情報提供資料 GSAM会長 2012年3月 ジム・オニールの視点 後退よりも前進の兆し この2週間に渡り、2月の米国雇用統計発表の日が世界中のどの市場にとっても、極めて重要であると強調してき ました。どの市場でも発表を前に、活発な取引が行われていたためです。この統計が米国金利(イールドカーブ)、 株式市場、あるいは通貨などの動きの予兆となるかどうかに拘らず、過去2ヶ月と同様に予想を上回るようなら、 各市場にとっては重要な意味を持つと思われました。結果としては、発表された数字は前月の数字が上方修正さ れたことが主な要因となって予想を上回ったものの、そのインパクトは期待したほどには際立ったものではあり ませんでした。求職者が若干増加し就業率が向上したという明るいニュースはありましたが、失業率は8.3%とや や期待はずれの水準に留まりました。しかし、ともかくも、米国がこれまでよりは健全で自律的な回復基調に入っ て来たと考える当社(ここではゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを指します)等にとっては、 このデータはそうした見方を十分に裏付けるものです。そして、この状況を良い材料の効果が長続きしなかった 2011年と比較すると、もうそのような不安定な状況ではないと思えます。 こうした見方にすべての関連市場は呼応し、S&P500 種株価指数先物は 1,370 ポイントを上回って引け、2 年物 米国債利回りは 0.32%に、そして米ドルの対円相場も直近の高値を更新しました。これら市場でのこうした動き は、投資家が再びリスクを取りうる余地が大きくなるにつれ、今後もさらに活発となり、他の関連市場にも広がっ ていくのではないでしょうか。雇用統計の発表後は、毎週の失業保険受給申請件数に加えて、連邦準備制度理事 会(FRB)の主要メンバー、特にバーナンキ議長の示すヒントに注目することが非常に重要になってくると思い ます。政策転換を示唆するわずかなヒントのひとつひとつが大きなインパクトを持ってくると思われるからで す。 貿易不均衡は消えつつあるのか、また現れるのか? あまり芳しいとは言えない数字が昨日発表されました。1月の米国の貿易収支の赤字が500億ドルを超えて悪化し たというニュースです。輸入が大きく増加したことによるもので、数年振りの最大赤字幅です。ゴールドマン・ サックスの調査グループの指摘によれば、四半期のこのように早い時期に発表されたことで、次の2ヵ月間によ ほどの改善がなければ、この数字は、今四半期のGDPにとっては大きな外部マイナス要因となりそうです。構造 的要因を根拠とする弱気派は、この発表に勢いを得て、大局では何も変わっておらず、今後米国の国内景気が回 復するとしても、個人貯蓄率の低下と対外貿易赤字が恒常化するだろうと主張します。この議論に問題があると すれば、この貿易収支の赤字以外の根拠がほとんどないことです。米国国内のエネルギー供給に関するニュース 1 を見ていれば、少なくとも石油の貿易収支に関しては、大きな構造変化が始まろうとしています。加えて、ここ 数週間繰り返し申し上げてきた通り、米国企業や多国籍企業が生産を海外から米国内に戻しているという報道も 多く聞こえてきています。このように見ると、(弱気派が言うような)さらなる貿易収支の悪化は考えにくいと 思えるのです。 海外からの最新データもあります。米国の1月の発表データとは対照的に、中国では、今週発表された中国の貿 易収支は、輸出が予想以上に少なく、315億米ドルという予想を上回る大幅赤字となりました。ここでより重要 な点は、輸入が予想を超えて増加したことです。例年通り、中国の旧正月は毎年日程が変化するため、1月と2月 のデータについては、注意を要するのですが、この2ヵ月分を合計すれば、季節要因によるずれを的確に把握す ることができます。そうすると、中国は、今年に入って最初の2ヵ月間は貿易赤字であったということが分かり、 このことから、他の考慮に入れるべきデータを考え合わせると、中国の近年の貿易黒字の急速な低下は本物であ り、中国が国内需要への対応を行っていることから、今後も続いていくものと思われます。このことがもっと米 国内で報道されれば、引き続き米国の政治家から出ている的外れなコメントも減ってくるのではないでしょう か。中国が大きな貿易黒字を抱えている時代はもう終わっているのです。 昨日(3月9日)のフィナンシャル・タイムズに、中国とその「減速」そして人民元改革に対する見通しについて の私の論説が掲載されました(www.ft.com/alist)。そこで述べたことは、中国の動向をしっかりと追い続けてい る人にとっては、温家宝首相が表明した経済成長目標を7.5%とするという政府活動報告は、目新しいニュース でも何でもないということです。今後5年間の経済成長を7.5%と見込むことは、12ヵ月前に発表された5ヵ年計 画ですでに述べられているからです。