高校社会科での実践から考える平和教育の課題

2010.2.27
平和教育学研究会
第 37 回例会
高校社会科での実践から考える平和教育の課題
小島健太郎(高校
教員)
Ⅰ.勤務校・社会科カリキュラムについて
・私立の男女共学。小学校から大学まである学園の中学高校。ただし、中学・高校か
ら高校定員の三分の一ずつ入学。大学にはほぼ 100%進学。ただし、6割から7割
が外部受験。
・中学は1クラス36人の7クラス。高校は1クラス40人前後の8クラス。
・社会科のカリキュラム
中学 1年 歴史2地理2 2年 歴史2地理2 3年 歴史2公民2
歴史は3年間で通史(アジア太平洋戦争まで)
地理は1年で日本地理、2年で世界地理
公民は日本国憲法学習
高校 必修 1年 世界史2地理2 2年 世界史2日本史2 3年 政経3倫理2
選択 2年 現代社会2 3年 世界史4日本史4
必修の世界史は近代史~。日本史は開港~。倫理は西洋哲学史。政経は
経済中心。
Ⅱ.担当している授業
①中3の公民
講義中心
市民革命と人権思想・民主主義の広がり
日本における立憲主義の展開(自由民権、アジア太平洋戦争も)
日本国憲法の三大原理
日本国憲法の人権保障
日本の政治のしくみ(立法・行政・司法・地方自治)
1
②高3の政治経済(2 学期間)講義中心
経済
経済活動と経済社会の展開
資本主義のしくみ
資本主義の発展と経済思想の展開
(アダム・スミス、マルクス、ケインズ、新自由主義)
企業・財政・金融・社会保障・労働
国際経済
政治
民主主義の原理:自由・人権・平等・民主主義
民主主義の源流:社会契約説と民主主義の発展
民主主義の危機:ファシズム、アウシュビッツ
③高2選択の現代社会(35 名:2 時間連続)
一学期
メディアから社会を考える
新聞マップをつくる( A )
社説を比べる(A)
一面をつくってみる( A )
イラク戦争開戦時の一面を比べる( A )
現代メディアの特色(L)
イラク戦争とメディア(V)
司法と裁判員制度
2
司法のしくみの復習(L)
法科大学院の法廷教室見学と刑事裁判のしくみ(LV)
裁判員制度広報用映画(V)
デイベート「裁判員制度導入について」4グループによるプ
レゼン
弁護士の案内による東京地方裁判所見学
二学期
発展途上国の現状と国際協力
1
世界の現状を知ろう
世界がもし百人の村だったら
2
格差・貧困の原因は?
貿易ゲーム
3 身近なことから途上国とのつながりを DVD『おいしいコーヒーの真実
知る
』
4
開発・国際協力とは?
講義
5
開発・国際協力とは?
講義
6
グループ作業
7
途上国の現状1
グループ発表
8
途上国の現状2
グループ発表
9
国際協力の現場から
NGOスタッフの講義
10
解決へ向けてのアプローチ
DVD『グラミン銀行』
三学期
現代の紛争から世界を考える
⇒
後へ
Ⅲ.授業をする上で重視していること(間接的平和教育)
・社会の出来事をできるだけ身近に感じられるようにする
・基本事項や基本的概念の確認
・社会の構造的な把握
3
・批判的思考力の育成
・「バクロ型」
特に、メディア(情報)リテラシー
隠れた事実、もうひとつの道
・少数者や社会的弱者への視点
・「平和 Peace 」「人権の尊重 」「公正 Fairness」「民主主義」といった
価値を重視
⇒「暴力」「戦争」「差別」「不平等」「極度競争主義」「権力」への批
判的な視点
Ⅳ.戦争と平和を中心とした扱った授業(直接的平和教育)
2009 高3の三学期 20 名
第一回
2 時間連続
4回
1. 今、世界で起こっていること―イスラエルによるパレスチナへ
の侵攻
2. データーからみる現代世界の紛争
第二回
1. 戦争は人間の本能か?
