アナグリフ画像の地学教材への応用の試み

都道府県名
群 馬
機関番号
10
ページ
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アナグリフ画像の地学教材への応用の試み
群馬県総合教育センター
指導主事
大島
1
修
はじめに
理科学習において、一般に補助教材と資料集やビデオ等の映像教材を利用する機会はとて
も多い。特に地学領域においては、大きなスケールの時間と空間を扱う内容が多く、頻繁に
補助教材を利用しているのが現状である。このような資料は写真などが多く、平面的に表現
され、立体的な物体や現象をとらえることが難しい。本研究では、地学領域において物体や
現象の立体的なイメージ化を図り、児童生徒の科学的な理解を支援し、科学的な見方や考え
方を向上させるために、アナグリフ画像の教材への応用を試みた。
2 立体画像の利用について
(1) 画像利用について
立体画像の地学領域は、天体などの大きな空間から鉱物や微化石などを扱うことが多い。
それらを児童生徒が見て、実際の物をイメージしていく。しかし、それら平面的な写真では
立体的にイメージすることのできない児童生徒も多く、科学的な理解や見方・考え方へ至ら
ないことがある。本研究は、立体感を持った教材資料画像として提示して、物体や現象など
の立体的イメージの向上を図る一方策である。
(2) 平行法と交差法による立体視の実践を通して
裸眼によ る立体視
には、平行 法と交差
法がある。 両者は右
図のような 方法で立
体視する。 しかし、
児童生徒に この方法
で実践した が、平行
法ができな い人が5
割近くに、 交差法が
できない人 が3割以
上に及んだ 。また、
大画面での平行法は理論上不可能であり、加えて、何回も見ていると頭が痛くなる児童生徒
があったことが、本研究のアナグリフ画像の利用につながった。
(3) アナグリフ画像による立体視の有効性
平行法や交差法での実践結果から、比較的身体に影響の少ないアナグリフ画像の利用を試
みた。アナグリフ画像とは、ステレオ撮影された2枚の写真を右に青、左に赤を強調した画
像にして、赤青メガネ(アナグリフメガネ)を通して見るものである。この方法によって、左
右の目が違った画像を見ることになり、立体的にとらえられることになる。そのためには、
赤青メガネが必要となってくる。
3 立体写真の撮り方とアナグリフ画像への処理
(1) 立体写真の撮り方
立体写真は、少し左右にズレた位置から2枚の写真を撮影すれば良い。つまり、2台のカ
メラを利用して撮影する方法や専用のステレオカメラにより撮影したり、1台のカメラを平
行移動して撮影する方法や図のようにレンズ付きフィルム(使い捨てカメラ)2台を使う方
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法がある。まず、同じカメラに2台を水平に固
定する。簡単な方法として、レンズ付きフィル
ムなどを2台ガムテープで並べて固定する。2
台のカメラの距離は、被写体までの距離の1/30
が理想とされているが、慣れないうちは気にす
ることはなく、8cm~16cmの範囲で適当である。
この間隔を広げると、遠近が誇張された写真になる。
次に2台が同じ方向を向くようにカメラを平行に固定する。そして、2台のカメラが水平
になるようにかまえて同時にシャッターを切る。
さらに、1台カメラの場合は、被写体に向けて撮影位置を平行に左右ずらして2コマ撮影
すれば、簡単にステレオ写真が撮れる。デジタルカメラが利用できると、コンピュータへの
読みとりなどの画像処理を簡略できる。
(2) 立体感の強調
空間的に大きな事象を観察・提示する場合、どうしても立体感に欠けてしまう。たとえば、
火山、河川、雲、天体など実際に現地で観察した場合、児童生徒は何となく立体感を感じる
ことができるが、それを写真としてみた場合には、多くの児童生徒が平面的なものとして理
解してしまう。
それには、あらかじめ立体感を強調した撮影方法が望まれる。つまり、2つのカメラの距
離を大きくとることである。立体感を出すためにカメラの間隔は、被写体までの最低距離の
1/20以上が必要である。つまり、100m先の被写体であれば2m以上必要となる。このよう
に2台のカメラの間隔を広げることで、立体感が強調される。実際には、2台のカメラを使
うことが困難なので、1台のカメラを移動させて同じ被写体を撮ることになる。
また、天体の場合はさらに難しく、月面地形などは同じ月齢で月の秤動を利用するしかな
いが、この方法は天体の動きを熟知した撮影技術が必要である。
(3) アナグリフ画像への変換
ステレオ撮影された
画像2枚をスキャナー
でコンピュータに取り
込む。アナグリフ画像
作成用ソフト「Anagly
ph Maker」(関谷隆司
氏: フリ ー ソフ ト) な
どで簡単に作成できる。
こ のソ フ トは 、『 ス
テレオeye.com』(http
://www.stereoeye.com
/software/)から、ダ
