リピーターの旅行先への態度が愛着に及ぼす影響について

九州学生心理学会(於 鹿児島大学)報告資料
2016 年 3 月 5 日
リピーターの旅行先への態度が愛着に及ぼす影響について
井上七海・清原千尋・川添穂菜美・間崎知美
福岡女学院大学人間関係学部心理学科 3 年
~10 回」
「10 回以上」の 4 つの選択肢を用意した。
問 題
4.
現在、日本の国内宿泊旅行者数(外国人宿泊者数を含
地域への愛着度
む)は 4 億 5605 万人と以前に比べて増加している。旅
その地域にどの程度の愛着があるかについて4 件法
(⒈
行者には、新しい場所を次々に訪れる人もいれば、同じ
全くない,2.少しある,3.ある程度ある,4.非常にある)
ところに何度も訪れるリピーターもいる。このリピータ
で尋ねた。
ーはその地域に対して愛着があるため起こると予想し、
5.旅行先への態度尺度
本研究では、
「旅行先への態度尺度」
(大方・五十嵐,2015)
リピーターと愛着の関係を検証することを本研究の目的
を用いて、計 21 項目について、4 件法(1.全くそう思わ
とした。
本研究では、旅行先への態度の内容として以下の3つ
ない、2.少しそう思う、3.ある程度そう思う、4.非常
を考えた。第 1 に”親しみ”である。これは個人の意識がそ
にそう思う)で尋ねた。
の土地に対して気持ちや考え方に向いていることを意味
結 果
する。第 2 に”新鮮”さである。これは個人の意識がその土
1. 旅行先への態度尺度の分析
地に対して今までにない新しさを求めていることを意味
まず、リピーター尺度 21 項目の平均値、標準偏差を算
する。そして,第 3 に”信頼”であるこれは個人の意識がそ
出した。
そして天井効果およびフロア効果の見られた3 項
の土地に対してどれだけの信用を置いているかというこ
目を以降の分析から除外した。
次に、残りの 18 項目に対して主因子法による因子分析
とを意味する。
このような内容で表現される概念を測定するために新
を行った。3 因子構造が妥当であると考えられた。そこで
たに旅行先への態度尺度を作成し、愛着の得点差を検討
再度 3 因子を仮定して主因子法・Promax 回転による因
することが本研究の目的である。
子分析を行った。最終的な因子パターンと因子間相関を
方 法
表1に示す。
第 1 因子はこの地域は自分にとってなじみ深い、親し
調査対象者
福岡女学院の女子大学生 87 名。有効回答数は 79 名。
みをもてるといった 10 項目で構成されていることから、
平均年齢は 21.3 歳(SD=4.1)。
「親しみ」因子と命名した。第 2 因子はこの地域は新し
調査時期 2016 年 1 月 19 日に実施。
い経験ができる、
新たな発見ができるといった内容の4 項
質問紙の構成
目で構成されていることから、
「新鮮さ」因子と命名した。
1.個人属性:学部名、学年、年齢
第 3 因子はこの地域は信頼できる、期待に応えてくれる
2.
といった内容の 4 項目で構成されていることから、
「信頼
お気に入りの地域
観光で 2 回以上訪れたお気に入りのテーマパークを除
性」と命名した。
く地域を一つだけ自由記述で尋ねた。
3.
2.下位尺度間の関連
訪問回数
旅行先への態度尺度の三つの下位尺度に相当する項目
の平均値を算出し、表 2 に示した。α係数を算出したと
その地域に訪れた訪問回数として「2 回」
「2~5 回」
「5
1
ころ、0.82 から 0.90 といずれも十分な信頼性(内的整合
していない地域に興味が湧くからだと考える。また,訪
性)を有しているといえる。また、下位尺度は互いに有意
問回数が 5~10 回以上の群で親しみも新鮮さも数値が急
な正の相関を示した。
に下がった原因については,その地域への飽きが発生し
3.一要因の分散分析
たためだと考える。そして,親しみだけに限り,訪問回
数が 10 回以上になると,再度その地域への愛着が蘇る
「訪問回数」によって旅行先への態度尺度の平均値に
差があるか調べるため、独立変数を訪問回数にし,従属
のではないだろうか。
変数を「旅行先への態度」とした一要因の分散分析を行
また,土地に対する親しみの標準化係数が愛着度と正
った。その結果、
「親しみ」
、
「新鮮さ」では有意差が見
の関連を示したことから、
「親しみ」
「新鮮さ」
「信頼
られたが、
「信頼性」は有意差が見られなかった(親し
性」の 3 つの因子の中で親しみが地域への愛着度に関連
み: F(3, 75)=2.58, p < .001, 新鮮さ: F(3, 75)=3.72, p
し、親しみが高ければ高いほど愛着度も高くなることが
< .001, 信頼性: F(3,75)=2.03, n.s. )
。表 3 に各得点を
わかった。
示す。
親しみの最も大きな要素は、その地域の地元の人たち
多重比較の結果,旅行先への態度の「親しみ」は訪問
