RENEWABLES 2014 GLOBAL STATUS REPORT 自然エネルギー世界白書 2014 日本語版 翻訳:認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP) REN 21 運営委員会 産業団体 国際機関 NGO Michael Brower 米国再生可能エネルギー評議会(ACORE) Bindu Lohani アジア開発銀行(ADB) Ernesto Macías Galán 農村電化同盟(ARE) Piotr Tulej 欧州委員会(EC) Ibrahim Togola マリ・フォルケセンター/再生可能エネルギー と持続可能性のための市民連合(CURES) Li Junfeng 中国再生可能エネルギー産業協会(CREIA) Robert K. Dixon 地球環境ファシリティ(GEF) David Green グリーンエネルギー評議会(CEC) Paolo Frankl 国際エネルギー機関(IEA) Rainer Hinrichs-Rahlwes 欧州再生可能エネルギー連盟(EREF) Adnan Z. Amin 国際再生可能エネルギー機関(IRENA) Steve Sawyer 世界風力エネルギー会議(GWEC) Marcel Alers 国連開発計画(UNDP) Marietta Sander 国際地熱協会(IGA) Mark Radka 国連環境計画(UNEP) Richard Taylor 国際水力発電協会(IHA) Pradeep Monga 国連工業開発機関(UNIDO) Heinz Kopetz 世界バイオエネルギー協会(WBA) Vijay Lyer 世界銀行 Stefan Gsänger 世界風力エネルギー協会(WWEA) Irene Giner-Reichl 持続可能なエネルギーに関するグローバル フォーラム(GFSE) Sven Teske グリーンピース・インターナショナル Emani Kumar イクレイ−持続可能性を目指す自治体協議会 南アジア事務所 飯田哲也 環境エネルギー政策研究所(ISEP) Tomas Kaberger 自然エネルギー財団(JREF) Harry Lehmann 再生可能エネルギー世界会議(WCRE) Athena Ronquillo Ballesteros 世界資源研究所(WRI) Rafael Senga 世界自然保護基金(WWF) 無任所会員 各国政府 科学者および研究者 Michael Eckhart シティグループ株式会社 Mariangela Rebuá de Andrade Simões ブラジル Nebojsa Nakicenovic 国際応用システム分析研究所(IIASA) Mohamed El-Ashry 国連基金 Hans Jørgen Koch デンマーク David Renné 国際太陽エネルギー学会(ISES) David Hales セカンド・ネイチャー Tania Rödiger-Vorwerk/Karsten Sach ドイツ Kirsty Hamilton チャタムハウス Tarun Kapoor インド Peter Rae RENアライアンス Øivind Johansen ノルウェー Arthouros Zervos パブリック・パワー・コーポレーション David Pérez スペイン Paul Mubiru ウガンダ Thani Ahmed Al Zeyoudi アラブ首長国連邦 Kevin Nassiep 南アフリカ共 和 国エネルギー開 発 研 究 所 (SANEDI) Rajendra Pachauri エネルギー資源研究所(TERI) 事務局長 Christine Lins REN21 Nick Clements 英国 免責事項 REN21の発行誌や報告書は、自然エネルギーの重要性を強調し、自然エネルギー促進のための主要な論点について議論を喚起すべく、REN21 が発表するものである。REN21のコミュニティによる考察や情報の賜であるが、当ネットワークの参加者がすべての点においてかならずしも 見解が一致しているわけではない。本報告書の情報は作成時に著者らが有する最善のものであるが、REN21とネットワーク参加者たちが情報 の精度と正確性の責任を負うものではない。 序文 2004年の6月、世界で初めての取り組みである政府主催の 自然エネルギー国際会議のために154か国の代表者がドイ ツのボンに集結した。過去10年間で世界の自然エネルギー に対する認識は大きく変化した。継続的な技術革新と自然 エネルギー技術の急速な導入によって自然エネルギーの持 つ膨大な潜在的可能性が明らかになった。 今日、自然エネルギーはエネルギー源としてだけではなく、 エネルギー安全保障、化石燃料や原子力技術の使用によ る健康や環境への影響の緩和、温室効果ガス排出の低減、 教育機会の向上、雇用の創出、貧困問題の解消、そして 男女平等の促進などの多くの差し迫った必要性に取り組む ためのツールとして見られている。 自然エネルギーは主流となった。2030年までに世界のどこで も近代的なエネルギーサービスを享受できるようにし、エネル ギー効率を向上させ、自然エネルギー源の活用を拡大する という「すべての人のための持続可能なエネルギーの国連 の10年(SE4ALL)」が始まったことは歓迎すべきニュース である。本報告書は自然エネルギーの進展状況を明確に示 している。一方で、世界のエネルギーミックスにおける自然 エネルギーの割合を倍増させ、すべての人がクリーンで持 続可能なエネルギーを享受できるようにするという目的を達 成するためには行動をさらに加速し、より入念に取り組んで いかなければならないということも示している。 過去10年で REN21は進化を続け、REN21のコミュニティ は強靭でダイナミックで国際的な自然エネルギー専門家のネッ トワークとなった。REN21への貢献者、研究者や著者たち の協力によって、本報告書は自然エネルギー市場や産業、 政策展望について最もよく参照される報告書になった。本 報告書の作成に関わり、本報告書が真に国際的かつ協調 の成果となるよう支援したあらゆる著者、研究者や校閲者 を含む貢献者による拡大を続けるネットワークに深く感謝する。 また、REN21事務局を代表して自然エネルギー世界白書 2014を無事に出版できるように貢献してきた研究ディレクター であり主筆のJanet Sawin、各章の著者、本報告書プロジェ クトマネージャー の Rana Adib、REN21 事 務 局 長 の Christine LInsの指揮下にあるREN21事務局のチーム全 体を含むすべての人に感謝の辞を述べたい。 過去10年で世界的な自然エネルギーへの転換は実行に移 されてきたが、それを成し遂げるためには、協力的かつ持 続的な取り組みが求められる。より意欲的な目標と革新的な 政策により、自然エネルギーが期待以上の成長を続け、クリー ンで持続可能なエネルギーの未来を実現することができる。 本報告書で示されているように、問題はもはや自然エネルギー がエネルギーサービスを提供する役割を担えるかどうかでは なく、すべての人がエネルギーを十分に利用できる自然エネ ルギー100%の未来を実現するために、どのように現在の導 入ペースを最大限加速できるか、というものである。 Arthouros Zervos、REN21会長 ─1─ 目次 序 文 ……………………………………………………………………1 21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク………………3 謝 辞 ……………………………………………………………………4 要 旨 ……………………………………………………………………8 2013年 の 主 要 指 標 …………………………………………………11 上 位5か 国 ……………………………………………………………12 1章 世界の概況………………………………………………………15 電 力 部 門 …………………………………………………………19 熱利用と冷房部門………………………………………………22 輸送部門 …………………………………………………………23 2章 技術別の市場と産業の傾向…………………………………25 バイオマスエネルギー …………………………………………25 地 熱 発 電 …………………………………………………………33 水 力 発 電 …………………………………………………………36 海 洋 エ ネ ル ギ ー …………………………………………………40 太陽光発電(PV)………………………………………………42 集光型太陽熱発電(CSP)……………………………………47 太陽熱利用と冷房………………………………………………49 風力発電 …………………………………………………………52 3章 投資の流れ………………………………………………………63 経済地域別の投資………………………………………………63 技 術 別 の 投 資 ……………………………………………………66 種 類 別 の 投 資 ……………………………………………………67 自然エネルギー投資の見通し…………………………………68 投 資 源 ……………………………………………………………69 2014年 初 頭 の 投 資 傾 向 …………………………………………69 4章 政策の展望……………………………………………………70 政策目標 …………………………………………………………70 発電政策 …………………………………………………………71 熱利用と冷房に関する政策……………………………………79 交通政策 …………………………………………………………81 グリーンエネルギー購入とラベリング………………………82 都市と地方自治体の政策………………………………………82 5章 発展途上国における分散型自然エネルギー………………89 分散型自然エネルギー技術……………………………………90 政策の枠組み ……………………………………………………92 業界とビジネスモデル …………………………………………94 6章 世界のエネルギー移行をたどる……………………………97 予 想 以 上 の 拡 大 …………………………………………………97 変 動 の10年 ………………………………………………………98 投 資 の 増 加 ………………………………………………………99 進化する政策環境………………………………………………99 自然エネルギーの有望な未来…………………………………100 表 表1. 世界の自然エネルギーにおける産業別の 直接および間接雇用の推計………………………………60 表2. 自然エネルギー技術の現況:特性とコスト…………………………61 表3. 自然エネルギー促進政策……………………………………………86 図28.自然エネルギー政策を持つ国の数 政策手法別(2010年〜2014年はじめ)……………………72 図29.国家規模別の自然エネルギー政策を持つ国々の割合 (2004年〜2014年はじめ)……………………………………73 図30.自然エネルギー政策を持つ発展途上国と新興国 (2004年、2009年、2014年はじめ)………………………74 図31.電化地域の人口の割合、電化率と人口増加の対比………………93 図 図1.世界の最終エネルギー消費における 自然エネルギーの割合(2012年、推計値)……………15 図2.自然エネルギー設備容量とバイオマス燃料生産の 年間平均成長率(2008年末〜2013年末)……………16 図3.世界の電力供給における自然エネルギーの割合(2013年末、推計値)…19 図4.自然エネルギー発電設備容量 世界合計、EU28か国、BRICS、上位6か国(2013年)………20 図5.バイオマス資源をエネルギーへ………………………………………25 図6.エタノール、バイオディーゼル、HVOの 世界生産量(2000年〜2013年)………………………………29 図7.世界の木質ペレットの国別、地域別生産量 (2000年〜2013年) …30 図8.地熱発電追加容量、国別割合(2013年)…………………………34 図9.地熱発電設備容量および追加容量 上位10か国とその他地域(2013年)………………………34 図10.世界の水力発電設備容量 上位6か国の割合(2013年)………39 図11.世界の水力発電設備容量および追加容量 上位6か国の割合(2013年)…………………………………39 図12.世界の太陽光発電総容量(2004年〜2013年)………………45 図13.太陽光発電設備容量および追加容量 上 位10か国(2013年 ) ……………………………………45 図14.世界の太陽光発電設備追加容量と 年間投資額(2004年〜2013年)…………………………45 図15.世界の集光型太陽熱発電設備容量 国別、地域別(2004年〜2013年)………………………47 図16.世界の太陽熱利用システム設備容量 上位10か国の割合(2012年)………………………………50 図17.太陽熱利用システム追加容量 上位10か国(2012年)………50 図18.世界の太陽熱利用システム設備容量(2000年〜2013年)……50 図19.世界の風力発電総設備容量(2000年〜2013年)……………56 図20.風力発電設備容量および追加容量 上位10か国(2013年)………………………………………56 図21.風力タービン製造上位10社による市場占有率(2013年)………56 図22.自然エネルギーの雇用………………………………………………60 図23.世界の自然エネルギー発電と燃料への新規投資額 先進国/発展途上国(2004年〜2013年)………………63 図24.地域別の自然エネルギー発電と燃料への 世界の新規投資額(2004年〜2013年)……………………64 図25.技術別の自然エネルギーへの世界の新規投資額 先進国/発展途上国(2013年)……………………………66 図26.自然エネルギー政策を持つ国々(2014年はじめ)………………72 図27.自然エネルギー政策を持つ国々(2005年時点)…………………72 表参照 ………………………………………………………………102 注 釈 …………………………………………………………………139 方法論に関する注釈………………………………………………139 用 語 集 ………………………………………………………………141 エネルギー単位と換算……………………………………………147 略語一覧……………………………………………………………148 日本語版作成にあたって…………………………………………149 補足欄 補足1.自然エネルギーデータ: 発電設備容量および発電量データの現状と問題点………………17 補足2.注目地域:ラテンアメリカとカリブ海地域…………………………18 補足3.バイオマスエネルギー・カーボン・アカウンティング………………26 補足4.ヒートポンプと自然エネルギー………………………………………37 補足5.持続可能性についての特集:風力発電…………………………57 補足6.自然エネルギーの雇用と関連データ………………………………59 補足7.革新的なエネルギーシステム:発電産業の転換…………………76 補足8.自然エネルギーとエネルギー効率の関係性:持続可能型建築に関して…80 補足9.分散型自然エネルギーの定義と範囲………………………………90 表参照 表R1.世界の自然エネルギー設備容量とバイオ燃料生産(2013年)…102 表R2.自然エネルギーの発電容量 世界統計と上位地域/国 (2013年) …103 表R3.木質ペレットの世界貿易(2013年)……………………………104 表R4.世界のバイオ燃料生産 上位16か国とEU27か国(2013年)…105 表R5.世界の地熱発電設備容量と新規導入量(2013年)……………106 表R6.世界の水力発電設備容量と新規導入量 上位6か国(2013年)…107 表R7.世界の太陽光発電容量と新規導入量 上位10か国(2013年)…108 (CSP) 設備容量と新規導入量(2013年度) …109 表R8.世界の集光型太陽熱発電 表R9.世界の太陽熱温水器設備容量と新規導入量 上 位12か国(2012年 )………………………………………110 表R10.風力発電設備容量と新規導入量 上位10か国(2013年)…111 表R11.自然エネルギーへの投資の世界的傾向(2004年〜2013年)…112 表R12.自然エネルギーの一次および最終エネルギーにおける割合 (2011 / 2012年の実績および目標値)……………………113 表R13.発電量における自然エネルギーの割合 (2012年の実績および目標)…………………………………116 表R14.熱利用と冷房における近代的自然エネルギーの割合 (2012年の実績と目標)………………………………………118 表R15.その他の自然エネルギー目標……………………………………119 表R16.固定価格買取制度(FIT)を採用している国/州/地域の累計数…126 表R17.RPS /クォータ政策を採用している国/州/地域の累計数…127 表R18.国および州/地域のバイオ燃料混合規制……………………128 表R19.都市および地域のエネルギー政策:主な事例…………………129 表R20.地域および国別電力アクセス…………………………………132 表R21.調理用エネルギー源を伝統的なバイオマスに依存している人口…135 表R22.電力アクセス拡大のためのプログラム:主な事例………………136 表R23.電力アクセス拡大のためのネットワーク:主な事例………………138 本報告書の引用 REN21. 2014. Renewables 2014 Global Status Report(Paris: REN21 Secretariat). ISBN 978-9815934-2-6 ─2─ 21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク REN21は、主要な関係者を広く結びつける、世界の自然 エネルギー政策に関する多様な主体のネットワークである。 REN21の目標は知識の交換、政策の発展、自然エネルギー への迅速な世界的移行に向けた共同行動を促進すること である。 REN21は、互いに学び、自然エネルギーを発展させるよう な成功を積み重ねるために政府、非政府組織、科学・学 術機関、国際機関、産業界をまとめあげる。政策形成を 支援するために、REN21は良質な情報を提供し、議論や 討論を促し、テーマごとのネットワークの発展を支援している。 → → 十分な情報に基づく政策決定を促進するための質 の高い情報の提供 複数のステークホルダーのネットワークを利用し、REN21は 自然エネルギーに関する包括的で時機に応じた情報の収集 を促進している。この情報は官民両方の部門の多様な観 点を反映しており、自然エネルギーについての誤った通説を 払拭し、政策変更の触媒となる。 自然エネルギー世界白書(GSR) 2005年に初めて発表されて以来、自然エネルギー世界白書 (GSR)は、500人以上に及ぶ著者や貢献者、評論家など の国際的なネットワークの協力を得て、真に協同的な成果と 言えるまでになった。今日、本書は最も頻繁に参照される自 然エネルギーの市場や産業、政策動向に関する報告書で ある。 テーマごとの報告書 REN21はあるテーマに関する綿密な分析を提供し、議論を 促進させることを目的としたテーマごとの報告書を制作して いる: ■世界自然エネルギー未来白書(GFR) ■地方自治体の自然エネルギー政策に関する世界白書 ■世界のエネルギー転換の加速についての10年 ■ミニグリッド政策のツールキット 地域報告書 これらの報告は、ある特定の地域における自然エネルギー の発展を詳しく述べている;この報告書は地域のデータ収 集の過程や十分な情報に基づいた政策決定にも役立って いる。 政治的関与を促進するための議論や討論を始める 国際自然エネルギー会議(IRECs) 国際自然エネルギー会議(IRECs)は高官が参加する政 治会合の一つである。自然エネルギー部門に特化しており、 隔年で開かれるIRECは中央政府機関が主催し、REN21 が開催している。SAIREC 2015は南アフリカで2015年の10 月4日から7日に開催される。 自然エネルギーアカデミー REN21自然エネルギーアカデミーは成長を続けるREN21の 貢献者コミュニティーにおける活発なやりとりの機会を提供し ている。そして、それは未来志向の政策のアイデアを生み 出すための場を提供し、主に自然エネルギーへの転換に関 する問題に参加者が積極的な貢献ができるようにしている。 テーマごとのワークショップやパネルディスカッション、オンラ インセミナー REN21は自然エネルギーに関する情報を国際的に広めるた めにワークショップやパネルディスカッション、オンラインセミナー の参加や開催をしている。 → REN21の複数のステークホルダーの基盤を強化・ 活用する ■ REN21の4版に及ぶ会報によってREN21のネットワークメ ンバーや REN21事務局の幅広い活動を普及する 自然エネルギー・インタラクティブ・マップ 自然エネルギー・インタラクティブ・マップは、国際的な自然 エネルギーにおける発展状況を追跡するための研究ツール である。それは最新の市場や政策の情報、国家の公開可 能な詳しい分析結果を定期的に提供することで本報告書の 視点や調査結果を補足している。 ■ REN21メンバーへのニュースワイヤーによる詳細な情報 の提供 ■ IEA、IRENA、SE4ALL、UNEPなどの重要なパート ナー機関との活発なやりとり ─3─ 謝辞 本報告書は、REN21が主体となり、研究パートナーたちと の世界規模のネットワークと共同で制作されたものである。ド イツ連邦経済協力開発省(BMZ) 、ドイツ連邦経済・エネ ルギー省(BMWi) 、そしてアラブ首長国連邦外務省によっ て資金的サポートが提供された。また、本報告書のための 研究の大部分は、ボランティアを基本に行われている。 REN21プロジェクト運営および GSRコミュニティ運営 Rana Adib(REN21事務局) Kanika Chawla(REN21事務局) 研究支援およびコミュニケーション支援(REN21事務局) Martin Hullin Sarah Leitner Stefano Mazzaccaro Hannah Murdock Laura E.Williamson Glen Wright 編集・デザイン・レイアウト 編集:Lisa Mastny(ワールドウォッチ研究所) weeks.de Werbeagentur GmbH, デザイン 制作 「すべての人のための持続可能なエネルギー」 REN21事務局(フランス、パリ) 国連事務総長の「すべての人のための持続可能なエネル ギー」イニシアティブは、2030年までに「すべての人の近 名誉主筆 代的なエネルギーサービスへのアクセス確保」、「世界的な Eric Martinot(環境エネルギー政策研究所) エネルギー効率の倍増」、「世界のエネルギーミックスにおけ る自然エネルギーの割合の倍増」を実現するための国際的 な運動を起こそうとしている。REN21の自然エネルギー世 各国・各地域の研究者 界白書2014は、エネルギーアクセスを向上させるために自 ASEAN 然エネルギーが果たす役割を示すことでこのイニシアティブ Katarzyna Chojnacka, Thachatat Kuvarakul に貢献している。主に発展途上国出身の地域専門家によ (ASEAN CENTRE for Energy(GIZ)) る情報に基づく分散型自然エネルギーの章では、自然エネ 東アジア ルギーが必要とされるエネルギーサービスをどのように提供し、 Christopher Dent(リーズ大学) 近代的な調理法や熱利用/冷房、電気技術を通して生活 東および南アフリカ 水準の向上にどのように貢献しているかが記されている。 Dennis Kibira(African Solar Design) 新たに立ち上げられた「すべての人のための持続可能な Natasha Kloppers, Jonathan Skeen(Emergent エネルギーの国連の10年(2014年〜2024年)」が明らかに Energy) しているように、REN21はSE4ALL イニシアティブと共にこ 西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS) の3つの目標を達成するために取り組んでいく。 David Koman Achi(AD Solar, AD Education Energie) 研究ディレクターおよび主筆 Adeola Adebiyi, Nicola Bugatti, Eder Semedo Janet L.Sawin(スンナ研究所、ワールドウォッチ研究所) (ECREEE) Freyr Sverrisson(スンナ研究所) Katie Auth, Tristram Thomas(ワールドウォッチ研究所) 中央および東ヨーロッパ 分野ごとの著者 Ulrike Radosch(Austrian Energy Agency, Kanika Chawla(REN21事務局) enerCEE) Christine Lins(REN21事務局) 西ヨーロッパ Angus McCrone(ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファ Peter Bickel(ZSW) イナンス) Jan Bruck, Charlotte Cuntz, Tatjana Regh,Mona Evan Musolino(ワールドウォッチ研究所) Rybicki(Germanwatch) Lily Riahi(国連環境計画(UNEP)) ラテンアメリカとカリブ海 Janet L.Sawin(スンナ研究所、ワールドウォッチ研究所) Gonzalo Bravo(Fundación Bariloche), Ralph Sims(マッセー大学) Sandra Chavez(国際再生可能エネルギー機関(IRENA) ) Jonathan Skeen (Emergent Energy) Milena Gonzalez(ワールドウォッチ研究所) Freyr Sverrisson(スンナ研究所) Arnaldo Vieira de Carvalho(IDB) ブラジル スペシャル・アドバイザー Suani Coelho, Maria Beatriz Monteiro(CENBIO) Ralph Sims(マッセー大学) Renata Grisoli(MGM Innova) Camilla Ramos(CELA) ─4─ カナダ Jose Etcheverry(ヨーク大学) チリ Jose Emiliano Detta(IDB) 中国 Frank Haugwitz(Asia Europe Clean Energy(Solar) Advisory) コロンビア Javier Eduardo Rodríguez(Mining and Energy Planning Unit,Columbia) エクアドル Pablo Carvajal(Ministry of Strategic Sectors, Ecuador) フィジー Atul Raturi(南太平洋大学) フランス Romain Zissler(環境エネルギー政策研究所) ガーナ Kwabena Ampadu Out-Danquah(Ghana Energy Commission) ホンジュラス Jose Emiliano Detta(IDB) インド Shirish Garud(エネルギー資源研究所(TERI)) イタリア Noemi Magnanini(GSE) 日本 飯田哲也、松原弘直(環境エネルギー政策研究所) 大林ミカ(自然エネルギー財団) ヨルダン Samer Zawaydeh(AEE) クウェート Adam Weber(Clean Energy Business Council) リトアニア Inga Valuntiene(COWI Lietuva) マリ Cheick Ahmed Sanogo(AMADER) モーリシャス Fabiani Appavou(Ministry of Environment and Sustainable Development, Mauritius)) モロッコ Philippe Lempp(GIZ) ネパール Mukesh Ghimire(AEPC) ニカラグア Lâl Marandin(Pelican SA) ノルウェー Benjamin Sovacool(AU herning) オマーン Ali Al Resheidi(Oman Publlic Authority for Electricity and Water) フィリピン Rafael Senga(世界自然保護基金(WWF)) ポルトガル Lara Ferreira(APREN) Luisa Branquinho Silverio(DGGE) セネガル Ibrahima Niane(Ministry for Energy, Senegal) 韓国 Sanghoon Lee(Korean Society for New and Renewable Energy) Kwanghee Yeom(KFEM) スペイン Sofia Martinez(IDAE) スウェーデン Benjamin Sovacool(AU Herning) タンザニア Chris Greacen(Palang Thai) タイ Chris Greacen(Palang Thai) Sopitsuda Tongsopit(Energy Resource Institute) トーゴ Dodji Agbezo(JVE Togo) トルコ Mustafa Sezgin(TENVA) Tanay Sidki Uyar(Eurosolar) アラブ首長国連邦 Dane McQueen(MoFA,UAE) ウルグアイ Pablo Caldeiro Sarli,Gabriela Horta, Alejandra Reyes (Uruguay Ministry of Industry, Energy & Mining) テーマ別 研 究 者 バイオマスエネルギー Patrick Lamers(Mountain View Research); Eija Alakangas(VTT Technical Research Centre of Finland); Sribas Bhattacharya(IISWBA); Helena Chum (NREL); Jaqueline Daniel-Gromke(German Biomass Research Centre); Matthias Edel(German Energy Agency); Anselm Eisentraut(国際エネルギー機関(IEA)); Alessandro Flammini(FAO); Uwe Fritsche(IINAS); Karin Haara(世界バイオエネ ルギー協会(WBA)); Martin Junginger(ユトレヒト大学); Heinz Kopetz(世 界バイオエネルギー協会(WBA)); Bharadwaj Kummamuru(世界バイオエネルギー協会 (WBA)); Andrew Lang(世界バイオエネルギー協会 (WBA)); Benoit Lebot(国連開発計画(UNDP)); Julia Münch (Fachverband Biogas e.V.); Agata Przadka(European Biogas Association); Robert Rapier(Merica International) 集光型太陽熱発電(CSP) Elena Dufour, Luis Crespo Rodriguez(ESTELA); Fredrick Morse(Morse Associates Inc.) 分散型自然エネルギー Bozhil Kondev(GIZ); Ernesto Macias Galan(農村 ─5─ 電化同盟(ARE)); Hari Natarajan(GIZ-IGEN); Yasemin Erboy(国連 基金 tion); Akanksha Chaurey(IT power); Debajit Palit(エネ ルギー資源研究所(TERI)); Heike Volkmer(GIZ); Arnaldo Vieira de Carvalho (IDB); Michael Hofman(MIF); Jiwan Acharya, Fely Arriola(アジア開発銀行(ADB)); Gabriela Azuela, Koffi Ekouevi(世界銀行); Frank Haugwitz (Asia Europe Clean Energy(Solar)Advisory Co. Ltd.); Gonzalo Bravo(Fundación Bariloche); Caroline McGregor (Global Leap, U.S. Department of Energy); Wim van Ness (SNV Netherlands Development Organisation); Emmanuel Ackom(GNESD); João Arsénio(TESE); Morgane Benard(Sunna Design); Paul Bertheau (Reiner Lemoine Institut); Adam Camenzuli(Karibu Solar); Helene Connor(HELIO International); Leslie Cordes(GACC); Johan de Leeuw(Wind Energy Solutions BV); Johanna Diecker(GOGLA); Julie Ipe(GACC); Alex Lima (Electrobras); Chandirekera Makuyana(SNV Netherlands Development Organisation); Tijana Manitašević(Strawberry Energy); Lal Marandin(すべての人のための持続可能なエネルギー (SE4ALL)ニカラグア); Godfrey Ogbemudia (CREDC); Eromosele Omomhenle; Ewah Otu Eleri (ICEED Nigeria); Henrique Pancini(国連貿易開発会議 (UNCTAD)); Ruben Stegbauer (Solar Aid); Dipti Vaghela(International Rivers); Nancy Wimmer(microSOLAR)) 地熱発電 Benjamin Matek(GEA); Philippe Dumas(EGEC); Luis Carlos Gutiérrez-Negrín(Geotermia, Mexican Geothermal Association) グリーン購入およびラベリング Joß Bracker(OEKO); Jenny Heeter(NREL); Jennifer Martin(Center for Resource Solutions) ヒートポンプ/熱利用と冷房 Thomas Nowak(European Heat Pump Association) 水力/海洋エネルギー Simon Smith, Richard Taylor(国際水力発電協会 (IHA)); Christine van Oldeneel, Pilar Ocon(Hydropower Equipment Association) 雇用 Rabia Ferroukhi, Arslan Khalid, Álvaro López-Peña (国際再生可能エネルギー機関(IRENA)); Michael Renner(ワールドウォッチ研究所) 政策 Rainer Hinrichs-Rahlwes(BEE, 欧州再生可能エネル ギー連盟(EREF)); Maryke van Staden (イクレイ-持続可能性をめざす自治体協議会); Fabiani Appavou(Ministry of Environment and Sustainable Development, Mauritius); Karolina Daszkiewicz (国際エネルギー機関(IEA)) 自然エネルギーとエネルギー効率 Pedro Filipe Paralta Carqueija, Jyoti Prasad Painuly (国連環境開発計画(UNEP)Risø Centre); Thibaud Voïta(IPEEC); Curt Garrigan(国連環境開発計画 (UNEP)) 自然エネルギーコスト Michael Taylor(国際再生可能エネルギー機関 (IRENA)) 自然エネルギー統計 Yasmina Abdelilah, Michael Waldron(国際エネルギー 機関(IEA)); Zuzana Dobrotkova; Olivier Lavagne d'Ortigue(国際再生可能エネルギー機 関 (IRENA)); Rana Adib, Laura E. Williamson (REN21事務局) 太陽エネルギー全般 David Renné(国際太陽エネルギー学会(ISES)) 太陽光発電 Gaëtan Masson(IEA-PVPS, iCARES Consulting); GTM Research PV Pulse; Denis Lenardic (pvresources.com) 太陽熱利用と冷房 Franz Mauthner(AEE INTEC); Bärbel Epp (Solrico); Jan-Olof Dalenbäck(Chalmers University of Technology); 国際エネルギー機関(IEA)Solar Heating and Cooling Programme システム転換 Lily Riahi(国連環境開発計画(UNEP)); Travis Bradford(Prometheus Institute); Bianca Barth(BSW); Cynthia Hunt Jähne(SEPA); ─6─ Scott Sklar (Stella Group) 輸送/交通 Nicolai Bader, Armin Wagner(GIZ); Heather Allen (TRL) 風力発電 Shruti Shukla, Steve Sawyer(世界風力エネルギー会議 (GWEC)); Feng Zhao(Navigant Research); Stefan Gsänger, Jean-Daniel Pitteloud(世界風力エネルギー協 会(WWEA));Aris Karcanias(FTI Consulting); Shi Pengfei, Liu Minghui(CWEA) その他校閲者および寄稿者 Sheikh Adil(Institute of Environment and Sustainable Development); Asad Ali Ahmed(世界 銀行); Kathleen Araujo(ハーバード大学ケネディ行政 大学院); Timothy Barker(Stimulate Systems); Ausilio Bauen(インペリアル・コレッジ・ロンドン); Morgan Bazilian(NREL); Luca Benedetti(GSE); Farid Bensebaa(NRC); Edgar Blaustein; Pierre Boileau(国際エネルギー機関(IEA)); Tom Bradley (Narec Distributed Energy); Emmanuel Branche (EDF); Christian Breyer(Lappeenranta University of Technology); Mary Brunisholz(IEA-PVPS); Ines del Campo Colmenar(CENER); Francoise D’ Estais(国連環境計画(UNEP) ); Pedro Dias(ESTIF); Dominique Diouf(Batan HBDO); Jens Drillisch (KFW); Michael Eckhart(シティグループ株式会社 .); Martha Ekkert(BMWi); Daniel Kofi Essien (IRELP); Pancaldi Estella(GSR); Emily Evans (NREL); Paolo Frankl(国際エネルギー機関(IEA)); Lew Fulton(UC Davis); Alexander Gerlach (Q-Cells); Jacopo Giuntoli(Institute for Energy and Transport); Andreas Häberle(PSE); Niklas Hagelberg(国連環境計画(UNEP)); Jacob Ipsen Hansen(国連環境計画(UNEP)Risø Centre); Andrea Hilfrich(E-Control); Julien Jacquot (GERES); Uli Jakob(Green Chiller Verband für Sorptionskälte e.V.); El Mostafa Jamea(ERDDS); Franck Jesus(地球環境ファシリティ(GEF)); Manik Jolly(世界銀行); Wim Jonker Klunne(CSIR); Anthony Jude(アジア開発銀行(ADB)); Sung Moon Jung(IPEEC); Jasmeet Khurana(Bridge to India); Ansgar Kiene(World Future Council); Matthias Kimmel(デューク大学); Johannes Kirsch (ZVEI); Diana Kraft-Schäfer(German Electrical and Electronic Manufacturers’Association – ZVEI); Bente Kruckenberg(D.I. Energi); Arun Kumar(IIT Roorkee); Maryse Labriet(ENERIS); FannyPomme Langue(AEBIOM); Krzysztof Laskowski (Euroheat & Power); Jonah Letovsky(Sciences Po); Noam Lior(ペンシルバニア大学); Detlef Loy(Loy Energy Consulting); Birger Madsen; Alessandro Marangoni(Althesys); Adam Markusfalvi-Toth; H. Mitavachan(オルデンブルク大学); Daniel Mugnier (TECSOL SA); Nurzat Myrsalieva(RCREEE); Kevin Nassiep(南アフリカ共和国エネルギー開発研究所 (SANEDI)); Hans-Christoph Neidlein PV Magazine); Jan Erik Nielsen(PlanEnergi, 国際エネ ルギー機関(IEA)-SHC); Bruce Nordman(LBNL); Ingrid Nyström(F3 Centre); Willington Ortiz (Wuppertal Institute); Binu Parthan(SEA); Céline Payet(EIB); Martin Pehnt(Institute für Energie und Umwelforschung Heidelberg GmbH); Tobias Persson, Mattias Svensson(Swedish Gas Centre); Liming Qiao(世界風力エネルギー会議 (GWEC)); Peter Rae; Heather Rosmarin(Amazon Watch); Burkhard Sanner(EGEC); Raphael Santos(Ministry of Mines and Energy Brazil); Arne Schweinfurth(GIZ); Reinoud Segers (Statistics Netherlands); Alexandra Seibt (Wuppertal Institute); Joonkyung Seong(世界銀行); Anoop Singh(インド工科大学); Virginia Sonntag O’ Brien; Ibrahim Soumaila(ECREEE); Djaheezah Subratty(国連環境開発計画(UNEP)); Sven Teske (Greenpeace International); Uwe Trenkner (Trenkner Consulting); Nico Tyabji(BNEF); Eric Usher(国連環境開発計画(UNEP) ); Olola Vieyra(国 連環境開発計画(UNEP)); Clare Wenner(UK Renewable Energy Association); Chris Werner (Hanergy); Marcus Wiemann(農村電化同盟 (ARE)); William Wills(EOS Environmental); Johan Agergaard Winberg(D.I. Energi) 世界自然エネルギー投資動向白書(GTR)(以前の名称 は世界持続可能エネルギー投資動向白書:Global Trends in Sustainable Energy Investment)は、2011年にフラ ンクフルトスクールと国連環境開発計画(UNEP)の環境・ 自然エネルギーファイナンス協力センターから初めて出版さ れた。