長崎女子短期大学紀要 第 号 平成 年度〈 . 〉 地球大気の温室効果のメカニズムについて 福 間 寛 Study on the Mechanism Concerning the Green House Effect of Our Atmosphere Hiroshi FUKUMA キーワード:温室効果、気候変動、対流、赤外線放射 本誌 、 、 、 号の継続テーマである。前 わる科学者を筆者の身近に見出すことは出来な 号で述べたように地球温暖化の原因を人類の活 かった。IPCC に強い影響力のある英国の気象研 動にともなって排出された二酸化炭素などの温室 究所がデータ改ざんを行っていたことが明るみに 効果ガスによる大気の温室効果の増大によるとす なっている。IPCC の活動には何らかの恣意的な る説を裏付ける観測データ上は得られなかった。 要素が含まれていたという意味で、彼らに科学的 ただ二酸化炭素原因説が全く誤りなのではなく、 な結論を求めるのは危険である。その意味でも事 年頃までに温室効果ガスによる地球放射赤外 実の探査が重要である。 線吸収が飽和した可能性が高いことが明らかに 大気のもつ温室効果という用語の意味はあまり なった。これらは気象庁により公開されている過 明確ではない。狭義には、昼間、太陽光により暖 去の気象データを注意深く解析することにより、 められた地表面から放射された電磁波(赤外線) 誰でも結論できることである。本論分では先の研 が大気中の特定の気体分子(温室効果ガス)の内 究に加え、算出される大気低層部の水蒸気量と昼 部振動に吸収されて地球圏外へのエネルギー輻射 夜気温差の関係を調べ、大気の保温効果には地球 が妨げられ、大気のない場合に比して地表面温度 放射エネルギーの吸収以外の機構も考慮する必要 の低下が抑えられることを意味する。これは夜間 性があることが分った。前回同様、京都市と今回 気温の低下を抑制し、昼間との気温差を小さくす 新たに加えた山形市の気象データ解析がこの研究 ることになる。本誌 の基盤となっている。 (Δt)の最後の 号ではこの昼夜の気温差 年間の時間変化を抽出し、温室 効果がどのように変化してきたかを明らかにした。 .序 論 広義の温室効果は昼間、地表と低層大気に蓄えら 国連の審議機関である IPCC の出した見解によ れた太陽光からの熱エネルギーを保存する働き全 れば、温暖化に代表される現在の気候変動の原因 てを指す。この場合、気体分子の並進運動(Brawn は、人為的な原因が惹き起こした大気中の二酸化 運動)のエネルギーとして保存されるものと大気 炭素(CO )を主とする温暖化ガスによる温室効 上層への対流によるエネルギー解放などが考えら 果の増大にあるとの説が有力と思われている。し れる。しかし、後者についての研究は端緒につい かし、地球大気の温室効果が増大していることを たばかりで観測上、または実験的なデータはこれ 示す事実が全く見当たらないことは複雑系の研究 までに皆無に近い。基本的な現象についての知識 に携った者には受入れにくい議論の展開である。 を欠いたまま CO による温室効果が温暖化の原因 実際、この主張に同意する物理学、天文学にかか だとする議論は幼稚で乱暴なものであるという外 − − 福 間 寛 ない。今回は京都市、山形市の気温と湿度のデー Tmax Tmin である。ここで Tmax は昼間(正 タから、簡単な水蒸気量の見積もりを行って温室 常な気象条件では 効果との関係を調べた。予想されなかった結果も 高気温を Tmin はその翌日(正常な気象条件では 得られ、温室効果のメカニズムの解明にも有用だ 早暁に実現する)の最低気温である。データ抽出 と思われるので報告する。 の際、前述のように昼間は適当な日射による気温 ∼ 時の間に実現する)の最 上昇があって、夜間雲量はゼロの日に限る。国内 ICCP は多数の科学者(約 名とされるが、 にある数百の気象観測点の中で平均風速が小さく、 結論に賛同出来ずに脱退を希望する科学者の意向 夜間雲量の観測が は無視され、実数より多めにカウントされている いるのは京都市と山形市の 可能性がある)の賛同を得ているというが、科学 均風速が小さい地点を選択する理由は、対象地点 の歴史で真実が多数決で決まった例は殆どない。 の昼夜の気温変化に及ぼす周囲からの影響を極力 「事実が科学的真偽を決定する」ことが忘れ去ら 小さくするためである。 (図 れている。 ∼ 市の、(図 世紀において一般社会及び、一 )に 時、 時の 回以上行われて 箇所だけである。平 )に 年間の京都 年間の山形市の ΔT の時間変 部の科学者の間に 世紀の論理がまかり通ってい 化を示す。