の人柄の良さや接客の良さだと考える。これにより、人
回数が 5~10 回の群よりも 10 回以上の群が数値は高
は新しさや信頼よりもその地域への親しみや、場所に対
く,
「新鮮さ」は訪問回数が 5~10 回の群,10 回以上の
してだけではなく人に対する思い入れが最も人を引き寄
群よりも 2~5 回の群が、数値が高かった(表 3
せる要素があるのではないだろうか。親しみがなけれ
)
。
ば、ほかに利益があったとしてもリピーターは増えにく
4.因果関係の検討
い。これらの結果から親しみによる愛着がリピーターに
「旅行先への態度」が「愛着」にリピーターに与える
影響を及ぼすことが分かった。
影響を検討するために、重回帰分析を行った。結果を表
本研究の一つの問題としては、愛着を持つタイミング
4 に示す。独立変数は旅行先への態度(親しみ・新鮮
にも個人差があるため、アンケート調査を行う前にテス
さ・信頼性)とした。その結果、親しみの標準化係数が
トを行い、似たような感性をもつ被験者を集め、同じ分
正の関連を示した。
析を行うことが今後の課題である。
考 察
一要因の分散分析の結果から,親しみと新鮮さは有意
引用文献
差がみられたが,旅行先への態度尺度「信頼性」は有意
佐藤友理子(2010)国内旅行におけるリピーターの行
差が見られなかった。つまり,訪問回数と信頼性は関係
動特性における醸成要因の研究,土木学会論文集. D3,
がなかったといえる。これらの原因について考えられる
土木計画学 67(5), 455-464.
2 つの可能性を示す。①人間は最初から信頼のおける場
大方・五十嵐(2015)旅行先へのリピーターの行動特
所にしか訪れない習性を持っている可能性,②旅行者
性に関する研究-リピーターの類型化,産業経営研究所
は,信頼性を求めて旅行をしないという可能性があるだ
報(47)
,15‐25.
ろう。
多重比較の結果によると、旅行先への態度尺度「親し
み」は訪問回数が 10 回以上の群が 2.99 と最も数値が高
かった。その原因は,やはり回数が多いだけ,その地域
のことをよく知り,地域の環境や人に思い入れが深くな
るからだと考える。旅行先への態度尺度「新鮮さ」は訪
問回数が 2 回目の群が 3.00 と最も高かった原因は,新
しい環境を求めて訪れる旅行者にとってはまだ知り尽く
2
表1 旅行先への態度尺度の因子分析結果(Promax回転主因子法)
因子
1
親しみ
9.この地域は自分にとってなじみ深い
0.93
10.この地域は親しみをもてる
0.91
16.この地域に自分の場所がある気がする
0.71
13.地域にお気に入りの場所がある
0.60
19.この地域を他人に自慢したい
0.57
11.この地域についてよく知っている
0.54
14.この地域ではリラックスできる
0.46
21.この地域の人を応援したくなる
0.46
18.この地域が思い出を想起させる
0.46
20.この地域のことを周囲に知らせたい
0.43
新鮮さ
6.この地域は新しい経験ができる
0.08
5.この地域は新たな発見ができる
0.02
7.この地域は普段とは一味違った経験ができる
-0.13
8.この地域は自分にとって新鮮だ
-0.01
信頼性
2.この地域は信頼できる
0.03
1.この地域は期待に応えてくれる
-0.24
4.この地域は他の地域よりも満足した滞在ができる
0.14
3.この地域は自分大切だ
0.38
因子間相関
Ⅰ
Ⅰ
-
Ⅱ
Ⅲ
表2 旅行先への態度尺度の下位尺度
M
SD
α
親しみ
2.65
0.68
0.90
新鮮さ
3.00
0.78
0.89
信頼性
2.91
0.64
0.82
**p<.01
親しみ
―
表3 訪問回数4群による旅行先への態度の一要因分散分析
訪問回数
F
2回
2~5回 5~10回 10回以上
親しみ
2.45
2.64
2.42
2.99
2.58
新鮮さ
3.00
3.29
2.67
2.68
3.72
信頼性
2.68
3.01
2.65
3.07
2.03
**
**
2
3
-0.16
-0.08
0.12
0.01
0.16
-0.12
-0.12
0.16
0.13
0.32
-0.17
-0.15
-0.12
0.13
0.15
0.36
0.31
0.16
0.02
0.25
0.91
0.88
0.85
0.74
-0.15
0.01
0.04
-0.07
-0.31
0.23
0.21
-0.01
Ⅱ
0.43
-
0.93
0.86
0.53
0.42
Ⅲ
0.68
0.48
-
新鮮さ
.41**
―
多重比較
5~10回<10回以上
2~5回>5~10回,10回以上
―
表4 旅行先への態度尺度が愛着度に及ぼす影響についての重回帰分析
標準化係数β
親しみ
0.36 **
新鮮さ
-0.07
信頼性
0.15
調整済みR2乗
0.17
3
信頼性
72**
**
.41
―