病による物価押し上げ寄
-20
与度になっている可能性が高い。家畜伝染
-40
-60
0
病への対策は、人員の不足などが原因で遅
れた状態が続いている。したがって今後も、
1992
93
94
95
96
97
98
出所)ユーロスタットの統計および NRIヨーロッパ予測
NRI 年央経済見通し2001―2002〈欧州経済〉
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食品価格の物価押し上げ寄与度が0.5%を上
図5 ユーロ圏の生産動向
(DI:%バランス)
(前年同月比、%)
9
25
建設を除く鉱工業生産(左軸) 20
在庫判断(右軸)
8
15
7
回る状態が続く可能性が高い。
一方、エネルギー価格から発生している
二次的な影響は徐々に低下する可能性が存
6
10
5
5
0
4
-5
3
-10
相関係数の推移をみたものである。8ヵ月
-15
間は高い相関係数となっているが、9ヵ月
-20
-25
目以降は比較的速やかに係数が低下してい
-30
る。エネルギー価格の前年同月比上昇率は
2
受注残判断
(右軸)
1
0
-1
1995
96
97
98
99
2000
01
-35
年
出所)ユーロスタットの統計より NRI ヨーロッパ作成
在する。図6は HICP の中のエネルギー価
格と非エネルギー製造業製品価格との時差
2000年11月にピークを打っている。したが
って、今後、原油価格とユーロ・レートが
図6 ユーロ圏のエネルギー価格と非エネルギー製造業製品価格との相関
安定し続ければ、エネルギー価格に続いて
0.90
非エネルギー製造業製品価格の上昇率も落
0.88
ち着き始めると考えられる。
0.86
以上から、食品価格の影響は残るものの、
0.84
0.82
HICP 上昇率が年後半には低下傾向に入る
0.80
可能性が指摘されよう。
0.78
0.76
0.74
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11 12ヵ月
低迷が続くドイツの民間消費
ドイツの2001年第1四半期の実質経済成
注)ユーロ圏の HICP(消費者物価指数)の当月非エネルギー製造業製品価格と、表記
月前のエネルギー価格との相関係数を計算。横軸は何ヵ月前のエネルギー価格か
を示す。1999 年 1 月以降で計測
出所)ユーロスタットの統計より NRI ヨーロッパ作成
長率(季節調整済み)は前期比0.4%、前年
表 2 ドイツ経済の短期予測
その背景の1つとして、民間消費の低迷が
(単位:%)
2001年(予) 2002年(予)
同期比2.1%という低い状態にとどまった。
指摘できる。2001年年初から実施された所
1999年
2000年
1.4
3.1
1.6
2.2
2.2
2.1
0.6
1.3
民間消費
2.5
1.7
0.9
1.3
政府消費
-0.1
1.4
0.8
2.2
総固定資本形成
2.9
3.0
-1.4
2.7
在庫(寄与度)
0.2
0.1
0.2
-0.4
まりである。2001年第1四半期の名目家計
可処分所得は、季節調整済みで前期比 2.0
得税減税により、民間消費は安定した拡大
実質GDP成長率
内需(寄与度)
外需(寄与度)
果を相殺する要因が多く発生した。
第1に、消費者段階での物価上昇率の高
-0.8
1.1
1.1
0.8
輸出
4.6
14.0
5.7
6.5
輸入
7.8
10.8
2.7
4.4
%、前年同期比3.4%拡大しており、所得税
生計費指数上昇率
0.6
1.9
3.0
1.6
減税の効果はある程度表れていたと考えら
失業率(含む自営業)
10.5
9.6
9.5
9.8
れる。しかし、図7に見られるように、昨
経常収支(十億ドル)
-18.8
-21.5
-9.6
-7.7
年から今年にかけて、実質でみた月当たり
注)統計誤差などのため、内外需の合計がGDP成長率にならない場合がある。また、
ユーロ建てのため、マルク建ての成長率と若干異なる場合がある
