だれでもわかる 自動認識システムに関わる電波法

BA0209-05
やさしく解説 だれでもわかる 自動認識システムに関わる電波法
【第7回】
RFIDシステム13.56MHzの基礎
マイティカード
平野忠彦
はじめに
離の問題は解決されるのか?送信出力が1ワットから
4ワットになると、どの様にかわるのか?である。
10月号では誘導型(135kHz以下、13.56MHz)と電波
この「通信距離」なるものの理解が意外と複雑で、
型(2.45GHz、5.8GHz、UHF)にわけて、 RFIDの標準
一筋縄でいかない面を持っている。メーカーも積極的
化動向と一般的理解についてご紹介した。今月号では、
に保証値として明確に明示をしない。およそ無線を使
誘導型として「I Cテレカ」や従来の磁気カードに代わ
用したシステムでは、その通信範囲を明確にしないの
る自動改札システム「スイカ(*1)」で身近になってき
が一般常識化して、「RFIDもご多分に漏れず同じ」では
た13.56MHzRFIDを中心にその動作の核心部分をご紹介
安易すぎる。
したい。
前号では筆者も「R Fタグのアンテナが5 c m角、質問
(*1)昨年11月から首都圏において従来の磁気カードに
器側のアンテナが30−50cm角の大きさで40−60cmの通
代わる自動改札システムとして、J R東日本が運用を開
信距離が見込めると言われている」として、相互のア
始した
ンテナの大きさを付して通信距離をお話ししている。
しかし、これらは通信距離について極めてありきたり
13.56MHzRFIDの法的背景
の一般的な話であり、R F I Dを使用する側からみると、
今ひとつシックリこない数値である。
電波法では、電波を利用して接触しないで近接した
今まで各種セミナーや説明書・資料に触れてきたが、
距離において、I Cカードのデータを読み書きするシス
このあたりを分かり易く説明・紹介しているものにお
テムを「ワイヤレスカードシステム(13.56MHz)
」とし
目にかかっていない。1∼2の専門書は、あくまで専
て規定している。
門書であり、いささか取っつきにくい。これは、誘導
このワイヤレスカードシステムは平成1 0年に技術基
型RFIDが通信距離と通信出力の関係において、簡単な
準が定められ、上述の自動改札等の交通カード、公衆
比例関係にないところが主な理由と考えられ、「一筋縄
電話の非接触ICカード、オフィスの入退室管理のIDカ
でいかないくせ者」なのである。
ード等に利用されてきているが、法規制で高出力が出
ここではこの部分を、分かり易くするため多少強引
せず通信距離に問題があった。しかし本誌でもご紹介
な「例え」を用いるかも知れないが、その実際につい
してきたように本年3月に省令改正の答申案がまとま
て少し掘り下げて、説明を試みたい。従って動作原
り、9月頃には日、欧、米の法規制値が横並びになり、
理・理論に 100%忠実ではない部分を含んでいる場面が
通信距離、通信範囲等の使い勝手では各国間の差はな
あることをあらかじめご承知おき願いたい。
くなりつつある。
通信距離の理解
送信出力と通信距離
1.最低RFタグ動作磁界強度
法規制値が横並びになる、つまり海外と同じ出力が
まず 1 0月号の動作原理を思い出していただきたい。
出せるとなると、通信距離や通信範囲はどう変わって
まず通信は、リーダライタから無電池であるRFタグへ
くるのか?が気になってくる。出力が上がれば通信距
電力を送ることから始まる。RFタグでは空間から必要
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な電力を受け取り、RFタグに埋め込まれたICチップは
2.通信距離とアンテナの大きさ
この電力で動作を開始する。リーダライタからの信号
磁界強度が不足して動作しないとなると、リーダラ
を受信し、メモリの読み書きを実行し、リーダライタ
イタからの送信出力を大きくすれば、磁界強度も増加
へ返事を返す。
し動作距離を伸ばすことができる。しかし送信出力を
これら一連のI Cチップの動作は、空間から動作に必
変えないでも、動作距離を伸ばす方法がある。
要な電力を受け取れていることが、通信の必須条件で
RFタグのアンテナの大きさを大きくすると、不足し
ある。一時でもこの条件がI Cチップの動作中に中断さ
ていた電力を補うことができる。これは一様に降る雨
れることになれば、ICチップは即座に動作を停止する。
(磁界)を集めるのに、小さな面積のお皿(アンテナ)
電池で動作しているポータブル機器をご想像いただき
より大きな面積のお皿の方が沢山雨を集められるのに
たい。電池が空になれば、または動作中に電池を取り
