No.4(Jun.2005)

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DEC. 2005
国際シンポジウム基調講演
(酒井田柿右衛門 教授)
C O N T E N T S
□ 柿右衛門様式陶芸研究センタープログラム
国際シンポジウム開催報告
2∼4
□ 第5回COEセミナーの開催について・COEセミナーの概要について
5
□ イギリス所在の柿右衛門様式作品の事前調査活動について
6
□ 名古屋ボストン美術館調査活動の概要について・
若手研究者による研究会発足について
7
□ 平成17年度 調査活動等・運営委員会開催・
若手研究者による研究会開催
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柿右衛門様式陶芸研究センタープログラム 国際シンポジウム開催報告
平成17年12月1日(木)から3日(土)に亘って、福岡市美術館と佐賀県有田町の佐賀県立九州陶磁文化館において、
「柿右衛門様式磁器
の普遍性について」をテーマに、陶磁器の研究分野の第一線で活躍されておられる国内外の著名な研究者を招聘し、本学のCOEプログラ
ムの研究成果発表として、
国際シンポジウムが開催されました。
1 国際シンポジウム1日目
12月1日
(木)
は福岡市美術館において開会式が行われ、
佐護譽
学長及び下村耕史COE拠点リーダーの開会の挨拶の後、
酒井田柿
右衛門教授による「柿右衛門磁器絵付けの様式と特性」並びにド
イツ・ドレスデン国立美術館 磁器コレクション館 ウルリッヒ・ピー
チュ館長による「マイセンをはじめとするヨーロッパの磁器製作
所が手本とした柿右衛門様式磁器」についての基調講演が行われ
ました。
その後、
佐賀県立九州陶磁文化館 大橋康二副館長、
チェコ・モラ
ヴィア美術館 フィリップ・スホメル学芸部長、
根津美術館 西田宏
子副館長による講演が行われ、質疑応答では、活発な意見交換が
佐護学長挨拶
ありました。
(初日参加者:202名)
質疑応答風景
下村拠点リーダー挨拶
質疑応答風景
2 歓迎レセプション
12月1日(木)午後6時から、ホテル日航福岡で招
聘者を囲んで歓迎レセプションが行われました。
当日は福岡女子大学 高木誠学長、福岡アジア美術
館 石田武壽館長をはじめ、
地元のテレビ局、
新聞社か
らも多数のご参加をいただき、本シンポジウムの関
心度が高いことが窺えました。
招聘者紹介風景
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3 国際シンポジウム2日目
エファ・シュトレーバー氏の講演
メノー・フィツキー氏の講演
ビクター・ハリス氏の講演
12月2日
(金)
は、
ドイツ・ドレスデン国立美術館 磁器コレクショ
ン館東アジア磁器部門 エファ・シュトレーバー学芸員の講演を皮
切りに、オランダ・アムステルダム国立博物館 東アジア美術部門
メノー・フィツキー学芸員、
イギリス・大英博物館 アジア部日本部
門 ビクター・ハリス名誉日本部長の講演の後、本シンポジウム
のメインテーマである「柿右衛門様式磁器の普遍性について」の
パネルディスカッションが行われました。
柿右衛門様式磁器は17世紀中葉に有田で創製され、オランダ
東インド会社による貿易によって広く世界中に運ばれました。今
日でもヨーロッパの宮殿や美術館に多数所蔵・展示されており、
国際的に愛好・鑑賞の的になっています。このような柿右衛門様
式磁器の時代と地域を超えた美的芸術的価値の普遍性をめぐって、
日本、韓国、イギリス、ドイツ、オランダの研究者の立場から最新
の研究成果発表や、
活発な議論が展開されました。
(2日目参加者:191名)
パネルディスカッション風景
4 国際シンポジウム3日目
12月3日(土)は会場を日本の磁器発祥の地、有田(佐賀県立九
州陶磁文化館)に移してシンポジウムを開催いたしました。佐賀
県立九州陶磁文化館 古場勝憲館長の開会の挨拶の後、
大橋康二副
館長、
ドイツ・ヨーロッパ磁器産業博物館 ヴィルヘルム・ジーメン
館長、
酒井田柿右衛門教授による講演が行われ、
最後に下村拠点リー