出所)ドイツ連銀の統計、予測は NRI ヨーロッパ
42
を続けると期待されたが、所得税減税の効
平均賃金の伸びは低迷し、実質小売り売上
数量の伸びもそれにさや寄せされる形で低
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下している。生計費の上昇が少なからず実
質消費を抑制したものと考えられる。
図7 ドイツの小売り売上数量と実質賃金
(前年同月比、%)
5
第2に、貯蓄性向の高まりが消費低迷の
4
背景として考えられる。家計貯蓄率は2000
3
年第3四半期の 9.7 %を底に、2001 年第1
2
四半期には10.3%まで上昇した。景況感の
1
悪化が貯蓄率を高めた側面もあると考えら
れるが、年金制度改革が構造的に貯蓄率を
実質月当たり平均賃金
0
-1
-2
押し上げつつあることも指摘できよう。
2001年5月11日に議会で可決された年金
制度改革法には、私的年金積み立てを促進
するための優遇税制が盛り込まれたのに加
え、将来的な公的年金給付水準の引き下げ
も含まれている。このため、家計は将来の
-4
(前年同期比、%)
3.5
高めざるをえない状況となっている。年金
2.5
も、貯蓄率が高まった可能性が考えられよ
う。
図8は、NRI ヨーロッパで推計した消費
96
97
98
99
2000
01年
図8 ドイツの実質民間消費動向
3.0
れていたため、法案の成立を前にしながら
1995
注)小売り売上数量指数は3ヵ月移動平均値。月当たり平均賃金は生計費指数で実質化
出所)ドイツ連銀の統計よりNRI ヨーロッパ作成
所得環境の悪化を考慮すると、貯蓄性向を
制度改革の議論は約2年間にわたって行わ
自動車関連を除く
小売り売上数量指数
-3
金利要因
株価要因
景況感要因
実質可処分所得要因
消費推計値
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
関数に基づき、各説明変数の消費の伸びに
-0.5
対する寄与度をみたものである。ここ数四
半期をみると、株価要因、実質可処分所得
要因の消費押し上げ効果の低下が大きく現
れている。また、政策金利の高止まりによ
-1.0
Ⅰ Ⅲ
1995
Ⅰ
96
Ⅲ
Ⅰ
97
Ⅲ
Ⅰ
98
Ⅲ
Ⅰ
99
Ⅲ
Ⅰ Ⅲ
2000
Ⅰ
01年
注)要因は寄与度
出所)ドイツ連銀、IFO研究所、欧州中央銀行、データストリームの統計よりNRIヨー
ロッパ作成
る消費抑制効果が生じ始めている。
今後は、雇用環境が悪化していくことが
予想されることに加え、物価上昇率の低下
住宅投資低迷の影響を受ける
総固定資本形成
も緩やかなものにとどまると考えられる。
ドイツの 2001 年第1四半期の実質 GDP
したがって、貯蓄性向が低下する可能性が
成長率が低迷した主因のもう1つとして、
低いなか、実質可処分所得要因は引き続き
実質建設投資の減少があげられる。同期の
消費に対して抑制的に働くと考えられよ
実質建設投資は季節調整済みで前期比5.2%
う。また、今後景況感の悪化が進むと考え
減少し、前年同期比伸び率は−8.2%と、大
られるため、年後半に利下げが行われたと
幅に悪化した。このため、実質総固定資本
しても、実質民間消費の伸びは低迷した状
形成の伸び率(季節調整済み)は前期比
況が続くと予想される。
− 2.4 %、前年同期比− 1.8 %となり、実質
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07-NRI/p40-50/欧 01.7.5 4:56 PM ページ 44
GDP成長率に対する寄与度が、季節調整済
善基準達成のために、政府支出が抑制され
みで前期比、前年同期比ともにマイナスと
ているということが背景に存在すると考え
なった。
られる。
図9はドイツの建設受注動向を項目別に
こうした状況を考慮すると、実質建設投
みたものである。これを見ると、住宅建設
資が回復する可能性は低く、今年のドイツ
と公共建物の受注が低迷した状態にある。
