Das Weinrot 月刊“ワインレッド” Nr.0(創刊準備号) 編集責任者より挨拶 ∼発行開始にあたって∼ 編集責任者のヴォルフハルト・フォン・シュナイトより、まずは本紙を手にする紳士淑女の皆様方に挨拶を申し上 げる。おそらく今これを読んでおられる方々は、聖マチルド修道会ないし錬金術師フランソワ・ブレラ、あるいは〈英 仏友好ドーヴァー協会〉と呼ばれる組織に何らかの理由で協力する立場にあるはずである。しかし現在対立中の相手 であるジャン・クランは強大な〈黒〉であり、その協力者や影響力はフランス国内にとどまらず極めて広範囲に存在 している。彼に対抗するためには “我々”が一致団結して当たることは必要不可欠であり、そのためにはまず情報 の共有と一手先を読んだ行動が必要と考えて本紙を立ち上げた次第である。 本紙が読者の方々の活動の一助になれば幸いである。 A032301「閃光」 先月の活動結果報告 内容: ジャン・クランとイザベル・ロメ、及びその周囲の 人々の活動の様子。 主要登場NPC ・ジャン・クラン ・イザベル ・フランソワ・ブレラ(小柄な黒髪の男) 要約: オテル・ド・ブリュメールに滞在するジャンの元に 多くの人々が訪ねて来る。「双子座の印」やテンプル 騎士の幻についての話題が出るが、彼が〈黒〉になっ た事実については大恩ある人(おそらく“人形師”イ ゾルデ)に迷惑がかかるため口外できないのだという。 さらにジャンが協力者の一党に連れられてイフ島に 赴くと、小豆色の仮面の一団と共に撤退しようとして いるフランソワ・ブレラに遭遇する。「ジャンに仕え る振りをして自分は他の主人に奉仕していた」と語る ブレラをジャンは攻撃しようとするが(←このときジ ャンの右手が動いている)、振り切られマルセイユ方 面への逃亡を許す。 なおイザベル・ロメはオテルにて養生中。大きな動 きは無し。 重要事項抜粋: (1)テンプル騎士団の幻その1 ∼リアクション要約∼ 総括 全体として目立った動きはなく静かである。 大事件といえるものはトピックスの項目程度で、ジ ャン・クラン、ADR、聖マチルド修道院のいずれに 陣営についても重要な新事実の発覚や物品の発見はな い。ただしそれぞれにおいて過去の出来事についての 情報収集が進みつつあり、あと幾つかの鍵が姿を見せ れば全体がつながり一気に状況は動き出すだろう。 先月の最重要項目 「ワインレッド仮面の一団のADR襲撃」 目的は不明ながら、 「ジャン・クランの敵」とみな されているワインレッドの仮面をつけた一団がADR を襲撃し、グリモー社長に重傷を負わせた。これによ りADRの実権は一時的にバザン専務に移行。 また、この一団は他に電算機過去史研究室も襲撃し ていることから、そこにいたアデラ・ロメないし研究 室のデータのいずれかに用があったものと考えられる。 * ジャン・クランと対立する集団が、現時点でADR を襲撃する必然性は我々の知る限りでは存在しない。 以下の可能性に留意すべきだろう。 ・襲撃はADRの関係者の要請により行われた ・ADRには我々の知らない情報が隠されている 「この水晶に手を置いてくれればいいよぉ」 アデラは素直に従う。手の平で握れるほどの水晶球の上に軽 く手を乗せ、両眼を閉じた。霧森は、凝っと球の中心を見詰め る。最初に見えたのは、薄汚れた赤い十字架。そして徐々に、 1 他の色が浮かび上がってくる。 の?」 乱れた金髪が疲れた表情にかかる、1 人の騎士の姿だった。 ジャンは、首を振る。 彼は、腰の剣のほかに、マントの下になにかを背負っているよ 「私には、その騎士の姿は見えないのだ。 うだ。そして、彼のはるか彼方に姿を現したのは、3つ並んだ ……君もなにか質問があると言っていたな?」 ピラミッド…… 「フェリオンの怪我を自在に治せる人のことを知りたいの。や (編集者注記) 3つ並んだピラミッドは有名なギゼーにあるものと 考えられる。ちなみに3つのうちの一つは世界最大の クフ王のもの。王の墳墓であるピラミッドはそれ自体 がエジプトの神に捧げる祭壇であり、甦り(〈青〉に よる〈黒〉の〈赤〉化もある種の甦りと言えるか?) を願って建てられたものである。テンプル騎士団は第 5回前後の十字軍でエルサレム王の命令の下エジプト 付近に来た史実があるが、その際の行動の詳細は不明。 (2) 「恩義ある方」その1 っぱり、錬金術が関わっているの。それとも、あの、 【人形師】 イゾルデがっ、 」 ジャンの左手が、ビーデの唇を覆った。 「その名は、2度と、私の前では口に出さないでほしい。私は、 恩義あるかたを自分自身の騒動に巻き込むつもりはないのだ」 (編集者注記) 幻を見るのは〈赤〉だけという仮定が正しければ、 異端審問の時点ですでにジャン・クランは〈赤〉であ ったと考えられる。続いての言葉と、大量の少年少女 を虐殺したという前歴から考えると“人形師”イゾル デである可能性が高いが、現時点では予断は避けるべ き。また幻影についてだが、以下のような可能性が考 えられれる。詳細は別記する。 ・何らかの理由で〈黒〉と〈赤〉の見る幻影の内容に は異なる制限がかかる ・幻を見ることが可能なのは「ジャンの」血統限定で はなく彼の親〈黒〉やさらにその源流等、1000年 以上を生きたドレーガのものである (4)ジル・ド・レの領地調査 「〈黒〉になって良かったと思えるのは、こういう瞬間だな。 あのままのジル・ド・レで処刑されてしまっていれば、他人の 情をありがたいと思える瞬間は来なかっただろう」 「まさにそこなんだなぁ、僕がこだわるのは。自分がなぜ〈黒〉 になったのか、どうしても言いたくないのぉ」 ジャンは、一瞬だけ瞼を閉じた。 「申し訳ない。私1人の秘密ではすまぬのだ。恩義あるかたに 迷惑がかかるかも知れぬ」 (編集者注記) 次項に譲る。 (3)テンプル騎士団の幻その2及び「恩義ある方」 その2 ○アルノー・グリモー: 妻:ヨランド 息子:リシャール(長男 1439年死亡) 「私が、初めて双子座の印が記された遺跡の幻影を見たのは、 ジュール(次男) 異端審問で拷問を受けた時だ。気を失いかけて床に転がされて ↓ いた折、星座の形が瞼に浮かんだ。その時は、薄ぼんやりとし 以上3名、1440年に当地ティフォージュより失踪。 たものだった。だが〈黒〉となった後、それが双子座を表す印 「アルノー・グリモー……1440年に当地ティフォージュよ であること、その印が刻まれているのは、ほとんど中東の遺跡 り失踪……ティフォージュってジル・ド・レの領地だったし、 であることが自覚できるようになったのだ」 1440年は、彼が処刑されたことになってる年だよねぇ… 「それ、ジャンヌ・ダルクに関係あるのですか?」 …」 ユーリが問う。 (編集者注記) 最初に子供を攫い、さらにその親族をという形で時 間差があることから、後者をフェリオンの材料にした 可能性は極めて小さい。別の情報にグリモー、バザン 等の姓がADR(の母体組織)の創生期から記録に残 っているという事実があり、むしろ彼らはその設立に 関わった(関わらされた?)可能性がある。またその 際に何らかの形でイゾルデの関与があったことが考え られる。 (5)フランソワ・ブレラと「ジル・ド・レ」の会話 「ジャン君は、ジャンヌ・ダルクになにか負い目があるような 気がする。彼女を思い起こさせるものに対しての、ジャン君の 反応は異常だ。ここで、全部話してしまいなさい。そうする方 が、きっと楽になるはずだ。私が、一晩でも付き合おう」 ユーリは、すでに日本酒を杯に注ぎ、動かないジャンの右腕 を握った。 「さぁ、むこうの手でこれを取って」 だがジャンは、左手の平で杯を覆う。 「たしかに、双子座の印とそれを刻んだ遺跡が瞼に浮かぶのは、 ラ・ピュセルのことを強く考える時だ。実は、今もそれが見え 「もと元帥閣下、実にお懐かしい。ご壮健でなによりです。と、 る……あれは、トルコにある十字軍時代の遺跡だ……」 申し上げれば、ご満足いただけるのでしょうかねぇ? しかし、 「ジャン!」 『もと主人』という言葉は撤回していただけませんか。私は、 皐月の鋭い呼びかけに、ジャンは現実に戻ったようだ。ビー 貴方様にお仕えしている時も、実は、別のお方にご奉仕してい デが、後を引き取った。 たのですよ」 「その遺跡に、アデラ達が見ているテンプル騎士は居ない 「それは、あの〈黄金の朝〉の女か。英国軍の総司令官か? い 2 や、聞いても無駄だろうな」 りそうだ、という内容だった。 なんとジャンの右腕が動き、ムチの握りをつかむ。 (編集者注記) ケマル・アタチュルク(1881-1938)はトルコの近代 化と民主化を主導した人物で、トルコ共和国の初代大 統領。軍人上がりで、第一次世界大戦ではイギリス軍 のガリポリ上陸を阻止した功労者でもある。なお、ト ルコは東ローマ帝国の首都コンスタンチノープルを擁 する地であり、十字軍とは非常に縁が深い(主に悪縁) 。 ジャンの行動は「イギリス軍を潰す」か「対イギリ ス戦でトルコ領内の遺跡が破壊されることを防ぐ」の いずれかあるいは両方の理由によるものと推測される。 (3)過去の幻像 (編集者注記) 前にジャン・クランの右腕が動いた時にはルネ・ロ メが関わっていたが、今回のことからそれ(ロメ家が 関わること)が必須条件ではないことが判明。単純に ジャン・クランの感情が激した際に動くとも考えられ るが、真実は不明。 A032302 「闘いを見下ろす聖女」 内容: 聖マチルド修道院及び 〈英仏有効ドーヴァー協会〉 、 ジャンの過去や騎士の幻影の謎を調査する人々の様子。 また〈黒〉による修道院の強行調査とその迎撃。 主要登場NPC ・シスター・アランブルジュ ・フランソワ・ブレラ(小柄な黒髪の男) 要約: 聖マチルド修道院について調査が行われる。併設さ れた孤児院の子供たちは〈暗き赤〉ではないというこ と、また「絶対に外に出てこない」子供がいることが 判明するが、修道院自体はカルメル派所属という以外 は不明な点が多く、シスターについても2001年赴 任以前の前歴は不明。 〈英仏友好ドーヴァー協会〉は 18世紀設立の慈善団体で、現代表はサー・ジョン・ ベドフォード(ジャンヌダルクを火刑にした英国軍の 総指揮官と同名)。ADR英国支社長代行のウィンタ ー氏の従僕が事務局長を務めているもよう。 〈黒〉の女性が修道院の強行調査を行うが、修道院 内にいた〈黄金の朝〉により迎撃され撤退する。その 際に逃亡を手助けした少女が修道院に監禁された。 「私にも、いくつかの中東地域や、南欧と思われる地方の幻が 眼に浮かぶことがある。だが、私には、そのテンプル騎士の幻 は見えないのだ。その騎士の幻こそ、私と私の〈赤〉達との間 のミッシング・リンクなのかもしれない」 ジャン、あるいはジル・ド・レは、うそをついているように は見えなかった。 (編集者注記) 前記の通り。血統に伴う血液記憶が幻像が見える根 本原因であることは間違いがないが、「見る」ための 条件が複数あることも確かだろう。 (4)イゾルデの足跡 「あんた達かね、少年や少女の死体を集めていた黒い服の美少 女の話を聞きまわっているってのは?」 「そうよ。お婆さん、なにか知ってるの?」 「私が子供だった時分だから、大戦も終わり頃かね。灯火管制 が敷かれた時に声を立てると、大人達が叱ったもんさ。怖い、 黒服のお姉ちゃんがやってきて、おまえをさらっていって死体 にしてしまうよって」 花響に続けて、沙世子も畳みかける。 「その話に、ジル・ド・レは出てこなかったかい?」 「ジル・ド・レ? ああ、あの青髭公か。そんな話は知らない 重要事項抜粋: (1)大ゲーム よ。だいたい、黒服の娘がこのあたりをうろついていたっての 3人の頭上に、幼い声が降ってくる。 話だけどね)青髭公は、15Cの人じゃないか」 「ニコル・ブラック(−・−)参上だもん! 悪い魔法使い、 いろいろとやっかいなのが出てくるな」 (編集者注記) イゾルデの工房がフランスにあったと伝えられるが、 おそらく設立が1000年前の時点なのだろう。 (5)幻影の行方 そうつぶやき、プレラは雷の球を発射した。ニコルはすいと だが、サラディンの伝記の中のある一節が、瞳に飛び込んで 避ける。 きたのだ。 (編集者注記) 「今回の大ゲームは」という点に注目。彼は過去に 大ゲームを経験していると考えられる。 (2)ジャン・クランの足跡 「……しかし、サラディンがフランク人から解放した領土の中 「これも、そういう例かもしれないな」 当然のことながら、テンプル騎士団を名乗る連中も居たのであ ノアールは、1枚の古紙を見下ろす。ADRトルコ支社から る」 (ウサマ・アル・フラートの手記より) の報告書で、ジャン・クランが、トルコ共和国建国の父と言わ 「クラック・デ・シュヴァリエか」 れるケマル・アタチュルクと頻繁に連絡を取っていた時期があ 木村はつぶやく。そして、自分の声が耳に届くと同時に、あ は、千年くらい昔だそうだ。(まあ、どの道、子供だましのお 覚悟!」 「ちっ、今度は〈暗き赤〉か。今回の大ゲームは、さすがに、 に、クラック・デ・シュヴァリエは含まれていなかった。