59 2012年12月発行 株式会社メディコン この記事に関しては、メールアドレス:[email protected] までお問い合わせ下さい。 先天性サイトメガロウイルス 感染症 今年は風疹が流行した。妊娠初期に風疹に罹患すると先天性風疹 症候群に罹患する危険性があるので、妊婦やその家族はいろいろ 心配していた。しかし、胎児や幼児に永久障害を与える頻度は風疹 矢野 邦夫先生 よりもサイトメガロウイルス(CMV:cytomegalovirus)の方が 浜松医療センター 副院長 兼 感染症科長 兼 臨床研修管理室長 兼 衛生管理室長 メガロウイルス感染症について解説する[註釈]。 '81年 名古屋大学医学部卒業。名古屋第二 赤 十 字病院、名古屋大学病院を経て、'89年 フレッドハッチンソン癌研究所、'93年 県西部 浜松医療センター。'96年 ワシントン州立大 学感染症科エイズ臨床、エイズトレーニング センター臨床研修修了。'97年 感染症科長/ 衛生管理室長に就任。2011年4月より現職。 桁外れに多いことが余り認識されていない。ここでは先天性サイト 先天性CMV感染症の頻度 先天性CMV感染症はダウン症候群、胎児アルコール症候群(妊婦の大量アル コール摂取によっておこる胎児の発育不全や心奇形などの障害)、神経管閉鎖不全、 先天性風疹症候群よりも永久障害を引き起こす頻度が高い(図1)。ここで「先天性 CMV感染」と「先天性CMV感染症」の頻度について述べる。 [文献] ※1) CDC. Cytomegalovirus (CMV) and congenital CMV infection. http://www.cdc.gov/cmv/index.html 出産まで到達した妊婦1000人のうち、約400人が妊娠前にCMVに感染してい ない。これらの400人のうち、約7人が妊娠中に感染する。これら7人の感染女性の うち、約2人がCMV感染した児を出産する。妊娠前にCMV感染していた600人の 女性では、約6人がCMV感染した児を出産する。結局、1000人の出産児のうち、 約8人(1%以下)が先天性CMV感染の状態で出産しており、そのうちの1∼2人 (0.1%)が先天性CMV感染症によって永久障害を呈する(図2)。 図1. 米国において永久障害をもって生まれる、 もしくは、それが発現する小児の数 図2. 出産に至る妊娠1000件につき、1∼2件は 先天性CMV感染症による永久障害を持つ 出産に至る妊娠 1,000件 先天性CMV感染症 胎児アルコール 症候群 妊娠前にCMV感染 している女性 600人 ダウン症候群 妊娠前にCMV感染 していない女性 400人 神経管閉鎖不全 小児HIV/AIDS 侵襲性ヘモフィルス インフルエンザ b型菌感染症 CMV陰性の児 594人 CMV陽性の児 6人 CMV感染する 女性 7人 CMV感染しない 女性 393人 CMV陽性の児 2人 CMV陰性の児 5人 先天性風疹症候群 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 年間の発生数 永久障害の児 1∼2人 先天性CMV感染 8人 先天性CMV感染症 1∼2人 従って、米国における「先天性CMV感染」および「先天性CMV感染症」の現状は下記のようになる。 ・ 米国では妊娠可能年齢の女性の30∼50%がCMVに感染したことがない。 ・ CMVに未感染女性の1∼4%が妊娠中にCMVに初感染する。CMVに感染したとき、ほとんどの人には症状がみられないが、 一部の人では伝染性単核球症に似た症状を呈する。 ・ 妊娠中にCMVに初感染した女性の33%においてCMVが胎児に移動する。 ・ 150人の児のうち約1人が先天性CMV感染の状態で生まれている(毎年、約30,000人が先天性CMV感染で出産している)。 しかし、先天性CMV感染で出産した児の約80%には永久障害はみられない。 ・ 750人の児のうち約1人が先天性CMV感染症となり、永久障害を呈する(毎年、5,000人以上が先天性CMV感染症となる)。 妊婦へのCMVの感染経路 CMVは尿、唾液、膣分泌液、精液などの体液への直接接触によって伝播する。生後にCMV感染した幼児や小児 は尿や唾液にウイルスを排出する。幼児では初感染後、何か月もCMVを排出することがある。無症候性にCMVを 間欠的に排出することもある。尿や唾液は親やその他の介護者が「オムツを交換する」 「鼻汁を拭く」 「食事を与え る」といった活動によって、頻回に接触する体液である。 ウイルスを排出している小児の親はCMVに感染する可能性があるものの、このウイルスは容易には伝播しない。 CMVを排出している小児の親が5人いるとすると、そのなかの1人が1年以上の経過の中で感染するという程度で ある。妊婦への最も頻度の高い感染経路は「性的接触すること」および「CMV感染している幼児の尿に触れること」 の2つがある。 しかし、小児や幼児をケアする医療従事者がCMVに感染する危険性が一般の人々よりも大きいとい うことはない。これは体液を取り扱うときの標準予防策の遵守などによるものである。 先天性CMV感染の診断 先天性CMV感染は出産後2∼3週間以内に尿、唾液、血液、その他の組織からウイルスが検出された場合に診 断される。出産後2∼3週間以上経過すると、先天性CMV感染の診断ができなくなる。CMV検査が陽性であって も、それが先天性感染なのか出産後感染なのかを区別できないからである。 先天性CMV感染症の症状 先天性CMV感染症による永久障害には聴力障害、視力障害、精神障害、協調障害、小頭症、痙攣があり、稀に 死亡することがある。先天性CMV感染の児すべてに何らかの症状がみられるということはなく、その90%が誕生 時は健康にみえる。しかし、生後2年以上経過してから永久障害がみられることがあるので、先天性CMV感染の 状態で生まれたならば、定期的に聴力や視力を測定することが大切である。最終的には先天性CMV感染で生ま れた児の約80%は永久障害がみられない。 C M Vを排 出し て いる母 親 の 母 乳 CMVを排出している母親の母乳についての勧告はない。 しかし、極低出生体重児(1500g未満)にCMV抗体陽 性の母親が母乳を与えるときにはCMV伝播の危険性と母乳の有益性について考慮すべきである。1000g未満の 超低出生体重児および在胎30週未満の早産児では症候性CMV感染の危険性が高く、敗血症様症候群を呈するこ とがある。母乳を凍結または低温殺菌は伝播の危険性を減らすものの、凍結は伝播の危険性を駆逐はしない。 [註釈]本稿では、出産時にCMVに感染している場合を「先天性サイトメガロウイルス感染」、永久障害を呈する場 合を「先天性サイトメガロウイルス感染症」とした。 こちらも公開しています。 www.medicon.co.jp Cl ic k! Cl バックナンバーを、公開しています。 ic k! AJIC APICのオフィシャル ジャーナル CDCガイドライン ・カテーテル関連尿路感染予防2009 ・血管内留置カテーテル由来感染予防2011 本 社 大阪市中央区平野町2丁目5ー8(平野町センチュリービル1F) 06(6203)6541(代) Cl ic k!
© Copyright 2024 Paperzz