これら ることになる。コンピュータシミュレーションよ ている。即ち、記録の始まった りも事実の織り成す真実解明に重点を置こうとす 減少しているが、 る一科学者として、危機感を覚える。事実による は停止し、それ以後はデータのバラ付きの範囲で 確認の必要性を感じたのが本研究の動機である。 小さな変動が見られるものの、ほぼ一定である。 つは驚くほど良い一致を示し 年、 年から ΔT は 年頃にかけて減少 温室効果の増加は昼夜の気温差 ΔT の減少をもた . 年から らし、逆に ΔT の増加は温室効果の減少に相当す 年まで 年間の昼夜気温 差 ΔT の変化 ることに留意して 前回報告では京都市と山形市について 年間の (図 つの図を見る必要がある。 )にはハワイ島マウナロア山観測所にお 昼夜間気温差を報告したが、この年変化を京都市 ける米国海洋大気局(NOAA)の観測データを については 年間に拡張してまとめて示す。ここ 示す。図中の小刻みに変化する実線が大気中の で小題にある ΔT は前回 Δt と表示したものと全 CO 濃度の観測データであり、年々増加の傾向を く同じである。物理学の世界では温度には絶対温 示している。小刻みな変化は、CO 濃度は緑色植 度の意味で T を使用し、t は時間を表すことが多 物の光合成が夏季と冬季で異なることによる季節 いので今後、この記法を使用する。従って ΔT = 変化に対応する。冬季は CO 濃度が高く、夏季に △T (℃) 25 20 15 10 5 0 0 2000 4000 (図 6000 8000 10000 12000 days from the 1st Jan in 1961 )京都市における 年から − − 14000 16000 年までの ΔT 年変化 18000 20000 地球大気の温室効果のメカニズムについて △T (℃) 25 20 15 10 5 0 0 2000 4000 (図 6000 8000 10000 12000 days since the beginning of 1961 )山形市における ppm 390 詳細は省く。季節による細かな変動を無視すれば、 380 CO 濃度は増加傾向にあることは共通している。 370 年にかけて増加が鈍化した時期が あるが、別途、考察することにする。 年付近 350 340 分子のような温室効果ガスによる地球放射赤外線 330 CO 観測値とこの垂線の交点にある水平な破線は 320 310 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 (図 )大気中 CO 濃度の年変化(NOAA)と赤 外線吸収飽和濃度 年 ご ろ の 北 半 球 に お け る CO 濃 度 が 約 ppm であることを示す。この 18000 360 に筆者が立てた太い垂線は、先に述べた通り、CO の吸収が飽和したと思われる時期を示している。 16000 年までの ΔT 年変化 年から は低下する。南北半球でこの違いは逆転するが、 年から 14000 点から次のよう な結論が得られる。①始まりの時期は不明である 変動の原因は温室効果とは別の要因を考慮する必 が地球大気の温室効果の増大が 要が出て来る。 停止し、その後、 ∼ 年頃に 年までは広義の温室効果に .大気低層部の水蒸気量と昼夜気温差 ΔT は、感知できる程度の大きさで変化はなく、一定 の関係 である。今後、地球表面温度が大幅に上昇しない 物理学系の専門家ら(海野氏など)が指摘する 限り(表面温度が大幅に上昇すると CO は分子軸 つの酸素原子の非対称な振動による、波 ように地球大気に含まれる温暖化ガスの中で最 長の短い赤外線を吸収するようになり、新たな温 大・最強のものは水蒸気(H O)である。前章(図 上での )、(図 室効果への寄与が予想される)、CO が温室効果 増大に寄与する可能性は低い。② )に示した ΔT の解析結果にはデータ のバラつきがあり、 年までの 年以降の解析で得られる ΔT の縮小が温室効果ガスによる地球放射赤外線 ΔT の回帰値には標準偏差で .℃程度の不確定 吸収の結果だとすれば、温室効果ガスを CO に限 さがある。これは測定誤差ではなく、大気中の水 ると、濃度 ppm で地球放射赤外線吸収は飽和 蒸気量の変化の結果、大気による地球放射赤外線 した可能性が高い。