ダーから、本学21世紀COEプログラムは、柿右衛門様式磁器の
総合的研究を実践面に活かして、それを現代の陶磁器産業の興隆
と発展に寄与するために、陶磁器研究の国際的なネットワーク化
佐賀県立九州陶磁文化館でのシンポジウム風景
を目指しているとの閉会の挨拶があり3日間に亘るシンポジウム
が無事終了いたしました。
( 3日目参加者:141名。3日間のべ
534名)
本シンポジウム開催にあたりご協力いただきました関係各位
の皆様方に心より厚く御礼申し上げます。
シンポジウムを終えて柿右衛門窯でスタッフ一同記念撮影
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柿右衛門様式陶芸研究センタープログラム 国際シンポジウム開催報告
5 講師紹介
ここでは、
シンポジウムで講演をいただいた講師の先生方を紹介いたします。
(講演順・敬称略)
十四代酒井田柿右衛門
ウルリッヒ・ピーチュ
大橋 康二
九州産業大学 大学院
芸術研究科 教授
ドイツ・ドレスデン国立美術館
磁器コレクション館 館長
佐賀県立九州陶磁文化館
副館長
フィリップ・スホメル
西田 宏子
エファ・シュトレーバー
チェコ・モラヴィア美術館
学芸部長
根津美術館
副館長
ドイツ・ドレスデン国立美術館
磁器コレクション館
東アジア磁器部門 学芸員
メノー・フィツキー
ビクター・ハリス
鄭 良謨(チョン・ヤンモ)
オランダ・アムステルダム国立博物館
東アジア美術部門 学芸員
イギリス・大英博物館
アジア部日本部門 名誉日本部長
韓国・国立中央博物館
前館長
文化財委員会委員
※パネルディスカッション パネリスト
梶原 茂正
ヴィルヘルム・ジーメン
九州産業大学 大学院
芸術研究科 教授
※パネルディスカッション パネリスト
ドイツ・ヨーロッパ磁器産業博物館
館長
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第5回COEセミナーの開催について
平成17年度第5回COEセミナーが下記のとおり開
催されました。
記
日時/平成17年10月15日
(土)
13:00∼14:30
場所/15号館15103番教室
講師/有田町教育委員会 村上伸之学芸員 演題/
「古九谷様式から柿右衛門様式へ
∼柿右衛門様式の技術の源流を探る∼」
セミナーの風景
COEセミナーの概要について
古九谷様式から柿右衛門様式へ ─柿右衛門様式の技術の源流を探る ─
有田町教育委員会
村上 伸之学芸員
今回の発表は、
“柿右衛門様式”の直接的な原点となったある種
ものではなく、
「赤絵」という「色絵」の一種であった可能性が高く
の“古九谷様式”の技術について、その性格や位置付けを明らかに
なった。この「赤絵」は、
“南京赤絵”系の技術で、薄くて白い精緻な
することを主眼とした。
素地生産に特徴がある。つまり、それまでの寒色系の絵具主体の
“古九谷様式”
については、
初の色絵技法を確立した様式として、
ものではなく、赤絵具をはじめとした暖色系上絵具の多用を意識
特に色絵製品のイメージが強い。しかし、色絵技法自体は技術に
した製品の開発である。
含まれる一つの要素に過ぎず、
“古九谷様式”は、実は景徳鎮系の
この「赤絵」の技術は有田の東端の楠木谷窯跡で開発され、次第
技術導入による製土から焼成に至る総合的な革新技術である。
に有田の窯業の中心部である内山地区へと広がっていった。その
今日では、
生産窯の発掘調査の進展によって、
そうした
“古九谷”
ため、
この技術が正統的な上絵の技術として生き残り、
有田では
「色
の技術が次第に明らかになってきており、一つの原点から広まっ
絵」の同義語として「赤絵」の名称が一般化したものと考えて間違
たものではなく、異なった複数の技術が混在して様式を構成して
いない。
いる可能性が高くなった。すなわち成立時期の早い順に、景徳鎮
佐賀藩による上絵付工程の分業化に伴い、有田各地の主要な色
の
“万暦赤絵”
系、
続いて
“天啓赤絵・色絵祥瑞系”
、
そして
“南京赤絵”
絵生産窯も廃窯に追い込まれたが、楠木谷窯跡で開発された直系
系の順である。
の「赤絵」生産技術は、陶工集団の移動を通じて有田の下南川原山