この年報は、以前は2007年から国連環境開発計画 (UNEP)自然エネルギーファイナンス・イニシアティブ(SEFI) で作成されていた。これは、経済、技術、投資の種類によ る自然エネルギーへの世界中の投資を把握し、出版する取 り組みの成果であった。 GTRは、ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスと 共同で作成され、REN21の自然エネルギー世界白書(GSR) の姉妹出版物である。最新版は2014年4月に公開され、 www.fs-unep-centre.orgでダウンロードすることができる ─7─ 要旨 2004年の7月、世界で初めてとなる政府主催の自然エネル ギー国際会議のために、154か国の代表者がドイツのボン に集結した。REN21はその国際会議を契機として、自然エ ネルギーの進展状況を把握するための初の国際機関として 設立された。当時は世界の容量やエネルギー生産量、投 資、政策支援、統合において明らかに自然エネルギーは 成長傾向にあった。しかしながら、当時の大胆な予測のな かにさえも、その後10年間にわたる自然エネルギーの驚異 的な増加を予想していたものはなかった。 世界での自然エネルギーに対する認識は2004年以降大きく 変化した。過去10年における継続的な技術革新と多くの自 然エネルギー技術の急速な導入によって、自然エネルギー の持つ潜在的な可能性を活用できることが明白になった。 自然エネルギーは2013年もその可能性を実現していくことを 目指して、さらに前進している。 ■自然エネルギーの継続的な成長 自然エネルギーは2012年の世界の最終エネルギー消費にお いて推計19%を供給し、2013年においても継続的に増加し たi。2012年の比率のうち、近代的自然エネルギーの割合 はおおよそ10%であり、残りの9%余りは伝統的バイオマスか ら供給されているii。近代的な自然エネルギーから得られる 熱エネルギーは最終エネルギー消費の約4.2%に相当し、水 力発電は約3.8%、推計2%が風力、太陽光、地熱、バイ オマス発電とバイオ燃料によって供給されている。 近代的自然エネルギーの割合が増加したにも関わらず、近 代的な自然エネルギーと伝統的な自然エネルギーを合わせ た割合は2011年時点から変化がなかった。これは、伝統 的バイオマスから段階的に脱却していることおよび世界のエ ネルギー需要が増加し続けていることによって、近代的自然 エネルギーの急速な拡大分が調整されたからである。 自然エネルギー市場と産業が成熟するにつれて、今までと は異なる新たな課題や幅広い機会に直面するようになる。 2013年には、多くの欧州諸国や米国で自然エネルギー政 策支援の後退と不安定化という課題に直面した。電力系 統における制約や、競争の激化を懸念するいくつかの国の 電力会社からの反発、そして化石燃料に対する多額の補 助金が主な課題として浮上した。欧州と米国などの例外を 除いて、2013年の自然エネルギー業界は全体として好調で あった。 市場、製造、投資のそれぞれがより多くの発展途上国にお いて拡大し、自然エネルギーはもはや一握りの国に頼るもの ではないことがますます明白になってきている。技術の継続 的な進展、価格の低減、革新的な資金調達により、自然 エネルギーは世界中の幅広い消費者が利用できるようになっ てきている。ますます多くの国で、現在および将来のエネル ギー需要を満たすために自然エネルギーがきわめて重要な 役割を担うだろうと認識されている。 市場がグローバル化するにつれて、自然エネルギー産業は 流動性を高め、製品を多様化させ、世界的なサプライチェー ンを発展させた。とくに太陽光と風力では合併が続いたよう に、いくつかの分野にとって厳しい年となった。しかし、 2013年末には展望が開け、多くの太陽光発電(PV)と風 力タービン製造業者が収益を上げ始めた。 最も著しい成長を実現したのは電力分野で、2012年から8% 以上増加して世界の総発電容量は1560GWに達した。水 力発電は4% 増加して約1000GW(10億 kW)に達し、水 力発電以外の自然エネルギーは合計で約17% 増加して 560GW(5億6千万 kW)以上に増加した。2013年には初 めて、世界全体での太陽光発電の新規導入量が風力発 電のそれを上回った。太陽光発電と水力発電はほぼ並ん でおり、いずれも新規発電容量の3分の1を占めた。太陽 光発電は急速に成長を続けており、過去5年間での総発電 容量の平均増加率が約55%となっている。風力発電は同 時期に導入された自然エネルギーのなかで最大の発電容 量が導入された。2013年の1年間で、自然エネルギーは世 界の発電容量の正味増加量の56% 以上を占めた。他の発 電容量よりも大幅に増加した国もあった。 ここ数年で、陸上風力と、とくに太陽光発電の平準化発電 コストは大幅に減少している。結果として、より多くの風力と 太陽光発電プロジェクトが公的助成を受けずに実施されて いる。世界中で、エネルギーコストの削減とエネルギー供給 の信頼性を高めるために大手の産業および商業の需要家 が自然エネルギーに転換しつつある。その多くは、意欲的 な自然エネルギー目標を設定し、自然エネルギー発電施設 を各自で導入して運営したり、電力事業者を通さずに、自 然エネルギー事業の運営者から直接電力を購入する契約 を結んだりしている。 2013年末には、中国、米国、ブラジル、カナダ、そしてド イツが、依然として自然エネルギーの総発電容量で上位の 座を保っている。水力を除いた総発電容量では同様に中 国、米国、ドイツに続いて、スペイン、イタリア、インドが上 位となっている。水力を除いた総発電容量の上位20か国の なかで、一人当たりの発電容量ではデンマークが圧倒的な 差で1位になっている。ウルグアイ、モーリシャス共和国およ びコスタリカ共和国は年間の GDP 比で最も自然エネルギー による発電や燃料に投資している国々である。 熱利用と冷房部門では、熱電併給(コージェネレーション) プラントにおける自然エネルギーの活用、地域熱供給システ ムにおける自然エネルギーによる熱利用と冷熱の供給、建 物の改修部門でのハイブリッド化、そして産業用途のため の自然エネルギー熱利用の増加といった傾向がある。近代 的バイオマスや太陽熱、地熱の資源を利用した熱利用が 占める割合は小さいものの、世界の最終熱需要に対する 割合は徐々に増加しており、合わせて10%に達すると推計 されている。熱利用と冷房における近代的自然エネルギー i 2013 年の比率は、データ不足から示すことができない点に注意。 伝統的バイオマスの持続可能性や、これを自然エネルギーとみなすべきなのか、または持続可能な資源由来のもののみを自然エネルギーとするのか、という点に関しては議論の 争点となっていることに注意。 ii ─8─ 技術の利用は大きな可能性は秘めているものの、まだ限定 的にしか活用されていない。 ここ数年間、液体バイオ燃料は波のある成長過程を辿って いるが、2013年における生産と利用は増加した。輸送部 門における他の自然エネルギーの利用に対する関心が高まっ ている。2013年はガス化バイオ燃料(主にバイオメタン) 利用が継続的に増加し、ハイブリッド的な手法がさらに増え た(バイオディーゼル- 天然ガスバス、電気 -ディーゼル輸送) 。 自然エネルギーと電気輸送システムを連携させる取組みが、 限定的ではあるものの、とくに都市や地域レベルで広がりつ つある。 2013年の主要点: • EUでは6年続けて新規発電容量の過半数を自然エネル ギーが占めた。2013年は72%を自然エネルギーが占めて おり、EU27か国とノルウェーおよびスイスにおいて新規発 電容量の80%を化石燃料が占めていた10年前と好対照 をなしている。 •世界全体での太陽光発電への投資額が2012年に比べ て約22% 減少したにも関わらず、新規発電設備導入量 は約32% 増加した。 •中国での自然エネルギーの発電設備の新規導入量が、 化石燃料や原子力による発電設備の新規導入量を初め て上回った。 •変動型の自然エネルギーが各国で大幅に導入された。た とえば、2013年を通じて、風力発電がデンマークの電力 需要の33.2%、スペインで20.9%を満たし、イタリアでは 太陽光発電が年間総電力需要の7.8%を満たした。 •風力発電は他の発電源が太刀打ちできないほど安価にな りすぎたため、ブラジルでの公募型オークションの一つか ら除外された。 •2013年にデンマークは化石燃料ボイラーを新規建造物で 使用することを禁止し、2020年までに自然エネルギーで 熱供給総量の約40%をまかなうという目標を設定した。 •都市、州、地域レベルで、個々の部門や経済全体を100% 自然エネルギーで供給する体制へと転換しようとする動き が増えている。たとえば、 ジブチ共和国やスコットランド、小 島嶼国であるツバルでは、2020年までに100%の電力を自 然エネルギー源から供給することを目標としている。すで に目標を達成している人々の中には、 いわゆる100%自然エ ネルギー地域に住んでいる約2000万人のドイツ人がいる。 これらの進展が自然エネルギー分野の雇用に与える影響は 国や技術によって差があるものの、世界では自然エネルギー 産業で働いている人口は増加しつづけている。2013年には 世界中で約650万人が直接的あるいは間接的に自然エネル ギー分野で働いていると推計されている。 ■進化する政策の展望 少なくとも144か国が2014年初頭までに自然エネルギーの目 標を持ち、138か国が自然エネルギー支援政策を導入して いる。これらの数値はGSR2013で報告されたそれぞれ138 か国と127か国から増加している。自然エネルギーの拡大を 支援するための政策を導入している発展途上国および新興 国の数は2005年の15か国から95か国にまで増加し、近年 の成長の原動力になった。多くの国がすでに政策を制定し たため、過去10年間の大部分の期間と比べると、政策を 採用する国はそれほど増えなくなっている。 2013年には、遡及的な変更も含めて既存の政策や目標の 改訂に焦点があてられ、政策の有効性と効率性を高めるた めの修正がなされたものもあれば、自然エネルギーの導入 を支援するためのコストを低下させることを目的としたものもあっ た。同時に、支援を拡大し、意欲的な目標を新たに設定し た国もある。 政策メカニズムは発展しつづけており、技術ごとの差別化 が進んでいる。固定価格買取制度は、電力部門では多く の国でプレミアム制度へと移行しており、熱利用部門では 継続して採用されている。とくに欧州では、既存の電力シ ステムにより高い割合の自然エネルギー電力の統合を進める、 または管理するための新たな政策が登場している。これに は蓄電や需要側管理、スマートグリッド技術に関する政策も 含まれている。 ここ数年と同様、2013年に制定、または改訂された自然エ ネルギー政策の多くは電力部門に関するものであった。規 制措置や財政的インセンティブと公共金融メカニズムを組み 合わせた制度が引き続き導入された。固定価格買取制度 (FIT)と自然エネルギー割当基準(RPS)が最も一般的 な支援政策として導入されているが、これらの導入のペース は鈍化している。公共競争入札、または入札の仕組みがよ り知られるようになり、公共オークションを始めた国が2009年 から2014年初頭の間に9か国から55か国にまで増加した。 政策決定者からの関心の度合いでは、熱利用と冷房部門 は自然エネルギー発電部門に大きく遅れをとっているにも関 わらず、目標や支援政策の導入は増加している。2014年 初頭には、少なくとも24か国が熱利用と冷房の目標を設定し、 少なくとも19か国で国もしくは州/地方レベルにおける義務 化が制定された。自然エネルギーの熱利用と冷房は、財 政的インセンティブによっても促進されており、国および地方 レベルでの建築基準やその他の措置もいくつかの国で導入 されている。 2014年初頭には、少なくとも63か国で輸送用バイオ燃料を 生産、または消費を促進するための規制措置が導入され ており、GSR2013で報告されている49か国から増加してい る。いくつかの既存の混合義務化制度は強化され、数値 目標や公共金融の導入は増加した。しかし、第一世代バイ オ燃料への支援が、環境と社会的持続性の観点からの懸 念により減少した国もある。ほとんどの輸送関連の政策はバ イオ燃料に集中していたが、多くの政府はバイオメタンと自 然エネルギー由来の電力で走行する車両のような他の選択 肢についての調査を継続的に行っている。 世界中で何千もの都市や町が自然エネルギーを発展させる ための政策や計画、目標を持っており、多くの場合で国の ─9─ 法律が目指すところを大幅に上回っている。都市や地方自 治体が排出を減らし、地元の産業を支援・創造し、系統 容量の負担を軽減させ、供給の安定性を確保させようとし ており、政策策定の機運が継続された。これらの目標を達 成するために、地方自治体は、規制を行うこと、支出と調 達に関する決定を行うこと、自然エネルギープロジェクトへ の融資を円滑にすること、要望や情報共有を進めることに ついての権限をますます活用するようになっている。都市が ベストプラクティスを共有または拡大し、自然エネルギーへ の関与を強調し、成果を報告するにつれて、地方自治体 は気候とエネルギーに関するデータの体系的な計測および 報告を優先的に行うようになる。 ■投資動向 2013年の世界全体での自然エネルギー発電および燃料へ の新規投資(50MWを超える水力発電プロジェクトを含ま ない)は2114億ドルで、2012年から14%、記録的な水準 であった2011年から23% 減少したi。報告に含まれていない 50MW 以上の水力発電プロジェクトを含んだ自然エネルギー 発電および燃料への新規投資額は2013年に2494億ドルで あった。 数年間の成長の後に2年続けて投資が減少した要因には、 欧州と米国における政策支援の見通しが不透明であったこ とと、いくつかの国で遡及的な支援の削減が起きたことが含 まれる。欧州における自然エネルギーに対する投資は2012 年から44% 減少した。2013年には、8年間続いた発展途 上国における自然エネルギーに対する投資の増加にも終止 符が打たれた。 しかしながら、世界的な投資の減少は技術コストの急激な 削減も原因となっている。これは投資が22% 減少したにも関 わらず新規導入量が記録的に増加した太陽光発電に関し てはとくに当てはまる。低コスト化と効率向上により、2013年 に世界中の多くの場所、とくにラテンアメリカで、補助金なし での陸上風力と太陽光発電の導入が可能となった。新規 発電容量への正味投資額のみを見ると、自然エネルギーは 化石燃料を4年続けて上回った。 さらに、世界的に投資が縮小傾向にあるにも関わらず、国 単位では例外的なケースが目立った。とくに日本では自然エ ネルギーに対する投資は2012年比で80% 増加した(研究と 開発を除く)。その他で2013年に投資を増加させたのはカ ナダ、チリ、イスラエル、ニュージーランド、英国とウルグア イであった。中国では全体的な投資は縮小傾向にある一方 で、2013年に中国は初めて全欧州の投資額を上回り、さら に化石燃料の発電設備よりも多く自然エネルギー発電設備 への投資を行った。 2013年の太陽エネルギー発電に対する投資は引き続き圧倒 的で、自然エネルギー発電と燃料に対する新規投資の53% (1134億ドル)を占め、そのうちの90%は太陽光発電に対 するものだった。風力発電に対する投資額は801億ドルで 次に続いた。発電所規模のプロジェクトに対するアセットファ イナンスは2年続けて縮小したが、それでも自然エネルギー に対する投資の大部分を占め、1334億ドルに達した。 2013年は、クリーンエネルギーファンド株式投資が好調で、 クリーンエネルギープロジェクト・ボンドにとっても記録的な年 となった。北米では革新的な高利回り志向型投資事業体 が登場し、多くの国でクラウドファンディングが主流に加わり つつある。特に欧州で数多くの機関投資家が参入しつつあ り、2013年には自然エネルギーに対する記録的な投資を行っ た。開発銀行はクリーンエネルギーに対する投資の重要な 調達先で、とくに石炭火力発電などの化石燃料に対する投 資を削減することを要求している銀行もある。 ■発展途上国における分散型自然エネルギー 世界の各地域で、近代的エネルギーサービスを利用できて いないために、持続可能な発展が阻害されている。最近 の評価報告では、13億人がいまだに電気を利用できず、 26億人以上が調理や暖房を伝統的なバイオマスに頼ってい ることを示している。しかし、2013年には、分散型の自然エ ネルギー技術の導入と利用が拡大するにつれ、電気、近 代的な調理、暖房や冷房を利用できる遠隔地の農村地域 に住む人が増えつつある。この増加は、より手頃な価格となっ たこと、国家レベルのエネルギー政策に分散型エネルギー が含まれるようになったこと、資金調達が容易になったこと、 地域資源に対する理解が増したこと、顧客のそれぞれのニー ズに応えられるように調整できるより進んだ技術が提供され たことの直接的な結果である。 さらに、小規模系統の利用が増加したため、都市周縁部 や農村地帯の非電化地域での自然エネルギー電力による 電化が進んだ。小規模系統への自然エネルギーの統合を 可能にした近年の技術発展は、電力管理と最終消費者向 けサービス用の情報通信技術(ICT)アプリケーションと組 みあわさって、自然エネルギーで電気を供給する小規模系 統の利用を急速に増加させた。 自然エネルギーによる独立型の調理と電力システムは、遠 隔地の家庭や企業にエネルギーサービスを供給するために 利用可能な最も費用対効果が高い選択肢になることが多い という認識が広がっている。結果として、多くの国がエネル ギーアクセスの拡大のための分散型自然エネルギーを基盤 としたシステムの展開を支援している。 オフグリッドや低収入の顧客が、急速に成長する製品やサー ビスの市場になりうるという認識が浸透し、それらに対応した 新たなビジネスモデルと資金調達モデルが登場したことで、 農村地域のエネルギー市場は潜在的なビジネスの機会として 見なされつつある。多くの企業がアフリカ、アジア、ラテンア メリカで活発に活動し、家庭向けの自然エネルギーシステム や機器を販売している。営利的貸し手やソーシャルベンチャー 投資家、地域や国際的な開発事業者、政府などが分散型 の自然エネルギーに対する資金調達を行っている。2013年 には、支援政策や全体的な法的枠組み、政治的安定性な どの要因により、関与や進展の状況は国ごとに異なっていた。 i 明示していないかぎり、本章で示している投資データには 50MW 以上の水力発電プロジェクトに関するデータを含めていない。これは、ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファ イナンス(データ元)が関連するデータを調査していないためである。 ─ 10 ─ 2013年の主要指標 2004年初頭1 2012年末 2013年末 10億米ドル 39.5 249.5 ギガワット 85 480 560 ギガワット 800 1,440 1,560 水力発電容量(合計)3 ギガワット 715 960 1,000 バイオマス発電容量 ギガワット <36 83 88 テラワット時 227 350 405 地熱発電容量 ギガワット 8.9 11.5 12 太陽光発電容量(合計) ギガワット 2.6 100 139 集光型太陽熱発電(CSP)容量(合計) ギガワット 0.4 2.5 3.4 風力発電容量(合計) ギガワット 48 283 318 ギガワット熱 98 282 326 エタノール生産量(年間) 10億リットル 28.5 82.6 87.2 バイオディーゼル生産量(年間) 10億リットル 2.4 23.6 26.3 政策目標を有する国 # 48 138 144 固定価格買取制度を採用している 州/地域/国 # 34 97 98 RPS/クォータ制度を採用している 州/地域/国 # 11 79 79 入札を行っている州/地域/国 # 8 45 55 自然エネルギー熱利用義務化政策を 採用している州/地域/国 # n/a 19 19 バイオ燃料義務化政策を採用している 州/地域/国5 # 10 52 63 投資 自然エネルギー発電および 燃料への投資額(年間)2 214.4(249.4) 電力 自然エネルギー発電容量 (合計、水力を含まない) 自然エネルギー発電容量 (合計、水力を含む) バイオマス発電量 熱利用 太陽熱温水システム容量(合計)4 輸送 政策 設備容量のデータに関しては2004年初頭のものに基づいているが、投資額やバイオ燃料生産は2004年の年間データに基づいている。数値は利用可能な最 良の情報にもとづいた推計値を採用している。 投資額のデータはブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)から引用している。ここで対象となるエネルギー源は;すべてのバイオマ ス、地熱、1MW以上の風力発電プロジェクト、1MWから50MWのすべての水力発電プロジェクト、すべての太陽光発電プロジェクト(1MW以下のプロジ ェクトは別枠で集計され、小規模プロジェクトまたは小規模分散型容量として分類されている)、すべての海洋発電プロジェクト、年間生産量100万リッ トル以上のすべてのバイオ燃料プロジェクトなどに関するデータが含まれる。BNEFは50MW以上の未報告の水力発電プロジェクトを含めた2013年の自然 エネルギーと燃料に対する投資額は少なくとも2494億ドルであったと推計している。 3 GSR2013では2012年末には水力発電の世界の累計設備容量は990GWであると報告していたが、この数値はより正確なデータの存在により下方修正され た。水力発電データは揚水発電の設備容量を含んでいない。 4 太陽熱温水システムの設備容量のデータは水式集熱器の容量のみである。空気式を含めると、合計の推計設備容量は2012年は283.4GW、2013年は330GW であった。 5 国もしくは州/地域レベルでのバイオ燃料の義務化政策は表3(自然エネルギー促進政策)と表参照R18(国と州/地域のバイオ燃料混合規制)で示され ている政策を含んでいる。表のなかの数値は個々の州や地域の規制を含んでいない。2004年初頭にバイオ燃料義務化政策を採用していた10か国では、デー タが利用可能となる最初の年である、2005年にはそれらの政策が実施されていた。 1 2 注:自然エネルギー発電容量(水力を含む/含まない場合)および水力発電容量のデータは5GW単位で示されている。その他の統計は1GW単位で四捨五入 して整数で表しており、世界の投資額と15以下の数値、バイオ燃料については四捨五入して小数点第一位まで表している。2013年の政策に関するデータは 2014年初頭までに確認されているすべての国を含んでいる。 ─ 11 ─ 上位5か国 2013年の年間投資/新規導入量/生産量 1 2 3 4 5 自然エネルギー発電と燃料への投資 中国 米国 日本 英国 ドイツ 2012年のGDP比の投資1 ウルグアイ モーリシャス共和国 コスタリカ共和国 南アフリカ ニカラグア 地熱発電の新設 ニュージーランド トルコ 米国 ケニア フィリピン 水力発電の新設 中国 トルコ ブラジル ベトナム インド 太陽光発電(PV) の新設 中国 日本 米国 ドイツ 英国 集光型太陽熱発電(CSP) の新設 米国 スペイン アラブ首長国連邦 インド 中国 風力発電の新設 中国 ドイツ 英国 インド カナダ 中国 トルコ インド ブラジル ドイツ バイオディーゼル生産量 米国 ドイツ ブラジル アルゼンチン フランス バイオエタノール生産量 米国 ブラジル 中国 カナダ フランス 1 2 3 4 5 米国 米国 ブラジル ドイツ カナダ ドイツ スペイン/イタリア インド ドイツ ポルトガル スペイン/スウェーデン オーストリア ドイツ 中国 ブラジル インド 米国 フィリピン インドネシア メキシコ イタリア 中国 ブラジル 米国 カナダ ロシア 中国 ブラジル カナダ 米国 ロシア 集光型太陽熱発電(CSP)容量 スペイン 米国 アラブ首長国連邦 インド アルジェリア 太陽光発電(PV)容量 ドイツ 中国 イタリア 日本 米国 イタリア ベルギー ギリシャ チェコ共和国 太陽熱利用システムの新設 2 2013年末の総容量・発電量6 電力 自然エネルギー発電容量(水力を含む) 中国 自然エネルギー発電容量(水力を含まない) 中国 一人あたりの自然エネルギー デンマーク 発電容量(水力を含まない)3 米国 バイオマス発電容量 地熱発電容量 水力発電容量 水力発電量 4 4 一人あたりの太陽光発電(PV)容量 ドイツ 風力発電 中国 米国 ドイツ スペイン インド 一人あたりの風力発電容量 デンマーク スウェーデン スペイン ポルトガル アイルランド 中国 米国 ドイツ トルコ ブラジル 一人あたりの太陽熱利用システム容量2 キプロス オーストリア イスラエル バルバドス ギリシャ 地熱熱利用容量5 トルコ アイスランド 日本 イタリア 熱利用 太陽熱利用システム容量2 中国 1 BNEFの調査に含まれている国のみの構成となっており、GDPに関するデータは世界銀行による2012年のものに基づいている。すべてのバイオマス、地 熱、1MW以上の風力発電プロジェクト、1MWから50MWのすべての水力発電プロジェクト、すべての太陽光発電プロジェクト(1MW以下のプロジェクト は別枠で集計され、小規模プロジェクトまたは小規模分散型容量として分類されている)、すべての海洋発電プロジェクト、年間生産量100万リットル以 上のすべてのバイオ燃料プロジェクトなどに関するデータが含まれる。 2 太陽熱利用システムの順位は2012年のものであり、ガラス管または非ガラス管式の水式集熱器のデータを元にしており、空気式集熱器を含んでも順位に 変更はない。過去の順位では非ガラス管式を集計対象にはしていなかった。 3 一人当たりの自然エネルギー発電容量の順位は水力発電以外のすべての自然エネルギーの設備容量の上位20か国のみを対象にしている。 4 水力発電の発電容量と発電量の順位が異なるのは、水力をベースロードとして供給している国がある一方で、電力需要に追従したり、需要ピークを満たす ために供給している国があるからである。 5 ヒートポンプを含んでいない。2010年のデータと数か国における最近のデータを組み合わせた順位になっている。 6 特記しない限り容量と表記される。 注:ほとんどの順位は投資、発電容量と発電量、バイオ燃料生産の絶対量に基づいて作成されており、一人当たりの数値や国のGDP、他の基準を元に作成 すれば、順位は多くのカテゴリーで異なった結果を示す(これは、自然エネルギー発電容量や太陽光、風力、太陽熱利用システム容量の一人当たりの順位 でも示されている) ─ 12 ─ ■市場・産業の動向 バイオマス熱利用/発電/輸送 バイオマスに対する需要は熱利用、発電、輸送部門 で継続的に増加した。2013年は、バイオマスの一次エネル ギー消費量はおよそ57EJであり、このうちの60% が伝統的 なバイオマスであり、残りが近代的バイオマスエネルギー(固 体、気体燃料、液体燃料)であった。熱利用はバイオマ ス利用の大部分を占め、近代的なバイオマス熱利用設備 の容量は約1% 増えて296GWthとなった。世界のバイオマ ス発電の総発電容量は推計5GW 増えて88GWに増加し た。バイオマス発電は CHPプラントを含めて年間を通じて 400TWh 以上を供給した。近代的なバイオマスの需要が 高まっているため、木質ペレットを含めた固形バイオ燃料の 国際貿易が活性化している。 接続された。更新分を考慮に入れると、正味の増加は 455MWで、世界の総発電容量は12GWとなった。この正 味増加率4% は過去2年間(2010年〜2012年)の平均年 間成長率3%に匹敵する。お風呂やプール、暖房、農業 用や産業プロセスなどに使われる地熱エネルギーの直接利 用は年間で300PJを上回ると推計されているが、成長は確 実なものではない。政府と産業は従来の地熱資源をより効 率的に使用するための技術革新を模索している。同時に、 発電と熱利用双方の低温域の利用が拡大しており、高温 地帯を超えて地熱エネルギーの利用が増えている。 水力発電 2013年の世界の水力発電量は推計3750TWh だっ た。2013年に約40GWの新規水力発電容量が稼働し、世 界の総発電容量を4% 増加させて約1000GWまで増加し た。中国は29GWを導入し、新規容量の増加で群を抜い ている。その他にも相当量を導入した国はトルコ、ブラジル、 ベトナム、インドとロシアであった。中国における水力発電の 拡大によって、ここ数年の水力発電の成長は比較的安定し たものであった。老朽化した水力発電施設の近代化が世 界的に拡大している市場となっている。いくつかの国では小 規模の貯水池や流れ込み式の複数タービンのプロジェクトを 実施する傾向が増えている。変動型の風力や太陽光といっ た他の自然エネルギー技術を補完する水力発電の能力に ついての認識も高まっている。 液体バイオ燃料は世界の輸送燃料需要の約2.3%を満たし た。2013年には、世界の生産量は77億リットル増えて1166 億リットルに達した。エタノール生産量は2年間の減少のあと に6% 増加した。バイオディーゼルの生産量は11% 増加し、 水素処理された植物油(HVO)は16% 増えて300万リット ルまで増加した。非食用のバイオマス原料から生産される 先進的バイオ燃料を生産するための新しい施設が欧州や 北米で稼働している。しかし、新しいバイオ燃料施設への 投資総額は2007年のピーク以降減少し続けている。 地熱発電と熱利用 海洋エネルギー 2013年に約530MW の新規地熱発電容量が系統に 波力発電が主となる海洋エネルギーの発電容量は 2013年末までに約530MWに到達した。今後の商業利用 化に備えて、いくつかのパイロット導入が2013年に試験のた めに行われた。とくに英国とフランスにおいて、協調的な産 業による集中的取り組みと政府支援が行われていることから、 相当な設備容量の増加が近い将来に起こると見られてい る。大企業は戦略的関係を結び、技術開発者の獲得を通 して海洋エネルギー分野での地位を強固なものにしようとし ている。 太陽光発電 太陽光発電市場にとって記録的な年となり、2013年に は39GW 以上を新規に導入し、総発電容量を139GW 以上 に伸ばした。中国が目を見張る成長をとげ、世界の新規導 入量の約3分の1を占め、日本や米国がその後に続いた。と ─ 13 ─ くに欧州などの各国で太陽光発電は発電において重要な 役割を担うようになりつつあり、一方で価格の低下によりアフ リカや中東、アジアやラテンアメリカにおいて新たな市場が 見いだされつつある。企業やコミュニティが所有する太陽 光発電システムに対する関心は高まりつつあり、発電所規 模のシステムの数とサイズも拡大している。とくに欧州では多 くの企業が厳しい年を過ごしたが、2013年中に業界は回復 し始めた。モジュール価格は安定していたが、生産コスト は低下し続け、太陽光セルの効率性は増し続けている。多 くの製造業者が今後予想される需要の拡大に対応するため に生産容量を増加させている。 している。産業界による市場の発展についての見通しでは、 インドとギリシャが最も有望と考えられている。 風力発電 2013年に風力発電容量は35GW 以上増加し、総発 電設備容量は318GWに達した。しかし、数年間の記録的 な年を経て、2012年と比べると10GWも導入量が減少して いる。これは主に米国市場の大幅な縮小が原因である。 累積設備容量では EU が先進地域であるが、アジアが急 激な追い上げを見せており、2014年には欧州を上回る見込 みである。新しい市場があらゆる地域で登場しており、初 めて新規容量の相当割合がラテンアメリカで導入された。 洋上風力は記録的な増加を果たし、1.6GW 増加し、その ほぼすべてが欧州であった。しかし、不安定な政策やプロジェ クトの中止や小型化による遅延の問題がこの記録的増加の 陰に存在する。 集光型太陽熱発電(CSP) 2013年に世界のCSP 容量は0.9GW(36%)増加して 3.4GWに到達した。米国とスペインが市場を牽引している 一方で、市場は日射量の多い発展途上国に移りつつある。 主要な市場以外にも、アラブ首長国連邦やインド、中国に おいてプロジェクトが稼働したことで総発電容量は約3倍になっ た。様々なハイブリッド型の CSP 技術が現れ、蓄熱が重要 性を増している。産業の活動は新しい市場に拡大しており、 CSP 分野における世界的な成長は力強いままだが、いくつ かの国での成長見通しの見直しや太陽光発電との競争によ り、CSP 事業から撤退する企業が出ている。規模の経済 の利点を生かすために、より大型の施設を目指す傾向が続 いており、一方で改良された設計と製造技術によりコストが 減少した。 風力市場は、価格の下落や風力タービン製造業者間の競 争の激化、いくつかの市場における低価格のガスとの競争、 緊縮財政政策による政策支援の削減、主要市場における 縮小などの課題に直面してきた。同時に、資本費の低下 や技術の発展は設備利用率を向上させ、化石燃料に対す る風力由来の電気の価格競争力を増大させた。洋上風力 産業は陸上から遠ざかり深海部に移動しており、新たな基 礎の設計を促し、より洗練された輸送船を必要としている。 太陽熱利用/冷房 太陽熱利用設備容量は2012年の283GWthを上回り、 2013年末には推計330GWthに達している。過去数年と同 様、中国での需要が市場を牽引し、世界の市場の約80% に相当した。欧州の主要市場における需要は減速している が、太陽熱利用が競争力を持っているブラジルのような国 では市場が拡大した。大型の家庭用の設備を導入する傾 向が続いており、地域熱供給、冷却や産業用途の太陽熱 利用への関心も高まっている。中国は太陽熱集熱器の生 産で市場を牽引しつづけている。中国産の安価なガラス管 の故障率が高いこともあり、品質基準や認証に対する世界 の注目は続いている。ヨーロッパでは企業合併が加速して おり、いくつかの大手の供給業者が事業からの撤退を表明 ─ 14 ─ 第 1 章 世界の概要 自然エネルギーは2012年iの世界の最終エネルギー消費に おいて推計19%を供給し、2013年も継続的に増加した ii 1。 このうち、約9%は伝統的なバイオマスiii 由来であり、発展 途上国の遠隔農村地域で主に調理や暖房のために使用さ れている。一方、近代的自然エネルギーは割合にして約 10%へと増加した。 近代的自然エネルギーの割合が増加したにも関わらず、近 代的な自然エネルギーと伝統的な自然エネルギーを合わせ た割合は2011年時点から変化がなかった2。これは、伝統 的バイオマスから段階的に脱却していることおよび世界のエ ネルギー需要が増加し続けていることによって、近代的自然 エネルギーの急速な拡大分が調整されたからである3。 近代的自然エネルギー利用は、発電、熱利用、輸送燃料、 農村地域/系統独立型のエネルギーサービスという4つの 異なる特徴的な分野で拡大している。2012年の最終エネル ギー消費における自然エネルギーの割合を見ると、水力発 電が約3.8%、その他の自然エネルギー発電が1.2%、熱利 用が概ね4.2%を占め、輸送用バイオ燃料が0.8%を占めて 。 いる4 (図1を参照) 2009年から2013年にかけて、多くの自然エネルギー技術の 発電量だけではなく、発電容量も急速に拡大してきた。こ れはとくに電力部門において顕著である 5 (図2を参照) 。こ の期間中に、太陽光発電は最大の発電容量の増加率を記 録した。一方、すべての自然エネルギー技術のなかで風 力発電は最大の発電容量の増加を記録した。熱利用技術 や燃料に関する良質のデータは十分には整備されていない 状況であるが 6(補足1、17ページを参照)、近代的自然エ ネルギーの熱利用および冷房利用は着実に進展している。 2010年から2012年にかけて、輸送用バイオ燃料の生産量 は、石油価格の高騰にもかかわらず伸び悩んだが、2013 年には再び増加に転じている7。 自然エネルギー市場と産業が成熟するにつれて、今までと は異なる新たな課題や幅広い機会に直面するようになる。 欧州では、技術コストの低下率を上回る削減率で、時には 遡及的に自然エネルギーに対する財政支援を縮小させる国 が増えている。これらの措置は、いくつかの EU 加盟国に おける経済危機の影響、自然エネルギーに関連する電力 の過剰生産、激化する化石燃料との競争によって進められ た面がある。政策の不確実性が資本コストの増加をもたらし、 プロジェクトへの資金調達を一層難しいものとしたため、投 資が減少した(第4章政策の展望を参照)。2013年に、欧 州では太陽光発電を扱う新規参入企業が深刻な赤字に陥 り、財政的な損失を生み出した8。一方で、2012年にEU iv では、自然エネルギーが2004年の8.3%から大きく伸びて最 終エネルギー消費の推計14.1%を占めた9。 さらに、自然エネルギーは、エネルギー価格の動きが外部 性を完全には反映していない不公平な条件のもとで運用さ れている。段階的廃止の議論にもかかわらず、化石燃料 および原子力発電に対する高水準の補助金額を維持する 図1:世界の最終エネルギー消費における 自然エネルギーの割合(2012年、推計値) 78.4% 近代的自然エネルギー 10% 4.2% すべての 自然エネルギー 19% バイオマス/ 水力発電 地熱/太陽熱 による給湯と 3.8% 暖房 伝統的バイオマス 9% 2.6% 原子力発電 1.2% 0.8% 風力/ バイオ燃料 太陽光/ バイオマス/ 地熱発電 出典:本章の巻末注4を参照 i 2013年の割合は、データ不足のため示すことができない点に注意。 