実質総固定資本形成の伸び率はマイナスに
住宅建設については、ドイツ統一後に発生
なる可能性が指摘されよう。
した過剰供給の後遺症が残っているという
構造的な問題に加え、前述の家計所得環境
の悪化が影響しているとみられる。また、
公共建物の受注悪化は、ユーロ圏の財政改
悪化続く輸出の伸び
米国をはじめとした海外景気の減速を背
景に、ドイツの 2001 年第1四半期の実質
輸出等の伸び率(季節調整済み)は前期比
図9 ドイツの項目別建設受注動向
− 0.7 %となった。1998 年第4四半期以来
(前年同月比、%)
15
のマイナスの伸びである。
10
図 10 は、ドイツの実質輸出関数を為替、
5
海外需要、内外相対価格によって推計し、
0
それぞれの輸出の伸びに対する寄与度をみ
-5
たものである。これによると、昨年から海
-10
外需要要因の押し上げ寄与度が徐々に低下
-15
してきていることがうかがえる。一方、ユ
-20
住宅
民間建物
ーロ・レートの低迷を受けて、為替要因が
公共建物
土木工事
引き続きドイツの実質輸出の伸びを支えて
-25
1995
96
97
98
99
2000
01年
注)3ヵ月移動平均値
出所)ドイツ連銀の統計よりNRIヨーロッパ作成
いると判断されよう。
海外景気は米国景気の低迷を中心に、引
き続き弱い状態が続くと予想される。この
図10 ドイツの実質輸出等の動向
ため今後、海外需要要因はさらに低下し、
(前年同期比、%)
25
為替要因
海外需要要因
20
内外相対価格要因
推計値
輸出の伸びに下押し圧力をかけてくるもの
と考えられる。海外需要要因が輸出にとっ
15
て好転するのは、米国景気の回復力が弱い
10
ながらも高まってくる来年に入ってからと
5
みられる。一方、為替要因は、ユーロが大
0
きく上昇しないかぎり、ある程度輸出を支
-5
えるものと考えられる。しかし、海外需要
-10
要因の下押し圧力を相殺するには力不足と
-15
Ⅰ
1993
Ⅰ
94
Ⅰ
95
Ⅰ
96
Ⅰ
97
Ⅰ
98
Ⅰ
99
注)要因は寄与度
出所)ドイツ連銀、データストリームの統計よりNRIヨーロッパ作成
44
Ⅰ
2000
Ⅰ
01年
いえよう。
以上のようにみてくると、ドイツの景気
は今後も鈍化傾向が続くと予想される。回
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復過程に入るのは、物価の安定が進み、米
表 3 フランス経済の短期予測
国景気が回復力を徐々に高め始める2002年
に入ってからと判断されよう。しかし、物
実質GDP成長率
価の安定も、米国景気の回復も緩やかなも
内需(寄与度)
のと予想される。したがって、ドイツの景
気回復力も弱く、実質経済成長率は2001年
に1.6%程度へ低下した後、2002年に2.2%
フランスの2001年第1四半期の実質経済
成長率(季節調整済み)は前期比0.5%、前
年同期比2.7%となった。ドイツと同様に減
速傾向は続いているものの、前年同期比で
みた減速ペースはドイツに比べて緩やかな
ものにとどまっている。その大きな背景と
して、民間消費が堅調な推移を続けている
ことがあげられる。
2000年
3.0
3.3
2.6
2.8
3.0
3.5
2.2
2.2
民間消費
3.1
2.7
2.5
2.0
政府消費
2.0
2.3
1.9
1.0
総固定資本形成
6.2
6.7
4.2
3.4
在庫(寄与度)
-0.3
0.1
-0.4
0.2
外需(寄与度)
0.0
-0.1
0.4
0.6
輸出
3.9
13.5
5.3
5.4
輸入
4.2
15.3
4.3
3.7
消費者物価上昇率
0.6
1.7
2.1
1.6
失業率(ILO方式)
11.2
9.7
8.9
9.0
経常収支(十億ドル)
36.1
24.4
25.3
37.6
へ緩やかに戻す程度と考えられる。
消費が下支えするフランスの景気
(単位:%)
2001年(予) 2002年(予)
1999年
