幼児教育環境におけるソーシャルロボット研究とその応用

日本ロボット学会誌
No. xx, pp.1∼4, 200x
Vol. xx
1
事例紹介
幼児教育環境におけるソーシャルロボット研究とその応用
Social Robotics Research and its Application at the Child Education Environment
中 文 英∗
田
Fumihide
Tanaka∗
∗
∗
筑波大学 大学院システム情報工学研究科 / JST さきがけ
Graduate School of Systems and Information Engineering, University of Tsukuba / JST PRESTO
1. は じ め に
ソーシャルロボットの研究は,本質的に何のためにある
のであろうか? おそらく目的は大別して二つの方向性があ
り,第一に人間を支援するロボット技術開発に知見をつな
げようとする向き(工学的有用性)と,第二に人間を知る
ための手段としてロボットを用いようとする向き(科学的
学術性)があるものと思われる.本論文では,子どもの教
育現場という筆者らの研究フィールドにおける,こうした
図 1 カリフォルニア州サンディエゴの保育所における,子ども
たち(1∼2 歳)とロボットの長期的なインタラクション観
察研究.[1]∼[3] PNAS/National Academy of Sciences
ソーシャルロボット研究の事例を紹介する.
2. 研究事例1:探索型の基礎研究 [1]∼[3]
(Copyright 2007)
最初に紹介する事例は,筆者らが 2004 年から 3 年間にわ
たり米国カリフォルニア州サンディエゴの保育所にて行っ
室に導入したのは 6ヶ月弱の期間であったが,ここで撮影さ
た探索型研究(exploratory study)である.ここでは,小
れた実験映像の分析には 1 年半以上の時間を要した.分析
型の二足歩行人型ロボットを日々継続的に教室に導入し,自
から得られた知見はロボットのハードウェアに関わるもの
律動作/遠隔操作による様々な行動パターンを試しながら,
からソフトウェアや運用面など多岐にわたる(詳細は [1]∼
子どもたち(月齢 1∼2 歳)との間で起こるインタラクショ
[3] 参照)が,ここでは特に,次章以降で説明する教育支援
ンを観察した(図 1 参照).当初,筆者らはロボット技術を
研究につながった知見について説明する.まず,教室内に
用いて子どもたちの教育支援を行いたいという漠然とした
おける子どもたちの行動分析から判明したのは,ここで導
目的は有していたものの,具体的にどのような技術を用い
入したロボットが,教室内にある他の玩具と際立って異な
てどのような場面を対象とするかについてはまだ明確には
る扱われ方をされていたことである.特に,子どもたちの
判断しかねていた.また,当時研究開発の進められていた
世話欲をかきたてるようなロボットの振る舞いは,子ども
エンターテインメント・ロボットの流れからも,
「いかにし
たちの興味を長期間にわたり強く引きつけることが分かり,
て人間を長く引きつけることのできる(簡単には飽きられ
このカテゴリーに属するインタラクションの発生頻度は他
てしまわない)ロボットを作れるか」という問題意識も感
の玩具における頻度と比較して顕著に大きく,かつ長期に
じていたが,どこから手を付ければ良いのか分からずにい
わたり継続した.こうしたインタラクションの例としては,
た.そこで,未だ完全では無いものの当時利用し得る最新
バッテリー残量の少なくなったロボットが(安全停止のた
鋭のロボットを教室に導入して,継続的に子どもたちとの
めに)床の上に寝ようとすると子どもたちがロボットの上
間の関わりを観察する中から具体的な教育支援の場面や子
に毛布をかけようとする場面や,教室内でロボットが転倒
どもたちを飽きさせないための必要条件を探すことにした.
した際に子どもたちが起き上がりを助けようとする場面な
3 年間の研究期間のうちで実際にロボットを継続的に教
どが挙げられる.
