ベイジアンネットワークを用いた企業の倒産予測 350804125 上島 康孝 1 緒論 2008 年度の企業倒産件数は前年度比の 16.8 %増の 13,234 件に上り,上場企業の倒産件数は 34 件発生し,6 年ぶりに戦 後最悪を更新した.取引・融資をする企業にとっても,投 資家にとっても,企業倒産による損失を未然に防ぐための リスク回避指標として倒産予測が必要である.そこで本研 究では,ベイジアンネットワーク (以下 BN) を用いた企業 の倒産予測手法を提案する.BN を用いれば,ある事象が 実際に観測されるまでは何が起こるか分からない不確実な 事象をモデル化して予測に利用出来る.そこで,不確実な 事象である企業の現存・倒産を予測する場合,BN が適し ていると考え,本研究では適用する. 2 2.1 研究背景 企業倒産 本研究では,銀行取引停止処分,内整理,会社更生法,商 法に基づく会社整理,民事再生法,破産,特別精算の申し 立てを行ったもの,の7つを倒産と定義する. 2.2 ベイジアンネットワーク BN は,確率変数,確率変数間の条件付依存関係,その条 件付確率の 3 つによって定義されるネットワーク状の確率 的モデルである.確率変数をノード,確率変数間の条件付 依存関係をノード間に張られたリンクとして表す.変数間 の依存関係は原因から結果となる変数の向きをもつ有向リ ンクで図示する.リンクの先にあるノードを子ノード,リン クの元にあるノードを親ノードとする.子ノードと親ノー ドが取るすべての状態における確率値を列挙し,CPT と呼 ばれる条件付確率表に保存される.こうして各子ノードそ の親ノード間の間にリンクを張って構築した BN によって, これらの変数の間の確率的な依存関係がモデル化できる. 3 企業倒産の予測手法 本研究では,企業の財務諸表に含まれる損益計算書から 売上高,営業利益,経常利益,当期純利益を 5 年分用いる. これらから本年度値と前年度値の差である変動差と前年度 値に対する本年度値の変化率である変動率を求め,これら の値が正の値であれば「1」,負の値であれば「0」として離 散化変動差と離散化変動率を作成する.この離散化変動差 (離散化変動率) を 5 年間に当たる 4 つ並べることで 0000∼ 1111 までの 16 通りの組み合わせが考えられる.並べた離 散化変動差を二進数のように扱い,それぞれの組み合わせ に 1∼16 の番号をつけることでノードが完成する.こうす ることにより,ノードが時系列の変動傾向を考慮する事が できる.予測対象である「倒産」のノードは倒産するか否 かの 2 値である. このようなデータを用いて BN に学習させ,得られた BN から企業の倒産予測を行う. 4 実験と考察 本研究では,学習データと検証データを設ける.学習デー タを用いて BN を構築し,条件付き確率を計算し,企業倒 産の確率予測を行う.そこで得られた学習結果を用いて,検 証データにおける企業倒産予測を行い,予測精度を評価す る.全業種の企業を事業規模で分類し,売上高が低い企業 に絞り倒産予測を行う.変動率と変動差それぞれから作成 した学習データから得られる実験結果を以下の Table 1,及 び Table 2 に示す. Table 1: 変動率を用いたノード数による事業規模別予測結 果の違い ノード数 当否確率 倒産企業数 倒産予測的中数 5 ノード 91.7 % 6 0 6 ノード 94.7 % 6 1 8 ノード 93.8 % 6 1 11 ノード 93.8 % 6 1 Table 2: 変動差を用いたノード数による事業規模別予測結 果の違い ノード数 当否確率 倒産企業数 倒産予測的中数 5 ノード 95.4 % 6 1 6 ノード 93.5 % 6 1 8 ノード 94.2 % 6 3 11 ノード 93.5 % 6 5 変動差におけるノード数が 11 の時に,これまでの実験で 最も多い予測的中数が見られる.変動率と変動差の 5 ノー ドで比べると,変動率は予測を的中させていないが,変動 差は予測を一つ的中させている.これらのことから,事業 規模別倒産予測においては変動差を用いた学習データが有 効であると考える.また,Table 2 から学習データにおける ノード数の増加に伴って倒産予測的中数も増加しているこ とがわかる.BN はノードの数が増えることで予測精度が 向上するため,ノード数の増加に伴なう倒産予測的中数の 増加から,変動差による事業規模別倒産予測は BN の特性 に適合していると言える. 5 結論 本研究では,BN を用いた企業の倒産予測手法を提案し た.本研究における変動差を用いた事業規模別倒産予測で は,倒産企業に関する当否確率が 83.3 %であり,現存企業 に関する当否確率が 94.1 %であった.本研究が提案した手 法は,企業や投資家にとっての損失を未然に防ぐためのリ スク回避指標として十分な精度を示していると考えられる.
© Copyright 2024 Paperzz