IV 検査項目,検査方法及び判定基準の解説 この解説は,基準で示された第一種圧力容器及びその附属設備について,その種類, 構造並びに運転管理,設備管理の留意すべき事項について解説するとともに設備ごとに 示された検査項臥 検査方法及び判定基準について,その狙い,ポイント等を具体的に 述べたものである。 (1)運転中に行われる検査の概要 第一種圧力容器は,有効期間(原則として1年) が満了する前に国又は性能検査代行機関が行う性能検査を受け,これに合格しなければ 引続き使用することができないこととされている。また,これとは別に事業者は第一種 圧力容器の使用を開始した後,1か月以内ごとに1回定期に自主検査を行い,その結果 についての記録を3年間保存することが定められている。 一般に事業者による自主検査は,蒸煮器,加硫器等のバッチ式運転を行う設備を除い て運転中に設備の状態を把握することを目的として行われ,この運転中に行われる検査 (オンストリーム・インスペクション,以下「OSI」という。)で設備の異状検知及び寿 命予測を行って,将来への影響を予知・予測するとともに,設備の信頼性向上と運転停 止時検査(シャットダウン・インスペクション,以下「SDU という。)の軽減を図って いる。 OSIとは通常次のような検査をいう。 (丑 運転監視での五感による点検・チェック ② 運転中に常時又は適宜行う検査・設備診断 ③ SDIに代わり得る検査 ④ SDIを補完する検査 この方法の利点としては, ① 運転中に進行する劣化の状態を検知することによって故障を未然に防止するこ とができる。 ② 定期保全計画が向上し,工事の無駄を省くことができる。 ③ SDIを軽減し,重点的検査ができる。 OSIにおける目視検査上のポイントの例について次表に示す。 −17− 運転時検査のポイント 区 分 温度 急 変部 高 温 部 流れ 急変部 部 保 温材 の下 具 損傷形 態 体 例 熱交換 器 な どの ノズ ルの付根  ̄ 本体 ノズル 本体 ノズル 熟 応力割 れ 拘 束応 力割 れ L ,T 管 エ ロー ジ ョン 硫 酸, スチー ム ラ イン たい積下 腐 食 た ま りラ インの腐 食 反応 器上 部 と細 い ノズル 局 部腐 食 液 た ま り部 相 変 化 部 位 ドレン抜 き管 ガ ス凝 縮部 雨 水 浸入部 外 部腐 食 と応 ノズルの付 根 6 0 −120 ℃ で雨水 に 当た る部 分 力腐食割 れ 異材 溶接部 接 合部 電位 差腐 食 S S ←S U S タン ク底部 基礎 部 外 部腐 食 保 温 タン クの底部 なお,目視検査には肉眼によるもののほかに,鏡,拡大レンズ,携帯顕微鏡,ファイ バスコープ及び管内鏡(テレビ付き)によって直接見にくい箇所を拡大して初期の割れ などを検出する方法がある。 また,ファイバスコープや管内鏡の長さは6∼10mのものまで市販され,手元で方向 回転できるものもある。 OSI実施の形態の一例としては次の3種類の検査に分類され,これらの検査を有機的 に機能させていくことが重要である。 ① 日常検査 運転管理部門が主体となって運転中に実施する日常の点検を日常検 査といい,主として比較的短時間においての急激な変化(温度・振動・緩み・作 動状態等)を外観からチェックするものである。 ② 通常検査 設備管理部門が主体となって行う検査を通常検査といい,日常検査 では異状の定量的な評価や原因の推測などが難しいため,それを補足するととも にSDIを補完するものである。 ③ オンラインモニタリング 運転管理部門,設備管理部門の区別なく行う検査で あり,現在進行しつつある現象について,時間的に継続しながら非破壊的に捉え るもの。 OSIの実施に際しては常識的に欠陥や異状の種類・性質を知っておくことが必要不可 欠であるので以下に述べる。 ① 汚れ及び閉そく 汚れや閉そくの要因には次のものがある。 i)腐食生成物によるもの ii)内部流体の固着によるもの iii)内部流体に同伴されてくるごみ,微生物等によるもの 塔槽類の場合は,蒸留塔のトレイ上にスケールがたい模してトレイバルブの正 常な作動が妨げられ,その結果蒸留効率の低下を招くことになり,悪化した場合 −18− には開放清掃が必要となる。 反応器の場合は,触媒床にスケールがたい模して差圧の上昇,触媒の性能低下 を引き起こし,触媒の再生交換が必要となる。 加熱炉の場合は,内面のコーキング及び外面のすす,スケールの付着によって 伝熟低下やホットスポット(局部過熱)を起こす可能性があり,注意が必要とな る。 熱交換器の場合は,伝熟低下といった現象が現れて効率低下となる。 また,スケール,反応生成物等によって閉そくした場合は差圧の上昇を引き起 こして開放清掃が必要となる。