SAS2012年ユーザー総会資料 金融リスク管理 - リスク管理手法と最近の動向 みずほ証券株式会社 執行役員グローバルリスクマネジメントヘッド リスク管理グループ長 藤井健司 *本資料は、筆者が個人の責任におい て作成したものであり、その意見・内容 及び有り得べき誤り等は筆者個人の責 任に帰属します。 2012年8月3日 1 目次 1. 金融リスク管理 ∼ 個別のリスクと管理手法 2. 統合リスク管理 ∼ リスク資本配賦と業績評価 3. リスク管理手法をめぐる最近の動向 a. バーゼルⅢ b. トレーディング勘定の抜本的見直し 2 1.金融リスク管理 ∼ 個別のリスクと管理手法 リスク管理とは? ¾ 金融は「リスクビジネス」 ¾ 「リスク」とは? 業務に予想外の損失を生じさせ、資本を毀損する可 能性を持つ要因 ¾ 「金融リスク管理」とは? 企業価値の極大化を求める過程で発生するさまざま なリスクを、事前に定められた範囲内にとどめる活動 要は、損失の発生を想定内にコントロールし、最悪でも、金融 機関が破綻しないようにリスクを管理すること 3 1.金融リスク管理 ∼ 個別のリスクと管理手法 金融機関の損失リスク 大口貸出先 の倒産 円高による外貨 貸出目減り 貸 出 円貨 預金 信用不安によ る預金流出 外貨 金利高騰による 債券減価 債券(国債等) 株価下落による 株式含み損 株式 資本 トレーダー不正 取引による損 失計上 4 1.金融リスク管理 ∼ 個別のリスクと管理手法 リスクの定義 リスクカテゴリー 定義 市場リスク 市場の動きにより、保有ないし執行する金融資産負債ポジションの価値が変動し 損失を被るリスク 信用リスク 取引相手先の信用状態の悪化等により、与信取引の価値が減少ないし消失し、 損失を被るリスク 流動性リスク (資金流動性リスク)負債に対する資産の流動性が確保できないことにより支払不 能に陥る、あるいは負債の調達コストが著しく上昇することにより損失を被るリスク オペレーショナルリスク 不適切な内部手続き、人的要因、システムあるいは外部要因から損失が生じるリ スク 事務リスク 役職員及びその他の組織構成員が正確な事務を怠る、あるいは事故、不正等を 起こすことにより損失を被るリスク システムリスク コンピューターシステムのダウンまたは誤作動等システムの不備等に伴い、損失 を被るリスク、さらにコンピューターが不正に使用されることにより損失を被るリスク レピュテーショナルリスク 顧客やマーケット等において評判が悪化することにより、損失を被るリスク 5 1.金融リスク管理 ∼ 個別のリスクと管理手法 市場リスク ¾ 市場リスク バリュー・アット・ リスク 1% 99% 分散・共分散法 ヒストリカル法 モンテカルロ法 バックテスト ストレステスト シナリオ分析 VaR 最もありうる結果 手法 概要 各リスクファクターにおける資産負債の感応度およびその相関関係を分 分散共分散法 散・共分散行列に表し、それを元にしてVaRを計算する手法 過去に実際に起こった市場の変化を、現在のポジションに適用すること ヒストリカル・シ で、資産負債ポジションの損益を計算し、それを損失額の大きさの順に並 ミュレーション法 べ、目的の信頼確率に対応するパーセント点の損失をVaRとして求める 手法 多数の乱数を発生させるモデルを使ったモンテカルロシミュレーションに よって将来のリスクファクターの変化具合を生成し、その変動を現在のポ モンテカルロ・シ ジションに適用することで、損益を計算、それを損失額の大きさの順にな ミュレーション法 らべ、目的の信頼確立に対応したパーセント点の損失額をVaRとして求め る手法 6 1.金融リスク管理 ∼ 個別のリスクと管理手法 市場リスク ¾ 市場リスクの損失例 ブラックマンデー 1987年10月19日(月)ニュー ヨーク株式市場で発生した過去 最大規模の株式下落。NYダウ 30種平均指数は、前週末から 508ドル、比率にして22.6%下落 した 7 1.金融リスク管理 ∼ 個別のリスクと管理手法 信用リスク ¾ 信用リスク 外部格付け/内部格付け/信用リスクモデル(信用VaR) ¾ ストレステスト ¾ シナリオ分析 信用リスク分布 信用リスク分布 貸出損失の頻度 VaR 1% 99% 期待損失 μ VaR損失 σ 損失金額 ストレス損失 ω 8 1.金融リスク管理 ∼ 個別のリスクと管理手法 信用リスク ¾ 信用リスクの損失例 日本航空(JAL)会社更正法申請 2010年1月19日(火)、JAL(及び関係会社2社)は、会社更生法の適用 を申請。グループの負債総額は2兆3,200億円。事業会社としては過去 最大 2010年8月2日、JALは下記更生計画案を銀行団に正式提示 ・銀行借入や社債の債権放棄額 (内銀行団) 5,216億円 (3,830億円) (同債権カット率) ・主力銀行団に要請する新規融資額 ・2010年度人員削減 (87.5%) 3,192億円 16,000人 ・2014年度営業費用削減額(2009年度比) ・企業再生支援機構の出資額 4,400億円 3,500億円 9 1.