こうした探索型研究では,あらかじめ想定していなかっ
原稿受付
キーワード:Child - Robot Interaction, Robotics for Children,
Care-receiving Robot, Telerobotics, Learning and Development
* 〒 305-8573 茨城県つくば市 天王台 1-1-1
* 1-1-1 Tennodai, Tsukuba, Ibaraki, Japan (ZIP: 305-8573)
日本ロボット学会誌 xx 巻 xx 号
た問題も次々と発生し,無秩序さながらに様々な知見が集
結される.これらの知見は無理にまとめるべきものでは無
いのかもしれないが,筆者らは 1 章にて述べたような二つ
の方向性で大まかに整理を試みている.第一の方向性は人
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中 文 英
間を支援するロボット技術開発につなげようとするもので,
Teacher
具体的には,次章以降で説明する子どもたちの学習支援や
教育環境拡張の試みである.第二の方向性は人間理解の手
段としてロボットを用いようとするもので,子どもたちと
ロボットの間の社会性発達過程(長期間にわたる共生を通
して子どもたちはどのようにロボットと関わり受容してい
くか)を量的/質的双方の分析法により記述しようとした.
代表的な分析結果としては,子どもたちとロボットの間で起
Care-taking
こる様々なインタラクションをハプティック行動分析(「触
る」という行動要素を元にインタラクションのパターンを
分類し分析する方法)したものがある.ここでは,子ども
Children
たちとロボットの間のふれあい(パターン)が,数ヶ月間
にわたる共生を通じて子どもたち同士のふれあいに収束し
ていく様子が提案する定量的尺度と共に示されている.ま
た,こうした「ロボット−人間」間の分析と,前述の「ロ
ボット−玩具」間の分析を並べることによって,
「子どもた
ちにとってロボットはどのようなものとして受け入れられ
Robot
“Learning by Teaching”
図 2 ケアレシーバー型ロボットの枠組:子どもたちの自然な
世話欲を活かし,子どもたちにロボットを教えてもらう
ことによって逆に子どもたち自身への学習効果を高めよ
うとする.[4] [5]
ていったのか?」という問いに対して答えようとした.
3. 研究事例2:ケアレシーバー型ロボットを用いた
子どもの学習支援 [4] [5]
2 章にて述べた保育所に身を置き続け,日々子どもたち
胸部スクリーンの画像提示と共に音声発話する RUBI を導
入したところ,RUBI を導入しない同年齢帯の別の教室の
子どもたちと比較して有意に未知語獲得を促進されるとい
う例が示されている.
や保護者の方々,教師や保育所スタッフの方々と話してい
一方で筆者らは,別のスタイルのロボットを用いた子ども
るうちに,教育環境を充実させて子どもたちの学習を支援
たちの学習支援の試みも始めている.前例における RUBI
するためのロボット技術に大きな期待と有望性を感じるに
や各種のチャイルドケア・ロボット [8] [9] は,ケアギバー
至った.そして,当初は漠然としていた具体的な寄与の仕
(care-giver)型,つまりロボットから子どもたちに何かを
方についても自然に対象が定まってきた.本章では,2 章
教えようとするものであった.これに対し筆者らは,ケアレ
にて述べた探索型の基礎研究から派生した,子どもたちの
シーバー(care-receiver)型,つまり逆に子どもたちが教
学習支援に関する研究事例を紹介する.
えるタイプのロボット(図 2 参照)に着目している [4] [5].
筆者らが前述の探索型研究を行なっていたカリフォルニ
ここでは,教育者である教師や親が,所望の教育トピック
ア大学サンディエゴ校,Machine Perception Laboratory
(例:あいさつや感謝の言葉)を定めた上で,子どもたち
では,同時に子どもたちの未知語学習を支援するロボット
にそのトピックをロボットに対して教えさせる.ロボット
を開発している [6] [7].RUBI と名付けられたこのロボット
は子どもたちの自然な世話欲を引きだすよう,当初は容易
は,探索型研究で得られた知見を導入して子どもたちの教
に間違えたり不完全なふるまいをしたりするようデザイン
育支援を目的にゼロから作られたものである.例えば,前
されており,子どもたちの教示と共にトピックを学んでい
述のように探索型研究からハプティックなインタラクショ
くようにする.こうした,いわば「Poor な」ロボットの面
ンの有為性が示されていたため,このロボットは胸部に大
倒を見ることにより,結果として子どもたち自身もそのト
きなタッチスクリーンを有し,そこで提示されるコンテン
ピックに対する学習を深めること(Learning by Teaching)
ツプログラムを中心に子どもたちとのインタラクションを
が真の狙いである.そして,このケアレシーバー型ロボッ
試みようとする.また,探索型研究時に用いていたロボッ
トの着想には,まさに前章で述べた探索型研究の知見(ロ
トと比較して単純な自由度構成をしているが,これは探索
ボットは子どもたちの世話欲を強く喚起する)が活かされ
型研究の知見から最有用と判断された少数の可動部(手・
ている.
