2. 医薬品 (1)業界概況 2010 年に約 190 億ドルの処方薬の売上高が

2. 医薬品
(1)業界概況
2010 年に約 190 億ドルの処方薬の売上高が見込まれる中国は、米国、日本、ドイツ、フ
ランスに次ぐ世界第 5 位の医薬品市場になると予想され、この急成長を続ける中国への業
界の関心は高まる一方である。
中国の製薬企業数は 2001 年 12 月時点で約 6,700 社、その内西洋薬製造が約 4,500 社、
漢方薬製造が約 1,400 社、その他(ワクチン、試薬、生物製剤)製造が約 800 社あり、2002
年 5 月時点の上場企業は 49 社、外資企業の現地法人は 678 社であった。
(2)WTO 加盟の影響
中国の WTO 加盟の主な利点として、知的財産権保護の強化が挙げられる。1993 年 1 月以
前に 15 年間の保護期間を取得した特許の 5 年間延長、登録出願時の提出書類に含まれるデ
ータの独占・保護期間を承認日から 6 年とする事等が、改善・強化された点である。
医薬品の卸・小売業は、加盟から 3 年後(2004 年 12 月)までに外国投資の段階的導入
を計画しているが、導入手順・その後の展開については、まだまだ不透明である。全中国
をカバーする卸・小売企業はなく、最大シェアの企業でも 3%前後に過ぎない。
(3)直面する問題点
北京・天津に拠点を有する日系製薬企業の交流会である北京医薬品部会が、2002 年度の
定例会で共通問題として取り上げた主な項目は、以下の通りであった。
1)新しい医薬品管理規定
国家薬品監督管理局(SDA)から 2001 年 12 月に全面改訂された薬品管理法が施行され、
2002∼2003 年にかけて関係規定が続けて施行された。その内外国メーカーへの影響が大き
い主な規定は、①薬品管理法実施条例(2002 年 9 月 15 日施行)、②薬品登録管理弁法(2002
年 12 月 1 日施行)、③生物製品批簽発管理弁法(2003 年 1 月 15 日施行)、④薬品生産監督
管理弁法(2003 年 2 月 1 日施行)等であった。
薬品管理法実施条例では、輸入許可証の有効期間が 3 年から 5 年に延長される一方、従
来期限の明示がなかった国内生産許可証の有効期間が 5 年に限定され、内外差別が改善さ
れた。
しかしまだ改善されていない問題も多く、日本の製薬企業の団体である日本製薬団体連
合会(日薬連)・日本製薬工業協会(製薬協)訪中団が、2002 年 10 月 31 日に SDA を訪問
し、許認可手続きと審査の迅速化、委託生産の規制緩和、流通・販売の規制緩和、知的財
産権保護の徹底について要望書を提出した。
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2)医薬品入札購入制度
衛生部(MOH)が監督官庁で、2000 年から導入され、現在は全国的に実施されている。
入札では①特許品か否か、②GMP(医薬品製造管理及び品質管理規則)認証品か否か等で分
類され、多くの外資企業は先発品(海外での特許品)で中国製コピー品との戦いに臨んで
いるが、コピー品に市場を取られる例が増えている。
原因のひとつは、『先発品でも中国で特許をとっていない物は認めない』との入札当局の
解釈で、特許品扱いで国家発展計画委員会(SDPC)から薬価取得したにも関わらず、特許
品として分類されない事である。地方によっては行政保護(パイプライン特許)証書が何
か知らず、特許として認めない例もあった。
そのまま応札するとコピー品の応札価格に合わせられ、既に承認された薬価もその地区
の物価局に引下げられる恐れがあるため、迷っている内に応札期限が切れ、結果的に当該
地区の次回入札まで販売を諦めることになってしまう。
2002 年 11 月 1 日に日薬連・製薬協訪中団が衛生部幹部と会って、入札制度の透明性を
高めるよう要望書を手渡した。
3)薬価引下げ
SDPC が 2000 年 12 月に公布した『医薬品の政府定価発表条例に関する通知』により、先
発品の薬価がコピー品に引きずられて大幅に引下げられる事態が起きている。
2001 年 12 月に 383 品目の薬価が引下げられ、2002 年 12 月にも 199 品目の薬価が入札価
格等実勢価格を参考に引下げられた。薬価算定では、先発品、GMP 品、非 GMP 品に分類し、
先発品がコピー品よりも 30-35%高い薬価になる仕組みであるが、コピー品薬価を基に先発
品薬価が算定されるため、大幅引下げになる先発品もある。
先発品には別途薬価申請を受け付ける単独薬価申請制度もあるが、この制度により先発
品と比べてコピー品薬価が低すぎる事を不服とする国内企業も出ており、昨年広州貝氏薬
業有限公司が自社医薬品の薬価引下げ幅が他社同類品より不当に大きいと SDPC を訴えた
件が業界の関心を呼んだ。
4)医療保険償還薬リストへの収載問題
都市労働者基本医療保険から薬剤費を負担する処方薬のリストが医療保険償還薬リスト
であるが、そこには全処方薬の 10%程度しか収載されていないのが実情である。管轄する
