第4章 緑化植物種による攪乱の未然防止 1.

第4章 緑化植物種による攪乱の未然防止
本項では今後国立公園内における緑化植物の取り扱いを検討するため、小笠原における緑
化・植栽の現状を把握するとともに、事例等の整理により緑化植物導入の考え方等について
整理した。
1.小笠原における緑化・植栽の現状
小笠原においてこれまでに実施されてきた緑化・植栽の現状について、行政機関等へのヒ
アリングや既存資料の収集により過去の実績及び現状の把握を行った。また、専門家等への
ヒアリングや既存資料の収集により、在来植生の駆逐や遺伝子攪乱の現状及び今後の可能性
に関する情報を整理した。
1)村・支庁等による緑化事業
(1)村による緑化事業
村の緑化事業は公園等施設建設の際の法面緑化が中心である。父島では大根山公園、清瀬 4
期分譲地、火葬場、情報センター、奥村グラウンド等、母島ではヘリポート、村道静沢 4 号
線、母島小中学校のグラウンド、評議平グラウンド等の緑化がある。
緑化には、内地で購入したコウライシバ又は植生マット(5種程度の植物の種子を埋め込
んだマット)を従来使用していたが、近年では植生マットの使用は少ない。従来植生マット
を使用していたような場所に、緑化植物の種子を含まない、ココナッツ繊維でできた侵食防
止マットを使用している。
表−村の緑化事業概要(平成 10 年以降)
島名
父島
事業名
年度
緑化材
大根山公園
H10
植生マット
大根山公園
(地盤沈下の修復)
H15
侵食防止マット
父島
清瀬第四期分譲地
H19
植生マット
父島
クリーンセンター
H12
∼13
植生マット
緑化材に含まれる植物の種名
トールフェスク
クリーピングレッドフェスク
オーチャードグラス
ペレニアルライグラス
バヒアグラス
バミューダグラス
ヨモギ
メドハギ
ヤマハギ
種子なし
トールフェスク
クリーピングレッドフェスク
オーチャードグラス
ペレニアルライグラス
バヒアグラス
バミューダグラス
ヨモギ
メドハギ
ヤマハギ
トールフェスク
バヒアグラス
レッドトップ
119
備考
バイオマット中に左記植物種の
種、肥料、人工土壌(ピートモ
ス・バーミキュライト等)が挟ま
れた製品
自然に植生が定着するまで法
面を固定する自然分解マット
(麦藁が素材)
バイオマット中に左記植物種の
種、肥料、人工土壌(ピートモ
ス・バーミキュライト等)が挟ま
れた製品
バイオマット中に左記植物種の
種、肥料、保水材、土壌改良
材、土壌微生物菌が挟まれた
島名
事業名
年度
緑化材
緑化材に含まれる植物の種名
ローズグラス
バミューダグラス
製品
バイオマット中に左記植物種の
種、肥料、保水材、土壌改良材
が挟まれた製品
侵食防止マット
トールフェスク
バヒアグラス
レッドトップ
ローズグラス
バミューダグラス(コモン)
トールフェスク
クリーピングレッドフェスク
オーチャードグラス
ペレニアルライグラス
バヒアグラス
バミューダグラス
ヨモギ
メドハギ
ヤマハギ
種子なし
侵食防止マット
種子なし
イヌシバの挿し木を侵食防
止マット上に手植えする予
定あり
イヌシバ
侵食防止マット
種子なし
コウライシバ
コウライシバ
植生マット
父島
父島
扇浦分譲地
火葬場
H14
∼15
H17
(予定)
父島
小笠原村情報センタ
ー
父島
奥村グラウンド
父島
父島
母島
消防車庫脇の植栽
高校下の村道沿い
植栽
母島へリポート
母島 村道静沢 4 号線
母島 母島小中学校グラウンド
母島 評議平グラウンド
H17
備考
植生マット
S57∼
58
H3∼
5
H10
H12
オガサワラビロウ
オガサワラビロウ
トックリヤシ
アレカヤシ
トックリヤシ
アレカヤシ(およそ 120 本)
H14
植生マット
トールフェスク
バヒアグラス
レッドトップ
ローズグラス
バミューダグラス
H11
H17
H2∼3
コウライシバ
コウライシバ
コウライシバ
コウライシバ
コウライシバ
コウライシバ
コウライシバ
コウライシバ
120
バイオマット中に左記植物種の
種、肥料、人工土壌(ピートモ
ス・バーミキュライト等)が挟ま
れた製品
自然に植生が定着するまで法
面を固定する自然分解マット
(麦藁が素材)
自然に植生が定着するまで法
面を固定する自然分解マット
(ココナッツ繊維が素材)
従来は芝生に内地から土つき
のコウライシバのマットを入れ
ていたが、スズキリヨトウムシ移
入問題のため手植えに転換し
た。
自然に植生が定着するまで法
面を固定する自然分解マット
(麦藁が素材)
八丈島で育成していたオガサ
ワラビロウを逆移入
バイオマット中に左記植物種の
種、肥料、保水材、土壌改良
材、土壌微生物菌が挟まれた
製品
121
図−父島における村事業による緑化状況
図−母島における村事業による緑化状況
122
(2)支庁による緑化事業
支庁で実施した事業を対象に下記の手順で緑化又は緑地管理を含む事業を把握した。
■支庁事業で用いられた緑化植物種把握の手順
① 事業名等と緑化の関係性把握
平成 16∼18 年度事業に関する「環境配慮公表
用資料」を閲覧し、事業名・特性と緑化の有無
との関係性を把握
② 緑化又は緑地管理が伴うと想
定される事業抽出
①で把握した事業の特性と緑化の有無の関係を
踏まえ平成 13∼18 年度事業管理台帳から緑化
又は緑地管理を伴うと想定される事業を抽出
③ 緑化植物種の把握
②で抽出した事業について設計図書を確認し、
導入された植物種と地点を把握
※なお、緑化事業の抽出は事業関連資料の速やかな閲覧が可能であった土木課事業に関して 130
件を抽出した上で、35 件を閲覧した。
下記に支庁土木課事業のうち緑化事業が行われていると想定される事業と導入された植物
種を示す。空欄部分は管理台帳を未閲覧の事業、-は緑化が実施されていなかった事業を示す。
(131 件中 35 件の閲覧が終了)
なお、都の事業では、自然公園係管轄のものについては平成 10 年度以降、道路河川係管轄
のものについては平成 4 年度以降、緑化材は内地から導入せず、島内で確保している。また、
平成 16 年度以降、該当する事業について環境配慮を検討し、「環境配慮公表用資料」を作成
している。この中で、緑化を含む事業については、緑化樹種の配慮も行っている。
表−支庁緑化事業概要(平成 13 年以降)
年度 工事件名
施行箇所(島)
H13 沖村園地整備工事沖村園地
H13 小港園地整備工事
H13 大神山公園(大村中央地区)建築工事
公園整備
公園整備
公園整備
H13
公園整備
H13
H13
H13
H13
H13
H13
H13
H13
H13
H13
H13
H13
小笠原村母島字静沢地内
小笠原村父島字北袋沢地内
大神山公園 小笠原村父島字東町地
内
大神山公園(大村中央地区)整備工事
大神山公園 小笠原村父島字西町地
内ほか
大神山公園(大村中央地区)整備工事 その 大神山公園 小笠原村父島字東町地
2
内
大神山公園(大神山地区)整備工事
大神山公園 小笠原村父島字清瀬地
内
乳房山歩道整備工事
小笠原村母島字大谷地内ほか
小港園地設計
小笠原村父島字北袋沢地内
大神山公園建築設計
小笠原村父島字西町、東町地内
大神山公園造園実施設計
小笠原村父島字西町・東町地内
大神山公園造園実施設計(その2)
大神山公園 小笠原村父島字西町地
内
大神山公園(大村中央地区)植込地管理委 東京都小笠原村父島字西町地内ほか
託
大神山公園(大神山地区)植込地管理委託 東京都小笠原村父島字清瀬・宮之浜
道地内ほか
小笠原アパート樹木選定委託
小笠原村父島字清瀬ほか
植栽維持委託(単価契約)父の1
東京都小笠原村父島東京都小笠原
村父島都道管内
小笠原国立公園植生復元作業委託
小笠原村媒島地内
工事分類
123
公園整備
公園整備
公園整備
公園設計
公園設計
公園設計
公園設計
植栽管理
植栽管理
植栽管理
植栽管理
植生回復
植栽の
緑化材料
有無注
年度 工事件名
H13
H13
H13
H13
H13
H13
H13
施行箇所(島)
植生回復調査設計(南島)
植生回復(南島)作業委託
植生回復(南島)委託
小笠原国立公園植生回復調査委託
小笠原国立公園植生回復作業委託
道路改修工事(小−長谷の6)
道路改修工事(小−長谷の7)
小笠原村南島地内
小笠原村南島地内
小笠原国立公園 小笠原村南島
小笠原村聟島ほか
小笠原村聟島ほか
小笠原村父島字長谷地内
都240号 東京都小笠原村父島字
長谷地内
H13 長谷トンネル(仮称)整備工事
小笠原村父島字長谷地内
H13 大神山公園苗木育成その他管理委託
東京都小笠原村父島字宮之浜道地内
ほか
H14 大神山公園維持工事
小笠原村父島字宮之浜道地内
H14 小港園地整備工事
小笠原村父島字北袋沢地内
H14 大神山公園(大村中央地区)整備工事
小笠原村父島字西町地内
H14 大神山公園(大村地区)建築工事
小笠原村父島字西町地内
H14 大神山公園(大村中央地区)整備工事その2 小笠原村父島字西町地内
H14 母島山稜線歩道整備工事
小笠原村母島字舟木山地内ほか
H14 電信山線歩道整備工事
小笠原村父島字釣浜地内ほか
H14 三日月山園地設計
小笠原村父島字西町地内
H14 大神山公園設計
小笠原村父島字西町地内ほか
H14 大神山公園設計(その2)
小笠原村父島字東町地内ほか
H14 電信山線歩道測量・設計
小笠原村父島字釣浜地内ほか
H14 大神山公園(大村中央地区)植込地管理委託 小笠原村父島字西町地内ほか
H14 大神山公園(大神山地区)植込地管理委託 小笠原村父島字清瀬・宮之浜道地内
H14 植栽維持委託(単価契約)父の1
小笠原村父島都道管内
H14 緑地保護管理委託(父の1)
小笠原村父島都道管内
H14 植樹帯再整備工事(父の 1)
小笠原村父島字吹上谷地内
H14 小笠原国立公園植生復元作業委託
小笠原村媒島地内
H14 植生回復(南島)委託
小笠原村南島地内
H14 植生回復調査設計(南島)
小笠原村南島地内
H14 植生回復(南島)委託その2
小笠原村南島地内
H14 植生回復調査設計(南島)その2
小笠原村南島地内
H14 小笠原国立公園植生回復調査委託
小笠原村聟島ほか
H14 大神山公園苗木育成管理委託
小笠原村父島字宮之浜道地内ほか
H14 長谷トンネル(仮称)整備工事に伴う法面保 小笠原村父島字長谷地内
護工事
H15 中央山園地整備工事
小笠原村父島字桑の木山地内
H15 小港園地整備工事
小笠原村父島字北袋沢地内
H15 大神山公園維持工事
小笠原村父島字東町地内ほか
H15 電信山線歩道整備工事
東京都小笠原村父島字釣浜地内ほか
H15 母島山稜線歩道整備工事
小笠原村母島字船木山地内ほか
H15 中央山園地実施設計
小笠原村父島字桑ノ木山地内
H15 大神山公園(大村中央地区)植込地管理委託 小笠原村父島字西町地内ほか
H15 大神山公園(大神山地区)植込地管理委託 小笠原村父島字清瀬・宮之浜道地内
ほか
H15 緑地保護管理委託(父の1)
小笠原村父島都道管内
H15 植栽維持委託(単価契約)父の1
小笠原村父島都道管内
工事分類
植栽の
緑化材料
有無注
植生回復
植生回復
植生回復
植生回復
植生回復
道路改修
道路改修
道路整備
苗木育成
公園管理
公園整備
公園整備
公園整備
公園整備
公園整備
公園整備
公園設計
公園設計
公園設計
公園設計
植栽管理
植栽管理
植栽管理
植栽管理
植栽管理
植生回復
植生回復
植生回復
植生回復
植生回復
植生回復
苗木育成
法面保護
公園整備
公園整備
公園整備
公園整備
公園整備
公園設計
植栽管理
植栽管理
植栽管理 剪定
植栽管理 植栽
補植
記載
124
ハイビスカス
ガジュマル
コウライシバ
ハイビスカス
ココヤシ
リュウゼツラン
トックリヤシモドキ
シンノウヤシ
オガサワラビロウ