首など)をより分かりやすく示す意図がこめられている.
現在,筆者らはケアレシーバー型ロボットの導入効果を
RUBI は現在も開発が継続中であるが,すでに興味深い
確認・検証する目的で実証実験を行なっている.今回の実
導入効果も報告されている.例えば [7] では,前述の探索型
験フィールドは,つくば市の大型ショッピングセンター内に
研究と同様の月齢 1∼2 歳の教室に,そこの子どもたちが
ある子ども向け英会話教室(株式会社こども英会話のミネ
触れたことのない言語体系であるフィンランド語の単語を
ルヴァ)であり,とくにマミー Kids クラス(0∼2 歳)と
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ンス [11] から近年ではアンドロイド [12] まで,数多くの遠
隔操作ロボットが提案されてきた.こうした高度なロボッ
ト技術も近年では一般層にも認知の広がりを見せ,多くの
人々から「もうすこしで手の届きそうな夢の技術」と期待
されている感がある.しかしながら一方で,こうした最新
技術と現実応用の間には,おそらく今なお多くの問題が存
在しているものと思われる.こうした問題を顕在化させて
世に示し,同時に解決への努力を進めるためには,2 章に
図 3 ケ ア レ シ ー バ ー 型 ロ ボット を 実 装 す る Aldebaran
Robotics 社製の Nao と,子ども向け英会話教室内で典型
的に用いられる学習教材:
(左写真)ボキャブラリーカー
ド:動物の絵などが英語名と共に記載されたもの.
(右写
真)様々な図形が様々な色で描かれたポスター.
て述べた研究事例と同様に,やはり探索型のスタイルを含
んだ実証実験を行なうのが最適であると考えた.
そこで筆者らは,前章にて説明した子ども向け英会話教
室を拠点の一つとして,2 章にて述べた米国カリフォルニ
ア州の教室を含む各地間のインターネット接続の上に,子
幼児クラス(3∼5 歳)に在籍する子どもたちの中から参加
どもたちが遠隔地に置いたロボットを遠隔操作することに
者を募集し,通常のレッスンとは別の時間に同じ教室にて
よって現地の活動に実時間参加することが可能なシステム
ロボットを導入したプログラムをテストしている.導入す
(図 4 参照)の開発に着手した.本研究は JST さきがけ「情
るロボット機体は Aldebaran Robotics 社の Nao(全長約
報環境と人」研究領域における課題(H21∼H24 年度)と
58cm)を用いており,基本的に教室外部から遠隔操作され
して行なわれ,国内拠点間での開発からはじめて最終年度
ている.このロボットが参加している点以外は通常のレッ
までに日米間での実証実験を行なうことを目標としている.
スンとまったく同等の雰囲気下で進められ,担当教師と数
現在,筆者らは,最初のターゲットタスクを遠隔地間の
人の子どもたち,保護者たちと混じって安全確認を担当す
子どもたち同士での物の受け渡しに設定し,これを行なう
る実験者が教室の内部に居る.ロボットは優等生らしくふ
ためのロボットインタフェースの開発とテストを実施中で
るまったり,逆に意図的に間違いを犯すようにふるまった
ある.物の受け渡し(Give and Take)は教室内にて最も
りするよう遠隔操作され,それらに対する子どもたちの挙
頻繁に行なわれるインタラクション形態の一つであり,教
動を観測・分析する.