本レポートの巻末注は各章ごとに番号をふっている(http://www.ren21.net/gsr にて完全版を参照) 。脚注はGSRにデータを掲載するために利用された追加的な補助情報とともに、引用箇 所や推計を含んでいる。 iii 伝統的バイオマスは非効率的かつ通常は汚染を伴うたき火やス トーブ、かまどで燃やされている固体バイオマスを指し、典型的には発展途上国の農村部において調理や快適さ、小規模な農業 や工業のプロセス用に熱エネルギーを供給するために使われている。伝統的バイオマスの収穫方法は持続可能なものと、そうでないものがある。伝統的バイオマスは、現在発展途上地域の多く の農村エネルギー需要を満たす上で重要な役割を果たしている。本報告書における近代的バイオマスエネルギーは、現代的な機器で用いるために、固体、液体、および気体のバイオマス燃料か ら効率的に取り出されたエネルギーと定義されている。(本報告書で使用されている用語の定義については、用語集を参照。)伝統的バイオマスに関しては、その持続可能性について、またそれを 自然エネルギーとすべきか、持続可能なエネルギー源由来の場合のみ自然エネルギーと考えるべきではないかなどの議論が続いている。伝統的バイオマスが与える環境および健康への影響に関す る情報は、H. Chum、Edenhoferその他編の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)発行の再生可能エネルギー源と気候変動緩和に関する特別報告書(Cambridge, UK : Cambridge University Press, 2011)の「バイオマスエネルギー」の章を参照。 iv 本報告書における「欧州連合」 、または「EU」はすべてEU28か国を意味する。 ii ─ 15 ─ 第1章 化石燃料 第 1 章 世界の概要 図2:自然エネルギー設備容量とバイオマス燃料生産の年間平均成長率(2008年末∼2013年末) % 60 50 2013 年の成長率 39 40 2008 年末∼2013 年末までの成長率 35 30 20 15.7 12.4 11.4 10 地熱 発電 出典:本章の 巻末注5を参照 水力 発電 太陽光 発電 集光型 太陽熱 発電 電力 風力 発電 太陽熱 温水 熱利用 ことが非効率なエネルギー利用を奨励し、自然エネルギー への投資の妨げになっている10。計算方法によって異なる結 果が導きだされるが、化石燃料に対する世界全体の補助 金額は、5440億ドルから1兆9千億ドルの間と見積もられて おり、この金額は自然エネルギーに対する補助金の数倍の 額である11 (GSR2013の補足6を参照) 。 2013年も電力系統に関連する問題が続いた。これにはいく つかの場所における送電インフラの欠如、系統接続の遅延、 そして時におきる自然エネルギー発電の抑制などの問題が 含まれている12。普及率が高まると、変動性の自然エネルギー は、電力系統システム運用者に対し課題をもたらす可能性 がある。系統管理手法、システムの柔軟性や既存の系統 基盤および諸技術の改善を通してシステム統合への財政的 な支援を行う国が増えている13 (GSR2013 6章 特別記事を 参照)。 欧州あるいは米国での多少の例外をのぞいて、全体として みると、2013年に自然エネルギーは数多くの重要かつ前向 きな発展を遂げた14。アフリカおよびラテンアメリカで、風力 発電はより着実に導入され、集光型太陽熱発電は中東およ び北アフリカ(MENA)地域と南アフリカで集中的に活動 を進めている。自然エネルギーのプロセス加熱利用は、チ リから欧州、そしてインドまでの広範な地域で産業部門に燃 料を供給している。太陽光発電は世界のあらゆる地域に拡 大を続けていて、発電容量の大半は系統接続型市場だが、 発展途上国のオフグリッド市場においても著しい伸びを達成 している。 11 5.7 14 21 3.7 48 3.2 55 0 5.6 4.2 4 エタノール バイオ 生産 ディーゼル 生産 輸送 こうした進展状況をみれば、今や自然エネルギーが少数の 特定の国々頼みのエネルギーではないということはますます 明らかになってきているとわかる。実際に、2013年に主要な 自然エネルギー企業は伝統的な欧州市場から、系統接続 型、オフグリッドの双方で強力な新しい市場が出現している アフリカ、アジア、そしてラテンアメリカの国々に、これまで 以上に戦略的に重点を移している15。 自然エネルギーは技術の継続的発展、価格の下落、政府 支援による後押しを受けた革新的な資金調達に支えられて いる。多くの場合、自然エネルギーのこのような進展により、 化石燃料や原子力発電所の新規建設よりも自然エネルギー の方が経済効率が高くなり、自然エネルギーを先進国や発 展途上国の幅広い消費者にとって、より身近なものとしてい る16。加えて、自然エネルギーの技術や資源、自然エネル ギーの急速に増大するエネルギー需要への供給力に加え て、雇用創出力、加速する経済発展、地域の大気汚染 の緩和、公衆衛生の改善、二酸化炭素排出削減などに 注目が集まっている17。 自然エネルギーが発展途上国における近代的エネルギーサー ビスの利用を急速に、そして費用効率的に拡大できるとい う認識が広がってきている18。エネルギーアクセスの問題へ の関心が高まり、自然エネルギー価格が下がり、新たなビ ジネスモデルが登場することにより、発展途上国の農村部 におけるエネルギー市場が大きなビジネスチャンスをもたら すことが次第に明らかとなり、これらの市場ニーズに適うよ うに製品が生みだされている 19 (分散型自然エネルギーの 章を参照)。 ─ 16 ─ 給原料ごとに把握されないため、自然エネルギーの構成 が過剰、あるいは過少に推計されることになる。加えて、 本来は考慮に入れるべき既存ストックの効率性の低下や 老朽化した生産設備容量の廃止と立て替えなどの問題 が報告されることがほとんどないため、結果として推測す ることになる。 エネルギー計画を策定し、目標のベースラインを定め、施 策の進捗状況やその効果を観測し、投資を呼び込むた めには、信頼でき、入手しやすく、かつ時宜にかなった 自然エネルギーに関するデータが必須である。自然エネ ルギーに関するデータ収集は、より包括的で時宜にかな 政府機関および国際機関がその統計を作成するもととな ったデータの記録、情報獲得の容易さの向上や関係者 った重要な情報源や、推定内容を報告しない場合が多い。 間の良好なコミュニケーションにより、近年目覚ましい改善 「その他」という括り方で、データが示されている場合も を見せている。政府、業界、その他機関がデータ収集 あるが、非自然エネルギーが含まれているのかどうかはこ の方法を改善したことにより過去10年間で大きな成果を得 れでは明らかにならない。その他のデータ集は公開され た。しかし、とくに分散して導入されている自然エネルギ ていない。方法論および推定内容(何をどう計上してい ーのデータはいまだに不足している。自然エネルギー使用 るのかを含め)は情報源によって大きく異なりうるためデー の大規模化および地理的拡大につれて課題は複雑化し、 タの頑健性に不整合さと不確実さをもたらしている。 データの追跡が難しくなっている。多くの課題が残されて いる。 公的(政府機関)データは階層性のあるデータのなかで は優位に置かれる可能性もある。しかし、非政府機関の 自然エネルギーのデータが系統だてて収集されていない データは、世界の自然エネルギー分野に関するより包括 国は多く、データを所有している場合でも、その質と完全 的な視点の構築という目的のためには、同じように重要で 性には大きなばらつきがある。データ公開の時期にはかな ある。課題となるのは、様々な組織的なデータや個別の りばらつきがあり、報告期間も異なる。自然エネルギーが データを矛盾のない、合理的で、明快な文脈で効率的 急速に進展している状況においては、実状とデータが利 に結びつけることである。ひとつには公式、非公式、両 用可能になるまでの時間差(通常は2年ないしそれ以上) 情報源のより広範なデータに体系的に基づくことによって、 は詳しい情報に基づく意思決定における障害になりうる。 データの不足を解消し、自然エネルギーデータの質を改 善するために、いくつかの政府、地域、国際機関の先 いくつかの課題は、分散型という設備導入の特性および 駆的な取り組みが進められてきた。こうした取り組みの中 産業構造のため、特定の技術や部門において見られる。 には、国連 SE4ALLのGlobal Tracking Framework たとえば、最も伝統的なバイオマスは暖房用および調理 や IRENA のもとで進行中のプロジェクト、西アフリカおよ 用として、世界全体の約10億世帯で利用されているが、 び中東・北アフリカの地域的イニシアチブ、REN21が取 全体の消費量は明らかになっていない。近代的バイオマ り組んでいる世界および地域の白書が含まれる。 スでは燃料のエネルギー換算比率が一様ではなく、多様 な原材料、さらには換算の方法が、統一性のあるデータ 自然エネルギー情報の収集、解析は煩わしいものに見え 収集を難しくしている。取引対象となるバイオマスの原材 るが、一貫性の無いデータ収集は、十分な情報に基づく 料でさえもエネルギーと非エネルギー利用の双方があるた 政府の判断を妨げるものである。専門家たちは系統だった、 め、このデータの収集は困難なものになる。 精度の高い報告が、資金調達力を強化し、政策優先事 項を確定し、長期的エネルギー計画作りのために極めて 自然エネルギーの熱利用(および冷房)のデータは関連 重要であるという共通認識をもっている。 する技術の相対的な広範さ(たとえば供給原料、エネル ギー変換技術、流通)や、この分野特有の分散型とい 出典:巻末の注6を参照 う特性が原因となって概して問題が多い。国によっては、 自然エネルギーの熱利用は(温水利用のための太陽熱 集熱器のように)エネルギー効率化の手段であり、利用 実績は他の自然エネルギーのデータと共に記録されるもの ではない、という誤解がある。分散型の熱利用、オフグリ ッド電力、およびその他分散型利用の導入容量や生産 量に関するデータは、しばしば収集されないまま放置され ており、収集されている場合でも断片的になっている。 地域資源の多様性およびシステムの状況などの様々な理 由から、エネルギー生産のデータは正確に推計するのが 困難である。自然エネルギーがハイブリッド装置(バイオ マス混焼、集光型太陽熱発電と化石燃料のハイブリッド 利用)の一部として利用されている場合には生産量が供 ─ 17 ─ 第1章 補足1.自然エネルギーデータ:発電設備容量および 発電量データの現状と問題点 第 1 章 世界の概要 補足2.注目地域:ラテンアメリカとカリブ海地域 野心的な目標あるいは政策支援によってラテンアメリカとカ リブ海(LAC)地域において、自然エネルギーへの関心 はさらに高まりをみせており、伝統的な水力発電以上に自 然エネルギーへの投資が急速に増加している。2014年 初頭には、この地域の少なくとも19か国が自然エネルギー に政策的に取組み、少なくとも14か国が、主に発電を対 象にした自然エネルギーの目標を定めている(表3および 表 R12からR15を参照)。たとえば、ウルグアイは2015年 までに発電量の90%を自然エネルギーに代えるという目標 をたて、グレナダは2020年までに一次エネルギーの20%を 自然エネルギーで満たす目標を定めている。 水力発電が地域の総発電設備容量の約半分を、また自 然エネルギー発電設備容量の大半を占めているように、自 然エネルギーはすでに、電力需要の相当部分を占めている。 とくに中央アメリカでは、水系の変化による脆弱性を減らす ためにより多様なエネルギー構成とする必要があるため、 他の豊富な自然エネルギー資源への移行が関心を集めて いる。ブラジルでは、環境への影響と残存する水資源の 大半が遠隔地にあるという理由で、水力発電の開発はこ れまで以上に制限される見通しが立てられている。カリブ 海地域諸国は、化石燃料への過度の依存を軽減し、自 らの経済およびエネルギー安全保障を引き上げるため、自 然エネルギーの展開を積極的に推進している。 LAC 地域にとっては、エネルギーアクセスはいまだに懸案 の一つであり、95%という発展途上地域のなかでは高い 電化率を有しているのにも関わらず、主に農村部で推定 2400万人がいまだに電気を利用することができていない。 すでにほぼ100%の電化率を達成している国がある一方で、 それに遥かに及ばない国もある。自然エネルギーは近代 的エネルギーの普遍的な利用の実現に向けて大きな役割 を果たすことができる。太陽エネルギーはLAC 地域のい ずれの場所でも豊富であり、世界の地熱資源埋蔵量の4 分の1が眠る地域でもある。さらに、アルゼンチン、ブラジ ル、メキシコは世界有数の風力資源保有国である。水力 を除いた自然エネルギーは、当該地域における現在の電 力需要の50倍以上の技術的潜在能力を有すという推計 もある。 ステムはブラジル全土に広がっており、ブラジルは世界有 数の市場の一つとなっている。チリの鉱山産業は遠隔地 における熱エネルギーの需要を賄うため太陽熱利用シス テム(パラボリック・トラフ型および平板型集熱器)を積 極的に設置している。食品の太陽光乾燥器はジャマイカ、 ペルーやメキシコで果物やコーヒーを加工するために活用 されている。 LAC 地域住民の80%以上が都市に住み、急速に地方 (地域)の都市化が進んでいるが、これは輸送部門の需 要増加を伴う。化石燃料消費の伸びを抑えながらこの需 要を賄うためにいくつかの国ではバイオ燃料の利用を促進 している。ブラジルではバイオ燃料が輸送部門の13%を 占め、その役割は他の国でも拡大している。なかでも、 ブラジル、アルゼンチン、コロンビアが LAC 地域のバイオ 燃料生産を牽引している。 自然エネルギーの促進のため、固定価格買取制度、公 的入札制、優遇税制、固定枠制(クォータ制)を採用 している国もある。公的入札制の採用は、2013年にブラ ジル、エルサルバドル、ペルー、ウルグアイが6.6GW 以 上の自然エネルギー発電設備能力を入札にかけたことで 普及しつつある。8か国が年末までにネットメーターリング を導入し、コスタリカとバルバドスでは実証事業が始動し ている。 自然エネルギー産業の環境整備が進み、新たに国内外 の投資家を惹きつけている。2013年にブラジルでは2年 連続で新規投資が減少したが、LAC 地域の他の国々で は大きな増加があり、チリ、メキシコ、ウルグアイではそれ ぞれ10億ドル以上の契約があった。 製造業各社はLAC 地域における成長の機会を探し求め ている。この地域の経済大国であるブラジル、アルゼンチ ン、チリ、メキシコが先導的な役割を担っているが、風力 タービン生産等の自然エネルギー技術はLAC 地域全体 に広がっている。 今までこの地域は電力の市場構造と規制の相違から、電 力市場統合に対する制約を受け、送電インフラの不足が プロジェクトの展開を遅らせてきた。また、自然エネルギー 熱利用技術とその潜在性に対する低い関心が、熱利用 の拡大を妨げてきた。加えて、カリブ海の国など、相対 的にエネルギー需要が低い場合には、地域産業の支援 を難しくし、規模の経済から得られる潜在的な恩恵を得 る機会を妨げてきた。このように足下に様々な問題を抱え ているものの、LAC 地域は前例のない成長を見せてきて おり、拡大に向けて大きな機会を示している。 LAC 地域の水力発電部門は比較的成熟している一方で、 膨大な潜在性を有する水力以外の自然エネルギーが徐々 に顕在化し始めている。ブラジルとメキシコの積極的な推 進により、ここ数年の間に、風力発電は急速な成長を遂 げた。約1GW の発電容量でメキシコは世界第5位の地 熱発電国となり、これを中央アメリカが合計500MW の発 電容量で追っている。太陽光発電市場は、オフグリッドお よび農村部でその重要性が増す一方、小規模な家庭用 世界の異なった地域における発展と傾向に着目している 設備から大規模な発電所に焦点を移している。 「注目地域」 の補足欄は GSR2013から掲載されており、 今では報告書の定期記事になっている。 熱利用部門における自然エネルギー由来の家庭用、商 業用および産業用の使用が増えている。太陽熱利用シ 出典:巻末の注20を参照 ─ 18 ─ 図3:世界の電力供給における自然エネルギーの割合 (2013年末、推計値) 化石燃料および原子力 77.9% 水力発電 16.4% 自然エネルギー 発電 22.1% 風力発電 2.9% バイオマス 発電 1.8% 太陽光発電 0.7% 地熱、集光型太陽熱(CSP)、 海洋発電 0.4% 2013年末に稼働中の自然エネルギー発電容量に基づく。四捨五入のため合計が合わない場合がある 産業は柔軟性の向上とグローバル戦略およびサプライチェー ンの開発でさらなるグローバル化を見せる市場に対応してき た22。2013年に、製造業は製品の多角化による製品価値 向上の努力を継続し、多くの企業はプロジェクトの開発とオー ナーシップにさらに前向きに取り組んでいる。また自然エネル ギー業界は、建設、エンジニアリング、コンサルティング、 装置のメンテナンス、オペレーション・サービスといった分野 に対する、世界的な需要の急速な高まりを経験した23。一 方で、とくに太陽エネルギー、風力エネルギーの分野では 企業の合併・統合が続いており、いくつかの分野にとって 厳しい年となった。しかし、年末には多くの太陽光発電や 風力発電製造業者が収益性を回復し、明るい見通しを得 られている24。 2013年の自然エネルギーに対する世界全体の投資額は、 システムコストの低下と政策の不確実性が大きな要因となっ て、再び前年から減少した25。それでも、自然エネルギー の発電容量の増設への正味の投資額は、化石燃料を4年 連続で上回った26。さらに2013年は、資本市場を通した低 金利資金利用に道を開く新しい資金調達手段の開発と実 行に見られるように、自然エネルギーは資金調達においても 分水嶺の年となった 27 (投資の流れの章を参照) 。2013年 は堅実で長期的なリターンを期待する年金ファンドや機関投 資家の間で、自然エネルギーアセット・ファイナンスへの関 心が高まったことに起因して、プロジェクト(とくに太陽光発 電と風力発電)の出資者が、記録的な割合で入れ替わっ た28。クラウド・ファンディングやリスク保証スキームといった 革新的な資金調達手法が拡大して中国、欧州や米国へと 拡散し、現在はアフリカやアジアのオフグリッドプロジェクトで もその手法を試みようとしている29。発展途上国の人里離れ た地域の分散型自然エネルギープロジェクトへの資金調達 に様々な主体が積極的に取り組んでいる30。 このような様々な進展が自然エネルギー分野の雇用創出にも たらす影響は国と技術部門によって異なるが、自然エネルギー 産業に従事する人の数は、世界規模で増え続けている(59 ページの補足6および60ページの表1を参照)。 ■電力部門 最も大きな成長は電力部門で起こり、2013年の世界の自然 エネルギ ー 発 電 容 量 は2012年 から8% 以 上 上 昇し、 1560GWを超えた31。 水 力発 電では4% 増 加し、およそ 1000GWとなったi。他の自然エネルギーでは合計で17% 近 く増加し、推計560GWとなった32。世界全体では、水力発 電と太陽光発電がそれぞれ2013年に追加された自然エネ ルギー発電容量のおよそ3分の1ずつを占め、風力発電は それらに次ぐ29%を占めた33。世界中で新たに導入された 太陽光発電容量が風力発電容量を上回ったのは今回が初 めてである34 (表参照 R1を参照)。 世界全体では、自然エネルギーに対する政策支援や投資 の中心は電力部門におかれ続けている。その結果、毎年 の世界全体での追加発電容量において自然エネルギーが 占める割合は増えつづけてきた35。2013年には、自然エネ ルギーの発電容量が世界の発電容量の増加分の56% 以上 を占め、国によってははるかに高い割合を占めた36。EUでは、 自然エネルギーが6年連続で新規発電容量の過半を占める こととなった37。 i 2013 年度版の GSR では、2012 年末には全世界で 990GW の水力発電容量があるとしていたが、この統計はデータの改善によって下方修正されている。この修正により、世 界全体の自然エネルギー容量の数値も修正されている。さらに、当報告書に記載されている世界全体の水力発電および自然エネルギーにおける統計は、全体の数値から純揚水発電 容量を除くようにしている。詳細は、139 ページの方法論に関する注釈を参照のこと。 ─ 19 ─ 第1章 自然エネルギーが、現在および将来のエネルギー需要を満 たす上で決定的な役割を果たすであろうと捉える人はます ます増えている。たとえば、自然エネルギーは、今やラテン アメリカでは重要なエネルギー源としてみられている20 (補足 2を参照)。多様なエネルギーの安全保障と持続可能性目 標を達成するため、個々の部門や経済全体として100%自 然エネルギーへの転換を図ろうとする都市、州、地域は世 界中で増えており、その目標をすでに達成しているケースも 多数ある21。 出典:本章の巻末注39を参照 第 1 章 世界の概要 図4.自然エネルギー発電設備容量 世界合計、EU28か国、BRICS、上位6か国(2013年) ギガワット 600 560 CSP と海洋発電 ギガワット 500 地熱発電 118 120 バイオマス発電 太陽光発電 100 400 風力発電 93 78 80 300 235 200 60 162 100 出典: 本章の巻末注 49を参照 0 40 32 31 27 20 世界 合計 EU-28 BRICS 0 中国 米国 ドイツ スペイン イタリア インド 水力発電は除く 2013年末までには、自然エネルギーが世界の発電容量の 推計26.4%を占めた38。これは世界の電力のおよそ22.1%を 供給するのに十分であり、そのうち約16.4%は水力発電に よるものである39 (図3を参照) 。自然エネルギー発電容量が 年々急速に増加していく一方で、世界の発電量に占める自 然エネルギー発電量の割合の伸びはより緩やかになってい る。その主な理由は世界の電力需要全体が急速に上がり 続けていることであるが、増加した自然エネルギー容量の多 くが変動型の自然エネルギーであることも理由の一つである。 とは言え、変動型自然エネルギーの普及率が高い国々もあ る。たとえば、2013年を通してデンマークでは風力発電が 電力需要の33.2%を満たし、スペインでは20.9%を満たした。 イタリアでは、1年間の電力需要全体の7.8%を太陽光発電 でまかなった40。水力発電は単独で、世界の自然エネルギー のうち最も大きな割合を占めており、高い割合の変動型自 然エネルギーの調整のために、ますます多く利用されている。 また、ときには揚水発電の補助を受けている(第2章の水 力発電の箇所を参照)。地熱やバイオマス電力のような他 の非変動型自然エネルギーは、水力発電と同じような役割 を担い、国によっては総電力量の大きな割合を占めている。 アイスランドでは発電量の29%を地熱が占め、エルサルバド ルやケニアでは同様に5分の1以上を占める41。 バイオマス、地熱、水力発電においては、良質な資源のあ る地域では価格競争力が保持されてきた。他の技術にお いても、より多くの地域で同様のことが当てはまるようになっ ている42。陸上風力発電やとくに太陽光発電の標準化コスト は、ここ5年間で急激に下がった。一方で、石炭や天然ガ スによる世界の標準化コストは、投資におけるコストや供給 原料価格の増加によって、上昇してきた43。結果的に、風 力発電や太陽光発電事業などは公的な財政支援なしに、 建設されてきている。とくにラテンアメリカに加えアフリカ、中 東などでは、こうした傾向が見られる44。 このような経済的な変化を受けて、分散型の自然エネルギー 事業は、従来型の電力事業のビジネスモデルにとっての脅 威となりはじめていて、電力事業者はいくつかの国では自然 エネルギー由来の電気に対する政策支援を減らすよう働き かけている45。同時に、アジアから欧州、米国に至るまでの 多くの事業者は、水力発電に加えて、風力や太陽光、そ の他の自然エネルギーに投資を始めている46 (76ページの 補足7を参照)。 2013年末時点では、中国、米国、ブラジル、カナダ、そし てドイツが、自然エネルギー総発電容量において上位を占 める国々である47。中国は全世界の自然エネルギー発電容 量の24%を占め、そのうち260GW 分が水力発電である48。 水力発電を除いた発電容量で上位を占める国は、上記の 中国を含め、米国とドイツ、それに続いてスペイン、イタリア、 インドとなる49 (図4と表参照 R2を参照) 。 水力を除いた自然エネルギー発電容量で上位20位に入る 世界の国の中で、国民一人当たりの発電容量が最も多い 国はすべて欧州にある。その中でもデンマークが圧倒的な 差をつけてており、ドイツ、ポルトガル、スペイン、スウェー デンがそれに続くi 50。年間 GDPあたりの自然エネルギーに よる電力(と燃料)への投資額を考慮すると、上位国とし i 他にも、一人当たりの自然エネルギー発電容量の多い国や、自然エネルギー電力の割合の高い国があるが、本報告書では水力発電を除く自然エネルギー新規設備容量が最も大き い上位 20 か国に焦点を当てている(各国の自然エネルギー電力割合に関しては参照表 R13 を参照。 ) ─ 20 ─ すべての自然エネルギー容量において世界全体のおよそ 38%を占めるBRICS i 諸国全体が(主に中国のおかげで) 世界をけん引している。一方で、水力を除いた自然エネルギー の新規設備容量においては、2013年末時点では、EU がま だ世界のどの地域よりも高い、およそ42%を占める結果となっ ている52。とはいえ、欧州外での自然エネルギー市場が拡大 するにつれて、EU 加盟国の世界における自然エネルギー 発電容量の割合が減少してきている(その他の順位につい ては12ページの上位5か国の表を参照)。 2013年のハイライト ■中国における新規自然エネルギー発電容量が、化石燃 料や原子力の新規発電容量を初めて上回った53。自然エ ネルギー発 電 容 量 全 体では、中 国の総 発 電 量の20% (1000TWh 以上)を占める54。EU では、自然エネルギー 電力の新規設備が新たな発電容量の72%を占め、2012 年の70%を上 回った55。EU( 欧 州 連 合 )27か国とノル ウェー、スイスを加えた国々における新規発電容量の80% を化石燃料が占めた10年前とは完全に対照的である56。 ■米国では、水力発電の出力が低下し、安価なシェール ガスとの価格競争があるにも関わらず、自然エネルギーによ る 発 電 量 の 割 合 が 約 12.9% に 増 加した57(2012年 は 12.2%)。対照的に、石炭による正味発電量の割合は2008 年から2013年にかけて、19% 近く減少した58。 ■スペインは、年間を通して風力発電による発電量が他の 発電源よりも多くなった世界で初めての国となった59(全体 の20.9%)。 ■インドでは、4GW 以上の自然エネルギー発電容量を追加 し、総計では約70.5GWとなった60。水力発電がその内の 大半(62%)を占めているが、2013年に新たに導入された 自然エネルギーの中では、太陽光発電と風力発電がおよそ 70%を占める61。しかし、インドの発電容量は急速に拡大し ており、2013年に導入された全電力源のうち、自然エネルギー が占めるのは17% 以下であった62。 ■ブラジルでは、他のすべての発電が市場から締め出され てしまうため、風力発電が入札制度から外された63。2013 年末までに、発注済みの風力発電容量が3.5MW(訳者注: GW の誤りと思われる)となり、既に契約が結ばれた追加 分の発電容量は10GWを超えた64。 ■太陽光発電に対する世界的な投資額が2012年と比べて およそ22% 減少したが、新規発電容量は32% 以上増加し た65。 ■2013年のはじめには、水力発電以外の自然エネルギーに よって発電された電力の割合が10% 以上を占めた国が少な くとも18か国あり、デンマーク、エルサルバドル、ケニア、リ トアニア、オーストリアを含む2010年の推計8か国から増加し た66。 ■世界中で、100% の電力を自然エネルギーからまかなうこ とを目標にするか、すでに100% への移行に成功しているコ ミュニティや地域が多くある67。たとえば、ジブチ、スコットラ ンド、ツバル諸島といった地域では、2020年までに電力を 100%自然エネルギー源からまかなうことを目標としている68。 世界中で、 “グリーン”なサービスを提供する従来の電力会 社や新たなエネルギー供給事業者を選ぶ家庭や企業が増 えてきており、法的な要求事項として定められていない、も しくは法的な要求を超えて生産されている自然エネルギー(もっ とも一般的なのは電気)を自主的に購入している。ドイツは、 自然エネルギーの自主的購入においては世界を先導してい る国の1つである。ドイツの自然エネルギー市場では、2006 年の80万人の住宅用顧客が2012年には国内の一般家庭 の12.5%にあたる490万人まで増加した。2011年には、住 宅用顧客は15TWh のグリーン電力を購入し、商業用顧客 はさらに10.3TWhを購入したii 69。他の欧州における主要な グリーン電力市場としては、オーストリア、ベルギー(フラン ドル地方) 、フィンランド、ハンガリー、オランダ、スウェーデン、 スイス、そして英国が挙げられるが、これらの国ではドイツ の水準には達していない70。 グリーン電力市場は、オーストラリア、カナダ、日本、南アフ リカ、そして米国にも存在する71。米国における電力購入者 の半数以上は、地元の電力会社から直接グリーン電力を 購入するか選択できる。さらに、50の州の内47の州(とコ ロンビア特別区)においては、グリーン電力を提供すること ができる電力会社や競争力のある電力供給事業者の、少 なくともどちらか一方が存在する。2012年には米国のグリー ン電力の小売販売総量が、48TWh(米国の電力総売上 のおよそ1.3%)を超えた72。 欧州、インド、メキシコ、米国では、主要な産業顧客およ び商業顧客が、エネルギー供給の信頼性を向上させるため と、エネルギーコストを削減するために自然エネルギーの消 i ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカを組み合せた経済グループ 留意点として、この成長は部分的には、すべての住宅用電力消費者に自然エネルギー電力を調達するための電力供給者の自主的な決定によるものであり、一般的にはマーケティ ング目的である。ドイツでは、そのような電力供給事業者を選択する消費者が、自主的なグリーン電力市場の 20% まで占めるようになった(この章の巻末 69 を参照)。 ii ─ 21 ─ 第1章 てはウルグアイ、モーリシャス、コスタリカ、南アフリカ共和国、 ニカラグアが挙げられる51。 第 1 章 世界の概要 費に切り替える傾向が続いている。2013年には自然エネル ギーに関する意欲的な目標を定める企業が多く見られた。 また、独自で自然エネルギー電力システムを導入・運営したり、 電力会社を通さず直接自然エネルギー事業者から電力を購 入する契約を結ぶ企業もあった73。 地域主導型や共同型の電力事業においては、北米や欧州 の数か国と同様に、オーストラリアや日本、タイでもその数 が増えている74。デンマークでは共同所有の電力事業の歴 史は長い。ドイツにおいては、2013年時点で自然エネルギー 発電容量の半分近くを市民が所有しており、およそ2千万 人のドイツ人がいわゆる自然エネルギー100% 地域に住んで いる75。 この1年で、遠隔地での小規模分散型自然エネルギーシス テムの導入が拡大し、同時に消費者が電気の一部だけで も現地で発電することを望む場合の系統連系型システムの 普及も広がりを見せている76。技術の発達により、完全にで はなくとも、自然エネルギーを中心とした、マイクログリッドや ミニグリッドの設置が可能となってきている。マイクログリッド は先進国、とくに、上位系統に接続されている地域で増え ているi。発展途上国では、遠隔地における電力へのアクセ スを提供する上で、ミニグリッドがますます重要な役割を担 い始めてきている77 (GSR2013の補足8を参照) 。 ■ 熱 利用と冷 房 部 門 有用な熱エネルギーの供給のために使われるエネルギーは、 全世界の最終エネルギー消費のおよそ半分を占めている78。 (伝統的バイオマスを除いた)近代的な自然エネルギーが 世界の最終熱需要に占める割合は小さいが、徐々に増加 している(現在ではおよそ10%)79。市場によっては、すで に自然エネルギーが大きく貢献している所もある。たとえば、 アイスランドやスウェーデンでは、熱に使われる最終エネルギー の60% 以上が自然エネルギーによってまかなわれている80。 ブラジルでは、バイオマス熱利用が産業用電力需要の重要 な割合を占めており、自然エネルギーの割合はおよそ43% である81。オーストラリアやデンマーク、イスラエル、ニュージー ランド、ノルウェー、タイでは、熱エネルギーの最終需要の 20%もしくはそれ以上を自然エネルギーが占めている。また、 インド(11%) 、インドネシア(7%) 、南アフリカ(6%)でも 高いシェアを占めている82。 近代的バイオマス、太陽熱、地熱エネルギーは、世界中 の数千万の家庭用、商業用の建築物に、温水と暖房を提 供している。これらの自然エネルギーは、産業プロセスや 農業用途、調理用のための熱を、様々な温度帯で供給し ている。近代的バイオマスは自然エネルギー熱利用の大部 分(およそ90%)を占めている83。自然エネルギーの熱利 用や冷房市場はここ数年で急速に成長してきた。とくに、 太陽熱やいくつかのバイオマスシステムにおける成長は著し い84。加えて、パッシブソーラー建築設計は相当量の熱(と 光)を供給しており、その数は増加しているが、データ不 足のためこの報告書では取り上げない。 バイオマス熱の設備容量は毎年およそ1〜2% ずつ着実に 増加している85。とくに中欧や米国では、2013年にバイオマ ス熱利用への移行が続いていた86。というのも、古くて巨大 な建物においては、バイオマスエネルギーシステムがヒート ポンプよりも価格競争力を持ちうるからである。スカンジナビ アにおける地域熱供給システムや、オーストリアにおけるペレッ トストーブがその例である。産業用の熱利用においては、 バイオマスエネルギーが化石燃料に取って代わる主要なエ ネルギー源であり、しばしば熱電併給システム(CHP)を 使用している87。 ほとんどのバイオマス熱は固体のバイオマス原料から得てい るが、バイオガスはますます重要な熱源となってきている88。 欧州が、主に暖房目的のバイオマス熱消費において先導し ている地域であるにもかかわらず、需要は他の地域、とくに 中国で伸びてきている89。調理用のバイオガスの利用は、ま すます多くの発展途上国で伸び続けている90。 2013年末までの5年間に渡って、太陽熱利用システムの容 量が毎年平均で14% 増加してきた91。家庭、学校、病院、 ホテル、政府および商業用建築物の温水(と増加傾向に ある暖房)のために、太陽熱集熱器は全世界で使われて いる92。それらは中国において広く利用されており、使用期 間中の太陽熱利用システムの費用は天然ガスや電気ヒーター の費用よりも低い93。とくに、中欧における太陽熱技術を中 心とした地域熱供給システムの数は増えてきている。また、 技術の成熟につれて、太陽熱によるプロセス加熱用の温冷 熱利用への関心も高まっている94。 地熱エネルギーは(地域熱供給ネットワークを含む)暖房 や家庭での温水の供給、公共の浴場や温室における直接 熱利用および間接熱利用や、産業と農業用の熱利用のた めに使用されている95。技術の発展により、発電や熱生産 のために比較的低い温度の地熱しかない地域でも、熱を取 り出すことが可能となっている96。 空気や地中、水を熱源とするヒートポンプもまた、自然エネ ルギーによる冷暖房を供給している。ヒートポンプに関するよ り重要な傾向の一つとして、ハイブリッドシステムがある。こ れを利用することで、 (ヒートポンプと太陽熱、もしくはバイオ マスのような)いくつかの自然エネルギーを統合でき、熱を様々 な形で活用することができる97。中国におけるハイブリッドヒー トポンプ製品の市場は欧州市場の2倍の規模であり、どちら も急速に成長している98。また、産業プロセス用と同様に地 域熱供給用の大規模ヒートポンプの利用に対する関心も高 まっている99 (37ページの補足4を参照) 。 冷暖房のための近代的な自然エネルギー技術の利用は限 られており、その可能性は十分に活用されていない。この 熱部門における市場の成長は電力部門に遅れを取ってい る。いくつか理由として挙げられるのは、技術に対する認 識の乏しさや、市場が細分化されていること、そして政策 支援が比較的欠けている点などである100。さらに、多くの i マイクログリッドとは小規模電力網であり、独自の発電源、発電、負荷、そして定められた境界がある。そのため、地域の主要な電力網から独立するか、または協力して稼働さ せる事ができる。マイクログリッドは、予備の電源とされたり、需要が多い時に主要な電力網を助けるためのものだと考えられたりする。また、コストを削減し、信頼性を高め、 さらには自然エネルギーを組み入れるための手段としても使われる。 ─ 22 ─ 国では、熱利用に対する自然エネルギーの成長には制約 がある。これは、初期投資費用が高い技術があることと、 補助金を受けている化石燃料との競争によるものである、し かしながら、炭素税が課せられる地域では、熱の利用者 は二酸化炭素の排出量が少ない燃料を探し求める傾向が ある101。デンマークや日本、英国での消費者は自主的な購 入プログラムを通して“グリーン熱”を選択する事ができるが、 グリーン電力の購入に比べて選択肢は限られている102。 エタノールやバイオディーゼル(FAME や HAO i を含む) を主とした液体バイオ燃料は、自然エネルギー由来の輸送 燃料の中で、最も多く使われている。液体バイオ燃料は全 道路輸送燃料の需要のおよそ3%を占め、また液体燃料の 最終需要のおよそ2.3%を占める(そして、航空燃料におい ては非常に少ないが割合は増加している)112。ブラジルや 米国、それから欧州のいくつかの国々では、液体バイオ燃 料がかなり高い割合を示している113。 世界的に自然エネルギー熱を支援するための政策は比較 的不足しているが、支援政策を制定していたり、もしくは野 心的な目標を設定していたりする国や地方自治体もある。デ ンマークでは、2013年の時点で新築建物における化石燃 料ボイラーの利用が禁じられている。また、2020年までに すべての熱供給のうちおよそ40%を自然エネルギーで供給 することを目指している。同様に、英国は2014年の初めに 住宅消費者に対して自然エネルギー熱優遇措置に乗り出し た。また、EUでは2019年までにすべての新築の建物はほ ぼゼロエネルギー(消費する分のエネルギーを生産するシ ステム)としなければならない103。欧州以外では、ほとんど の熱利用に関する目標は太陽熱エネルギーに着目している。 一方タイでは、バイオ燃料に対する熱利用の目標もある104(表 参照 R14を参照)。 液体バイオ燃料の成長は近年様々な様相を呈している。世 界におけるバイオ燃料の生産はいったん低迷したが、2013 年にはまた増加した114。環境的、社会的に持続可能な供 給源のみを利用するという考えのもとで、バイオマス燃料の 成長が制限されている地域もある(バイオマスエネルギー 部門を参照)。 電車や都市交通システム、増加傾向にある電気自動車、 電気バス、電動自転車、電動スクーター、電動モーターバ イクを含む電動の乗り物に対する電気の利用はすでに一般 的となっている118。自然エネルギー由来の電気をこれらの輸 送システムと結び付けようとする取り組みは増加している。フ ランクフルトやニュルンベルクを含むドイツのいくつかの都市 では、ライトレールや地下鉄サービスの運営を、自然エネルギー で行っている。一方、ドイツのザールラント州では、地域の 鉄道サービスを100%自然エネルギー電力による運転に切り 電力供給が過剰となる際に、自然エネルギー電力によって 作られた熱を吸収するために、地域熱暖房システムを利用 しはじめている国がいくつかある。たとえば、ヒートポンプも しくは抵抗加熱ヒーターを直接利用し、風力発電の余剰分 を温水に変えることができる108。デンマークでは様々な自然 エネルギー電力をCHP や地域熱供給と組合せることで、エ ネルギー供給の信頼性を高めている。また、これを実践す ることで、エネルギー政策の基礎にしようしている109。2013 年に中国は、地域の電力系統に対する負担軽減と大気汚 染の軽減のために、風況の良い地域に対し、風力を熱に 変換する技術の試験調査を要求した110。世界では、熱利 用部門における発電への動きもある111。 ■ 輸 送 部 門 自然エネルギーは現在、輸送部門において液体や気体の バイオ燃料として主に軽自動車や大型トラックのために使わ れている。また、電気の形で鉄道や路面電車、二輪また は四輪の電気自動車にも使われている。 i 脂肪酸メチルエステル(FAME)と水素化植物油(HVO)。詳しくは、用語集を参照。 ─ 23 ─ 第1章 冷暖房部門における傾向としては、CHP(熱電併給設備) のための自然エネルギー熱利用の増加や、とくに欧州で見 られる自然エネルギー熱による冷暖房を地域熱供給で利用 するシステムが増えている。