西洋ナシ試作品種 「オーロラ」と「バラード」の特性

西洋ナシ試作品種
「オーロラ」と「バラード」の特性
県南果樹研究センター
山道和子
西洋ナシは日本ナシと異なる独特の香気となめらかな肉質を備えた魅力的な果実
である。西洋ナシの栽培適地はリンゴと共通しており、本県のような寒冷地に適し
ている。
本県の西洋ナシ栽培面積は166ha( 平成14年)で、過去10年間を通じて横ばい傾向
で推移している。品種構成は、かつては「バートレット」が主体であったが、最近
では全国の主要品種である「ラ・フランス」と、南部町で産地化に成功した「ゼネ
ラル・レクラーク」が増加傾向にある。今後も生産の多様化、産地のブランド化の
ため、食味が良く品質の優れた新品種への更新が図られていくと見込まれる。
そこで、りんご試験場(黒石)及び県南果樹研究センターにおいて試作を行って
いる西洋ナシ品種の中から、食味良好な「オーロラ」と「バラード」についてこれ
までの試験データをもとに紹介する。
1.「オーロラ」の特性
1)来歴
本品種はアメリカ、ニューヨーク州立農業試験場が「マルゲリット・マリー
ラ」と「バートレット」の交雑実生より昭和25年に選抜し、昭和39年に命名さ
れた。我が国には農林水産省果樹試験場が昭和58年に導入した。
2)果実の特性
(1)収穫期
本県では9月上旬で「バートレット」より5日程度遅い。
(2)果実特性
果重は300g前後である。果形はびん形。果皮の地色は黄緑色を呈し全面薄く
さびに覆われる。追熟後は果実表面が黄褐色を呈し、食べ頃がわかりやすい。
(3)食味
果肉ち密、多汁で食味良好である。
(4)樹の特性
樹勢が強く枝の発生は多いが、中果枝、短果枝の着生が少ない。枝が細く垂
れ下がる性質がある。花芽が着生しにくく隔年結果性が強い。
また、授粉は「ラ・フランス」と交雑和合性があり、相互に受粉樹として利
用できる。
3)栽培上の留意点
枝が下垂しやすいので支柱に誘引したり、ひもでつり上げるなど結果枝の維
持に注意する。
表1
「オーロラ」の生態(県南果樹研究センター)
品種名
オーロラ
年度
開花日
満開日
落花日
収穫日
H13
−
5.12
−
9.10
H14
4.24
4.26
5. 2
9. 2
H15
5. 4
5. 6
5. 9
9. 8
平均
4.29
5. 4
5. 5
9. 6
ラ・フランス H13
5. 3
5. 7
5.13
10.17
(参考)H14
4.22
4.24
4.29
10.15
H15
5. 3
5. 4
5. 9
10.15
平均
4.29
5. 1
5. 7
10.15
(注)満開後日数は満開日から収穫日までの日数である。
表2
満開後日数
121
128
125
125
163
174
164
167
「オーロラ」の収穫時及び追熟後の果実品質(県南果樹研究センター)
収穫時
追熟後
品種名 年度 収穫 1果重 地色 硬度 ヨード反応 硬度 糖度
酸度
追熟
日
(g) 指数 (lbs)
指数
(lbs) (Brix) (%) 日数
オーロラ
H13
9.10 302 2.0
11.2
3.8
2.4
12.7
0.19
6
H14
9. 2 240 2.2
14.8
4.2
2.3
13.0
0.22
9
H15
9. 8 211 2.3
15.7
3.8
2.9
12.4
0.17
8
平均 9. 6 251 2.2
13.9
3.9
2.5
12.7
0.19
8
バートレット H13
9. 6 252 2.3
16.9
3.1
2.1
11.1
0.26
6
(参考)H14
8.29 281 2.7
19.5
3.3
2.9
11.1
0.27
7
H15
9. 4 270 2.5
20.1
3.6
1.4
9.8
0.20
11
平均 9. 2 268 2.5
18.8
3.3
2.1
10.7
0.24
8
(注)1 地色指数はニホンナシ用カラーチャートを用い、1(緑色)〜6(黄
色)とした。
2 硬度はペネトロメーター型硬度計を用い測定した。
3 ヨード反応指数は、0(染色なし)〜5(100%染色)とした。
4 酸度はリンゴ酸換算とした。
5 追熟処理は0℃で10日間予冷した後、20℃で行った。
6 追熟日数は10果の一斉出庫による結果で、予冷期間を含まない。