注)統計誤差などのため、内外需の合計がGDP成長率にならない場合がある。また、
ユーロ建てのため、フラン建ての成長率と若干異なる場合がある
出所)INSEE(国立統計経済研究所)の統計、予測は NRI ヨーロッパ
図11 フランスの消費動向
(前年同月比、%)
7
実質家計製造業小売製品消費支出 6
(左軸)
(前年同月比、%)
50
40
5
2001年第1四半期の実質民間消費は季節
4
調整済みで前期比 1.3 %、前年同期比 2.6 %
3
30
20
10
2
拡大している。前期比では1998年第2四半
1
期以来の高い伸びとなり、前年同期比では
0
2000 年第4四半期の 1.9 %から伸び率が加
-1
速している。このため、実質GDP成長率に
対する実質民間消費の寄与度は、季節調整
済みで前期比が 0.7 %、前年同期比が 1.4 %
0
-10
-20
乗用車新車登録台数(右軸)
-2
-3
1995
96
97
98
99
2000
注)3ヵ月移動平均値
出所)INSEE の統計より NRI ヨーロッパ作成
-30
01
年
-40
と高いものとなった。
図11に見られるように、フランスの実質
推定される。
家計製造業小売製品消費支出の伸びは、ド
フランスでは2000年に、従業員数20人以
イツと同様に鈍化傾向を示している。しか
上の企業に対して、それまでの週39時間労
し、そのペースはドイツに比べ緩やかなも
働制から週35時間労働制への移行が実施さ
のにとどまっている。さらに、ドイツと異
れた。また、2002年からは従業員数20人未
なるのは、乗用車新車登録台数の伸びが
満の中小企業にも同様に週35時間労働制が
徐々に回復し始めていることである。ドイ
導入される。こうした制度変更が2000年か
ツに比べて比較的物価が安定していたため
ら2002年にかけて実施されるため、雇用情
に、所得税減税の効果が出やすかったこと
勢が良好な状態に保たれることとなった。
に加え、雇用構造の変化が消費を支えたと
次ページの図12に見られるように、新規
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07-NRI/p40-50/欧 01.7.5 4:56 PM ページ 46
1999 年第2四半期の前年同期比 1.5 %を底
図12 フランスの雇用動向
(前年同期比、%)
4.0
(前年同期比、%)
40
に、2000 年第4四半期には同 2.0 %まで上
昇している。週当たりの労働時間が減少し
3.0
雇用者数(左軸)
30
2.0
たために、所定外労働時間が増え、残業代
などの所定外賃金の支給が増えたとみられ
20
1.0
10
0.0
る。景気減速局面に至りながらも、1人当
たりの平均賃金がある程度上昇する環境が
作り出されている。
-1.0
新規求人件数(右軸)
0
図13は、ドイツのときと同じように実質
民間消費関数を推計し、消費の伸びに対す
-2.0
1993
94
95
96
97
98
99
-10
2000 01年
出所)INSEE の統計より NRI ヨーロッパ作成
る。ドイツと同様に、金利要因は政策金利
の高止まりを反映して、消費の伸びを押し
図13 フランスの実質民間消費動向
(前年同期比、%)
4.5
金利要因
実質所得要因
3.5
景況感要因
る説明要因ごとの寄与度をみたものであ
下げる方向に働いている。しかし、実質所
株価要因
推計値
得要因の寄与度は安定した状態が続いてい
る。今後、実質所得要因もある程度寄与度
を低下させてくると考えられるが、前述の
2.5
ように雇用制度の変化が雇用の伸びの低下
1.5
を抑え、賃金の伸びもある程度支えると考
0.5
えられるため、寄与度の低下は限られたも
のになるといえよう。
-0.5
フランスの実質民間消費の伸びは、2000
-1.5
Ⅰ Ⅲ
1995
Ⅰ
96
Ⅲ
Ⅰ
97
Ⅲ
Ⅰ
98
Ⅲ
Ⅰ
99
Ⅲ
Ⅰ
Ⅲ
2000
Ⅰ
01年
注)要因は寄与度
出所)INSEE、データストリームの統計より NRI ヨーロッパ作成