また、建物の改築部門を取り 扱うための組合せの解決策や、チリやインド、アラブ首長 国連邦などの産業プロセスにおいて利用される、自然エネ ルギー熱利用の増加も含まれる105。少なくとも欧州の20か国 では、地域熱供給システムにおいて自然エネルギーが使わ れており、さらにEU 全体の20% の地域熱供給が自然エネ ルギーによってまかなわれている106。地域熱供給などの低 温度利用のための蓄熱システムは実証されており、今では 一部の欧州市場で出回っている107。 限定的ではあるが、気体バイオ燃料の成長によって(主に バイオガスから精製されるバイオメタン) 、EU 諸国の数か国(と くにドイツ、スウェーデンで最も顕著) 、中国の一部地域、そ れから北米などで自動車やバス、その他の輸送手段に燃料 が供給されている115。欧州では、天然ガスと混合した圧縮 バイオガス(CBG)を提供する燃料ステーションが2013年 後半までにおよそ700か所あり、100%の圧縮バイオガスを販 売するガソリンスタンドが300か所近くあった116。中東やアジア を含む他の地域では、バイオメタンの生産と燃料供給のため の設備を開発するための計画が現在進められている117。 第 1 章 世界の概要 替えるという初めての取り組みを行った119。コロンビアのボゴ タでは、2013年に南米最大規模となる全タクシー車両の電 化を進め、警察の車両として100台の電気オートバイを導入 する計画を公表した120。 電気自動車やプラグインハイブリッド電気自動車(PHEVs) は、自動車市場全体ではまだ非常に小さな割合を占めるに 過ぎないが、いくつかの国では進展があった。たとえば、ノ ルウェーでは2014年の初めの各月には従来の自動車よりも 電気自動車の方が売れた121。米国では2013年の末までに、 8000か所以上もの充電スタンドが稼働していた122。100%自 然エネルギー目標を持つ町の多くは、電気自動車をエネルギー 計画の一つとして採用している123。スウェーデンでは、バイ オ燃料もしくは電気中心で動く道路車両の導入と合わせて、 2030年までに化石燃料を使わない乗り物に転換していくこと を目標としている。また、スウェーデンでは、温室効果ガス の大気への排出を2050年までに正味ゼロにするエネルギー 供給システムのビジョンに向けた更なるステップとして、徒歩 や自転車、公共交通機関の利用促進を目指している124。加 えて、電気とディーゼル燃料やバイオディーゼル燃料と天然 ガスを利用したバスなどの、ハイブリッド輸送機関という選 択肢も出てきている125。 関連する技術の急速な進歩と並行するこれらの発展の多く は、輸送部門における電気の役割を大きくしており、将来の “スマートグリッド”において変動型の自然エネルギーの補助 として電力を蓄えるために乗用車のバッテリーを利用する可 能性も高まっている126。 ─ 24 ─ 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 バイオマスエネルギー 世界におけるバイオマス消費は、電力や熱を供給するため に増え続けている。また、運輸や定置設備用の液体・ガス 化バイオ燃料の生産も増加している。エネルギー目的で利 用されるバイオ燃料のうち、およそ60% が伝統的なバイオマ スである。たとえば、木炭に加工される薪や穀物の残さ、 動物の排泄物などが、たき火や非効率的なストーブなどで 燃やされ、料理、住宅用暖房、そして照明として使われて いる1 (第5章「途上国の分散型自然エネルギー」を参照)。 残りのバイオマスは近代的バイオマスエネルギーであり、こ の章で扱う2。 バイオマスの利用に伴う持続可能性や生活への不安など が引き続き議論の的となっており、とくに森林破壊や、エネ ルギー作物と食糧や繊維作物を製造する際に消費する水 と土地との兼ね合いが問題視されている3。さらに、燃焼時 に大気中に放出される炭素と、作物の成長時に吸収される 炭素との間に時間差がある以上、バイオマス利用が本当に 「カーボンニュートラル」であるかについては不確実性が残 る4 (補足3を参照) 。 近代的バイオマスに関しては、有機性廃棄物、エネルギー 作物や藻類などバイオマス由来の多岐にわたるエネルギー 担体のおかげで、照明、通信、冷暖房、運輸など、数多 くのエネルギーサービスが提供されうるi。風力や太陽光エ ネルギー由来の電力が小規模系統や既存の大規模系統に 接続される際、化学エネルギー貯蔵の役割を担っている固 体・液体・ガス化バイオマスは、それら様々な種類の電力 を調整する役割を担っている5。 バイオマスエネルギー部門は、潜在的な供給原料の多さや バイオマスをエネルギーに変換する際の技術的行程のため に、非常に複雑である。エネルギー担体や最終エネルギー に利用されているバイオマス導入容量の評価には、データ 上の大きな誤差が生じることが多い。さらに、バイオマスは 遍在的で非営利的資源に由来するので、公式にデータを 追跡するのが難しい。連携に問題を抱える複数の調査機 関が、国別のデータ収集を行っていることも多々ある。その 図5:バイオマス資源をエネルギーへ 特定 目的用 作物 森林 農業と森林残さ 食糧と 繊維加工残さ 都市廃棄物* 木質燃料、穀物残さ、 収穫や廃棄物由来の肥料 出典: 本章の 巻末注6を参照 食糧 動物用 飼料 化学 工業 原料 素材 エネルギー 世界の 年間バイオマス 需要量 55.6 EJ 近代的 バイオマスエネルギー 産業 * i ロス 販売または オンサイトで 利用 バイオ 燃料 電力 建築物 ロス 第2章 熱 伝統的バイオマス 有機性の固体廃棄物または廃液 GSR2013 の図 5 を参照 ─ 25 ─ 調理や暖房 などの 熱利用 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 補足3:バイオマスエネルギー・カーボン・アカウン ティング バイオマスの電力使用の持続可能性、とくに二酸化 炭素排出量に関して議論が続いている。近年、多く の研究や政策努力により、直接的/間接的な土地利 用の変化とともに、温室効果ガスの定量化に焦点が 当てられた。これまで液体バイオ燃料の生産システ ムばかりが注目されてきたが、とくに森林バイオマ スなど、固形バイオマス利用がますます増え(たと えば、住宅の暖房用や地域熱供給プラントのための 木質チップ、そして石炭火力発電所での木質ペレッ ト混合燃焼など)、二酸化炭素排出量の議論の焦点 が変化した。 バイオマスの使用量が持続可能な(バイオマス)管 理システムにおいて穀物や森林の再成長と結びつい ている場合、バイオマスの燃焼を通じて排出される 炭素は大気から再び吸収されるものだ、という見解 がステークホルダー間で共有されている。しかし、 懸念されるのは燃焼時の炭素排出と植物生長時の炭 素隔離の時間のずれである。このような一時的な炭 素量の不均衡性は、とくには比較的長い更新サイク ルをもつ森林バイオマスシステムと、一般的にはバ イオマスの中長期的な温室効果ガスの効率的削減の 可能性と深く関連している。それゆえ、原則や予測 は様々であるが、炭素排出量を長期的に正確に説明 するための合意が形成され始めている。 これまで科学研究が主に焦点を当ててきたのは、 「炭 素回収」期間である。炭素回収期間とは、バイオマ スエネルギーシステムがバイオマスエネルギーが収 穫される前の生体炭素の水準に達して、関連する土 地利用や化石燃料の使用に伴う排出物を相殺するま での期間である。対象となる生態系の理論モデルの 枠組みや仮説、変換技術の違いや行動経済学的な違 いによって、結果は大きく異なる。一般的に言って、 伐採された木材の残さ(小さい木の梢や枝、間伐材 など)や、木材の加工品(おがくずや削りくず)は、 成長が遅い森林や生産性の低い地域にある直径の大 きな木より、炭素回収期間がより短い。一方、生産 性の高い地域に生息する成長の早い直径の小さな大 農園のパルプ材の炭素回収期間は、比較的短い。 さらに、どれくらいの炭素回収期間が望ましいかに 結果、バイオマスエネルギーの需給は特定の地域レベルで すら測りづらく、国や地方、世界単位のデータは明らかにさ れていない6(17ページの補足1、25ページの図5および GSR2012の補足2を参照)。 ■バイオマスエネルギー市場 2013年、バイオマスは世界における一次エネルギー供給量 ついての合意はいまだ形成されていない。最も幅広 く使われている時間的枠組みは2つあり、政策の観 点から2050年と、大気中の炭素量の安定化の観点か ら2100年に分かれる。どの時間的枠組みが選ばれる かによって、供給原料の種類や規模、技術の選択な どの点において、最終的に考慮されるべきバイオマ スエネルギーシステムが変化する。 バイオマスエネルギープロジェクトのその他の決定 的要因は、代替的な土地利用やエネルギー資源と関 係している。すなわち、バイオマスエネルギーの代 わりに、どのように土地が利用され、どのエネルギー が用いられるかということである。その答えは地域 条件次第で変化し、その地域条件も、たとえば木材 市場の市場環境や森林管理の実績、代替的なエネル ギーシステムに応じて変化する。また、これらの条 件に対する考え方は、個々のステークホルダーによ りそれぞれ異なる。 生体炭素排出量に関する政策を選ぶ際には、たとえ ば、森林における炭素量の計算をライフサイクル評 価とまとめて行うなど、関連する排出量も含めて定 量化する仕組みが必要である。ただし今のところ、 森林からの排出量を正確にモデル化するための科学 的合意はない。予防策として、持続可能な森林管理 が不可欠であり、炭素貯蓄/排出を保証し、特定の 土地やバイオマス利用(たとえば排水から大量の温 室効果ガスを排出する泥炭土など)の積極的な推進 /抑制策も実施する。反対に、緑化推進や木質バイ オマスの森林再生、周辺部の土地や未利用地への多 年草の植林によって、即座に正味の炭素受益を出す ことも可能であるi。 現在、北米と欧州における政策の選択の際には、こ れらすべてのアプローチが採用される。たとえば、 2013年イギリス政府は、自然エネルギー義務化の一 部として、初期値を含む炭素計算方法の草案を提出 し、森林バイオマス使用における排出削減値を定量 化した。また、オランダ政府は、特定の炭素負債基 準の調査を発表した。 i 政策オプションの例としては、二酸化炭素吸収量に応じた植林の際の炭素 クレジットの補償や新規発行を含む。 出典:本章の巻末注4を参照 の10%(推計56.6EJ)を占めた7。近代的バイオマスは、 約13EJ が建物や産業部門での熱供給を担い、約5EJ が 1160億リットルのバイオ燃料に変換され(変換効率およそ 60%) 、それとほぼ同量が、推定405TWhの電力を発電し た(変換効率およそ30%)8。熱電併給プラント(コージェ ネレーション)では、より効率的に熱が供給されるが、その 多くはオンサイトで消費されるため、全体の容量は明らかで ─ 26 ─ トワークからの売上げは12.9%増加した21。 バイオマスエネルギーの主要市場は、燃料の種類に応じ てそれぞれ異なる。とくにアジア全域で、近代的バイオ マスは急速に普及している9。バイオマスは、多くの国に おいてますます増加するエネルギー需要量を満たしつつ あり、一部の国においては、総エネルギー量の相当な 割合を占めていることもある。たとえば、スウェーデン、フィ ンランド、ラトビア、エストニアでは、最終消費の割合が 25%を超えている10。 バイオマスの一次エネルギー利用のほとんどは固体であり、 木炭や薪、穀物の残さ(主に伝統的な暖房や調理方 法として) 、都市固形廃棄物i、木質ペレットや木質チップ (主に近代的もしくは大規模施設において)を含む。バ イオ燃料やバイオエタノールはもちろん、木質ペレットや 木質チップは、今や国際的にかなりの量が取引されてい て、欧州ではガス供給網で取引されているバイオメタン ガスもある11。また、地域間や国境を越えて、相当な量 の固形バイオマスの非公式な取引が行われている12。 主に、木質ペレットやチップなどの形で取引されている 固形バイオマス燃料のエネルギー総量は、液体バイオ マス燃料の正味取引量のエネルギー総量の約2倍のまま である13。木質ペレットは、世界の固形バイオマス需要 の1〜2%を占めるにすぎないが、生産能力は2013年を 通じて急速に増加した14。 バイオマス熱利用市場 固形、液体およびガス化バイオ燃料は、燃焼により、た とえば家庭用・産業用の乾燥作業や温水、建物の暖房 に使われるような100℃以下の低温熱だけでなく、工業 や農業、地域熱供給に使われる200〜400℃の高温の熱 を供給することもできる。2013年には、およそ3GWth の 新規バイオマス熱設備が導入され、世界における総生 産能力は296GWthに達した15。バイオマスは、最も普及 している熱利用の自然エネルギー資源であり、近代的な 再生可能エネルギー由来の熱のおよそ90%を占める。ま た、固形バイオマスがその主たる燃料源である16。 依然として欧州が近代的バイオマス熱を最も消費した地 域であった。欧州の固形バイオマスの使用量は2012年 に5.4%であった(これが最新のデータである)17。ドイ ツは、2012年の112.6TWth から増加して、2013年には バイオマスから約116.6TWth のバイオマス熱利用を行っ た。この88%は固形バイオマス由来である18。スウェー デンでは、おもに木質バイオマスからのバイオマスエネル ギーが、ボイラーからの直接利用や、熱プラントや地域 熱供給からの間接利用の形で、家庭や商業部門の暖 房の半分以上を占めている19。また、2013年にフィンラン ドにおいて木質バイオマスは地域熱供給の主たる燃料 源であった20。欧州のバイオマス熱のほとんどの部分は、 地域熱供給を通じて供給され、2012年には熱供給ネッ 小型家庭用機器へのバイオマス利用もまた増加した。 2013年までに、欧州の小規模バイオマスボイラーの総導 入量は800万台であり、年間売上量は約30万台である。 その他の近代的デザインの機器に加えて、年間で約185 万台の薪を燃やすストーブや暖炉、調理器具が売れ、 総量としては5500万台が使用されている22。 EUは、木質ペレットの最大の消費地域であり、2013年 は1500万トン以上を使用した(2010年以来年間100万ト ンの増加)。とりわけ、住宅用の熱市場からの需要が最 も大きい23。ペレットなどのバイオマス熱利用は北米でも増 え続けている24。米国では、木質ペレット最大の国内市 場は北東部である25。 バイオガスもまた、熱供給の手段としてますます利用さ れている。バイオガスは先進国の主にコージェネレーショ ンプラントにおいて使われており、比較的少ない量が熱 プラントにおいて利用されている。2012年には、欧州に おけるバイオガスの供給量のほとんどは、オンサイトで使 われるか地域内で取引されていた。燃焼されたバイオ ガスは、110TJ の熱と44.5GWh の電気を供給した26。 運輸部門に利用される少量の余剰分は、当初はバイオ メタンiiに変換されており、現在、ごく少量が天然ガス供 給網を通じてEU 加盟国間で取引されている。バイオガ スの可能性を活用するため、貿易障壁を取り除く取り組 みがなされている27。 バイオガスを動力とする大規模プラントの多くは、アジア やアフリカで稼働している。その多くは、工場での熱加 工に用いられている28。また、とくに、中国、インド、ネパー ル、ルワンダなどの発展途上国においてバイオガスは小 規模ないしは家庭規模の消化槽で生産されており、調 理用の熱供給に直接利用されている。 バイオマス発電市場 およそ5GW のバイオマス発電設備が新規導入され、 全発電容量は2013年末に88GWに達した29。2013年に バイオマス発電は全世界の電力のうち約405TWhを発 電し、平均的な設備利用率は50%を超えるとされてい る30。バイオマス由来の発電量が最も大きいのは米国で あり、ドイツ、中国、ブラジルが続く。その他の上位国 として、インド、英国、イタリア、スウェーデンも挙げら れる31。 米国では2013年におよそ0.8GW のバイオマス発電容量 が追加導入され、全発電容量は年末に15.8GWに達し た32。バイオマスの正味発電量は、2012年と比べて3.9% 増加し、60TWhまで増加した33。固形バイオマスは総 燃料の3分の2を占め、残りは埋立地ガス(16%)や、 有機バイオガス発酵槽(12%) 、その他の廃棄物(6%) となっている34。 i 都市固形廃棄物は、有機廃棄物だけでなくプラスチックなどの無機物も含み、前者のみが再生可能である。このレポートでは可能な限り有機廃棄物のみが引用されているが、か ならずしもすべてのデータが、このグリーンな都市固形廃棄物と無機物を区別しているわけではない。 ii バイオメタンはバイオガスから二酸化炭素や硫化水素を取り除いたものである。バイオメタンは天然ガスのパイプラインに注入可能で、車の燃料としても用いられる。 ─ 27 ─ 第2章 はない。 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 南米では、ブラジルがバイオマス発電容量を、10.8GW から11.4GWに10%増加させた。バガス(サトウキビの絞 りかす)から発電した電気は国内の電気供給のおよそ7% に当たり、2012年の6.7%から増加した。黒液のシェアは 1%以下だったものが、1.1%以上となった35。 EUでは、2013年の発電容量の増加により、全発電容 量は34.5GWに達した36。バイオマス発電は、すべての 新規発電容量の5%に達した37。バイオマスから発電され た電力は、2012年と比較して7.9%増加し79TWhに達し た38。 ドイツのバイオマス発電容量は、0.5GW 以上増加して年 末までに8GWを超えた39。バイオマス発電は、7%増加 して48TWhに達し、2013年にはドイツの総電力供給量 の8%にまでおよんだ40。スウェーデンは、バイオマス発電 から10%近くを発電し続けていて、その大半は固形バイ オマス由来である41。 世界的に取引されている木質ペレットのほとんどは、電 気供給に使われている。EUにおいては、住宅用の暖 房がペレットの需要量の最大の割合を占める一方、電 気供給のための輸入木質ペレットの需要も拡大しつつあ る42。ますます増加するこの需要を満たすために、EU は2013年に640万トンものペレットを輸入し、その75%は 北米からであった(2012年を通じて55%の増加) 。残りは、 ロシアや東欧から来ている43 (表 R3を参照) 。 発電のためのバイオガス利用も欧州で急速に拡大して いる。2012年の終わりまでに、総発電容量7.5GW の1 万3800基を超えるバイオガス発電プラント(前年比でお よそ1400基増加)が稼働中である44。ドイツでは特に 2009年から2011年にかけて著しい成長が見られ、いま だなお市場を独占している45。しかしながら、生産能力 は拡大している一方、自然エネルギー法の改正に伴い、 ドイツの年間増加率は減少している46。スウェーデンも、 ガス化燃料を使ったバイオ発電の割合を増加させてい る47。 中国ではここ数年間にわたってバイオマス発電容量が急 速に増加してきたが、最近適切なバイオマスの供給が限 られてきたことにより、成長が伸び悩んでいる48。2013年 の終わりには、バイオマス発 電 容 量は6.2GW に達し (2.3GW の廃棄物発電を除く) 、農業や森林バイオマス の直接燃焼がその大半を占める。その割合は、1.7GW のバガス、1.2GWの下水汚泥やバイオマス由来のガス、 0.3GWの大規模バイオガスやその他となっている49。 インドもまた、2013年の上位国であり、0.4GW のバイオ マス発電設備を新設した。これらの大半はバガスを用 いたコジェネレーションであり、総設備量は年末までに 4.4GWに達した50。しかしながら、2013年のインドの追 加容量は、2012年の増加分と比べて40%低いもので、 目標値よりも10%低かった51。 アジアの他の地域では、新しい固定価格買取制度の下 で日本が0.1GWを追加し、総発電容量は2013年末時 点で3.4GWに達した52。タイでは、バイオガスを含むバイ オマス由来の電気は、ここ20年で急速に増加しており、 現在建設中の新規分と合わせて、発電容量の拡大は 続いていくとされている53。2013年には、Samut Sakhon において、殻、皮や葉などのココナッツの不要な部分を 燃料とする9.5MW のプラント建設の契約が締結され、 魅力的なバイオマスの固定価格買取制度の下で、この 電気は一般の系統に接続される予定である54。 バイオマス発電の需要を刺激しているのは、停止中の 旧式石炭火力発電所を改築し、100%バイオマスの発 電所に改造する動きである。この動きは、米国をはじめ とする国々で広まっている55。しかしながら、イギリスでは、 規制改革や政策の枠組みの変化によって、エネルギー 会社であるE.ON は既存の石炭発電所をバイオマスエ ネルギー発電所に転換する計画を停止せざるを得なくなっ たという事例もある56。 化石燃料発電所を改築して、固形バイオマスやバイオ ガス、埋立地ガスを含む混合燃焼を可能にする取り組 みもますます加速している。2013年までに、米国、欧 州だけでなくアジアにおいても、230基におよぶ既存の 商用石炭火力発電所や天然ガス火力発電所、コジェネ レーション発電所が改修された57。日本では住友大阪セ メント、日本製紙、出光興産が日本のバイオマスの固定 価格買取制度を利用して石炭への依存度を弱めるた め、木質チップやその他のバイオマス供給原料を代用 し始めた58。さらなる発展には制約があるものの、たとえ ばバイオマスの割合を増やしながら発電量を削減するな どの現実的な運営が可能で、これまでの限界を超えら れるということが広く認識された59。 輸送バイオ燃料市場 バイオ燃料の消費量と生産量は、2012年のわずかな減 少の後、2013年に7%増加して1166億リットルとなった 60 (図6参照) 。世界のエタノール量は5%増加して872億リッ トルに達し、バイオディーゼルの生産量は11%以上増加 して263億リットルに達したi。水素化植物油(HVO)は 低い水準からではあるが、増加し続けている。 北米は依然として、エタノールの主要な生産地・消費 地であり、ラテンアメリカが後に続く。またしても欧州が バイオディーゼルを最も生産し消費した地域であった。 アジアでは、エタノールとバイオディーゼルの生産が急 速に増加している61。たとえば、タイではバイオ燃料の 急速な拡大が続いており(エタノールとバイオディーゼ ル共に)、2013年に約30%増 加している(2012年は 28%の増加)62。この成長は主に自然エネルギー開発 計画によるものである63 (表 R4を参照)。 i バイオディーゼルは脂肪酸メチルエステル(FAME)を指し、水素化植物油(HVO、 ‘再生可能ディーゼル’としても知られる)のデータとは分けて示されている。HVO は、 ‘ドロッ プイン’バイオ燃料であり、廃棄された油や脂肪、植物油から生成される。HVO は、 FAME ディーゼルとは別の市場を持ち、 飛行機の燃料ともなりうる。HVO は FAME より容易にディー ゼルや飛行機の燃料と混合し、加工にかかる費用が少なくて済む。また、HVO は、既存のディーゼルインフラとも互換性があり、亜酸化窒素の排出量を減らし、供給原料として の柔軟性も非常に高い。 ─ 28 ─ 世界のエタノール市場を支配しているのは米国とブラジルで あり、両国は依然として他国を引き離しており、全世界の生 産量の87%を占めた64。2013年の米国のエタノール生産量 はおよそ500億リットルであり、2012年の生産量に近かった。 そして、これらのほとんどはトウモロコシを供給原料としてい る65。エタノールは米国の輸送用ガソリンの需要量の10%に 取って代わった66。それに加えて、24億リットル(6億3000 万ガロン)近くを主にカナダ(54%)やフィリピン(9%)に 輸出した。アラブ首長国連邦、ブラジル、メキシコ、ペルー もまた米国のエタノールの主要市場であった67。トウモロコシ 油や家畜の飼料などのエタノール生産の副産物への需要も 大きい68。 ブラジルは2013年にサトウキビエタノールの生産量を18%(42 億リットル)増加させ、およそ255億リットルに達した69。ラテ ンアメリカの他の地域やアルゼンチンでは、大規模トウモロコ シエタノール工場を新設しエタノールの生産量をほぼ倍増さ せて約5億リットルに達した。この拡大をもたらしているのは、 アルゼンチンの5%のバイオ燃料混合義務である70。その他、 エタノールの重要な生産国は、中国(20億リットル)や、カ ナダ(18億リットル)である71。 欧州は長い間、バイオディーゼルを最も生産している地域で あり、2013年に105億リットルの 脂 肪 酸メチルエステル (FAME)や18億リットルの水素化植物油(HVO)の生産 を行っている72。しかし、世界に占める割合(約42%)は、 近年変わらないままである73。 それに対して、米国のFAMEとHVOのバイオディーゼルの 生産は過去数年にわたって急速に増加し、2013年の世界 総計の17%を占めた(2012年は14.5%)74。生産量は、3分 の1増加し、およそ51億リットルに達し、米国は再び世界最 大の生産国に返り咲いた75。米国の生産量は、連邦政府の 再生可能燃料基準(EPA)の下で、2013年にディーゼル 燃料市場で48億リットル(12.8億ガロン)を取引することを要 求する環境保護庁(EPA)の目標値をすでに超えた76。 米国に続くのは、ドイツとブラジルであり、バイオディーゼル の生産をそれぞれ約16%と5%ずつ伸ばして、31億リットルと 29億リットルに達した。アルゼンチンは4番目に生産量が多い 国で、約23億リットルを生産した77。しかし、アルゼンチンの 生産量は、アルゼンチンと米国からの輸入品に欧州委員会 が課したダンピング防止義務のせいで、2012年と比べると 10%ほど減少している78。 中国のバイオディーゼルへの需要を高めているのは、税制上・ 貿易上の優遇措置である。中国は、2億リットルにも満たな い国内市場の年間生産量を19億リットルの輸入燃料で補っ ている79。これらの輸入燃料によって、原油精製所が市場 占有率を大幅に減少させたため、その対応策として石油系 ディーゼルの輸出量を増大させた。それによって、中国は 2014年1月1日より輸入バイオディーゼルに消費税を課すこと になった80。 認定や持続可能性の要求が高まり、国際バイオディーゼル 取引に大きく影響した。たとえば、EU のバイオディーゼル 生産者は、低い輸入税や供給原料の柔軟性を活かして、 バイオディーゼルから植物油や使用済み調理油、動物の脂 肪へと重点的な輸入品を移行した81。2013年にオランダで は、パーム油や認可を与えられたその他の植物油の輸入 量が増えた。これらの多くはオランダの港沿いに並ぶ工場 でHVOに加工され、その後、欧州の他の地域に再分配さ れた82。世界的には2013年を通じてHVO の生産は16%増 加し、そのほとんどが欧州(18億リットル)であり、シンガポー ル(9億リットル)と米国(3億リットル)が続く83。 図6:エタノール、バイオディーゼル、HVOの世界生産量(2000年∼2013年) 世界合計 10 億リットル 120 100 1165億リットル 出典: 本章の 巻末注60を参照 水素化バイオディーゼル燃料(HVO) バイオディーゼル エタノール 第2章 80 60 40 20 0 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2013 ─ 29 ─ 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 2013年、バイオマス燃料生産の増加にも関わらず、多くの 市場は困難に直面した。これらの困難には、持続可能性 に対する不安、車両効率の向上に伴う輸送用燃料の需要 低下や電気や天然ガスを動力とする車への関心の高まりな どがある84。その結果として、各国で市場は停滞した85。例 えば、オーストラリアではバイオ燃料は2013年の輸送用燃料 シェアの0.6%を占めたが、生産奨励のための政府の支援 の拡大やニューサウスウェールズ州のバイオ燃料義務化にも 関わらず、大きな関心を集めるには至っていない86。 バイオメタンの輸送用燃料利用もまた増加している。スウェー デンでは、12以上の市で、バスの全車両が完全にバイオメ タンを動力としており、地域のプラントが、スウェーデンの天 然ガス車に使われているバイオメタンの総量の60%以上を 生産している。さらに給油施設が2012年と2013年に新設さ れた87。ノルウェーではCambi AS 社が、バイオメタンを液 状化して地域のバスへ燃料を供給した88。 ■バイオエネルギー産業 バイオマスエネルギー産業は、原料の供給業と加工業から 構成される。具体的に言えば、バイオマスを最終消費者に 提供する会社、バイオマスの収穫、管理、保管用の機器 の専門的供給業者や製造業者、電化製品やバイオマスを 便利なエネルギー担体やエネルギーサービスに変換するハー ドウェア機器の製造業者などである。サプライチェーンの中 には、バイオマスに特化していない技術もある(たとえば、 飼料作物や木の伐採、トラック、蒸気ボイラーなど)。 とくに欧州と米国で見られる持続可能性に関する懸念の拡 大により、政府はバイオマスエネルギーの新しいガイドライン や規制を打ち出すに至った。産業界は、数多くのイニシアティ ブを採用することにより対応した。部門別では持続可能なバ イオマスパートナーシップを通じ電力、熱の供給(欧州の固 形バイオマスなど) 、供給原料別では持続可能なパーム油 のための円卓会議の開催、燃料別では再生可能燃料協会 などである89。多くのバイオマスエネルギー会社は自主的に 持続可能性認定のためのスキームに参画し、供給原料の 加工と供給のために最良管理実践(BMP)を行うことで、 関連するコストをオペレーションに吸収している。いくつかの 発展途上国における産業界も、バイオマスの多様性保全に 力を入れる規制や、貧困、土地の保有期間や食の安全や 社会的公平性に影響を与える規制に直面している90。加え て、企業の社会的責任(CSR)の中には社会的プログラ ムが含まれている91。 これまで産業は、化学薬品や動物の餌など、バイオマス供 給原料の副産物も作り出してきた。「バイオリファイナリー」 と呼ばれるこの手法は、価値を最大化し収益率を高める一 方、温室効果ガスを削減する。米国の「バイオリファイナ リー」産業は、着実に拡大しており、2013年には多様なエ タノールの副産物を生産する211か所の施設があり、165か 所が拡大または建設中である92。バイオリファイナリー業者 は多くの国に存在し、サトウキビプラントの砂糖を再生可能 な材料に転換するAmyris 社(ブラジル)もある。その再 生可能な材料には、ファルネセン(とりわけ調味料として使 われる) 、パチョリ(香料に使われる) 、再生可能なディー ゼルや飛行機燃料などがある93。 固形バイオマス産業 2013年を通じて、多くの会社が、主に木質チップやペレット などの固形バイオマスを熱や電気に変換する機器や、バイ オマスエネルギープラントの供給に参入した。米国、欧州、 アジアやその他の地域の企業は、熱プラントと発電プラント の新規建設を急いだ 94。 図7.世界の木質ペレットの国別、地域別生産量(2000年∼2013年) 100 万トン 世界合計 出典:本章の 25 巻末注60 を参照 2360万トン 世界のその他地域 20 アジアのその他地域 中国 ロシア 米国とカナダ 15 EU27か国 (EU‐27) 10 5 0 2004 2005 2006 2007 2008 ─ 30 ─ 2009 2010 2011 2012 2013 とりわけ、林業や製糖業ではコージェネレーションプラントは 主にオンサイトで加工用の熱を供給するために利用され、 電気の余剰分は収入源としてオフサイトで売電される。世 界の廃棄物発電プラントは、埋立地ガスプラントと相まって、 2012年に120億ドルの収益をもたらし、今後3〜4年にわたっ て、収益は約30%上昇すると予測されている95。 世界におけるペレット生産は2013年に2360万トンに達し、 2012年の生産量よりおよそ13%増加した(図7を参照)96。 EU は世界の総生産量のおよそ半数を占め、北米(33%) が後に続く97。カナダや米国の企業は、欧州の需要に追 いつくため、 新 規 ペレット生 産 設 備の建 設を急いだ。 2013年のカナダと米国の出荷量は2012年を50%ほど上回 り、2011年のおよそ2倍になり、価値は6億5000万ドル以 上に達した98、低温炭化ペレットの生産量は年間20万トン を下回ったままであった99。 ガス化バイオマス産業 2013年、世界的に農場やコミュニティ規模のバイオガスプラ ントの建設と導入が進み、廃水処理場からくるものを含むバ イオマス廃棄物(下水汚泥や生ゴミ等)を処理している。 また2013年は、バイオガス、汚水ガスや埋立地ガスなどを、 より高品質のバイオメタンに改良するさらなる努力も続いてい る。それらのバイオメタンは車の燃料に使われたり、天然ガ ス供給網へ接続されたりする。食品産業や繊維産業には、 自社の廃棄物からエネルギーを生み出す革新的な方法をつ ねに探している企業が多い。 バイオガスの生産は多くの国々で急速に増加しているが、 実際のバイオガス供給量は明確にはなっていない104。イギ リスではバイオガスを供給しているプラントの数は2011年の 54基から2012年の112基へと増加し、2013年にはバイオメ タンをガス供給網に接続する同国初のプラントが操業を始 めた105。2014年の初めにはさらに200基のプラントの建設 計画が同意されており、EU 指令を満たすために埋立地 からの有機廃棄物を転換する政策が拡大を後押ししてい る106。欧州の他の地域では、政策の変化が急速な拡大を 引き起こしている107。たとえばイタリアでは、高い固定価格 買取制度や小規模プラント中心の援助のおかげで、稼働 中のバイオガスプラントの数が一年以内に521基から1264 基に増加した108。またチェコ共和国やスロバキアでも、工 場の数が著しく増加した109。米国では、バイオガスの製造 工場が2200か所を超えている110。 この産業は、ラテンアメリカなど他の地域でも盛んであった。 ブラジルは25基のバイオガス製造工場が稼働中で、2013年 に全生産能力は84MWにおよび、さらなる建設が予定され ていた111。チリやコロンビアの企業は、農作物の廃棄物か らバイオガスを生成して発電し、その一部を系統に接続し ている112。 コンサルタントのSLR 社(イギリス)などいくつかの企業が、 新規埋立地ガス施設をアフリカやその他の地域に設立して いる。しかしながら、廃棄物の構成や不適切な管理のため にガスの潜在的な利用可能性は限られており、埋立地はガ ス生産に向かない場所となっている113。 近年の技術革新のおかげで、企業は乾燥した原料の消化 を通じてガス化燃料を生産することができ、Schmack 社の 前処理工程を通じた加水分解装置もしくは、Bioferm 社の 特別発酵工程のどちらかが採用されている114。Göteborg Energi 社(スウェーデン)は20MW の発電設備の建設を 完了した。この設備は、森林残さを燃やし、水素や一酸 化炭素から成る合成ガスをバイオメタンに転換する115。この 新しいアプローチは65%の変換効率で固形バイオマスから ガス供給網に適したメタンガスへと転換することを目指して いる。余剰の熱は地域熱供給スキームで利用され、変換 効率は90%に達する116。 液体バイオ燃料産業 バイオ燃料生産能力への投資は2013年も減少し続けてお り、2007年の293億ドルから2013年には49億ドルまで落ちこ んだ117。生産量と消費量の増加にもかかわらず、バイオ燃 料は総輸送燃料需要の2.3%を満たすにとどまった118。しか し、2013年にはいくつかの新規建設工場が稼働し始め、 航空産業が先進的バイオ燃料の利用と発展に引き続き興 味を示した。 ─ 31 ─ 第2章 固形バイオマスの国際取引の増加に伴って、 数多くの港 が管理施設を改良し、競争力を保とうとしている100。たと えば、アムステルダム港は、2014年の初めに、1億3800万 ドル(1億ユーロ)をバイオマス管理貯蔵設備に投資した。 この港では2013年に10万トンものペレットと木質チップが扱 われ、今後も急速に増加すると予測されている。専用の バイオマス貯蔵設備建設のため、さらなる投資が計画され ている101。Cargill 社(米国) や CWT Europe 社(オラ ンダ)などの輸入業者は自分たちの将来のビジネスに力を 注ぐ前に、港の開 発を注 視している102。2013 年 に は、 Korea Southern Power 社(韓国)や他の韓国系エネ ルギー企業(GS 社、LG 社、Samsung 社を含む)はオー ストラリア、カナダ、インドネシア、マレーシア、米国、タイ、 ベトナムおよび他地域の供給業者からペレットを輸入する 機会を探していた103。 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 2013年には、米国の28の州に210の燃料エタノール工場が あり、公称生産能力は560億リットル(149億ガロン)におよ んだ。そのうち192か所が稼働中で、530億リットルが生産 容量である。2014年の初めには、新しく7か所の工場が建 設中または拡大中である119。EUは米国のトウモロコシエタノー ルに対する反補助金制度を1年間延長したが、安価なトウ モロコシの価格が原因で、米国の生産者は高い収入を確 保した(2012年は干ばつで価格が高騰した) 。しかしながら、 2014年の初めまでに米国の生産者は、連邦の混合燃料義 務化が削減され、将来、先進的バイオ燃料の優遇措置の 撤廃を懸念していた120。 ブラジルでは、生産者に払われるエタノールの価格は、石 油価格の高騰とサトウキビ産出量と砂糖価格の季節変動を 理由に、2013年の1月から12月の間で15%増加した121。ブ ラジルは367基の登録済みのサトウキビエタノール工場が稼 働中で、追加でバイオ燃料製造工場の建設が計画されて いる122。たとえば2013年後半や2014年初頭には、POET 社 (米国)がブラジルのマットグロッソ・ド・スル州に建設予定 である年間5000万リットルの生産能力を持つトウモロコシエタ ノール工場の詳細をまとめあげた123。しかしながら、この会 社はトウモロコシエタノールの生産の拡大に対する人々の不 安や、物価・地域環境への影響といった問題に直面してい る。この市はすでに稼働中の2か所の柔軟な対応能力を持 つエタノール工場を所有していた(サトウキビとトウモロコシ を供給原料とする)124。 アルゼンチンでは Promaíz S.A. 社が1億3000万リットルの 生産能力をもつ工場で生産を開始した。これはトウモロコシ を供給原料とする国内最大のエタノール工場である。継続 的な発酵工程を組み入れたこの工場は、アルゼンチンのE5 (エタノール5%混合義務)を満たすためにバイオ燃料を供 給する125。 2013年米国におけるバイオディーゼル生産者の数は115に 達し、総生産能力は85億リットルにおよんだ。2011年に米 国のバイオディーゼル生産者に対する連邦の税控除がなくなっ た後、生産の余地は削減された。原料の半分を占める大 豆の価格が予想されたほど下落しなかったことを受けて、 産業は2013年も苦戦した126。 ブラジルでは、エタノール価格の高騰に反して、バイオディー ゼルの競合価格が2012年に比べて12.7%下落した。これは 主に、大豆の高い生産水準と、世界的にみて高い植物油 の供給力によるところが大きかった。結果として、60%のバ イオディーゼルの生産能力は2013年も使われていないままで ある127。 世界のその他の地域では、トウモロコシやサトウキビを供給 原料としない新しい加工工場が稼働し始めた。たとえば、 Manildra 社(年間3億リットル)は、オーストラリアのニュー サウスウェールズ州における唯一の燃料エタノール生産者で ある。この会社は小麦のデンプンからエタノールを生産する ために政府からの補助金を受けている。オーストラリアの工 場で使われているその他の供 給 原 料には、赤モロコシ (United Petroleum 社)や糖蜜(Wilmar Bioethanol 工 場)などがある128。サハラ以南のアフリカでは、伝統的にビー ルやキャッサバ粉のために育てられてきたキャッサバが、バ イオ燃料の供給原料として人気を集めている。たとえば、 Sunbird Bioenergy Africa 社はChina New Energy 社 と組んで、ナイジェリアに2400万ドル相当のキャッサバを中心 にしたエタノール工場(年間1億1000万リットル)を設立した。 同様の10工場のなかで、1番の生産量であると予想されて いる129。 非食料資源を供給原料としている先進的バイオ燃料は、 2013年に営利的にも利用可能になった。北米では、Gevo 社と KiOR 社が所有している米国の工場は、遂に最初のバッ チを生産し、市場に販売した130。Enerkem 社はアルバータ 州のエドモントンにあるバイオメタノールを年間3800万リットル 生産する工場に都市固形廃棄物(MSW)を供給原料とす るよう指示した131。2014年の初めまでには、米国の20の州で セルロースバイオ燃料生産設備が開発中であった132。欧州 では、Novozymes 社やBeta Renewables 社が新しく商業 用工場をイタリアに建設し、10月の試運転開始時点で世界 最大となる先進的バイオ燃料設備であった。