この、 フランク人どもが築いた堅固な砦は彼らの重要な拠点となって おり、フランクの騎士達が多く出入りしていた。その中には、 3 の金髪の騎士の幻がまたも視覚を襲うのを感じた。騎士は、馬 A032303 「終わりと始まり」 に乗り、要塞の城門に近付いている。だが、彼が門に到着する 行うのが常だったのです。近年では、そのほかにも、孤児院出 内容: ADR内部の動きと、深紅(ワインレッド)の仮面 の一団によるADR襲撃。 主要登場NPC ・ニコラ・グリモー(ADR社長) ・クロード・榊・バザン(専務) ・アデラ・ロメ ・仮面を付けた痩せた長身の男(襲撃者) 要約: ADR内部では、ADRの歴史の調査が進むと同時 に警備態勢の強化が行われる。だが、〈英仏友好ドー ヴァー協会〉との提携話の会議が行われている最中、 唐突に停電が発生し、同時に仮面の一団(多数の〈黄 金の朝〉+フェリオン)が二手に分かれて襲ってくる。 襲撃を受けた会議室では社長が重傷、電算室過去史研 究室は守りきるが電源回復直後にディスプレイに映っ た白髪の少女の顔を見てアデラが何かに導かれたよう な言葉を呟く。襲撃後、社長代行をバザン専務が務め この一件については箝口令が敷かれる。 重要事項抜粋: (1)専務の目的 身者の就職の斡旋など、多岐に渡った支援を行っております」 「では、専務があえて危険を犯してまで、得体の知れない団体〉 (編集者注記) フランス革命からナポレオン戦争にかけての時代の 設立であり、ジャン・クランがロメ家のスイス亡命等 の活動で忙しかった隙を見ての行動とも解釈できる。 (4)協会とADRの関わり ――聖マチルド修道院や〈英仏友好ドーヴァー協会のことです ウィンターが、社内電話の受話器を握った時だ。ドアがノッ 「聖マチルド修道院に関しては、不明朗な部分が大きいと判断 クされる。彼は受話器を下ろし、入れと叫んだ。 しています。それでも、あえてそのリスクを冒されるのですね」 ドアが開く。外に居たのは、痩せた、背の高い、50歳ほど 「あんなおんぼろ修道院などどうでもいいが、シスター・アラ の男だった。男は、深々と礼をする。 ンブルジュの人脈は重要だ。〈英仏友好ドーヴァー協会〉の経 「トマス、これを取りに来たのか?」 済力も大きい。私は、このADR本社の経営状態を劇的に改善 「はい、若様、お約束した時間でしたので」 する自信がある。 トマス、と呼ばれた男は、部屋の隅の梱包された包みを慎重 ……自分の趣味と思い込みに没頭して、給料もろくに妻に与 に抱え、また深く頭を下げて、出ていこうとした。ウィンター えず、妻の実家の援助で食いつないでいたような男の息子だと が、呼び止めて言う。 後ろ指を指されるのは、完璧に終わりにさせる」 「この社内では、『若様』は止めるようにと言ったはずだ。屋 「専務……専務のお父様って、ムースクトン主任の前任者でい 敷の外では、あくまでも、私はADR英国支社のジェフリー・ らっしゃいましたね?」 ウィンター、お前は、 〈英仏友好ドーヴァー協会〉の事務局長 榊・バザンの片頬が、ピクと動いた。「アントワーヌ・バザ だ」 ン。〈銀〉だとか〈青〉だとかの研究とやらで、一生を使いつ (編集者注記) ADR英国支社と協会の間のつながりは現在だけで はなく歴史的なものと考えられる。英国支社の好業績 の一因でもあるのだろう。 ぶした男だよ」 前に、鉄の扉が大きな音とともに閉ざされた…… (編集者注記) クラック・デ・シュヴァリエはヨハネ騎士団所有の 城砦。イスラム勢力の攻撃により1271年に陥落す るがこの時にはテンプル騎士団も防衛に加わっていた。 (6)協会の沿革 〈英仏友好ドーヴァー協会〉 ・設立:18世紀末。英仏の激しい経済競争が、往々にして戦 争にまで加熱するのを憂う上流階級や文化人達により、親睦を 深める目的で設立。大規模な活動は、第1次世界大戦から。 ・代表者:サー・ジョン・ベドフォード(スコットランド在住) ※英仏両国から、交互に代表者を選出することを会則にて明記。 ・活動状況:福祉全般、文化活動 活動資金は、初代会長ブライアン・ウィンターによる基金に 端を発し、現在は、会員からの年会費、使用目的を限定しない、 〈協会〉そのものへの寄付により運営。 ※政治的活動は極力排除することを会則にて明記。 …… 「聖マチルド修道院との関係ですが、設立当初のメンバーに、 当事の院長が名を連ねておられました。それで、経済的援助を が――と業務提携しようとなさっているのは、次、への布石な のですね」 「そうだ。今年末には、次の人事異動が固まる。私は、一専務 で終わるつもりはない」 (編集者注記) この時点ですでに専務が「シスター・アランブルジ ュの人脈云々」と言っていることに注目。もともと専 務はシスターの何たるかを知っていたことになる。 (2)ADRの歴史 まず第一に、ADR社の歴史について。さかのぼれる限りの 資料を漁り、ADRが現在の体制になるまでにどのような経緯 4 モー、ムースクトン、バザン、そして時折はロメという姓さえ アデラは「そうした方が良いような気がして」自ら ADRに入社した経緯がある。ジャンヌ・ダルクを排 出したロメ家の血筋の力によるものであろう。 (4)ルネの幻 あった。もちろん、ADRは「Alexa」傘下の会社だから、 「しかたがないですね。 一般社会には閉ざされている。 〈赤〉しか就職できないのは当 では、率直に窺います。ルネさんは、幻を見たことがありま 然だ。そうすれば、自然と職員達の姓も同じようなものになっ すか?」 てくるだろう。だが、仏本社に限っては、そのもとになった団 「ジル・ド・レが、年端も行かない子供たちの腹に短刀を突き 体の活動の1番古い記録である16Cのものからさえ、グリモ 立てて、悲鳴を上げる彼らの口を、部下達に押さえさせている ーという姓が現れる。 様子ならば、ね」 世界全体に目を広げれば、職員達の家系はもっと多彩のよう 冗談とも、本気とも取れる様子で、ルネが答えた。 だ。ちなみに日本の榊家がADRに加わったのは、第1次世界 「そうではなくて、金髪の騎士の幻です。白地に赤い十字架が 大戦の後らしい。 入ったマントを着ているんだけど、マントはずたずた、すごく 第二の関心事である〈銀〉に関しては、アントワーヌ・バザ 疲れている様子の騎士です」 ンが書き残した物に頼るしかなかった。 「はは∼ん、アデラになにか吹き込まれたな。昔、アデラもそ 「……古来の、神々と呼ばれた種族は、いったいどこへ行って んなことを言っていたよ。自分には、孤独そうな騎士の姿が見 しまったのだろう? えるって。その手の歴史小説の読み過ぎだと、僕は言ってやっ 彼らは、いつの間にか姿を消した。