労働社会保障部(MLSS)は、医療保険償還薬リストの改訂を 2002 年末までに完了する予定
であったが作業が遅延しており、「早くて 2003 年 5 月になる」等の推測がある。現在のリ
ストには 1999 年以降に発売された新製品は含まれておらず、患者は新製品を使用すると償
還を受けられず、全額自己負担になってしまう。日薬連・製薬協訪中団が、2002 年 10 月
31 日に先方を訪問した際、リスト収載医薬品の拡充を求める要望書を提出した。
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5)知的財産権問題
医薬品の登録、管理を管轄する SDA が医薬品行政保護の申請窓口でもあるため、そこか
ら国内企業への情報漏洩が問題になっており、前述の薬品管理法実施条例第 72 条で、SDA
が情報漏洩で申請者に損害を与えた場合の賠償責任を明記した事実がそれを物語っている。
行政保護制度の別な問題として、行政保護が認められる前に中国企業にコピー品の販売
承認の申請・取得を認める『72 号通達』の存在がある。
本制度と矛盾するこの通達により、中国企業のコピー品は合法的に行政保護が認められ
た先発品と一緒に市場に存在できることになり、これが原因で欧米・日系企業は国内コピ
ー品メーカーにシェアを奪われ、甚大な利益の損失を被っている。この通達は後に廃止さ
れたが、すでに上市したコピー品は今も市場に存在している。
日薬連・製薬協訪中団が知的財産の保護強化をSDAに要望したのは前述の通りである。
6)プロモーションコード(販売促進活動規範)
医療従事者への利益供与による医薬品メーカー及び流通業者の不正な販売行為が年々熾
烈になり、医療現場に混乱をもたらしている事から、新薬品管理法の第 59 条で不正行為を
禁止し、第 90 条と第 91 条で違反した場合の懲罰を規定している。
しかし表現があいまいで禁止された利益の定義がはっきりしない上、手続きへの言及が
ないため、「営業的賄賂」に当たる販売不正行為と、合法的な学術会議への医療従事者の参
加支援との間に、どう線を引くべきかが繰り返し問題となっている。
中国の医薬品業界団体である中国化学製薬工業協会(CPIA)の中外合資企業工作委員会
が 2002 年 4 月にプロモーションコード(販売促進活動規範)を公表し、外資系企業が先頭
に立って不正販売行為の一掃に動き出した。
北京医薬品部会でも 2002 年 5 月にプロモーションコード分科会を設立し、日系企業全体
で販売促進活動の規範化を推進し始めた。今年はこの活動に中国企業を引き込むべく、日
本製薬協と CPIA が共催予定の、『日中製薬協シンポジウム』の 1 テーマとして取り上げる
べく、準備を進めている。
(4)日系医薬品メーカーの活動状況
1)北京医薬品部会
北京・天津に拠点を有する日系製薬企業の情報交換のために、1993 年 5 月に 8 社で発足
し、現在正会員 19 社と準会員 2 社(上海に拠点)の計 21 社が加入している。1998 年 7 月
からは、日本大使館の厚生労働省出身書記官に定例会に出席いただき、厚生労働省や中国
政府への連絡窓口になっていただいている。
また、北京の日本人商工会議所に、工業部会第三分科会理事 1∼2 名、調査委員会委員
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1 名、IPG(知的財産権グループ)運営幹事 1 名、北京日本人会常任理事(生活環境委員会
副委員長)1 名を出している。
過去 1 年間は、月例会議以外に、・医薬品規定の日本語訳と配布、・製薬協の依頼で『中
国医薬品事情』を執筆、・プロモーションコード分科会を設立、・製薬協から講師を招き日
本のプロモーションコード(8 月)や薬事法改正(10 月)の勉強会を実施、・『日中製薬協
シンポジウム』準備委員会を設立、・親睦行事等を実施した。
2)上海医薬品部会
1996 年 6 月に 5 社で設立し、現在は 17 社まで会員企業が増加している(内、北京医薬
品部会にも加入している企業が 13 社)。
北京医薬品部会が当局対応を主体に活動しているのに対し、上海医薬品部会は生産、営
業、管理等の分科会を設立して事業運営に関する情報交換を主体に活動している。2002 年
9 月に、上海で第 3 回北京・上海合同医薬品部会を開催した。
(5)日本との関係
2002 年は、11 月 1 日に衛生部と日本の医療、医薬関係者が日中国交正常化 30 周年を記
念して、北京飯店で『日中医薬衛生界新旧友人交歓会』を開いた。日本からは橋本元総理、
武見参院議員、厚生労働省医政局長、日薬連会長ら約 160 人が参加した。
2003 年は、前述の通り 2000 年の北京開催に続いて第 4 回日中製薬協シンポジウムの開
催を予定している他、ICH(日米 EU 医薬品規制調和国際会議)第 6 回大会が 11 月に大阪で
開催されるため、その機会を利用した日中の交流が行われるものと予想される。
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