その工場は、 小麦や米の藁、そしてダンチク(耕作限界地で育てられる 高い生産力を誇るエネルギー作物)からエタノールを生産す る133。商業規模の工場は中国でも建設されている134。 2013年の先進的バイオ燃料実証プラントの発展の一つとし ては、REP 社(ブラジル)にリグノセルロースをエタノール に転換する技術の使用権を与えている酵素やバイオ燃料を 扱うlogen 社(カナダ)がある。REP 社は、1億ドルの新 設工場で年間4000リットルのエタノールを生産するとされて いる135。Lanzatech 社(ニュージーランド)は、製鋼所の 排ガスや化学工場、ガス化バイオマスに由来する一酸化炭 素をドロップイン炭化水素バイオ燃料や炭化水素化学物質 に変換するために、水素を発生する微生物を利用しており、 中国市場に参入している136。加えて、BTG BV 社の子会 社であるEmpryo BV 社は、年間2000万リットルのバイオオ イルを生産する能力があり、オランダに熱分解装置の建設 を始めた。ドイツのシュトラウビングにあるClarion 社のセルロー ス実証プラントは、小麦の藁を発酵させてエタノールを生成 ─ 32 ─ 航空産業は、ますます増加する先進的バイオ燃料(藻類 由来のものを含む)を引き続き注視している。この産業の 関心は、石油燃料への依存度の高さや長期的な供給が不 透明であること、他にふさわしい燃料の代替品がないことな どに起因する138。2013年、米国のボーイング社は、市場競 争力のある価格で飛行機の燃料需要の1%(年間約60億リッ トル)を供給するのに十分なバイオ燃料の生産能力がある と断言した139。中国で石油の精製をしているSinopecグルー プは、 ‘No.1航空バイオ燃料’ (中国民用航空局(CACC) が民間ジェット機での使用を公認した燃料のことを指す)を 市場で売る権利を得た140。 地 熱 発 電 ■地熱発電市場 地熱エネルギー資源は、電気や直接熱利用といった形でエ i なっ ネルギーを供給し、2013年には推計600PJ(167TWh)と 1 た 。地熱発電は最終的な地熱総生産量の半分弱と推計さ れており(76TWh) 、残りの91TWh(328PJ)は直接利 用であるii。いくつかの地熱発電所は、多様な熱利用のた めに電力と熱のどちらもを生産している。 2013年には少なくとも530MW の新規地熱発電容量が導入 され、世界における総発電容量は12GWに達し、年間推 計76TWhを発電している2。既存の設備の交換に関して は、世界の総発電容量の正味増加分は少なくとも465MW であった。およそ4%の累計生産能力のこの増加分と比べ て、過去2年間(2010〜2012年)の年間平均成長率は3% である3。 2013年に生産能力を増大させたのはニュージーランド、トル コ、米国、ケニア、メキシコ、フィリピン、ドイツ、イタリア、 オーストラリア(図8を参照)であった4。2013年の終わりには、 地熱発電容量の最も大きな国々は、米国(3.4GW) 、フィリ ピン(1.9GW) 、インドネシア(1.3GW) 、メキシコ(1GW) 、 イタリア(0.9GW) 、ニュージーランド(0.9GW) 、アイスラン ド(0.7GW) 、日本(0.5GW)であった(図9を参照)5。 2013年、ニュージーランドは241MW の新規地熱発電容量 を導入した。正味増加分は196MW で、総発電容量は 30%増加し、0.9GWに至った。Te Mihi 発電所(159MW) が2013年に新設されたが、ポンプのトラブルにより、完全運 転は2014年に遅らされた6。Te Mihi 発電所は最終的に 1958年に建設されたWairakei 発電所に代わり、より高い 発電効率かつより小さい環境負荷で稼働している7。現在の ところ、約114MW の正味発電容量増加分がある8。2013 年の後半には、ニュージーランドは82MWのNgatamariki 発電所を導入した9。報道によれば、世界最大のバイナリー 発電容量iiiを持つNgatamarikiは、使用済みの地熱流体 を熱源にそのまま戻すことができ、それゆえ、排出物と環境 負荷を最小限にしている10。 2013年トルコは、少なくとも112MWの地熱発電容量を追加 し、総量は少なくとも275MWに至った11。最も注目に値する のは、Denizliで60MWのトリプルフラッシュサイクル方式を 導入したことである12。2013年にトルコで見られたその他の 発電容量は小規模バイナリー方式で構成されていた13。近 い将来、トルコは重要な市場になると期待されており、年末 には認可待ちや建設中の追加発電容量は300MWを超え る14。 2013年、米国では84MW の地熱発電容量が追加され、 総発電容量は3.4GWに達した。これは全世界で稼働中の 発電容量の29%近くに当たる。2013年に新設された大規模 な発電所は、ユタ州のコーブ・フォートにあるEnel Green Power 社の25MWのバイナリー発電所である15。比較的小 さな規模であるが、2013年に完成した米国で最も重要な意 味をもつプロジェクトは、ネバダ州でのDesert Peak 2(1.7 MW)である。これは米国で初めて商用化された系統連 系型の強化地熱発電システム(EGS)である(EGSにつ いては後述)16。Desert Peak 2は、既存の地熱地帯に 位置しており、全体の生産性を向上させる役割をもつ17。ネ バダ州には、比較的低温の地熱から費用効率が高い発電 をしている注目のDon A. Campbell 発電所(16MW)や 30MW 規模の Patua 地熱発電所などがある18。加えて、 2013年に米国の2か所の発電所で12MW 分の改修、リパ ワリングが行われた19。 ケニアは、最も急速に地熱発電市場を拡大してきた国の一 つである。2013年、Olkaria III 地 熱 発 電 複 合 施 設で 36MWの発電容量を追加した。Olkaria IIIには2014年に 新たに16MW が追加され、総発電容量が110MWに達し た20。2014年初めの段階で、ケニアでは280MW 相当の地 熱発電容量が建設中である21。 メキシコは2基の25MWの発電設備の2つ目のプロジェクトで あるLos Humeros IIの建設を終え、既存の15MWの発 電容量を置き換えた22。メキシコではエネルギー法改正が進 行中で、民間部門がますます地熱開発に参入すると予想さ れている23。 2013年には、フィリピンも20MWのMaibarara 地熱発電所 の稼働を開始した24。2013年の終わりには、地熱発電所の 総計は1.9GWとなり、米国に続く2位であった。2014年には さらに40MW が追加される予定である25。ケニア、メキシコ、 フィリピンの3つの新規発電所は、すべて国連のクリーン開 発メカニズム(CDM)のプロジェクトであり、それゆえ温室 効果ガスを削減する効果があるとみなされている26。 i 総量には、地熱ヒートポンプは含まれていない。 直接利用の推計量は、不完全で相反するデータのために誤差が大きい。 バイナリー発電所では、地熱流体が、別の作動流体を加熱して蒸発させ、タービンを回転させることにより発電する。それぞれの流体のサイクルは閉じており、地熱流体は熱 源に戻すことができる。これまでの地熱発電所では作動流体は水であった。有機ランキンサイクル(ORC)バイナリー発電所は、水より低い沸点をもつ有機流体を用いて、比較 的低温の地熱帯から効率的で効果的に熱を回収し発電する。カリーナサイクル発電は、バイナリー発電を実行するための別形態である。(次の例参照 : Ormat“Binary Geothermal Power Plant”http://www.ormat.com/solutions/Geothermal_Binary_Plant や U.S. Department of Energy, Geothermal Technologies Office,“Electricity Generation,”http:// www1.eere.energy.gov/geothermal/powerplants.html.) ii iii ─ 33 ─ 第2章 させ、それをHaltermann 社(ドイツ)が古くから生産して いる燃料添加材と混ぜ合わせ、E20(20% のエタノール混 合義務)に相当する革新的な燃料を生産する137。 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 2013年中に欧州では比較的小規模な発電所もいくつか生 まれてきている。南ドイツはバイナリー発電所の開発に熱心 であり、2012年の終わりから2013年の初めにかけて2基の 6MWクラスの発電設備が完成した27。加えて、ドイツでは コージェネレーション機能を持つ Sauerlach バイナリー発電 所(5MW/4MWth)が新設され、電気供給とともに熱供 給も行っている28。イタリアでは、Monte Amiata(トスカー ナ州)の火山帯に1MW のバイナリー発電所が導入され た29。欧州では低温バイナリー方式よりも、従来のドライス チーム方式やフラッシュサイクル方式が多い一方、バイナリー 発電は前途有望である30。 太陽光や風力など様々な自然エネルギー利用が増えていく につれて、地熱発電が持つ再生可能な調整力やエネルギー 貯蔵の可能性に期待が高まっている。カリフォルニア州のよ うに、とくに各資源間の調整を行うことへの必要性が高まっ 地熱発電 図8.地熱発電追加容量、国別割合 (2013年) ニュージーランド ケニア 42% 8% 出典: 本章の 巻末注4を 参照 フィリピン 5% その他の国 トルコ 米国 24% 18% メキシコ ドイツ イタリア 2% 1% 0.2% 図9.地熱発電設備容量および追加容量 上位10か国とその他地域(2013年) メガワット 3,500 + 84 出典: 本章の 巻末注5 を参照 2013 年追加 2012 年既存 3,000 2,500 + 20 2,000 1,500 +0 + 10 1,000 +1 + 196 +0 + 36 その他地域 + 112 ケニア 日本 ─ 34 ─ アイスランド ニュージーランド イタリア メキシコ インドネシア フィリピン 米国 0 +0 トルコ 500 +6 追加容量は リパワリング や運転終了を 考慮した正味 分である ていて、同時に地熱の利用可能性も高い場所において、 地熱発電が必要とされる柔軟性を備えて設計されうるという ことは注目すべきである31。 定16.4TWh)ii、アイスランド(2013年、7.8TWh) 、日本(2013 年、7.2TWh) 、ハンガリー(2012年、2.8TWh)となって いる41。 地熱の直接利用とは、熱利用のために主にヒートポンプを通 じて地熱を直接採取することであるi 32 (37ページの補足4 を参照)。地熱の直接利用の主な形態は、暖房(地域熱 供給ネットワークを含む)や、家庭内での温水利用、公衆 浴場やスイミングプールへの直接的ないしは間接的熱供給、 温室暖房や工業工程での熱供給、水産養殖や農業用乾 燥施設などである33。 2013年に新しく建設された地熱プラント中で特筆するべきも のは、ハンガリーのミシュコルツにおける地域熱供給プラント (60 〜70MWth)である42。このプロジェクトは当初の期待を上 回っており、100℃のお湯を毎秒70〜90リットル供給すること のできる欧州の中でも良質な低温の地熱井の一つと考えら れている43。イタリアでは、4月にEnel Green Power 社が 6MWthの地域熱供給システムを新規導入し、トスカーナ州 の地 方自治 体に熱を供 給した44。2014年 の 初 頭 には、 4MWthの生産能力を持つ地熱のコージェネレーションプラン トが、ドイツのSauerlachで導入された45。 地熱の直接利用は2013年も増加し続け、少なくとも欧州各 国で容量が増加した。全世界の地熱直接利用は280〜 375PJの範囲であり、中間の値は328PJ(91TWh)であっ た34。データに大きな開きがあるのは、地熱利用がきわめて 多い中国のデータにばらつきがあるからである35。地熱エネ ルギー直接利用のデータ収集は不足している36。 直接利用が盛んなのは、アイスランドのように豊富な地熱資 源と容易に満たされうる熱需要が一致していたり、日本、イ タリア、トルコのように温泉などで地熱が産業や伝統と合致 していたりするわずかな国においてのみである37。地熱直接 利用が多い国々は、中国(3.7GWth、2010年) 、トルコ (2.7GWth、2013年) 、アイスランド(2.2GWth、2013年) 、 日本(2.1GWth、2010年) 、イタリア(0.8GWth、2012年) 、 ハンガリー(0.7GWth、2012年)などである38。さらにこれ らの国々は世界の設備容量の約半数を占め、推定19〜 26GWthの範囲、平均22.6GWthである39。 ■地熱産業 2013年、地熱産業は政府の支援の下で技術革新に力を注 ぎ、資源へのアクセスの拡大や地熱採取の経済性向上を 図った。目的には、低温資源の地熱発電や地熱利用の拡 大を促す技術向上だけでなく、従来の地熱資源の利用効 率の向上も含まれる。それゆえ、高温地帯以外での地熱 エネルギー利用の改善が進められている。 2013年に特筆すべき産業の発展の中でも、オーストラリア初 第2章 中国は依然、推定ではあるが最も地熱エネルギーの直接 利用が多い国である。しかし、推定値は2009年の13TWh から2011年の45TWhまで幅があり、全世界の利用量の20 〜50%を占める40。その他の上位国はトルコ(2012年、推 近年、欧州ではありとあらゆる分野にわたって地熱エネルギー 直接利用の割合を向上させる努力がなされてきており、特 にこれまで注目されていなかった温泉やプールなどの温浴分 野でさかんである46。これらの調査では、多岐にわたる地 熱利用法が明らかになってきている。たとえば、地域熱供 給はハンガリー(19%) 、トルコ(30%) 、イタリア(10%) で比較的小さな割合しか占めていないが、フランス(81%) 、 アイスランド(80%)やドイツ(77%)では相当な割合を占 めている47。 i 直接利用はここでは、規模に関わらず深部地中熱資源を指し、特に地中熱ヒートポンプなど浅部地中熱資源とは異なる。さらに、熱水エネルギーは地表水で熱の形態として保存 されているエネルギーのことである。(参照 :Article 2(d)of European Council Directive 2009/28/EC. Heat pumps—whether geo-, hydro, or aerothermal および補足 4) ii 推計は 2012 年 と 2010 年の設備利用率に基づく。11TWh が温泉やプール関連であり、2010 年の設備利用割合は 100%と驚くほど高い。 ─ 35 ─ 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 のEGS 施設は、世界でも数少ない事例である。南オースト ラリアのクーパー盆地におけるGeodynamics 社(オーストラ リア)の Habanero 試験プラント(1MW)は、160日間の 初期試用に成功した。そこでの地熱井は4キロメートル以上 のびて高温花崗岩に達した48。イタリアでは Enel Green Power 社が、Monte AmiataにExergy 社のつくった業界 初の有機ランキンサイクルのタービンを有する1MWのバイナ リー発電所を建設した。これらは発電効率を高めるとされて いる49。この産業は、既存の施設の改修をすることも多い。 Ormat Industries(米国)社はカリフォルニア州の7.5MW の発電所を改修し、ユタ州の4MWの発電所のタービンのリ パワリングを行った50。 地熱産業は、それが発電であれ熱利用であれ、比較的少 ない数の企業から構成されており、それらの企業の取り組 むプロジェクトは、調査、掘削、エンジニアリング、デザイン、 建設、運転と多岐にわたる。地熱事業のほぼすべての段 階に関わるように垂直的に統合されている企業もある一方、 高 度に専 門 化した企 業もある51。 たとえば、Enel 社、 Ormat Industries 社や Chevron 社(米国)のように垂直 統合されたエネルギー企業がある52。高度に専門化した企 業は、特定の地熱プロジェクトの知識を持つMannvit 社や Verks 社(ともにアイスランド) 、Power Engineers(米国) だけでなく、Thermasource(米国)や Iceland Drilling 社(アイスランド)のようなドリル建設会社もある。 この業界での専門知識や専有技術を持っている会社もある。 たとえば、Ormat 社は、デザイン、エンジニアリング、バイ ナリー(ORC)発電所やその部品の製造に特化している。 2013年にニュージーランドに新設されたNgatamariki 発電 所はその一例である。その他には、イタリアの Turboden 社はバイナリータービン発電機に特化していて、たとえば 2013年にドイツのミュンヘン近郊に5.6MW の発電機を導入 した。また、Exergy 社はイタリアで新しいタービンのデザイ ンを採用した53。タービン発電機の部品を製造業者は産業 界の有力企業を当てにしている。その有力企業とは、三菱 重工や東芝、富士電機(これらはみなタービン市場の3分 の2を占める日本企業) 、Alstom 社(フランス) 、Ansaldo Energia 社(イタリア)や Siemens 社(ドイツ)など、汽 力発電(化石燃料や原子力など)や水力発電部門で活動 している54。 熱利用、発電ともに、地熱産業は技術的困難に直面し続 けている。従来の地熱発電、低温の地熱発電、EGSに共 通して改善が必要な分野は、地熱資源の調査・利用・維 持管理・監視などである55。これを受けて、産業界は掘削 や石油・ガス部門における他の技術などの技術革新を積極 的に応用している56。たとえばドイツのザウアーラッハ発電所 のように熱の需要量と地熱資源が一致する場所で、コージェ ネレーション発電所の発展は、プロジェクトの経済性向上に 役立つ57。 強化地熱発電システム(EGS)は技術革新の最先端であり、 大きな潜在的可能性を示す。この比較的新しい技術は米 国で始められたが、系統連系した初の EGSは、2008年に 建設された2MWのSoultz 発電所(フランス)であった58。 EGSは、岩の表面にヒビを入れ、水を浸透させることで熱 を取り出す効率を高め、自然に蒸気が発生する従来の地 熱発電と同じ状況を作る59。地球の限られた部分にしか存 在しない従来の地熱資源とは異なり、EGS が利用を試みる 深部の岩石にある熱は、より広範囲に存在し量も豊富であ るが、利用するのは非常に困難である。 EGSには大きな潜在性があるが、商用化するには未だ10 〜15年の時間が必要であり、莫大な技術的リスクを伴うので、 EGSを発展させるために必要な資金繰りは難題であるとさ れている60。今日の EGS 産業の優先事項は、持続的な地 熱の強化の技術がたえず進歩し続け、掘削費用が下がり 続けることである61。この産業は、EGS の大きな潜在性が 実現するように、EGSの発展に伴う副作用的なリスクを管理 し、削減できるようにするべきである62。 プロジェクトリスクは、地熱発電の非常に重要な観点である。 典型的な地熱発電所の建設には、開始から終了まで5〜7 年ほどかかる。発電所の建設の前に少なくとも5年間、調査・ 掘削の実験・現場開発が必要である63。開発者たちは、 初期費用や長期間にわたるリードタイムなど、莫大な資金リ スクだけでなく、初期調査からプラント運転に至るまで開発 の段階毎に必要とされる指標を満たすことができない、とい うリスクにも直面する64。 このリスクを管理するための緊急の目的は、より優れた包括 的で世界的な地熱資源評価の作成である65。一部のリスク を緩和するリスクコントロールファンド、保険ファンドやローン 保証などを作成した国はいくつかある。EUでは単一ファン ド設立への熱気も再び高まってきた66。米国のエネルギー省 は地熱部門へ的を絞った資金援助や、日本の石油天然ガ ス・金属鉱物資源機構は負債保証をするだけでなく、地熱 資源への直接投資や情報提供を行っている67。発展途上 国に代わって課題の解決するために、世界銀行が国際地 熱開発計画を策定し、運転段階の地熱プロジェクトではなく、 試用掘削への資金提供者と多国間の開発銀行の関心を集 めようとしている。この計画は5億ドルの初期費用の捻出を 目標としている68 水力発電 ■水力発電市場 2013年に新たに稼働した水力発電容量は推計40GWで、 世界全体の発電容量は約4% 増加し、およそ1000GWとな ったi 1。世界の水力発電量は水文学上の条件によって年ご とにばらつきがあるものの、2013年は推計3750TWhであっ た2。水力発電容量および発電力の上位国は、変わらず、 中国(260GW/905TWh)、 ブラジル (85.7GW/415TWh) 、 米国(78.4GW/269TWh)、カナダ (76.2GW/388TWh)ii、 ロシア(46.7GW/174.7TWh)、インド(43.7GW/ 推計143 TWh) 、ノルウェー(29.3GW/129TWh)であり、これらの 国が世界の設備容量の62%を占めた(図10および表 R6を i GSR2013 では、2012 年末の世界の水力発電容量の総計は 990GW と報告しているが、この数値は 30GW 下方修正された。さらなる情報については、方法論に関する注釈(139 ページ)および本章の文末脚注を参照。とくに言及がない場合、すべての発電容量の数値は可能な限り純揚水発電容量を除いている。 ii カナダの総発電容量は米国よりわずかに低いものの、ベースロードに対応しているカナダの水力発電の発電量は、より負荷追従型である米国の水力発電の発電量を上回っている。 ─ 36 ─ ヒートポンプは、地中・大気・水塊(湖、川や海など) などから、家庭・商業・工業利用のために冷暖房や 温水を供給するi。ヒートポンプは、たとえば工業工 程や汚水、建物から廃熱を効率的に使うために用い られることもある。ヒートポンプのエネルギー量は、 少なくとも部分的に最終エネルギーとしては再生可 能である。 文字通りヒートポンプは、電気または熱エネルギー の外部エネルギーを動力とする冷凍サイクルを通じ て、一地点から別地点へ熱を送り込む。ヒートポン プの効率性と外部条件に応じて、ヒートポンプを作 動させるよりも、かなり大きな量のエネルギーを運 ぶことが可能である。最新の電気ヒートポンプの典 型的な投入産出比率は4:1であり、これが意味するの は、ヒートポンプは消費する1単位のエネルギーに 対して最終エネルギー 4単位を供給するということ である。これはまた成績係数(COP)が4であると も言い換えられる。エネルギーの増加分はヒートポ ンプの放出量の再生可能な部分と見なされている。 季節成績係数が4で動くヒートポンプは、最終エネ ルギー量に基づくと再生可能な部分は少なくとも 75%(4単位のうち3)である。しかし、一次エネルギー の再生可能な部分は大幅に低くなりうるii。ヒートポ ンプによって供給される全エネルギー量は、ヒート ポンプの効率性や運転条件だけでなく、ヒートポン プを作動させるエネルギーの構成にも左右される。 さらに、電気を動力としたヒートポンプでは、全体 の効率性と再生可能分の割合は発電効率と電気の一 次エネルギーの種類(再生可能、化石燃料、原子力 など)に依存している。もし、エネルギー資源が 100%再生可能なら、ヒートポンプの供給するもの もすべて再生可能である。 ヒートポンプの世界市場のデータ、生産能力や出力 はすべてばらばらで限定的である。GSRの最新版は、 2010年の包括的な調査データに基づき、地中熱ヒー トポンプの導入量と出力を推計している。2013年に 欧州でそのような調査が改訂されたが、他の地域で はまだまとまっていない、空気熱源もしくは水熱源 のヒートポンプは、欧州を除き、その生産能力や出 力はあまり知られていない。 欧州のヒートポンプ市場は2008年以降安定して成長 していたが、その後停滞しはじめ、2011年から2012 年までは全体的に縮小した。2012年、欧州では75万 台が売れ、ほとんどが空気熱源のヒートポンプであ る(86%)。新規建築物での用途としては、地中熱ヒー トポンプから効率性と経済性が向上した空気熱源 ヒートポンプへの移行が進行中である。新規建築物 の効率性が増加するにつれ、地中熱ヒートポンプの 経済性は大規模な建物にとって魅力的なものとなっ たが、一般家庭における導入は限定的である。全体 的には、ヒートポンプは欧州の暖房設備導入量の 15%と、比較的安定した割合を占めている。 ヒートポンプに関する最も重要なトレンドは、複数 のエネルギー資源をまとめるハイブリッドシステム 利用への移行である(たとえば、太陽熱かバイオマ スとヒートポンプ)。また、工業工程や地域熱供給 供給のための大規模ヒートポンプにもますます関心 が集められている。たとえば、デンマークは地域熱 供給供給を目指してヒートポンプの利用を進めてお り、12.5MWの最新の設備はセナボー市に2013年に 導入された。ノルウェーではドランメン市にStar Refrigeration社(イギリス)が、地域熱供給供給の ために海水を利用する14MWの熱水ヒートポンプシ ステムを導入した。 2009年、欧州委員会はヒートポンプ出力量計算の基 準を打ち出し、再生可能な要素の定義を定めた。ま ず特筆すべきは、すべてのヒートポンプの最終エネ ルギーは、「著しく」一次エネルギー消費量を上回 らなければならないと規定したことである。当時、 欧州委員会はヒートポンプそのものの運転効率(季 節性能係数 iii)と、EU全体での発電のための一次エ ネルギー投入量の平均的な比率の双方を考慮した ヒートポンプの出力のうちの再生可能エネルギー部 分を計算する公式を定めていた。これは、欧州のヒー トポンプによる自然エネルギーの寄与分についての 仮定を標準化し、この規則の下で計上される正味最 終エネルギー生産量はつねにヒートポンプを運転さ せるために使われる一次エネルギー(発電のための 一次エネルギーを含む)よりも大きくなることを保 障していた。 2013年の3月、欧州委員会は公式が適用されるその 他のルールを定めた。その中には、様々なヒートポ ンプに対して、天気ごとの平均全負荷相当運転時間 や、季節ごとの成績係数など、その他のルールを定 めた。たとえば、初期値は、電力で動くヒートポン プはCOP2.5である。 i 同様に、地熱や大気熱、水熱資源とも呼ばれる。地中熱ヒートポンプ利用は一般的には浅部地中資源(400 メートルの深さまで)に依存し、発電や直接利用される深部地 中熱資源(中高温)とは明らかに異なる。 1 単位のエネルギー投入量に対して、4 単位の最終エネルギーを供給する(COP4)ヒートポンプは、1 単位の一次エネルギーを消費すると 40%の効率の熱プラントにお いて 1.6 単位の最終エネルギーを排出する(4/(1/0.4)=1.6)。 iii 季節性能係数(SPF)は、2013 年の委員会決議案(2013/114/EU)に基づき、電気動力のヒートポンプの正味季節性能係数(sCOPnet)や、熱動力のヒートポンプな どの正味一次エネルギー割合(sPERnet)を指す。 ii ─ 37 ─ 第2章 補足4:ヒートポンプと自然エネルギー 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 参照)3。2013年には推計2GW の揚水発電容量が追加さ れ、世界の揚水発電量の総計は135〜140GW となったi 4。 2013年の新規発電容量のうち中国によって設置されたもの が最も多く、次いで大きな増加分を見せたのは、トルコ、ブ ラジル、ベトナム、インド、ロシアであった(図11を参照)5。 中国は29GWの新規発電容量を記録し、2013年末までには 水力発電総容量が260GWとなった。2013年に起きた中国 での重要な出来事の一つとして挙げられるのは、溪洛渡発 電所が7月に運転を開始し、年末までに9.2GWの発電出力 に達したことである。溪洛渡発電所は、2014年中ごろまでに は完全発電容量(13.86GW)に達すると見込まれており、 中国の三峡発電所およびブラジルのイタイプ発電所に次いで、 世界で3番目に大きな水力発電所となる6。 同じく金山川上にある6.4GW の発電容量を持つ向家坝発 電所も、2015年に完成すると国内で三番目に大きい水力発 電所となる。2013年中ごろまでに、世界最大の水力発電 設備と報じられている4基の800MWタービン発電機がこの 施設に設置された7。中国側の説明によると、中国の水力 発電インフラに対する投資はこの1年間で200億米ドル(1246 億中国元)を上回った8。中国の銀行および企業もまた、 海外で水力発電プロジェクトを実施しており、アフリカや南ア ジアではとくに存在感を見せている9。 トルコでは国内の電力需要の著しい成長に合わせ、水力発 電部門での急速な拡大を続けている。2012年に約2GWの 発電容量を追加した後、トルコはさらに2.9GW 分を2013年 に稼働させ、合計で22.5GWの発電容量となった。これによ り、トルコは水力発電容量上位10か国の仲間入りを果たし た10。2013年時点でトルコの水力発電は59.2TWhの電力を まかなっている11。 ブラジルでは、2013年には少なくとも1.53GW、場合によっ ては2GW 近くの水力発電容量が追加された。これは中小 水力(30MW 未満)発電による264MW 分を含んでおり、 2013年末の累計水力発電容量は少なくとも85.7GWとなっ た12。2013年の中頃に完成した334MW のシンプリシオ発 電所は、貯水池面積と比べて高い出力を持つことから注 目に値するものである13。それに加え、2013年にマディラ 川複合施設の一部である2か所の流れ込み式発電所の設 置が進んだ。ジラウ発電所では、第一段階となる75MW のタービン50基(3.75GW)が稼働し、また、2013年末ま でにはサント・アントニオ発電所(3.6GW)において22基 のタービンが稼働している。サント・アントニオ発電所では、 非常に流量が変動しやすい川において運用の柔軟性を高 めるために、バルブ型のタービンを44基から50基へと増や した14。これらの2つの発電所は、ブラジルでの大規模な 貯水池方式から流れ込み式プロジェクトへと転換する傾向 を表す良い例である。これらのプロジェクトは、プロジェクト によって影響を受けやすい地域での土地利用を減らし、プ ロジェクトの持続可能性を改善する目的に後押しされた部 分がある15。ベロ・モンテ発電所もまた、持続可能性の懸 念に対処するために改修されている。洪水地域を減らす ために、この発電所における貯水容量は本来の計画よりも 少なくなり、安定した年間発電容量は4.5GWに留まる。し かしながら、季節的なピーク時の発電容量は11.2GWを維 持し、ブラジルでは14GW のイタイプ発電所に次いで二番 目に大きな貯水池式発電所となる16。2013年に進行中のも う1つの重要なプロジェクトがテレス・パイレスプロジェクト (2015 年までに1,820MW)であり、それまで怠ってきた社会的 影響に関する義務的な調査への責任を果たした17。 ベトナムは近年急激なペースでその水力発電資源を開発し てきた。既に設置されている総計14.2GW の発電容量に対 して、2013年には少なくとも1.3GW の発電容量が追加され たようである18。しかし、再定住に伴う社会的影響に対する 懸念に加えて、ソング・タランダムの地震被害の経験から、 地方または中央政府は、追加の水力発電施設の開発に対 してより慎重な方法を用い、既存のダムの安全評価および 新規水力発電開発の抑制を求めている19。 インドやロシアでも、2013年に著しい発電容量の増加が見ら れた。インドは2013年に水力発電容量0.8GW 分を設置し、 このうちほぼ0.6GW 分の設備は25MW のものより大きな設 備である20。2013年終わりには、ハーグにある常設仲裁裁 判所がインドの330MW の発電容量を持つキシェンガンガ発 電所へ公式許可を下し、この発電所が流れ込み式発電所 として適切であり、よって1960年のパキスタンとのインダス水 協定における合意に違反するものではないとみなした21。ロ シアは2013年に3.2GW 程度の新しいタービン発電機を設置 したと思われるが、純増分はわずか0.7GWであった。この 差は、おそらくは既存設備の再建によるものだろう22。 アフリカでは2013年に少なくとも2つのプロジェクトが完成した。 ガーナで2番目に大きな水力発電所である400MWのブイ発 電所と、ガボンにある160MWのグランド・ポウバラ発電所の 双方が2013年後半に稼働を開始した23。これらの発電所は シノハイドロ社(中国)によって建設され、中国進出口銀行 から多額の資金を調達している24。一方で350MWのインガ 1水力発電所では改修作業が開始された。この発電所は 1970年代早期に発電を始めたものである25。アフリカには、 ナイジェリアが現在修復中のカインジ発電所やジェバ発電所 のように、本来見積もられていたよりも小さな出力で稼働し、 現在では改修が必要となっている古い施設が多くある26。 アフリカでは将来の開発のための支援が増えつつあり、多 くの新規水力発電所の建設を急いでいる。2013年の間ア ルストム社(フランス)は、エチオピアのグランド・ルネサンス・ ダムにおける8基の375MWフランシスタービンについての契 約の発注を受けた。このプロジェクトは総計6GW 規模となり、 下流のスーダンとエジプトとの間では水の権利を巡って緊張 が高まってきている27。世界銀行は、新しい Great Lakes Regional Initiative の下でRegional RusumoFalls 発電 所(80MW)に対する資金提供を表明し、タンザニア、 ルワンダ、ブルネイの人々に電力供給を増やすことを主な目 i 揚水発電所はエネルギー資源ではなく、エネルギー貯蔵の手段である。そのため、揚水発電には変換ロスが含まれ、自然エネルギーもしくは自然エネルギー以外の電力によって 稼働する。揚水発電は、 特に変動型自然エネルギー資源において、電力需給のバランスをとる発電方法として重要な役割を担う。従来の水力発電所の一部もまた、 揚水発電能力を持っ ている。 ─ 38 ─ 水力発電 図10.世界の水力発電設備容量 上位6か国の割合(2013年) 出典:本章の 巻末注3を参照 1,000 GW ブラジル 中国 8.6% 26% 世界の累積設備容量が 1000ギガワットに到達 米国 7.8% カナダ 7.6% ロシア その他地域 4.7% 41% インド 4.4% 図11.世界の水力発電設備容量および追加容量 上位6か国の割合(2013年) ギガワット 300 + 29 250 追加容量は リパワリング や運転終了を 考慮した正味 分である ギガワット 100 + 1.5 200 80 150 60 + 0.8 100 40 50 20 0 2013 年追加 2012 年既存 中国 0 + 0.7 + 2.9 + 1.3 トルコ 的としている28。2013年にも、南アフリカとコンゴとの間の新 規 購 入 契 約によって、コンゴ川でのインガ3プロジェクト (4.8GW)における水力発電所の建設が、2015年の終わ りまでに開始されると発表された29。このプロジェクトは、約 40GWという世界最大の複合水力発電所となりうるものへ 向けて以前から予想されていた新しい一歩である30。 中国とヨーロッパでは、2013年に揚水発電容量が拡大し ブラジル ベトナム インド ロシア た。中国は純 揚 水 発 電 容 量1.2GWを追 加し、 合 計で 21.5GWに達した31。さらに、スペインのラムエラ揚水発電 所の最 終 調 整が開 始され、2013年 末には発 電 容 量が 2GWとなった32。ラムエラ揚水発電は、スペインでの大規 模な変動型の自然エネルギー発電容量に対する重要要素 になると考えられた33。変動型の風力発電や太陽光発電 の割合が増えているため、電力の貯蔵容量をさらに拡大 していくことが議論されており、そのためには電力貯蔵とア ─ 39 ─ 第2章 出典:本章の 巻末注5を参照 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 ンシラリーサービスを提供する施設に対し、市場がさらなる 金銭的な価値をおく必要があるとされる34。変動型資源は ピーク時のシステム負荷を、つまり、ピーク時の電力価格 を調整している。しかし、そうした中このような資源は揚水 発電の従来型のビジネスモデルを狂わせる可能性がある。 引き続き、電力市場はこれらの変動的な状況に合わせて 発展する必要があるかもしれない35。 先を見越すと、ヨーロッパでの将来の揚水発電プロジェクト 計画は、二通りの送電価格(発電と揚水に対する価格) といった面倒な市場条件が障害となると言われている36。一 方でドイツはある程度このような問題に対応し、ある特定の 条件下で、揚水発電施設に対する送電料金免除を拡大し てきた37。しかしながら、揚水発電は変動型の資源に対し てだけではなく、つねに重要と考えられてきた。たとえば、 日本の(在来型の水力発電容量の22GWに加えて)揚水 発電容量26GWは、元々はベースロード用の原子力発電に 対する負荷追従用のサポートであると考えられていた。しか し、これから先は変動型資源とのバランスをとるために使わ れることが多くなるだろう38。 送電容量と連系線のどちらが不足しても、水力発電資源へ のアクセスと、変動型自然エネルギー資源の調整を行う可 能性を抑制することになる39。国境を越えた連系によって、 本来水力発電の送電が容易になると考えられていたものと して、エチオピアとケニヤを結ぶ Eastern Electricity Highway が挙げられる。このハイウェイ計画は2013年に着 手され、2018年予定の完成時には2GWを送電することが できる40。1800キロメートルの 中 米 電 力 連 系システム (SIEPAC)i の大部分は2013年に完成し、その地域の送 電能力と信頼性を高めている。最も控えめな規模(300GW 発電容量)であっても、水力発電を含む大小規模の自然 エネルギープロジェクトの実施を増やしていく機会として考え られている41。北米では、カナダの水力発電所から米国の 市場へと送電する、少なくとも2つの連系プロジェクトが2013 年の時点で検討されている。反対意見も多い Northern Passプロジェクトでは、ハイドロケベック(カナダ)からニュー イングランドまで1200MW 分のベースロード電源を供給する。 また、バランスの取れたManitoba-Hydro 社(カナダ)か らの電力供給を、250MW の発電容量を持つノースダコタ の風力発電で補うという同意もとりつけられている42。 2013年に世界銀行グループは、気候変動緩和に対し水力 発電は重要な役割を持っているが、気候に関連する水不 足への脆弱性もあると強調した上で、環境的および社会的 に持続可能なすべての規模や種類の水力発電プロジェクト を引き続き支援していくと発表した43。水力発電や他の自然 エネルギー技術に対する、将来の気候変動の影響(エネ ルギー生産、政策、市場を含む)は明確ではないため、ノ ルウェーのスタットクラフト社がこのテーマについての研究開 発プログラムを開始することとなった44。 ■水力発電産業 2008年末から2013年にかけての5年間で、水力発電の追 加容量はそれ以前の5年間よりもはるかに増加した45。しかし、 i 2013年の新規発電容量が急増したにもかかわらず、一部 の主要電力会社では新しい発注の受付は2012年に比べて 減少した。 たとえばアンドリッツ・ハイドロ社(オーストリア)は、プロジェ クト活動は小規模水力発電において申し分ないと思われる が、売り上げと新規発注の双方においては、前年の高水 準からの落ち込みが報告されている46。フォイト・ハイドロ社(ド イツ)でも同様に、新規発注の減少が見られた。売り上げ は2012年から2013年の会計年度で6% 増加したが、市場 売上はフォイト社の期待よりも低かった。しかし同社は、発 電設備の近代化という市場が、多くの地域で新規発注を 増やしている主な要因であるということに注目している47。フォ イト社は、プロトタイプのStreamDiverのような流れ込み式 小水力発電装置と同様に、この地域での大規模な発電設 備(たとえば中国の溪洛渡発電所に供給される784MWター ビン)の進展についても発表した48。 アルストム社(フランス)においては、新規発電容量に対 する需要が減少してきているものの、既存発電所の老朽化 した資産の修復に対する需要は高まりつつあると述べてい る49。アルストム社は中国での発電容量の強化を目指し、 新たな水力発電用工場を天津で動かしはじめ、 、2012年か ら2013年に向家坝発電所に800MW のフランシスタービン が4基を供給した50。アルストム社はすべての水力発電の研 究開発のため、フランスのグルノーブルでも、国際的な水 力発電技術センターを設立した51。 東方社(中国)による水力発電タービン発電機の生産は、 2013年には4.2GWとなり、2012年から28.6%の伸びが報告 された。この1年間で起きた同社での重要な出来事は、溪 洛渡発電所で770MW 装置の設置を行ったことだ。ハルビ ン社(おなじく中国)では、1年間で3.2GW 分の水力発電ター ビン発電機を生産し、2012年比で3.7%の減少となった52。 水力発電業界は、より大規模な発電容量を持つプロジェク トに取り組んでおり、製造会社は個々のタービン(1ユニット 当たり800MW 以上)の容量で記録を塗り替え続けている。 