トックリヤシ
アレカヤシ
ガジュマル
ハイビスカス
ココヤシ
リュウゼツラン
植栽の
緑化材料
有無注
(ムニン)デイゴ
モモタマナ
シマグワ
インドゴムノキ
オオハマオモト
オガサワラグワ
オウギバショウ
オオハマボウ
カンヒザクラ
コンシンネ
ゴールデンシャワー
センダン
タイワンモクゲンジ
タコノキ
テリハボク
ハスノハギリ
フェニックス
ブーゲンビリア
ベンガルボダイジュ
ムニンデイゴ
モクマオウ
ホウオウボク
シマサルスベリ
フィクスベンジャミナ
プルメリア
パキラ
アメリカネムノキ
ユスラシア
クダモノトケイソウ
ワシントンヤシ
アリアケカズラ
ブンタン
アカダコ
アメリカデイゴ
タンカン
街路樹維持工事(父の 1)
小笠原村父島字北袋沢地内 外 2
植栽管理 植栽 ココヤシ
ハイビスカス
ホウオウボク
カンヒザクラ
カンキツ苗木
植栽維持委託(単価契約)父の 2
小笠原村父島都道管内
植栽管理 記載 ココヤシ
トックリヤシ
小笠原国立公園植生復元作業委託
小笠原村媒島地内
植生回復
小笠原国立公園植生復元作業委託(その 2) 小笠原村媒島地内
植生回復
植生回復調査設計(南島)
東京都小笠原村南島
植生回復
小笠原国立公園植生回復調査委託
小笠原村聟島ほか
植生回復
道路改修工事(父−境浦の4)
小笠原村父島字境浦地内
道路改修
道路改修工事(父−吹上谷の4)
小笠原村父島字吹上谷地内
道路改修
道路改修工事に伴う補償代行工事(父ー長谷) 小笠原村父島字
道路改修
大神山公園苗木育成管理委託
小笠原村父島字宮之浜道地内ほか 苗木育成
大神山公園維持工事
小笠原村父島字西町地内
公園管理
大神山公園(大神山地区)整備工事
小笠原村父島字東町地内
公園整備
母島歩道伐開作業委託
小笠原村母島字元地地内ほか
公園整備
電信線歩道整備工事
父島字釣浜地内ほか
公園整備
母島南崎線歩道整備工事
小笠原村母島南崎地内
公園整備
大神山公園(大村中央地区)植込地管理委託 小笠原村父島字西町地内ほか
植栽管理
大神山公園(大神山地区)植込地管理委託 小笠原村父島字清瀬・宮之浜道地内 植栽管理
ほか
緑地保護管理委託(父の 1)
小笠原村父島都道管内
植栽管理 剪定 ハイビスカス
ガジュマル
植栽維持委託(単価契約)父の 1
小笠原村父島字
植栽管理 剪定 ヤシ類
トックリヤシモドキ
フェニックス
(シンノウヤシ)
年度 工事件名
H15
H15
H15
H15
H15
H15
H15
H15
H15
H15
H16
H16
H16
H16
H16
H16
H16
H16
H16
施行箇所(島)
125
工事分類
植栽の
緑化材料
有無注
オガサワラビロウ
ココヤシ
オウギバショウ
トックリヤシ
記載 ハイビスカス
ガジュマル
タイワンモクゲンジ
タコノキ
タンカン
アメリカネムノキ
ホウオウボク
ブーゲンビリア
(ムニン)デイゴ
カンヒザクラ
H16 植生回復調査設計(南島)
南島
植生回復
H16 植生回復(南島)委託
小笠原村南島地内
植生回復 移植 シバ
H16 小笠原国立公園植生回復調査委託
小笠原村聟島
植生回復
H16 小笠原国立公園植生復元作業委託
小笠原村聟島地内
植生回復
H16 小笠原国立公園植生復元作業委託(その2) 聟島地内
植生回復 現地 シマスズメノヒエ
保管 スズメノコビエ
種子 モモタマナ
タコノキ
H16 道路改修工事(父ー吹上谷の5)
小笠原村父島吹上谷地内ほか
道路改修
H16 道路改修工事(父ー屏風谷・境浦の1)
小笠原村父島字屏風谷地内ほか
道路改修
H16 道路改修工事に伴う境橋橋台補修工事
父島境浦地内
道路改修
H16 大神山公園苗木育成管理委託
小笠原村父島字宮之浜道地内ほか 苗木育成
H17 宮之浜園地ほか維持工事
小笠原村父島字宮之浜地内ほか
公園管理
H17 大神山公園維持工事
小笠原村父島西町地内ほか
公園管理
H17 大神山公園(大神山地区)整備工事
小笠原村父島東町地内
公園整備
H17 母島歩道伐開作業委託
母島元地地内ほか
公園整備
H17 父島海岸線歩道設計・測量
父島北袋沢地内ほか
公園設計
H17 東山周回線歩道設計
母島東台地内
公園設計
H17 大神山公園(大村中央地区)植込地管理委託 父島西町地内ほか
植栽管理 剪定 ハイビスカス
H17 大神山公園芝生地管理作業
小笠原村父島字宮之浜地内
植栽管理 補植 イヌシバ
H17 大神山公園樹木剪定作業
小笠原村父島字西町地内
植栽管理
H17 緑地保護管理委託(父の1)
父島都道管内
植栽管理 剪定 ハイビスカス
ガジュマル
H17 街路樹維持工事(父の1)
小笠原村父島字奥村地内ほか2箇所 植栽管理 移植 ハイビスカス
H17 街路樹維持工事(父の 2)
父島屏風谷地内
植栽管理
H17 小笠原国立公園媒島植生回復調査測量・設計 小笠原嫁島
植生回復
H17 植生回復調査設計(南島)
南島
植生回復 移植 ソナレシバ
コウライシバ
H17 植生回復(南島)委託
南島
植生回復 移植 ソナレシバ
コウライシバ
H17 植生回復調査設計(南島)その2
小笠原村南島
植生回復 移植 シバ
H17 小笠原国立公園むこ島列島植生回復調査委託 むこ島列島
植生回復
H17 小笠原国立公園よめ島植生回復作業委託 小笠原村よめ島
植生回復
H17 境浦橋人道橋上部仕上げ工事及び道路改修 父島境浦地内
道路改修
工事(父ー境浦の 5)
H17 道路改修工事(父・境浦の6)
小笠原村父島字境浦地内
道路改修
H17 道路改修工事(父ー吹上谷の6)
小笠原村父島字吹上谷地内
道路改修
H17 大神山公園苗木育成管理委託
父島宮之浜道ほか
苗木育成
H17 大神山公園(大神山地区)植込地管理委託 小笠原村父島字清瀬・宮之浜道地内 植栽管理 剪定 ハイビスカス
ほか
ガジュマル
コバンソウ
H18 大神山公園移植工事
小笠原村父島字東町地内
移植
H18 母島園地等維持工事
小笠原村母島字評議平地内ほか
公園管理
H18 大村公園(大村中央地区)整備工事
小笠原村父島字西町地内
公園整備
H18 母島歩道伐開作業委託
小笠原村母島字元地ほか
公園整備
H18 父島海岸線歩道整備工事
小笠原村父島字北袋沢地内ほか
公園整備
H18 東山周回線歩道整備工事
小笠原村母島東台地内
公園整備
-
年度 工事件名
施行箇所(島)
126
工事分類
年度 工事件名
施行箇所(島)
工事分類
植栽の
緑化材料
有無注
H18 大神山公園(大村中央公園)実施設計
小笠原村父島字東町地内
公園設計
H18 海中公園施設調査・設計
小笠原村父島字北袋沢地先海面ほか 公園設計
H18 大神山公園(大村中央地区)植込地管理委託 小笠原村父島字西町地内
植栽管理 剪定
H18 大神山公園(大神山地区)植込地管理委託
H18 緑地保護管理委託(父の1)
小笠原村父島字清瀬地内ほか
小笠原村父島都道管内
植栽管理
植栽管理 剪定
H18 植栽維持委託(単価契約)父の1
小笠原村父島都道管内
植栽管理 剪定
記載
H18
H18
H18
H18
H18
H18
H18
H18
H18
クサトベラ
ハイビスカス
ガジュマル
ガジュマル等
ハイビスカス
ガジュマル
ヤシ類
トックリヤシモドキ
フェニックス
ココヤシ
ビロウ
オウギバショウ
(ムニン)デイゴ
トックリヤシ
ヤシ類
-
植栽維持委託(単価契約)父の2
小笠原村父島都道管内
植栽管理 剪定
小笠原国立公園南島植生回復作業委託
小笠原村南島
植生回復
小笠原国立公園媒島植生復元作業委託
小笠原村媒島地内
植生回復
媒島植生回復調査測量・設計
媒島地内
植生回復
道路改修工事(父ー西町・東町の1)
小笠原村父島字西町地内
道路改修
道路改修工事(父ー境浦の7)
小笠原村父島字境浦地内
道路改修
道路改修工事(父ー境浦の8)
小笠原村父島字境浦地内
道路改修
道路改修工事(父ー境浦の9)
小笠原村父島字境浦地内
道路改修
大神山公園苗木育成管理委託
小笠原村父島字宮之浜道地内ほか 苗木育成
注:表中、当該事業により植栽された植物種以外の種も示した。
「植栽の有無」の欄中、
「植栽」
:当該事業で植栽
したもの、「補植」:当該事業地に以前植栽したものを補うために同種を植栽したもの、「現地保管種子」:当
該事業実施地域で採集した種子を利用して植栽したもの、「移植」:小笠原諸島内にあった既存植物種を移植
したもの、「剪定」:以前の事業で植栽されたと推定されるものを剪定したもの、「記載」:工事管理台帳に記
載があるものの、扱いが明らかでないものをそれぞれ示している。ここで「剪定」及び「記載」と示された
ものについては、当該事業で植栽されたものではないが、以前の支庁土木課による事業により植栽されたも
の又は当該事業地に従来生育していたものと推定される。
127
128
図−父島における東京都小笠原支庁事業による緑化状況
(3)小笠原野生生物研究会による緑化事業
小笠原野生生物研究会では、ヒメマサキ、ヒメフトモモ、オガサワラビロウ、タマナ等の
固有種の苗木生産を行っており、その苗木を用いて、これまでに父島の大神山公園、嫁島に
植栽を行った実績がある。
さらに、ヒメアオスゲ、ムニンナキリスゲ、コゴメスゲの植栽を試している。
(ヒメアオス
ゲ及びコゴメスゲは帰化種)
また、媒島において、タコノキを植栽してきており、今後テリハボク、モモタマナを植栽
する予定がある。
129
2)緑化植物による攪乱の危険性
(1)WRA による侵略性の評価
小笠原において WRA(外来植物リスク評価システム)を用いた侵略性リスク評価の既往調
査研究としては加藤(2005 年)※や、その結果を踏まえてホワイトリスト作成を試みた「平成
16 年度小笠原諸島における世界自然遺産登録のための外来生物対策基礎調査(平成 17 年 3
月国土交通省)」がある。
小笠原における緑化植物の在来植生への侵略性を把握するため、前項で抽出された緑化植
物種と上記の調査研究による侵略性の評価結果との照合を行った。
WRA によって Reject と判定された種は、侵略性が高く小笠原諸島に導入した際のリスクが
高い種として評価される。また、Evaluate と判定された種は、上記の種ほどではないがある
程度の侵略性を持つと評価される。支庁、村、小笠原野生生物研究会によって用いられてい
た緑化植物は 50 種(島内産の植物除く)であり、このうち既往研究によると 24 種の評価が
実施されており、Reject と評価された種はシマスズメノヒエ、シマグワ、クサトベラ、ガジ
ュマル等 11 種、Evaluate と評価された種は 5 種、Accept と評価された種は 8 種であった。
事業
主体
支庁
※
表−WRA による緑化植物の侵略性評価
WRA
種名
判定結果
スコア
シマスズメノヒエ
31
Reject
シマグワ
20
Reject
クサトベラ
18
Reject
セントオーガスチン(イヌシバ)
16
Reject
ガジュマル
13
Reject
タイワンモクゲンジ
12
Reject
シバ
8
Reject
カンヒザクラ
7
Reject
アレカヤシ
7
Reject
アロエベラ(シンロカイ)
6
Accept
ヘルコニア
5
Evaluate
タンカン
4
Accept
コバンソウ
4
Evaluate
モモタマナ
3
Evaluate
シンノウヤシ
3
Accept
ブーゲンビリア(イカダカズラ)
2
Evaluate
トックリヤシ
2
Evaluate
ホウオウボク
0
Accept
ハイビスカス(ブッソウゲ)
-1
Accept
トックリヤシモドキ
-1
Accept
ストレチア
-4
Accept
ココヤシ
-6
Accept
リュウゼツラン
−
−
ムニンデイゴ
−
−
プレオメレ
−
−
備考
加藤(2005):小笠原諸島の固有生態系保全のための外来植物リスク評価システムについて.