師たちもレッスン内にて頻繁にこの行動要素を取り入れる
すでに筆者らは,狙いとする現象,つまりレッスン中に
ため,物の受け渡しが遠隔地間の子どもたち同士(あるい
教師が提示する様々な学習タスク(例:カードの絵の名前
は子どもと教師の間)で可能になれば,数多くの教室活動
当てや色形当て:図 3 参照)をうまくクリアできないロボッ
に参加可能となる.しかしながら,このタスクには,ロボッ
トが,周囲の子どもたちの世話欲をかきたて,子どもたち
トハンドの設計といった問題以外にも,ソーシャルなイン
からロボットへの自然な教示が発生することを多くの場面
タラクションに特有の重要な問題が含まれていることが明
で観測している.さらに,こうしたケアレシーバー型のロ
らかになりつつある.それは,インタラクションにおける
ボットを教室に導入することにより,通常,散漫になりや
タイミングの問題である.筆者らが行なっている予備実験
すい子どもたちの注意や集中力を,このロボットへのケア
の結果,本システムは通常のインターネット上で実装しよ
意識を通じて教師が提示した学習タスクそのものに長時間
うとした場合,数百ミリ秒オーダーの遅延が発生すること
引きつけることが結果的に可能であるという,教育現場に
が判明した.この遅延は通信上の伝送遅延,画面上の動き
とって有益な効果も見えはじめてきている.
を知覚する際の認知的な遅延の双方を含む.システムの仕
4. 研究事例3:世界の子どもたちをつなぐ遠隔操作
ロボットシステム [10]
組を多少なりとも推察できる大人のユーザであれば,ある
程度の遅延があったとしても,それが実験室環境での試行
であればなおさらのこと対応可能であると思われる.しか
次に紹介する研究事例は,遠隔操作ロボット技術(Telerobotics)を用いて,こうした子どもたちの教室空間を拡張
しながら本研究ではユーザは子どもたちであり,かつ,現
し,より魅力的かつ有益な教育環境を提供しようとするも
影響は致命的なものに成りうる.
実の教室活動中という文脈の中で行なわれるため,遅延の
のである.近年,Skype 等の普及により遠隔 TV 会話は多
筆者らはこの問題を,発達心理学における社会的随伴性
くの人々が比較的容易に用いることのできる技術となった. (Social contingency)の研究 [13] [14] と結び付けつつ解法
そしてこれらの技術を用いて遠隔教育や異文化交流を行な
を模索している.社会的随伴性は人間が発達早期より有す
おうとする試みも各所で始められている.一方で,研究分
る原始的コミュニケーション能力の一つであり,自らの行
野においては 1980 年代より進められているテレイグジスタ
動に随伴して起こる外界イベントへの注意志向と関連する.
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田
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中 文 英
謝辞 本研究は,文部科学省グローバル COE プログラ
ム「サイバニクス:人・機械・情報系の融合複合」および
Japan Side
US Side
JST 戦略的創造研究推進事業さきがけの支援を受けて行わ
れている.
参 考 文 献
[ 1 ] F. Tanaka, A. Cicourel and J.R. Movellan: “Socialization between toddlers and robots at an early childhood education center,” Proceedings of the National Academy of Sciences of the
USA, Vol.104, No.46, pp.17954–17958, 2007.
[ 2 ] 田中:“人間型ロボットと乳幼児の日常インタラクションの研究”,発
達する知能 ∼知能を形作る相互作用∼(共著書).pp.175–212,シュ
プリンガー・ジャパン,2008.
[ 3 ] F. Tanaka, J.R. Movellan, B. Fortenberry and K. Aisaka:
“Daily HRI evaluation at a classroom environment: reports
from dance interaction experiments,” Proc. of the 1st Annual
Conf. on Human-Robot Interaction (HRI-2006), Salt Lake City,
USA, Mar. 2006, pp.3–9.
[ 4 ] 田中,小嶋,板倉,開:“子どものためのロボティクス:教育・療育支
援における新しい方向性の提案”,日本ロボット学会誌,Vol.28 No.4
pp.87–94,2010.
[ 5 ] F. Tanaka and T. Kimura: “Care-receiving robot as a tool of
teachers in child education,” Interaction Studies, Vol.11 No.2
pp.263–268, 2010.
[ 6 ] J.R. Movellan, F. Tanaka, I.R. Fasel, C. Taylor, P. Ruvolo and
M. Eckhardt: “The RUBI project: a progress report,” Proc.
of the 2nd Int. Conf. on Human-Robot Interaction (HRI-2007),
Arlington, USA, Mar. 2007, pp.333–339.
[ 7 ] J.R. Movellan, M. Eckhardt, M. Virnes, and A. Rodriguez: “Sociable robot improves toddler vocabulary skills,” Proc. of the
4th ACM/IEEE Int. Conf. on Human-Robot Interaction (HRI2009), La Jolla, USA, Mar. 2009, pp.307–308.