金融リスク管理 ∼ 個別のリスクと管理手法 オペレーショナルリスク ¾ オペレーショナルリスク:不適切な内部手続き、人的要因、システムあ るいは外部要因から損失が生じるリスク ¾ オペVaR ¾ シナリオ分析 オペレーショナルリスクの分布 VaR 99% 1% 10 1.金融リスク管理 ∼ 個別のリスクと管理手法 オペレーショナルリスク ¾ オペレーショナルリスクの損失例 2011年3月、みずほ銀行大規模システム障害 大震災後の義捐金受付口座への送金殺到等からシステム障害発生 ATM一時閉鎖、口座振込みの停止等が多数発生 2011年9月、UBS銀行不正トレーダーによるトレーディング損失1,500億円 2011年9月15日、UBS銀行は、トレーダーによる不正取引により、23 億ドルの損失が発生したと公表した。 今回の損失は、2011/6末のUBSの株主資本の4.4%に当たる。 11 1.金融リスク管理 ∼ 個別のリスクと管理手法 流動性リスク ¾流動性リスク:負債に対する資産の流動性が確保できないことにより 支払不能に陥る、あるいは負債の調達コストが上昇することにより損失を被 るリスク ¾ストレステスト ¾流動性リスクフェーズの設定・コンティンジェンシープラン ¾バーゼルⅢの考慮 (流動性カバレッジ比率(LCR)、安定調達比率(NSFR) 負債 資産 資産 負債 又は 資本 預金流出 資本 負債 資産 負債増加 負債調達 資本 資産売却 12 目次 1. 金融リスク管理 ∼ 個別のリスクと管理手法 2. 統合リスク管理 ∼ リスク資本配賦と業績評価 3. リスク管理手法をめぐる最近の動向 a. バーゼルⅢ b. トレーディング勘定の抜本的見直し 13 金融機関リスク管理のアプローチ 統合リスク管理 市場 統合リスク 信用 オペ 14 2.統合的リスク管理 ∼ 資本配賦と資本充実度検証 リスク資本 「業務運営上抱えるリスク から生じる予想外の損失を カバーするために必要な 資本」 ① 各事業部門へのリスク 資本の配賦 ② リスク調整後収益評価 による業績評価 ③ リスク量に見合った資 本の保有 15 2.統合的リスク管理 ∼ 資本配賦と資本充実度検証 リスク資本管理 リスク資本の考え方 リスク資本の考え方 貸出損失の頻度 損失金額 期待損失 μ 損失はコスト認識 − ネット収益でカバー VaR損失 σ ストレス損失 ω リスク資本でカバー コア資本でカバー 16 2.統合的リスク管理 ∼ 資本配賦と資本充実度検証 リスク資本配賦プロセス リスク資本総額の決定 資本総額 含 み 益 Tier1 配分可能原資、未配分額の決定 各リスク資本額、未配分額の決定 部門毎・リスク毎資本配賦の実施 信用 市場 リスク 資本 市場 負債 その他 未配分資 本 配分可能原資 信用リスク 資本 劣後性 オペ リスク 資本 オペ 未使 用 資本 合計 法人 リテール 国際 市場 証券 合計 17 2.統合的リスク管理 ∼ 資本配賦と資本充実度検証 リスク調整後業績評価 リスク対比のリターンを評価し、より公平な部門間評価を 実現するために実施 ¾ 概念 計算式 特徴 信用コスト 控除後収益 業務純益 - 信用コスト (期待損失) 業務純益から期待損失を差し引く。すでに多くの金融機関が算 出。 ただし、各部門に配賦しているリスク資本(非期待損失)対比の収 益性は測れない。 信用コスト 控除後収益率 (RAROC、RAPM) 資本コスト 控除後収益 (EP) 信用コスト控除後収益 --------------------リスク資本 信用コスト控除後収益 リスク資本 × 資本コスト 信用コスト控除後収益をリスク資本で割ることによって、リスク資 本(使用資本でなく配賦資本が多い)対比の収益性が分かる。 ただし、比率を高めるために分母を小さくする(縮小均衡)という誘 因が働く可能性。 信用コスト控除後収益から資本コストを差し引くことで株主付加価 値を求めたもの。収益額指標なので縮小均衡を招く恐れはない一 方、そのままでは収益性は分からない。また資本コスト率を設定 する必要。 (資本コスト=リスク資本×株主期待収益率) 出典:日銀資料より 18 目次 1. 金融リスク管理 ∼ 個別のリスクと管理手法 2. 統合リスク管理 ∼ リスク資本配賦と業績評価 3. リスク管理手法をめぐる最近の動向 a. バーゼルⅢ b. トレーディング勘定の抜本的見直し 19 3.