だれでもわかる 自動認識システムに関わる電波法

BA0210-07
やさしく解説 だれでもわかる 自動認識システムに関わる電波法
【第8回】
RFIDシステム2.45GMHzの基礎
マイティカード
平野忠彦
はじめに
可能にするため、昨年2 0 0 1年9月に総務省に答申され、
本年3月に省令改正が行われた。この改正に伴い新標
先月号では誘導型(インダクティブ:1 3 5 k H z以下、
準規格の策定が電波産業会(ARIB)で開始され、従来
13.56MHz)の代表として13.56MHz(ワイヤレスカード
からの 2.45GHz帯のRFIDシステムの標準規格としての
システム)を中心に取り上げてご紹介した。今月号では
STD-1,STD-29に加えて、新しく2.45GHz帯の標準規格と
電波型(プロパゲーション:2.45GHz、5.8GHz、UHF)
してSTD-81が本年3月に策定された。
のRFID標準化動向と一般的理解についてご紹介したい。
ここで新しく策定されたARIB STD-81の概略と技術的
この2.45GHzのRFIDは、すでにご紹介してきた通り、
条件について、従来からのSTD-1、STD-29に付いても比
別名「移動体識別用無線設備」として日本の電波法上
較のため併記して第1表に示す。
では呼称され規定されている。しかし13.56MHzの「IC
テレカ」や従来の磁気カードに代わる自動改札システ
第1表
ム「スイカ( *1)」の様な一般の人々にお馴染みの用途
例は、今のところ2.45GHzのRFIDでは日本では見あた
らない。しかしこの連載ではRFIDを大きく誘導型と電
波型の2つに分けてご紹介してきたように、通信の媒
体が電波と磁界では異なり、また応答方法が「受信電
波の反射」と「磁界の負荷変動」といった違いは、用
途によっては一長一短があり、13.56MHzは必ずしも機
能、性能面で万能の周波数ではない。更に最近の半導
体技術の進歩は、過去の2.45GHz帯RFIDが背負ってき
た問題、課題を解決しつつあり、場合によっては誘導
型よりも電波型のRFIDが明らかに有利な場面がでてき
た。
2.45GHzRFIDの法的背景
電波を利用して接触しないで近接した距離において
ICカードのデータを読書きする13.56MHz
RFIDシステ
上述の 2 . 4 5 G H z帯の R F I Dシステム標準規格「A R I B
ムを電波法では「ワイヤレスカードシステム」として
STD-1」は、1986年に構内無線局として策定され、また
規定しているが、2.45GHzでは「移動体識別用無線設備」
「STD-29」は1992年に特定小電力無線局として策定され
として規定している。さて本連載のISO国際標準でご紹
今日に至っている。これらの時代背景からも解るよう
介したように、2.45GHzのRFIDは、ISO18000-4として
に、2.45GHz帯のRFIDは法制化される以前から存在し、
審議され、現在、実質的審議の最終段階にある。この
その背景と歴史は古く、2 0年以上にもなる。しかしそ
審議に伴って ISO18000-4仕様のRFIDの国内での使用を
の間の R F I D システムで使用されてきた応答器(タグ)
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は、大型で、電池を使用したものも多く、しかも高価
も短くなる。このあたりは先月号の第2図をご参照い
であったため限られた用途でしか使用されず、大きく
ただきたい。
普及するには至っていなかったのが実状である。
空中線の共振周波数の「ズレ」の多くは、アンテナ
注:用語として一般的に使用されている「リーダラ
の置かれた周囲環境によるものである。リーダライタ
イタ」及び「RFタグ」は、それぞれ電波法では「質問
のアンテナでは、設置されたアンテナの周囲に金属物
器」及び「応答器」と称され、電波法上の「移動体識
等がある場合である。タグ側も金属物等はもちろんで
別用無線設備」として初めて登場し、以後13.56MHzの
あるが、同じ周波数で動作する同種のタグが近くにあ
「ワイヤレスカードシステム」に於いても使用されてい