同時に、貯水池方式の発電容量の減少や、ブラジルで見 られるようなマルチタービンの流れ込み式発電プロジェクト開 発の傾向の兆しがみられる。この傾向の一つとして、業界 は不定の水流速度にも適応できる、より柔軟性をもったター ビンを開発している。限られた大規模な発電所で複合型イ ンストリームタービンを使うには、異なる技術、材料、専門 家が必要である53。また別の傾向としては、連系線を含む システム開発に対する地域ごとの手法の増加や、水力発電 を他の自然エネルギー技術を補完するものとする考え方も挙 げられる54。 海 洋 エネルギー ■海洋エネルギー市場 海洋エネルギーは、波力、潮の高さ(満ち引き) 、潮流、 (つ ねに一定方向の)海流、温度差、塩分濃度差など、海洋 に結びつくどのエネルギーも対象となる1。2013年末には世 中米電力連系システム(Sistema de Interconexión Eléctrica de los Países de América Central) ─ 40 ─ 稼働中の最大の海洋発電施設はすべてが潮流プロジェクト であり、発電に使われている。これらには、韓国の254MW の発電容量を持つ始華発電所(2011年に完成)や、フラ ンスの240MW のランス発電所(1966) 、カナダのノバスコ シアにある20MWのアナポリス発電所(1984) 、中国にある 3.9MWの江夏発電所(1980)が含まれる3。その他のプロ ジェクトはより小規模で多くは商業化以前の実証プロジェクト であり、注目すべき集中地域としては英国での潮力および 波力エネルギー開発設置(約11MW)がある。 2013年における商業発電容量の追加は見られなかったが、 スコットランド、オークニーの欧州海洋エネルギーセンター (EMEC)に複数の大規模な機械が試験的に設置された。 アルストム社(フランス)は2013年初頭に、1MW 潮力ストリー ムタービンを現地に配置した。その後、完全発電稼働へと 移り、さらなる実験は2014年にも続けられることになってい た4。韓国における小規模モデルの実験後、2013年にヴォ イス・ハイドロ・オーシャンカレント・テクノロジー(ドイツ)によっ て、 別 の 潮 力タービンである1MW の HyTide 設 備 が EMECに配置された5。 2013年と2014年の初頭には、いくつかの大規模プロジェク トが承認され、この2、3年以内に建設が開始されるだろう。 これらの開発はほとんどが英国沿岸水域で計画されている ものである。MeyGen 有限会社(英国)は、現在では完 全にAtlantis Resources Ltd(シンガポール)によって所 有されているが、スコットランドは同社に対しペントランド湾の インナー・サウンド海峡における86MW 規模のプロジェクト 計画に対し認可を与えた。この計画は最終的に398MWと なる潮力発電の第一段階であり、MeyGen 社は2014年に 始まる建設に向け、6基のタービンで実証実験を始める予定 である6。また、40MW(40〜50機器)規模の波力発電を スコットランドのルイス沿岸で実施するための同意もなされた。 スコットランドは、ヨーロッパでは波力発電に最適な地域の1 つと考えられている。アクアマリン・パワー会社(スコットラン ド)の潮流エネルギー装置「オイスター」の設置は、来る 年に送電に必要な連系と並んで行われる予定である7。 2014年3月、英国政府は予定されていた240MW のスウォ ンジー湾における潮汐発電の申請を受理し、実現へ向け た計画を進めている8。建設は2015年から2018年の期間で 計画されている9。一方で、予定されているウェールズ(英 国)のセヴァーンダムは、もし建設されればイギリスの電力 需要の5%を供給する可能性があるものの、経済的、環 境的、技術的な実行可能性に対する証拠がいまだに示さ れていないため、このプロジェクトは提案通り進めるべきで はないと議会委員会が主張し、大きな打撃を受けた10。 アラスカ沿岸(米国)で企画されているもう1つの240MW の潮力計画は、プロジェクトの実現可能性を確保するため に2014年の初頭に議会承認の延長が下された11。 ■海洋エネルギー産業 海洋エネルギー技術は2013年に進歩し続け、様々な種類 の機器が開発されている。この業界の企業は買収や協同 契約を通じて目標を進展させ、政府も頻繁に援助を行った。 スコットランドの欧州海洋エネルギーセンター(EMEC)は、 波力と潮力発電のコンバーターを検証する施設として世界 を先導しており、2013年を通じ、全世界にその学術調査 研究報告を共有し続けた。EMEC はシンガポールでの検 証施設の設立に協力する契約を公表したが、これは北米 からアジアにかけて関係機関が結んだいくつかの協定のう ち最新のものである12。それに加えて、隣のアイルランドで は近年、沖合再生可能エネルギー開発計画が開始された。 これは海洋発電に関する検証施設の基金、研究開発、 固定価格買取制度を約束するものである13。(「政策の展 望」の章を参照) アルストム社は、2013年の初めにまず、ロールスロイス社か らタイダル・ジェネレーション有限会社を買収した14。アルスト ム社とイベルドローラ(スペイン)が所有するスコティッシュ・ パワー・リニューアブルズ(スコットランド)間での合意によっ て、2015末に稼働が計画されているアイラ島潮力発電所に、 アムストル社の1MW 波力タービン4基が配置される予定であ る15。2013年の後半に、ヴォイス・ハイドロ社は、ヴォイス・ ハイドロ・オーシャンカレント・テクノロジーの残り20% の出資 をイノジー・ベンチャー・キャピタル社から得た16。上記のよ うに、両社とも2013年にEMECでタービンを稼働させている。 ヴォイス社のHyTideタービンはダイレクトドライブ(ギアなし) であり、二方向へ回すために左右対称の羽根が使われて おり、海水を潤滑材代わりにしている。これらはすべて、非 常に簡素なデザインでかつ頑健性を保つものとして、厳しい 海洋環境に適したものである17。固定型のナセルと羽根を持っ ているHyTideとは異なり、アルストム社のタービンは最大限 のエネルギーを取り出すために、調節可能なナセルと羽根ピッ チを持っている18。 アトランティス・リソース有限会社は1MW 潮力タービンである AR1000の開発者であり、2014年初頭に株式公開で資本金 を集め、欧州委員会から追加の援助資金を受けた19。アトラ ンティス社は、この資金をロッキード・マーティン社(米国) と共に開発したAR1500タービンを含むMeyGen 計画と、中 国でのAR1000の実証プロジェクトに利用することを計画して いる。アトランティス社は10月にMeyGen 社の残りの株すべ てを GDFスエズ社(フランス)とモルガン・スタンレー社(米 国)から入手した20。 2013年初頭にDCNS 社(フランス)はオープンハイドロ社(ア イルランド)の主要株式を入手した。オープンハイドロ社は EMEC でオープンセンター型潮力タービンの新型を検証し 続けている会社である21。2013年の終わりに、DCNSはエ ア・ウォーター・エネルギー社のウェイブローラー装置を用 いて、1.5MW の波力発電実証プロジェクトをフランスのブ ルターニュで進展させるために、フォータム社とエア・ウォー ター・エネルギー社(両社ともフィンランド)と合意を結んだ と発表した22。2013年9月、フランス政府は、フランス海岸 沖で検証する潮力プロジェクトについて入札を行った23 。 ─ 41 ─ 第2章 界の海洋エネルギーの発電容量は約530MWであり、この ほとんどは潮流発電に分類にされるものであった2。 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 DCNSとGDFスエズ社の両社がこのプロジェクトに関心を 示し、後者はヴォイス社とアルストム社と共に両社の潮力ター ビンで計画に参加する可能性がある24。 アクアマリン・パワー社はEMECで第2オイスター800波力エ ネルギー装置の検証を続け、ぺラミス・ウェイブ・パワー社(ス コットランド)はシリンダー連結式波力エネルギーコンバーター の開発を続けた25。ペラミス社は2013年に、新しい規模の モデルの試験を行った。その目的は構成、形状、管理の 変更を通じて、装置の発電出力、信頼性、経済性を高め ることである26。ダンディー大学とのパートナーシップを使い、 ペラミス社は設計の選択肢や経済性を改良するために、こ の装置用の主要建設資材として、鉄の代わりにコンクリート を使う利点を研究中である27。バッテンフォール社(スウェー デン)は2014年にEMECで最新版のペラミス社の装置の 実験を開始する予定である28。 ウェロー有限株式会社(フィンランド)は、2013年7月に Penguin 波力エネルギーコンバーターをオークニーに再配置 した。この装置は、波によって作動する回転型偏心質量を 完全に包み込み、通常は風力タービンで使われている発電 機を動かしている29。Seatricity 社(英国)は、もう一つの 比較的新しい波力技術会社であるが、10MWの潮力発電 Oceanus2(発電のために岸辺の海水をくみ上げるブイタイ プの装置)をコーンウォール(英国)にあるエネルギー実 証施設ウェーブ・ハブで開発する構えを示している30。 ミネスト社(スウェーデン)は、同社が所有するディープ・グ リーン潮力装置の4分の1規模のプロトタイプの検証をアイル ランドで開始したが、この装置は低速潮流で適切に動くよう に設計され、水中の凧と呼ばれる。ディープ・グリーン潮力 装置は、羽根とつなぎ縄をタービンに結び付けており、波の 方向に沿って接線上に円を描きながら潮力エネルギーを捉 えていく。本格的な装置は2015年までに配置される予定で ある31。 中国は2013年に海洋エネルギー技術に対する資金提供を 発 表した。その中にはハルビン工 業 大 学で開 発された 200kWのタービンが含まれており、離島の持続可能性を改 善するために海洋エネルギーを利用する計画の一つとなっ ている32。2012年の終わりと2013年に開始されたその他の 中国の実証プロジェクトには、広州エネルギー変換研究所 によって開発された波力エネルギーコンバーターと、山東大 学によって開発された120kWの波力ブイが含まれる33。 2014年の初頭に欧州委員会が欧州における海洋エネルギー を支援するために、2段階のアクションプランを開始した34。 最初のステップは、海洋エネルギーフォーラムを4月に開始し たことである。これにより、様々なステークホルダーを一同に 集め、業界が抱える課題への解決策を見つけることを目指 す35。 太陽光発電(PV) ■太陽光発電市場 全世界の太陽光発電市場にとって、2013年は記録的な年 となった。成長が多少滞った後、おそらく水力発電以外の 他の自然エネルギーの中では、最大の発電容量が設置さ れた。39GWを超える発電容量が追加され、合計の発電 容量はおおよそ139GWまで達した1。現在稼働中のすべて の太陽光発電容量のうちほぼ半分が過去2年間で追加さ れ、98% が2004年初頭以降に設置されたものである2。(図 12と表 R7を参照) この一年で、大幅な地理的な移り変わりが見られた。中国、 日本、米国が太陽光発電の設置において上位3位を占め、 さらにこの10年間市場のリーダーであった欧州をアジアが追 い越し、最も大きな地域市場となったのである3。中国の目 覚ましい成長は欧州の大幅な市場の縮小を補い、米国や 他の有望な市場において成長が期待を下回ったことを覆い 隠した4。9か国が1GW 以上の太陽光発電を送電網に追加 し、新しい設置場所が広がり続けている5。2013年末までに は、少なくとも合計10GW の発電容量を持つ国が2012年の 2か国から5か国に増加し、17か国は少なくとも1GWの発電 容量を持つこととなった6。国民一人当たりの太陽光発電導 入量が上位の国としては、ドイツ、イタリア、ベルギー、ギリ シャ、チェコ共和国、オーストラリアが挙げられる7。 アジアでは、2013年末までに22.7GW 分が追加され、ほぼ 42GWの太陽光発電が稼働している8。中国は単独で全世 界の追加設置容量のほぼ3分の1を占め、12.9GWという記 録的な追加容量を見せ、国内の発電容量は前年度のおよ そ3倍である20GWとなったと発表した(図13を参照)9。 発電容量が急速に追加されたため、配電網の連系や抑制 における課題が出始めてきている10。中国の発電容量の多 くは大消費地から遠く離れた日当たりのよい西の地域に集中 しており、非常に大規模なプロジェクトで構成されている。 その結果、3つの国有電力会社が、世界最大の太陽光発 電資産の所有者となった11。しかし、小規模な分散型の太 陽光発電に関心が高まり、政府は屋上設置型の市場へと 焦点を移そうとしている12。 日本では、国内での固定価格買取制度の駆け込みで急速 な発電容量の設置が見られ、2013年には6.9GW が追加さ れ、合わせて13.6GWとなった13。日本の発電容量の大部 分は屋上設置であり、住宅建築業者は製品を差別化する ために、太陽光発電付きの住宅を促進している14。しかしな がら、初めて非住宅部門が日本で最大の市場となった15。 国内における大規模市場の出現にもかかわらず、認可され たプロジェクトの数と比べて実際に建てられたものはずっと少 ない。これは土地、資金、系統アクセス、資格を有する技 術者、建設会社、日本ブランドの機器が不足しているため である16。アジアの他の地域では、インドが最も大きな成長 を見せており(1.1GW 追加) 、韓国(0.4GW) 、タイ(0.3GW) がそれに続く17。 アジア以外では、全世界で約16.7GW が追加され、主に欧 州(約10.4GW)と北米(5.4GW)における成長が寄与し た。その中でも、国レベルで3番目に大きな市場を持つ米国 が世界市場を先導している18。米国の新規導入量は2012 年より41% 増加してほぼ4.8GWに上り、 、総計で12.1GWと なった19。価格の下落に加え、前払い金が低額またはゼロ ─ 42 ─ 欧州では最も多くの太陽光発電容量が稼働し続けており、 年末には合計で80GWを超えた25。しかしながら、EUで今 年 追 加され た10.4GW(さらに 広 い 範 囲 の 欧 州 では 11GW)分は2011年の導入量の半分に満たない。世界市 場において欧州地域が占める割合も、2010年の82% から 2013年の26% へと急速に落ち込んだ26。EU市場のほとんど では、一部の国における政策支援の縮小と遡及税のため に需要が縮小し、投資家の信用を損ない続けてきた27。 (「政 策の展望」のセクションを参照)しかし、太陽光発電の割 合は増え続け、太陽光発電は従来型の電力供給者との直 接的な競争といった障害に直面することが多くなってきてい る28。 ドイツはEUで最大の市場の地位を守ったが、世界全体で は1位から4位へと転落した。平均で7.6GW 前後の追加が 過去3年間で見られたが、今年は3.3GWの増加にすぎなかっ た29。とはいえ、全体で36GW 近くの発電容量を持つドイツ は、いまだにどの国よりもはるかに大きい発電容量を持って いる30。新規導入システムからの発電のうち約3分の1はそ の場で消費されているが、これは固定価格買取制度に基 づく買取価格が電力の小売価格を下回ることで生じた傾向 である31。英国(少なくとも1.5GWを追加)は大規模プロジェ クトにおいて欧州地域の最も好調な市場となったが、これは 補助金により機関投資家や事業開発者をEU 全体から引き つけたためである32。EU市場におけるその他の上位国はイ タリア(1.5GW) 、ルーマニア(1.1GW) 、ギリシャ(1GW) などであった33。イタリア市場は前の2年間に比べ激しく落ち 込み、ベルギー、デンマーク、フランスでも大幅な市場の縮 小が見られた34。 オーストラリアは100万台の屋上設置型太陽光発電システム を設置し、2007年の約8000台から増加した35。オーストラリ アの人々が電気料金の請求額を減らすために太陽光発電 へと切り替えた結果、0.8GWを超える発電容量が2013年に 追 加され、合 計でほぼ3.3GW の発 電 容 量に達した36 。 2013年の終わりまでには、屋上設置型太陽光発電システム がオーストラリアの家庭の14%で稼働しており、さらに南オー ストラリア地域では4分の1の家庭の屋上で稼働している37。 ラテンアメリカとカリブ海地域では、2013年末までに計画中 や開発中のプロジェクトが多くの国で見られたi 38。ブラジル やチリの市場は期待していたほどに開発は進まなかったが、 一方でメキシコは地域のリーダーとして台頭してきた39。チリ とメキシコの両国は、2013年と2014年初頭にいくつかの大 規模プロジェクトを開始した40。 中東のほとんどの国々では現在のエネルギー計画に太陽光 発電が含まれている。その原動力となっているのは、エネ ルギー需要の急速な増加や原油輸出の規制緩和への願望 と高い日射率である41。2013年と2014年初頭にかけて、大 規模な発電所が、ヨルダン、クゥェート、サウジアラビア、ア ラブ首長国連邦を含む複数の国で稼働し、政府の多くが 購入契約を結ぶか、入札を始めている42。アフリカ全土でも 多くの有望な市場がある43。今のところ、アフリカ大陸でもっ とも大きな市場の一つとして挙げられるのは、南アフリカ共 和国である。ここでは、政府の入札手続きのもとで大量の 発電容量を調達しており、2013年の後半には最初の発電所 (75MW)が送電網に接続された44。 2014年初頭までに50MWを超える少なくとも53の太陽光発 電所が、少なくとも13か国で稼働していたii 45。世界で上位 50位に入る大規模発電所は2013年の終わりまでで累積発 電容量が5.1GW 超に達した46。これらの施設のうち、日本 および(アフリカで最大の)南アフリカ共和国を含む少なくと も14か国にある施設が2013年には送電を始めている47。最 大の発電所は中国の320MWの発電所で、既存の1.28GW 水 力 発 電ダムと同じ場 所に建 設されている48。 米 国 は 50MW 以上の発電量を持つ施設の総発電容量において世 界を先導しており、2013年末までに稼働中の総発電容量は 1.4GWに達し、ドイツ、中国、インド、ウクライナがそれに続 く49。50MW から1000MWを超える規模のプロジェクトの多 くが世界中で計画され、開発されている50。 商業規模および電力事業者が所有する太陽光発電の割合 は2013年に増え続けたが、住宅部門においてもまた著しい 発電容量の成長が見られた51。顧客基盤の縮小と収入の 損失への不安から、多くの電力事業者により分散型太陽光 発電の拡大が押し戻されている国がある。たとえば、欧州 では一部の電力事業者が料金を設定したり、太陽光発電 システムを持つ顧客に対し料金を上げたり、余剰買取の将 来性をめぐって議論したりすることで、自家消費を妨害して いる。同様に、米国の複数の州では余剰買取法をめぐる 議論が激しさを増しており、オーストラリアでは主要な電力 事業者が太陽光発電の増加を遅らたり、停止させたりする ような動きを見せている52。(補足7を参照) 地域所有型の太陽光発電事業においては、多くの国で様々 なモデルが現れてきている。これには、オーストラリア、日本、 イギリス、タイなど、国内の固定価格買取制度の下で地域 の太陽光に関する目標が見られる国が含まれる53。米国の コミュニティソーラーガーデンズは、投資者への月々の控除 と引き換えに地域の電力事業者に電力を販売するものであり、 i オフグリッドに関する情報に関しては、ラテンアメリカやその他の地域におけるエネルギーアクセスを提供するための分散型太陽光発電(第 5 章「途上国の分散型自然エネルギー」) を参照。 ii これは太陽光発電市場における急速な変化を示している。2011 年版の GSR では 200kW 以上の規模のプロジェクトについて報告しているが、2012 年度版では 20MW 以上のプ ロジェクト、2013 年版では 30MW 以上のプロジェクトについて報告している。 ─ 43 ─ 第2章 でも設置が可能となる革新的な資金調達の選択肢ができた ことで、米国消費者の姿勢に変化が見え始めている20。大 規模建設プロジェクトが追加された電力量の80% 以上を占 める一方、住宅部門では2012年と比較して最大の市場成 長が見られた21。米国ビジネス業界はエネルギーコストを減 らすため、太陽光発電へ多額の投資を実施した。さらに 一部の電力事業者は長期契約を結び、価格のみを考慮し た他の発電方法よりも太陽光発電を選択した22。電力事業 者による調達は相変わらず進展が遅れているものの、多く は自然エネルギー割当義務(RPS)の目標値へと近づきつ つある23。カリフォルニアでは、新規発電容量の半分以上を 太陽光発電で設置し、主要米国住宅市場の中では初めて 州レベルの奨励策からの脱却を成し遂げた24。 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 この取り組みは2013年に広まり続け、一部の米国の州では RPS 法において地域所有型太陽光発電の一定量の発電 分を低所得者層に分配するという制度を採用している54。 集光型太陽光発電(CPV)市場は小規模にとどまってい るが、強い直達日射と低湿度の地域においては高い効率を 示すことから関心が高まっている55。2013年にCPV は新し い市場に広がり続けており、大規模プロジェクトがオーストラ リア、イタリア、米国で完成し、小規模プロジェクトが中国、 ナミビア、ポルトガル、サウジアラビアや他の地域で進行中 である56。中国では世界一大きな発電所(50MW)が2013 年に稼 動を始 めた57。2013 年 末までに20か 国 以 上 が 165MW 以上の発電容量を持つ発電所の稼働を開始し、 中国と米国が先導している58。 いくつかの国では、発電において太陽光発電が重要な役 割を果たし始めている。イタリアでは年間電力需要のうち太 陽光発電が占める割合は推計で7.8%、ギリシャではほぼ 6%、ドイツでは5%を達成し、また多くの国で日単位では非 常に高いピーク値を達成した59。欧州では、年末までに、 総消費量のうち推計3%(2008年の0.3% から増加)とピー ク時の需要の6%を十分に満たす太陽光発電容量を持つこ ととなった。同様に、世界で稼働中の太陽光による累計発 電容量は、年間で少なくとも160TWh の電力を供給するの に十分な量となった60。 ■太陽光発電産業 供給過剰によりモジュール価格が下がり、多くの製造業者 が売上総利益の悪化を報告した2年間の不振の後、太陽 光発電産業は2013年に回復し始めた61。とはいえ、とりわ け欧州では厳しい年となり、市場の縮小によって、設置業者、 販売業者、その他の事業者が負債なしで活動を続けること に必死だった62。製造業者の間では合併が続いたが、年末 までには最も有力な会社はコストより高い値段で太陽光パネ ルを販売した63。しかし、下請けの製造チェーン、特に多 結晶シリコン市場においては回復が見られなかった64。また、 多くの薄膜型太陽光発電製造業者と集光型太陽光発電産 業はモジュール価格の安さに苦しみ続けており、市場競争 において苦戦してきた65。国際的な取引についての議論もま た2013年を通じて継続された66。 2013年の後半における中国、日本、米国での堅調な需要 拡大に対応し、2013年に結晶シリコンモジュールのスポット 価格は約5% 上昇したものの、モジュール価格は安定して いた67。同時に、モジュール製造コストは下がり続けた。製 造過程の改良と規模の経済と同時に原材料価格の低下(と くに多結晶シリコン)によって製造コストが下がったが、これ は産業界が狙っていたよりもずっと早い価格の下落であった。 これにより、中国の有力な製造会社は2013年時点で製造コ ストが0.5米ドル/Wに近付いた68。システム設置コストをより 下げるために、ソフト面のコストを低くすることに業界の関心 は向かっており、ソフト面のコストは低下したものの、 (とくに 日本と米国での)モジュール価格ほど急激には低下しなかっ た69。太陽光発電への投資(米ドル立て)は今年低迷した が、実際に設置された発電容量においては著しい増加が見 られた。この相違は近年の太陽光発電システムの価格の低 下によるものであるi 70。(図14を参照) 2013年時点で、屋上設置型太陽光発電の M W h あた りのコストは、オーストラリア、ブラジル、デンマーク、ド イツ、イタリアを含む何か国かでは小 売 電 力価 格よりも 低かった71 。ある推計によると、太陽光発電は少なくとも 19の市場(15か国)では補助金なしでも競争力がある と考えられている72 。さらに、年末までに計画されたり開 発中であったりしたいくつかのプロジェクトは、補助金な しでも化石燃料に対する競争力があると考えられるii 73 。 推計43GWの結晶シリコンセルと47GWのモジュールが2013 年に製造され、2012年から20% の増加となり、モジュール 生産能力は推計で67.6GWに達した74。薄膜型の製造は 2013年には21% 近く増え、4.9GWに達し、世界の太陽光 発電の製造において薄膜型の製造が占める割合は前年比 で横ばいであった75。 過去10年間に渡ってモジュール製造は米国から日本へ、そ して欧州へと移り、またアジアへと移り、中国が2009年から 出荷において優勢となっている76。2013年までにアジアは全 世界のモジュール製造のうち87%を占め(2012年の85% か ら増加した) 、中国は世界全体の67%(ほぼ2012年の3分 の2)のモジュールを製造している77。欧州が占める割合は 下がり続け2013年には9%となった(2012年には11%)。日 本が占める割合は5% のままで留まっている78。米国の割合 は2.6%であり、米国産の薄膜製造が占める国内の製造割 合は、2012年の36% から増加し39%に達した79。インドでは ほとんどの製造容量が利用されていないか、もしくは低い稼 働率でモジュール製造が行なわれている。これは規模が小 さく、コストの低い融資が受けられず、サプライチェーンが 未開発であることにより競争力が欠けているのが主な原因 である80。 インリー社とトリナ・ソーラー社(両社とも中国)は、2013年 のモジュール製造において世界を先導していた。両社に続 いて、カナディアン・ソーラー社(カナダ) 、ジンコ・ソーラー 社とレネソーラ社(両社とも中国) 、シャープ・ソーラー社(日 本) 、ファースト・ソーラー社(米国) 、ハンファ・ソーラー社(中 国) 、京セラ(日本) 、JAソーラー社(中国)が上位10位 を占める81。 製造業者間の市場合併は2013年に相次いだ。企業買収 は本年の半ばに記録的な水準に達し、倒産や会社閉鎖が 続いた82。とくにCIGS iii 製造者は大きな試練に直面し、結 晶シリコン製造の標準化と合理化、シリコンの低価格化の i 図 14 のデータは様々な情報源をもとにしていることに注意。よって、完全に調整されているデータではない。投資データは投資決定の時間的調整を反映しているが、設置され た発電容量を反映している訳ではない。そのため、たとえば 2012 年に投資された米ドルの一部は、2013 年に設置されたシステム向けの投資である可能性がある。 この情報源では、「競争力のある」という言葉の定義はなされていない。しかし、IEA-PVPS(国際エネルギー機関による太陽光発電システム研究協力実施協定)によると、 「同 じ時間に電力を送電できたであろう他の資源よりも太陽光発電が安く発電しているという状況」を、あり得る競争力の定義としている。これは、「Trends 2013 in Photovoltaic Applications: Survey Report of Selected IEA Countries Between 1992 and 2012 (Brussels: 2013), P65」を通じて定義されたものである。 iii 銅、インジウム、ガリウム、セレンの太陽光セル。これらが太陽光発電の薄膜の区分に含まれる。 ii ─ 44 ─ 太陽光発電 図12.世界の太陽光発電総容量(2004年∼2013年) ギガワット 世界合計 150 出典: 本章の 巻末注2 を参照 139ギガワット 125 100 100 70 75 50 40 25 0 16 3.7 5.1 7 9 2004 2005 2006 2007 2008 23 2009 2010 2011 2012 2013 図13. 太陽光発電設備容量および追加容量 上位10か国(2013年) ギガワット 40 + 3.3 出典: 本章の 巻末注9を 参照 2013 年追加 2012 年既存 30 + 12.9 20 + 1.5 + 6.9 + 4.8 10 + 0.2 ドイツ 中国 2013: 太陽光発電への 投資額は22%減、 -22% 太陽光発電の 追加容量は32%増 +32% イタリア 日本 + 1.5 + 0.8 + 0.2 米国 スペイン フランス 英国 オースト ベルギー ラリア 図14.世界の太陽光発電設備追加容量と年間投資額(2004年∼2013年) ギガワット 40 10 億ドル 140 120 世界の太陽光発電追加容量 (ギガワット) 30 太陽光発電設備への世界の年間投資額 (10 億ドル) $ 100 80 20 60 40 10 20 0 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 ─ 45 ─ 0 出典: 本章の 巻末注70を 参照 第2章 0 + 0.6 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 ために、複数の会社が債務超過に陥ったり、業界から去る こととなった83。 太陽光発電製造に対する中国の大規模な投資により、需 供バランスが崩れることで業界に大変動をもたらし、中国で さえもその結果に苦しむこととなった84。古く非効率的な発 電施設の多くは2013年に閉鎖されたが、これは中国政府 が過剰供給を抑え、品質を上げるために、合併および近 代的な施設への投資を奨励したためである。とはいえ、コ スト削減のために節約を進めた際には経営的困難に直面し た85。中国の上位10社は、2013年8月までに160億米ドル 以上の負債を負っており、サンテック社は中国で会社として は初めて商業負債の返済義務を公然と放棄した86。 製造業者の一部は生産量を落としたり、閉鎖したりしたが、 他の会社は新しい施設を開設し、北米や南米から欧州、 ヨルダンからトルコへ、そしてカザフスタンからマレーシアへと 世界中に生産量を拡大し始めている87。エチオピアの最初 のモジュール製造施設(20MW)は国内市場への供給の ため、2013年初頭に運用を開始した88。中国は膨大な数の 新しい建設を計画することで、重要な薄膜製造者となりつ つあり、ハネジー社は2013年に複数の企業を買収した89。 日本の製造業者は国内需要の成長に合わせて、国内生産 を伸ばした90。 てきており、米国を超えてカナダ、欧州、太平洋地域、 他の地域における太陽光発電システムのリースといった実 例も見られる98。2013年の終わりには、東芝(日本)がド イツで太陽光発電事業に参入し、太陽光発電システムを アパートの屋上に設置し居住者に直接売電を行う。このシ ステムは年金基金グループが所有し資金提供を行う予定 である99。2014年初頭までに、太陽光発電プロジェクトへ の投資オンラインプラットフォームとなっているモザイク社(米 国)は、特定のプロジェクトに対する小規模の投資を可能 にすることで、500万米ドルを超える資金を得た。ソーラー・ シティ社(米国)は、既存の顧客からのキャッシュフロー に支えられており、個人投資家に債権型投資商品を提案 する計画を発表した100。また、新しいモデルがラテンアメリ カで現れてきている。その中には(長期契約によるもので はなく)卸売市場への太陽光発電の電気の販売が含まれ ており、このような商業用発電所はチリやメキシコで建設さ れている101。 太陽電池の効率性は2013年に向上し、より多くの記録が公 表された102。もしかすると最大の技術進歩の中心となるのは、 2012年と2013年に急速な効率性の改善を見せたペロブスカ イト材料であるかもしれない。この材料には、市場に出る前 に乗り越えるべき大きな課題があるが、高性能でしかも安価 な太陽光電池の可能性を示している103。 イノベーションと製品の差別化はますます重要になってきてい CPVにとって2013年は複雑な年となり、主要な会社は発電 る91。成功している製造業者では、プロジェクト開発、運用、 所を閉鎖し、合併によってモジュールとシステム供給者の双 維持が拡大し続けている92。それらの会社はまた、技術力 方が影響を受けた。同時にこの産業では新しい戦略的パー を高め、市場を拡大するために、戦略的なパートナーシップ トナーシップの確立と商業規模の拡大が見られた104。ソイテ も構築している。たとえば、ファースト・ソーラー社はGE の ク社(フランス)は、ドイツのフライブルグでの40MW の工 テルル化カドミニウムの知的財産権を入手し、その上で両 場を閉鎖して事業を整理するとともに、カリフォルニアの工場 社は薄膜技術を発展させるためのパートナーシップを発表し では最大規模の生産能力を達成し、フランスでCPV 発電 ている。同様にソーラー・シティ社(米国)は、ハイブリッ 所を展開するためにアルストム社(フランス)と協同した105。 ド車や電気自動車の所有者が太陽光発電をさらに手ごろな ソーラー・ジャンクション社とアモニックス社(両社とも米国) 値段で入手できるよう、アメリカン・ホンダ社とBMWと協同 は CPV の効率を改善するために協同した106。この業界で した。さらにハネジー社は、太陽光発電のサービスをイギリ はニッチ市場へ向けた動きの徴候が見られ、ソイテク社は スの顧客に提供するため、小売業の IKEAと提携した93。 南アフリカ共和国で44MW のプロジェクトを建設している。 また発電設備の製造業者は、太陽光発電所を建設するた 中国での関心が高まっているため、2013年には複数の会 めに電力事業者や化石燃料を取り扱う会社とも協力してい 社が製造ラインを作ることを発表したり、明言したりした107。 る。一方で従来型のエネルギーを扱う会社や、有料道路 新型のセルとモジュールの変換効率の記録が2013年に樹立 運用会社であるHuabei Express(中国)のような非エネ され、反射鏡技術や追尾技術の改良が続いた108。 ルギー会社ですら、太陽光発電の開発へ向けてさらなる動 きを見せている94。 系統の管理を積極的に支援するため、太陽光発電用インバー ターがさらに洗練されたものになってきており、発電・送電の 企業買収活動は事業開発側で続いた。金融緩和や、純 分野では開発が最も急激に進んでいる技術の1つである109。 投資会社間での金利上昇から、この数年既存の大規模プ 部分的にはこの急速な発展が原因となり、2013年にはABB ロジェクトが世界規模で買収された95。ドイツの事業開発会 社(スイス)が世界最大規模の太陽光発電用インバーター 社の少なくとも2社が2013年に債務超過に陥った。一方で の製造会社の1つであるパワーワン社(米国)を買収するこ 他社は事業を拡大し、たとえばユーウィ社(ドイツ)では、 ととなった110。同時に、この業界にはますます参入会社が増 東アフリカと中東・北アフリカ地域の顧客に製品を提供する え、市場はより細分化されてきている。2013年には既存の大 ため、ドバイで子会社を設立した96。サンエジソン社はエコ・ 手企業が、成長を維持できるか、もしくは生き残ることができ ファースト社(両社とも米国)を買収することで、いわゆる るのかという課題に直面した111。インバーター製造業者は製 太陽光発電と太陽熱を組み合わせた初のリースを米国の住 品の値下げに追い込まれたが、これは欧州市場の低迷が 97 宅市場向けに提供した 。 予想よりも早く見られ、コスト削減努力の中心がますますバラ ンス・オブ・システム技術へと向けられたためである112。 新しいビジネスモデルと革新的な融資手法は引き続き現れ ─ 46 ─ 集光型太陽熱発電(CSP) ■ CSP 市場 集光型太陽熱発電(CSP)市場は2012年の記録的な成 長の後、2013年にも前進を続けた。世界の総発電容量は 0.9GW 近く増加し36%増しとなり、3.4GWを超えた(図15 と参照表 R8を参照)1。米国とスペインは世界市場を先導 し続けた2。しかし、発展途上国市場においては、直達日 射量(DNI)が高い地域への移行が世界的な規模で急 激に進んでいる3。世界で設置された CSP の発電容量は 2004年から10倍 近く増 加した。 同 様に、2008年 末から 2013年末の5年間で、世界総発電容量は年間平均50% 近 くの成長率を見せた4。 パラボリック・トラフ方式の技術は、2013年中ごろまでに建 設中であった大多数の発電所だけではなく、2013年に追加 されたすべての施設で見られる代表的な技術である。しか しながら、タワー/セントラル方式のレシーバーも市場の割 合を増やし続け、2014年初頭にはかなりの発電容量が追 加された5。フレネル式とパラボリック・ディッシュ式技術は早 期開発段階に留まっている。 米国は2013年には主要な市場となり、年末までに375MW を追加し、ほぼ0.9GW 分が稼働しており、建設中のもの を加えると1GWまでほんのわずかとなる6。アリゾナの新し いソラノ発電所(250MW)は世界最大のパラボリック・ト ラフ方式の発電所であり、熱エネルギー貯蔵設備(TES) を持つ初めての米国内の CSP 発電所である7。377MW のイバンパ発電所が送電線に電気を供給し始めたことは、 2014年初頭に見られた米国内でのもう1つの大きな飛躍で あった8。イバンパ発電所はタワー/セントラルレシーバー技 術を採用しており、発電所の完成により、世界で稼働して いるあらゆるタイプの中でも最も巨大な太陽熱発電施設と なった9。 スペインは、既存の CSP 発電容量において世界を先導し つづけており、2013年には350MWを追加し稼働容量が 18% 増加したことで、年末には総計2.3GWとなった10。パラ ボリック・トラフ方式はスペインではいまだに主要な技術であり、 2013年に送電を開始したすべての発電施設で用いられて いる。2012年および2013年初頭における政策変更により国 内での新規建設が一時停止となったため、2013年末まで に新しく建設された発電所はなかった11。これにより、米国 は2014年のCSP 市場において主要な地位を維持することと なる。 他 の 市 場 では、2013年に発 電 容 量 が3倍 近くとなり、 250MWまであとわ ず かとなった12。 追 加 分としては、 100MW のアラブ首長国連邦のシャムス1発電所、50MW のインドのラジャスタン発電所(両方ともパラボリック・トラフ 方式の発電所) 、中国のデリンガでのタワー/セントラル方 式の発電所で追加された50MW のうちの第一段階となる 10MW 分が含まれる13。2013年に発電容量の追加が見ら れなかった既存のCSP 発電所を持つ他の国としては、アル ジェリア、 (25MW) 、エジプト(20MW) 、モロッコ(20MW) 、 オーストラリア(13MW) 、タイ(5MW)が含まれる14。さら にいくつかの国では、小規模の試験的な発電所が稼働し、 これにはフランス、ドイツ、イスラエル、イタリア、南アフリカ、 韓国、トルコが含まれる15。 2013年にCSPはアジア、ラテンアメリカ、そしてとくにアフリ カと中東にいたる新たな市場に広がり続けた16。南アフリカ は最も活発な市場の1つであり、年末にはパラボリック・トラ フ方式の100MWとタワー方式の100MW 分が建設中であっ 図15.世界の集光型太陽熱発電設備容量、国別、地域別(2004年∼2013年) メガワット 3,500 出典: 本章の 巻末注1を 参照 世界合計 3425メガワット 世界のその他地域 3,000 スペイン 米国 2,500 第2章 2,000 1,500 1,000 500 0 2004 2005 2006 2007 2008 2009 ─ 47 ─ 2010 2011 2012 2013 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 た17。隣国のナミビアでは熱エネルギー貯蔵設備を用いた 50MW 分の発電所の予備評価が行われている最中であっ た18。地域市場への1GW 以上のCSP 方式の導入を支える ため6億ドルを超える額がアルジェリア、エジプト、ヨルダン、 リビア、モロッコ、チュニジアへ提供されることが2013年に 確定したi 19。2014年初頭の時点ではモロッコ(160MW) とエジプト(100MW)で建設が行われている20。 中東では、熱貯蔵施設を持つ50MWのCSP 発電所に対し てクウェートが入札手続きを開始しており、2016年には稼働 を開始する見込みである21。サウジアラビアは、2032年まで に50GWを超える自然エネルギーに1090億米ドルを支出す る計画を発表し、そのうち25GWはCSP 方式で発電する予 定である22。イスラエルでは、ネゲヴ砂漠で250MWのCSP 発電所の建設における第一段階(121MW)が計画され ている23。 世界のその他の地域では、チリにおいて110MW のタワー /セントラルレシーバーの入札が2013年に落札され、国内 初の商業用 CSP 発電導入に向かって進んでいる24。