2.人が兵士になるとき(マンガ『ネルソンさん、あなたは人を殺
しましたか?』)
3.戦争から還ってきて(NHKスペシャル『戦場 心の傷』)
4.兵役を拒否する人たち(『イスラエル兵役拒否者の手紙』)
第三回
1. 紛争のあとに(戦争犯罪裁判、真実と和解委員会、平和構築)
2. 草の根の和解の試み(NHK-BS世界のドキュメンタリー
4
『 “償い”と“赦し”の家造り ~ルワンダ・大虐
殺からの模索~』)
第四回
1. 「平和」を再定義する
2. ノーベル平和賞受賞からみる「平和をつくる」
2010 高3の三学期
第一回
40 名
2 時間連続
4回
2つのオバマ演説から考える「平和」と「戦争」
プラハ演説とノーベル平和賞演説の間
第二回
オバマのノーベル平和賞演説を読み解く
第三回
ベトナム戦争と反戦運動:NHK『映像の世紀 ベトナムの衝撃』
第四回
ベトナム戦争と湾岸・イラク戦争の間
米国にとっての「正義」の戦争
2010 高2の三学期
冬休みの課題
現代社会
映画『ブラッド・ダイヤモンド』を見る
1.『ブラッド・ダイヤモンド』が映す現代の紛争の特色
2.子ども兵士の世界
映画『それでも生きる子供たちへ』
ユニセフのポスター
清水さんのワーク
松本仁『カラシニコフ』
5
3.兵士になること/兵士であること
4.平和へ向けて
国際赤十字運動
紛争の平和的解決
V.授業実践
国際人道法
兵器の制限
平和構築 Peace-Building
戦争の違法化
国際協力
兵士になること/兵士であること
授業の目的
①「暴力についてのセビリア声明」の5へのこだわり
戦争は「本能」によって引き起こされる、という意見は科学的に正しくあり
ません。たいていの科学者はもはや“本能”という術語を用いません。それ
は、われわれの行動のなかには、学習によって変えることのできないほど決
定的なものが一つもないからです。もちろん、われわれは恐れ、怒り、性そ
して飢えのような情動や動機をもっています。しかし、われわれは一人ひと
りそれらを表現する仕方に責任を負っています。現代戦では、将兵の決意と
行動はふつう情動的ではありません。それどころか彼らは自分たちが訓練さ
れたとおりに各自の任務を遂行するのです。兵隊たちが戦争のために訓練さ
れる時、国民が戦争を支持するように訓練されるとき、彼らは敵を嫌い、恐
れるように教育されます。もっとも重要な問題は、彼らが、まず第一に政治
指導者とマスメディアによって、そのように訓練され覚悟させられるのはな
ぜかということです。
②個人の視点から戦争を考える
③兵士は「ふつうの人たち」であり、戦争において「加害者」であると同時
に「被害者」であるという両面性に触れる
④ふつうの人たちを動員させ殺し合わせるという権力の問題を考える
⑤「戦争とメディア」「戦争と民衆動員」を考える
6
授業展開(2時間)
1.マンガ『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』の一部をプリン
トで配布し、兵士として戦っていく覚悟を決めていく過程たどっていく
2. グロスマン『戦争における「人殺し」の心理学』(ちくま文庫)の殺人
行動を可能にする心理(権威者の要求、集団免責、犠牲者との距離)の
理論を紹介
3. 兵士にするための制度や条件を考える
4. 戦争から還ってきた人たちの問題(PTSD、劣化ウラン弾の後遺症)
を紹介する
5. NHKスペシャルをみる
6.『彼らは戦場に行った ルポ新・戦争と平和』(石山永一郎、共同通信社)
から米国でのイラク・アフガニスタンからの帰還兵についてのルポの資
料を配布し紹介
7. まとめ
Ⅵ.全体を振り返って
・乗り越えるべきは、「無関心(関係ない)」と「常識(メディアやゲームか
らの影響)」
・「現代の戦争と平和」というテーマは比較的生徒たちの関心が高い
7
・戦争(とその映像)に対して心理的な嫌悪感や抵抗感を持つ生徒もいる
・社会科のさまざまな科目のなかで、なかなか「現代の戦争と平和」を正面か
らじっくりとりあげる機会は少ない。
・生徒の日常と、あまりにもかけ離れている「世界の現実」に架け橋をつくる
のか
資源の戦争(携帯の希少金属、ダイヤモンド、石油)
同世代の現実(子ども兵士、若者の兵士リクルート)
「ふつうの人」の戦争
身近な暴力(構造的暴力や文化的暴力)の延長線上としての戦争
・生徒が見ている「メディアの中の戦争」と「報じられない戦争」のギャップ
をどううめていくのか
・「正しい戦争」論をどう乗り越えるか
・「日本の戦争」としてではなく、「戦争」一般のものとして取り上げたこと
は生徒にとってすんなりと入っていける側面がある一方で、日本の現実(平
和主義、日米安保体制など)への踏み込みが弱くなっている