る場合も影響される。13.56MHzのタグ同様にタグの密
る。これらの用語イメージあたりにも2.45GHzRFIDの
集、重ね読みが困難な原因がここにある。しかしこの
用途の歴史的背景がうかがえる。
課題を解決する手法も一部で考案されているようであ
る。
送信出力と通信距離
電波型の特徴
先月号では誘導型での送信出力と通信距離の関係を
ご紹介したが、電波型ではどのような理解ができるの
か。誘導型ではアンテナの開口面積がリーダライタ、
電波型を代表して2.45GHzを引き合いにしてご紹介し
てきているが、ここでも従来からの2.45GHzのRFIDの
タグ共に重要であるとした。そして通信距離は通信が
課題と新規格に基づくRFIDシステムについてみてみた
できる限界距離ではなく、無電地のタグが磁界空間か
い。
らI Cチップの動作に必要な最低電力を得られる磁界強
1)質問器の送信周波数を極めて短い時間に切り替えて
度の距離であるとした。無電地の電波型のRFタグにあ
通信をする、いわゆる周波数スペクトラム拡散変調の
ってもこの理解は成立する。電波型では、磁界強度は
周波数ホッピング方式である。この方式では、周囲の
電界強度に、誘導型で開口面積と表現したものは空中
同一周波数帯を使用する通信機器からの混信、妨害が
線利得と用語をかえて規定される。ここで空中線とは
発生しても、それらの通信干渉から受ける影響を軽減
アンテナのことである。
することが可能である。
改正された第1表より改正電波法では、空中線総電
力は260mW、質問器の空中線利得は6dBiとされている。
2)質問器の小型、軽量化
応答器の回路の簡易化、低消費電力化、低コスト化
この条件より質問器のアンテナからの距離が決まると
等の今日までの課題に対して、非常に簡便な検波方式
その空間での電界強度もきまる。従って通信距離はタ
としてホモダイン検波方式等の採用が可能となった 。
グ側の条件、すなわちその空間にある輻射電力を可能
同方式では、質問器と応答器間の距離により、質問器
な限り集める、タグのアンテナの空中線利得とタグの
が応答器から送り出された信号を受信する際、受信信
I Cチップの消費電力である。I Cチップの消費電力が小
号が消滅する特有の現象があり採用には問題があり 、
さければ、それだけ低い電界強度でもI Cチップは動作
そのため複雑な回路を採用せざるを得なかった。しか
するので、質問器のアンテナからの距離、すなわち通
し 今回の法改正により周波数ホッピング方式の使用
信距離もとれる。誘導型と同じで、電波型でもI Cチッ
が認められ、簡易な回路構成が可能になり、多くの質
プの動作距離が通信距離を決めるのである。
問器の課題が解決されることとなった。
ここでタグの空中線利得が重要な役目を果たす。波
3)高周波雑音対する耐環境性
長の短い電波型では数センチの針金一本でも十分なア
現在ISOで標準化が進められている周波数は、今まで
ンテナになる。今仮にタグの空中線利得が針金一本
ご紹介してきたように複数あるが、長波帯の125kHzや
(ダイポールアンテナ:2.14dBi)とし、ICチップの必要
短波帯の13.56MHzは、今日では非常に低い周波数とさ
電力を 6 5 0マイクロワット程度とすると、通信距離は
れている。一方、現在の様にありとあらゆる場所に不
50cm程度との報告がある。
特定多数の電子機器が使用されている環境下では、こ
尚ここでも先月号でご紹介した誘導型と同様に、ア
れらの機器から放射される高周波雑音の強度は無視で
ンテナの共振周波数が通信距離に大きく影響する。も
きず、また周波数はU H F帯(極超短波)にまで達して
しアンテナの共振周波数が使用周波数、例えば2.45GHz
いる。誘導型が使用している低い周波数は、日常的に
からずれると、上記空中線利得は下がり、同じ距離に
使用されているスイッチング電源やパソコン等C P Uの
てI Cチップが必要な電力を確保できなくなり通信距離
入った電子機器からの雑音には注意が必要である 。
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やさしく解説だれでもわかる自動認識システムに関わる電波法 基礎講座