世の歴史家達は、それをキ たけど」 リスト教の出現のせいにする。しかし、キリスト教が及ばなか 「じゃあ、ルネさんはその騎士の幻は見たことがないんです った地域でも、『神々』の形跡は消えていく一方だ……〈銀〉 ね」 達は、いまもどこかに息を潜めているのか? 我々〈赤〉は、 「ないね。僕は、アデラのような夢想家じゃない」 彼らとどう接触を持てばいいのだろうか……」 ルネの態度から、ロゼは、自分にもその幻が見えるのだとい 古い紙に書かれた文字は、それだけ判読するのがやっとだっ うことは黙っておこうと判断した。 た。 (編集者注記) この項目については別記する。 (3)アデラの予言その1 (編集者注記) ルネ・ロメが幻を見ない理由は不明。単なる男女差 等の問題ではないと考えられる。 (5)アデラの予言その2と襲撃者の声 「ねぇアムリタ。 」 しかし、終わりは突然やって来た。とうとう、自家発電によ アデラは、自室のソファーで、自分と契約を結びたいと申し る明かりが点ったのだ。これで、外部との連絡も可能になる。 出たフェリオンと、むかい合っている。 社長は、SGS警備保障に連絡を取るだろう。それは、襲って 「あなた、このオテルの中に居る時には、かなりはっきりした きた連中もわかっているはずだ。電算室過去史研究室は、持ち 自我が保てるのよね?」 堪えたらしい。 「はい、そう感じます」 結藤が叫んだ。 しわがれた声で、アムリタは答える。 「パソコンのディスプレイを見ろ!」 「でも、オテルを出ると、段々なにも考えないで、ただ契約し そこには、白髪の少女の顔が薄ぼんやりと浮かんでいた。 てくれる人を探すようになる、そうじゃないかしら?」 少女は、どうやら口を動かしているようだ。だが、映像はぼ 「そうですねぇ、夜にオテルを出てみたことがありましたが、 やけて、唇の動きは読み取れない。 少しづつ自分がなにを考えているのかわからないし、そんなこ 「〈銀〉のエポナ……」 とはどうでもいいような気になっていきました」 そうつぶやいたのは、アデラの声だった。護已を除く全員が、 アデラは、アムリタの両手を握った。 彼女の方をふり返る。アデラの両眼は、宙をさまよっていた。 「だったら、あなたはやっぱり、早く契約相手を見つけた方が 「わかっています……行きましょう、あのテンプル騎士の跡を いいわ。私は、どうしても〈黄金の朝〉になる気にはなれない 探しに……」 の。これ以上、普通の人にない力を持つのは嫌だから」 「アデラ様、しっかりしてください。アデラ様!」 「どういうことでしょう」 ヴァルトラウテが、アデラを揺すぶる。護已が叫んだ。 を経てきたのかを確認していった。そして、注目に値すること を発見したのだ。 それは、一定の家系の名前が、繰り返し現れることだ。グリ 「時々襲ってくる、予感めいた感じのこと……私、近いうちに 「静かにしろ! 仕掛けた発信機の音が聞こえない!」 旅に出なければならないような気がする。あなたを、連れて行 今度は、全員が護已のパソコンの方をむく。立ち上げられた くことはできないのよ」 パソコンからは、男女の声が微かに聞こえてきた。 アムリタには、アデラの瞳に、金髪に白いマントをまとった 「なにもかも、中途半端だ。成果はほとんどない。プレラ達は 姿が映っているような気がした。 なにをしていたのだ?」 (編集者注記) 「思ったよりも、自家発電に仕掛けた装置を解除されるのが早 5 で、聞きたいことはもう1つ。あの〈黄金の朝〉の 女は、いったい何者なんだ?」 「それは、あの人自身から聞いてください。他人のつ らい過去を、一方的にしゃべるつもりはありませんの でね」 (編集者注記) 彼の言葉より、史実として「ジル・ド・レとフラン ソワ・プレラが組んで子供を犠牲にした」という事実 があったことはほぼ事実だと考えられる。 (2)シスター・アランブルジュの正体と目的 「シスターが予想している敵と、その戦力をまずお伺 いしたい。その者とは、どこまで戦えばいいのか。最 悪、殺害することまで考えているのだろうか?」 「殺害できるものなら、 殺害したいと思っております。 それこそが、その者に対して主が望んでおられる、贖 罪でしょう」 アランブルジュ院長は鈴を鳴らし、シスターの1人 を呼ぶ。そして、告げた。 「ブランシュと、潤間さん、レティシアさんを呼んで ください」 潤間とレティシアに続いて現れたのは、銀髪で、痩 せこけてはいるが氷で出来ているように美しい、1人 のフェリオンだった。 「改めて紹介しましょう。こちらはブランシュ、わた くしのフェリオンで、600年ほどをともにしてきた ものです」 (中略) 「ボクにはわかる。 ジル・ド・レ、だね?」 「そうです、レティシアさん。あの男は、かつて15 00人もの幼い、罪もない子供達を、自分の狂気の犠 牲にしました。そして、それ以上の数の人々の運命を 徹底的に狂わせたのです」 「殺された子供達の家族、ということかよ?」 アランブルジュは頷いた。 (編集者注記) 解説は不要だろう。ただこの発言により、ジャン・ クランが敵対していた〈ワインレッドの女〉がシスタ ー・アランブルジュ個人であり、たとえば同一組織の 別人物が代替わりしてで現れたものではないことはほ ぼ確定されたと考えて良い。 ただそうすると順番の問題が出てくる。彼女はジャ ン・クランを倒すべき理由を彼(ジル・ド・レ)の凶 行においているが、彼女は彼が凶行に走る前からすで に彼およびジャンヌ・ダルクと敵対していたことに注 意すべきだろう。 「運命を狂わせた」件については別の記事で述べる。 かったですわね。それも、原因の1つでしょう。でも、まった くなんの成果もなかったわけではないようですね」 「……あの男は邪魔だ。そう思わんか?」 一同は、息を呑む。だが、そこでプツンと音が途切れた。発 信機の存在が気付かれたらしい。 (編集者注記) 侵入者は社長他の幹部がいる会議室と、電算機過去 史研究室を狙っていた。前者は(おそらく専務の依頼 で)社長を狙ったものと思われるが、後者の目標がア デラ・ロメか研究室の記録であるのかは不明。またこ の〈銀〉なる人物が聖マチルド修道院側の人物である か否かは確認が必要。 A032304「何が彼女をそうさせるのか」 内容: 聖マチルド修道院でのシスターと協力者の会話、及 び襲撃のもよう。 主要登場NPC ・シスター・アランブルジュ ・フランソワ・ブレラ 要約: シスター自身、あるいはフランソワ・プレラの呼び かけに応じて集まった面々に対して、シスター・アラ ンブルジュは自らが〈黄金の朝〉であり少女ブランシ ェがフェリオンであることを明かす。 