「持続可能な発展」および「主観的 幸福」概念の理論的研究

幸福度および持続可能性指標に関するワークショップ
「持続可能な発展」および「主観的
幸福」概念の理論的研究
本研究の目的
(1)「持続可能性」と「主観的幸福度」指標に関す
る理論的 実証的研究
る理論的・実証的研究
( )幸福度と持続可能性を支える 客観的条件」、
(2)幸福度と持続可能性を支える「客観的条件」、
とりわけ自然資本との関わりの研究
(3)持続可能性を保持しつつ主観的幸福度を高
めるような社会経済システムのあり方の研究
本年度の研究の進展状況
【1】第1回環境省打合せ:2011年4月21日(木)、16時~、環境省環境計画課
【1】第1回環境省打合せ
2011年4月21日(木) 16時
環境省環境計画課
【2】第1回定例研究会(外部講師を招聘しての勉強会): 2011年5月26日(木)、13:30
~、京都大学(講師:牧野松代先生[兵庫県立大学]、大橋照枝先生[東北大学])
【3】第2回定例研究会:2011年7月29日(金)、10~12時、京都大学、山下先生、林
先生よりそれぞれご報告
【4】第2回環境省打合せ:2011年11月28日(月)、午後1時~3時、環境省環境計画
2011年11月28日(月) 午後1時~3時 環境省環境計画
課
【5】第3回定例研究会:2011年11月28日(月)、15:30~17:30、京都大学、國光先生
ご講演
【6】第4回定例研究会:2012年1月10日(火)、17:00~20:00、メルパルク京都、①諸
富研究報告、②柳下先生チーム欧州調査報告、③報告書作成にの打合せ
【7:予定】幸福度および持続可能性指標に関するワークショップ:2012年3月
13日(火)、13:00~17:00、上智大学、①研究報告(2時間30分)、②コメント(草郷孝
好関西大学社会学部教授&田崎智宏国立環境研究所資源循環廃棄物研究セ
関 大学社会学部教授
崎智宏国 環境研究所資源循環廃棄物研究
ンター主任研究員、30分)、③総合討論(50分)
本研究の成果
(1) 「主観的幸福」と「持続可能性」について理論的概念
整理を行なうとともに、実証研究を通じてその規定要
因を明
因を明らかにした(第2章&第3章)。
(第 章 第 章)。
(2) 欧州・国際機関における持続可能性/幸福度指標
に関する研究を、複数の現地調査を通じて徹底的に
調査し 指標開発の最新情報を体系的に整備したほ
調査し、指標開発の最新情報を体系的に整備したほ
か、独自の指標案を提示した(第4章&第5章)。
(3) マクロ指標ではSEEA、ISEW等の代替指標の検討を
マクロ指標ではSEEA ISEW等の代替指標の検討を
行い、これらの指標について独自の試算を行ない、
指標案の提示も行なった(第6章)。
(4) これらを通じて、持続可能性戦略策定の必要性を提
起した(第5章)。
政策的インプリケーション
(1)我々の福祉水準に、人的資本、社会関係資本、自然資本、そして
人工資本といった様々なストック水準が影響を与えていることを改
めて確認
(2)われわれが真の豊かさを把握し、それを向上させるための公共政
策を実施したいと考えるならば、既存の社会経済指標に加えて、
主観的幸福度を含めた、幸福度指標、持続可能性指標、そして
GDP代替マクロ指標の充実が必要になる
代替
指標 充実
要
(3)たんに現時点の福祉水準だけでなく、それが時間軸でみて持続可
能かどうかをつねに検証しながら、政策を実施すべき
(4)そのためには 経済的条件のみならず 非経済的条件についても
(4)そのためには、経済的条件のみならず、非経済的条件についても
持続可能性に関する情報を創出・整備していかなければならない
し、それに基づいて、我々の社会が持続可能な経路に乗っている
かどうか検証して政策にフィ ドバックする仕組みを構築する必要
かどうか検証して政策にフィードバックする仕組みを構築する必要
がある
(5)現時点では、正確な定量的把握は困難でも、世界の研究動向と応
用状況を把握し、より良い指標の開発と、それを指針とする公共
政策の実施準備を進めるべき
本研究 ねら
本研究のねらい
課題の設定
• 主観的幸福と、それを支える客観的条件としての自
然資本、社会関係資本、そして人的資本について
の概念整理
• 持続可能な発展とは何か、そして望ましい社会のあ
り方とは何か を探求
り方とは何か、を探求
• 環境の豊かさを含め、人間の福祉(“well‐being”)を
引き上げる要因 解明 それに貢献する諸要素を
引き上げる要因の解明、それに貢献する諸要素を
特定、それらを定量的に評価する手法を開拓
• 次の図序‐1にあるように、GDPは、人間の幸福を評
次の図序 にあるように G は 人間の幸福を評
価する上ではきわめて狭い、その1部しか評価でき
ない
図序‐1 GDP,経済的福祉,生活状況,
幸福の概念図
Deutsche Bank Research (2006), p.3.
