BA0202-03 02.6.14 4:59 PM ページ 47 (1,1) BA0202-03 知っておきたいICカードの知識 第2回 ICカードのソフトウエア 大日本印刷 森山明子 ICカードのソフトウエア ンがあるように、I Cカードにもそれぞれに相当するソ フトウエアが存在している。 前回の講座では、主にI Cカードのハードウエアにつ いて説明した。今回はI Cカード上で動くソフトウエア にどのようなものがあるかについて説明する。I Cカー ドは一般的にCPUやCo-Processorといった演算処理装置 や、ROM、RAM、EEPROMといったメモリを搭載して いることは前回ご紹介した通りである。ソフトウエア の格納方法としては、データ書き換えのできないROM にソフトウエアを焼きこんでいる場合と、書き換え可 能なEEPROMに記録している場合の2種の方法があり、 両タイプのICカードが利用されている。 OSとアプリケーション I Cカードを利用したシステムは何種類かのソフトウ エアで構築される。ホストコンピュータ上のソフトウ エアや、ネットワークPC上で動くソフトウエア、ICカ 第1図 ICカードシステムとソフトウエア ードリーダライタを制御するためのドライバーソフト などの他に、I Cカード自体の中にもソフトウエアが存 専用OSとマルチアプリケーションOS 在する。ICカードも小さなコンピュータなのである。 ICカード内部にはまず「ICカードOS」がある。これ 基本処理を行う役目のICカードOSであるが、現在 IC はデータの入出力やファイルの生成、アクセス権の設 カードのOSには2種類ある。専用OS(NativeOS)とマ 定や管理などといった基本的な作業を行うためのソフ ルチアプリケーションOSである。両者の大きな違いは、 トウエアである。 I C カードアプリケーションが R O Mに格納されている また、それに加えて「 I Cカードアプリケーション」 か、EEPROMに格納されているかという点である。 が必要になる。I Cカードは外部端末からの命令を受け 専用OSと呼ばれるICカードOSは、ICカード開発初期 て処理を実行する装置であるため、カード内部に処理 の頃から使われている実装スタイルであり、OSとアプ プログラムを持っている。特定のアプリケーションに リケーションが一体化した形でROMに格納されている。 必要となる処理プログラム1つ1つの集まりがコマン ROMは書き換えができないメモリなので、専用OSを搭 ドセットとしてICカードに格納されている。 載した I Cカードの場合、カード発行後にアプリケーシ I Cカードアプリケーションは、I Cカード内部のデー ョンを追加したり削除したりということはできない。 タや、外部端末装置に格納しているデータを基にして 比較的安価なものが多いのも特徴の1つである。以前 様々な処理を行う。パソコンにもOSとアプリケーショ は1枚のカードに1つのアプリケーションを搭載して バーコード 2002.4. 47 BA0202-03 02.6.14 4:59 PM ページ 48 (1,1) いたが、最近では複数のアプリケーシ ョンをROMに焼きこんだ形の専用OSが 多い。 専用OSはOSとアプリケーションが一 体化しているので、別のアプリケーシ ョンを I Cカードアプリケーションとし て採用したい場合には、新しいアプリ ケーションをROMに焼き付けた新しい I Cチップを別途製造することになる 。 この点を考えるとカスタム仕様の I Cカ ードOSとも言えるが、通常専用 OSには 汎用性の高いアプリケーション、ある いは大量に採用される可能性の高いア プリケーションが搭載される。特定の 発行者だけが使うアプリケーションを 第2図 専用OSとマルチアプリケーションOS 専用O Sに搭載しても、その特徴である 安価なカードにはならないからである。 マルチアプリケーションOS上のアプリケーション開 専用OSのEEPROMはユーザデータの格納用のメモリ 発は、チップ固有のアセンブラは使わず、専用の言語 として使われるが、稀にプログラム格納のために利用 を利用する。同一のマルチアプリケーションOS上で動 されることがある。ROMに格納したプログラムにどう くことを目的としたアプリケーションであるならば 、 しても一部修正を加えなければならない場合の手段で どれも同じ言語で開発できるため、アプリケーション ある。マルチアプリケーションOSと呼ばれる ICカード 開発者が I Cチップの違いを意識しなくてよいという利 O S は、専用 O S の後に出てきたタイプの O S である。 点がある。 ROMに基本処理を行うICカードOSを持ち、アプリケー マルチアプリケーションO Sを搭載したI Cカードは、 ションを EEPROMに格納するためのプラットフォーム 代表的なものとして現在2種類ある。 MULTOS と の役割を果たしている。書き換え可能なメモリである JavaCardである。