表3
「オーロラ」の生態(りんご試験場)
品種名
年度
開花日
満開日
落花日
収穫日
満開後日数
オーロラ
H13
H14
H15
5. 3
4.22
5. 3
5. 5
4.23
5. 4
5.15
4.29
5. 8
8.28
9. 2
8.27
115
132
114
平均
4.29
4.30
5. 7
8.30
120
5. 1
4.21
5. 2
5. 3
4.23
5. 3
5.10
4.30
5. 8
10.15
10.10
−
165
170
−
4.28
4.30
5. 6
10.13
168
ラ・フランス H13
(参考)H14
H15
平均
(注)満開後日数は満開日から収穫日までの日数である。
表4
「オーロラ」の収穫時及び追熟後の果実品質(りんご試験場)
収穫時
追熟後
年度
1果重
(g)
地色
指数
硬度 ヨード反応
(lbs)
指数
H13
336
1.6
16.8
3.1
1.8
H14
331
2.4
14.2
3.8
H15
285
1.3
16.4
平均
317
1.8
15.8
(注)1
2
3
4
5
硬度
糖度
(lbs) (Brix)
酸度
(%)
追熟日数
14.3
0.19
17〜26
3.1
14.6
0.20
8〜17
3.0
2.5
13.9
0.23
15
3.3
2.5
14.3
0.21
16
地色指数はニホンナシ用カラーチャートを用い、1(緑色)〜6(黄
色)とした。
硬度はペネトロメーター型硬度計をを用い測定した。
ヨード反応指数は、0(染色なし)〜5(100%染色)とした。
酸度はリンゴ酸換算とした。
追熟処理は収穫後直ちに行い、平成13年は室温(21〜24℃)、平成14、
15年は20℃で行った。
2.「バラード」の特性
1)来歴
本品種は山形県園芸試験場において「バートレット」に「ラ・フランス」を
交雑して育成され、平成11年9月に品種登録された。
2)果実の特性
(1)収穫期
本県では10月上旬で「ゼネラル・レクラーク 」より10日程度遅く、
「ラ・フ
ランス」より10日程度早い。
(2)果実特性
果重は350g前後、果形は短びん形で、果皮の地色は黄緑色を呈し、果面に
さびが発生する。
(3)食味
わずかに芳香があり、肉質なめらかで多汁、甘味は強く感じられ、食味良
好である。
(4)樹の特性
樹勢は中程度で花芽の着生は多い。着果過多になると樹勢が衰弱しやすい。
また、授粉は主要な品種では「バートレット」及び「ゼネラル・レクラー
ク」と交雑和合性があるが、「ラ・フランス」とは交雑和合性がない。
3)栽培上の留意点
果実は果皮が薄く、押し傷が発生しやすいので丁寧に取り扱う必要がある。
表5
「バラード」の生態(県南果樹研究センター)
品種名
年度
開花日
満開日
落花日
収穫日
満開後日数
バラード
H13
H14
H15
−
4.23
5. 4
5. 7
4.26
5. 6
−
5. 1
5.12
10. 5
10. 2
10. 5
151
159
152
平均
ゼネラル・ H13
レクラーク
H14
(参考) H15
4.28
5. 2
4.22
5. 3
5. 3
5. 6
4.24
5. 4
5. 6
5.14
4.29
5.12
10. 4
9.25
9.25
9.25
154
142
154
144
平均
ラ・フランス H13
(参考) H14
H15
4.29
5. 3
4.22
5. 3
5. 1
5. 7
4.24
5. 4
5. 8
5.13
4.29
5. 9
9.25
10.17
10.15
10.15
147
163
174
164
平均
4.29
5. 1
5. 7
10.15
(注)満開後日数は満開日から収穫日までの日数である。
167
表6
「バラード」の収穫時及び追熟後の果実品質(県南果樹研究センター)
収穫時
硬度 ヨード反応
(lbs)
指数
追熟後
硬度
糖度
(lbs) (Brix)
品種名
年度
1果重
(g)
地色
指数
バラード
H13
H14
H15
473
356
297
2.6
3.0
3.0
14.2
14.9
16.3
2.3
3.0
2.5
1.8
3.0
2.8
平均
376
2.9
15.1
2.6
358
401
426
2.5
3.0
2.8
13.1