小笠原研究 No.31
130
事業
主体
支庁
種名
フェニックス
ビロウ
ソナレシバ
スズメノコビエ
コバノセンナ
コウライシバ
オウギバショウ
ウンベラータ
アメリカネムノキ
アデク
F.ベンガレンシス
(ムニン)デイゴ
村
バヒアグラス(アメリカスズメノヒエ)
ローズグラス(アフリカヒゲシバ)
イヌシバ
アレカヤシ
トックリヤシ
レッドトップ
ヨモギ
ヤマハギ
ペレニアルライグラス
バミューダグラス
野生研
WRA
スコア
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
20
18
16
7
2
−
−
−
−
−
判定結果
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
Reject
Reject
Reject
Reject
Evaluate
−
−
−
−
−
トールフェスク
−
−
コウライシバ
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
クリーピングレッドフェスク
オーチャードグラス
メドハギ
ヒメアオスゲ
コゴメスゲ
131
備考
日本の侵略的外来
種ワースト 100
(2)緑化植物導入による遺伝子攪乱に関する知見等
小笠原諸島における緑化植物導入に関しての遺伝的攪乱について、専門家ヒアリングによ
り把握した現状や危険性を下記に示す。小笠原における緑化植物導入による遺伝子攪乱の事
例として科学的に証明されているものはオガサワラグワとシマグワの交雑のみであるが、小
笠原在来種と同種・同属の島外産緑化植物の導入による遺伝的攪乱が懸念されている。
■小笠原における緑化植物による遺伝的攪乱に関する既存の調査・研究
(首都大学
可知教授・加藤助教ヒアリング結果)
・小笠原における島外産植物の導入による遺伝子攪乱の例としてオガサワラグワとシマグワが
挙げられる。現時点で明確に遺伝子攪乱の影響が見られるのは、この例のみである。
・センダンに関しては、沖縄のものが小港の駐車場に 5 本、植えられている。小笠原のセンダ
ンと琉球産のセンダンでは遺伝子が異なるため、交雑による遺伝子攪乱が懸念されている。
(現在、解析中)
・オオハマボウ、モンパノキが沖縄から持ち込まれ、前浜周辺に植えられており、遺伝的な差
異や交流があったかどうか調べる必要を感じている。
・南島のコウライシバが他地域とは異なる遺伝子型を保有しているとの調査結果が数年前の緑
化工学会誌に掲載されている。このため、おそらく在来種と考えられるが、これらも緑化材
としての芝生との遺伝子攪乱が生じている可能性がある。
・ビョウタコノキは種子で繁殖している形跡は見られないので、問題はないと考えられる。土
付き苗を持ち込むのは問題であるが、種で持ち込んで栽培するのは問題ないのではないか。
タコノキとの間での交雑に関しては、突き止められてはいない。
・島外産のテイカカズラが過去に境浦の斜面に植えられたが、すぐに枯れたようである。
・母島由来のオオハマギキョウの種が亜熱帯農業センターによって父島の島民に配布されたこ
とがある。その後どうなったかは不明であるが、父島の民家の庭先にあるものは母島由来の
可能性が高い。
132
2.緑化植物種導入に際しての考え方整理
1)遺伝子多様性保全のための緑化ガイドライン・事例等
(1)生物多様性保全のための緑化植物の取り扱い方に関する提言
日本緑化工学会が平成 14 年度に取りまとめた「生物多様性保全のための緑化植物の取り扱
い方に関する提言」は緑化植物導入に係る問題点として、生態系の攪乱、浸透性交雑、遺伝
子レベルの攪乱の3つの危険性を明らかにするとともに、どのような地域や植物について注
意すべきかといった基本的な考え方を整理し、さらに、その具体化のために、植物の供給体制、
緑 化の計画・設計・施工のあり方まで、総合的な立場から配慮事項等がとりまとめられている。
以下に、緑化植物導入に際しての地域や植物の取り扱いに関する考え方に関する箇所を中
心に抜粋した。
■提言の構成と緑化植物導入に関する考え方(抜粋)
生物多様性保全のための緑化植物の取り扱い方に関する提言
1. 提言の目的
生物多様性保全の観点から、(1)移入種の増殖による自生種の生育地消失の問題、(2)移入種と自生種の
間の浸透性交雑の問題、(3)外来の系統の導入による在来の地域性系統の遺伝子攪乱の3つの問題が、緑
化の関係者に対して投げかけられている。
3. どのような植物と地域で問題にすべきか
3-2 植物についての考え方
緑化植物を取り扱う際には、先にあげた 3 つの危険性に対し、必要な対応策を講じるべきである。
植物の取扱いは地域の取扱いに優先する。植物種の分布様式は多様であり、地域区分によって、どの種も
同様な基準で取り扱えるとはかぎらない。例えば、種保全地域においても、隔離されている個体群において
は、遺伝子レベルの撹乱を防止する対策が必要になる。
1)生態系の撹乱
移入種は移入先の生態系の中の空いた生態的地位を占めることが多い。しかし、在来の自生種と競争的
な関係になる場合もあり、その場合には生態系に及ぼす影響は深刻になる。
2)浸透性交雑
生物学的種は生殖的隔離によって定義されているものの、異所的に分布する種の間には生殖的な隔離
機構が発達していないことも多いので、分布域を越えて植物を植栽することによって、雑種が形成されること
がある。その雑種が母種と戻し交雑をくり返すと、種間の差異がなくなる。
3)遺伝子レベルの撹乱
種内の変異は、自然選択に影響を与える非中立的なものと、自然選択の働かない中立的なものとがある。
非中立的な変異は生育環境に適応したものであるから、その取扱いを誤ると、緑化に失敗したり、その地域
に不適応な形質の遺伝子が広がることになる。中立的な変異はその集団の進化の歴史を反映しているの
で、生物進化を研究する材料として重要である。このような学術的な観点からは変異をできる限り保全するこ
とが望ましい。
以下に、同種であっても、人為的移動に慎重な配慮を要する例について示す。
(1)種より下位の明瞭な分類群 変種などの種より下位の分類群を形成している場合には、この分類群の
対立遺伝子の構成を守らなければならない。例えば、中国産コマツナギは日本産コマツナギと形態的
に明らかに区別できるので、区別して取扱う必要がある。
(2)広域分布種 分布域の広い種の中には、分布域の中で遺伝子流動が均一に行われず、場所によって
異なった対立遺伝子の構成になっている場合があると考えられるので、安易な長距離移動は謹むべき
である。例えば、地理的変異の大きな種の個体を分布域内の他の地域に移動させることは緑化の失敗
133
を招く可能性がある。例としてはブナがあげられる。
(3)不連続分布種 分布域が不連続な種は、それぞれの分布域の個体群がメタ個体群とみなされるので、
個体を別の分布域に移動させることは遺伝子流動の範囲を越えた個体の移動となるから遺伝子レベル
の撹乱を招く。
(4)絶滅危惧種 絶滅危惧種は減少の過程で生育地が不連続になっていることが多いので、不連続分布
種と同様である。ただし、近交弱勢などの遺伝的な劣化が起きている場合には、遺伝子レベルの撹乱
よりも種の存続を優先させるために、個体群間の個体の移動が必要になることもある。
(5)周縁の個体群 分布域の周縁に位置する個体群は、種を構成する集団の中で対立遺伝子の特異な
構成を持っている場合があると考えられるので、そのような場合には他の個体群の個体を持ち込まない
ように注意することが望ましい。
3-3 地域についての考え方
緑化植物を取り扱う際には、いかなる地域であろうと、緑化によって本来生育していない種や系統を持ち込
んで生態系を撹乱したり、対立遺伝子の構成に影響を与えて遺伝的な多様性を撹乱したりする危険性につ
いて配慮しなくてはならない。以下に 4 つの保全レベルをあげる。
1) 遺伝子構成保護地域
遺伝子構成保護地域とは3つの危険をすべて排除する地域である。すなわち、人為による対立遺伝子頻
度の変化を行わない地域であり、緑化による特定の対立遺伝子頻度の変化を避けるため植物の導入は一
切行わない。対象となるのは、原生的な自然を有し記念物的な価値の高い地域、学術的な理由から植物
の人為的移動を認めない地域である。
2) 系統保全地域
系統保全地域とは、3 つの危険のうち、人為による対立遺伝子頻度の変化を認めざるを得ない地域であ
る。緑化にあたって、その地域に新たな対立遺伝子を持ち込まないように地域に自生する系統を用いた緑
化を行う。対象となるのは、隔離されたハビタットであり、具体的には島嶼、高山、河川、湿地に加えて、自
然の保護を図る地域である。地域の広がりについてはそれぞれの植物の遺伝子流動の範囲とする。
3) 種保全地域
種保全地域とは、3 つの危険のうち、遺伝子レベルの撹乱を認めざるを得ない地域である。緑化には自生
種を用い、その系統は問わない。施設の形態や管理条 件等によって、栄養繁殖による逸出を防ぐ手当て
が可能ならば、交雑によって作出した種子繁殖力を持たない緑化植物を使用することも認められる。
4) 移入種管理地域
移入種管理地域は、1∼3 の領域を除いたすべての地域がこれにあたる。一般に、自然生態系から隔離さ
れた環境で、人間による植物の管理が可能な領域である。植栽した植物が自然生態系に逸出しないように
管理しながら、移入種を植栽できる。
これを従来の自然保護の地域区分と対応させてみると、遺伝子構成保護地域には例えば原生自然環境
保全地域、森林生態系保護地域、天然記念物があたり、系統保全地域には例えば自然公園の特別保護
地区、自然環境保全地域などが適当であるという見方があるが、現状の制度では厳密には対応しない。ま
た、現状では 自然保護制度の規制の網がかかっていない里山にも、系統保全地域や種保全地域に位置
付けることがふさわしい場所が多い。事業の計画段階において、調査に基づいて、地域の位置付けを適切
に判断する必要がある。
3-4 地域性系統の移動の範囲
遺伝子レベルの撹乱を防ぐためには、地域性系統を遺伝子流動のある範囲の中で使用することが必要であ
る。この範囲は、対象種の分布様式、繁殖様式、種子 散布様式によって異なる。例えば、丸石河原の植物で
は流域が単位になり、隔離された島嶼の植物では島が単位となる。
4. 調査・計画
4-2 緑化植物導入の地域生態系影響評価
1)侵略種の取り扱い
侵略種と判定された種については、遺伝子構成保護地域、系統保全地域、種保全地域では、原則的に
用いない。また緑化対象地がそのような地域に属さなくと も、下流にそのような地域や場所があり、影響が
危惧される場合は、侵略種の利用は望ましくない。用いる場合は逸出が起きないように工法を工夫するなど
対策が必要である。
134
2)種間交雑対策
近縁の移入種を導入する場合、地域の自生種との浸透性交雑を引き起こす危険性があり、注意を要す
る。貴重と認められる自生種に対して、導入しようとする植物が浸透性交雑を起こす可能性がある場合、そ
の植物の緑化利用を避けるべきである。
3)種内の遺伝的撹乱対策
遺伝子構成保護地域と系統保全地域では、他地域からの植物材料の導入を原則として避ける必要がある。