さまざまな理由から、中国は、緩やかな質の高い成長をすることの方が、 今や10%以上の成長を目指すよりも適切であるという結論を出したのです。この点について、この論説記事です べて説明しています。2月のデータが発表されて景気の減速が確認され、極めて単純な政策にも拘らず多くの議 論がなされた「ソフトランディング」というシナリオが、ますます受け入れられつつあることをすべてのデータ が示しているようです。今週発表されたデータの中で、特に2つの事柄が、このことの裏付けとなります。まず、 消費者物価指数の伸びが3.2%に低下し、年間の「ターゲット」である4%をすでに下回ったことです。これによっ て、前向きの金融政策が必要であれば、実施される可能性が十分にあることが示されました。2つ目は、2月の貸 付とマネーサプライ関連データで、おそらく景気へのブレーキを緩めるためにこれまでに実施されてきた数々の 政策によって景気が上向いてきたことを示しています。これら2つのデータを見ると、巷間よく言われているこ ととは反対に、景気循環のコントロールという面で、中国政府の打ち出す政策は、引き続き極めて効果的に機能 していると言えるのではないでしょうか。 このような状況から判断すれば、フィナンシャル・タイムズの記事で述べた通り、人民元の改革は、広範かつ整 合性のある大きな計画の一環として引き続き進められるものと思われます。私がもう1つ指摘したのは、人民元 の改革イコール人民元高ということではないということです。このことに対する理解も、一部の方々の中では進 み始めているようです。 BRICs 全体に景気減速の傾向? マスコミは、温家宝首相による中国の7.5%成長「予測」を大きく取り上げました。このニュースは新しいニュー スでも何でもないばかりか、正しい背景の中で理解されなければなりません。当社は、2011年から2020年まで 2 の10年間で、中国の経済が年平均約8%の伸びを示すと予測しています。これは、米ドルベースで、中国の世界 経済に対する貢献が、米国と欧州地域を併せたものと同じくらいになることを意味しています。この10年間の最 初の年である2011年の成長が9%ですので、ここまでの貢献度はそれ以上であると思われます。中国が年率8%近 い経済成長を遂げるということは、世界経済にとっては、米国が4%の成長をすることと同等の意味を持ちます。 この中国のニュースと同じくらい注目を集めたのが、今週発表されたブラジルの2011年のGDP成長率が、2.7% と期待を下回ったというニュースでした。これも、正しい背景の中で考える必要があります。ブラジルが本当に 期待を裏切ったと思われたのは昨秋なのです。第4四半期の実質成長率は、予想をわずかに上回るものだったの です。今後を考えると、一致指標を見ても先行指標を見ても、GDPの成長率は4%程度となる見込であるため、 秋以降景気は回復基調にあると思われます。加えて、報道によると2.5兆米ドルに達すると思われるその成長は、 ドイツを除く欧州のどの国をも上回る水準で、したがって、「低い」と言われる2.7%という成長率さえも、欧州 のほとんどの国が羨ましいと考える水準であり、世界経済への貢献はそれらどの国よりも大きいのです。過去 18ヵ月間申し上げてきた通り、特にレアル高が経済に与える負担を考慮して、ブラジルに投資する投資家がより 現実的な予測値に沿った調整を行う時期が来るとは思われます。しかし、当社の今後10年間のブラジル経済の成 長予測は、わずかに4%です。これを達成するためには、奇跡など必要ありません。必要なのは、危機の回避の みです。 前四半期の GDP 成長率が 7%を下回ったことで、多くのエコノミストが予測を修正したことから、インドにつ いても再び同じようなムードが漂いました。これも、やはり正しい背景の中で理解する必要があります。インド の新たな成長率の目安が 6.5〜7%程度であるとしても、過去何十年もの間インドが達成してきた成長率に比べれ ば倍の水準です。そして、この成長率ゆえに、インドは経済規模でその他の国々を抜いて経済大国としてのラン キングを上げつつあります。そして、他国と同様、金融緩和や金融環境の改善という支援材料があれば、経済成 長は、現在の水準よりもさらにスピードアップするものと思われます。インドが、望む通りの 10%規模の GDP 成長という目標を達成しようと思えば、かなりの課題があることは事実です。そして、ウッタル・プラデシュ(UP) 州の選挙でもはっきりした通り、政策立案者たちは、もっと透明性、リーダーシップ、目的を示して、民間部門 が恩恵を享けることのできる経済の成長を促す必要があります。 ロシアについては、多くの人々が大統領選挙後の政策転換の兆しを探そうとしているため、引き続き注目が集 まっています。英国の新聞数紙にプーチン新大統領が、メドベージェフ氏、そして旧知のイタリア人の友、ベル ルスコーニ氏と共に収まっている興味深い写真が載っていました。