3つの方向での指標研究の必要性
【【1】GDPに代替するマクロ経済指標
】
に代替する ク 経済指標
【2】持続可能性(自然、社会、経済)に関する客
(
)
観指標
【3】主観的幸福度
• 主観的幸福度については、「主観主義的アプロー
チ」が「客観主義的アプロ チ」に変わりうる代替的
チ」が「客観主義的アプローチ」に変わりうる代替的
な科学的方法論になりうるか否か、吟味が必要
• 他方で、社会・経済の「非物質化」傾向を反映し、
他方で 社会・経済の「非物質化」傾向を反映し
人々の幸福度を図る指標として主観的幸福度が採
用される き客観的条件 整
用されるべき客観的条件は整いつつある
ある
図序‐2 人間の福祉に影響を与える
構成要素
スティグリッツ委員会報告の視点
• これまでの社会経済指標と異なり、以下4点
において 前者から後者に重点をシフトさせ
において、前者から後者に重点をシフトさせ
るような新しい指標開発を提案
(1)物質/非物質
(2)客観指標/主観指標
(3)フロー/ストック
(4)現在の福祉/将来時点の福祉~持続可能
性
本研究の全体像および 残された課題
本研究の全体像および、残された課題
報告書第2章
「『持続可能な発展』と『主観的幸福』
の関係をめぐる概念的・理論的整理と
研究課題」
幸福度をめぐる経済学論議の嚆矢~
「イースタリン・パラドクス」
• イースタリンは、なぜ所得が上昇すると、ある時点ま
ぜ
では人々の幸福が上昇するが、ある時点以降は、
両者に乖離が生じるのかという「パラドクス」に対し
が
て、体系的で首尾一貫した説明を与えようとした
(Easterlin 1974)
• 結果として彼は、社会的規範とされる所得水準と自
分の所得水準との比較を通じて、人々は自分の幸
福度を判断すること、したがって、基準が上昇すれ
ば、自分の所得が不変でも幸福度が下がることが
ありうると主張
「イースタリン・パラドクス」の経済学への
インパクトとその限界
~本研究の課題~
本研究 課
•
•
•
•
•
「イースタリン・パラドクス」は経済学にインパクトを与え、それをめぐって、Journal of Economic Literature誌上には、展望論文が掲載されている(Clark, Frijters and Shi ld 2008)
Shields 2008)
しかし、イースタリンの問題意識は結局、幸福度は所得によって規定されると考
えている点で限定的。日本では、大竹・白石・筒井(2010)が、幸福度を所得(ある
いは相対所得)だけでなく、失業、格差、結婚・子育てといった要因にまで拡張し
は相対所得)だけでなく、失業、格差、結婚 子育てと
た要因にまで拡張し
て研究が、なお限定的
「イースタリン・パラドクス」が起きている原因は、もっと深い社会構造変動に根ざ
しており、所得と幸福が連動しなくなった原因は、①先進国の経済構造やその産
業構造が 構造変化を被っていること ②人々の価値観や嗜好の変化が 質的
業構造が、構造変化を被っていること、②人々の価値観や嗜好の変化が、質的
な意味でも生じた点に求められる
人々はますます、物的な意味での財の消費よりも、環境や社会関係など、非物質
的消費から満足を引き出すようになっている。したがって、所得、失業、格差とい
った経済指標だけでなく、環境や社会関係などの「非経済的」な指標と幸福度の
た経済指標だけ なく 環境や社会関係などの「非経済的 な指標と幸福度の
関係に注目しなければならない
イースタリンや大竹・白石・筒井(2010) が取り上げていないが、重要な課題として
の 持続可能性」 現在の幸福度が、果たして時間軸を通じて持続可能なのかを
の「持続可能性」~現在の幸福度が、果たして時間軸を通じて持続可能なのかを
検証する必要性
「資本アプローチ」の有効性と限界
• 「『持続可能な発展』は
「『持続可能な発展』は、1人あたりの富が時間軸を
1人あたりの富が時間軸を
通じて減少しないこと」と定義
• 「富」とは、金融資本、人工資本、自然資本、人的資
「富」とは 金融資本 人工資本 自然資本 人的資
本、社会関係資本からなる。富の総量を定式化する