種や地域性系統の保全が重要項目として計画段階で採択された場合は、それを明確な目標として掲げ、周
到に準備を進めなくてはならない。
5. 緑化植物の生産と供給
5-1 侵略種のやむをえない利用と対策
侵略種となる可能性のある移入植物の利用はどのような場合でも好ましくないが、防災上の目的のため、使
用せざるを得ない場合がある。たとえば広面積の盛 土法面の侵食防止では、イネ科草本を用いた急速緑化
のほかに、代替できるよい工法がないという現状がある。こうした場合の植物材料については、今後、種子不稔
系統や短命系統、環境選好性系統等の非侵略性系統の選択・育種等が望まれるほか、新たな工法の検討な
ど早急な技術的対応が望まれる。
5-2 地域性種苗の利用
2)契約生産
契約生産は地域性系統苗を得る比較的確かな方法だが、発注を受け、採種・繁殖・育成を行うのに数年
を要する。契約生産で重要なことは、こうした時間をいかに確保するかという問題である。
樹木では毎年結実しない樹種が多数あり、発芽にも 1 年以上を要す樹種も少なくない。さらに同じ地域性
系統でも個体差があり、発芽までの年数を含め、多様 な形質を内包している。いっぽう種子を採取できる結
実期は限られている。そのような条件のもとで、遺伝的多様性を確保しようとすれば、採種以前にも十分な
資源調査がなされる必要がある。そのため、契約生産により良好な苗木集団を得るためには、現状の技術
で、最低 5 年程度を必要とする。
この時間を確保するには、事業が数年にわたる計画性をもって進められることが不可欠である。このように
数年にわたる事業の中では、従来、しばしば約束の不履行が生じ、生産者が損失をかぶるという事態があっ
た。これをさけるためには、発注時にきちんとした契約が行われることが必要である。
あるいは、植物の納品をもって支払いが行われるのではなく、採種、育苗、苗供給それぞれの時点で支払
いがなされるなどの方策も検討されてよい。この方法だ と、それぞれのステージで検査も同時に行われるこ
とになり、苗の信頼性を確保することにもつながる。
種苗の地域的系統を保証する原産地や母樹の記載が重要なことは、市場種苗の場合と同様である。
3)公共事業体直営の種苗生産
上記のようなシステムは、現状では未整備と言えよう。こうした状況の中で、確かな地域性の種苗を準備す
るためには、発注者自ら生産を行うという方法があ る。現に一部の公団ではそのような施設を有し、苗生産
を行っている。過去には地方自治体が緑化樹生産を直営していた時代もあった。公共事業による緑化にお
いて、確かな地域性系統を準備するためには、こうしたシステムの立ち上げが検討されてもよい。
6. 基盤造成と緑化植物の導入
6-2 植物導入手法の選択と問題点
緑化手法には生物多様性保全のレベルに応じて様々な方法がある。下記に一部を示すが、万能な方法は
なく、状況に応じて、適切な方法が選択され、必要に応じて組み合わせて用いられなければならない。
1)外部から植物を導入しない緑化手法
遺伝子構成保護が要請される領域では、外部から植物を導入してはならない。当地域は後の計画の見直
しがきかない場所であり、このため計画段階で植物材料 の入手方法・緑化方法についての入念な検討が
必要となる。原則として小規模な工事に限定され、緑化手法としては以下の方法が考えられる。
(1)周囲からの植物の自然な侵入に任せる方法(無播種・無植栽)
侵食防止など必要な処置は、物理的・化学的手法を用いて行うこととし、植物の導入は行わず、周囲から
の植物の自然侵入を待つ方法。周囲の生物的ポテン シャルが高く、対象個所が小規模の場合には有効な
方法である。しかし大規模な場合は、景観的に問題があり、土壌浸食などが生じやすいうえ、コンクリート構
造物等の持ち込み、侵食防止剤の大量施用などが必要となる場合が多く、物理的・化学的手法そのものに
135
伴う問題が発生する可能性がある。種子の供給源を欠く など立地ポテンシャルが低い場合は、植生回復が
著しく遅れる事態も生じる。
(2)現場産植物と埋土種子の利用
工事対象個所に生育していた植物を利用する方法。移植などして、植物を採取して用いる場合、仮植えス
ペースが必要で、工事の全体計画にうまく移植計画を 組み入れる必要がある。手間がかかる、活着率が低
いなどの問題があり、より確実性が高い緑化・植栽方法の開発が望まれる。種子を採取し栽培すると活着率
は 高いが、育成に必要な時間がより必要となる。
埋土種子は有用な現場産資源で、その利用は微生物を含む土壌もあわせて保全されるので、生物多様性
の保全に対しては有効な方法の一つである。しかしなが ら、発生する植物は休眠性を有すものに限られ、そ
れらの種・系統を無意識に選抜していることになるので、まったく生物保全的というわけではない。一部の先
駆的な植物が優占・繁茂する傾向があり管理が難しい、土壌浸食を受けやすいといった問題もある。
2)地域性系統あるいは自生種を用いた緑化手法
系統保全が要請される領域では、地域性種苗や現場産資源を用いて緑化を行う。材料調達が難しいこと
が最大の難点である。
種保全が要請される領域では、地域性系統に限定されないが、在来の自生種を用いて緑化を行う。
これらの方法では、用いる植物に応じた土壌条件等の環境整備も重要で、施工時期も植物に適した季節が
選択される必要がある。
その手法は大きく下記の3つに分類できる。
(1)初期的な侵食を抑えるなど、人為的な植物の導入は非永続的な植物に限定する方法
発芽・初期成長の早い草本植物を用いて、早期の地表面被覆を行い侵食防止を行うが、外部からの植物の
侵入、遷移の進行によって、導入植物は消滅することを期待する急速緑化の手法である。よって緑化対象
地の生態系に与える人為的影響は小さい。しかし、導入植物が外部に逸出して、生態系の撹乱要素となっ
ている問題が指摘されているため、早期緑化用にも、自生種が用いられることが望ましい。
(2)自然侵入を促すなどのため、人工的な植物導入を部分的にはかる方法
緑化対象地に種子の供給源となる母樹や止り木を導入する方法である。緑化対象地に母樹や止まり木があ
ると、鳥散布をはじめとした種子散布が促進され、遷移 の進行が早まる。それらの樹木は永続的に残存す
るため、自生種や地域性系統としての吟味が必要だが、多くの空間は立地条件に応じた植物が周囲から侵
入・定着するのを待つ。
土壌浸食の防止などに工法の工夫が必要である。
(3)完全に人工的な植生の成立をはかる方法
「潜在自然植生緑化」や「樹林化」などが、この範疇に含まれる。その場合、竣工当初から、完成目標の構
成植物を人工的にすべて導入する。それらは永続 的、半永続的に残ることが期待されるため、導入植物の
種や地域性等の吟味は厳重に行う必要がある。また、このような方法で地域性系統を用いて緑化をはかる
としても、系統保全地域内では、単一の種を大量に用いるのは避けるべきである。単一種の個体数の急増
は、地域の生態系に撹乱を及ぼす危険性がある。この方 法は生態系の変化に対する人為的な干渉がもっ
とも大きく、生物多様性の観点からは細心の注意を要する方法である。
3)移入種を管理しながら用いる緑化手法
種を問わない場合でも、移入種の外部への逸出、侵略種の繁茂が起きないよう管理する。
さきに述べたように、草本による急速緑化法は、緑化対象地の生態修復に優れた方法だが、導入草本種の
逸出が問題とされている。今後、非侵略性の種・品種の利用・開発を行い、外部への影響の軽減を図るべき
である。
7. 評価
7-5 地域性系統の判定方法
地域性系統の判定法については現在、研究段階にある。既往の知見からは以下の方法と基準が適正と考え
られる。
導入しようとする集団と導入先周辺の地域集団から、それぞれ最低 20 個体以上をランダムサンプリングし、ア
ロザイム分析を行う。遺伝子型の決定には、遺伝子座を 15 以上とることが望ましい。解析の結果、Nei の遺伝
的同一度が 0.9 以上あれば、両集団間で遺伝的交流があると言える※4 。さらに形態や生態に目立った違い
が見いだせなければ※5、導入しようとする集団と導入先の集団は同一の地域性系統とみなすことができる。
136
しかし、栄養的に増殖された種苗の場合などには、その種苗群の遺伝的多様度が低くなるため、かりに採取
元の地域性集団との間で検査を行っても、遺伝的同一度は低く算出される場合がありうる。種苗は複数の母樹
から採取し、じゅうぶんな遺伝的多様性を確保しなければならない。
ところで、個々の種苗がある地域性系統に属すかどうかは、上記の方法で調べることはできない。調べることが
できるのは、種苗個体とその母樹とされる個体との間の親子関係であり、マイクロサテライト DNA などを用いた
別の分子遺伝学的方法※6 によって検査する。
※4 集団の遺伝的交流を示す遺伝的同一度の値には、0.8 から 0.95 まで様々な報告があり、今後、さらなる検
討を要す。
※5 風媒の木本植物の場合等では、形態や生態に地域性が認められても、分子遺伝学的には隔離が認めら
れないことが多い。その場合は、形態や生態による地域性を、基準として優先させるべきである。
※6 種毎にプライマーを設計する必要があり、現状では実用的とは言いがたい。
137
(2)自然公園における法面緑化指針(案)
平成 18 年3月に策定された「自然公園における法面緑化指針」は、昭和 55 年に策定され、
さらに平成 12,13 年度で改訂された「自然公園における法面緑化基準」について、外来生物
法の施行等をふまえ再度改訂を行ったものである。
緑化植物の取り扱いに関する主な改訂の方針は下記の通りである。
○緑化に関する自然公園法運用方針の見直し
→一律に早期緑化を求めず、地域の健全な自然生態系の回復を目標としつつ、地域の自然環
境の現状と風致、景観保護上の重要性を勘案して適切な緑化工法を選択することとし、法
面が植物で被覆されるまで時間がかかる場合があることを許容する。
○在来種重視・外来牧草排除の方針の見直し
→自然公園内では地域個体群の遺伝的攪乱をもたらすおそれのある「外国産在来種」を使用
することを避け、浸食防止あるいは防災上等、外国産の緑化材料での緑化が必要やむを得
ない場合には外来草本類の利用も許容する。ただし、外来草本であっても、侵略的な影響
を及ぼすことが懸念される種の利用は避ける。
○在来種利用の適否判断
→利用する在来種が国産のものであっても、自然分布域を超えた植物の人為的移動は行わな
いこととする。また、自然分布域内であっても、変種や特異な地域個体群の分布域に他地
域産の個体は持ち込まないようにすることが重要である。
また、
「自然公園における法面緑化指針」においては、自然環境の実情に応じて4区分の保
全水準を設け、保全水準ごとの緑化の取り扱い、植物材料について、下記のように「自然公
園における保全水準と法面緑化の基本方針および緑化工指針(案)」
、
「自然公園における保全
水準に対応する植物材料」として整理している。
138
表−自然公園における保全水準と法面緑化の基本方針および緑化工指針
保全水準
※1
対象地域
緑化の
基本方針
1
この水準を適用する地域は、特に厳重に風
