知っておきたいICカードの知識

BA0203-04
知っておきたいICカードの知識
最終回 これからのICカード
大日本印刷
森山明子
最新型のICカード
ェイスを持つI Cカードである。1つのメモリを2つの
インターフェイスが共有しているため、リーダライタ
第1回と第2回の講座では、I Cカードのハードウエ
から I Cカード内メモリへのデータ書き込みや読み出し
アやソフトウエア、I Cカードが利用されている業界な
は、接触端子を利用して行うことも、電磁的データ通
どについて説明したが、最終回の今回は、これからの
信用のアンテナを利用し、非接触インターフェイスか
最新型 I Cカードとして注目されている「デュアルイン
ら行うこともできる。ハイブリッド I Cカードに比べ、
ターフェイスI Cカード」について説明すると共に、I C
このデュアルインターフェイス I Cカードでは、価格
カードの発行処理について紹介する。
面・製造面で多くのメリットを持つ。
第1図のように、カード面に金色の接触端子が見え
デュアルインターフェイスICカード
るので、一見普通の接触型I Cカードの様であるが、実
はカードの中に非接触型としても動作できるアンテナ
まず、I Cカードのハードウエアについておさらいし
ておこう。I Cカードはリーダライタ・I Cカード間の通
も実装されている。メモリは2つのインターフェイス
により共有されている。
信方法により「接触型I Cカード」と「非接触型I Cカー
このタイプのI Cカードの利用法としては、接触端子
ド」に分類される。接触型のI Cカードは、接触端子を
を使ってチャージした電子マネーやプリペイドの残高
利用してデータ通信を行うタイプのカードで、クレジ
を、非接触型のインターフェイスを使ってバスや電車
ットカードなどの金融分野
や P K Iの分野で利用されて
いる。非接触型ICカードは、
リーダライタにカードをか
ざすだけで電磁界を利用し
て通信を行うタイプのカー
ドであり、バスや電車など
の交通サービスで利用され
ている。接触と非接触それ
ぞれの I Cチップを1枚に加
工したカードもあり、「ハイ
ブリッドカード」と呼ばれ、
1枚で2役をこなす。
さて、最新型I Cカードと
して注目されているデュア
ルインターフェイスI Cカー
ドは、ワンチップでありな
がら2つの通信インターフ
第1図 デュアルインターフェイスICカードの概略図
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第2図 デュアルインターフェイスICカード利用方法
の乗り降りや、小売店での少額支払いに利用するなど
デュアルインターフェイスI Cカードの登場により 、
の方法が考えられる。インターフェイスが2種あるこ
今まで金融業界と交通系など、業界で別々に利用され
とで、I Cカードの利用範囲がさらに広がると考えられ
ていた I Cカードが統合され、それによる新しいビジネ
る。
スの展開が期待されている。
デュアルインターフェイスI Cカードには、前回紹介
したマルチアプリケーションOSが搭載されているICカ
ICカードの発行処理とは
ードと、専用OSが搭載されるICカードがある。
非接触型 I Cカードのうち、近接型と呼ばれるカード
磁気カードを発行する場合には、申し込みなどから
仕様はISO/IEC14443で決められており、リーダライタ
得た情報を入力し、必要なデータを編集して磁気スト
とICカード間の電波搬送方式(TypeA、TypeB)が定義
ライプにエンコードする。さらに、必要に応じてエン
されている。デュアルインターフェイスI Cカードの 非
ボス加工をしたり、券面に顔写真をプリントしたりと
接触部もISO/IEC14443の仕様に基づいている。ICチッ
いった作業が続く。
プによっては1枚のカードで TypeAやTypeBの複数の電
波搬送方式に対応できる製品化も進められている。
I Cカードの発行は、従来の磁気カードと比べて格段
に複雑な処理を行っており、特に金融系のカードやマ
I Cカード側が高機能になればなるほど、対応するリ
ルチアプリケーションOSカードの場合は、データ生成
ーダライタも進化する。1台の端末で非接触と接触両
という特別な工程が必要となる。アプリケーションに
方の通信ができたり、複数の電波搬送方式に対応でき
よっては、様々な暗号データを生成してI Cへエンコー
るものがある。
ドしている。その容量はアプリケーションの種類や数
にもよるが、数キロバイトから数十キロバイトになる。
例えば、 I Cクレジットカードを例にとると、発行者
の公開鍵証明書や署名済みの静的認証データ、共通鍵
暗号方式の秘密鍵などがある。これらのデータは、発
行者の正当性や、I Cカードそのものの正当性を確認し
たり、オンライン上でイシュアホストからI Cカードへ
直接命令を送るためになどに使われるものであり、セ
キュリティを考慮すると、発行処理ラインを流れてI C
カードへ書き込まれる過程では、たとえ発行処理のオ