そこへジャン・クランに命じられた〈黒〉の女性が 強行調査に乱入し、戦闘が発生するが決着はつかず女 性は逃亡する。逃亡を手助けした女性は修道院を手伝 いに来ていたシスター(PC)だったが、利敵行為の かどでシスター・アランブルジュに「一生この修道院 にいてもらう」と宣言された。 重要事項抜粋: (1)プレラとジャン 「オマエさ、自分がジャン・クラン、いやジル・ド・ レに錬金術だの黒魔術だのを教え込んだんだろ? そ のオマエが、なんだって、弟子でもあるアイツを敵視 すんだよ? やつが幼児虐殺の罪で異端審問にかけら れ、今じゃ青髭公とまで言われるようになったのは、 オマエにも責任があるだろーがよ?」 プレラは、唇を皮肉にゆがめた。 「ジル・ド・レ閣下は、ジャンヌ・ダルクの後を追い たかったのですよ。聖女と信じていた彼女が、魔女と して火炙りにされた。だから、自分も、彼女と同じよ うにして死にたいと願い、ほとんど狂ったような状態 でした。私は、閣下の心のそこにある願いをかなえて 差し上げただけです」 「ふ∼ん。俺なんかには、よくわからない理屈だな。 6 〈赤〉と幻影 あるいは〈赤〉である理由 ジャン・クランの周囲で活動する者たちの間で、 しばしば十字軍騎士の幻影の目撃談が話題となっ ている。テンプル騎士団の所属と思われるこの騎 士の幻影は、ジャン・クランの〈赤〉であるロメ 家の者たちとの接触で見られる場合や、十字軍の 本拠地であったエルサレム近辺で目撃される場合 など、状況はかなり多岐にわたっている。現在知 られている限りでは、これらの幻影を目撃するの は〈赤〉に限られているらしい……では〈赤〉は なぜ幻影を見るのか? その問いに答えるためには、まずはじめに“〈赤〉 とは何か?”という疑問に答える必要がある。 「〈黒〉に愛される者」 「先祖の誰かが〈黒〉に愛された者」 Alexaの一般資料(注:スターティングマ ニュアル)にはだいたいこのように書かれている。 これだけ見ると〈黒〉との精神的つながりの有無 が〈赤〉の条件と見えなくも無い。だがその一方 で以下のような記述もある。 「自らが〈赤〉であることを知らずに一生を過ご す者もいる」 つまり双方向の精神的なつながりの有無は〈赤〉 が〈赤〉たる必須条件ではないのだ。だが「〈黒〉 の片思い」でもいいとするなら〈黒〉は自身の〈赤〉 を好き勝手に決められることになる……これは事 実に反する。 では問おう。いかなる要素が〈赤〉であるか否 かを決めるのか。その決定条件とは何か? ……これはあくまでも私見だが、その問いへの 回答は“〈黒〉の血脈であること” 、すなわち〈黒〉 と血のつながりを持つことだと考える。「〈黒〉に 愛される」という表現は、この場合は肉体的な接 触の婉曲的表現と解釈すべきだろう。すなわち当 人ないしその先祖が〈黒〉に血を吸われたとき、 その者は〈赤〉となると考えられる。 理由として以下に二つの仮説を挙げる。 (1) 〈赤〉の〈黒〉化 ∼物理的解釈∼ 血を取り込むには肉体的な接触を伴う。要する に「牙を相手の体に突き立てる」という現象を必 ず伴う。だが、この接触が単なる一方通行とは限 らない。唾液、汗などの体液。皮膚表面の微小な 出血、それら〈黒〉の中にある何かが傷口を通し て相手に流れ込 み、対象者はごくごくわずかに 〈黒〉に染められる。すなわち血を吸った〈黒〉 の血脈に連なる者となる。親から(広義の意味で) 血を受け継いだ子孫も、わずかながらに〈赤〉と しての形質を残す……代を重ねて事実上消え去っ ていくのか、あるいはさらなる〈黒〉との接触に よって「血の濃さを増す」のかは場合によるだろ うが。繁殖を試みる際に自らの〈赤〉を対象にす る場合の成功率が高いのも、言わば〈黒〉の血に 対する免疫が出来ているからだろう。 (2) 〈黒〉の〈赤〉化 ∼精神的魔術的解釈∼ 〈赤〉の血を取り込むということは、血液記憶 という〈黒〉の特性を考えれば、吸われた〈赤〉 の記憶と人格の一部を共有するこということでも ある。吸った〈黒〉は吸われた〈赤〉に近しい存 在となり、両者の間には血を介して超自然的な精 神的なつながりが生まれる。契約によりフェリオ ンの黄金の血を体内に取り入れた者が〈黄金の朝〉 となり、フェリオンと同行する限り(精神的つな がりを持ちつづける限り)超常的な力を持つこと と合わせ鏡の現象と言える。言わば共鳴ともいえ るこの現象は血液を介してつながるため、“親から 血を受け継いだ”その子供にも〈赤〉たる資格が 宿る。 以上の前提において。 幻影は特定の〈黒〉の血脈に属する〈赤〉に見 えるものだと推測する。 ジャン・クランの〈赤〉以外の者にも幻影が見 える点についてはむしろ当然の現象と言える。血 のつながりは〈赤〉と〈黒〉だけのものにあらず、 〈黒〉とそれを染めた〈黒〉の間にもある。ジャ ン・クランが600年以下の歳月しか経ていない のであれば、 「原因」は当然それ以前の「血」の中 に存在することになる。彼を染めた〈黒〉ないし さらにその源流の〈黒〉の血脈に連なることが幻 影を見るための要因だとすれば、幻影を目撃でき る血統は複数にわたるだろう。候補としては10 00年以上を生きたことが確実な〈黒〉、たとえば “殉教者”“イゾルデ”、あるいは“漆黒”という ことも考えられる。 ただこの説の難点は、 「同じ血を受け継いでいる はずのジャン・クランはなぜその幻影を見ないの か」という点にある。今のところ、 (1) 〈黒〉には〈赤〉とは別の何らかの条件が必 要 (2)右腕に他者の腕を抱え込んでいる(らしい) 彼にはその干渉がある 現時点ではこの程度の推測しかないが、さらな る情報が待たれるところである。 (終) 7 ジャン・クランの正体に関する謎あるいは単なる覚え書き オテル・ド・ブリュメール、マルセイユ支店の別館に居を構え、ジャン・クランの名で知られる強大な〈黒〉 は、フランス史と犯罪史上に名を残す “青髭”ジル・ド・レではないかと言われている。しかし各種の情報を 総合すると「必ずしも」と思える部分もある。ここでは、彼の正体に関する情報を簡単にまとめてみた。 「ジャン・クラン=ジル・ド・レ説」肯定材料: (1)証言 ・ジャン・クラン当人(リアクション02回より) ・フランソワ・ブレラ(リアクション03回より) ・シスター・アランブルジュ(リアクション03 回04より) (2)ロメ家の伝説 ジル・ド・レ火刑の年である1440年にジャ ン・クランと名乗る男が現われ云々。ルネ・ロメ の説明による。 (リアクション01回01より) ▼赤い縁を持つ白い薔薇「チューダー・ローズ」(左) と現英国王家(チューダー朝)の紋章(右) 検討時の注意点: (1) 〈黒〉の特性 〈黒〉は記憶の保存を血液に負っている。故に 彼らは個体としての記憶を血液の移動によって移 し変える――すなわち、命を移し変えることが可 能な存在なのである。平たく言えば、 〈黒〉である ジャン・クランは“ジル・ド・レの血液(記憶) を受け継いだ何者か”でも有り得るということだ。 (2)動かない右腕 ジャン・クランは自身の右腕から血を飲んでい る、と伝えられている(初期情報より)。吸血行為 は自らの記憶中毒症状を癒すために行うものとさ れており、自身の血を飲んでも症状は緩和されな いはずである。この矛盾を説明するためには、例 えば以下のような仮説が考えられる。 ・彼の右腕には何らかの魔術的・錬金術的加工が 為されており、それにより右腕を流れる血液は記 憶中毒を癒す効果をもつ ・彼の右腕は別人のものである 前者は日本のオペラ座の歌姫マリエ嬢の声に記 憶中毒を癒す効果が確認されている例があり、そ れと類似の特殊な技術が右腕に使用されているの ではないかという考え方だ。 後者はある意味前者に近いが、別人の腕を接合 し使用する技術があるとすれば、それは魔術的な 意味合いにおいては「他人のもの(他人の血液を 宿したもの) 」ともなり得る 「ジャン・クラン=ジル・ド・レ説」否定材料: (1)紋章 ジャン・クランは紅白の薔薇を自身の紋章とし て使用している(リアクション01回、世話役の 女性へのメッセージカードや、02∼03回の贈 り物のペンダントの意匠など)。だが薔薇は英国の 国花であり、紅白の薔薇は英国王家の紋章の中に も含まれている(チューダー・ローズ)。これは百 年戦争直後に英国で発生した薔薇戦争(王家の後 継ぎを巡っての内戦。各陣営の主力の家の紋章が それぞれ紅薔薇と白薔薇だった)の終結後に両者 の和解の印として組み入れられたものだが、これ をジャン・クランが身につけているのは「何より も英国がお嫌い(イザベル談)」の彼の行動として は理解しがたい。 (2)年齢 1931年 ジャンヌ・ダルク処刑 27歳 (史実のジル・ド・レの年齢↑) 1934年 ジル領地に引きこもり 30歳 1938年 ジル邪悪な実験開始 31歳 1940年 ジル・ド・レ処刑 36歳 ジャン・クランが「異端審問で拷問を受け、幻 影を見た」(その時は〈赤〉でありまだ〈黒〉では なかったと推測される)と言うのが真実であれば、 〈黒〉になったのは処刑直前の三十路半ばのはず である。しかし彼は外見上は二十代半ばの青年で ある。もちろん外見と実年齢が異なることなど珍 しくも無いが、留意事項とすべきだろう。 以上の話は仮定の上に仮定を重ねたものであり、 何ら確たる証拠を持たないものだ。さらなる情報 が待たれるところである。 (終) 8 ヴォルフハルトの資料室 ∼600年前に何が起きたか?∼ −ADRの成り立ち編− (簡易年表) 1429年 ジャンヌ・ダルク、王太子軍へ。ジル・ド・レと共に英国の手先「ワインレッドの女」と戦う。 1431年 ジャンヌ・ダルク異端審問で有罪とされる。火刑 1438年 ジル・ド・レ、フランソワ・プレラと組み、錬金術と魔術の実験に走り領地内の子供を誘拐 する 1440年 ジル・ド・レ火刑(正史) 。ジャン・クラン出現 ロメ家、危機的状況に瀕する(ジャンの言葉) ジャン・クラン、ロメ家の人々の前に出現 ジル・ド・レに誘拐されていた子供の家族、大量失踪 行方不明の一家の中に“グリモー”の名あり。 1450年 ジャンヌ・ダルク復権裁判。ロメ家の名誉回復 ・ ・ 1500年∼ ADRの前身組織、活動開始 構成人員の名の中に“グリモー” “バザン” “ムースクトン” “ロメ”等の名が散見される [考察] 気になるのは、名称不明のADRの前身組織の 構成人員に、現在のADR幹部に連なる家系の名 が含まれている点だ。そして失踪した人々のリス トの中には、現ADR社長のグリモー氏の先祖ら しき名があるという。さらにシスターがジャンを 糾弾する言葉、「あの男は、かつて1500人もの 幼い、罪もない子供たちを、自分の狂気の犠牲に しました。そして、それ以上の数の人々の運命を 徹底的に狂わせたのです」。 彼女がジャン・クランを「悪魔」、その同盟者の 〈黒〉を「悪魔の使い」と断じることを考えれば 一つの仮説が浮かび上がる――失踪した家族は、 ADRの活動が始まるまでの約半世紀の間に、ジ ャン及びその協 力者によっておそらく強制的に 〈赤〉にされたということだ。 (根拠1) 〈黒〉に嫌悪を持つ彼女にとって、〈赤〉にされ るというのは「悪魔の奴隷にされる」と解釈でき る。彼女にとってみれば〈赤〉にされること以上 に人生を狂わされることなどないと推測される。 (根拠2) ADRの前身組織がADRになった、つまり「A lexa」に問題なく加盟できたということは、 加盟する前から〈赤〉が大半を占める組織だった と考えられる。幹部の家系の名が見られることか ら考えてもこれは確実だろう。 [推測] では、ADRが「Alexa」に加入する前の 目的とは何だったのか? 明確な根拠はないが、 「〈青〉の探索」 「聖杯の探 索」のいずれかが正解と見る。いずれも〈赤〉と 〈黒〉をつなぐ鍵であり、おそらくは彼らを〈赤〉 にした〈黒〉もそれに関わっていたはずだ。もし 彼らが強制的に〈黒〉にされたということであれ ば、〈青〉の探索(あるいは研究)は悲願であった だろう。また理由不明の日本支社を除けば、業績 の良い支社はすべて聖杯に絡んだ地に存在する。 いずれが正解であるかについては、今後の情報を 待ちたい。 ・イスラエル支社……一神教(ユダヤ、キリスト、 イスラム教)の聖地にして、聖杯誕生の地。 ・英国支社……信徒アリマタヤのヤセフの手によ り、聖杯が英国に持ち込まれたとの伝説あり。ま たアーサー王伝説の中心テーマともなっている。 ・西ドイツ支社……比較的関連性は薄いが、ワグ ナーが聖杯伝説を題材にした歌劇を創作したこと で内外の関心を集め、第三帝国時代にはヒトラー 総統の命により聖杯探索が行われている。 (終) 9 聖マチルド修道院の秘密 その1 ∼キリスト教組織としての考察∼ 図らずも「聖マチルド修道院側」に立って強大な〈黒〉であるジャン・クランと対立することになった我々 だが、実のところその代表らしきシスター・アランブルジュやその配下の〈黄金の朝〉の一団の正体と目的に ついてはほとんどわかっていない。