ウンロードできる。
このソフトで、読込め
る画像は、Bitmapまた
はJPEGである。また、
作成したアナグリフ画
像をBitmapまたはJPEG
にて保存できる。
操作は、ソフト画面上の「U」、「D」ボタンを押すことにより画像の上下のずれを、同様に「L」、
「R」ボタンを押すことにより、左右のずれを修正し画面を見ながら立体感を調整することが
できる。
(4) 赤青メガネの製作
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赤と 青の セ ロフ ァ
ン 紙 を用 意 し 、 右 の
図 の よう に 画 用 紙 で
型 紙 を作 り 、 右 目 に
青 、 左目 に 赤 の セ ロ
フ ァ ン紙 を 挟 む よ う
にして張り合わせる。
で き たメ ガ ネ は 写 真
のように使う。
4 作例
地学教材をアナグリフ画像で鑑賞させて、
児童生徒の立体的な事象の理解や見方や考
え方を向上させるには、現実では見られな
い事象やスケールの大きい時間や空間を要する事象への利用が効果的である。ここでは、作
例を紹介するがカラー印刷できないために、本報告書から立体的にとらえられないのが残念
である。
(1) 地震の震源地分布
近年 日本付近 で
起こっ た地震を 震
源地を もとに立 体
視でき るように し
たもの である。 震
源の分 布図の作 成
につい ては、香 川
県教育 センター 久
保静央 氏の報告 書
(平成10年度全理セ
地学部会研究発表
左:震源分布
上:利根川
収録)を参考にさせ
ていただいた。
(2) 河川の浸食地形
下:阿蘇カルデラ
河川の浸食作用は、河岸段丘や崖など立体的に特徴のあ
る地形に変えていく。本研究では、平面的な写真ではとら
えられない様子を強調した。立体感の強調は、3(2)を参
考にしてカメラの間隔を撮る。間隔については、数m以上
とり撮影する。
(3) 火山の形
火山には、カルデラや成層火山等特徴的な形がある。こ
れを立体的にとらえさせることは、科学的な思考への理解
を助ける。国土地理院からは、航空写真の有料提供があり、
標高データをもとに「カシミール」というフリーソフトで
立体視することができる。写真は『立体写真館kawagoe』
に紹介されている阿蘇火山のカルデラ地形である。
(4) 雲の高さと形
雲の形を立体的なとらえることは、形の理解だけでなく、発生する高さの違いの理解をと
らえることができ、雲形と高度との関係がつかみやすくなる。
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左:地上からの雲
右:上空からの雲
(5) 化石や鉱物
化石の撮影は、デジタルカメ
ラの接写モードで、また、鉱物
については、双眼実体顕微鏡の
で撮影した。化石については、
生体の凹凸の様子が、また鉱物
については立体的に鉱物の結晶
形をとらえることができるので、
名称の決定に役立つ。特に、輝
石、角閃石、磁鉄鉱など特徴が
よくとらえられる。
二枚貝の化石
角閃石
(6) 天体
天体については、彗星や流星以外は2枚のステレオ写真から立体画像を作ることはできな
い。彗星は、時間をおいて撮影した写真が必要である。また、流星については、地上距離が
500m~2kmほど離れた地点で2台のカメラをセットして、
同じ視野向けるという方法をとる。
太陽プロミネンスは、活動的なものを長時間観測して、太陽
の縁やダークフィラメントの観測から、部分的に前後を判断し
て画像処理によって立体視
に似せた画像を作る。また、
星座や星雲などは、あらか
じめ距離が分かっている恒
星で処理し、明るい恒星は
近い、暗い恒星は遠いとい
う一般論で画像処理をする
こととなるが、科学的に遠
近の根拠はない。
プレアデス星団
プロミネンス
5 授業等での利用と課題
理科の授業での直接の実践はしていないが、科学教室や天体教室等で活用してきた。まず、
赤青メガネの製作に小学校中学年で10~15分程度必要とし、その後にプレゼンテーション形
式でコンピュータよりスクリーンに投影して鑑賞させた。また、カラープリンターで印刷物
にいて掲示して鑑賞させた。多く児童生徒が驚きとともに立体感を把握することができた。
児童生徒からは、
「星には遠いのと近いのがあるんだ。」「流れ星は、星より近いところにあ
るのね。」「鉱物の結晶形がよく分かる。
」などという感想が多かった。
課題として、授業においては、感じ取った立体感から科学的根拠への説明も必要となろう。
また、赤青メガネを少なくとも学級分作っておくと効率よく授業が行える。
参考文献:オクユキのステレオ写真館 (http://www.ne.jp/asahi/okuyuki/stereo/)
立体写真館kawagoe (http://www2c.airnet.ne.jp/kawa/)
カシミール3Dのページ (http://www.kashmir3d.com/)
天文と科学のページ (http://www.sunfield.ne.jp/~oshima/)
(著者)