MULTOSは電子マネーアプリケーシ EEPROMにアプリケーションが搭載できるということ ョンを載せるためのプラットフォームとして開発され は、カード発行後に不要アプリケーションを削除して たため、チップ製造からカード化、発行、アプリケー 空きメモリを増やしたり、I Cカードアプリケーション ションの追加や削除に関して高セキュリティなスキー を追加搭載することが可能である。新しいアプリケー ムが整えられており、金融用途のI Cカードを発行する ションを追加したいと思えば、カード自体はそのまま のに適していると言われている。J a v a C a r dは、アプリ で、I Cカードアプリケーションにあたるソフトウエア ケーションの開発にJava言語を利用できるため、アプリ だけを追加すればよい。この点では、マルチアプリケ ケーションを開発できる技術者が豊富にいるという点 ーションOSは、パソコンでのソフトウエア構成に良く で期待されている。J a v a C a r dではアプリケーションの 似たICカードOSであると言える。 追加削除の仕組みが整っていなかったが、現在では両 専用 O Sとマルチアプリケーション O Sの違いとして OSの機能差は無くなりつつある。 は、アプリケーション開発言語の違いが挙げられる。 その他、専用 OS内のアプリケーションは、そのICチ セキュリティ ップが持つ固有のアセンブラ言語でプログラミングす る必要があるので、開発者が新しいチップを採用する I Cカードのソフトウエアと切り離せないのが暗号処 場合には、新しい言語を習得する必要がある。A社製の 理である。I Cカードが従来の磁気カードと異なる点は ICチップを使うならA社のアセンブラで、B社製チップ C P Uを持って演算ができることだけでなく、そのC P U ならB社のアセンブラで開発しなければならない。開発 やCo-Processorを使って暗号処理ができる点でもある。 者が慣れない I Cチップの仕様を調べ、新たなアセンブ ICカードOSではデータの入出力などを行うが、基本 ラ言語を習得し、ICカードOSやアプリケーションを開 的な暗号処理も OSの仕事の1つである。ICカードが処 発するというのはかなり骨の折れる仕事である。 理する暗号アルゴリズムとしては、共通鍵暗号アルゴ 48 バーコード 2002.4. BA0202-03 02.6.14 4:59 PM ページ 49 (1,1) リズムと公開鍵暗号アルゴリズムがある。共通鍵暗号 み出せない状態にしてしまうことができる。ここが磁 が、暗号と復号の過程において共通の暗号鍵を利用す 気カードとは全く異なる点である。I Cカードの中には るのに対して、公開鍵暗号は、暗号と復号の過程で利 外部に読み出すことのできるデータ領域と、読み出せ 用される暗号鍵が別々で、「秘密鍵」と「公開鍵」と呼 ない領域を作ることができる。暗号処理に利用する鍵 ばれる鍵ペアが利用される方式である。 はこの読み出せない領域に保存されて暗号処理時に利 I Cカードがなぜ暗号処理に適しているのだろうか。 I Cカードの中に格納した暗号鍵は、論理的に外部に読 用される。例えば、公開鍵暗号方式を使った暗号復号 の仕組みでは、「秘密鍵は他人に絶対教えるな」といわ 第3図 共通鍵暗号方式について 第4図 公開鍵暗号方式について バーコード 2002.4. 49 BA0202-03 02.6.14 4:59 PM ページ 50 (1,1) れている。成りすましや否認、盗聴、改ざんといった 化されている仕様は、I Cクレジットカードの仕様では ものを排除する上での鉄則であるが、弊社のI Cカード あるが、アプリケーション選択の手続きを定めている を例にとれば、I Cカードは公開鍵暗号アルゴリズムを 点に特徴がある。I Cカード側にも端末側にも何種類か 実行できるだけでなく秘密鍵をI Cカードの内部で生成 のアプリケーションが搭載されている時に、どの様に することができる。たとえI Cカードを持っている本人 実行すべきアプリケーションを選択決定すればよいの でさえも I Cカードに格納されている秘密鍵の値を知る か。その手続きを共通化し、EMV対応ICカードならば、 ことなく利用できるわけだ。I Cカードのソフトウエア どのEMV対応端末でも動かすことができるようになる による工夫の他にも、各チップメーカによる様々なハ ことを狙ったものである。 ードウエアの工夫も盛り込まれている。 公開鍵暗号はPKI(Public Key Infrastructure)の世界 で利用されている方式であるが、I Cカードがこの公開 またクレジットカードとしてのICカードの特徴には 、 カードリスク管理がある。I Cカードは自らリスクを分 析して取引の承認・却下などを判断している。 鍵暗号を実用に耐えうる速度で処理するには、現在の 日本の金融機関が発行するキャッシュカードは、長 ところICカード用チップにCo-Processorと呼ばれる演算 い間磁気カードが使われてきたが、昨年I Cキャッシュ 処理装置が必要である。