年の2.7%から、2001年には2.5%程度に低
下する限られた鈍化にとどまると予想され
る。景気の減速を軽微なものにとどめるこ
とになろう。
求人件数の伸びは大きく減速しているもの
の、雇用者数の伸び率は依然として高い状
態が続いている。制度変更によって雇用が
図14はフランスの輸出入動向をみたもの
減り難くなっていると考えられよう。した
である。ともに伸びが大きく鈍化してきて
がって、景気減速下、雇用の伸びが今後加
いる。実質GDPベースでみると、2001年第
速していくとは考え難いが、その減速は非
1四半期の実質輸出は季節調整済みで前期
常に緩やかなものになると予想されよう。
比 0.6 %減少し、実質輸入も同 1.7 %減少、
賃金についてみると、労働時間の変更に
46
外需は経済成長率に中立的な動きへ
輸出、輸入ともに減少している。
より、時間当たり賃金が増加したため、所
輸出に関しては、今後ほぼドイツと同様
定内賃金は凍結される傾向が強まった。し
な推移が予想され、引き続き伸びが減速し
かし、名目の月当たり平均賃金の伸び率は
ていく可能性が高いとみられる。ただし、
知的資産創造/2001年7月号
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07-NRI/p40-50/欧 01.7.5 4:56 PM ページ 47
フランスにとって主要な輸出相手国の1つ
にドイツが存在している。したがって、ド
図14
7 フランスの輸出入動向
(前年同月比、%)
25
イツの景気減速が強まった場合には、ドイ
ツに比べてフランスの輸出が大きく低下す
るリスクには注意を要しよう。
輸出
20
輸入
15
一方、輸入も2001年第1四半期に大きく
減速したが、この傾向が続く可能性は低い。
第1四半期に輸出の伸びが鈍化した背景に
は、在庫の減少がある程度影響していると
10
5
0
みられる。2001年第1四半期に実質在庫は
9億ユーロ減少した。今後さらに在庫が減
少する可能性は小さくなっており、在庫の
-5
1995
96
97
98
99
2000
01年
出所)INSEE、データストリームの統計よりNRI ヨーロッパ作成
変動が輸入の伸びを抑える方向に働く可能
性も低下している。また、前述の通り、実
速が軽微にとどまったことに加え、実質公
質消費の減速が緩やかなものにとどまると
的資本形成の高い伸びが指摘できる。
予想され、輸入の伸びが減速するペースは
それほど強まらないだろう。
2001年第1四半期の実質民間消費の前期
比伸び率(季節調整済み)は2000年第4四
ドイツでは、輸出の伸びが低下すると予
半期と同じ0.6%となり、前年同期比伸び率
想される一方、内需の鈍化から輸入の伸び
は2000年第4四半期の3.4%から3.2%への
が輸出の伸びの鈍化を上回る形で低下する
わずかな低下となった。
と考えられるため、純輸出が実質GDP成長
次ページの図15に見られるように、2001
率に対して比較的大きなプラスになると予
年2月には、金融機関を中心に多額の賞与
想される。しかしフランスでは、輸入の伸
びが軽微にとどまるとみられるため、外需
表 4 英国経済の短期予測
の経済成長率に対するプラス寄与度は限ら
(単位:%)
2001年(予) 2002年(予)
1999年
2000年
2.3
3.0
2.4
2.7
3.9
3.9
3.4
2.5
民間消費
4.4
3.7
2.5
2.2
政府消費
4.0
2.7
3.5
3.2
総固定資本形成
5.4
2.6
4.7
2.9
在庫(寄与度)
-0.8
0.4
0.2
-0.1
れたものになろう。フランスとドイツでは
実質GDP成長率
国内需要動向に違いがあり、引き続きフラ
内需(寄与度)
ンスがドイツの経済成長率を上回る状況が
続くと予想される。
外需(寄与度)
-1.5
-0.8
-1.1
0.2
輸出
4.0
8.4
5.2
4.7
輸入
8.1
9.6
7.3
3.6
小売物価上昇率
2.3
2.1
2.3
2.3
率(季節調整済み)は、景気減速局面にあ
