平成27年10月12日 (月) 通巻1490号 昭和47年12月11日第3種郵便物認可 毎週月曜日発行 (第5月曜日休刊) 2015 年 10 月12 日号 No.1360 http://www.kyoiku-shiryo.co.jp ◎高大接続システム改革会議 ▼資料【高大接続システム改革会議 「中間まとめ」(概要) 】㊦ 柴崎直人 しばざき・なおと◎ 1966 年東京都目黒 区生まれ。筑波大学大学院教育研究科 修士課程カウンセリング専攻修了。私 立中学・高校教諭、専門学校相談室長、 学習院大学・東京学芸大学非常勤講師 などを経て岐阜大学大学院教育学研究 科准教授。小笠原流礼法総師範。東京 都水泳協会日本泳法委員。日本特別活 動学会常任理事。 ▲ ◎貝ノ瀨滋/東京家政大学特任教授 ▼マイオピニオン【 なすことによって学ぶ】 国際的に活躍し、 平和な社会の実現に貢献できる人材を育てる 】 食事のマナー(日本料理篇その5)器の扱い方② 】 ◎神野哲次/立命館高等学校SGH推進機構長 ▼高校現場最前線【 ▼ 今さら聞けない!? マナーと常識 【 校長講話 【弔辞 ―故人の遺徳をしのんで―】岩瀨正司/(公財)全国修学旅行研究協会理事長 教育の危機管理 【教育実習の課題】石橋昌雄/東京都板橋区立板橋第十小学校校長 教育問題法律相談 【退学処分の際の留意点】澤田稔/弁護士 ◎柴崎直人/岐阜大学大学院教育学研究科准教授 ● ● ● 好評連載 週刊教育資料 題 字 奥 野 誠 亮 情深いイ ル カ の 行 動 イルカの研究を始めたのはどういう ことがきっかけだったのですか。 私は、銀行に勤めていた時に、腰痛で入 院しました。それまで仕事一筋で頑張って きた人間でしたから、病院内でリハビリに 励むという生活に閉塞感を持ち、気分も落 ち込んでいた時に、アメリカの脳生理学者 が 書 い た 本 を 読 ん で、 「 イ ル カ セ ラ ピ ー」 に興味を持ちました。アニマルセラピーと して知られている馬や犬などと同様に、自 愛 氏に聞く㊤ イルカ研究家 日本ウェルネスス ポ ー ツ 大 学 特 任 教 授 潮 流 ◆ 岩重慶一 ●潮流● No.1360 ◆ 2015 年10 月12日号 イルカの行動に学びながら ヒトが人になるためには、 五感や愛情などの感性の教育が 大きな役割を果たす、と言う 然の中でイルカと接することで、うつ病や 自閉症、視覚障害者などを和ませる効果が あるということを知りました。 実は、私は鹿児島県の生まれですが、そ ういえば、子どもの頃、錦江湾で泳いでい たときに、イルカが寄ってきて、一緒に楽 しく泳いだなぁと、当時の楽しい記憶が蘇 ってきたのです。そこで、イルカとの触れ 合いを自分のライフワークにしていこうと 思いました。 イルカはクジラなどと同じほ乳類で すが、何か特別な力を持っているのでしょ 感性の教育で 「ヒトが人に」 うか。 イルカは感受性が豊かで、家族に対する 愛情は母親の子どもに対する絶対的無償の 愛に似ています。イルカの赤ちゃんは、母 親たちの群れで大人のイルカのまねをして 生きる術を覚えます。イルカは他のイルカ がエサをとるのに困っていたら手助けをす るなど、群れの一員を助ける社会的行動を とります。クジラもそうですが、「ポッド」 と呼ばれる母系の家族の群れを基本に、仲 間を支えながら生きているわけです。 また、イルカは非常に発達した超音波を 発信するエコロケーション(反響定位)と 呼ばれる機能を使って、相手との距離など を把握して、エサや障害物、物質の強度や 材質なども判断できます。 イルカと接することで、うつ病など の心の病に効果があるのではと言われてい ますね。 私 は 毎 年、 夏 に、「 イ ル カ の 学 校 」 を 開 いていますが、心の病への効果について、 科学的な実証はまだ完全ではありません。 しかし、そこでのイルカと子どもの様子を 見ていると、海へ入る時に着ける救命具に も拒否反応を示していた幼児が、イルカと 触れあうと微笑んで、自分から海に入って イルカに関わろうとします。特に、聴覚、 視覚、触覚などの五感でイルカを感じるこ 4 とで、積極的な行動表現が生まれます。 その理由は、幼児が、イルカから人間を 守ろうとする愛情を感じる、人間とイルカ の感性の繊細さの類似性に気づく、胎児の 時に聴いた母親の声に似たイルカの高周波 への親近感、自然環境の中での触れ合いと いった要素が、幼児に安心感と仲間意識を 与えて、心を開かせるからではないかと、 私は考えています。 で「イルカの学校」を開いています。 和歌山県太地町のイルカ交流施設では、 海に面したところに、大きな網で仕切って 飼育されているイルカと触れ合っています。 できるだけイルカがストレスを感じないよ うにしています。水着も黒や青などの単色 で、イルカに刺激を与えないことが大切で す。御蔵島の場合は、野生のイルカたちと 触れ合う活動です。 太地町の場合、どのような触れ合い があるのでしょうか。 地、御蔵 島 で キ ャ ン プ 岩重慶一 太 いわしげ・けいいち◎1947年鹿児島県生まれ。大学卒業後、三 菱信託銀行に入社。1991年に横浜NGOの 「HAB21イルカ研究会」 の代表に。各地でイルカの学校を開講。 2001年に、 カンボジアに HAB21センター、横浜にHAB研究所を興し、 「ヒューマン&アニ マルボンド21研究センター」を主宰。日本政府より日本水大賞 国際奨励賞、神奈川県・横浜市より市民国際環境活動賞、カン ボジア政府より国家環境貢献賞を受賞。 