TOPICS 第71回世界鋳造会議(WFC2014)報告 山梨大学 野 田 善 之 2014 年 5 月 18 日から 21 日までの4日間、スペイン・ビルバオ市で第 71 回世界鋳造会議が講演論文数 191 件、参加者約 800 名の規模で開催された。Advanced Sustainable Foundry をテーマに最新の研究 成果が議論された。会議の模様をリポートする。 1.概要 ある。また、展示会も開催され、最新の鋳造設備や解 析ツールなどを見学することができるため、鋳造に関 スペインのビルバオにあるエウスカルデゥナ国 わる全ての人にとって非常に有意義な会議である。今 際 会 議 場 に お い て、 第 71 回 世 界 鋳 造 会 議(World 回の会議テーマは「Advanced Sustainable Foundry」 Foundry Congress 2014:略称 WFC2014)が 5 月 18 であり、鋳造技術のみならず、人材育成などについて 日から 21 日の日程で開催された。開催地であるビル も議論された。参加者は 800 名以上とのことで、大盛 バオはスペイン北部バスク自治州ビスカヤ県の県都で 況であった。 あり、1960 年頃までは鉄鉱資源の採掘によって、製 鉄業が大きく発展した地域である。そして、近年では、 グッゲンハイム美術館の開館やエウスカルデゥナ国際 会議場の設置、世界最古の運搬橋であるビスカヤ橋の 5 月 18 日は参加登録受付とシティツア、そしてウェ 世界遺産登録によって産業都市から観光都市へと大き ルカムレセプションが行われた。筆者は 18 日の深夜 な変貌を遂げた都市としても有名である。緑の豊かな にビルバオに到着したため、これらのイベントへ出席 街で治安も良い印象を受けた。 することはできなかった。参加者の話によるとシティ 世界鋳造会議は、2 年に一度開催される鋳造技術に 関する最大の国際会議であり、世界各国から鋳造技術 者や研究者が集まり、最新の研究成果を議論する場で 写真1 52 2.開会式と基調講演 SOKEIZAI エウスカルデゥナ国際会議場 Vol.55(2014)No.8 ツアは会場から観光バスでビルバオ市内を巡回したと のことである。 そして、19 日の午前中に開会式が行われた。開会 写真 2 開会式 TOPICS 式の会場はエウスカルデゥナ国際会議場のコンサート よって更に拡大していくことやヨーロッパでの自動車 ホールでオペラ公演も可能な素晴らしい会場であっ 登録台数が増えている一方で、駐車場が減っていると た。開会式では、バスク自治州の州政府やビルバオ市 のこと、中古車市場が成長していることなど、製造か 長からの挨拶、世界鋳造会議の運営組織である World らマーケットまでをデータに基づいて多角的に紹介して Foundry Organization の会長から挨拶があった。開 いた。最後に、バスク自治州にある Orkestra‑Basque 会式の後に、ウエルカムアトラクションとしてオペラ Institute of Competittiveness の Eloy Alvarez Pelegry 歌手による重唱が披露され、全ての参加者を魅了した。 氏による「Energy and Competitiveness: From Global to 素晴らしい歓迎のおもてなしであった。 Local」というテーマで基調講演があった。ヨーロッパ その日の午後に基調講演が行われた。最初の基調 では 2030 年までに温室ガス 40%削減(1990 年と比較 講 演 は 日 本 鋳 造 工 学 会 元 会 長 で あ り、 株 式 会 社 木 して)を目指しており、スペインでは再生可能エネル 村 鋳 造 所 会 長 の 木 村 博 彦 氏 に よ る「Technological ギーの利用が急増しているとのことであった。エネル Innovation in the Foundry Industry」であった。木 ギーコストの産業別比較などが提示され、エネルギー 村鋳造所が先駆的に開発を進めているフルモールド鋳 コストは今後、国際的に高止まりになるであろうとの 造の 49 年間の歩みを紹介し、フルモールド鋳造によ 予想が示された。高効率な生産システムが今後、ます る大型鋳物の製造、および量産化の実現などが説明さ ます求められることになるであろう。 れた。これらの開発には CAE や IT 技術の導入が必 これらの基調講演では、上述のように鋳造業におけ 要であるとともに、人材育成の重要性も説いていた。 るサステナビリティが特に議論され、世界中で人材育 また、講演の最後に、「日本のイノベーションには、 成や省エネルギー化技術の開発が急務であることを実 京都などの伝統文化が大きく関与している。技術開発 感した。 におけるイノベーションにもサステナビリティが不可 欠である。」ということを参加者に伝えていた。まさに、 古くて新しい技術と言われている鋳造技術には欠かせ ない考え方であると感銘を受けた。 3.一般講演 一般講演は 5 月 19 日と 20 日の 2 日間で行われた。 二番目の基調講演では、ボルボグループの Mikael オーラル講演が 177 件、ポスター講演が 14 件の合計 Johansson 氏 に よ る「A Foundry with a Vision」 が 191 件の講演があった。セッション名と各講演件数を表 講演された。Future Process for Casting Method と 1 に示す。近年の傾向として鋳造設備技術や解析ツー いうボルボが開発している新しい生産プロセスが紹介 ル開発に関する講演が多くなりつつある。また、今回 され、シリンダーヘッドの冷却を素早く制御するクー から Management, Education and Training に関する講 リングシステムや圧力システムが提案された。