CO の大気中濃度が増加して 吸収量が短期な変化をすることや他に考えられる も温室効果の増大は見込めず、 大気の保温効果(対流)の変化によると考えられ 年以降の気候 − − 福 間 寛 △T(℃) 25 20 15 10 5 0 0 5 10 15 20 25 20 25 水蒸気量(g/m3) (図 )京都市 ΔT と水蒸気量の関係 △T(℃) 25 20 15 10 5 0 0 5 10 15 水蒸気量(g/m3) (図 )山形市 ΔT と水蒸気量の関係 − − 地球大気の温室効果のメカニズムについて △T(℃) 25 20 15 10 5 0 0 5 10 20 15 25 3 水蒸気量(g/m ) (図 年以降の京都市 ΔT と水蒸気量 ) 水蒸気量(g) 30 25 20 15 10 5 0 −10 −5 0 5 10 15 20 最高気温(℃) (図 )京都市 ∼ 年の夜間水蒸気量と最低気温 − − 25 30 福 間 寛 る。長期間に均せば、毎年同様の変化があり、 ことが明らかであるである。一般の気象予報では 年間の変化としては結果に大きな影響が見られな 冬季の夜間、晴天が予想される場合、放射冷却に いと考えられる。しかし、その効果を確かめてお よる翌朝の冷え込みが厳しくなるとされることが くことは重要である。前章で触れた ΔT の経年変 多いが、このデータは、その常識が誤りであるこ 化は、京都市の場合、 とを示している。 つの条件を満たした 月から 月の放射冷却が強い 日を選択して得られた。山形市の場合は簡便化の と思われていた季節が、意外に ΔT は小さく、夜 ため、 つの条件を満たす日について得られた。 間の冷え込みが他の季節に比して小さい。昼間よ ここでの調査も各々、同じ対象日の夜間の水蒸気 り夜間、冷え込む結果を殊更、強い冷え込みと感 量を算出して ΔT との関係を調べた。京都市と山 じ、放射冷却の効果と思い違いをしていたに過ぎ 形市の結果を各々(図 )と(図 )に示す。デー ない。参考のため(図 b)には高湿度日である タ点の個数は各々(図 )と(図 )と同じであ 水蒸気量が g/㎥以上の日数の月別グラフを示 る。両図とも水蒸気量が約 g/㎥までの高湿度 す。a 図と同様白抜きが ΔT 評価対象日で色付き の場合、水蒸気量の増加と共に ΔT が減少、温室 が 効果の増大することを示している。この傾向は地 g/㎥以上の日は 球放射赤外線の吸収量が増加し、大気の温室効果 分は に寄与する水蒸気の働きから十分、予想できたこ とである。しかし、水蒸気量が ∼ g/㎥以上の日数である。夜間水蒸気量が 、 月から 月に分布するが大部 月に集中している。(図 )から(図 )は大気の保温効果が狭い意味の大気の温室効 g/㎥より 果(地球放射赤外線の吸収による)だけでは説明 も減少すると、予想に反して ΔT は減少に転じる。 できないことを示した初のデータと考えられる。 CO のような他の温室効果ガスの効果が飽和し、 (図 ΔT へ寄与がなくなったと考えられる期間に、こ 果である。京都市の結果である(図 の振る舞いが、 どうなるかを確認したのが (図 である。同図は )は水蒸気量については均した結 )で ∼ 年の ΔT が平坦な領域で、その値を求めると ) 年までの 年間の ΔT ∼ )(図 .± .℃である。 ∼ 年の 年間の水 と水蒸気量の関係を示している。水蒸気量が約 g/㎥より減少すると ΔT も減少することを示し、 先の 年間の振る舞いが、普遍的に起る現象であ ることを裏付けている。 (図 の ΔT 評価条件を満たす )は京都市 年間 150 日の最低気温と夜間 の水蒸気量をプロットしたものである。ここで水 蒸気量は : の測定値と翌朝 100 : の平均値を 50 用いている。図には該当日の最低気温に対応する 0 1 飽和水蒸気量が実線で挿入されている。この図で 水蒸気量が ∼ 図8a 53年間の月別雲量ゼロ適正日と 水蒸気量5g以下の日数 日数 200 2 4 5 量に沿って分布しており、水蒸気量の値に異常が あるとは考えられないことが分かる。(図 には夜間水蒸気量が 示している。 (図 7 8 9 10 11 12 月 11 12 月 a) 図8b 53年間の月別雲量ゼロ適正日と 水蒸気量15g以上の日数 日数 200 a) g/㎥以下の月毎の日数を )と(図 6 (図 g/㎥よりも少ない領域でもそ の分布は滑らかに最低気温に対応する飽和水蒸気 )で示した ΔT 取 150 100 得対象日の日数が白抜きの棒グラフである。黒い 棒グラフが 3 50 g/㎥以下の月毎の日数を表す。夜 間水蒸気量が 0 g/㎥以下の日は冬季の 月から 月に分布し、特に 月から 月に集中している 1 2 3 4 5 6 (図 − − 7 b) 8 9 10 地球大気の温室効果のメカニズムについて 蒸気濃度の違いによる ΔT の違いを求めたのが表 濃度、約 である。