上絵付技法の創始については、
これまで
『酒井田柿右衛門家文書』
へと移植された。
そして、
その技術をベースとして洗練が進められ、
のなかの「赤絵初リ」ではじまる「覚」の記述から、喜三右衛門(初
1670年代に完成したのが“柿右衛門様式”なのである。つまり、
代柿右衛門)
によって、
長崎で初めて売ったと記す正保四年
(1647)
しばしば“柿右衛門様式”と“南京赤絵”の近似性が指摘されるが、
の少し前に開発されたと考えられてきた。しかし、窯跡の調査状
その大きな要因の一つはこうした技術系譜によるものである。
況と対比してみると、喜三右衛門が創始したのは上絵付技法その
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イギリス所在の柿右衛門様式作品の事前調査活動について
調査実施期間/平成17年11月6日
(日)
∼11月16日
(水)
場 所/イギリス
調 査 者/COE研究員 古橋 千明
歴史研究・カリキュラム開発部門では、柿右衛門様式の作品の
実態を明らかにするため、国内外の柿右衛門様式作品の所在を調
調査許可およびご協力の内諾をいただいた機関および
個人名と柿右衛門様式作品所有数:
査し、作品の種類や特徴を明らかにすることや、地域による違い
大英博物館 NA
などを解明するため、美術史・文化史・貿易史の三観点から研究を
バーリーハウス コレクション 約 50点
進めております。
ビクトリア・リーサム コレクション その研究活動の一環として、平成17年11月6日∼16日の
J.A.N. Fine Art 17点以上
間、イギリス所在の柿右衛門様式作品について事前調査を行いま
Japanese Art Gallery 12点以上
した。下記の美術館および骨董商等を訪ね、柿右衛門様式作品コ
Helen Girton Antiques 30点以上
NA
(欧州窯作品)
レクションを確認するとともに、現地関係者に調査協力をお願い
し、快諾を得ました。
その他現地で面会した方々:
平成18年度には、これらの訪問先を再訪し、本格的な調査活動
British Museum
Mr. Victor Harris
を行う予定です。
Sainsbury Institute
Dr. Nicole Coolidge Rousmaniere
Smithsonian Freer Gallery
Ms. Louise A. Cort
Rijks Museum Amsterdam
Mr. Menno Fitski
Burghly House Collection
Mr. Gordon Lang
Sotheby’
s
Ms. Suzanna Yip
現在連絡を取っている機関および個人名:
アシュモリアン美術館
フィッツウィリアム美術館
ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館 ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館の柿右衛門コレクションから。
この器形は、通称“ハンプトンコート壺”として知られている。
故ソアム・ジェニンス氏コレクション
*具体的な調査内容については、
別途機関ごとに調書を作成中です。
ロンドンの骨董通り、ケンジントン・チャーチ・ストリートにある
J.A.N. Fine Artのコレクションから。
街角の骨董商にも質の高い柿右衛門様式磁器が存在する。
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名古屋ボストン美術館調査活動の概要について
〔花鳥画の煌めき∼東洋の精華〕展
調査実施日/平成17年11月12日
(土)
場 所/名古屋ボストン美術館
調 査 者/COE若手研究者 山本 紗英子
柿右衛門様式磁器の絵文様において花鳥は山水や唐様人物と共に、
重要なモチーフとして描かれ親しまれてきた。そのことをふまえ、本
展覧会の展示作品にみる花鳥画のモチーフの意義について着目すると、
● 個々の描き手の感情表現として
挿図1:
源流から現代まで 柿右衛門の世界
朝日新聞社 1983年