致景観(景観を支える生態系や景観の構成
要素である動植物を含む)の維持を図る必
要性のある地域、またはこれに準ずる地域
であって、動植物の移動は原則として行わ
ず、当該地域に生息・生育する個体群の現
状を変更しない公園管理を行うことが必要な
地域である。
・特別保護地区、および第 1 種特別地域の
全域
・第 2 種と区別地域、または第 3 種と区別地
域のうち、植生復元の困難な地域等下記
のいずれかに該当する地域であって、その
全部又は一部について史跡天然物の指定
若しくは刈り指定がなされていること、また
は第 1 種特別地域に準ずる扱いが現に行
われ、又は行われることが必要であると認
められる地域
(1)高山帯、亜高山帯、風衝地、湿原など植
生の復元が困難な地域
(2)野生動植物の生息地、または生育地と
して重要な地域
(3)地形、もしくは地質が特異である地域、ま
たは特異な自然の現象が生じている地域
(4)優れた天然林、または学術的価値を有
する人工林の地域
・地域の健全な生態系の回復を目標とし、緑化
による遺伝子レベルでの攪乱を避けるため、
外部からの植物材料は一切持ち込まない。
・周囲からの植物の自然侵入が期待できる
場合には、侵食防止効果の高い植生基盤
の造成のみ行い、周囲からの植物の自然
侵入を待つ工法(植生誘導工※10)を積極的
に検討する。
・植生誘導工※10 のみでは、侵食が進み、そ
の影響が周辺に及ぶおそれがある場合で、
周辺から種子等の植物材料が採取可能な
場合には、播種など、積極的な緑化を行
う。
・定期的なモニタリングを行い、最終緑化目
標※3 が達成されるまで、順応的な植生管理
を行う。
・植生回復に長期間(5∼20 年以上)を要して
も最終緑化目標※3 を確実に回復させる。
2
この水準を適用する地域は、風致の維持を
図る必要はあり、かつ人為の影響をあまり受
けていない地域であって、地域的に生息・生
育する動植物の個体群に対して人為的影
響を出来るだけ与えない公園管理を行うこと
がとが必要な地域である。
・第 2 種特別地域、および第3種特別地域の
うち下記に該当する地域
(1)人為的攪乱をあまり受けていない自然
林、あるいはそれに近い二次林の地域
(2)生物多様性保存上重要な二次草原地
域(シバ草原、ススキ草原、ササ草原など)
(3)保全水準 1 の地域と近接している地域
であって、保全水準 1 の地域の上流側に位
置する地域
・使用植物 ※4 を採取する地理的範囲を限定
し、当該地域に自然分布する植物の系統の
みによる緑化を目標とする。
・保全水準1に近接している地域など、必要に
応じ、植生誘導工※10 の適用も検討する。
・少なくとも5∼10 年程度で初期緑化目標群
落 ※2 を成立させ、その後は植生管理によっ
て最終緑化目標群落※3に誘導する。
・定期的なモニタリングを行い、最終緑化目
標が他制されるまで、順応的な植生管理を
行う。
139
3
この水準を適用する地域は、風致の維持を図
る必要はあるが、農林水産業等による人為的
な影響を相当受けている地域にあって、農林
水産業等の人為的関与の存在を前提にし
て、風致に支障を及ぼさない公園管理を行う
必要のある地域である。
4
この水準を適用する地域は、市街地、集落
地などが含まれ、すぐれた自然の風景地の
保護の視点から、風景に対して著しい支障を
及ぼさないよう適切な公園管理を行う必要の
ある地域である。
・第2種特別地域、第3種特別地域、および普 ・第2種特別地域、第3種特別地域、および普
通地域のうち下記に該当する地域
通地域のうち下記に該当する地域
(1)人為的攪乱を大きく受けている自然林 (1)市街地、集落地
の地域
(2)その他、上記及び保全水準1∼3のいず
(2)保全水準2以外の二次林、二次草原、二
れにも該当しない地域
次林地域
・地域に自生する植物の系統による緑化を目標
とするが、侵食防止あるいは防災上等、外国産
の緑化材料による緑化が必要やむを得ない場
合には、外来草本類の利用を許容する。
・侵略的な影響を及ぼすことが懸念される外
来植物の利用は避ける。
・地域に自生する種と同種の植物であっても、
地域個体群の遺伝的攪乱をもたらすおそれ
のある国外由来の植物を利用することは避け
る。
・地域に自然分布する植物であっても、緑化目
標の達成を阻害する植物(クズ等つる植物
等)の利用は避ける。
・外来草本を利用した場合には、目標群落に
移行させる措置を講ずる。
・必要に応じモニタリングを行い、初期緑化目
標※2が達成されるまで、必要な植栽管理を行
う。
・地域に自然分布する植物による緑化が望ま
しいが、地域の植生と調和した、違和感のな
い緑化を優先し、外来植物の利用も許容す
る。
・侵略的な影響を及ぼすことが懸念される外
来植物の利用は避ける。
・地域に自然分布する種と同種の植物であっ
ても、地域個体群の遺伝的攪乱をもたらす
おそれのある国外由来の植物を利用するの
は避ける。
・国内に自生する種であっても、緑化目標の
達成を阻害する(クズ等つる植物等)の利用
は避ける。
1
2
3
4
・使用植物、及び自然侵入種で形成される ・該当地域ないし施工対象地域が属する自 ・該当地域ないし国内に自然分布する植物 ・該当地域ないし国内に自然分布する植物
植物群落(施工対象地域に自然分布する 然公園の同一団地内に自然分布する植物 で形成される植物群落
種で形成される植物群落
植物で形成される植物群落)
で形成される植物群落
・ただし、造園的に管理された景観形成を行
※2
う場合を除く。
(2)
・施工対象地域の植生と同等の植物群落 ・施工対象地域の植生と同様または、それに ・該当地域ないし国内に自然分布する植物 ・国内に自然分布する植物種を主体とする
最終緑化
を主体とする植物群落
植物群落
(施行対象地域に自然分布する個体群※9 できるだけ近い植物群落
目標群落
のみからなる植物群落)
・ただし、急速緑化※8による侵食防止や造園
※3
的な景観形成を行う場合を除く。
・施工対象地域に生育する植物と同種とし、 ・主構成種は※10 は施工対象地域が属する ・主構成種※6、補全種※7とも国内に自然分 ・主構成種※6 、補全種 ※7 とも国内に自然分
使用植物は地域外からは一切持ち込まな 自然公園の同一団地内に生育する植物と 布する植物と同様とする。
布する植物と同様とする。
い。
同種とする。
・ただし、保全種※7 として必要な場合は、下 ・ただし、急速緑化※8や造園的な景観形成
(3)
・ただし、保全種※11 として用いる先駆樹種※13 流域に保全すべき貴重種等がない場合に を図る場合は、下流域に保全すべき貴重
使用植物
種がない場合に限り、外来植物の利用を許
は国内に自然分布する植物と同種のもの 限り、緑化外来草本まで許容する。
※4
・なお、国内に自然分布する種と同様であ 容する。
まで許容する。
・なお、国内に自然分布する種と同様であ
・なお、国内に自然分布する先駆樹種 ※9 で っても国外由来の植物は用いない。
っても外来由来の在来植物は用いない。
あっても国外由来の植物は用いない。
・施工対象地域周辺から採取する。
・国内とする。
・施工対象地が属する自然公園内同一団 ・国内とする。
(4)
・種子等の採取、育苗計画を立案し、使用 地内、かつ可能な限り同一都道府県内同 ・ただし、補全種※7として必要な場合には緑 ・ただし、急速緑化 ※8 や造園的な景観形成
使用植物を 植物※4を確保する。
化用外来草本も可とする。
を図るために用いる場合には外来植物も
一流域内から採取する。
採取する地
・使用植物の入手径路を確認する。
許容する。
・ただし、先駆樹種※9は国内も可とする。
理的範囲
・使用植物の入手径路を確認する。
・種子等の採取、育苗計画を立案し、使用植
物※4を確保する。
・目標群落の成立が可能な工法とし、かつ ・目標群落の成立が可能な工法とし、かつ ・目標群落の成立が可能な工法とし、かつ ・目標群落の成立が可能な工法とする。
植生基盤造成は侵食防止効果の高い工 植生基盤造成は、侵食防止効果の高い工 植生基盤造成は、侵食防止効果の高い工
法とする。
法とする。
法とする。
・使用植物の調達が困難で、かつ周囲から ・使用植物 ※4 の調達が困難で、かつ周囲か
(5)
植物の自然侵入が期待できる場合には植 らの植物の自然侵入が期待できる場合に
適用工法
生誘導工※10 を積極的に検討する。
は植生誘導工※10 を検討する。
・緑化基盤工や植生基盤材などは、地域の
生態系への影響を与えない自然材料を選
定する。
・最終緑化目標群落※3が形成されるまでモ ・初期緑化目標群落※2が形成されるまでモ ・外来緑化草本を用いた場合は、必要に応 ・外来植物を用いた場合は、必要に応じて
ニタリングを行い、評価に基づき順応的管 ニタリングを行い、評価に基づき順応的管 じてモニタリングや逸出防止のための管理 モニタリングや逸出防止のための管理を行
(6)
う。
を行う。
理を行う。
理を行う。
植生管理
※15
・外来種など、目的としない植物が侵入した ・外来種など目的としない植物が侵入した
場合は速やかに除去する。
場合は速やかに除去する。
・災害復旧の場合には、保全水準1∼4の地域とも地域住民の生活環境の早期復旧、および災害の拡大防止を優先する。
災害時の特例 ・災害復旧の場合においても、保全水準に対応する最終緑化目標群落を設定し、災害復旧について一定の成果をみた後、最終的に移行されるための植生管理などの措置を
講じる。
(1)
初期緑化
目標群落
緑化工指針
(注釈)
※1適用する保全水準は事業ごとに決定する。
※2初期緑化目標群落とは、施工対象地において緑化工で形成される初期段階の植物郡落のことを言う。
※3最終緑化目標群落とは、初期緑化目標群落が形成された以降の植生管理や植生遷移を経て、施工対象地において最終的な目標となる植物群落のことをいう。
初期緑化目標、最終緑化目標ともに、緑化施工地周辺の植生の状況により、事業ごとに検討、設定する。
140
※4使用植物とは、緑化工で使用する植物のことをいう。国立公園内では、外国で生産、あるいは採取された木本植物(外国産のコマツナギやヤマハギなど)や草本植物(ヨモギなど)は使用しない。
国内産の植物であっても、自然分布域を越えて使用してはならないことは当然のことである。
※5個体群とは、ある空間内に育成している同種固体の総体のことを言う。対象となる空間の規模は保全水準によって決定される。
※6主構成種とは、初期緑化目標群落を構成する主要な植物を総称して言う。どの種を主構成主にするかは初期緑化目標によって異なる。
※7補全種とは、初期緑化目標群落を構成する主構成種の成長を助けるために混播、混植する植物を総称して言う。どの種を補全種にするかは初期緑化目標によって異なる。
※8急速緑化とは、発芽育成の早い草本植物(主に緑化用外来草本)を用いて播種を行い、急速に裸地を緑化被覆する緑化方式を総称していう。
※9先駆樹種とは、遷移の初期に法面等の裸地に侵入して定着する木本植物を総称していう。緑化工で主に用いられているものに、ハンノキ類、ハギ類、グミ類、カンバ類、ウルシ類(ヤマウルシ、ヌルデ、ヤマハゼ
