「あなたに友達は何人いますか」 。東京経済大学が今年四月、新入生とその父母の双方を対 象に実施した調査では、友達の人数について大きな差が表れた。父母の場合は平均 14.7 人 だが、新入生では平均 43.3 人とほぼ三倍。しかも「百人以上」との回答が 18.5%に達した。 「親友」と呼ぶ人数についても、父母は平均 3.1 人なのに対し新入生は平均 6 人。10 人以 上という答えが二割を超えた。父母が描く親友像は「悩みを相談し合える」 「悪いことも率 直に忠告し合える」というように、いわば全人格的な付き合いが前提となっている。ところ が新入生は「一緒にいて楽」 「電話などでいつでも気軽に話せる」相手こそが親友だと答え ていた。 ライフデザイン研究所が実施した調査では、多くの若者が携帯電話や PHS(簡易型携帯電 話)といった移動体通信の番号を広範囲の相手に教えている、という傾向が浮かび上がった。 「普通に付き合っている友人や知人」に番号を教える、との回答は二十代後半で 34.4%、十 代後半では二倍の 67.2%。また「連絡先を聞かれた相手には誰にでも教える」という〞〝全 方位型〞も二十代前半で 10.8%、十代後半では 24.6%に達した。 いつでも気軽に連絡を取り合える友人は増えており、この点が〝親しみ〞の尺度としての ウエートを高めている。 「携帯電話の番号を教えれは親友」 。最近では、そんなふうに定義付 けてしまう若者も珍しくなくなっている。付き合う相手とのこうした新しい「距離感」はい ったい何を意味するのか。 新入生と父母の「友達調査」の結果を分析した東京経済大学の桜井哲夫教授は「広い範 囲で多数の友達を持ちたがる若者の傾向には二つの理由が考えられる」と指摘する。第一に、 自分の寂しさを紛らわすために常に誰かとつながっていたい、という思いの表れ。そしても う一つは、価値観が多様化する中で自分と同様の考え方を少数の友達に見いだすことが難し くなってきたことだという。 「若者の新しい友人観の背景には、情報通信ツールの急速な普及がある」と指摘するのは 博報堂生活総合研究所の関沢英彦所長。 「現代の若者の友人関係は、多数の相手とつながっ ているが、いつでも切り替え可能な『デジタル型』の関係。少人数とじっくり付き合うので はなく、小さな接点で大勢の相手と同時多発的につながる形が増えている」という。 日ごろ一緒に過ごすのが親友と考える年長者から見ると違和感を覚えるかもしれない。だ が、最近の現象は、若者を取り巻く人間関係そのものの衰退を意味するとは言い切れない。 関係の中身は変質しても、友達をつくるという行為は続いていく。しかも「デジタル型」に なる分、今まで以上に数の上で多くの友人をつくろうとする。 (日本経済新聞 1999 年 11 月 6 日による、一部改)
© Copyright 2024 Paperzz