[ 8 ] http://www.nec.co.jp/products/robot/childcare
[ 9 ] http://www.irobibiz.com/english/index.php
[10] 田中:“世界の子ども達をつなぐ遠隔操作ロボットシステム(インフラ
構築)”,第 24 回人工知能学会全国大会(JSAI-2010)予稿集,2010.
[11] S. Tachi: Telecommunication, Teleimmersion and Telexistence,
IOS Press, 2003.
[12] 石黒:アンドロイドサイエンス ∼人間を知るためのロボット研究∼.
毎日コミュニケーションズ,2007.
[13] J.S. Watson: “The perception of contingency as a determinant
of social responsiveness,” In E.B. Thoman (eds), Origins of the
Infant’s Social Responsiveness. pp.33–64, 1979.
[14] M. Miyazaki and K. Hiraki: “Delayed intermodal contingency
affects young children’s recognition their current self,” Child
Development, Vol.77 pp.736–750, 2006.
図 4 日米の教室間にまたがる遠隔操作ロボットシステム:最
初のターゲットでは,日本側の子どもの動きをモーショ
ンキャプチャによりとらえ,米国側に置いたロボットを
簡略なマスター・スレーブ制御により動かす.操作者の
利き手には振動モータ付のデータグローブを付けてもら
い,モニタースクリーンを見ながら米国サイドの子ども
たちと交流する.図 3 に示したカードゲーム等を最初の
ターゲットとしており,ロボットがカードをつかむと振
動フィードバックが操作者に伝わる.
例えば,乳児においても自らの行動(発声など)の直後に付
随して外界で何らかのイベントが発生すると,そのイベン
トに強く注意が向くことが知られている.つまり,社会的
随伴性が適切に実装されていれば,人間は一定の遅延があっ
てもその対象に注意を向けることが可能であると推察する
ことができる.しかし,社会的随伴性のデザインパターン
は無限に存在するため,適切な社会的随伴性をシステム上
に実装するためには発達心理学における実験的研究の知見
が参考になる.そこで筆者らは現在,発達心理学でこれま
で調べられている様々な実験条件を分析しながら,子ども
たちがより社会的随伴性を捉えやすく,教示なしに直感的
に操作が可能なインタフェースの条件を調査している.調
査実験は,遅延の程度や条件を柔軟に制御可能な国内拠点
間で行なっており,子どもたちの反応を調べながらシステ
ム開発を進めている.
5. お わ り に
ロボティクス分野において,人間とのインタラクション
田中 文英(Fumihide Tanaka)
2003 年東京工業大学 大学院総合理工学研究
に関連する知見は着実に増えつつある.そして,人間を対象
にすることによって様々な周辺分野とのつながりが産まれ,
様々な専門性を有する研究者たちの興味を集めはじめてい
る.筆者らは,こうした現状において,同時に一般社会と
のつながりも盛んなものとしていくことが重要なのではな
いかと考えている.本論文で述べてきた幼児教育といった
場面以外にも,介護や高齢者支援をはじめとして,具体的
な場面で社会からの期待が大きい場面は少なくない.環境
条件が制御された研究室/実験室を出てこうした実フィー
ルドに出ることは,予期せぬハプニングなどから逆に新た
な発見も多く,社会貢献と研究推進の両側面においてプラ
スに働く可能性を秘めている.
JRSJ Vol. xx No. xx
科 知能システム科学専攻 博士課程修了.博士
(工学).同年ソニー(株)入社.エンターテ
インメント・ロボットの研究開発に従事.2004
年からソニー・インテリジェンス・ダイナミ
クス研究所(株)へ出向,同年秋より University of California, San Diego 客員研究員.2008 年から筑波大
学 大学院システム情報工学研究科 知能機能システム専攻 准教
授.2009 年 10 月より JST さきがけ「情報環境と人」領域の
研究員を兼任.研究分野は,人間−ロボット間インタラクショ
ン,発達学習,社会的相互作用,教育支援など.2001 年人工知
能学会全国大会 優秀論文賞,2005 年 IEEE 国際会議 RO-MAN
Best Paper Award などを受賞.JSAI,SICE 等会員.
(日本ロボット学会正会員)
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