等)、アカメガシワ、クサギ、松類などがある。
※10 植生誘導工とは、植物の自然侵入を促す植生工の総称で、種子を混合しない生育基盤を造成する方法(種子なし植生基材吹付工)と、埋土種子(種子潜在表土)を用いた生育基盤を造成する方法(種子潜
在表土播き工)に分類される。
※11 植栽管理とは、緑化工の検査終了以降、導入植生を初期化目標に近づけるための管理を総称していう。植生管理作業には、追肥、追播、補植、除伐、除草などがある。
表−自然公園における保全水準に対応する植物材料
導入植物の分類
施工対象地域の個体群
1
保全水準
2
施工対象地域が属する
国内自然分布する
自然公園内の個体群
個体群
−
−
◎
◎
◎
○
※2
緑化用外来牧草本類
その他の外来種
−
−
−
−
※3
3
◎
◎
◎
△
4
◎
◎
◎
○※4
△※4
なし
ほとんどなし
一部あり
あり
あり
要採取計画
要採取計画
市場調査
一般流通
一般流通
植物材料の市場性
植物材料の調達
凡例 ◎:使用可 ○:条件付で使用可 △:条件付で使用許容 −:使用不可
※1保全水準は事業ごとに決定される。
※2初期緑化に必要な先駆種に限る。
※3初期緑化に必要な場合に限る。
※4急速緑化による侵食防止や」造園的な景観形成などの理由がある場合に限る。
141
−
(3)外来生物による被害の防止等に配慮した緑化植物取扱方針検討調査
「平成17年度外来生物による被害の防止等に配慮した緑化植物取扱方針検討調査(平成18
年3月環境省)」においてとりまとめられた「国立公園における緑化植物の取扱方針」におい
ては外来緑化植物の取り扱いについての考え方が整理されており、その全文を下記に示す。
国立公園における緑化植物の取扱方針
1 調査対象種の当面の望ましい取扱方向(案)
調査対象種※の当面の望ましい取扱方向の整理では、調査対象種による影響の回避・低減を念頭に
おいた望ましい取扱いを行うための基本的な考え方(案)を調査対象種の有用性に配慮して整理す
るとともに、国内において指摘されている影響に対応した調査対象種の望ましい取扱方向(案)を
整理する。
(1) 調査対象種の取扱いに係る暫定的な考え方(案)
調査対象種(本調査における調査対象種45種)は、在来の緑化植物に比べその多くが環境への耐
性や生育性が高く、安価で大量な入手が可能であることから、在来の緑化植物では生育しにくいせ
き悪な土壌地や災害復旧等の早期緑化が求められる場所において、有用な役割を果たしている。
しかし、在来緑化植物に比して繁殖等の機能性の高い外来緑化植物材料は、使用した法面緑化地
とは異なる場所に逸出し生態系等に影響を与えるなど、侵略的な性質を有しているものもあり、そ
の導入により在来種との競合・駆逐や生態系基盤の改変、在来種との交雑、農林水産業への影響、
地域本来の自然景観を損なうなどの可能性を有している。
外来緑化植物による生態系等への影響を回避・低減させるためには、外来緑化植物の使用を控え
ることが望ましいといえるが、現状においては調査対象種に替わる在来緑化植物の供給体制が整っ
ていないことや機能的に補完でき生態系等への影響がない代替種が明らかになっていないことなど
から、現状において調査対象種の使用を取りやめることは困難である。
このため、当面は、緑化地周辺の地域の生物多様性を損なわないことを前提として、調査対象種
の個々の特性に十分留意して適正な利用を図っていくものとする。
(2) 調査対象種の望ましい取扱方向(案)
調査対象種の望ましい取扱方向(案)では、国内において影響事例が報告されている①生態系へ
の影響、②農林水産業への影響に関する調査対象種の望ましい取扱方向(案)を整理する。
なお、現状において法面緑化等への使用がないギンネム、キシュウスズメノヒエ、シバムギ、ハ
イイロヨモギに関しては、ここでの対象としない。
1) 生態系への影響に対応した望ましい取扱方向
外来緑化植物による生態系への影響は、現状において河川や海岸地、都市近郊二次林地、耕作
放棄地などで、生態系等に対する影響または影響の可能性が指摘されている。この中でも特に河
川敷が受けている影響が多く指摘されているが、緑化地から影響の発生地までの経路は明確には
なっていない。
論文等により影響が指摘されている種は、シナダレスズメガヤやハリエンジュである。また、
シナダレスズメガヤ以外のイネ科植物も河川敷に多く生育していることが報告されており、各種
が同じような特性を有しているため、シナダレスズメガヤと同様の影響を発生させる可能性が懸
念されている。
このため、ここではイネ科植物(シナダレスズメガヤと調査対象種に含まれるその他のイネ科植
物)とハリエンジュに区分し、以下に望ましい取扱方向(案)を整理する。
さらに、影響に関する報告はないが、在来緑化植物と交配することによる遺伝的なかく乱が懸念
されている(外国産)在来緑化植物の使用は、生物多様性保持の観点で問題であることから、それ
に対応する望ましい取扱方向(案)を以下に整理する。
① イネ科植物
シナダレスズメガヤに関しては高い草丈によって、河原の固有植物であるカワラノギク等を被
陰していること、砂を堆積することにより土壌環境を改変することが報告されている。また、現
時点において生態系等への影響発生と関連するかは明瞭ではないが、シナダレスズメガヤの高い
142
発芽率や、やせ地でも生育できるという特性が確認されている。
このように多くの影響が指摘されているシナダレスズメガヤに関しては、今後、使用を控える
ことが望ましい。
また、シナダレスズメガヤ以外のイネ科植物も河川敷に多く定着している。これらイネ科植物
が逸出している場所は、実態調査から河川敷や路傍などの植生がない、あるいは少ない空間など
であり、主にかく乱環境地となっている場合が多い傾向にある。
かく乱環境地に逸出しているイネ科植物は、高い草丈を有しているものが多いため、高い草丈
であるシナダレスズメガヤと同じような影響を及ぼす可能性がある。また、かく乱環境地への逸
出・定着は、シナダレスズメガヤを例に考えると高い発芽率や成長速度、種子生産量等に起因す
ることが考えられる。
これらのことより、緑化材料としてイネ科植物の選定に際しては、緑化目的を達成し得る範囲
内において、可能な限り、草丈の低い種・品種、種子による繁殖力の小さい種・品種を使用する
ことが望ましい。
同時に、施工等を行う際には、上記の特性を持つ種の播種量や配合比率を小さくすることによ
り、使用量を抑えるなどの工夫が望まれる。
なお、緑化現場では、多様な環境に対応させるために、多種を混播する事例が見受けられるが、
当該緑化地域の生物多様性を保全する上で、やみくもに種数を多く播種することは控える。
また、生物多様性保全上において重要な地域(自然公園区域特別保護地区や特に保全が必要な
希少種等の生育地等)では、可能な限り地域性系統に配慮した緑化植物材料等の活用、森林表土
を用いる工法や自然植生の侵入を促進する工法等の生物多様性に配慮した緑化工法を導入するこ
とが望ましい。ただし、災害時等においては緊急的な措置として外来牧草等の使用を行う場合も
ある。この際には、使用後等において生物多様性保全に配慮した対策に十分配慮する。
② ハリエンジュ
ハリエンジュは、他の木本に比較して水平根の伸長が速く、根萌芽による再生力が強い。また、
根粒菌の窒素同化作用による土壌の富栄養化により、本来河原等に生育しない好窒素性の草本植
物の生育を可能とし、河川における生物多様性を低下させることが報告されている。
このように、ハリエンジュの影響を受けている場所は、海岸や河原といったかく乱環境地であ
るが、崩壊地等における緑化材料としての有用な植物であるとともに、養蜂業では蜜源として利
用している。
このことから、ハリエンジュの使用に際して、生物多様性保全上重要な地域(自然公園区域特
別保護地区や特に保全が必要な希少種等の生育地等)においては、可能な限り、新たな使用を避
けるなど慎重な対応を図ることが望ましい。
また、その他の場所においては、周辺自然環境への影響に配慮して、その使用を検討すること
が望ましい。
③ (外国産)在来緑化植物
(外国産)在来緑化植物は、在来植物との交配により遺伝的かく乱を引き起こす可能性が高い
ことが指摘されている。
生物多様性の保全を最優先に考える場合、国内産の在来緑化植物等を用いた緑化を行うことは
望ましいが、現実的には、(外国産)在来緑化植物と同等の供給が行える状況にはない。
これらのことより、(外国産)在来緑化植物に関しては、当面、生物多様性保全上において重
要な地域(自然公園区域特別保護地区や特に保全が必要な希少種等の生育地等)において影響に
配慮した取扱いを行う。
このため、法面緑化等にあたっては緑化目的を達成し得る範囲内において、生物多様性保全上
において重要な地域では可能な限り(外国産)在来緑化植物の使用を避け、周辺の植生の状況等
に応じて、国内産の在来緑化植物や地域性系統に配慮した緑化植物材料等の活用、森林表土を用
いる工法や自然植生の侵入を促進する工法等の生物多様性に配慮した緑化工法を導入することが望
ましい。
2) 農林水産業への影響に対応した望ましい取扱方向
農林水産業への影響を及ぼす種は、リンゴ炭そ病の寄宿源となるクロバナエンジュ及びハリエン
143
ジュである。その影響として、リンゴ栽培地に近接する法面において、これらの種が使用されたた
め、リンゴ炭そ病が発生したことが報告されている。
このことより、リンゴ栽培地周辺では、緑化目的を達成し得る範囲内において、可能な限りクロ
バナエンジュ及びハリエンジュの新たな使用を避けるなど慎重な対応を図ることが望ましい。
2 国立公園における緑化植物の取扱方針(案)
国立公園における緑化植物の取扱いに関しては、3 省合同調査により整理された「調査対象種の当面
の望ましい取扱方向(案)」を踏まえ、緑化植物に係る取扱方針を以下に整理する。
植物
クロバナエンジュ
ハリエンジュ
イネ科植物
(外国産)在来緑化
植物
取扱方針(案)
・国立公園内でリンゴ栽培地周辺に立地する場所では、緑化目的を達成し得る範囲内に
おいて、可能な限りハリエンジュの新たな使用を避けるなど慎重な対応を図ることが
望ましい。
・国立公園内の自然公園区域特別保護地区及び第1種特別地域、貴重種や重要種の生育地
域等、生物多様性保全上重要な地域では、ハリエンジュの新たな使用を避けるなどの
慎重な対応を図ることが望ましい。
・国立公園内のその他の場所においては、周辺自然環境への影響に配慮して、その使用
を検討することが望ましい。
・国立公園内においては、シナダレスズメガヤの使用を控えることが望ましい。
・法面緑化等において、その他のイネ科植物を使用する場合には、緑化目的を達成し得
る範囲内において、可能な限り、草丈の低い種・品種、種子による繁殖力の小さい種・
品種を使用することが望ましい。また、やむを得ず草丈の高い種・品種、種子による
繁殖力の大きい種・品種を使用する場合には、播種量や配合比率を小さくすることに
より、使用量を抑えることが望ましい。
・自然公園区域特別保護地区及び第1種特別地域、貴重種や重要種の生育地域等、生物多