やや驚きでした。その一方で、メドベージェ フ氏は元ユーコス社長ホドルコフスキー氏(かつて「石油王」と呼ばれ、2003年に当時大統領だったプーチン氏 と対立して脱税等の容疑で逮捕され服役中)の再捜査を行うと発表しました。いずれにしても、あまり劇的な展 開はなさそうではありますが。 BRICs4ヵ国全体を見ると、中国とインドについては各々約8%と7%、ブラジルとロシアについては、ともに4% 程度のGDP実質成長率が見込まれており、4ヵ国を併せると、2015年までには、米国の規模を上回る見込です。 そしてもちろん、ベースが大きくなればなるほど、世界GDPに対する寄与率も上昇することとなります。 3 世界の貧困は、急激に減少 先週のエコノミスト誌等の報道によれば、世界銀行が2005年に行った世界の貧困に関する調査が更新され、新事 実が明らかになったそうです。世界銀行は、1日当たりの所得1.25米ドル以下を貧困と定義した上で行っている 調査で、2010年までに世界の貧困が、1990年の半分に減ったと報告したそうです。これが事実とすれば、国連 が掲げた「1990年から2015年までの間に、世界の貧困を半分にする」という21世紀の目標が5年早く達成された ことになります。この大きな要因は中国ですが、報告を仔細に読むと、この貧困の減少は他国にも拡がっており、 喜ばしいことに、アフリカやラテン・アメリカでも著しい進歩があったとのことです。しかも、これまで最も貧 困であった地域において最大の改善が見られたそうです。したがって、金融危機以後しきりに囁かれていた批判 とは対照的に、経済のグローバル化は、世界中で起こっている貧困の改善という、人の人生にとって極めて喜ば しいことに貢献したとは言わないまでも、それと同時進行的に起こったのだと言えそうです。 スペイン 財政政策と人生にとって喜ばしいこと 人生にとって喜ばしいことと言えば、今週スペインのサッカーチームが欧州で見せた活躍をご覧になりました か。 あの魔術師メッシが、ヨーロッパ・チャンピオン・リーグのたった1試合で5つのゴールを上げたのです! 私 は、木曜日の夜、マンチェスター・ユナイテッドが、アスレチック・ビルバオに破れるのを苦々しく観戦しまし た。もし、この試合が、ユナイテッドのホームゲームでなければ、楽しい観戦になっていたことでしょう。昨年 時々思っていたのは、スペインが財政緊縮を余儀なくされた場合、スペインのチームが欧州のサッカーシーンを 席巻する時代は終わるのではないかということでした。この試合を観た後は、そのような事がなくても、われわ れの力で、そのような時代を終わらせたいと強く思いましたが。少し本題から逸れてしまいました。スポーツで こうした戦いが行われていたその週に、スペインは、鳴り物入りの財政協定(または、いくつかの国にとっては 堆肥)に対して意義を唱えた最初の国となりました。スペイン政府が欧州連合や関係者に対し、以前約束した財 政赤字削減目標の達成は不可能であると通告したのです。これは、賢明な戦略であると考えますが、当然これま ですでに盛んに行われてきた未解決の議論を再燃させることになりそうです。今回の措置は、2月のサービス業 の購買担当者景気指数(PMI)が41.9ポイントに低下したことを受けてのものであり、例え財政協定に楯突くこ とになったとしても、政策立案者にとっては賢明な動きであったと思われます。フィナンシャル・タイムズのエ コノミストであるマーティン・ウルフは、水曜日に寄せた協定に関する記事で、協定の持つ限界をすべて指摘し ています。こうしたことを踏まえて今肝心なのは、ドイツのメルケル首相が、複雑な連立与党内各派と選挙民の 支持を取り付けて、欧州が望んでいるように思える次のステージに進むことでしょう。 欧州の諸都市 先週の前半に、カンヌとモナコで36時間を過ごし、世界最大の不動産コンファレンス(MIPIM)でのスピーチを 行った後、顧客訪問をしました。会議では、私の投資見解に基づくと、欧州の諸都市、特にいわゆるセカンド・ ティアと呼ばれている都市への投資をどう考えたら良いのかという質問を受けました。(ご推察の通り、いつも 私が考えている話題とは異なる分野の質問でした)。ともかくも、この後、アムステルダム、バルセロナ、ハン ブルグ、リヨン、そして世界で最も大切な街マンチェスターといった都市の代表が紹介する短いビデオを観た後 に、ディスカッションへと移りました。欧州危機の最中の議論としては、非常に手応えのあるものでした。参加 都市の中では、ドイツのハンブルグが他の都市に比べると、少し余裕があるように思われました。この街の港と 4 しての役割と、中国からのドイツ製品に対する強い需要がその背景にあるためと思われますが、ドイツが今享受 している地域のパワーは、他の都市の羨望の的になっているようでした。 モナコは対照的で、中国の影響が増していることについてほとんど語られませんでした。しかし、これも長続き しないと思います。 