似ている。従って状況が許せばRFタグ側のアンテナの
外せば、機器は即座に動作を停止する。RFタグの置か
大きさは、基本的に大きいほど通信距離には有利であ
れた磁界空間は、言ってみればRFタグの電池なのであ
る。
る。
リーダライタから近いところではたっぷり電気を受
3.アンテナ有効面積と共振周波数
け取れ(リーダライタとRFタグの関係が緊密)、遠いと
共振周波数という専門的用語が登場した。これは音
ころでは少ない(関係が疎遠)。これを図で示すと第1
でイメージすると解りやすい。音の共鳴箱である。ギ
図になる。この場合の磁界強度とは、その空間がどの
ター、ピアノ、バイオリン等幾多の音を出す楽器があ
程度の電力をRFタグに供給できる電力を有しているか
り、また音響装置があるが、音用の箱(閉じた空間)
と理解して良い。リーダライタのアンテナからの距離
が付いている。音の高さ、低さは音(音波)の周波数
が遠くなるに従い、リーダライタから発せられた磁界
である。どこかの理科の教科書的であるが・・・ある
強度は弱くなる。ある距離で空間の持っている磁界強
大きさの箱に、これらの音の周波数が合うと、その周
度がRFタグのICチップが必要としてる電力を供給でき
波数の音はよく響き、高まりは最大になる。電波のア
なければ、 ICチップは動作しなくなる。これがRFタグ
ンテナは、この音の箱の機能に似通ったところがある。
最大動作距離である。
13.56MHzを使用した RFIDでは、13.56MHzにうまく
アンテナが共鳴(共振)すると効率よく空間に磁界を
放出したり、空間にある磁界を効率よく取り込んだり
することができる。従って13.56MHzの周波数を使用す
るRFIDでは、アンテナが13.56MHzに共振しているか、
否かは非常に重要である。第2図<アンテナの共振度
合いとアンテナ有効面積>をご覧頂きたい。
第1図 RFタグ動作磁界範囲
ここでのまとめは、通信距離を考えるときには、通
信をする機能を持っているRFタグのICチップが、まず
動作していないと通信ができない。言い換えれば通信
距離は、ICチップが動作し得る磁界強度、RFタグ動作
磁界範囲を越えることはできない。「通信距離」と言う
と通信性能を高めればどんどん伸びる様に聞こえるが、
無電池であるRFタグの場合は、この点が大きく異なる。
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第2図 アンテナの共振度合いとアンテナ有効面積
やさしく解説だれでもわかる自動認識システムに関わる電波法 基礎講座
4.最大有効面積
今仮に、このアンテナの物理的外形寸法が30cm角だ
とすると、このアンテナの開口面積は90cm2となる。先
ほど雨を受けるお皿の大きさをお話ししたが、磁界を
受ける面積は大きい方がたくさん電力を受け取れる。
このアンテナの面積が最も有効に、90cm2 のアンテナと
してその面積を発揮するためには、使用する13.56MHz
(イ)1ワット
周波数で共振していることが重要である。
(ロ)0.1ワット
第3図
この90cm2 の面積は、このアンテナが13.56MHzに共
振したときに期待できる最大有効面積である。もし
13.56MHzの周波数よりも高い方、低い方にずれる、つ
まり共振している状態から非共振状態(図では中心の
山の左右)に変化していくに従い、物理的な面積は依
然として 90cm2 であるが、電気的には13.56MHzの周波
数に対しての有効な面積は縮小していく。
つまり見かけは大きいが、より小さなアンテナの性
(イ)0.1ワット
能と同等になってしまう。
(ロ)0.1ワット
第4図
第2図では、斜線部分が縮小分で白抜き部分が実質
的に有効な開口面積となる。従って第3図では有効面
積は、左から最大(共振状態で1の位置)を意味し、
右が縮小(非共振度合いで2、3の位置)した有効面
積を表している。
有効面積
第5図
② 同じ送信電力を、面積の異なったアンテナに供給
した場合の磁界強度のイメージを第4図に示す。供給
される送信電力は第4図(イ)(ロ)共に0.1ワットと同
第3図 有効面積の縮小
じである。
一般的に供給される電力が同じ場合には、アンテナ
5.通信距離とアンテナ出力
の面積が小さい方が強力な磁界を得ることができる。
RFタグが動作するために、アンテナの大きさと共振
同じ供給電力では、この場合は送信電力がアンテナの
周波数が通信距離には非常に重要であるとしたが、さ
面積に一様に分散してしまうイメージで捉えると理解
て空間に磁界を発生させる送信側のアンテナ、つまり
しやすい。今1リットルの水を底面積の大きい円筒形
リーダライタ側のアンテナはどうであろうか?実は送