特に腐食生成物の場合にはスケールのたい積によ って局部的な腐食減肉を引き起こすおそれがあり,注意が必要である。 配管においては,計装ノズル,ドレンノズル,空気抜きノズル等の小口径ノズ ルの閉そくによって使用不能となったり,デッドスペースなどで熱交換器と同様 のデポジットアタックなどの局部的な腐食を起こしやすいので注意が必要であ る。 ② 漏 れ 静置機器からの漏れに関しては,大気中に漏れる外部漏れと熱交換器 のチューブ漏れのような内部漏れがある。 外部漏れの多くはフランジからの漏れであり,この場合,ボルトの締付け不足, ガスケットの劣化,フランジの熟ひずみ,熟によるボルトの伸び及び過大な配管 外力が挙げられる。 一方,回転機器の場合はポンプのメカニカルシール部からの漏れが多く,特に 可燃性又は毒性の液体を取り扱うときには注意が必要となる。 ③ 減肉(腐食及び摩耗)減肉については,内部流体の腐食因子からの内面腐食, また,エロージョン及び外部雰囲気による外面腐食に注意する必要がある。 内面腐食の場合は各腐食因子での全面腐食,孔食等設備全般での注意は当然の ことながら,構造上によるすき間腐食の起こしやすい箇所,高差圧箇所等流体条 件の変化のある箇所への注意も必要であり,汚れ及び閉そくで述べたような腐食 生成物によるデポジットアタックにも注意を払う必要がある。 外面腐食の場合は,断熱材下への雨水の侵入による原因が黄も多く,特に低温 保温配管(120℃以下)での断熱材の不良部は注意しなければならない。 ④ 割 れ 割れには素材や加工時の欠陥に起因するもの,使用中の内部要因によ るもの及び相互に関連したものがある。 割れの形態としては水素誘起割れ(広義の水素ぜい化の一種として分類する場 合もあるが,最近は一般分類による割れとして扱う。),硫化物腐食割れ,ステン レスのポリチオン酸割れ,塩化物割れ等の応力腐食割れ又は機械的振動による疲 −19− 労割れがある。 ⑤ ぜい化及び劣化 ぜい化には概ね200℃以上の水素環境下での水素侵食,高温運 転後の急冷によって残留水素量が影響する水素ぜい化並びにじん性劣化を起こす 焼戻しぜい化があり,劣化には400℃以上のクリープ領域で起こるクリープ劣化な どがある。 ぜい化は水素環境下や高温環境下で起こりやすく注意が必要である。 ⑥ 変 形 変形は熱に起因する場合が多く,加熱炉や熱交換器での過熱によるチ ューブの変形並びに耐火材の脱落,破損等に注意が必要である。 ⑦ 振 動 振動は回転機器,配管等に問題を起こすが,回転機器の場合は,回転 体のアンバランス,センタリングの不良,軸受けの摩耗,カップリングの不良, 回転部と静止部との接触等の機械的要因とキャビテーション,サージング等の流 体条件の変化によって起こる。 配管の場合は,回転機器からの影響によって起こるものが最も多く,配管の支 持不良からも起こるために注意が必要である。 ⑧ 局部昇温 加熱炉では運転上の局部過熱によって起こる場合と断熱材の劣化な どによるケーシングの局部昇温があり,回転機器の場合は異状摩耗や冷却水の停 止などによって局部昇温か起こる。 欠陥や異状の種類・性質を踏まえてそれらを検知・監視する手法を熟知していること がOSIを適用するうえで必要不可欠となるので一般的事項を以下に述べる。 ① 汚れ及び閉そく 塔槽類や熱交換器における検知には,有効な手段が少ないが, 傾向監視として運転条件の変化(差庄変化,温度変化)によってある程度捉える ことができ,特に熱交換器の場合は総括伝熟係数(u値)の管理などが有効である。 配管などについては,一般的に放射線透過試験が検知手法として有効であり, 放射線透過試験は減肉,摩耗の検知に対しても有効であることから,両者の目的 を合わせて活用するのがよい。また,配管の場合には,簡易診断としてスケール チェッカも使用できる。 (診.漏 れ 漏れの検知方法としては目視や臭覚もあるが,これを補助するものと して発泡液や石けん水,リークデイテクタ,ガス漏えい検知器等が有効である。 監視手法として特に回転機器のメカニカルシール部からの漏れに対して有効な アコースティ‘ック・エミッション試験(AE)を用いるケースもある。 (診 減肉及び摩耗 減肉や摩耗に対しては汚れの検知も兼ねた放射線透過試験があ り,減肉及び摩耗のみの検知としては超音波厚さ測定が有効である。また,減肉 監視として腐食モニタリングやドレンなどの分析も有効である。 ④ 割 れ 現状のOSIとして有効な手段が少なく,SDIによる精密検査をするの −20− が望ましい。 ⑤ ぜい化及び劣化 割れの検知と同様にOSIによる有効な手段が少なく,SDIに よる精密検査をするのが望ましい。 ⑥ 変 形 変形の検知や監視は一般的に目視を主体とし,日頃から注意を払っそ 監視する必要がある。また,必要に応じて寸法検査を行って変形の経時変化を把 握しておくことも重要である。 ⑦ 振 動 回転機器各部の振動を定期的に把握するには,振動計が有効であり, 点検時の五感(目視,聴音及び触手)も有効である。 (紗 局部昇温 局部昇塩に対しては温度計の設置や赤外線カメラを用いて定期的に 監視するのが望ましい。 (2)非破壊検査技術の概要 五感を主体とした検査と非破壊検査を中心とした定量的 な検査が実施されるが,ここでは適用する非破壊検査の性質,特に対象範囲及び適用上 の留意点について述べる。 ① 放射線透過試験(RT) 放射線透過試験はⅩ線やγ線の被検査体の透過量差 をフイルム上にコントラストとして表す検査方法であるが,OSIでは配管の減肉 や汚れ,閉そく状況の検査に汎用放射線透過試験として一般に用いられ,使用頻 度は高い。また,微小線源(100〟キューリ以下)を用いて配管のスケール状況を 検査するスケールチェッカなどの用法もある。 塔槽類や熱交換器などの大型厚肉部においては,線源側及びフイルム側の装置 が大型となるため,携行性を重視するうえで主に配管の検査に用いられた。しか し,最近ではよりコンパクト化され,塔槽類のスケール状況,蒸留塔のフラッシ ング状況の調査に用いられるようになった。また,今後の技術として保温材の劣 化(雨水の浸入による。)を中性子によって検査する方法も有効である。 ② 超音波探傷試験(UT) 超音波探傷試験は,可聴音より周波数の高いパルスを 被検査体に入射させ,その反射波又は透過したパルスを受信して欠陥を評価する 方法である。 塔槽類や配管の内部欠陥,クラッドのはく雛等の検出にSDIと同様,OSIに通 用できるが,温度が60℃以上になると音速などの変化を加味する必要がある。 また,技術的には400∼500℃の高温においても探触子や接触媒室による検出が 可能となったが,検査者に対する保護が問題となる。 ③ 超音波厚さ測定 超音波厚さ測定は超音波探傷試験と同様の原理である。 OSIでは塔槽類や配管の減肉状況の検査に用いられる。 高温用超音波厚さ測定探触子の開発実験の結果から500℃程度までの測定が可 能である。 −21− 実施に際しては音速の温度変化を対比試験し,温度補正チャートを作成してお くことが大切である。 (参 振動測定 回転機器の振動を測定することによってかなりの回転体の異状現象 を捉えることが可能である。 ピックアップ(振動端子)を用いて変位(振幅),速度及び加速度を知り,異状 の度合いを定量的に把握する。 従来は,変位をパラメータとして監視するのが主体であったが,最近では速度, 加速度の有効性が理解されつつある。 測定に当たっては次の点に留意し,測定データの解析に当たっては機器固有の 特性を十分に把握したうえで判断しなければならない。 i)振動系全体の周波数応答特性を知っておく。 ii)機器の構造上適切なポイントに測定点を設定する。 iii)測定方向は垂直,水平,軸の3方向で行う。 ⑤ 磁粉探傷試験(MT)磁粉探傷試験は,鉄鋼材料の強磁性体に対して磁場を与 え,磁場の不連続によって欠陥(主に表面欠陥)を検知する方法であり,オース テナイト系ステンレス鋼を除いて広くSDIで適用されているが,現時点ではOSI での適用例は少ない。 ⑥ 浸透探傷試験(PT)浸透探傷試験は,表面欠陥に浸透液を染み込ませ,毛細 管現象の原理によって欠陥を検知する方法であるが,常温を原則としているため, 磁粉探傷試験と同様にOSIでの適用例は少ない。 ⑦ 温度測定 表面温度計,赤外線カメラ,温度指示塗料等を用いた温度測定は, OSIでは有効であり,特に赤外線カメラは加熱炉の断熱材や保温材の劣化状況を 把握したり,回転機器のしゅう動部における局部昇塩などの監視に用いられ,そ の効果を発揮している。 ⑧ 渦流探傷試験(ET) 渦流探傷試験は,金属などの導体に交流電流を流したコ イルを近接し,導体中に電流(渦電流)を発生させ,導体の欠陥(減肉など)を 導体中の電流の大きさ分布によって検出する方法である。 この試験は,SDIにおいて熱交換器のチューブの減肉などの状況を把握する際 に用いられるが,OSIにおいては適用例が少ない。 ⑨ 漏れ試験 配管の継手などの漏れ試験はOSIにおいて重要であり,一般に発泡 液,石けん水及びガス検知器を用いて目視検査を補助する。 OSIでは漏れ試験が広く行われ,漏れ量の把握,判定等に注意する必要がある。 以上,OSI実施の形態における一般的な欠陥を検知・監視する技術及び非破壊検査技 術の概要について述べたが,最近ではロボットによる設備診断技術も開発される傾向に −22−
© Copyright 2024 Paperzz