失業率
4.2
3.6
3.5
3.8
りながら、前期比 0.4 %、前年同期比 2.6 %
経常収支(十億ドル)
-16.0
-24.5
-23.9
-23.5
予想される英国の民間消費の
緩やかな減速
英国の2001年第1四半期の実質経済成長
となり、2000年第4四半期と同じ成長率と
なった。その背景には、実質民間消費の減
注 1 )統計誤差などのため、内外需の合計がGDP成長率にならない場合がある
2 )小売物価指数(RPIX)は総合から住宅抵当金利支払い等を除いたもの
出所)ONS(国民統計局)および英国中央銀行の統計、予測は NRI ヨーロッパ
NRI 年央経済見通し2001―2002〈欧州経済〉
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07-NRI/p40-50/欧 01.7.5 4:56 PM ページ 48
が支払われたため、賞与を含む平均所得が
図15 英国の所得と消費の動向
(前年同月比、%)
7
(前年同月比、%)
12
平均所得(含む賞与、 左軸)
前年同月比6.6%上昇した。これに伴い、実
質小売り売り上げの伸びも前年同月比5.8%
6
10
5
8
まで高まった。ただし、3月には賞与を含
む平均所得の伸びは速やかに元の水準に低
下している。失業者数の減少幅が2001年1
4
6
平均所得 (除く賞与、 左軸)
3
月の 2.7 万人から5月には 3000 人まで縮小
し、これまでの景気減速を受けた雇用環境
4
2
の悪化が始まったとみられる。
2
1
実質小売り売り上げ(右軸)
0
1997
98
99
2000
したがって、平均所得の伸びがこれ以上
上昇していく可能性は高くなく、所得面か
01 年
0
らみると、民間消費の伸びは今後も落ち着
出所)ONS の統計より NRI ヨーロッパ作成
いた状態が続くものと予想される。
英国の民間消費を考えるうえでは、住宅
図16 英国の住宅価格動向
価格の上昇から発生する資産効果を無視す
(前年同月比、%)
ることはできない。図16に示されるように、
16
ネイションワイド住宅価格指数
住宅価格の上昇率の鈍化には底入れ傾向が
12
みられ、ネイションワイドおよびハリファ
8
ックスの住宅価格指数の前年同月比上昇率
4
は、5月にはともに7.7%まで回復した。こ
0
れまでに実施された政策金利引き下げの効
-4
果がある程度表れ始めたとみられる。住宅
ハリファックス住宅価格指数
-8
1991
92
93
94
95
96
抵当融資の許認可件数の伸びも徐々に回復
97
98
99
2000 01
年
出所)ハリファックス、ネイションワイドの統計より NRI ヨーロッパ作成
してきている。ただし、図17に見られるよ
うに、住宅抵当融資残高の伸びはそれほど
変化していない。
図17 英国の個人向け貸し出し動向
(前年同月比、%)
10
(前年同月比、%)
18
消費者信用残高(右軸)
17
宅抵当融資金利の低下を受けて、家計は住
16
宅抵当融資をより低金利なものに借り換え
15
る行動をとっていると考えられる。図17に
9
8
14
7
政策金利の引き下げによって促された住
見られるように、2000年にかけて金利が上
13
6
12
5
住宅抵当融資残高(左軸)
4
3
1995
96
97
98
出所)英国中央銀行の統計より NRI ヨーロッパ作成
48
99
2000
01
年
昇し続けた過程で、住宅抵当融資残高は高
11
い伸びを示してきた。したがって、利下げ
10
に伴った借り換えが一巡するには今しばら
9
く時間を要しよう。借り換え行動が続くな
8
かでは、住宅価格の上昇率が昨年のような
水準まで高まる可能性は低いとみられる。
知的資産創造/2001年7月号
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07-NRI/p40-50/欧 01.7.5 4:56 PM ページ 49
住宅価格上昇から発生する資産効果が、消