この記事では、現時点(第3回)までに判明している事実を元に彼女らの 目的について考察していく。 聖マチルド修道院はキリスト教的組織である。 皆当然のように見過ごしているが、実はこれは かなり重要なことだ。小説『吸血鬼ドラキュラ』 の中で描かれた吸血鬼は十字架を恐れ聖餅(司祭 に祝福され“キリストの肉”となったパン)によ り火傷を負ったが、少なくとも〈黒〉はそのよう なキリスト教的な禁忌は持っていない。必ずしも 万人が納得する形の反キリスト的な怪物とは言え ないのだ。つまり僧籍にあるからといって〈黒〉 を敵視する必然的な理由はない。 では修道院はただの隠れ蓑で実態は野伏部隊の ような武闘派組織なのかというと、むしろ逆で「『狂 信徒』と『戻り異端』が野合した宗教的過激派集 団ではないか」というのが筆者の推測だ。 その根拠としては、まず彼女とその一党のつけ る仮面とマントの色が挙げられる。ワインレッド と言っても非キリスト教徒には何のことやら不明 だろうが、これは最後の晩餐でキリストが葡萄酒 の入った杯を掲げ「見よ、これが私の血である」 と告げた故事が由来と見ていい。すなわち彼らは 活動にあたり、聖なるキリストの血の色をまとう のだ。 らうことなく悪魔呼ばわりしているあたり、その 思考と行動の論理がキリスト教のそれに支配され ていることは間違いないだろう。 「だからがどうした?」と言う者もいるだろうが、 よく考えて欲しい。 そのガチガチの信者 たる彼女が、ジル・ド・ レと共に1500人の子供を殺したフランソ ワ・プレラと組んでいるのである。 この矛盾と言うも愚かな呉越同舟状態が彼女の 中でどう消化されているのかは不明だが、こうい う人物は得てして狂信的になるものである。 「この世に邪悪と悲惨をもたらす悪魔を倒す ためとあらば、一度は禁断の魔術に手を染め た者とでも手を組み、悪魔に誑かされた人々 を傷つけることもあえて辞さない。いやもし 望んで悪魔に協力しているのであれば、それ は悪魔と同罪である」 こう決意した善良な狂信者ほど怖いものはない。 「悪魔の手先」の〈黒〉の逃走に協力したマリア・ フェリシア・リヴィエ嬢に対する人権無視の扱い を見ればわかろうというものである。 一方のフランソワ・プレラだが、彼が善良なる キリスト教徒になったとはつくづく思いがたい。 現に閏間潤氏の質問に対し、過去の幼児殺しの件 については「閣下の心の底の願いを叶えてあげた だけ」とあっさり言い切っており、改悛の色はま ったく見られない――少なくとも人命を弄ぶこと についての禁忌があるとは思えない。おそらく腕 のいい錬金術師としてフェリオンの修理や調整を 担当していると思われるのだが、それならば彼の 本当の目的は知的好奇心の充足か、あるいは他の 主人への忠誠かのいずれかであろう。ただしシス ターの手前、キリスト教徒としての最低限の規範 だけは守っているものと考えられる。本当はキリ スト教では魔術は原則的に禁止されているのだが。 (聖書にそう書いてある。申命記とかヨハネの黙 示録とかを参照) ▲カトリックのミサや一 部のプロテスタント宗派 の儀礼では、祝福を受け た葡萄酒とパンは霊的に キリストの血と肉と同質 のものとなるとされる。 これを信者の同胞と分け 合う儀式を「聖体拝領」 という シスター・アランブルジュにしても、普段の行 動については疑う余地も無く敬虔なシスターのそ れである。現代では珍しくなった完全に全身を覆 う形の修道衣を着用し、ことあるごとに十字を切 り(キリスト教徒にとっての一番簡単な厄払い兼 神への感謝と祈りを表す動作)神への感謝を口に している。また〈黒〉たるジャン・クランをため 10 つまるところ。 聖マチルド修道院の組織としての実体について は、過激なイスラム原理主義過激派組織、いわゆ る『武装勢力』と同類項だとみなせる。少なくと も以下の点についてはほぼ確実に共通している。 ・根っこにあるのは宗教的信条 ・しかし実際に構成員を行動に駆り立てるのは個 人的な怨恨 ・同胞以外(キリスト教徒以外)に対する差別意 識が少なからずあり ・大義を果たすためであれば、多少の疑わしい力 とは妥協して手を組む(修道院の場合、フェリオ ンの利用。イスラム原理主義者の場合は「イスラ ム法に必ずしも則っていない者の手で造られた近 代的兵器」 ) 敬遠する必要はまったくないが、いざという状 況で彼らがこのような顔を露わにする可能性があ る点については、注意すべきであろう。 (終) ********************** 参考情報 (1)カルメル会について 聖マチルド修道院が属するカルメル会(厳修カ ルメル会)は厳しい規律で知られる修道会の一会 派。街中に出て奉仕活動に勤しむことよりも、ひ たすら厳しい規律に従い祈りに没頭することで神 の本質に近づくことを尊しとする傾向が強い。 要は、現実の風潮と妥協しない会派である。 (2)聖女マチルドの正体 シスターは修道院の壁画を指して「聖マチルド の『折伏』」と呼んだ。聖女による悪魔退治……と いうのはマルセイユ近くでも聖女マルタの悪竜タ ラスク退治の伝説などがあり、別に違和感はない。 しかし「折伏」の語義は「力によって正道に立ち 返らせること」であり、「退治」ではない。青服の 聖女が竜の背に乗った「赤い顔の」悪魔を「折伏」 したという伝説は、「〈青〉が竜を意味する何かに 関連した〈黒〉を〈赤〉に立ち戻らせた」と解釈 できる。 ところで《殉教者》は〈黒〉の間で名前が挙が っている「トランシルヴァニア公」と同一人物で はないかという説がある。 トランシルヴァニア公=ドラキュラ伯爵=「竜の 息子」 という図式が仮に成立するのであれば、これは 《殉教者》の血族の〈黒〉を聖女が〈赤〉に戻し たということになる。近年、〈黒〉のマルシアの家 系に生まれた〈青〉を巡り《殉教者》とイゾルデ の間で抗争が発生したとの話がある。600年前 ないし1000年前にも類似の事件が発生してい た可能性が考えられる。 プレイヤー注: 要するに、彼らには日本人的常識は通用しない 場合があるので注意しなさいということだ。厳し い宗教倫理に心底身を捧げ、他の存在を認めない レベルに達したキリスト“狂”徒には日本人の甘 っちょろい倫理観などまったく通用しない。特に 「人の命は地球よりも重い」とか「戒 律より人命優先」などと言い出すとその瞬 間に敵視されることは間違いない。 良くて「使えねー半端者」、悪ければ「悪魔と妥 協する人種」と見なされるのが関の山である。