これ 演セッションや若手研究者による講演セッションが開 らの開発には、現場を含めたチームでの人材育成が重 催されていた。Management, Education and Training 要であることを語っていた。三番目の基調講演では、 では、人材育成に関する議論のみならず、鋳造技術を バッキンガム大学教授の Peter N. C. Cooke 氏による 「Evolving Global Automotive IndustriesStatus & Exp 表1 ectations」であった。自動車市場は新興国での需要に 写真 3 木村氏による基調講演 セッション名と講演件数 セッション名 件数 Cast Iron 27 Energy 5 Non Ferrous and Light Alloys 30 Foundry Technologies, Equipments, Tools, Robotics and Automation 30 Advanced Engineering: Design, Calculation and Simulation Tools 17 Environment and Sustainability 11 Cast Steel 8 Moulding, Core Making and Rapid Prototyping 22 Management, Education and Training 10 Young Researcherʼ s Programme 17 Vol.55(2014)No.8 SOKEIZAI 53 TOPICS パの中小鋳造企業など 75 社が出展していた。展示会 は受付から講演会場に向かう途中の展示スペースで行 われており、会場スペースは狭いものの見学者や出展 者が多く、大変な賑わいだった。また、筆者の視点で 鋳造解析ツールを開発している企業の出展が目立って いたと思う。学術会議での展示会ということもあり、 商談とパネルによる各社の最新技術の紹介の場と言っ た感じであった。 5.バンケットと Foundrymenʼ s Night 写真 4 講演会場 5 月 19 日にバンケットが催された。会場は 1970 年 までワイン貯蔵庫として利用されていた Alhondiga Bilbao という複合施設のホールで開催された。ウエル 一般の人にどのように理解してもらうかについても議 カムカクテルで雰囲気を盛り上げた後、バンケット会 論されていた。鋳造技術者が減少している中で、効果 場に案内された。ビルバオ市長と主催者が挨拶した後 的に鋳造技術を世の中へ伝えていくことは非常に重要 に食事が振る舞われた。食後のアトラクションに、バ であり、人材育成に大きく寄与する議論であると感じ スク地方の伝統的なダンスが披露された。若い男女が た。鋳造に関する国際会議で、人材育成に関する議論 早いリズムで踊っており、躍動感のあるエネルギッシュ が今後、ますます活発になることが予想される。また、 若手研究者による講演では学生による講演が行われ、 更に若手研究者のためのセミナーが開催され、その中 で意見交換や人材交流が図られていた。 また、ポスター講演も行われていたが、コアタイム が設けられておらず、ポスターが展示されているのみ であった。ポスター講演でも発表者と議論する場が欲 しいものである。 4.展示会 展 示 会 は 5 月 19 日 か ら 21 日 の 3 日 間 開 催 さ れ、 ASK ケミカルズやフォセコ、HWS 社(新東工業の欧 州拠点)などの大手鋳造企業からスペインやヨーロッ 写真 5 54 SOKEIZAI 展示会場(コーヒーブレイク中) Vol.55(2014)No.8 写真 6 写真 7 バンケット会場 バンケットの様子 TOPICS なダンスでバスク人の情熱を感じた。 20 日にはグッゲンハイム美術館にて Foundrymenʼs Night が開催された。まず、美術館に入り、展示作品 を見学した。その中で過去に製鉄業が盛んだったこ とを表現した鋼板でできた巨大オブジェが圧巻であっ た。入館してから 1 時間くらい経過した後にパーティ が始まった。ピンチョスが振る舞われ、談笑しながら 参加者との交流を深めた。 6.閉会式および工場見学 21 日の午後に閉会式が行われた。閉会式にも関わ 写真 8 らず、約 250 名の参加者が集まった。各種受賞の表彰 閉会式 や主催者による閉会の挨拶が行われた。最後に世界鋳 造会議の伝統行事である次回開催国への会議フラッ グの受け渡しが行われた。次回開催国は日本であり、 2016 年 5 月 21 日から 25 日の間、名古屋で開催される。 7.おわりに 副実行委員長の豊橋技術科学大学教授の寺嶋一彦氏が 治安のよい街で、街全体におもてなしの雰囲気が フラッグの受け取りとビデオを交えた次回開催の紹介 あった今回の世界鋳造会議は成功裏に幕を閉じたこと を行った。日本ならではのおもてなしで参加者を歓迎 と思う。また、筆者は次回の名古屋で開催される第 したい旨が伝えられた。世界各国から多くの方が参加 72 回世界鋳造会議の実行委員のメンバーの一人であ されることを期待したい。 り、普段の国際会議の参加とは異なる視点で会議を視 22 日に工場見学が開催された。筆者は参加してい 察することができ、大変勉強になった。2 年後の開催 ないが 10 コースが用意され、120 名程度の参加者が に備え、オールジャパンの力を集結して参加者をおも あったとのことである。見学先ではオープンな議論が てなしできれば幸いである。 展開され、各社 PR に熱意を感じたとのことである。 写真 9 世界最古の運搬橋ビスカヤ橋 (世界遺産) 写真 10 ビスカヤ橋から見た街の風景 Vol.55(2014)No.8 SOKEIZAI 55
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