英国 景気先行きは不透明 中国や米国、その他の国々からのデータとは対照的に、英国の経済データは引き続き好不調入り混じったものと なっています。先月には、かなり好調を示す兆候も見えましたが、最新のデータは概して期待を裏切るものが多 く、目先のトレンドはやや不透明に思われます。輸出や雇用に関しては、かなりの好調を示す報道もありますが、 他の分野については、あまり良い話がありません。ガソリン価格は、ポンドベースで高値を更新し続け問題になっ ています。先々週の週末にロンドンのサウス・ウエスト地区を歩きましたが、レストランやバーにいる人たちの 数が、思ったよりも少なく感じました。また、私が個人的に行っていることですが、ご近所のハイ・ストリート での新規開店数と閉店数調査によると、お店の数はやや減少しているのが最近の状況です。 マスコミの注目は、予定されている予算審議ですが、財政状況の改善で、やや政策支援の余地が広がっているよ うです。結果は、ほどなく判明するはずです。 日本と円 あまり大きな声を出さないで下さい。しかし、金曜日には再び円安となりました。米国の景気回復ムードが確認 されたことや、少なくとも日銀がインフレターゲット1%の達成を真剣に考えているかをしっかりチェックしな ければならないと考える人が増えてきたことが要因でしょう。これが主要なトピックであるかどうかについて は、アナリスト達の間では意見が分かれているようですが、私はことは非対称的であると見ています。つまり、 この変化は、ほんの小さな動きであるか、さもなければ巨大な動きであると思われるのです。 時が経てば、分か ることではありますが。このところ、幾分かの変化が起こっていることは間違いのないことで、これらの変化は、 継続的に日本国内の資産価値に極めて大きな影響を与えるものであり、もしかすると、大きな変化の前触れかも しれません。金曜日の引け後、米ドル/円相場は引き続き上昇すると考えています。そして、長期化する可能性 があると見ています。 そしてギリシャ ギリシャは今週もどうやら新聞の一面を飾り続けていたようです。これについては、お話することはありません。 どうぞ、楽しい一日をお過ごし下さい。 ジム・オニール ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長 (原文:3 月 11 日) 5 本資料に記載されているゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)会長ジム・オニール(以 下「執筆者」といいます。)の意見は、いかなる調査や投資助言を提供するものではなく、またいかなる金融商 品取引の推奨を行うものではありません。執筆者の意見は、必ずしもGSAMの運用チーム、ゴールドマン・サッ クス経済調査部(執筆者の前在籍部署)、その他ゴールドマン・サックスまたはその関連会社のいかなる部署・ 部門の視点を反映するものではありません。本資料はゴールドマン・サックス経済調査部が発行したものではあ りません。追記の詳細につきましては当社グループホームページをご参照ください。 本資料は、情報提供を目的として、GSAM が作成した英語の原文をゴールドマン・サックス・アセット・マ ネジメント株式会社(以下「弊社」といいます。)が翻訳したものです。訳文と原文に相違がある場合には、 英語の原文が優先します。 本資料は、特定の金融商品の推奨(有価証券の取得の勧誘)を目的とするもの ではありません。本資料は執筆者が入手した信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、弊 社がその正確性・完全性を保証するものではありません。本資料に記載された市場の見通し等は、本資料作 成時点での執筆者の見解であり、将来の動向や結果を保証するものではありません。また、将来予告なしに 変更する場合もあります。経済、市場等に関する予測は、高い不確実性を伴うものであり、大きく変動する 可能性があります。予測値等の達成を保証するものではありません。BRICsSM はゴールドマン・サックス・ アンド・カンパニーの登録商標です。 本資料に記載したウェブサイトリンクは情報提供を目的とするもので、それらウェブサイトや関連する商品ある いはサービスを弊社が保証または推奨するものではありません。弊社はそれらウェブサイトのコンテンツにかか わる正確性や有効性に対して責任を負うものではありません。 本資料の一部または全部を、弊社の書面による事前承諾なく(Ⅰ)複写、写真複写、あるいはその他いかな る手段において複製すること、あるいは(Ⅱ)受領者に所属する役職員あるいは受領者の委任を受けた代理 人以外の第三者に再配布することを禁じます。 © 2012 Goldman Sachs. 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