● モチーフの本質を、
図鑑(手鑑)として
● 流行や趣味を反映したモチーフとして
挿図2:
花鳥画の煌めきー東洋の精華
名古屋ボストン美術館 2005年
●
「四季絵」、
「月次絵」として
● 吉祥や儒教、
仏教などの教義・寓意として
● 詩歌、
文学からの表現をモチーフとして、などが考えられる。
生体としての美しさを考えるとき、美しさを永久にとどめることができるものは、命あるものにはない。モチーフの中にはそうした自
然界にみられる命の移ろいや生の循環が暗示され、無常であるからこそ、美として感じ慈しむのではないだろうか。また、吉祥として採り
あげられるなかにも、長寿や子孫繁栄などの生に対する人々の強い思いが伺える。そうした無常の美を柿右衛門様式磁器にみる花鳥文様
の典拠とし追究していくことは、柿右衛門様式の美と向き合うことができる一つの方法ではないだろうか。
若手研究者による研究会発足について
COE研究員および若手研究者による研究会が平成17年12月17日
(土)に発足しました。
第1回の研究会では、メンバーの確認、方向性および内容等について討議され、以下のとおり確認されました。
1
研究会常任メンバー
●朴泰成事業推進担当者
●櫻庭美咲COE研究員、
古橋千明COE研究員
●松下広樹日本学術振興会特別研究員
●黄承基若手研究者、
山本紗英子若手研究者
●古賀裕子博士後期課程1年次
2
研究会の方向性・内容
研究会は月2回開催する。
●1回は常任メンバーによる研究内容の発表
●1回は学会
(東洋陶磁学会等)
および講習会への出席、
展覧会訪問、博物館実習、セミナーに関するディス
カッション等を行う。
3
その他
●常任メンバーは一人年3回程度、
各々の研究内容の
発表および報告をプレゼンテーション形式で行う。
●発表はパワーポイント等を使用する。
●博士課程在籍者による作品に関する発表および
技術的内容は作品論とする。
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平成17年度 調査活動等
期 間
場 所
担当者
佐賀県立九州陶磁文化館
山本紗英子
平成17年10月16日
[日]
∼10月17 日
[月]
名古屋市(徳川美術館)
山本紗英子
平成17年10 月26日
[水]
∼10月 31日
[月]
韓国(国立中央博物館)
朴 泰成
平成17年11月 3 日
[木]
佐賀県立九州陶磁文化館・柿右衛門窯
古橋 千明
平成17 年11月 3 日
[木]
∼11月 4 日
[金]
京都市(細見美術館・泉屋博古館・京都国立博物館 他)
山本紗英子
平成17 年11月 5 日
[土]
∼11月20日
[日]
英国(大英博物館他)
・
東京(東京国立博物館・松岡美術館・戸栗美術館)
古橋 千明
平成17年11月12 日
[土]
∼11月13 日
[日]
名古屋市(徳川美術館・名古屋ボストン美術館)
山本紗英子
平成17年11月16 日
[水]
有田町役場・佐賀県立九州陶磁文化館・柿右衛門窯
下村 耕史
平成17年11月24日
[木]
∼11月25日
[金]
東京(戸栗美術館・松岡美術館・東京国立博物館)
山本紗英子
運営委員会開催
開催日
主な内容
第18 回
平成17年10月15 日
[土]
柿右衛門様式陶芸研究センタープログラム 国際シンポジウムについて
第19 回
平成17年11月26日
[土]
柿右衛門様式陶芸研究センタープログラム 国際シンポジウムについて
第20回
平成17年12月17 日
[土]
平成18年度柿右衛門様式陶芸研究センター 予算について 若手研究者による研究会開催
第1回
開催日
主な内容
平成17年12 月17 日
[土]
・研究会常任メンバーの確認 ・研究会の方向性・内容について
九州産業大学
柿右衛門様式陶芸研究センター
http://www.kyusan-u.ac.jp
〒813- 8503 福岡市東区松香台2-3-1
TEL 092-673-5489 E-mail [email protected]
8
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平成17年10月 9 日
[日]