様性保全上重要な地域では、特に、可能な限り地域性系統に配慮した緑化植物材料等
の活用や、生物多様性に配慮した緑化工法(植生誘導工等)の導入を行うことが望ま
しい。
・自然公園区域特別保護地区及び第1種特別地域、貴重種や重要種の生育地域等、生物多
様性保全上重要な地域で生育する植物と同種の(外国産)在来緑化植物を用いようと
する場合には、可能な限りこれらの使用を避ける。
・また、このような場所では、緑化地周辺の植生の状況等に応じて、国内産の在来緑化
植物や地域性系統に配慮した緑化植物材料の活用、生物多様性に配慮した緑化工法(植
生誘導工等)の導入を行うことが望ましい。
※:本調査の対象は、「特定外来生物等専門家会合」において整理されている「別途総合的な検討を進める緑化
植物」の対象植物を主体とし、国内の法面緑化等において一般的に使用されている外来植物(国内に自然分
布域を有する種であっても国外から導入されている(外国産)在来種を含む)を対象としている。
144
(4)三宅島緑化ガイドライン
三宅島は平成 12 年の噴火後、大量に噴出した火山灰ならびに火山ガスにより島の多くの地
域の植生が被害を受けた。
東京都や村等の関係機関は緑化関係調整部会を設置し、関係機関による検討、有識者から
の意見聴取を行い、平成 16 年1月に「三宅島緑化ガイドライン」をとりまとめた。またガイ
ドラインに示した方向を具現化するための詳細を定めた「三宅島緑化マニュアル(第1版)」
を平成 16 年3月に策定した。
「三宅島緑化ガイドライン」および「三宅島緑化マニュアル(第1版)」においては、下
図のように泥流対策、自然の回復の他、産業振興や環境教育に資する緑化の推進を目的とし
ており、緑化の基本的考え方を示すとともに、自然環境・社会状況を踏まえた区域区分を設
定し、区域毎に緑化手法・緑化に用いる植物等の事項を整理するとともに、必要な苗木数、
地域性系統の苗木を供給するための島内での生産体制に関する検討も実施されている。
↓
緑化ガイドライン策定の目的
目的
1 泥流対策としての緑化の推進
→泥流量の削減
2 自然の回復を目指した復旧工事の推進
→地域性系統(以下、在来植物)主体の緑化
生物多様性の保全
3 復興を見定めた産業振興の苗づくり
→緑化用在来植物の生産体制の整備
4 多様な主体との連携の強化
→高校生等復興の担い手の育成・活用と高校・大学等
への教育の場の提供
→
実施方策
1 緑化を行う区域と行わない区域の明確化
→自然災害の傷跡を観光・教育資源化
2 組織横断的な取組の推進
→さらなる連携の強化
3 国・都・村・民間ごとの取組の明記
→各機関の役割分担を明確化
4 民間等からの創意工夫の取り入れ
→企業提案方式等の導入を検討
(出典):東京都 HP
以下に「三宅島緑化ガイドライン」及び「三宅島緑化マニュアル(第1版)」における、
緑化植物の選定や苗木の生産等、遺伝子多様性保全に資する緑化技術等に関する記載箇所を
整理した。
145
■三宅島緑化ガイドライン
2 緑化の方針
(1)基本方針
②緑化の基本的考え方
三宅島の植生は、離島という隔離された環境下で形成されてきた。緑化によって不用意に外来種の植物を
用いることは、自生種の生育地の消失やその遺伝子の撹乱を引き起こす可能性があり、生物多様性の保全
上、特に注意が必要である。
また、これまでの火山活動に結びついた地形や森林景観等が自然公園として利用されてきた経緯があり、
噴火後の自然の遷移を保全していくことは観光資源や環境教育の点からも重要である。
そこで本ガイドラインでは、緑化の基本的な考え方を次のとおりとする。
ア 緑化にあたっては三宅島の生態系及び景観に配慮するものとし、緑化用植物を場合は三宅島の地域
性系統の植物を優先的に使用する。
イ 緑化の対象となる区域は、従前の植生に著しい枯損等被害が発生した箇所、復旧事業で新たに無立
木地化した箇所及び道路植樹帯とする。
ウ 上記イ以外の区域は、原則として本ガイドラインの対象としない。
3 緑化工事の基準
(1)緑化手法
②植生工
ウ 緑化に用いる植物の選定
三宅島の緑化工事においては、生態系への影響を最小限にするため、下記の方針により緑化用植物を
取り扱うものとする。
ⅰ 人為的に植物を導入して緑化を行う場合は、地域性系統の苗木・種子等を優先して使用するものとす
る。
ⅱ 侵食防止や災害防止を目的とした速やかな緑化が必要な箇所にあっては地域性系統以外の植物を
利用することも可能とする。この場合、次の事項に留意する。
・植生遷移が進む中で、地域性系統の植物に置き換わっていくと考えられる種や先駆植物であること。
・地域性系統の植物と交雑する可能性のないこと。
・種子・花粉の散布等によって施行地以外へ逸出し、増殖するなど生態系へ影響を及ぼす可能性のな
いこと。
ⅲ 道路植樹帯等では、島民に対するうるおいのある空間の提供や観光客が抱く島のイメージに配慮した
緑化が必要である。そのため、樹種の選定にあたっては、地域性系統の植物を含めて検討し、樹形、
花等の樹木の特徴と周囲の景観とのバランスがとれた樹種を選択する。これらの採用においても、逸
出等による生態系への影響には留意する。
ⅳ 使用する緑化植物の採取地・生産地を明確にしておく。
ⅴ 島外から緑化用植物を持ち込む場合は、苗木や土壌等に対し付随して病害虫が侵入しないよう確実
にチェックを行うものとする。
146
■緑化を行う際の区分と留意点
区分
環境条件
工法
緑化目標
使用する
植物
A 区分
・火山灰、および火山ガ
スにより植物の生育が
困難。
・植生の被害は甚大。
・緑化基礎工による生育
環境の造成。
・地域性系統を用いた拠
点的な試験緑化。
・緑化試験の実施と適用
可能な工法の検討。
地域性系統による自然
回復
・地域性系統が優先す
る植物群落を造成・回
復する。
B 区分
・火山ガスの影響を受ける
一部の箇所以外は比較
的被害は小さい。
・植物の生育は可能。
・緑化基礎工による生育環
境の造成。
・植栽・播種による緑化。
・条件の良い場所では周
辺からの自然侵入や埋
土種子の利用を検討。
地域性系統による自然
回復
・地域性系統が優先する
植物群落を造成・回復
する。
C 区分
・火山ガスの影響を受け
る一部の箇所以外では
植物の生育が可能。
D・E 区分
−
・緑化基礎工による生育
環境の造成。
・植栽・播種による緑化。
−
地域性系統やそれ以外
の植物による景観造成
・1∼3 年で良好な景観形
成が可能な植樹帯を造
成・回復する。
D 区分
自然の遷移による植生
回復
・自然の植生遷移ゆだ
ねることとし、原則緑化
は行わない。
E 区分 対象外
−
・地域性系統の種子・苗 ・地域性系統の種子・苗 ・景観形成の目的等から
地域性系統以外の植物
木等を用いる。
木等を用いる。
を用いてもよい。
・防災上必要な場合は、
地域性系統以外の先
駆植物などを用いても
良い。
・造林地は所有者の意向
によりマツ等を植栽。
・地域性系統以外を用い交雑しない植物のみに限定
する。
・周辺への逸脱の危険性等に留意する。
・三宅島で使用していない植物は使用しない。
・採取地・生産地が明確なものを用いる。
4 緑化用植物の生産
(1)生産する緑化用植物
緑化のために生産する緑化用植物は、地域性系統とする。
緑化用植物の生産者は、試験研究機関等と連携し、数種類の生産に取り組んでいく。
147
(2)生産の手法
実生からの栽培だけでなく、挿し木、取り木等多くの技術を用いて、様々な使用の緑化用植物の生産と供
給を行っていく。
また、島内で摂取しやすい植物について調査を行い、緑化用植物としての利用を積極的に検討していく。
緑化用植物の生産に当たっては、事前に必要な種類・数量等を取りまとめ、これに応じた規模で一元化し
て行っていく。
(3)生産体制
①三宅島内生産
現在の三宅島は入島に制限があるが、植栽後の環境への適応や輸送コストを勘定し、緑化用植物は原則
として島内で生産していくものとする。
しかし、未だ全島避難が続いているため、緑化用植物を大量に生産、供給する体制になく、また、施設も整
っていない。そのため、まず当面の間、三宅村が緑化用植物の生産の拠点となる施設を整備する必要があ
る。将来的には島内の林業者や農業者を雇用した管理体制を構築し、生産、供給を行うだけでなく、島民へ
の生産技術の普及・啓発を図っていくものとする。次いで、段階的に林業者、農業者各戸での生産に移行す
ることを目指すものとする。
東京都は、栽培指導チームを編成し、緑化用植物の生産についての助言・指導を行う。
②内地生産
現在での生産体制が整備されても、緑化用植物の生産には2∼3年を要することから、当面は供給不足が
予想される。この不足分については、内地での植木農家等による生産を行い補填していく。また、避難中の
三宅高校や都立の農業高校との連携も図っていく。
148
■三宅島緑化マニュアル(第1版)
4 使用する緑化植物
三宅島の緑化は生態系及び生物多様性の保全に配慮した緑化とすることを目指していることから、地域性系
統の苗木・種子等を使用することを原則とする。
現段階で地域性系統種苗のうち入手可能な緑化植物を表に示す。
(23 種を表記:略)
なお、都道周辺で緊急に侵食防止を目的とした緑化を行う場合、及び街路樹や園地等の植栽を行う場合に
は、地域性系統の植物に限らない。ただし、生態系への影響を生じさせないよう、下記の方針により取り扱う。
①種子
侵食防止を目的とした厚層基材吹付工、種子吹付工、植生シート工・マット工等に用いられる一般流通品の
種子を対象とし、下記の方針による。
方針
初期の侵食を防止することを目的とし、通常は修景を目的としない。侵食防止後は速やかに衰退し、在来
の植生へ置き換わっていくものとする。配合は、三宅島の温暖な気候条件下では時間の経過とともに衰退
すると考えられる寒地性牧草類を主体とする。なお、寒地性の種でも耐暑性のあるものは使用しない。「郷土
種」と呼ばれるヨモギやイタドリ等は、地域性系統のものと交雑する可能性のものがあり、また侵食防止機能
の発揮の上では必ずしも必要でないため用いない。
使用種子及び配合例
種名
播種量(g/㎡)
トールフェスク
196
ハードフェスク
41
ペレニアルライグラス
31
《考え方》
寒地性であるトールフェスク、ハードフェスク、ペレニアルライグラスを用いる。ペレニアルライグラスは初期
の発芽・成長が早いものの短期間で衰退する。ただし、初期成長が速いため、播種量を増すと他の牧草が
被圧され、ペレニアルライグラスのみの植生となり、夏枯による修景効果の悪化が激しくなるため、播種量は
抑える。これにより、トールフェスク、ハードフェスクの間にペレニアルライグラスが点在し、やがてペレニアル
ライグラスの衰退によりギャップが生じ、周辺植生の侵入・定着を促進する基となって行って行くことを期待す
る。
②樹木
街路樹や園地に植栽される樹木とし、下記の方針による
方針
植栽種の候補を選定するにあたり、生態系へ影響を与えるおそれがないかを十分に検討した上で選定し、
その中から植栽種を決定する。
5 苗の生産方法
(1)一般的育苗方法
苗木生産は三宅島現地での生産を基本とするが、島内での生産が困難な期間は内地で生産することと
