チンパンジーの二アレスト・ネイバーの発達的変化―1歳から7

チンパンジーの
チンパンジーのニアレスト・
ニアレスト・ネイバーの
ネイバーの発達的変化
~1歳から7
から7歳まで~
まで~
野澤更紗1、落合知美2、松沢哲郎2
1岐阜大学応用生物科学部、2京都大学霊長類研究所
チンパンジーは群れの中で自分の社会的関係を広げていくと思われる。本研究で
は、京都大学霊長類研究所の子どもチンパンジー3人を対象として、子どもたちの
社会関係の発達的変化を分析している。
NNとは
とは
NNはパン
NNはアイ
パル
アイ
アユム
社会関係の発達的変化を調べる指標として、もっとも近くにいる個体(ニアレスト・
ネイバー Nearest Neighbor:略してNN)の観察を、京都大学霊長類研究所にて
おこなった。この観察を2001年から2004年まで、岐阜大学ポケットゼミナールグ
ループがおこなってきた。今回はそれに加えて、2007年4月~10月までの観察結
果をあわせて報告する。
パン
NNはポポ
NNはアユム
アキラ
ポポ
フォーカルアニマル法によるビデオ撮影
タイムサンプリングによる分析
毎週日曜日に、子ども1人につき60分間のビデオ撮影をおこなった。録画時には、対象個体とそ
のNN,また母親とそのNNを連続記録で撮影した。また母親のNNが撮影できない場合、声でビ
デオに録音して記録した。なお使用したビデオカメラは、ソニービデオカメラ(DCR-PC300K)で
ある。観察場所は、京都大学霊長類研究所のサンルームとし、1階から撮影をおこなった。
撮影したビデオを見て、対象個体のNNとそのときの行動、母
親のNNを1分ごとのタイムサンプリング法を用いて調査用紙
に書き取り、分析した。総観察時間は、各個体約230時間で
ある。
群構成
京都大学霊長類研究所には、14人(♂:4人、♀:10人)の
チンパンジーが飼育されており、アキラ群とレオ群の2群に
分かれて生活している。群れの構成は以下の通りである。
2001年~2004年
2007年4月~10月
対象個体
京都大学霊長類研究所で飼育しているチンパンジー
の子ども3人とその母親
アイ(推定31)
クロエ(27)
アユム
アイ
クレオ
クロエ
パル
パン
マリ
ポポ
ペンデーサ
アキラ
パン(24)
アユム(7)
クレオ(7)
パル(7)
2000.4.24生
♂
2000.6.19生
♀
2000.8.9生
♀
アユム
アイ
クレオ
クロエ
ペンデーサ
アキラ
レイコ
入院中
()内は年齢
※
▲東サンルーム
アキラ群が暮らす
:アキラ群
レオ
:レオ群
観察中にNNとなった割合をグラフで表わすと以下のようになる。
2001年~2004年
50
20
50
アユム
ペンデーサ
アキラ
クロエ
マリ
ポポ
パン
クレオ
パル
50
40
%
30
20
10
アユム
30
アイ
アユム
アイ
ペンデーサ
アキラ
クロエ
マリ
ポポ
パン
クレオ
パル
40
%
2007年4月~10月
60
0
1-1.5
1.5-2
2-2.5
2.5-3
3-3.5
1-1.5
3.5-4
1.5-2
2-2.5
2.5-3
3-3.5
0
3.5-4
6歳11ヶ月
70
30
20
クレオ
アイ
アキラ
ペンデーサ
マリ
パン
ポポ
アユム
パル
60
50
% 40
30
20
10
3-3.5
1.5-2
クレオ年齢(歳)
2-2.5
2.5-3
3-3.5
30
6歳9ヶ月
6歳11ヶ月
7歳
7歳1ヶ月
7歳2ヶ月
7歳3ヶ月
80
70
50
40
%
30
20
10
60
パル
20
パン
パル
% 30
6歳10ヶ月
クレオ年齢
60
40