と 以下のようになる
と、以下のようになる
TNW pFF*+pRR+pNN+pHH+pSS
TNW=pFF*+pRR+pNN+pHH+pSS
• TNWは総国富、F*、R、N、H、Sはぞれぞれ、金融資
は総国富
はぞれぞれ 金融資
本、人工資本、自然資本、人的資本、そして社会関
係資本をさす
参考:真正貯蓄(投資)(genuine saving)
参考:真正貯蓄(投資)(genuine saving)
GENSAV=(GDS-DP+EDU-∑Rn,i-CO2Damage)/GDP
/
•
•
•
•
•
•
GENSAV:真正貯蓄率
GDS:粗国内貯蓄
DP:人工資本の減耗
EDU:教育投資支出
∑Rn i:自然資本iの減耗
∑Rn,i:自然資本iの減耗
CO2Damage:二酸化炭素排出による損害
資本アプローチの問題点
【1】資本ストックの価値を貨幣評価することが往々にして困難な
場合
【2】仮に貨幣価値評価が可能だとしても倫理的理由から貨幣
価値による統合指標を適用することが望ましくない場合
➤資本に閾値が存在する場合(「臨界資本(critical capital)」)
➤自然資本だけでなく、社会関係資本にも同様に当てはまる
• 「臨界点以上の資本ストックを制約条件とする社会的厚生の
最大化」という形で問題を再定式化できるかもしれないが、
最大化」という形で問題を再定式化できるかもしれないが
現時点では、そのような「臨界性」を定義し、定量的に確定さ
せるのは困難で、時期尚早
主観的幸福概念の導入
• 「主観的幸福
「主観的幸福」とは何か
とは何か
➤ベンサムによる「古典的功利主義」の立場
【1】「快(pleasure)」と呼ばれている状態で、感覚、
感情、雰囲気が好ましい状態。短期的にしか持
続しない
【2】 その人の人生 般に対する満足」あるいは、
【2】「その人の人生一般に対する満足」あるいは、「
望んでいたことを達成する」ことから生じる個人
的な幸福を意味し 自己反省や自己査定を伴
的な幸福を意味し、自己反省や自己査定を伴
い、感情よりは判断とより深い関係をもつ
経済学における「客観主義」の強調
• 経済学
経済学では、「主観主義」は、客観的には観察可能
は 「主観主義 は 客観的には観察可能
ではないという理由で「非科学的」とされてきた
• 実際、厚生経済学では「効用の基数性」や「個人間
実際 厚生経済学 は「効用の基数性 や「個人間
効用比較」のような主観的判断を排除してきた
• 「顕示選好理論」では、消費者によってなされた選
「顕示選好理論 では 消費者によ てなされた選
択の結果が、効用を特定するためのすべての情報
を提供してくれる との立場をとる
を提供してくれる、との立場をとる
• しかし、アマルティア・センや鈴村興太郎が批判して
いるように 経済学で主観的要素がそぎ落とされた
いるように、経済学で主観的要素がそぎ落とされた
結果、社会的厚生を測るための情報的基盤は、き
わめて狭いものになってしまった
環境経済学における客観主義
• 環境評価を行う際に環境経済学が用いるアプローチも、客
観主義的アプローチに他ならない
• 「顕示選好 (revealed preference)アプローチ」
➤市場で観察される消費者行動から、データを引き出し、その中に含まれ
る環境価値を取り出す(ex.「ヘドニック価格法」や「トラベル・コスト法」、「
る環境価値を取り出す(
「ヘドニック価格法」や「トラベル コスト法」 「
回避あるいは相殺行動法」)
• 「表明選好(stated preference)アプローチ」
➤「仮想的市場法(contigent valuation method: CVM)」が典型的。環境条件
「仮想的市場法
が典型的 環境条件
や環境質の仮想的な変化に対して、消費者自身の評価を直接質問で引
き出す
• これらのアプローチの問題点
これらのアプロ チの問題点
➤顕示選好法は、主体の合理性と市場の機能について厳格な仮定を設定
仮想的市場法は、回答の信頼性やバイアス、あるいは戦略的回答といっ
た問題をともなう
主観主義による客観主義の克服?