する。三宅島で採取した種子、挿し穂、取り木並びに地下茎により苗木を育成することを原則とし、供給が間
に合わない場合は遺伝的系統が近似する地域でも採取する。
(主な育苗方法:略)
(2)土壌微生物に配慮した育苗方法も例示
内地での生産において、島内で生産した苗木の品質に近づけるため、植物のみでなく土壌微生物につ
いても配慮した苗木の育成を行う。三宅島の土を利用することによって土壌微生物の遺伝子の攪乱を防止
する。また、土壌微生物を活用することにより、肥料に頼らず健全で良好な苗木の育成を目指す。
(主な育苗方法:略)
149
■遺伝的データを用いた緑化事例
三宅島の緑化に際しては、緑化種導入に際しての遺伝的攪乱を防ぐため、遺伝的データを用い
た種子源の探索方法が研究されている。
■概要
火山被害地域緑化のために、火山被害に比較的強いハチジョウイタドリ、ハチジョウススキ、
オオバヤシャブシの3種について伊豆諸島及び伊豆半島の各集団の遺伝的多様性並びに集団間の
遺伝的分化を調査し、その結果から三宅島の植物集団に最も近縁で同じ程度の多様性を持った集
団を採取候補地として選定することを目的に実施。
■方法
両性遺伝する核ゲノムは酵素多型のアロザイム分析を行い、母性遺伝する葉緑体 DNA について
は遺伝子間領域の塩基配列多型の調査を実施。
■結果
ハチジョウイタドリでは核ゲノ
ムレベルでも遺伝的分化が大き
く、三宅島集団が独自の葉緑体 DNA
変異を保有していた(右図参照)
ことから他地域からの導入は極力
避けるべきであるとの結論を得
た。
また、ハチジョウススキは御蔵
島から、オオバヤシャブシは神津
島から導入するのが最も適切との
結論が得られている。このように
種により候補集団が異なったのは
遺伝的分化が単に地理的な距離と
の関係だけでなく、その種の持つ
分布変遷の歴史および生態学的特
徴に大きく影響されていることを
示している。
出典:津村、岩田(2006)
「遺伝的データを用いた緑化のガイドラインとそれに基づく三宅島緑化計画」
(生物多様性緑化ハンドブック P77∼89:地人書館)
150
2)専門家意見整理
小笠原における緑化植物の導入に際しての考え方や「外来植物リスク評価システム」等の
研究成果の運用について、専門家へのヒアリングを実施した。
■小笠原における緑化植物導入に関する考え方(首都大学
可知教授・加藤助教ヒアリング結果)
【WRA(外来植物リスク評価システム)活用への課題と遺伝的攪乱リスクの評価】
○外来植物リスク評価システムの将来的な活用に向けた課題
・WRA は様々な断面に関するリスクを平均化して評価するものである。このシステムのみに
頼るのではなく、他の様々な情報と照らし合わせて、一つの参考資料として用いられるべき
ものである。
・当該システムの運用に際しては、各質問項目の回答に対して、例えば小笠原で重視すべき事
項等について広くコンセンサスを得たうえで重点的にチェックする必要がある。
・全体の評価で「Reject」となった場合には基本的には持ち込まないが、人間の生活上、どう
しても持ち込む必要がある場合には、各質問項目の回答から導入にあたっての配慮事項等の
判断材料を得ることが出来るかもしれない。例えばタイワンモクゲンジであれば、年一度だ
け花を咲かせるので、花が終わった後に枝を伐採すれば種子が拡散されない。このような管
理の実施を前提として導入することができるかもしれない。
・ニュージーランドでは、基本的にホワイトリスト形式を採用しており、その他個別に輸入の
申請があった際に、環境リスク委員会がその是非を評価する。本リスク評価システムはその
際の評価の一項目として活用されている。
・WRA は様々なファクターを平均化しているが、過去の侵入実績が導入の可否に大きく効い
ており、生物学的特性はそれほど影響していない。逆に言えば、全体を馴らしてしまうこと
に無理があるともいえる。これは、侵入する場所の環境は様々であり、これを一緒くたに、
ある特性を持っているから侵入しやすいとは簡単には判断できないためである。ただし、二
次評価に用いられている耐陰性や鳥散布については共通的に見られる現象である。遺伝子攪
乱等は個々では重視されていない。
・WRA については、
「適正に管理ができる」、
「他の生物に影響を与えない」という場合に柔軟
に導入を認めるなどの運用をしていかないと理解が得られないのではないか。ただし、実際
に管理できるかは心配である。島民に危険性を認識してもらうためにも手続きは重視した方
がよい。
○外来植物リスク評価システムによる遺伝的攪乱リスクの評価
・当該システムで得られた点数のみで遺伝的攪乱を防止することは出来ない。あくまで一つの
情報源として使うのが望ましい。
・シマグワは侵略性も高いし、遺伝的攪乱があることも明確なため、研究成果を活かして対策
を行うべき。
・明確な科学的証拠がない場合でも、交雑の可能性がある場合は、危険性を回避する意味でも
導入は避ける必要がある。リスク評価の設問解説にもあるが、同種の植物だけではなく、同
属のものも交雑の可能性があるため注意が必要である。
・遺伝的攪乱を小笠原で重視する方針でやっていくのであれば、WRA だけに頼るのではなく、
151
独自にチェック項目等を設けることが必要。
・島外産植物といったときに、小笠原の外の植物を指す場合が多いが、小笠原の中での島間の
差違についてもしっかりと認識する必要がある。
【緑化植物導入に関する考え方】
・緑化植物導入する際に、敢えて北方系の植物を使用するなど、数年で枯れることを想定して
「残らない、広がらない」種を導入するという考え方もある。
・三宅支庁の緑化ガイドラインには、その考えが含まれている。敢えて、そこにあわない緑化
植物を導入し最初の数年のみを担い、その後在来のものに移していくという考え方である。
・現在、試験中であり、結果はまだ把握していないが、導入に際しては緑化植物を菌根菌と共
生させるなどの工夫が必要である。この実験には森林総研が関わっている。また、三宅島で
出来ても小笠原では難しい可能性がある。
・極端な話では遺伝子改変して稔性のないものを緑化材として敢えて使うのも手かもしれない。
・園芸品種のように品種改良が繰り返されているものは、人間の手助けが無ければ繁殖できな
い場合が多く、さほど拡散の危険性は少ない。野生種に近いほど拡散の危険性は高い。
・ただし近年、園芸品種としても野生種を扱うことが増えているが、これは繁殖力が大きいた
め注意が必要である。島内にナーセリーがあり、安全なものが島民に示される状況が望まし
い。
・これまでの緑化種のリストを見ても、クロマツ、アカマツ、ススキ、イタドリ、ヨモギ、コ
マツナギ等の郷土種と呼ばれるものが中国から国内に入ってきている。中国と日本に存在す
るものでは遺伝的に違うというのが前提。基本的には使わないのが原則である。
・本来、事前に在来のものの遺伝的な地理的変異を調べておくのが望ましいが、予算等の関係
もあり難しい。小笠原でも遺伝的攪乱も含めた変異の研究が事前になされておれば理想的で
はある。
152
3)今後の課題
前項までの緑化・植栽の現状、事例や専門家の意見を踏まえると、小笠原における緑化植物
導入に関しての攪乱を防止し、生態系、種、遺伝子の各レベルにおける生物多様性の保全に向
けた課題は、概ね下記の 3 点に整理される。
(1)WRA 等を活用した生物多様性に配慮された緑化植物の選択システムの確立
・緑化植物の導入に関しては、既存の研究成果である WRA を活用した検討が有効であり、導入
する植物種の侵略的特性からブラックリストまたはホワイトリストの作成が可能である。
・また、WRA 以外の様々な情報とも照らし合わせたリストチェックの手法検討等も含め、生物多
様性保全に配慮された緑化植物の選択システムを確立することが必要である。
・なお、リスト作成にあたっては WRA によるリスク評価結果のみを判断材料として規制を実施
するのではなく、島民生活との調整や、導入後の拡散防止のための管理実施の可否といった視
点からの検討・合意形成も必要と考えられる。
・当面は公共事業等で先行的にリストの活用を実施し、モニタリング、再評価を実施することに
より予測精度の向上や管理体制の検討を実施する。
・また、実際の運用に際しては、リストや運用方法の位置づけの明確化が必要となることが想定
されることから、現在検討中の検疫類似制度への組み込み等の検討が必要である。
・さらに将来的には HP 上等でのリスト公開により島民全体での活用を図ることが望まれる。
(2)浸透性交雑や地域性系統の遺伝子攪乱の防止
・緑化植物種の導入に際しては、上記の WRA を活用したシステムにより侵略性がないと判断さ
れた種を用いることが原則であるが、その中にも島内産植物との交配により、雑種形成や、地
域性系統の遺伝子攪乱が懸念される場合があり注意が必要である。
・上記のような遺伝的攪乱については、在来種と遺伝的交配リスクのある近縁種や在来種と同種
の島外産植物の導入に関しては注意が必要である。特に固有植物などについては、各生息地に
おける集団内の遺伝的多様性及び集団間の遺伝的分化の程度を明らかにした上で導入の是非を
判断するなどの慎重な対応が求められる。
・雑種形成や地域性系統の遺伝子攪乱といった問題に関しては、慎重に対応すべき重要地域をそ
れぞれ選定し、重要地域内での緑化・植裁・植生復元等の実施に際してのルールを検討するこ
とが必要となる。
153
(3)地域性種苗供給体制の確立
・島外産植物の導入による、地域性系統の遺伝子攪乱を防止するためには、その交配及び遺伝的
攪乱の実態を調査・確認すると同時に、島内産の緑化植物材料が十分に供給できる体制を構築
することも必要である。
・小笠原における現状の緑化植物の島内供給は、亜熱帯農業センターの試験的栽培や小笠原野生
生物研究会、一部農家による栽培に限られており、十分な体制とは言い難い。
・島内産の種苗供給に関しては、需要・供給ともに不安定であり、コストの問題もあり生業とし
て成り立ちにくい現状がある。
・そのため、島内における緑化用植物の生産にあたっては、当面必要な種類・数量を取りまとめ、
関係機関等が中心となり、農業者の協力も得つつ一元的な種苗供給体制を構築することが有効
と考えられる。
・また、地域性種苗の生産には一定の時間を要することから、施工段階において適切な材料を供
給するためには計画の段階から準備を開始する必要があり、長期的な事業に関しては数年にわ
たって計画性を持って進められることが必要である。
154
平成 18 年度
小笠原国立公園生態系特定管理手法検討調査業務
報告書
平成 19 年 3 月
発注者:
〒330-6018
関東地方環境事務所
さいたま市中央区新都心 11-2
明治安田生命さいたま新都心ビル 18 階
TEL 048-600-0816
FAX
受注者:
〒102-0083
048-600-0517
株式会社プレック研究所
東京都千代田区麹町 3-7-6
TEL 03-5226-1106
FAX
03-5226-1114
本報告書(表紙を除く)は、古紙配合率 100%、白色度 70 の再生紙を利用しています。