ここで水蒸気濃度が ∼ g/㎥では ΔT は約 約 ℃であるが、 冷却抑制効果の限界であることが結論される。 g/㎥以上の濃度では ℃と放射冷却が抑制されて ppm が現在の地球環境における放射 今回の研究で新たに地球大気の温室効果には地 ℃の夜間気温変 球放射赤外線の吸収による熱エネルギーの宇宙空 化の抑制が起る。しかし、水蒸気濃度が g/㎥ 間への輸送抑制の他にも別のメカニズムが、輻射 以下でも .℃となり、見かけ上、放射冷却が抑 と同程度に重要であることを暗示する結果が得ら 制される傾向を示す。大気による地球放射赤外線 れた。(図 の吸収を考える限り、前者はこの考え方に合致し と下向きの矢印を記入したものである。破線の垂 ているが、我国では主として寒冷期に多い、乾燥 直方向の位置は幾分、不確定性があり、ΔT 軸で した条件ではこれに反した傾向を見せている。 (表 (g/㎥) ( )にフリーハンドで破線 ℃程度上に移動する可能性も残る。これは放射 ) 赤外線の吸収効果だけを考慮して水蒸気濃度ゼロ ΔT(℃) 水蒸気量 )は(図 ∼ へと外挿したものを表している。宇宙への熱エネ 年) − .± . 以下 .± . ∼ .± . 以上 .± . ルギー輸送が輻射によるだけ、あるいは他のメカ ニズムに変化がないならば期待される水蒸気濃度 ゼロの場合の ΔT ! ℃ということになる。しか し、実際は太い下向き矢印が示す分だけ温室効果 が強くなっている。その大きさは ∼ ℃程度と 見積もられる。筆者は主として水蒸気濃度の低い .結論と考察 冬季に、何らかの原因で、対流に代表されるよう 第 な他の熱エネルギー輸送メカニズムが抑制され、 章では著者による以前の研究のレビューを 行ったが、本論文では 年から 年にかけて 夜間気温の低下が抑制されると考えている。対流 温暖化ガスによると思われる温室効果の増大が停 による熱エネルギー輸送については海野が考察し 止したという見方を付け加えた。これにより CO ており、赤外線にほとんど不透明で対流が主役と △T (℃) 25 20 15 10 5 0 0 5 10 15 水蒸気量(g/m3) (図 ) − − 20 25 福 間 寛 なる水圏の熱的性質が調べられている。大気圏で 心がこの研究を後押しする力となったことを付け も水圏と同様、気温の最大となる時刻は周期変化 加えます。 で位相 / の遅れがある。この点から筆者は水 圏と同様、大気層でも対流による熱エネルギー輸 送が重要な働きをしている可能性が高いと考えて いる。本研究から、大気のもつ広義の温室効果に ついては温室効果ガスによる宇宙へのエネルギー 放射の問題だけに絞るのは早計であり、その保温 効果について基本的な視点から再考する必要性が 明らかになったと思う。IPCC がリードするコン ピュータシミュレーションを軸に展開されている 温暖化問題への取組みに、その見解が原子力発電 の必要性の根拠の つとされている現実に目を向 けて、物理学者は疑問を呈するべきである。 海野は地球を超複雑系と呼んでいる。筆者には 磁性体の固体物理(ある種の複雑系)の研究から、 種類の相互作用が考えられる系について、理論 によるモデル計算で得られた結果が、複数の実験 でもたらされた予想を超える新事実から導き出さ れる結論に遠く及ばなかったことを目の当たりに した経験がある。実験や観測技術には一朝一夕に は到達できないものが少なくないが、得られる成 果は大きい。温暖化問題についても、より多くの 観測、測定、実験に重点を置いた、地に足の着い た研究の進展を期待しつつ、その努力を続けたい。 (参考文献) 海野和三郎「将来エネルギーと環境の物理学」日本物理 学会誌 ( ) 、 海野和三郎「地球温暖化の天文学」予稿 J. Barrett「Greenhouse molecules, their spectra and function in the atmosphere」 ) 深井有「気候変動とエネルギー問題」中公新書( ) 長崎女子短期大学「紀要」 ( ) 、 ∼ 長崎女子短期大学「紀要」 ( ) 、 ∼ 長崎女子短期大学「紀要」 ( ) 、 ∼ (謝 辞) 本研究については、ΔT に対する大気中水蒸気 量の効果に関心を寄せていただいた国立沖縄高等 工業専門学校、中本正一郎教授らに深く感謝の意 を表します。京都市について得られた結果に困難 を感じて足踏み状態に陥った折、他の研究者の関 − −
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