• 主観主義的
主観主義的アプローチは、客観主義による困難の
プ
チは 客観主義による困難
いくつかを回避できる
• この方法では、被質問者が環境条件をどのように価
の方法 は 被質問者が環境条件をどのように価
値づけるかを尋ねられることはない
• 代わりに、個人はサーベイで生活にどのように満足
代わりに 個人はサ ベイで生活にどのように満足
しているのかを尋ねられ、計量経済学的手法に基
づいて 彼らの回答が環境条件の変化とともに動く
づいて、彼らの回答が環境条件の変化とともに動く
か否か、動くとすればどのように動くのかを分析
• こうした主観主義的アプローチに基づいて、環境と
こうした主観主義的アプロ チに基づいて 環境と
幸福の関係を分析する研究論文が近年、非常に増
えつつある
主観的幸福度の計測
• 例えば“G
例えば General Social Survey”は、「総じて、最近あなたはと
lS i lS
”は 「総じて 最近あなたはと
ても幸せですか、ある程度幸せですか、それともそれほど幸
せではありませんか」の3段階評価で回答させる。“World V l S
Value Survey”では、「総じて、最近あなたは自分の生活にど
”では 「総じて 最近あなたは自分の生活にど
の程度満足していますか」という質問の下で、被質問者は、
1(不満)から10(満足)までの10段階で生活満足度を評価する
• もっとも、こうした自己評価は、①科学的にみて本当に有効
な情報といえるのか、②被質問者の回答は内的に一貫性の
とれたものと言えるのか、③自己評価の信頼性はどうか、と
いった点について議論がある
• にもかかわらず、心理学の観点からの主観的幸福研究の第
一人者であるディーナーは 今は主観的幸福指標の本格活
一人者であるディーナーは、今は主観的幸福指標の本格活
用の第一歩であり、今後、主観指標に関するデータ整備を図
り、主観評価を公共政策立案の指針とすべきだ、と主張する
(Diener and Ryan 2008; Diener et al 2009)
(Diener and Ryan 2008; Diener et al. 2009)
自然資本と「主観的幸福」 の関係
• W
Welsch (2002)が嚆矢。マクロレベルのデータを用い
l h (2002)が嚆矢 マクロレベルのデ タを用い
て、汚染物質の量の変化に応じて、主観的幸福が
どう変化するかを検証
➤その結果、前者が増加すれば、後者が低下
するという関係を見出した
• 近年、環境と主観的幸福の関係については、非常
に多くの実証研究が行われるようになってきている
➤Welsh(2006),Rehdanz and Maddison(2008),
MacKerron and Mourato(2009),倉増他(2010),
M
Moro et al.(2008),Ambrey and Fleming (2011),
t l (2008) A b
d Fl i (2011)
Vemuri and Costanza (2006),Engelbrecht(2009),
Nisbet and Zelenski(2011),Brown and Kasser (2002)
sbet a d e e s ( 0 ), o a d asse ( 00 )
,Ferrer‐i‐Carbonell and Gowdy (2007) 残された研究課題
【1】持続可能な発展を支える望ましい社会経済システ
【
】持続可能な発展を支える望ましい社会経済システ
ムのあり方、合意形成の仕組み、持続可能発展戦
略策定の必要性に関する研究
【2】「客観的条件」のストック賦存量を増大させる投資
政策のあり方 その財源や公平な費用負担制度の
政策のあり方、その財源や公平な費用負担制度の
研究
【3】人的資本や社会関係資本が 人々の創造性の発
【3】人的資本や社会関係資本が、人々の創造性の発
揮を促し、集合的学習を通じて、知識、知恵、デザイ
ン等の向上を促し それを通じてイノベーションが起
ン等の向上を促し、それを通じてイノベ
ションが起
き、新しい産業の創出を図りながら産業構造転換が
行われれる可能性とその経路の研究