Co-Processor付きのICチップを カードの標準仕様が策定された。この仕様では、キャ I Cカードに採用するかどうかの選択がI Cカードのコス ッシュカード機能のほかに、オンラインデビット機能 トに影響するため、I Cカードの発行者は目的に応じて やオフラインデビッド機能をI Cカードに持たせること ICカード用チップを選択する必要がある。Co-Processor ができる。特にオフラインデビッドは電子マネーと同 の付いていないI Cカードチップでも公開鍵暗号が処理 じような使い方ができる。I Cカードや端末のもつセキ できるように、新しいアルゴリズムを持った公開鍵暗 ュリティ機能を活用し、安全に利用できる工夫がなさ 号が現在検討されている。この方式がI Cカードの一般 れたサービスといえるだろう。 的な暗号として利用されるようになると更にI Cカード 金融用途のI Cカードには接触型I Cカードが用いられ が安く高機能になり、消費者の身近なツールになる日 ているが、最近になって非接触のI Cカードを利用した も近付きそうだ。 ものも見られるようになった。電子マネーをI Cカード に格納し、リーダライタにかざすだけで支払いが可能 金融業界でのICカードアプリケーション な利便性の高い I Cカードである。今後の動向が注目さ れる。 もともとは1 9 7 0年代の後半にフランスで発明された I Cカードであるが、日本でのI Cカード化が目立ち始め さまざまな分野で たのはここ数年のことである。 比較的早い時期にI Cカード化が行われた分野は金融 金融用途向け以外のI Cカードアプリケーションには 業界であり、従来磁気カードが利用されてきたクレジ どんなものがあるかを簡単にご紹介すると、交通・通 ットカード・キャッシュカードは、特にI Cカード化の 信・流通・認証といった分野でのI Cカード化の動きが 動きが活発である。 目立ってきている。 クレジットカード業界がI Cカードを採用した理由の 交通系では、E T Cシステム(有料道路自動料金支払 1つには、偽造カード対策があった。欧米で策定され いシステム)において、I Cカードが利用されている。 たICクレジットカード仕様はEMV仕様と呼ばれ、金融 高速道路の料金所で車を止めずに自動的に料金を支払 向けI Cカード仕様のデファクトスタンダードとなって うことができる便利なシステムである。すでにご利用 いる。EMV仕様策定の背景には、クレジットカード会 の読者の方も多いのではないだろうか。また電車の定 社が各加盟店に設置するクレジット端末を共有化する 期券としてI Cカードが採用されたのも記憶に新しい話 目的もあったため、I Cカードと端末間のインターフェ 題である。 イスを統一する仕様となった。ここで示されているイ ンターフェイス仕様は、金融業界のみならず、様々な 業界の I Cカード・端末間インターフェイスに取り入れ られつつある。 I Cカード・端末間インターフェイスの1つとして、 アプリケーションの選択方法がある。EMV仕様で共通 50 バーコード 2002.4. 通信の分野では、次世代携帯電話に組み込まれる加 入者識別のツールとしてICカードが採用され始めた。 流通分野では、I CクレジットカードにI Cポイントア プリケーションが搭載される傾向にある。従来の磁気 カードでのクレジットカードにポイントシステムが導 入されていたことを考えると自然な動きともいえる。 BA0202-03 02.6.14 4:59 PM ページ 51 (1,1) 第5図 ICカードの利用分野 また認証カードとしてのI Cカードにも大きな期待が 持たれている。昨年4月に施行された電子署名法によ 次回は…これからのI Cカードはどのような傾向にあ るのか、次世代ICカードについて説明したい。 り、公開鍵暗号によるデジタル署名が法的な効力を持 つようになった。いわゆる電子印鑑である。I Cカード によりインターネット上の様々な文書に電子印鑑を捺 印し、取引を安全・確実に行うことができる。近い将 来電子政府が立ち上がる頃には、I Cカードは私達の生 活に密着した電子ツールになっていることだろう。 【筆者紹介】 森山明子 大日本印刷㈱ ビジネスフォーム事業部 ICカード営業開発部 〒162-8472 東京都新宿区榎町7 TEL:03-3513-2727 FAX:03-3513-2729 E-MAIL:[email protected] URL:http://www.dnp.co.jp ※MULTOSはMondex International Limitedの登録商標です。 ※Javaおよび全てのJavaに関わる商標は、米国およびその他の国において米国Sun Microsystems, Inc.の商標または登録商標です。 バーコード 2002.4. 51
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