リスク管理をめぐる最近の動向 ∼ バーゼルⅢ バーゼルⅢ規制の全体像 規制内容 バ ー ゼ ル 2 .5 バーゼルⅢ トレーディング勘定取扱の見直し 証券化商品のリスクウェイト見直し・保有審査体制の整備 相関依存商品のリスクウェイト見直し ストレスVaR 資本規制の見直し 資本比率規制における中核的資本規制の導入と水準引上げ 中核的資本の定義厳格化(控除項目の拡大) 資本保全バファーの導入 カウンターシクリカルバファーの導入 金融システム上重要な金融機関に関する規制 カウンターパーティリスクの捕捉 店頭デリバティブ取引につきCVA(信用評価調整)賦課 清算機関を通じた取引の取り扱い見直し 流動性規制 流動性カバレッジ比率 安定調達比率 補完的指標の導入 レバレッジ比率 金融システム上重要な金融機関の関する追加賦課の実施 金融機関の破綻処理に関する指針(再生破綻計画の策定) リスクアセット増加(分母) 2011年末適用済み 資本強化(分子) リスクアセット増加(分母) 資産負債構造変化 資産負債構造変化 資本強化(分子) 20 3.リスク管理をめぐる最近の動向 ∼ バーゼルⅢ バーゼルⅢ資本規制の概要 資本水準 引き上げ 資本の質向上 (控除項目増) 資本保全バファー・システム 上重要な金融機関 (資本水準追加賦課) 自己資本 自己資本比率 = リスクアセット カウンターパーティの捕捉強 化(リスクアセット増加) 流動性比率 レバレッジ比率 21 4 3.リスク管理をめぐる最近の動向 ∼ バーゼルⅢ 自己資本水準の推移 14.0% 12.0% Tier2資本 その他Tier1資本 10.0% Tier2資本 8.0% その他Tier1資本 G-SIB賦課資本, 2.5% Tier2資本 6.0% Tier2資本 その他Tier1資本 資本保全バファー 資本保全バファー 4.0% Tier2資本 その他Tier1資本 普通株式等Tier1資本 2.0% 普通株式等Tier1資本 0.0% 普通株式等Tier1資本 普通株式等Tier1資本 その他Tier1資本 G-SIB賦課資本 資本保全バファー 普通株式等Tier1資本 22 5 3.リスク管理をめぐる最近の動向 ∼ バーゼルⅢ バーゼルⅢの導入タイムライン 2011 レバレッジ比率 2012 監督上のモニタリング 最低所要普通資本比率 2013 2014 2015 2016 並行ラン(2013/1/1∼2017/1/1) 開示は2015/1/1より開始 3.5% 4.0% 4.5% 資本保全バファー 最低普通資本比率+資本保全バ ファー 繰延税金資産等の普通資本控除 段階適用 3.5% 2017 2018 2019/1/1 第1の柱と 結合 4.5% 4.5% 4.5% 4.5% 0.625% 1.250% 1.875% 2.500% 4.0% 4.5% 5.125% 5.75% 6.375% 7.0% 20% 40% 60% 80% 100% 100% 最低所要ティア1比率 4.5% 5.5% 6.0% 6.0% 6.0% 6.0% 6.0% 最低所要総資本 8.0% 8.0% 8.0% 8.0% 8.0% 8.0% 8.0% 最低所要総資本+資本保全バ ファー 8.0% 8.0% 8.0% 8.625% 9.250% 9.875% 10.5% 資本調達手段の内「ティア1」及 び「ティア2」基準不適格のもの 流動性カバレッジ比率 ネット安定調達比率 2013年からの10年間でフェーズ・アウト 監督期間 開始 最低基準 適用 監督期間 開始 最低基準 適用 網掛けセルは経過措置の対象 23 3.リスク管理をめぐる最近の動向 トレーディング勘定の抜本的見直し トレーディング勘定の取り扱いにつき、抜本的見直しを提言 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 9 バンキング勘定/トレーディング勘定の境界線の見直し ストレス時に基づくキャリブレーション VaRから期待ショートフォールへの移行 市場流動性の包括的考慮 ヘッジ取引と分散効果の取り扱い 内部モデル法と標準法の関係内部モデル法の改定 標準法の改定 従来の市場リスク管理の考え方が大きく変化する可能性 24 12 藤井 健司 みずほ証券株式会社執行役員グローバル リスクマネジメントヘッド 東京リスクマネジャー懇談会(www.trma.jp) 共同代表 [email protected] 訳書「総解説・金融リスクマネジメント」(日本経済新聞社)ゴールドマン・サックス/ウォーバー グ・ディロン・リード著 1998年 著書「金融機関の統合的リスク・自己資本管理態勢」(金融財政事情研究会) 2008年 著書「リスク管理キーワード170」(共著)(金融財政事情研究会)2009年 著書「金融リスクマネジメントバイブル」 (共著) (金融財政事情研究会) 2011年 著書「金融資産市場論」 (共著) (慶應大学出版会)2011年 著書「詳解バーゼルⅢによる新国際金融規制」 (共著) (中央経済社) 2012年 著書「Operational Risk ‒ Practical Approaches to Implementation」 (共著)(Risk Publications)2004年 25
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