ま して価値観が多様化したこの時代において心底敬 虔な信者をやっている者は、同胞(となり得る者) には限りなく慈悲深いが“敵”には冷酷無比に対 するのが相場だ。 キリスト教にはキリスト教なりの価値観と論理 的思考があり、彼らに味方をする以上はそれを理 解して尊重すべきなのだ……現実世界でも、虚構 世界でも。あとから「知らなかった」とか「それ は差別だ」とか言っても始まらない。まあ流石に マスターもプレイヤーの知識レベルを勘案してそ れなりに甘く扱ってくれるとは思うが、アクショ ンをかける際には気をつけるにこしたことはない だろう。 それから一つ忠告。女性PCが修道院に出入り するときは、必ず肌の露出を避けて袖のある服を 着用すること。できれば帽子やベールで髪を隠す となお良し。現実世界でもこの制限を知らずに、 聖堂から締め出しをくらう無知な観光客は少なく ないのだから。 ちなみにこれは「女性が髪や肌を剥き出しにす ることは、男性を誘惑することにつながる」とい う考え方によるもので、厳格な信徒は今でもこの 戒律をきっちり守る(夏でもだ)。“厳格なキリス ト教徒”というのはそういう人種なのだ。 ▲修道女、いわゆる尼さんの前身を布で覆ったこの姿は 別に格好つけのためではない。男性を誘惑する/される ことなく貞潔を守り信仰に生きる決意の証なのだ 11 プライベートリアクション小説 『聖杯探索偽譚』 序章「600年」 界の距離を縮め多様な価値観を良しとする現代までを生 き抜いてきた女は、いかなる魂を持っているのだろうか。 少なからぬ〈黒〉が邪悪化への道を歩むというその年月 を、何を想いながら過ごしてきたのだろうか。 「まずは彼女の信頼を得ることだ。全ての問いはそれか らでいい」 自分に言い聞かせるように呟き、決然と頭を上げる。 出発の身支度をと考えてのために腰を浮かしかけたとこ ろで、ヴォルフハルトはふと今一度窓の外を見やった。 闇の向こうのどこか遠くで、誰かの笑い声が聞こえた ような気がした。 (終) 「ヴォルフハルト様、ヴォルフハルト様」 背中からかけられた声に気づいて、ヴォルフハルト・ フォン・シュナイトは物思いから目覚めた。頬杖を解い て背筋を伸ばし、もやもやを振り払うように軽く頭を振 って顔を上げる。すでに向こう側が暗くなった窓硝子の おもてに、小柄な修道女の姿が浮かび上がっていた。 宵闇の中に浮かんだ少女は大きな瞳を鏡越しに青年に 向けて、揶揄するような調子で告げた。 「そろそろ、聖マチルド修道院に向かうご予定の時間で すが……ヴォルフハルト様にしては珍しいですね、声を かけられても気がつかないなんて」 「まあな。少し考え事をしていた」 青年はぞんざいに答えると納まりの悪い黒髪を後ろに かきあげ、椅子を回して少女に向き直った。値踏みをす るように少女の全身を見回す。 「その修道院の院長のことだ。シスター・アランブルジ ュ。俺の推測が間違っていなければ、彼女こそが“乙女” ジャンヌと戦ったという女性だろう。それから現代に至 るまで約600年……」 宝石めいた青い瞳に視線を合わせ、その奥をのぞき込 もうとするように見つめる。 「君の生きてきた時間の2倍だ。自分を知る者が次々に 死んでいくのを見ながらそれだけの時を歩むというのは、 いったいどんな気持ちだ?」 ルルド・アオサガ――少女の姿のままで300年の時 を経た美しい人形は、修道尼の古風な頭巾に覆われた頭 を少し傾げるようにして答えた。 「この世の栄華はただ神の見る夢、一瞬も永遠も等しく 神の時に過ぎず、それは神の恩寵を信じる者にとっても また同じ――とでも申し上げれば満足していただけるで しょうか?」 邪気のない笑みを浮かべ諭すように言い添える。 「目的に向かってたゆまず歩み続ける者にとっては一年 の時も十年もさほど変わりませんもの。別れは新たな出 会いのための儀式でもあります。多分、その院長様も同 じではないでしょうか」 「……そうか。変なことを聞いて済まなかったな」 「いえお気になさらず。お出かけの用意ができましたら 声をおかけ下さい」 では、とスカートの裾を軽くつまむ古風な礼をとって 踵を返した少女の後ろ姿をしばし見送り、ヴォルフハル トは小さく溜息をついた。 600年。その十分の一すら生きていない身にとって は想像だにしかねる長い長い年月。人々が日の出と共に 起きて働き白いキリストの恩寵を疑いもしなかった遙か な時代から、人類が大宇宙に飛び立ちネットワークが世 終わりに ∼発行責任者より挨拶∼ はじめまして、もしくはこんにちは。ヴォルフハルト・フォ ン・シュナイトのプレイヤーで本紙の発行責任者の山田整と申 します。まずは本紙を手にとって下さったことに感謝致します。 現在、下名のPCが参加しております「露木えびねシナリオ」 は最近のネットゲーム(メイルゲーム)では珍しい情報重視型 のシナリオです。リアクションや情報誌で提示される情報以外 にも、史実やトンデモ系のネタが虚実取り混ぜて取り込まれて おり、謎解き的な楽しみ方をすることと推測に基づく一歩先を 行くアクションが可能な構造になっています(と思います) 。 そのような状況下で、シナリオ内での実質的な少数派、しか もおそらく悪役側であろう「聖マチルド修道院側」のPCが少 しでも活躍できるように各種の情報をまとめてみました。皆様 のお役に立てれば幸いです。またプレイヤーあるいはキャラク ターとして、取り上げて欲しいネタや読みたい記事の希望、自 分のPC紹介掲載要望、あるいはプラリア出演要望などがあり ましたら是非ともお寄せ下さい。 ☆ それから最後に一つ。今回のシナリオの内容がキリスト教の 神話・伝説・歴史・文化に深く関わっているため、記事の中で も宗教的な事項について多々言及しています。しかし発行責任 者たる下名は現時点ではいかなる明確な信仰も持たず、また特 定の宗教組織にも加入していないことをお断りしておきます。 もちろん偏った知識に基づく偏見は多々ありますが特に悪意は ないので、読んでいてお気に障った事項等ありましたら遠慮無 くその旨お伝え頂けると助かります。 最後になりましたが、読者の皆様およびそのキャラクターの 方々のご健康とご活躍をお祈りさせていただきます。皆が等し く『Blood Opera』を楽しめますように……。 編集責任者:ヴォルフハルト・フォン・シュナイト 発行責任者:山田整(やまだ・ただし) 連絡先:〒229-1117 神奈川県相模原市小町通 1-7-18 三菱重工小町寮 319 電子メール:[email protected] 12
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