2008 年 8 月 28 日 担当:弁護士 田中 浩之 事件名: 「日めくりカレンダー用デジタル写真集」事件 法分野:著作権法 知的財産高等裁判所平成 20 年 6 月 23 日判決(平成 20 年(ネ)第 10008 号慰謝料請求控訴事件) 最高裁 HP http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080624101127.pdf 【事案の概要】 控訴人(一審原告)は、主に四季の風景や野花などを主題とした自然写真を作品として発表している写真家であり、 一方、被控訴人(一審被告)は、通信システム等の製造・販売等を業とする株式会社であって、インターネット上に 同社製造のiモード対応携帯電話利用者のための「@Fケータイ応援団」というサイト(以下「本件サイト」という。 ) を開設している。 控訴人は、平成 14 年までに、花の写真 365 枚につき、1 日 1 枚で 1 年分とする日めくりカレンダー用デジタル写真 集(花の写真の画像データを「File0001」から「File0365」までのファイル名〔拡張子を除く。 〕により保存したもの。 以下「本件写真集」という。 )を作成し、その著作権等を平成 15 年に至り、被控訴人に譲渡し、その対価として 273 万 7500 円の支払を受けたが、被控訴人はこれを携帯電話待受画面用の画像として平成 17 年 7 月までに週に 1 枚のみ を配信しただけであった。 本件は、控訴人が被控訴人に対し、被控訴人において各配信日に対応すべき写真を用いなかったことが編集著作物 である本件写真集の同一性保持権等を侵害するとして、 不法行為による損害賠償として慰謝料 273 万 7500 円とこれに 対する年 5 分(控訴審において、年 6 分から年 5 分に修正)の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審の東京地判平成 19 年 12 月 6 日は、上記花の写真が毎週 1 回の割合で更新して配信されることについて控訴人 は被控訴人に対して黙示の同意を与えていたなどとして請求を棄却した。そこで、上記判決に不服の控訴人が本件控 訴を提起した。 【争点】 (1) (2) (3) (4) 本件写真集は編集著作物(著作権法 12 条)に該当するか 上記配信行為は同一性保持権(著作権法 20 条)の侵害に当たるか 上記配信方法につき控訴人は明示又は黙示に同意していたか 上記配信行為は配列した順序に従って日めくりで各花の写真を配信・使用してもらうとの控訴人の有していた期 待権を侵害するものであるか 【判旨】(結論:控訴棄却) (1) 争点(1) ○結論:本件写真集は編集著作物(著作権法 12 条)に該当する。 ○理由 「著作権法 12 条は、編集著作物につき『編集物…でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、著作 物として保護する』と規定しているところ、 」 「控訴人が撮影した花の写真を 365 枚集めた画像データである本件写真 集は、1 枚 1 枚の写真がそれぞれに著作物であると同時に、その全体も 1 から 365 の番号が付されていて、自然写真 家としての豊富な経験を有する控訴人が季節・年中行事・花言葉等に照らして選択・配列したものであることが認め られるから、素材の選択及び配列において著作権法 12 条にいう創作性を有すると認めるのが相当であり、編集著作 物性を肯定すべきである。 」 (2) 争点(2) ○結論:上記配信行為は同一性保持権(著作権法 20 条)の侵害に当たらない。 ○理由 「著作権法 20 条は同一性保持権について規定し、第 1 項で『著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持す る権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする』と定めているところ、 」 「平 成 15 年 5 月 27 日ころまでに控訴人から本件写真集の個々の写真の著作物及び全体についての編集著作権の譲渡を受 けた被控訴人が、別紙 4 記載の各配信開始日に、概ね 7 枚に 1 枚の割合で、控訴人指定の応当日前後に(ただし、正 確に対応しているわけではない)配信しているものであって、いわば編集著作物たる本件写真集につき公衆送信の方 法によりその一部を使用しているものであり、その際に、控訴人から提供を受けた写真の内容に変更を加えたことは ないものである。そうすると、著作権法 20 条 1 項が「変更、切除その他の改変」と定めている以上、その文理的意 味からして、被控訴人の上記配信行為が本件写真集に対する控訴人の同一性保持権を侵害したと認めることはできな い。 」 2008 年 8 月 28 日 担当:弁護士 田中 浩之 (3) 争点(3) 判断の必要なしとした。 (4) 争点(4) ○結論:上記配信行為は控訴人の有していた期待権を侵害するものではない。 ○理由 「平成 15 年 1 月 20 日の控訴人とAとの面談の際、本件サイトの更新がその当時週 1 回であったことは既に控訴 人も認識していたところ、控訴人宛ての「注文書」 (乙 6)にも」 「本件写真集の花の画像の具体的な配信方法の記載 はない。 」 「本件写真集に関する著作権譲渡契約に関し、控訴人が配列した順序に従い毎日花の写真を変えて被控訴人 が配信するとの点について、その契約に関連する内容として上記注文書等に記載されていないことはもちろん」 「控訴 人においてそのような期待を抱くことが正当と認められるような事情も存しないというべきである。仮に控訴人が被 控訴人がそのような方法で使用(配信)することについて事実上の期待を内心において抱いたとしても、これを『期 待権』ないし何らかの法的保護に値すべき利益と認めることはできない。 」 【コメント】 原審(東京地判平成 19 年 12 月 6 日 最高裁HP)は、本件写真集の編集著作物性(争点 1)及び編集著作物の同 一性保持権侵害(争点 2)については判断せず、上記花の写真が毎週 1 回の割合で更新して配信されることについて 一審原告(控訴人)が一審被告(被控訴人)に対して黙示の同意を与えていた(争点 3)ことを理由として請求を棄 却した。これに対して、控訴審は、本件写真集の編集著作物性(争点 1)及び編集著作物の同一性保持権侵害(争点 2)という争点につき正面から判断して結論を導いた。 編集著作物の同一性保持権侵害がいかなる場合に成立するかは、明確でなく、本判決は、かかる争点について正面 から判断した事例判決として意義を有すると思われる。 【参考文献】 ○編集著作物の著作者の権利の及ぶ範囲が争点となった裁判例 ・ 「植民地朝鮮の日本人」事件第一審(東京地判平成 17 年 7 月 1 日 判時 1910 号 137 頁 ) ・ 「植民地朝鮮の日本人」事件控訴審(知財高判平成 17 年 11 月 21 日 最高裁HP)
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