インド では、ジャワハルラル・ネルー・ソーラー・ミッション(JNNSM) の下で開発されている6基の発電所の開発が妨げられたが、 これは太陽光資源評価における明らかな誤りだけでなく、 技術、調達、財政面での遅れによるものである25。イタリア の市場では過去の規制変更による遅れが見られたが、 2012年12月に導 入された 固 定 価 格 買 取 制 度によって 200MWを超える新規 CSP 発電容量に対する認可申請が 増えた後、急激な成長が見られた26。 CSP 技術は、数多くの様々なハイブリッド発電および発電プ ロセスを支えるために用いられており、また、石炭、ガス、 地熱発電所の蒸気生産の増強に応用されている27。オース トラリアで建設中の44MWthのコーガン・クリーク・ブースト・ プロジェクトは2015年の稼働開始時に、既存の石炭ベース の蒸気発電を補完し始めると期待されている28。 一部の市場では、CSPは太陽光発電技術の高い競争力お よび環境への懸念に関連した課題に直面し続けており、米 国ではいくつかの発電所の設置が遅れたり、撤回されたり、 太陽光発電に変更されたりしている29。CSP の世界的な成 長は過去の推定とは程遠く、熱エネルギー貯蔵設備を利用 したCSP 発電所への関心が多くの市場で高まってきている。 これらの市場は出力調整が可能な自然エネルギー発電容 量の価値ある資源として考えられている30。サウジアラビア やチリのような新興国では、将来のCSP 開発のために熱エ ネルギー貯蔵設備の利用を義務化している31。 ■ CSP 産業 CSP 産業は2013年も新しい市場で拡大を続けている32。し かし、この部門の世界的な成長は好調であり続ける一方、 太陽光発電のコスト減少による競争激化を考慮した将来見 通しの修正により、多くの会社が CSPの稼働を停止した33。 2013年 の 上 位 会 社 はアベンゴア社、アクシオナ 社、 ACSCobra、トレソル・エナジー(すべてスペイン) 、ブライト ソース社とソーラー・リザーブ社(両社とも米国) 、ショット・ソー ラー社(ドイツ) 、AREVA(フランス)である。ドイツの会 社シーメンス社は、2011年から10億米ドルもしくはそれ以上 の損失を出した後にCSP 事業の閉鎖を発表した。一方で ショット・ソーラー社は中東におけるプロジェクトの成功へ焦点 を当てるため、400MWの米国の発電所を閉鎖した34。 2013年初頭時点で、アベンゴア・ソーラー社は最大の稼働 中もしくは建設中の発電所資産を所有していた。スペインの 会社は世界に設置されているCSP 発電容量のうちほぼ4分 の3の所有権を持ち、業界を先導し続けた35。しかし、スペ イン市場の行き詰まりによって、スペインのCSP 開発事業者 はプロジェクト開発の機会を探ることからさらに遠ざかってしまっ た36。 熱媒としての合成石油と溶融塩に限界が見えるため、幅広 い代替手段についての研究がなされてきた。これには過熱 蒸気、三成分塩、グラファイト(粉末状黒鉛)蓄電、セラミッ ク蓄電、岩、小石、粉炭などが挙げられる37。スペインの ヘマソーラー発電所は36日間連続して発電できるようになり、 熱エネルギー貯蔵設備システムにおける成長の可能性が示 された38。 大規模な発電所建設への傾向は続いており、稼働を開始 した米国のイバンパとソラナ発電所や、中東・北アフリカ地 域で建設中の多くの発電所の規模がその証拠である。高 温で発電し、より高い効率性を示すことから、大規模発電 所のコスト削減の可能性が次々と実証されている39。 i この支援金は気候投資ファンドによって約束されたもので、このファンドはアフリカ開発銀行、アジア開発銀行、欧州銀行、米州開発銀行、世界銀行グループによって支えられ ている。 ─ 48 ─ ハイブリッドCSP の適用に関する研究、および従来型の発 電所での蒸気生産の増加は2013年も続いた。米国では、 国立再生可能エネルギー研究所(NREL)とアイダホ国立 研究所が CSPを伴う地熱発電の増強に関する共同研究を 開始した。一方で、米国のエネルギー省はカリフォルニア州 サクラメント市の天然ガスを燃料とする500MW のコスミーズ 発電所においてCSPを統合するために、1000万ドルの支 援を約束した41。 太陽熱利用と冷房 ■太陽熱利用と冷房市場 太陽熱利用技術は、多くの国において温水の生産に大い に貢献しており、また冷暖房の利用および産業工程におい てもその貢献度を高めている。2012年iには、世界全体で 55.4GWth(7900万㎡超)の太陽熱容量が追加され、稼 働している全タイプの集熱器の累積設備容量は14% 以上 増加し、年末には合計283.4GWthに達したii 1。太陽熱利 用システム市場の推計53.7GWth(約97%)がガラス管型 水式システムであり、残りは主に温水プール用の非ガラス管 型水式システム(3%)や、ガラス管および非ガラス管の空 気式システム(<1%)となった2。ガラス管型と非ガラス管 型の水式システムは年間で推計239.7TWh(863PJ)の熱 を供給した3。 中国は太陽熱利用設備容量の大半を有し、2012年に世界 市場の86% および設備容量の64%を占めた4。(図16を参 照)2012年に追加されたガラス管・非ガラス管型システムiii の設備容量で上位となった国は、中国、トルコ、インド、ブ ラジル、ドイツで、稼働中の総設備容量での上位5か国は 変わらず中国、米国、ドイツ、トルコ、ブラジルであったiv 5。 (図17および表 R9を参照) 多くの国がガラス管型水式集熱器に注目しており、中国で は主に真空管型水式集熱器(ETC)が用いられ、他の 主要な市場は主に平板型集熱器(FPC)に頼っている。 米国では、システムの大部分が温水プール用の非ガラス管 型水式集熱器を使用している 。この他に非ガラス管型水 式集熱器で注目すべきはオーストラリアとブラジルである6。 2013年には世界全体で推計57.1GWth(8160万㎡)の総 設備容量が追加され、稼働中の太陽熱利用設備容量は 330GWth(水式集熱器の325.9GWthと空気式集熱器の 3.6GWthを含む)に上った7。(図18を参照)。年末までに は、年間約276.6TWh(996PJ)の熱を供給するだけの設 備容量があった8。 中国は需要をもけん引しており、2013年には46.2GWth(2012 年比3.3% 増)を追加した9。同国では既存設備の更新割合 は過去数年に比べて低かったものの、新規の集熱器の21% という相当な割合が更新に充てられ、新規導入量のうち追 加分は約36.6GWthで、総導入量としては217GWthであっ た10。中国では、太陽熱温水器のコストの方が、耐用年数 にわたり電気またはガス温水器を使用するよりもはるかに安 価であることが市場をけん引する要因となっている11。中国 都市部の共同住宅において太陽熱利用が急速に拡大して おり、その中には建物の屋根もしくは正面一体型システムな どがある。都市部門は2013年の市場の約半数を占め、主 に環境配慮型建築に関する政策と太陽熱利用の義務化に 後押しされて成長した12。 欧州連合(EU28か国)は、最も多様な太陽熱利用技 術の活用を支援している市場である13。欧州の稼働容量 は2012年に2012年 比7.5% 増の30.2GWthとなったが、 年間市場は4年連続で縮小し5.8% 減の2.3GWth に落ち 込んだ14。中国を除けば、同地域は引き続き2013年に追 加された設備容量の大きな割合を占めた。しかしながら、 多くの国で成長は再び縮小した。その理由としては、主 に金融危機の影響で建築・改築の件数が低迷し、とくに オーストリア、ドイツ、フランスにおいて太陽光発電とヒート ポンプ市場からの圧力がかかり、太陽熱利用の支援政策 が削減されたことが挙げられる15。総導入量において、長 い間 EUを先導しているドイツとオーストリアの市場はいず れも著しく縮 小した。ドイツは2013年もEU 最 大となる 0.7MWth を追 加して 合 計 12.3GWth を記 録した が、 2012年比で11% の減少となり、2011年の9.4% 減に続い た16。オーストリア市場は、2011年の約13% 減、2012年 の約16% 減に続き2013年には14% 減少した17。 ここ6年間で、ブラジル市場は2倍以上になり、2013年に は約1GWthを追加し合計7GWth に迫った18。同国では 主に太陽熱利用の経済的競争力と、貧困世帯向け新築 住宅に太陽熱温水器の設置を義務付けるMinha Casa, Minha Vida(「私の家、私の生活」)といった、地方 自治体による建築基準や公営住宅制度により需要が生み 出されている19。メキシコも存在感を示し始め、アルゼン チン、チリ、コスタリカ、ウルグアイの市場も規模はきわめ て小さいが成長している20。 中国を除くと、インドと日本がアジア最大の市場である。イン ドは2013年に0.9GWthを追加し、年末には計5.2GWthとなっ た21。日本市場は2012年、2013年と安定が続き、1年あた り0.1GWthを追加したが、古くなったシステムの除去によっ て累計設備容量は減少している22。タイ市場は国による奨 励政策と燃料価格の値上がりに後押しされて5年間の堅調 な伸びを見せた後、2013年には助成を受けているシステム の市場が28% 減少した23。この減少の直接的な原因は、 i 2012 年は、確実な世界的データと最多の国の統計が入手できる最新の年である。 空気式集熱器を含む。2012 年に新たに導入された(設備更新分を含む)水式集熱器は総計 55.4GWth となり、年末には合計 281.7GWth に上った。 iii GSR では本報告書から一貫してガラス管・非ガラス管型水式システムの両方を含める。詳細は P142 の方法論に関する注釈参照。 iv 図 18 における 2012 年のデータは水式集熱器の総導入量であり更新による容量も含むが、更新による容量は中国の新規導入量の大部分を占める。2013 年を例に挙げると、中 国の新規導入量の約 21%(9.6GWth) は既存の設備容量の更新によるものであった。 ii ─ 49 ─ 第2章 設計の質を高め、製造および建設における技術改良を通じ て、CSPのコストは下がり続けている。SHEC エナジー(カ ナダ)は新しい製造技術の採用(軽量材料や高い強度を 持つ材料、専売の補強材技術の利用)および、軽くて頑 丈な構造を生み出すために製造工程をオートメーション化す ることで、材料コストの大幅な削減を達成した40。 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 太陽熱利用と冷房 図16.世界の太陽熱利用システム設備容量 上位10か国の割合(2012年) 出典: 本章の 巻末注4を 参照 中国 64% 米国 5.8% ドイツ 4.2% トルコ 3.9% ブラジル 2.1% オーストラリア 1.8% インド 1.6% オーストリア 1.2% 日本 1.1% イスラエル 1.0% 次点の9か国 23% 世界のその他地域 13% 図17.太陽熱利用システム追加容量 上位10か国(2012年) 出典: 本章の 巻末注5を 参照 ギガワット熱 50 + 44.7 1.2 40 非ガラス管式集熱器 ガラス管式(真空管型集熱器) ガラス管式(平板型集熱器) ギガワット熱 + 1.1 + 1.0 1.0 30 + 0.8 0.8 + 0.8 + 0.7 + 0.6 0.6 20 0.4 10 + 0.2 0.2 + 0.2 + 0.2 1.0 0 中国 トルコ インド ブラジル ドイツ 米国 オースト イタリア イスラエル ポーランド ラリア 図18.世界の太陽熱利用システム設備容量(2000年∼2013年) 出典: 本章の 巻末注7を 参照 世界合計 ギガワット熱 300 250 326ギガワット熱 ガラス管式集熱器 非ガラス管式集熱器 世界合計 200 150 100 50 0 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 空気式集熱器以外の太陽熱集熱器のデータを示している。 ─ 50 ─ 同国における新しい太陽光発電計画だと考えられており、 その結果太陽熱利用への投資が減少した24。 トルコ、米国、オーストラリアは引き続き重要な市場であるが、 本報告書出版時点において2013年のデータは入手できて いない。トルコは2012年に1.1GWthを追加し、年末には 10.8GWthとなり、総稼働容量4位の座を維持した25。市場 は2011年の急伸に比べると減退したものの、概して政府に よるインセンティブが無い中できわめて安定していた26。 非ガラス管型水式集熱器の総数のおよそ60% が稼働してい る米国では、年間で推計3万件のプール用システムが導入 されている27。米国は太陽熱集熱器面積では2位の座を保 持し、2012年末の設備容量は16.2GWth(うち14.3GWth が非ガラス管型)であったが、同年の追加分は0.7GWth で6位となった28。米国のいくつかの州では自然エネルギー 割当義務制度(RPS 制度)に太陽熱利用システムを組み 込んだり、電気事業者が太陽熱利用システムの利用で RPS 制度の要件を満たせるようにしている29。 家庭用給湯と暖房に利用される従来の平板型あるいは真 空管型集熱器は、通常60℃以下の熱を供給する42。高度 な集熱器は、太陽熱を利用した地域熱供給や商工業用に も応用可能で、使用温度は通常60〜120℃となり、冷房シ ステムを駆動させることもできる43。パラボリックトラフ型、ディッ シュ型、フレネル型(集光型太陽熱発電(CSP)の中でも 小型で特定の用途に用いられる)などの集光型システムは 産業工程に用いたり、二段吸収または三段吸収式冷凍機 を駆動させるためにより高温の熱(通常120〜250℃、もしく は400℃まで)を供給する44。 すべての水式集熱器を考慮に入れると、一人当たりの導入 量ではキプロスが2012年も首位で、1000人当たり548kWth となり、以下オーストリア(420kWth) 、イスラエル(385kWth) 、 バルバドス(320kWth) 、ギリシャ(268kWth)となった35。 太陽熱利用システムのほとんどが家庭での給湯に利用さ れ、一般的に需要の40〜80%をまかなっている36。ホテル、 学校、集合住宅、その他大規模な複合施設向けのより 大きな家庭用給湯システムが好まれる傾向にある37。暖房 用の太陽熱利用システムの利用もとくに中欧で普及してお り、100% 太陽熱利用の建物が披露された(一般的に太 陽熱は暖房需要の15〜30%をまかなっている)38。温水 と暖房の両方を供給する“コンビシステム”は、世界の太 陽熱利用市場の約4%を占める39。それらは欧州(とくに オーストリア、ドイツ、イタリア、ポーランド)で最も一般的で、 オーストリアとドイツにおける導入システムの約40% にあた る40。太陽熱は様々なバックアップ用の熱源と組み合わせ ることが可能で、ヒートポンプとのハイブリッドシステムは欧 州で普及している41。 太陽熱技術はますます産業に用いられ、熱、蒸気、冷却、 空調に使われている54。産業上の主な用途としては食品 加工、調理、紡織などが挙げられる55。2013年にチリで 稼働を開始した世界最大の低温熱システムは、ガビ鉱山 の熱需要の85%をまかなうと見込まれている56。2013年の 事業としては他に、メキシコおよびスイスの乳製品製造所、 ケニアおよびタイの皮革工場、ドイツの化学薬品製造工場 などがある57。インドは集光型太陽熱利用システムの利用 でリードしており、145以上のシステムで主に調理用の蒸気 が製造されている58。同国では燃料価格の上昇をうけて急 速に拡大し、2014年初めに推計40MWth が産業に利用 された59。2013年には複数の国でとくに太陽熱プロセス加 熱向けに資金提供が行われた60。 産業用の地域熱供給ネットワーク、太陽熱空調、太陽熱 プロセス加熱への関心が世界中で高まっているとはいえ、 世界の太陽熱利用容量に占める割合は1% 程度に過ぎな い61。水処理や海水淡水化といった新しい用途がもつ大き な可能性も、手つかずのまま残っている62。 ─ 51 ─ 第2章 太陽熱技術を中心熱源とする地域熱供給システムは増加 しているが、バイオマスなど他の熱源と組み合わせる場合 が多い45。このようなシステムの市場は比較的小さいままだ が、昨今ではとくに欧州全土で関心が高まっている46 。 EU20か国で200件以上の太陽熱による地域熱供給施設 が稼働しており、システムの価格競争力があるデンマーク がこのうちの50件を、オーストリア、ドイツ、スウェーデンが それぞれ20件ずつ所有している47。欧州以外でも関心は高 まっており、カナダ、中国、南アフリカでも大規模な熱利用 オーストラリアは2012年に推計0.6GWthを追加し(71% が システムが稼働している48。2013年に建設された700kWth 非ガラス管式) 、年末には計5.1GWth(59%が非ガラス管式) (1000㎡)以上の施設は少なくとも17件あり、2014年初め には世界最大の施設がデンマークで稼働を開始した49。 に達した30。同国の多くの世帯では太陽熱利用システムで 水を加熱しており、システムの件数ではニューサウスウェー ルズ州が最多である。2013年初めには63万件を超えるシス 太陽熱冷房の世界市場は未だ小さいが、2004〜2012年 テムが稼働していた31。 の成長率は年平均40%を上回り、2013年までにすべての タイプおよびサイズを合わせて約1050件のシステムが導入 中東では、イスラエルが総設備容量で先行し(85% の世 された50。これらの多くは欧州にあるが(81%)、太陽熱冷 帯が太陽熱利用システムを使用) 、ヨルダンとレバノンがこれ 房の利用はオーストラリア、インド、地中海諸島、中東など 32 に次ぐ 。アフリカには太陽熱利用システムによって水を加熱 の日照条件が良く乾燥した気候の多くの地域で増加してい している国がいくつかあり、エジプト、モザンビーク、チュニ る51。住宅用の小規模(<20kW)な太陽熱冷房設備の ジア、ジンバブエ、サハラ以南で最も成熟した市場である 有用性が中欧などの住宅部門で注目されている一方で、 南アフリカなどが該当する33。しかしながら多くの発展途上 大規模なシステムはより経済性が高いことから魅力を増して 国の市場では、基準が存在しないために不良品や低品質 いる52。冷房需要が高い国において、ピーク時の電力需要 の設備が利用され、太陽熱利用の評価が下がるという課 を抑える可能性があることも太陽熱冷房市場をけん引して 題を抱えている34。 いる要因の1つである53。 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 太陽熱集熱器を組み合わせ、電力と熱を同時に生み出す 多種多様な太陽熱(PV-T)ハイブリッド型太陽熱集熱器 を製造していた77。 中国製の廉価なガラス管の故障率の高さから、品質基準 や品質保証が引き続き注目を集め、産業の輸出戦略におい て基準と保証の調和が重要な役割を果たした78。9月には、 国際標準が集熱器検査の国際規格を承認したことで、欧 州において新しい各種集熱器技術がSolar Keymark(ソー ラーキーマーク)認証を取得するための下地ができた79。さ らには国内基準に取り組んでいる国もある80。 産業向けの集光型集熱器に特化するメーカーが世界中で 増えている81。太陽熱プロセス加熱はすでに多くのニッチ市 場では競争力があるが、技術は広く知られてはいない82。 ■太陽熱利用・冷房産業 中国は数年来、太陽熱産業において首位を維持しており、 2013年には推計50.1GWth(7160万㎡)の集熱器を製造 した63。産業全体の売上高に比べれば輸出活動は依然とし てわずか(2012年に1.8%、3億米ドル)ではあるが、増加 は続いた64。中国製真空管の市場占有率は、ポーランド、 トルコ、インドなど価格志向の輸出市場で引き続き伸びた65。 一方、欧州では2013年に統合が加速し、複数の大きなメー カーが太陽熱製造業からの撤退を発表した66。経営陣によ る自社買収によって集熱器技術と商標の放棄を回避した事 例が2件ある67。しかしながら欧州のより小さな集熱器メーカー の多くは、激しい価格競争と、欧州以外、とくに中国から の安価な輸入品により、もはや自社製品に経済的採算性が あるとは考えていない68。減少する国内需要を補うべく、多 くの欧州企業では地域パートナーシップや投資を通じて海外 市場に着目している69。 南アフリカのサプライチェーンは統合の局面を迎えており、 太陽熱温水器市場の企業数は2011年の700社超という多 さから2013年には約400社にまで減少している70。ブラジル には2013年半ばまでに約150社の太陽熱メーカーが存在し た71。多くが国内市場に注目する中、少数ではあるものの 域内の他国へ輸出する企業もあった72。 2013年、現在と未来の市場発展に寄せる産業の期待が最 も明るかったのは、インドとギリシャであった73。インドのメーカー は急速な市場発展に対応して生産能力を拡大し、垂直統 合をした74。 太陽熱利用技術の生産コストは低下し続けた。たとえば欧 州では、1995年から2012年にかけて、導入容量が倍増す るごとに標準的な集熱器の生産コストは約23%、もしくは 50% 近く、上記の期間を通じて低下した75。新技術も生ま れてきている。たとえば2014年初めには80を上回る企業(主 に欧州)で、家庭用給湯と暖房の両方に利用できるハイブリッ ド型太陽熱連結ヒートポンプシステムが130以上製造されて いた76。少なくとも12か国の約30企業が、太陽電池と水式 太陽熱冷房設備のコストは下がり続け、2007〜2012年で 45〜55%(システムの規模による)下がった83。各種の太 陽熱冷凍機はその標準化に伴い2013年も増え続けた84。 少なくとも2つの欧州企業が5kWまでの小規模システム向け の冷凍機を新たに発表し、欧州とアジアの企業が排熱を活 用する(システムから生じる排熱を取り除く)冷房設備を発 表した85。コスト削減と計画に要する時間短縮のため、排 熱システムの代替案が開発されている86。新しい冷凍機の 他にも、とくに大規模な産業システム向けの革新的な技術 が誕生し続けている87。 風力発電 ■風力発電市場 2013年に35GW 以上もの風力発電設備容量が追加され、 世界の総設備容量は318GWとなった 1 (図19および表 R10 参照)。過去数年の記録をさかのぼってみると、主に米国 市 場での急 落を反 映し、 風 力 発 電 市 場は2012年 比で 10GW 近く縮小した2。上位10か国は、年末時点で世界の 総設備容量の85%を占めていたが、すべての地域で活発 な新興市場が存在した3。2013年の終わりまでには、少なく とも85の国で商業用風力発電が稼動しており、少なくとも71 の国で年末までに10MW 以上の容量を持っていることが報 告されており、24の国で1GW 以上が運転中であった4 。 2008年末以降の、風力発電の累積容量の年間成長率は 平均21.4% であった5。過去10年間で世界の総容量は8倍 に増加した。 アジアは6年連続で最大の市場であり、追加容量の52%を 占め、EU(約32%)、北米(8% 以下)が後に続いた6。 非 OECD(経済協力開発機構)諸国は設備導入の大部 分を占め、ラテンアメリカが初めて相当なシェア(4.5% 以上) を占めた7。中国は市場を主導し、大きく離れてドイツ、イギ リス、インド、カナダが続いた。その他の上位10か国は米国、 ブラジル、ポーランド、スウェーデン、ルーマニアであり、ア フリカ、アジア、そしてラテンアメリカで新市場の出現が続 いた8。1人当たりの風力発電容量の上位国はデンマーク(1 人当たり863W)、スウェーデン(1人当たり487.6W)、スペ イン(1 人 当 たり420.5W)、 ポ ルトガ ル(1 人 当 たり 412W)、そしてアイルランド(1人当たり381W)であった9。 ─ 52 ─ 中国は2013年に推定16.1GW の新規容量を追加し、総導 入容量を21% 増加させ91.4GWとなった10 (図20参照) 。約 14.1GW が送電網に接続され、年末までにおよそ75.5GW が商業運転の状態にあった11。タービン(特に遠く離れた 北東地域)から需要のある都心部へ電気を送る際の障害 がいまだに残り、16TWh の電力が出力抑制のために失わ れた12。しかし、良い系統接続状況にある地域での新たな 送電網とタービンの導入により休止中の設備の数が減少し、 2012年に17% であった出力抑制は2013年に11%に減少し た13。 風力発電は2013年に1401億 kWhを中国で発電し、2012 年から40% 上昇し、2年連続で原子力発電を上回った14。 年末には25% 近くの設備容量がモンゴル自治区にあり、次 いで河北省(10%) 、甘粛省(9.1%) 、遼寧省(7.3%) であった。しかし風力発電は中国全土で拡大しており、そ れぞれ3GWの設備容量がある州は10州に上った15。 EU は総風力発電設備容量で最大の地域であり、世界の 37%を占めたが、アジアが36%を越え、EUを追い上げて いる16。風力発電が2013年の EU 発電容量の追加分の最 大のシェア(32%)を占め、11GW 以上もの風力発電容 量が追加され、総容量は117GWを超えた17。EU の風力 発電は洋上へ向かっており、洋上風力の市場は34% 増加 した18。しかし、EU 地域での市場全体では2012年比で 8% 減少しており、政策の不透明性や支援の縮小を受け、 新規案件への融資はますます困難になっている19。 その他の上位の EU 市場はポーランド(0.9GW)、スウェー デン(0.7GW)、ルーマニア(0.7GW)、そしてデンマー ク(0.7GW) であった25。フランス(0.6GW)とイタリア (0.4GW)の両国は2013年に大幅な市場の下落を経験 した26。スペインは総設備容量で EU 地域第3位であった が、最近の政策変更により市場は事実上の行き詰まり状 態で、過去16年間で最低の追加量(0.2GW 以下)であっ た27。クロアチア(68%)とフィンランド(56.3%)は低水 準からの高い成長率を示し、ルーマニア(36.5%)とポー ランド(35.8%)も高い成長率を見せた28。スロベニアは 初めて風力発電容量を導入した29。 インドでは需要が26% 縮小したが、2013年は世界第4位の 市場であった 30。17.GW 以上が導入され、総計は20.2GW に達した31。米ドルに対するルピーの大幅な下落(融資と輸 入コストを増加させた)と2012年の主要支援政策の終了に より、風力発電への投資が遅延した32。しかし、2013年末 の遡及的な発電補助インセンティブの復活が市場復活を手 助けした33。アジア地域のその他の国では、日本で新規の 法的規制や系統接続の遅れから設置が減速した一方で、 タイとパキスタンは容量を倍増させた34。 カナダは記録的な数値となる1.6GWを導入し、市場は70% 以上増加し、総計は7.8GWでオンタリオ州(2.5GW)とケベッ ク州(2.4GW)が主導した35。米国は2013年末に61.6GW となり、1GW 強の増加があった36。これは2012年の13.1GW からの大幅な低下となっており、開発事業者は生産税額控 除(PTC)が失効する前の2012年中にプロジェクトを完成 させるよう急いだことが理由として考えられる37。それでも、 電力会社や法人の買い手は安価な電力価格に対して記録 的な数の長期契約を結び、12GW 以上のプロジェクトが年 末までに建設中であった38。テキサスは合計 12.4GWで首 位に立ち、カリフォルニア(5.8GW) 、アイオワ(5.2GW) 、 第2章 ドイツとイギリスは EU における新規導入の46%を占め、 2007年以来の集中ぶりとなった20。再生可能エネルギー電 力法(EEG)の改正への予測から、ドイツは欧州最大の 市場の地位を保持し、過去最高の導入量を記録した21。 0.2GW 以上のリパワリングを含む3.2GW 以上が2013年にド イツの電力系統に追加され、年末までには計34.3GW が送 電網に繋がれた(総導入量は34.7GW)22。また、ドイツは 2013年に53.4TWhを風力で発電した23。イギリスは1.9GW を追加し、そのうちの39% が洋上で年末には計10.5GWで あった24。 ─ 53 ─ 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 イリノイ(3.6GW) 、オレゴン(3.2GW)が後に続いた39。 岐にわたる方法で拡大している57。 その他の地域では、ラテンアメリカで最大の成長が見られた。 ブラジルは0.9GW 以上の容量(2012年の1.1GW から減少) を導入し、新規設備導入量世界第7位となった40。ブラジル はラテンアメリカ地域の4分の3近い3.5GW の認定容量で年 を終えた。そのうちの2.2GW が系統連系型で商業運転で あった41。電力事業者の風力発電への関心は、ブラジルの 水力発電への依存を軽減させるため増加しており、年末ま でに10GW 以上の追加容量が契約中であった42。同地域で 風力発電容量を追加したその他の国はアルゼンチン、チリ、 そしてメキシコであった43。 独立型の小規模iタービンの使用が増加しており、利用法と しては防衛、農地電化、揚水、蓄電池充電、通信、およ びその他の遠隔用途を含む58。オフグリッドとミニグリッドの活 用は、発展途上国で普及している59。世界では、2012年 末時点で少なくとも80万6000本の小規模タービンが稼動中 で、678MWを超えた(2011年から18% 増)60。ほとんど の国が小規模タービンを使用しているが、容量は2012年末 までに中国が推定274MW、米国が推定216MWで優位を 占めている61。イギリスが小規模発電用 FITにより2012年に 記録的な38MWを導入して両国の後に続いており、総計 は100MWを超えた62。その他の主要国はドイツ、ウクライナ、 カナダ、イタリア、ポーランド、スペインである63。 オーストラリアは再び太平洋地域で風力容量を追加(0.7GW) した唯一の国で、総計3.2GW 以上となった44。ロシアのガス への依存度が高いため風力発電への関心が部分的に高まっ ているトルコでは、0.6GW が導入され、総計は3GWに近 づいた45。アフリカと中東ではモロッコ(0.2GW)とエチオピ ア以外で稼働容量の追加はほとんど見られなかった。エチ オピアでは乾季が水力発電の出力に与える影響を和らげる ために、アフリカ最大のウインドファーム(120MW)を完成 させた46。しかし、アフリカのその他の国では新規プロジェク トを押しすすめ、長期計画を発表する国もあった47。 洋上風力は世界の陸上風力発電容量と比較するといまだ に小規模だが、急速に成長している。年末までに世界14 か国で7GWを超える送電網に、1.6GWという記録的な容 量が追加された48。総容量の93% 以上が欧州外に位置し、 11か国で総容量6562MW の送電網に1567MW が追加さ れた49。イギリスは世界の洋上風力発電容量の52% 以上を 占めている。イギリスは2013年 に 世 界 で 最 大 の 市 場 (733MWを追加)で、欧州ではデンマーク(350MW) 、 ドイツ(計595MW、240MWが系統に接続) 、そしてベルギー (192MW)が続いた50。しかし、EUの記録には現れないが、 とくにドイツやイギリスでの政策の不確実性により起きた遅延、 コストや野生動物への懸念によるプロジェクトの取り消しや 小規模化もあった51。残りの洋上風力発電容量は中国、日 本、韓国にあり、中国はおよそ430MW の総計に39MWを 追加した52。米国では2つのプロジェクトが生産税額控除の 失効前に認定を受け、米国初の商業洋上風力発電となる べく競い合っている53。 洋上と陸上の両方で、独立系発電事業者と電力事業者 が導入設備容量の観点で市場における最も重要な顧客で あった。しかし、その他の分野でも関心が高まっている。 大企業の風力発電とタービンの購入は、2013年に増加が 続いた54。さらに、コミュニティ所有型の風力発電プロジェク トがオーストラリア、カナダ、日本、米国、欧州の一部とそ の他の地域でも増加している55。コミュニティ所有型と組合 所有型の電力事業は、長らくデンマークとドイツの主要な所 有モデルを代表するものであった56。現在共同所有は、ク ラウドファンディングなどの革新的な融資メカニズムを含む多 既存の風力発電のリパワリングも近年増加した。古くなった 風力発電タービンをより大きく、高く、数を減らし、そしてよ り効率的で信頼性が高い設備へと交換するリパワリングが 行われた理由の一つは技術革新であり、別の理由は電力 系統のルールにより対応することと騒音や鳥類の死亡率を 低減させながら、発電量を増加させたいという希望であっ た64。(補足5を参照。)リパワリングはデンマークとドイツでイ ンセンティブと老朽したタービンが原因で始まり、他国へも広 がった65。2013年中にデンマーク、フィンランド、そして日本 でタービンのリパワリングが行われ、ドイツでは373基で総容 量236MWのタービンが256基で726MWのタービンに置き換 えられた66。また、中古タービン市場も発展途上国や新興 経済において国際的に成長している67。 風力発電はますます多くの国で重要な電力源になりつつあ る。EUでの年末の風力発電容量は、平均的な風量の年 における電力消費の8%をまかなうのに十分な量であり(2012 年の7% から増加) 、いくつかの EU 諸国ではさらに高い割 合が風力によってまかなわれた68。風力は2013年にスペイン で最大の電力源(16.3%から20.9% へ上昇)であり、デンマー クで33.2% の電力需要を満たした(30% から増加)69。ドイ ツの4つの州では、年末時点で電力需要の50% 以上を満 たすのに十分な風力発電容量があった70。米国で風力発 電は総発電量の4.1%(2012年の3.5% から増加)を占め、 9州で需要の12% 以上(2012年の10% から増加)を満たし、 アイオワ州では27% 以上(25% から増加) 、南ダコタ州で は26%(24% から増加)であった71。また、中国では発電 量の2.6%を占めた72。世界的には、2013年末の風力発電 容量は、総電力消費量の推定2.9%を満たすのに十分な量 であった73。 ■風力発電産業 過去数年にかけて、風力発電の資本コストは主に競争を通 じて低下したが、タワーが高くなり、ブレードが長くなり、風 速が遅いエリアでは発電機が小さくなったなどの技術的進 歩によって設備利用率が上昇した74。このような進歩が風力 により発電された電気の価格を低下させ、化石燃料と比較 i 小規模風力発電システムは、一般的に住宅用電源、農場、あるいは中小企業の電力消費をまかなう規模のものを含むと考えられている(国によって消費水準が大幅に異なること に注意)。The International Electrotechnical Commission(IEC: 国際電気標準会議)は上限を 50kW と設定し、世界風力エネルギー協会(WWEA)と米国風力エネルギー協会 は、100kW 未満を“小規模”と定義していて本報告書でもこれを利用している。しかし規模はニーズ、または国、州 / 地方の法律に応じて変化し、世界的に認められた定義やサ イズの制限はない。詳しくは Stefan Gsaenger and Jean Pitteloud, Small Wind World Report 2014 (Bonn: WWEA and New Energy Husum, March 2014), Executive Summary, http://small-wind.org/wp-content/uploads/2014/03/2014_SWWR_summary_web.pdf. などを参照。 ─ 54 ─ このような有望な傾向にも関わらず、2013年に風力発電産 業はコスト低下への圧力、タービンメーカー間の競争の熾 烈化、一部の市場での低コストのガスとの競争、経済緊縮 による政策支援減少、主要市場での下落、といった課題 に直面している77。欧州では、市場の収縮が業界再編を誘 発し、製造業者であるBard 社とFuhrländer 社(どちらも ドイツ企業)が2013年末に破産を申請し、Vestas 社(デン マーク)は従業員を30% 削減している78。欧州のタービンメー カーは、2013年に中国国内の製造業者が市場の93% 以上 (6年前の28% から増加)を占めるようになった中国でも減少 を経験した79。米国では新規タービンの受注不足から工場 閉鎖と解雇が見られたが、年末には生産容量が大幅に増 強され、風力関連の生産は50州中44州で行われた80。イン ドでは巨額の負債と数年間苦闘していたSuzlon 社が、10 年間で初めてトップの座を譲った81。 送電網に関する課題は増加しており、その課題は送電イン フラの不足、系統連系の遅れ、近隣諸国を通過する電力 の迂回、規制と既存の管理システムにより抑制されている 大容量の風力やその他の自然エネルギーの統合などが挙 げられる82。さらに、アフリカやラテンアメリカなど、新興市 場が急成長を遂げている地域において熟練した人材が不 足しており、成熟した市場では、政策見通しの不透明性に より、訓練を受けた人材を同セクターに引き止めておくことが 困難になっている83 (自然エネルギーの雇用についての詳細 は補足6を参照。) 世界のほとんどのタービン製造業者は中国、デンマーク、ド イツ、インド、スペイン、米国、そして日本にあり、部品は多 くの国から供給されている84。製造業者がブラジルでますま す増えており、フランスと韓国も風力技術の生産国として注 目され始めている85。世界のタービン製造業者の上位10社 が、2013年の市場の70% 近くを占めた(2012年の77% か ら減少)86。Vestas 社(デンマーク)は、米国での低調な 市場に悩まされて5位に転落したGE Wind 社(米国)か ら首位の座を奪還した。Goldwind 社(中国)は4つ順位 を上げ2位になり、Enercon 社とSiemens 社(どちらもドイツ) が昨年とは順位を入れ替えて後に続いた。その他の上位 製造業者はGamesa 社(スペイン) 、Suzlon Group 社(イ ンド) 、United Power 社とMingyang 社(どちらも中国) 、 87 そしてNordex 社(ドイツ)であった 。(図21を参照。) 課題に対処し利益を維持するために、タービン製造業者は、 部品の共通化やジャストインタイム式の備蓄などの手法を用 いサプライチェーンを改善している88。多くの製造業者が重 要な部品をいまだに製造しているが、アウトソーシングや多 品種少量自動生産システムへの移行傾向がある89。売り上 げが低下した時でも安定したビジネスが行えることと、競争 的な市場で価値を高められることから、プロジェクトの操業 やメンテナンスにますます集中している会社もある90。協同で 事業をする会社もあり、三菱重工業(日本)とVesta 社、 そしてAreva 社(フランスの原子力供給会社)とGamesa 社が洋上風力発電の開発に向けて合弁事業の計画を発表 した91。多くの企業が垂直統合を行っており、風力タービン 専業の製造者はほとんどいなくなっている92。 現地調達ルール、低コスト融資、リードタイムの短縮化、通 貨レートの変化と関税からの影響の抑制、そして巨大で重 いタービンや部品の運送に関するコストや物流問題の減少 を受けて、現地調達が増加している93。輸送コストを下げる ために、初期段階の試みではあるが、Vestas 社と欧州の 運送業者であるSNCF(フランス) 、そして Siemense 社の 米国法人はブレードを鉄道で輸送し始めた94。 タービン設計はコストの削減と生産性の向上のために絶え 間なく進化しており、傾向としては、より大きな設備(より高 ─ 55 ─ 第2章 した風力発電のコスト競争力を向上させた。いくつかの市場 (オーストラリア、ブラジル、チリ、メキシコ、ニュージーランド、 南アフリカ、トルコ、EU 諸国のほとんど、インドと米国のいく つかの地域)では、補完的な支援制度なしの陸上風力発 電による発電コストは、キロワット時あたりで新設の石炭また はガス火力発電所と比較しても競争力を持つか、ほぼ遜色 の無い水準に達している75。ある概算では、世界の陸上風 力発電のメガワット時あたりの平準化コストは、2009年から 2014年初頭の間に15% 減少したが、洋上風力のコストは深 さが増したことと、海岸から離れたことにより増加した76。 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 風力発電 図19.世界の風力発電総設備容量(2000年∼2013年) ギガワット 350 世界合計 300 283 250 238 198 200 159 150 121 100 94 50 0 71 10MW 24 1GW か国が 以上を導入し、 か国が を導入 以上 出典: 本章の 巻末注1を 参照 318ギガワット 17 31 24 39 74 59 48 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 図20.風力発電設備容量および追加容量 上位10か国(2013年) ギガワット 100 + 16.1 2013 年追加 2012 年既存 80 + 1.1 60 40 +3 + 0.2 20 0 出典: 本章の 巻末注10を 参照 + 1.7 + 1.9 中国 米国 ドイツ スペイン インド 英国 + 0.4 + 0.6 + 1.6 + 0.6 イタリア フランス カナダ デンマーク 追加容量はリパワリングを考慮した正味の数値である。 図21.