コップに注いだ時と、底面積の小さいコップに注いだ
信側のアンテナの面積も送信出力との関係でいささか
時に得られる水の高さは、低面積の小さいコップの方
複雑である。このあたりを以下、第3図を中心にご紹
が高くなる。もちろん底面積が大きいコップでも注ぐ
介する。尚、図中、点線の数は空間に送信される磁界
水を更に増やせば当然同じ高さが得られる。磁界強度
の強度を表し、本数が多いほど強力であるとする。ま
を水の高さ、注ぐ水の量が送信電力のイメージである。
た基本的なアンテナの諸条件は供給電力、アンテナ面
前述の様に、磁界中にあるRFタグは、ある程度の磁
積を除いて同じと仮定する。
界強度の空間でないとI Cチップが動作する必要電力を
① 同じ面積のアンテナを、異なった送信電力を供給
得られない。例えでは、必要な水の高さが必要という
した場合の磁界強度のイメージを第3図に示す。
ことになり、同じ供給電力でありながら、場合によっ
この場合は比較的イメージし易く、送信電力が少なく
ては第4図(イ)では動作に必要な磁界強度が得られ
なれば発生する磁界強度も弱くなる。
ないが、第4図(ロ)では得られる場合が起こる。
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(イ)が大きな面積に供給された電力がその面積に分散
おわりに
されたのに比べ、(ロ)では、小さい面積に供給電力を
集中させた結果とイメージできる。それでは何が①の
第3図の場合と違うのか?
RFタグの動作に必要な磁界強度を得られる空間の
本連載の趣旨である電波法がらみのRFID解説からは
大きく脱線してしまい、「RFIDの動作原理の根本解説」
になってしまった今月号である。本号での解説の意図
広さ・範囲に違いが出てくる。第4図(ロ)ではアン
は、前述の通り13.56MHzRFID関係のこれまでの数多く
テナ面積を小さくすることで、小さな電力でもRFタグ
のセミナや解説が、一般論あたりまでで、その一歩奥
が動作できる磁界強度を確保したが、RFタグの動作範
に踏み込んだ内容のものが殆どなく、これらの解説が
囲の縮小と引き替えで、大きな面積のアンテナに比べ
今後RFIDが普及していく過程で非常に重要であると考
て動作範囲は狭くなる。
えた。そのあたりをご理解いただき、この脱線をお許
従って動作範囲を広く、大きく必要とするアプリケ
ーションでは必然的に大型アンテナに高出力のリーダ
ライタが必要になってくる。
し頂ければ幸いである。
ISO15693(カード型)に対する物用RFID、ISO18000、
13.56MHzでは18000−3が実質的な最終局面(FCD)に
入りつつある。法整備が整い、国際標準化も一段落に
③ アンテナの有効面積
第5図に示すように、リーダライタの送信アンテナ
近い。さらに RFID用ICチップも市場に受け入れやすい
価格で出荷されつつある。今後はこれらの追い風を機
でも、第2図でご紹介したようにアンテナの共振状態
に、どの分野、用途にR F I Dの特徴を生かしていくか、
は磁界を発生する効率に大きく影響する。共振状態か
いよいよ論点は本格的な大規模から小規模までの、ア
ら外れると同じ送信電力を供給しても共振状態のアン
プリケーション開拓の段階に入ってきたと考えるが 、
テナよりも発生磁界強度は減少する。
皆様のお考えはどうであろうか?
通信距離のまとめ
多少なりとも、お分かりになってきたであろうか?
通信距離を云々する前に、まずは以下の条件が密接に
絡んでいることをご理解いただきたい。
1)電力を送るために必要な磁界強度を発生させるリ
ーダライタ側のアンテナ共振・面積とその出力の
関係
2)空間に放出された磁界をRFタグのアンテナで受取
る、RFタグのアンテナの面積と共振関係
3)空間磁界を R Fタグの電池にして動作を開始する
RFタグのICチップの必要電力
この一連の仕組みの中で通信距離が決まるとき、上
述の各種条件の組み合わせは一通りではない。そこに
は更に、ここでは触れてないアンテナの電気的諸条件、
メーカのノウハウが加味される。そこで事情は更に複
雑となる。とは言っても、ここでご紹介をした部分は、
極めて原理原則の部分であり、この根本原則が大きく
曲げられるものではないのでご安心いただきたい。
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【筆者紹介】
平野忠彦
マイティカード㈱
技術本部 本部長
〒111-0041 東京都台東区元浅草2-6-6
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FAX:03-5828-0295