13.0
12.8
395
2.8
244
295
211
250
ゼネラル・ H13
レクラーク
H14
(参考) H15
平均
ラ・フランス H13
(参考) H14
H15
平均
(注)1
2
3
4
5
6
酸度
(%)
追熟
日数
13.2
12.2
12.8
0.20
0.18
0.22
16
29
15
2.5
12.7
0.20
20
3.9
3.7
3.8
2.4
1.8
2.0
13.7
12.5
11.8
0.20
0.21
0.18
9
10
8
13.0
3.8
2.1
12.7
0.20
9
2.5
2.1
2.3
10.5
11.6
14.2
0.2
0.9
1.1
3.3
3.0
2.9
13.3
13.2
13.6
0.18
0.16
0.18
10
32
16
2.3
12.1
0.7
3.1
13.4
0.17
19
地色指数はニホンナシ用カラーチャートを用い、1(緑色)〜6(黄
色)とした。
硬度はペネトロメーター型硬度計を用いて測定した。
ヨード反応指数は、0(染色なし)〜5(100%染色)とした。
酸度はリンゴ酸換算とした。
追熟処理:「バラード」が0℃(平成15年は5℃)で10日間予冷後15℃
で追熟、
「ゼネラル・レクラーク」が0℃で15日間予冷後20℃で追熟、
「ラ・フランス」が5℃で10日間予冷後15℃で追熟した。
追熟日数は10果の一斉出庫による結果で、予冷期間を含まない。
表7
「バラード」の生態(りんご試験場)
品種名
年度
開花日
満開日
落花日
収穫日
満開後日数
バラード
H13
H14
H15
5. 3
4.22
5. 3
5. 5
4.23
5. 4
5.14
5. 2
5.13
9.26
10. 1
−
144
161
−
平均
ゼネラル・ H13
レクラーク
H14
(参考) H15
4.29
5. 1
4.21
5. 2
4.30
5. 3
4.22
5. 3
5. 9
5.10
4.30
5. 8
9.29
10. 2
9.24
−
153
152
155
−
平均
ラ・フランス H13
(参考) H14
H15
4.28
5. 1
4.21
5. 2
4.29
5. 3
4.23
5. 3
5. 6
5.10
4.30
5. 8
9.28
10.15
10.10
−
154
165
170
−
平均
4.28
4.30
5. 6
10.13
(注)満開後日数は満開日から収穫日までの日数である。
168
表8
「バラード」の収穫時及び追熟後の果実品質(りんご試験場)
品種名
年度 1果重
(g)
地色
指数
収穫時
硬度 ヨード反応
(lbs)
指数
バラード
H13
H14
402
453
2.3
4.3
15.3
14.5
3.7
2.8
2.2
3.5
16.6
15.7
0.17
0.20
22〜37
15〜20
平均
H13
H14
428
608
584
3.3
2.9
3.9
14.9
13.0
12.1
3.3
3.2
3.4
2.9
1.9
3.0
16.2
14.5
14.5
0.18
0.25
0.21
23
18〜23
9〜17
(参考) 平均
ラ・フランス H13
(参考) H14
596
193
247
3.4
2.0
2.2
12.6
10.0
12.7
3.3
0.3
1.9
2.5
2.0
2.9
14.5
12.9
14.0
0.23
0.19
0.19
18
10〜17
11〜15
ゼネラル・
レクラーク
追熟後
硬度
糖度
(lbs) (Brix)
酸度
(%)
追熟
日数
平均
220
2.1
11.4
1.1
2.5
13.5
0.19
15
(注)1 地色指数はニホンナシ用カラーチャートを用い、1(緑色)〜6(黄
色)とした。
2 硬度はペネトロメーター型硬度計を用いて測定した。
3 ヨード反応指数は、0(染色なし)〜5(100%染色)とした。
4 酸度はリンゴ酸換算とした。
5 追熟処理は収穫後直ちに行い、平成13年は室温(16〜20℃)、平成14年
は20℃で行った。
3.今後の課題
今回紹介した2品種については試作段階のため、栽培上不明な点も多い。今後は
高品質果実の生産に向けて、本県における収穫適期の把握や適切な追熟方法、安定
生産のための整枝剪定法などの検討が必要である。