2.45GHzではこういった日常的な一般機器からの雑音は
殆ど無視できると考えられる。
むしろISM周波数であるが故に、同種の周波数を使用
した他の無線機器からの混信、妨害に対しての注意が
必要である。
ISM周波数2.45GHz
日本で使用が可能な I S M 周波数を使用する電波型
RFIDに、もう一つ 5.8GHzがある。ISOでも審議されて
いるがRFIDとしての使用実績は日本国内ではない。従
第2図
って日本では2 . 4 5 G H z R F I Dが唯一の電波型 R F I Dであ
る。この2.45GHzは一昔前には通信の混信、妨害、干渉
からはほど遠い周波数であった。しかし昨今の無線通
2種類は動作面においては同様の理解が成り立つ部分
信のブロードバンド化はこの周波数に白羽の矢を立て
もあるが、周波数の持つ物理的特性においては大きく
た。高速無線L a nの登場である。今回のR F I Dの周波数
異なる。それは周波数の相違、つまり波長の違いがも
ホッピング導入の省令改正にあわせて無線Lanの部分も
たらす相違である。
見直された。その中で注意が必要なのがここでも述べ
現在は米国のみで使用が可能で、従って欧州、日本
た空中線利得である。RFIDでは上限6dBiであるが、無
では使用できないが、 I S O では U H F の周波数( 8 0 0 -
線Lanは10dBiである。これを分かり易く言うと、RFID
900MHz)を使用したRFIDもISO18000-6,-7として標準
は許容される送信送電力(260mW)の4倍であり、無
化審議が継続中である。
線Lanは10倍まで、つまり空間に放出された実効輻射電
力(EIRP)では約1W対2.6Wとの理解である。
周波数ホッピングでは、無線L a nもR F I Dも空中線電
力は1MHz当たり10mWと規定されている。従って総電
使用周波数がもたらす特性面での相違と書いたが、
2450MHz(2.45GHz)と13.56MHzの間にあって、この
U H Fの周波数は、また違った特性、つまり使い勝手の
面で特徴を示す。
力は周波数の拡散帯域により変わり、最大260mWまで
どれか一つの周波数が万能ではなく、一長一短があ
許される。空中線利得は言ってみれば自動車のターボ
り、これらの一長一短は導入されるアプリケーション
の性能のようなものである。
が決める話である。どの周波数、どの方式、タグの形
拡散帯域と使用周波数帯域により出力制限もことな
状等々が「適」で、どれが「不適」であるかはアプリ
る。2427MHzから2470.75MHzを含む周波数を拡散帯域
ケーションに照らしてみなければわからない。しかし
として使用する場合は、MHz単位の出力が 3mWに押さ
これらのアプリケーションでの課題、どれが適で、ど
えられている。これは第1表をご覧頂くとおわかりに
れが不適かを示す適切な過去の導入事例は極めて少な
なると思うが、周波数ホッピングを使用しない移動体
い。これらの RFIDが「どこに、どの様に使われていく
識別装置が使用してる周波数に他ならない。2 4 0 0から
のか」、導入に際しての試行錯誤もあり得る。しかし用
2 4 8 3 . 5 M H zまでの全帯域を拡散帯域とする場合は、ほ
意される種類、選択肢は用意されてきた感じがするが、
ぼ最大の 260mW近くになり、この規制値はあまり意味
皆様はどうであろうか。
を持たないが、周波数が固定のSTD-1、STD-29の移動体
識別への妨害、干渉の軽減も含まれる。STD-1の移動体
識別装置は免許を要する無線局であり、法的には通信
の保護への優先権があると解釈できる。この出力関係
を第2図に示す。
おわりに
誘導型と電波型に分けてRFIDをご紹介したが、この
【筆者紹介】
平野忠彦
マイティカード㈱
技術本部 本部長
〒111-0041 東京都台東区元浅草2-6-6
東京日産台東ビル5F
TEL:03-5828-0293
FAX:03-5828-0295
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