ペレータであっても盗み見ることができないように 、
第3図 デュアルインターフェイスICカードのしくみ
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データ全体が暗号化されていることが望ましい。この
第4図 磁気カードとICカードの発行処理
ため I Cカードの発行処理ラインには、要所要所にデー
れぞれの好みに応じてアプリケーションを選択できる
タの暗号化複合化のための装置が設置されている。
ようになると、カード発行者はI Cカード内の情報をリ
ICカードの OSの差によっても発行処理の流れは変わ
る。専用 OSを搭載した ICカードの場合、アプリケーシ
アルタイムに把握する必要が出てくる。
例えば、Aさんが複数のアプリケーションを搭載した
ョンがあらかじめROMに焼き付けてあるので、ユーザ
ICクレジットカードを紛失したとする。彼は前日にB百
データのみをメモリへ書きこむ。マルチアプリケーシ
貨店でポイントアプリケーションをダウンロードして
ョンOSを搭載した ICカードの場合は、ユーザデータ以
おり、しかもプリペイドアプリケーションに1万円の
外に、アプリケーションプログラムもメモリに書きこ
チャージをしたばかりだ。この場合、AさんのICカード
む必要がある。さらにマルチアプリケーションOSの種
を再発行するには、カードの他に、アプリケーション
類によっても発行処理時に必要となるデータの書式が
としてクレジットアプリケーション、B百貨店のポイン
異なる。
トアプリケーションとプリペイドアプリケーションの
このようにI Cカードの発行を行う場合は、I Cカード
3つが搭載されていたことや、ポイントやプリペイド
のタイプやアプリケーションに応じて発行処理ライン
の残高など、紛失した時点でのI Cカード内の情報を把
を揃えなければならず、システムが複雑になっていく。
握しておかなければならない。
従って、実際には発行を請け負う印刷会社などにアウ
トソーシングしているケースが多い。
こうしたI Cカードの発行関連データを管理するシス
テムを構築しようとした場合、単独の発行者だけでは
負担が大きく、アウトソーシング先に対して、データ
マルチアプリケーションにおける
発行データの管理
管理センターなどの機能が求められる。
ICカードを取り巻く環境の変化
前述のようにI Cカードを発行する場合には、様々な
データ生成を行うが、今後I Cカードの中にアプリケー
現在 I Cカードは小売店に設置されたクレジット端末
ションが複数搭載することが増え、カード保有者がそ
や金融機関のATM、電車やバスの料金支払機などで使
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第5図 これからのICカード導入サービス例
われているが、家庭内においてI Cカードが利用される
日も近い。安価で小型タイプのリーダライタを家庭の
最後に
パソコンに繋ぎ、インターネットを介してネットワー
ク上の様々なサイトでオンラインショッピングを楽し
3回にわたり I Cカードの基礎を説明してきたが、皆
んだり、保険の申しこみを W E B上で簡単に行ったり、
さんの I Cカード理解の一助になれば幸いである。I Cカ
自宅にいながら住民票を取り寄せたりすることが、I C
ードの技術は日々進歩しており、常に技術革新が求め
カードを使うことで実現されるといわれている。相手
られる分野である。I Cカードは作る側の人間から見れ
の見えないネットワーク上の取引だからこそ、安全に
ば複雑な製品であるが、生活者から見た時には簡単で
確実に個人を特定するツールとしてI Cカードが活躍す
便利なツールでなければならないと考えている。これ
る。
からもより便利で安全なソリューションとして、I Cカ
こうした便利な環境を早くスムーズに整えていくた
ード関連製品にご注目頂きたい。
めに、I Cカードに関連する企業では、様々なソリュー
ションサービスを提供していこうとしている。I Cカー
ドの発行者がより簡単にICカードを導入できるように、
発行者に代わってI Cカードの発行処理を行う発行セン
ターや、発行したI Cカードのデータを管理するデータ
管理センター、インターネット上のサイトを構築する
アプリケーションプロバイダに対して様々なI Cカード
導入サポートを行うサポートセンター、カードホルダ
との窓口となるポータルサイトを提供するサービスセ
ンターなどが開発されつつある。こうした動きにより
I Cカードが私たちの身近な生活ツールになる日はより
近くなるだろう。
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【筆者紹介】
森山明子
大日本印刷㈱
ビジネスフォーム事業部 ICカード営業開発部
〒162-8472 東京都新宿区榎町7
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