視覚障害のある子どもや発達障害のある イルカ研究家、日本ウェルネススポーツ大学特任教授 和歌山県の太地町と東京都の御蔵島 子どもさんとお母さんを対象に、2泊3日 のキャンプをしています。 1日目は、イルカのトレーナーから、遊 泳までの手順やイルカの行動の特徴などを 教えてもらいます。大きな浮きベースの上 で、最初は海水を掛け合って海に慣れる活 動をします。その間、イルカたちは目の前 を自由にゆったりと気の向くまま泳いでい ます。次に、子どもたちが並んで座ってい るところに、トレーナーの合図でイルカが 集まってきます。子どもたちはイルカにや さしく触れて、身体全体でお互いを確かめ 合うのです。翌日は、イルカの背びれに捕 まって泳いだり、イルカの身体に顔を付け たりと、触れ合いを深めていきます。ベテ ランのトレーナーのもとで、「テン」と「ア ースケ」と呼ばれる2頭のイルカは、子ど もたちとの触れ合いが特に上手です。最終 日 は、「 母 親 と イ ル カ の 時 間 」 と し て、 母 親がイルカに乗って泳ぐ姿を子どもたちに 見せています。 お母さんたちの反応はどうでしょう か。 キャンプの後に、お母さん方にアンケー ト調査をしましたが、大半は水族館のショ ーでイルカを見たことがあるというもので した。しかし、キャンプでは飼育されてい るイルカでも泳ぐスピードがかなり速いで 5 No.1360 ◆ 2015 年10 月12日号 ●潮流● 週刊教育資料 すし、背びれにつかまって泳ぐという経験 は 皆 さ ん、 初 め て で し た。 「イルカに乗っ て泳いだ」という体験はお母さんにとって も貴重な体験で、今までのように見る(視 覚)だけのショーから、身体全体でイルカ を感じることの楽しさに感動されています。 また、こうしたお母さんたちの様子が、子 どもたちにも良い影響を与えています。 水族館でもイルカショーだけでなく、 触ったりする体験の機会を設けるケースが 増えているようです。 そうですね。最近、各地でイルカを飼育 して観光客などを泳がせて遊ばせる施設や、 水族館の飼育イルカとの交流・触れ合いな どの機会が増えていますが、今年の5月に、 日本動物園水族館協会は、水族館 館のう ち、イルカを飼育している 館に対して、 今後、追い込み漁で捕獲されたイルカの購 入を禁止しました。今後は、飼育下での人 工繁殖で対応することになります。 「イルカセラピー」については、 「障害が 治る」などの根拠にもとづかない誤解も少 なくありません。水族館などでの、飼育さ れているイルカに触れ合う体験も大切です が、世界的に見ると、水族館での治療を目 的としたイルカセラピーは難しく、海洋で の野生のイルカの自然治癒効果への注目が 改めて高まっています。イルカが及ぼす効 育はヒトを人にするもの 果については、科学的な証明や裏付けもな いため、治療行為として安易な期待をする ことは控えるべきだと考えています。 教 感性に訴える体験活動は、子どもた ちの教育にも欠かせないと思います。 「イルカ の学校」などでの体 験から考え ますと、結局、教育というのは「ヒトを人 にする」営みではないかと思います。です から、ゼロ歳から 歳くらいまでは、愛情 豊かな環境の中で、感性を育むことに、も っと重点を置くべきではと思います。 歳 以降になると、思春期にさしかかり、知的 な活動の比重が高まります。 イルカの学校を実践されてきて、「ヒ トから人」になるための教育で大切にした いことは何でしょうか。 学校での動物飼育でも、動物にも人間に も互いにストレスがないことが大切ではな いかと思います。イルカの学校にやってき た多くの子どもたちを見ていますと、自然 の中でイルカと触れ合うことで、楽しんだ り、気持ちよく遊ぶという体験そのものに、 大きな効果があるのではと感じます。つま り、大自然の中で、笑いながら気持ちよく 遊ぶことが、同時に自分以外の他者とのお だやかなコミュニケーションづくりの基盤 10 11 週刊教育資料 ●潮流● No.1360 ◆ 2015 年10 月12日号 34 64 になる体験ではないでしょうか。 感性の教育とともに、コミュニケー ションの土台になる体験の機会がもっと増 えるといいですね。 私自身、鹿児島で生まれて、子ども時代 から、数多くの動物たちと接してきました。 大人になってからも、御蔵島をはじめ近海 でイルカと遊ぶことで、ストレスなどで疲 れた身体と心に安らぎを取り戻し、本来の 自分を見つめ直す機会になりました。 イルカの学校でも、イルカを通して子ど も、お母さん、先生たちが、五感をフルに 使 っ て 遊 び、 楽 し む 姿 や、「 他 者 と の コ ミ ュニケーション」を深める姿を見てきまし た。イルカとの触れ合いは、人間の五感を 研ぎ澄まし、他者に対する感受性や思いや りの気持ちを強め、よりよく生きようとい うエネルギーを高めることにつながってい ると思います。 本来、人は皆、感性を持って生まれてき ているはずです。教えることが手段となり、 学習することが目的になりやすい学校や家 庭の教育の在り方が、今、改めて問われて いるように感じています。 歳前後の教育の中で 特に、ゼロ歳から こそ、イルカたちが教えてくれた感性の大 切さを、捉え直してほしいと思います。 ▽岩重慶一= [email protected] 10 6
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