・「戦争の現実」だけでなく、「平和への努力」について何をどのように扱う
かが課題
8
資料1
①NHKスペシャル
戦場
心の傷:兵士はどう戦わされてきたのか(2008 年9
月 14 日放送)
泥沼化する米軍のイラク駐留。激しい戦闘ストレスから前線を離脱する兵士が続出し、
帰還兵たちは PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症している。米軍は、最新の医学知識
を総動員し、兵士の心のケアに追われている。戦場の兵士を襲う「殺される恐怖」と「人
を殺す恐怖」。極限状況における人間心理を、国家はあらゆる角度から研究し、人間を戦
闘マシンに近づける方法を模索してきた。初めて大量の市民が戦場に動員された第一次世
界大戦では、精神に障害を負う兵士が続出。医師たちは電気ショックを与えるなどして戦場に
送り返す「実験」を行った。また、第二次大戦で「敵に発砲できない兵士」が広範に存在
することをつきとめた米軍は戦後、訓練法の改善を重ねることで、条件反射的に発砲でき
る兵士たちを作り出す。しかし、彼らが従軍したベトナム戦争では、日常生活に復帰でき
ない PTSD 患者が大量発生した。兵士を戦場で戦わせるために、人類は何をしてきたのか。
番組では、20 世紀の戦争史をひもときながら、「兵士の心が壊れる」というもうひとつの
悲劇を描く。
②NHKスペシャル
戦場
心の傷:ママはイラクへ行った(2008 年 9 月 15 日放
送)
7年前の同時多発テロを機に始まったアメリカの“テロとの戦い”。
アメリカ軍はイラクなどに、総兵力のおよそ 11%にあたる19万人の女性兵士を送り込
んできた。その3分の1は子供を持つ母親兵士だ。女性兵士に直接、戦闘を行う任務は許
されていないが、イラクではどこからが前線なのかが曖昧で、しばしば銃撃戦に巻き込ま
れるのが現実だ。子どもに銃を向け、殺害することさえある。
これまでにない状況を経験し、その後、故郷に帰還した母親兵士に今、深刻な問題が生じ
ている。戦場で負った心の傷が原因で「以前のように子どもを愛することができない」、
「子どもを愛おしく思う心さえなくした」という母親が増えているのだ。マーシーさん(2
6)は12歳のイラク人少年に突然、背後から銃撃され、撃ち殺した経験からPTSD(心
的外傷後ストレス障害)になった。症状は息子を出産した後、悪化した。自分の息子の顔
がイラク人少年の顔に重なってしまうのだという。育児が出来なくなり、いまは入院治療
を続けている。イラク人の復興を支えたいと行ったイラクで見た厳しい現実。番組は、家
族との葛藤に苦しむ元母親兵士の姿を通して、多くの女性が“前線”で闘うという、これ
までにないアメリカの戦争の闇を描く。
9
③NHK
BS世界のドキュメンタリー “償い”と“赦し”の家造り
ダ・大虐殺からの模索~
~ルワン
(2008 年 11
月 27 日)
民族対立で約80万人が虐殺されたといわれるアフリカのルワンダ。今、加害者が破壊
した被害者の家を再建することで「和解」を促す取組が進められている。加害者に罪を自
覚させ、懲罰でなく被害者へ現実的な償いをさせて両者の対話を行う試みは従来になく、
人々の負った深い傷の修復が進むか、国の内外から注目されている。
多数者フツ人の急進派民兵らが、ツチ人や穏健派フツ人を虐殺したのは1994年。発
生から14年経つが、殺戮の記憶や身体的な傷を抱えて苦しむ被害者は後を絶たず、加害
者の責任追及を厳しく求める声も少なくない。また、百万人に上ると言われる虐殺の容疑
者はその数があまりに多すぎるため裁判がなかなか進まず、国の再建の足かせともなって
きた。そこで政府は地域の揉め事を解決する村の慣習的な“裁判”「ガチャチャ」を活用
して裁きを進め、真実を告白した加害者には懲役ではなく労働奉仕刑を科して減刑し社会
復帰を図っていくことにした。
この労働奉仕刑のプログラムの一つとして注目されているのが「家造りプロジェクト」
だ。現地NGO・REACHで働く佐々木和之さん(42)が発案し、一年前から実行に移されてい
る。家造りの作業を通して双方が向き合う中で、加害者を「赦す」という被害者も現れた。
加害者と被害者が「和解」に向けて歩み寄ることはできるのか。番組では、真実を明かそ
うとする“ガチャチャ”の取組みと、労働奉仕刑の受け皿として始まった「家造りプロジ
ェクト」の様子を描き、「和解」に必要なものは何なのかを探っていく。
原題:?“償い”と“赦し”の家造り ~ルワンダ・大虐殺からの模索~
制作:エラー! ハイパーリンクの参照に誤りがあります。NHK / NHK情報ネットワーク(日
本) 2008 年
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