その後、同年代の子どもが
NNとなるなど、子どもの
NNは母親の交友関係に
関わらなくなってきた。
0
パル
ポポ
クロエ
アキラ
アイ
ペンデーサ
マリ
アユム
クレオ
50
パン
% 40
ポポ
マリ
30
プチ
ゴン
20
10
10
0
1-1.5
1.5-2
2-2.5
2.5-3
3-3.5
0
3.5-4
1-1.5
パル年齢(歳)
1.5-2
2-2.5
2.5-3
3-3.5
0
3.5-4
6歳10ヶ月
パル年齢(歳)
初め子どもは母親がNNとなることがもっとも多かった。
そしてその後、母親がNNとなる割合は減少していく様子がうかがえた。
母親も、初め子どもがNNとなることがもっとも多かった。
その割合は、子どもが他個体と接触を始めるとともに、減少していった。
7歳
パル年齢
7歳1ヶ月
7歳2ヶ月
しかし、その割合には個体差があ
る。
アユム
ペンデーサ
生まれた当初、子どもは
母親に抱かれてすごす。
6歳11ヶ月
この半年間の観察では、子どもた
ちは以前に比べて様々な個体と
接触している様子がうかがえた。
アユム
アイ
パル
今後子どものNNは
どのように
変化するのか?
現在観察中
アユム
母親と仲の良い個体
がベビーシッターとな
る。
まず、母親と仲の良い個体
がベビーシッターとしてNN
となる機会が増加する。ア
ユムのベビーシッターはペ
ンデーサ、パルのベビー
シッターはポポである。し
かし、クレオにはベビー
シッターとなる個体が見ら
れなかった。
20
3.5-4
70
パン
ポポ
クロエ
アキラ
アイ
ペンデーサ
マリ
アユム
クレオ
クロエ
アイ
アキラ
ペンデーサ
アユム
レイコ
50
クレオ年齢(歳)
50
7歳5ヶ月
10
1-1.5
60
7歳4ヶ月
% 40
0
3.5-4
7歳3ヶ月
60
10
0
7歳2ヶ月
アユム年齢
クレオ
% 40
クロエ
クレオ
50
2.5-3
7歳1ヶ月
70
70
クロエ
アイ
アキラ
ペンデーサ
マリ
パン
ポポ
アユム
パル
60
2-2.5
7歳
80
80
1.5-2
20
アユム年齢(歳)
アユム年齢
80
1-1.5
アイ
ペンデーサ
アキラ
クロエ
クレオ
レイコ
30
10
10
0
40
%
▲西サンルーム
レオ群が暮らす
子どもたちのNNは観察当
初、母親となることがもっと
も多かった。しかし成長す
るにつれて、徐々に他個体
との接触も増加してきた。
60
70
60
京都大学霊長類研究所内の
2つのサンルーム
パル
パン
マリ
ポポ
プチ
ゴン
レイコ
プチ
ゴン
レオ
※親子の関係を囲って示した
観察場所
同年代の子どもたちと
すごす時間が増加す
る。
今回ポスターを作製するにあたり、岐大ポケットゼミナールグループが代々観察してきたビデオやデータを参考
にしました。この場を借りて、歴代のポケットゼミナール生にお礼申し上げます。
この半年間の観察結果を
見ると、クレオとパルのNN
は、いまだ母親となること
が多い。しかし、アユムは
様々な個体と接触している
ことがうかがえる。
このように、現在子どもた
ちは三者三様の発達をし
ている。
子どもたちのNNは、左の写真のように、成長
とともに変化していく様子がうかがえた。クレ
オにはベビーシッターが見られなかったが、こ
れはクロエに仲の良い個体がいなかったため
と思われる。
今回の調査では、はっきりとした変化は見るこ
とができなかった。
子どもたちは現在7歳である。今コドモ期を過
ごしている3人だが、今後ワカモノ期へと移行
していく。発達につれNNは変化していくと考え
られる。今後、継続して3人の発達的変化を観
察していきたい。