今後しばらくは民間需要が減速する一方
費の伸びを強く押し上げる可能性は低いと
で、公的需要が経済成長率の低下を緩和し、
予想される。
さらに景気回復への良い刺激策になると予
所得環境、住宅価格動向を考慮すると、
想される。
今後、実質民間消費は緩やかな減速過程を
たどる公算が高いといえよう。
徐々に高まるインフレ率
英国の 2001 年5月の RPIX(モーゲージ
始まった積極的な公共投資
ローンの利払いを除く小売物価指数)上
英国の2001年第1四半期の実質公的資本
昇率が前年同月比 2.4 %に達し、英国中央
形成が、季節調整済みで前期比3.0%、前年
銀行の目標である 2.5 %に大きく近づいた
同期比7.1%という高い伸びを示した。景気
(図19)。前月比2.4%、前年同月比5.3%上
刺激的な公共投資が進められている。
昇した食品価格が主因となっている。ユー
2001 年3月に発表された予算を見ると、
2001/02会計年度の純投資額は110億ポンド
と計画され、2000/01年度の74億ポンドか
ら名目ながら48.6%拡大されている。6月
7日に行われた議会総選挙で労働党が安定
多数を確保し、政権を維持したことから、
この予算案が引き続き実行されることとな
った。
図18 英国中央政府の純投資額の月次累計
(億ポンド)
80
70
1998/99年度
1999/2000年度
2000/01年度
60
2001/02年度
50
40
30
第1四半期の高い公共投資の伸びに続
20
き、2001/02 会計年度の最初の月である4
10
月の純投資額も、例年を大幅に上回ってい
0
4月
る。図18に見られるように、13.8億ポンド
が純投資として支払われた。4月時点の純
投資額の過去3年間の平均額は約3.9億ポン
ドであり、約 3.5 倍の金額に達している。
2001/02 年度の純投資計画の約8分の1を
6月
8月
10 月
(前年同月比、%)
4.5
総合小売物価指数(RPI)
4.0
RPIX 政策目標(2.5%)
(1998年6月1日以降)
3.5
度の金額が出ていくとは想定しにくいが、
3.0
年間でみた実質経済成長率の押し上げ効果
2.5
は相当高いものになると予想される。また、
2月
図19 英国の物価動向
すでに支出したこととなる。
したがって、今後コンスタントにこの程
12 月
出所)ONS および英国大蔵省の統計より NRI ヨーロッパ作成
2.0
モーゲージローンの利払いを除く
小売物価指数(RPIX)
早いうちに大きな公共投資支出が実施され
1.5
たことで、今後民間需要が刺激され、景気
回復への動きが始まる確実性が高まってき
ていると判断されよう。
1.0
1995
96
97
98
99
2000
01 年
出所)ONS の統計より NRI ヨーロッパ作成
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07-NRI/p40-50/欧 01.7.5 4:56 PM ページ 50
ロ圏と同様に、家畜の伝染病による影響も
にインフレ圧力がかかり始めている。この
あるが、天候要因による生鮮食料品価格の
ため、月によっては英国中央銀行の目標値
上昇がインフレ率を押し上げている。した
を上回るインフレ率になることも予想され
がって、天候要因が消えればインフレ率に
る。しかし、価格競争が依然として続けら
いったんは落ち着きが戻ると予想される。
れているため、その程度は限られたものに
しかし、家畜伝染病対策で多くの家畜を
なると予想される。
殺しており、食肉の供給が回復するには時
間がかかるので、ある程度の食品価格上昇
率の高止まりは続こう。また、ポンドの低
下が続いており、その他製品価格にも徐々
50
著者―――――――――――――――――――――
大越龍文(おおこしたつふみ)
NRI ヨーロッパ上級エコノミスト
知的資産創造/2001年7月号
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