風力タービン製造上位10社による市場占有率(2013年) 出典: 本章の 巻末注87を 参照 Vestas Goldwind Enercon (ドイツ) (デンマーク)(中国) 13.1% 11.0% 9.8% Siemens (ドイツ) 7.4% その他 30.5% G.E Wind (米国) Gamesa(スペイン) 5.5% 2013 年に デンマークで 風力 によって 6.6% Suzion Group(インド)5.3% 賄われた電力: 次点の 製造業者 5 社 United Power(中国)4.0% Mingyang(中国) 3.5% Nordex(ドイツ) 3.3% 33.2% 37.5GWまでの販売量に基づく ─ 56 ─ 10年間におよぶ風力発電部門の急成長は多くの国の 電力構成を変化させ、多大な環境的恩恵をもたらし た。風力発電は生態系への深刻な影響が懸念される 化石燃料の採取と採掘活動に取って代わるものであ る。風力発電のライフサイクルCO2排出量はキロワッ ト時あたりで天然ガスの40分の1であり、石炭の80 分の1である。人類や生態系への気候変動による脅 威を減少させている。 しかし、風力発電の出現が環境と社会への影響に関 する懸念を生み出した。その多くが大規模インフラ 開発の典型的な影響で、そのこと自体は理解され対 処が可能である。いくつかは風力発電に特有なもの であり、課題の定量化、合意、そして関連するリス クの緩和に向けた集中的な研究が行われている。そ の他は主観的なものか、既存の証拠や進行中の研究 により実証されていないものである。 観測または主張されている影響としては、視覚的な ものや美観への悪影響、騒音の発生、土地利用の影 響、野生生物の死亡、コミュニティ内での論争や不 信、そして原材料の消費などがある。洋上風力発電 は海洋生物への騒音や振動による影響、海底や海洋 生態系の妨害、航海安全や大洋航路、漁業への影響 といった海洋に特定の影響を与える可能性がある。 現在は統計や医学的証拠により支持されていない が、超低周波音、電波障害、騒音、シャドウフリッ カー、そしてタービンからの光の反射が公衆衛生へ の影響に繋がるかもしれない、という主張もあった。 風力発電がもたらす影響のうち、いくつかは技術革 新により緩和されている。より細い後縁と空気力学 に基づくブレードの先端を持つタービンブレードの 開発は、高い効率性と騒音発生の減少という結果に つながった。最新式の風力タービンの騒音はその他 の周囲の騒音と比較すると聞こえない場合が多く、 建設中に海洋生物に与える影響を低下させるため、 くい打ちの騒音を減少させる「気泡カーテン」の使 用を含むさまざまな技術が適用または開発されてい る。 ビンをアイドリングさせることにより、コウモリの 死亡率を大幅に低下させられることが証明された。 その他の調査中の分野には、鳥の群れとの衝突を避 けるために運転を停止させる衝突検知システムや、 より可視的な形や色のタービンの使用、そして巣作 りを防ぐ形のタワーやタービンの使用などが含まれ ているi。 研究によると、タービンの土地利用による影響は、 土地面積の使用という視点から見ると小さく、典型 的なもので、恒常的に利用されるのはMWあたり0.4 ヘクタール以下であり、建設時にはおよそMWあた り1.4ヘクタールが使用される。周囲の土地は公園用 地、農業や高速道路といった有効な方法で使用可能 である。入手可能なレアアース(ダイレクトドライ ブ方式風車に使われる)をめぐる懸念は、代替可能 な素材、資源の貯蔵、代替可能な鉱床の開発などの 研究により、積極的に軽減されているii。 より良い計画と規制を通じた影響の管理も行われて いる。ウインドファームは景色や展望の外観を大幅 に変えてしまうが、そのような影響は、環境アセス メントの効果的な利用、開発段階における市民参加、 そして適切なタービンの設置を通じて緩和または回 避可能である。市民参加のためのさまざまなガイド ラインが公共・民間団体により制作されており、風 力発電産業組合などが含まれている。さらに、オー ストラリア、アイルランド、南アフリカ、イギリス を含む多くの国々が影響評価や緩和、保証措置を命 じている。 補足「持続可能性についての特集」は自然エネルギー 世界白書の定期的な記事であり、特定の自然エネル ギー技術や関係する問題の持続可能性の側面に焦点 をあてる。 出典 : このセクションの文末脚注64を参照。 技術的解決法により鳥やコウモリとの衝突も軽減し ている。例として、 群れや単体の鳥が検知された時 に、タービンをアイドリングさせるレーダーやGPS システムがある。またコウモリのタービンへの接近 を阻止するために、超音波を用いた研究も進行中で ある。風況が低調の間(コウモリが活発な時)にター i 鳥やコウモリの衝突に関する研究によると、風力発電のタービンに関連する死亡率は、野生や飼い猫による捕獲、送電線による衝突や感電死、そして民家や建物、乗り物 との衝突など、その他の人為的影響よりも桁違いに低いと指摘されている。 ii レアアースの影響は自然エネルギー世界白書 2011 の「補足 3: 持続可能性への注目 : レアアース(希土類)鉱物と太陽電池リサイクル」にて扱われている。 ─ 57 ─ 第2章 補足5:持続可能性についての特集:風力発電 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 いハブ高さ、より長いブレード、公称容量の拡大)、操業・ メンテナンスコスト低下のための技術開発、より広範囲な風 況と運転状況での風力発電の経済性を改善するための技 術と戦略のシフトなどが挙げられる95。近年の進歩は低風 速地域での発電量を増加させた96。2013年には、GE 社が 個々のタービンとウインドファームの発電出力を向上させるサー ビスを始め、蓄電容量を備えた2.5MW のタービンを導入し た97。ギアレス方式やダイレクトドライブ方式風車の割合は 再び増加し(2008年の12% から2013年には28%)、洋上 用のオーダーメイドのタービン設計が引き続き増えている98。 2013年に市場に供給された平均的なタービンのサイズは 1.9MWであり、2012年の1.8MW から増加した99。ドイツの 平均的なタービンのサイズは2.7MW で、米国で1.8MW、 中国で1.7MW、そしてインドで1.3MWであった100。最大の 商業用タービン(Enercon 社の E-126で7.6MWに増加) は陸上で使用されている101。欧州の洋上に設置された平均 的なタービンは約4MWにとどまった102。欧州とアジアでは洋 上で 5〜8MW の範囲の新規設備が試験的に使用されて いるが、中国の主要製造は政府の補助金の後押しもあって、 10MW 以上のタービンを開発するため競い合っている103。 タービンの大型化に加え、洋上風力発電業界はより大規模 で、より沖合に進出し、水深の深い海域でのプロジェクトを 検討している104。現在までに深海域の洋上風力は、石油・ ガス産業に由来する基礎に注目してきたが、新しいデザイン が世界中で開発途上にある105。2013年に日本は2MWの浮 体式設備を2基導入し、その技術をできるだけ早く商業化し ようとしている。また、イギリスは浮体式洋上風力のリース 契約を開始した106。日本とその他の国はコストを削減し、洋 上風力が古くなった港や関連産業を復興させると期待して いる107。 タービンをより深い海域で厳しい天候のもとで導入するため、 新しく、より高性能な大型船が 現在開発されており、イギリ ス、中国、ドイツ、韓国の造船業社がその産業を拡大して いる108。大型船舶は、大きく長い海中ケーブルを大型でより 沖合のプロジェクトに届けるためにも必要とされている109。こ のような傾向により、近年価格が上昇している110。2014 年 初頭には洋上風力発電の平準化コストはメガワット時あたり 240ドル(172ユーロ/MWh)であったが、ライフサイクル 全体のコスト低下によるコスト削減の可能性は大きいと考え られている111。 小規模風力産業(<100kW)も2013年に引き続き成熟し、 世界中の多くの製造業者が販売ネットワークを拡大し、ター ビン認定の重要性を高めた112。ほとんどの製造業者やサー ビス提供社は中国、北米および欧州に集中している113。世 界の製造業者の4分の3が水平軸の設備を生産し、その他 は垂直軸もしくは両方の型の生産に集中した。ほとんどの 垂直軸のモデルは過去5〜7年に開発された114。 主な自然エネルギー技術、その特性とコストの概要は61〜 62ページの表2を参照115。 ─ 58 ─ 補足6:自然エネルギーの雇用と関連データ 世界的な経済回復の遅れから労働者市場は活性化せ ず、雇用創出が政策論争や国家による戦略的選択の 最重要課題となった。主に2012年から2013年期に行 われた広範囲におよぶ研究に基づくと、世界全体で 推計650万人iが直接または間接的に、自然エネルギー 分野の仕事に従事している。(表1と図22を参照。) 近 年 の 自 然 エ ネ ル ギ ー 価 格 と 投 資 の 傾 向 は、 バ リューチェーンの至る所で雇用創出に影響を及ぼし た。雇用は地域的な変化、業界再編、競争激化、技 術や生産過程の進歩、そして緊縮経済や政策不透明 性の影響などによっても影響を受ける。たとえば、 価格が下落している太陽光発電や風力発電の機器は 供給者に新たな課題をもたらしており、製造業の雇 用に影響を与えているが、設備の導入や操業・メン テナンス分野の雇用増加につながっている。 太陽光発電製造業の雇用は、競争や生産過剰が激化 する中で混乱を経験し、価格の下落は解雇の原因と なった。しかし、中国や日本などの大幅な需要の増 加が過剰供給の懸念の一部を和らげ、その他の部分 のバリューチェーンでは雇用は引き続き成長し、太 陽光発電が最大の雇用の源となった。 第2位の雇用の源はバイオ燃料のバリューチェーン で、145万人の雇用数であった。米国は最大の生産 国で、ブラジルのサトウキビベースのエタノール産 業が最大の雇用をもたらしている。 とシフトした。太陽熱温水技術における雇用は大幅 な減少を見せ、推計方法の変化による可能性が高い。 最新のデータが利用可能な2012年では、欧州で風力 とバイオエネルギー分野で大幅な雇用の増加が見ら れ、太陽光発電分野では大きく減少した。バイオ燃 料、バイオガス、そして地熱は若干増加し、ヒート ポンプと太陽熱部門では若干減少した。 米国では太陽光発電部門における雇用は急速に増加 しており、大部分が太陽光発電のプロジェクト開発 と設置であった。風力発電産業では、生産容量は大 きく増加したが、少し進んでは止まるという性質の 国家支援メカニズムが、雇用の周期的な変動を引き 起こした。 インドの最新のデータは入手できなかった。最近の 調査によると、風力と系統接続型の太陽光発電での 雇用は2009年と同水準である。太陽光発電メーカー は中国から輸入された安価なパネルに直面し、苦闘 した。 2013年に世界の雇用は引き続き増加し、バリュー チェーンの分野毎の顕著な変化が見られた。さらな る自然エネルギー分野の雇用パターンの分析が、根 本的な変化の源を徹底的に理解する上で必要とされ ている。 出典 : このセクションの文末脚注83を参照。 2013年の風力産業における雇用は、米国の新規導入 の激減と、欧州とインドでの不振市況をもたらした 政策の不透明性により影響を受けた。これは中国と カナダの好調さによって相殺された。洋上風力では、 欧州が5万8000人で世界の雇用の大部分を占めてお り、イギリスが主導した。 自然エネルギーの雇用はさらに多くの国へ進展し続 けているが、雇用の大部分は中国、ブラジル、米国、 インド、バングラデシュ、そしていくつかの欧州諸 国といった少数の国に集中している。 中国が引き続き自然エネルギー部門で最大の雇用主 であり、雇用の60%が太陽光発電に集中し、2013年 にはバリューチェーンにおける設置作業での雇用へ i IRENA によって推定されたこの世界全体の数字は、自然エネルギー白書 2013 の推定 570 万人と直接的な年度ごとの比較として理解されるべきではなく、データの精度 向上に向けた進行中の取り組みとしてとらえられるべきである。世界の統計はいまだに不完全で、測定法は一致しておらず、その他の研究で使われているものは質にばら つきがある。これらの数字は多岐にわたる研究に基づいており、2012 〜 2013 年に主に集中している。 ─ 59 ─ 第2章 太陽熱利用と冷房についての利用可能な情報源の間 には食い違いがあるが、直近の推計では世界で50万 の雇用とされている。残りの自然エネルギー技術は 勢いで劣っており、雇用も大幅に少ない。 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 世界の自然エネルギーにおける雇用 表1. 世界の自然エネルギーにおける産業別の直接および間接雇用の推計 世界 中国 バイオマスa,b 782 240 バイオ燃料 1,453 24 バイオガス 264 90 地熱発電a 184 水力発電 (小規模)c 156 ブラジル 米国 インド バングラ デシュ EUm ドイツ スペイン その他EU 雇用(千人) 太陽光発電 2,273 152 820f h 58 52 44 210 236i 35 26 3 82 49 0.5 19 17 1.4 82 85 9.2 35 12 8 1,580e 12 4.7 13 1.5 18 112 100k 56 11 153 1 28 0 11 1 31 集光型太陽熱発電 43 太陽熱利用 503 350 30g 風力発電 834 356 32 51 48 0.1 138 24 166 6,492d 2,640 894 625 391 114 371l 114 760 合計 143j 41 データ元:IRENA a 発電および熱利用。b 伝統的なバイオマス発電は含まれていない。c 大型水力発電の雇用情報は不十分であるため、小水力発電に焦点を絞った。小水力発 電の定義は10MWを目安にしている場合が多いが、その定義は国によって異なる。d「世界」の数値は各自然エネルギー源の合計の数値を概算した。e これ までの推計は明らかに低水準であった(30万人から50万人と見られていた)。しかし、設置に関する雇用は大幅に拡大してきた。f 2012年において約31万 1000人の雇用はサトウキビであり、20万8000人の雇用はエタノール製造過程に関わるものである。また設備製造への間接的な20万人の雇用やバイオディ ーゼルの8万1800人の雇用も含む。g 設備製造に関わる雇用であり、設置に関わる雇用は含まれていない。h バイオマス発電の直接雇用は1万5500人のみで ある。i 2013年における、エタノールの17万3667人の雇用とバイオディーゼルの6万2200人の雇用を含む。j すべての太陽エネルギー技術の合計で、太陽光 発電の雇用は推計10万人である。k 直接雇用のみ。l 2013年のデータ。公的資金を投入された研究開発分野と行政機関における8000人の雇用を含み、技術別 に分けられていない。m すべてのデータは、ドイツを除いて2012年のものである。「世界」合計や「主要国以外の欧州」の合計は2012年の欧州各国のデー タを使って計算した。(なおドイツなど特定の国の2013年データは入手可能である。) 注:データは主に2012年∼2013年のもので、国や技術によって相違がある。 中国とインドのデータには古いものが含まれている。四捨五入のため、合計が合わない場合もある。 図22.自然エネルギーの雇用 バイオマスエネルギー (バイオマス、バイオ燃料、 バイオガス) 地熱 水力発電 (小規模)i 太陽エネルギー (太陽光発電、CSP、 太陽熱利用、冷房) 風力発電 世界合計 = 4 万人の雇用 650万人の雇用 注ⅰ.大規模水力発電に関する雇用の情報は不完全であるため、含まれていない。 ─ 60 ─ 表2. 自然エネルギー技術の現況:特性とコスト 技術 主な特徴 資本費用 (米ドル/kW) 標準的なエネルギーコスト (均等化発電原価-米セント/kWh) 発電 固形バイオマス発電 (混焼と有機固形廃棄 物を含む) 発電規模:1∼200MW 変換効率:25∼35% 設備利用率:50∼90% 800∼4,500 混焼:200∼800 4∼20 混焼:4.0∼12 バイオマスガス化発電 発電規模:1∼40MW 変換効率:30∼40% 設備利用率40∼80% 2,050∼5,500 6∼24 嫌気性消化バイオマス 発電 発電規模:1∼20MW 変換効率:25∼40% 設備利用率:50∼90% バイオガス:500∼6,500 埋立地ガス:1,900∼2,200 バイオガス:6∼19 埋立地ガス:4∼6.5 地熱発電 発電規模:1∼100MW 設備利用率:60∼90% 復水フラッシュ:1,900∼3,800 復水フラッシュ:5∼13 バイナリー:2,250∼5,500 バイナリー: 7∼14 水力発電:系統接続 プロジェクト>300MW:<1,000∼2,250 プロジェクト>20MW:2∼12 発電規模:1MW∼18,000+MW 発電方式:貯水池式、流れ込み式 プロジェクト20∼300MW:750∼2,500 プロジェクト<20MW:3∼23 プロジェクト<20MW:750∼4,000 設備利用率:30∼60% 水力発電:オフグリッド/ 農村地域 発電容量:0.1∼1,000kW 発電方式:流れ込み式、水流、 調整池式 1,175∼6,000 5∼40 海洋発電:潮力 発電規模:〈1∼〉250MW 設備利用率:23∼29% 5,290∼5,870 21∼28 太陽光発電:屋上設置 21∼44(OECD) 住宅設置のコスト2,200(ドイツ); 最大発電能力: 3,500∼7,000(米国) ;4,260(日本); 28∼55(非OECD) 3∼5(住宅) 16∼38(欧州) 2,150(中国); 100kW(商業用) 3,380(オーストラリア) 500kW(産業用) 設備利用率:10∼25% (固定傾斜角) 2,400∼3,000(イタリア) 商業用コスト3,800(米国); 2,900∼3,800(日本) 太陽光発電: 地上設置型、商業規模 1,200∼1,950(世界標準);日本の 12∼38(OECD) 最大発電能力:2.5∼250MW 9∼40(非OECD) 設備利用率:10∼25% (固定傾斜角) 3,800も含む。 :1,710(中国) : 14∼34(欧州) 設備利用率:10∼30% (集光型太陽 平均:2,000(米国) 1,450(ドイツ) :1,510(インド) 光発電の上限値) 蓄電トラフとフレネル 発電方式:パラボリックトラフ、 タワー、 トラフ式、蓄熱設備なし: (蓄熱設備なし) :19∼38; 4,000∼7,300(OECD) ディッシュ 6時間蓄熱設備:17∼37 3,100∼4,050(非OECD) 発電規模:50∼250MW(トラフ): (米国:蓄熱設備の トラフ式、 6時間設備:7,100∼9,800 タワー 20∼250MW(タワー): 上限値)12.5∼16.4 タワー:5,600(米国、蓄電設備を 10∼100MW(フレネル) 除く)9,000(米国、蓄電設備を 設備利用率:20∼40% 含む) (蓄熱設備なし) : 35∼75%(蓄熱設備あり) 風力発電:陸上 タービン規模:1.5∼3.5MW 設備利用率25∼40% 925∼1,470(中国とインド) 1,500∼1,950(その他) 4∼16(OECD) 4∼16(非OECD) 風力発電:洋上 タービン規模:1.5∼7.5MW 設備利用率:35∼45% 4,500∼5,500 15∼23 風力発電:小規模 タービン規模:100kW以下 平均6,040(米国); 1,900(中国) 15∼20(米国) 技術 主な特徴 導入コスト (米ドル/kW) あるいは均等化発電原価(米セント/kWh) 発展途上国の分散型自然エネルギー バイオガス消化槽 消化槽サイズ:6∼8㎥ 単位当たりの原価:612米ドル/基(アジア) ;886米ドル/基(アフリカ) バイオマスガス化装置 規模:20∼5,000kW 均等化発電原価:8∼12 ソーラーホームシステム システムの規模:20∼100W 均等化発電原価:160∼200 家庭用風力タービン タービン規模:0.1∼3kW 資本コスト:10,000/kW(1kWのタービン):5,000/kW(5kW): 2,500/kW(250kW)均等化発電価:15∼35+ 村落規模小規模系統 システムの規模:10∼1,000kW 均等化発電原価:25∼100 ─ 61 ─ 第2章 集光型太陽熱発電 (CSP) 第 2 章 技術別の市場と産業の傾向 技術 主な特徴 資本費用 (米ドル/kW) 標準的なエネルギーコスト (均等化発電原価-米セント/kWh) 温水/熱/冷房 バイオマス熱施設 発電規模:0.1∼15MWth 設備利用率:∼50∼90% 変換効率:80∼90% 発電規模:5∼100MWth 設備利用率:15∼30% 変換効率:80∼95% 発電規模:0.5∼100kWth 設備利用率:∼60∼80% 変換効率:熱と電力で70∼80% 家庭用ペレット 熱利用 バイオマス CHP 地中熱暖房 (建物) 地中熱暖房 (地域熱供給) 地中熱ヒートポンプ 太陽熱: 家庭用温水 システム 太陽熱: 家庭用暖房・ 温水システム (コンビシステム) 発電規模:0.1∼1MWth 設備利用率:25∼30% 発電規模:3.8∼35MWth 設備利用率:25∼30% 発電規模:10∼350kWth 負荷率:25∼30% 集熱器タイプ:平板型、真空管型 (自然循環型および強制循環型) 発電規模:2.1∼4.2kWth(単一世帯) 35kWh(複数世帯) 効率:100% 集熱器タイプ:温水用設備と同様 発電規模:7∼10kWth(単一世帯) 70∼130kWh(複数世帯) 70∼3500kWh(地域熱供給) >3500kWth(季節間蓄熱設備を備えた 地域熱供給) 効率:100% 集熱器タイプ:平板真空管、 パラボリック 太陽熱: 産業用プロセス加熱 トラフ、線形フレネル 発電規模:100kWth∼20MWth 温度範囲:50∼400℃ 太陽熱:冷房 容量10.5∼500kW(吸収式冷凍機) : 8∼370kWth(吸収式冷凍機) 効率:50∼70% 技術 供給原料 400∼1,500 4.7∼29 360∼1,400 6.5∼36 600∼6,000 4.3∼12.6 1,865∼4,595 10∼27 665∼1,830 5.8∼13 500∼2,250 7∼13 1.5∼28(中国) 単一家庭:1,100∼2,140(OECD, 新築) ;1,300∼2,200(OECD,改修) 147∼634(中国) 複数世帯:950∼1,850 (OECD,新築) 1,140∼2,050(OECD,改築) 単一家庭:温水用設備と同様 複数世帯:温水用設備と同様 地域熱供給(欧州): 460∼780; 蓄熱設備を備えた地域熱供給: 470∼1,060 5∼50(家庭用温水) 地域供給熱:4以上 (デンマーク) 470∼1,000(蓄熱設備なし) 4∼16 1,600∼5,850 n/a 供給原料の特徴 製造コスト (米セント/ℓ)i 1ヘクタールあたりの収穫量が異なる様々 な供給原料。 従って生産コストは国により大きく異なる。 副産物は高たんぱく質食品を含む。 大豆油:56∼72(アルゼンチン) ; 100∼120(世界平均) パーム油:100∼130(インドネシア、 マレーシアなど) 、 菜種油105∼130 (EU) 輸送燃料 バイオディーゼル 大豆、菜種、からし種子、 パームやし、 ナンヨウアブ ラギリ、廃植物油、動物性 油脂 エタノール 1 サトウキビ、 サトウダイコン、 収穫量やコストに幅があるさまざまな供給 サトウキビ:82∼93(ブラジル) (乾燥粉砕): バガスからの肥料、熱お トウモロコシ トウモロコシ、 キャッサバ、 原料。副産物は、 よび電力を含んでいる。先進バイオ燃料は 85∼128(米国) サトウモロコシ、小麦 (将来的にはセルロース) まだ、完全に商用のものではないため、高 いコストである ディーゼル燃料をガソリン燃料に換算した場合のリットル 注:可能な範囲でコストは標準化し、補助金や政策的な奨励金を除いた代表的なコストとした。熱の均等化発電原価は複数の構成要素により決まり、資源 の質、機器のコストおよび性能、システムとプロジェクトのコスト(人件費も含む)のバランス、保守管理コスト、燃料コスト(バイオマス)、プロジェ クトの資本コストとエネルギー生産期間におけるコストも含む。自然エネルギーのコストは立地に特有であり、これらの構成要素の多くはその所在地によ って大きく変動し得る。太陽光発電のコストは利用可能な太陽光資源の量により、大きく変動する。いくつかの自然エネルギー技術において導入容量の急 激な成長とそれに関連したコスト削減により、関連するコストの削減が起こっているため、データはすぐに時代遅れになってしまうことに注意することが 重要である。とりわけ、太陽光発電のコストはここ数年で急激に変化し続けている。自然エネルギーを用いたオフグリッド用ハイブリッド発電システムの コストはシステムの規模、所在地、そしてディーゼルによるバックアップや蓄電のような関連機器によって大きく影響される。 出典:出典と仮定については、このセクションの巻末注115を参照 ─ 62 ─ 第 3 章 投資の流れ ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)i によると、世界の自然エネルギー発電および燃料への新規 投資(50MWを超える水力発電プロジェクトを含まない)は 2013年に2144億ドルに達した。2012年と比較すると14% 減 少し、記録的水準であった2011年と比較すると23% 減少し ている(図23を参照)。報告に含まれていない50MWを超 える水力発電プロジェクトへの投資を含めると、2013年の自 然エネルギーおよび燃料への新規投資額は少なくとも2494億 ドルになったii。しかし上記の推計は自然エネルギーによる熱 利用と冷房技術への投資を含まないことに注意。 た。新規発電容量の純投資額の総計のみを考慮すると、 自然エネルギーは4年連続で化石燃料を上回った。 さらに、世界における投資トレンドは全体的に低下傾向であっ たが、国別では例外も見られる。最も注目すべき国は日本で、 2012年と比較して自然エネルギーへの投資(研究開発を除 く)は80% 増加した。他に2013年に投資を増加させたのは カナダ、チリ、イスラエル、ニュージーランド、イギリス、ウ ルグアイであった。 ■経済地域別の投資 発展途上国と先進国のどちらもが2013年に自然エネルギー への投資を減少させており、発展途上国の投資は2004年 に記録を取り始めて以来初の減少であった。発展途上国 の自然エネルギーへの支出は930億ドルで記録的水準であっ た2012年から14% 減少し、2011年の水準よりは若干多かっ た。対照的に先進国での支出は1220億ドルで過去4年間で の最低水準となった。中国は2013年の発展途上国におけ る自然エネルギー支出の61%を占めており、2012年の55% から増加した。 数年間成長が続いた後の2年連続となる投資の減少は、 欧州と米国での支援政策の見通しが不透明であったことと、 いくつかの国で支援策の遡及的な削減が実行されたことに よるものである。欧州では2012年から44% 投資が減少し、 中国が初めて欧州全体の投資額を上回る自然エネルギー への投資を記録した。2013年は8年間続いた発展途上国 での投資の増加が途絶えた年でもあった。 しかし、世界全体での投資の減少は、技術コストの急激な 削減によるものでもあった。とくに太陽光発電技術のコスト 削減は顕著で、22% の投資減少にも関わらず、2013年に は記録的な導入量となった。コスト低下と効率性の向上によ り、2013年に世界のいくつかの地域、とくにラテンアメリカで は補助金なしで陸上風力発電や太陽光発電が導入され 2012年と比べて世界のほとんどの地域で投資が減少した。 例外は米国とブラジルを除く(両国では投資が減少)アメリ カ大陸諸国と、中国とインドを除くアジア・オセアニア諸国で、 自然エネルギーへの年間投資は連続して増加した。アジア・ 図23.世界の自然エネルギー発電と燃料への新規投資額 先進国/発展途上国(2004年∼2013年) 10 億ドル 300 279 世界合計 250 先進国 250 世界合計 2140億ドル 227 発展途上国 出典: 本章の 巻末注 ⅰ、ⅱを 参照 200 168 187 171 146 2004 122 第3章 93 74 63 58 2005 25 43 49 16 40 32 8 50 74 65 107 92 106 103 113 100 100 142 153 150 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2013 i この章は(GSR の姉妹版である) Frankfurt School–UNEP Collaborating Centre for Climate & Sustainable Energy Finance (FS-UNEP) と Bloomberg New Energy Finance (BNEF) によって作成された GSR の姉妹版である Global Trends in Renewable Energy Investment 2014 (Frankfurt:2014) に依拠している。数値データはとくに注記が無い限り BNEF の デスクトップデータベースから取得しており、投資決定の時期を反映したものである。以下のような自然エネルギープロジェクトが含まれる : すべてのバイオマス、地熱、1MW 以上の風力発電プロジェクト、1MW から 50MW までのすべての水力発電プロジェクト、太陽光発電(ただし 1MW 未満は除く。これは小規模プロジェクトあるいは小規模分散 型として別に取り上げている)、すべての海洋エネルギー、年間 100 万リットル以上のバイオ燃料プロジェクト。詳細は FS-UNEP/BNEF Global Trend Report を参照。合計が四 捨五入した数値と合わない場合がある。 ii 大規模水力 (>50MW) への投資は自然エネルギーへの投資全体の合計には含まれていない。BNEF は 1MW から 50MW の規模の水力発電プロジェクトのみを追跡している。 ─ 63 ─ 第 3 章 投資の流れ オセアニア地域では2012年比で投資が47% 増加し、記録 的水準となる433億ドルとなった。要因の一つとして日本の 太陽光発電ブームが考えられる(図24を参照)。投資が減 少した地域ではあるが、欧州諸国と中国が引き続き最も重 要な投資国であり、両国の投資額は世界全体のちょうど半 分弱(49%)を占め、2012年の59% から減少した。この 減少のほとんどが欧州で見られ、2012年と比較して2013年 には投資が44% 減少した。 国別に見ると、投資の上位10か国には発展途上国が3か国 (すべてが BRICS 諸国)と先進国が7か国含まれていた。 中国が投資額542億ドル(研究開発を除く)で再び先頭に 立った。続いて米国が339億ドル、日本が286億ドル、イギ リスが121億ドル、ドイツが99億ドルとなっている。次に投資 額の多かった5か国は、カナダが64億ドル、インドが60億ドル、 南アフリカが49億ドル、オーストラリアが44億ドル、イタリアが 36億ドルであったi。 中国は563億ドル(研究開発を含む)を自然エネルギーに 新規投資し、2012年から6% 減少した。アセット・ファイナン スは増加したが、公開市場と未公開株式市場からの投資 は低水準に落ち込んだ。全体的な投資額低下にもかかわ らず、中国の自然エネルギー容量追加のための投資は、 2013年の化石燃料容量追加の投資を初めて上回った。中 国の投資の大部分は太陽光発電と風力発電プロジェクト向 けであった。また、中国は大規模プロジェクトiiに最も投資し ている国でもあり、後続の米国と英国をはるかに引き離し米 国とイギリスが後に続いている。中国は水力発電にも相当 な額を投資しており、今年中に29GW の容量を新たに追加 予定である。その追加容量の大部分が50MW 以上iii 1の水 力発電である(水力発電の節を参照)。 米国は358億ドル(研究開発を含む)を投資し、引き続き 先進国で最大の投資国となった。シェールガスブームによる 安価な天然ガス価格と自然エネルギー支援政策継続の見通 i すべての国々からデータを入手できなかったため、国の投資合計は政府や企業による研究開発を含まない。加えて南アフリカ共和国のデータも小規模プロジェクトを含まない。 しかし、図 24 のデータは政府や企業による研究開発を含む。 大規模プロジェクトとは、ウインド・ファーム、ソーラーパーク、そして 1MW 以上の規模の自然エネルギー設備と 100 万リットル以上の生産能力のバイオ燃料工場を指す。 iii 中国政府は 2013 年中にすべての規模の水力発電に対して 200 億ドル(1246 億元)以上を投資したと推測している(このデータは揚水式も含む) 。 ii 図24.地域別の自然エネルギー発電と燃料への世界の新規投資額(2004年∼2013年) 米国 2008 2009 2010 2011 5.8 6.1 2007 2008 2009 2012 アメリカ大陸 (米国とブラジルを除く) 2013 2012 2013 ─ 64 ─ 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 6.1 2011 12.6 10.4 2010 7.2 2009 8.7 2008 20 インド 10 億ドル 4.2 1.4 2007 アフリカと中東 5.4 2.3 2006 2013 6.3 1.6 2005 3.2 0.9 2004 4.3 0.5 アフリカと中東 10 億ドル 2012 4.4 2011 2.9 2010 2.5 2009 9.7 2008 7.7 2007 7.8 12.2 2006 11.0 2.6 4.6 0.6 2005 2011 2013 ブラジル ブラジル 10 億ドル 2004 2010 9.9 4.9 2006 2012 8.7 3.2 2005 11.5 3.3 2004 0.5 20 1.4 アメリカ大陸(米国とブラジルを除く) 10 億ドル 20 20 35.8 39.7 34.7 35.9 23.5 2007 12.4 2006 3.1 2005 9.0 2004 米国 6.8 5.5 20 11.7 28.2 40 53.4 10 億ドル 33.6 60 2012 2013 しの不透明さにより2013年に投資が10% 減少したが、先進 国中で最大という結果となった。米国の自然エネルギーにお けるベンチャーキャピタルと未公開株式投資は10億ドルに減 少し、2005年以来最低の水準であった。これは初期段階 の出資者の間で信頼が失われていることを示唆している。 しかし、この減少は2012年の9億4900万ドルから2013年の 53億ドルに大幅に増加した株式市場投資によって相殺され た(主に太陽光発電とバイオ燃料への投資)。 日本では自然エネルギー投資の記録的な増加が見られ、 2012年から80% 増加し、286億ドルであった(研究開発を 除く)。 2012年に導入された気前のよい固定価格買取制度 (FIT)の利用を投資家が検討する中で、小規模太陽光 発電プロジェクトへの投資が上記の増加の大部分を占めた。 2013年に76% 増加して投資額が230億ドルに達したことは、 日本を小規模分散型エネルギー投資の最上位国にし、かな りの差をつけて米国とドイツが後に続いた。日本の大規模プ ロジェクトへのアセット・ファイナンスはほぼ倍増し、56億ドル であった。 イギリスでも14% の投資増加が見られ、最大の増加要因は 大規模プロジェクトへのアセット・ファイナンスであった。株 式市場が後に続き、風力発電や太陽光発電資産を保有・ 運営する新種の投資ファンドが大量の資金を調達した 。 上記の国で見られた増加とは完全に対照的なのがドイツで、 2013年に再び投資が減少し、2010年のピーク(337億ドル) から3分の1以下に低下し、自然エネルギー投資国の世界 第3位から第5位へ転落した。2013年の低投資水準は、 2013年9月の総選挙を前にした政策の見通しが投資家にとっ て不透明であったことが原因の一つと考えられる。しかし、 他にも投資減少の理由として太陽光発電の価格低下や、 風力発電施設設置のための好条件で手つかずの土地が 不足していることも挙げられる。 政府と企業によるR&Dも含む 欧州 出典: BNEF 欧州 114.8 10 億ドル 102.4 120 61.8 80 75.3 73.4 86.4 100 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2012 2013 2004 ─ 65 ─ 2005 2006 2007 2009 2010 24.9 25.3 2011 36.7 2010 15.8 12.9 2009 10.1 11.4 2008 5.8 10.9 2007 2.4 9.0 2006 20 37.1 43.3 8.2 2005 20.7 6.8 2004 40 29.5 10 億ドル 40 20 60 56.3 アジアとオセアニア(中国とインドを除く) 51.9 中国 10 億ドル 59.6 インド 2008 2011 2012 2013 第3章 20 48.4 39.1 40 29.4 アジアと オセアニア (中国と インドを 除く) 60 19.7 中国 第 3 章 投資の流れ 出典: BNEF 図25.技術別の自然エネルギーへの世界の新規投資額 先進国/発展途上国(2013年) 10 億ドル 2012 年からの変化 太陽光発電 74.8 38.9 36.0 風力発電 バイオマス および廃棄物 エネルギー 2.3 50 メガワット 以下の水力 0.5 4.6 バイオ燃料 3.6 1.3 地熱発電 2.0 0.5 海洋 エネルギー 0.1 0 0 – 20% – 1% 44.0 5.7 – 28% – 16% – 26% 先進国 発展途上国 + 38% – 41% 10 20 30 40 50 60 70 80 カナダは近年安定的な自然エネルギーへの投資国であり、 2013年には上位10か国入りを果たした。2007〜2012年期 に比べて投資は増加し、その大半がオンタリオ州での大規 模風力発電と太陽光発電プロジェクトへのアセット・ファイナ ンスであった。 投資の減少を記録している。これは固定価格買取制度 (FIT)の適用対象である太陽光発電の容量が政府によっ て制限されたことによる部分が大きい。10億ドル以上を投資 した他の欧州諸国はデンマーク、フランス、ギリシャ、オラン ダ、スウェーデン、スイスであった。 インドは2013年に、過去最高水準であった2011年(125億 ドル)の半分以下にまで投資を減少させた。減少の大部分 はアセット・ファイナンスの投資が減速したことが原因であり、 とくに太陽光発電市場ではっきりと現れていた。しかし、小 規模プロジェクトへの投資は2013年に増加し、4億ドルで過 去最大であった。アジアの上位3か国を抑えて、タイ、ホン コン(香港) 、そしてフィリピンが新興アジア諸国における主 要な自然エネルギー投資国であった(全体で30億ドル以上 を投資)。 ブラジルはラテンアメリカで投資を先導し続けてはいるが、 2012年比で54% の減少が見られ、2005年以来最低水準 の年となった。その結果上位10か国のリストからもれること になった。計31億ドルのブラジルの投資はアセット・ファイナ ンスによって占められており、その大部分(21億ドル)が風 力発電プロジェクトに、そして残りのほとんどがバイオ燃料 施設建設に投資された。ブラジル以外のラテンアメリカ地域 での60億ドルの自然エネルギー投資は広く分散しており、 2013年に72%の増加で16億ドルに達したチリ、そしてメキシ コ、ウルグアイ、コスタリカ、ペルーが続いた。 南アフリカはアフリカ大陸を主導したが、前年の57億ドルか ら減少し、49億ドル(研究開発と小規模プロジェクトを除く) の投資を記録した。この大部分が風力発電と太陽光発電 へのアセット・ファイナンスという形で行われた。太陽光発電 は集光型太陽熱発電(CSP)も含んでおり、南アフリカは 2013年に世界で最も活発な集光型太陽熱発電(CSP)の 市場であった。アフリカで2番目に投資の多かった国はケニア (2億4900万ドル)で、モーリシャスとブルキナファソが続いた。 投資国の上位リストで第9位と第10位に位置していたのはオー ストラリアとイタリアであった。オーストラリアは太平洋地域を 主導し、44億ドルの資金が小規模太陽光発電と大規模アセッ ト・ファイナンスにほぼ均等に分配された。イタリアは第10位 にとどまったが、2012年比で75%もの自然エネルギーへの i ■技術別の投資 2013年も太陽光発電が確約された資金額の面で最も重要 な部門であり、1137億ドル、または自然エネルギー発電と燃 料(50MW 以上の水力発電を含まない)の新規投資の総 額の53%を占めた。風力発電が801億ドルで後に続き、 2012年と同水準で投資総額の37%を占めた。残りの10% はバイオマスと廃 棄 物エネルギーi(80億ドル) 、小水力 (<50MW、51億ドル) 、バイオ燃料(49億ドル) 、地熱発電 (25億ドル) 、および海洋エネルギー(1億ドル)であった。 2012年と比較するとブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファ イナンスによって確認されたすべての自然エネルギー部門で 投資が減少しており、唯一の例外として地熱発電が38%の 増加を記録した。(図25を参照) 廃棄物ガス発電をのぞくすべての廃棄物発電技術を含む。 ─ 66 ─ 2012年のように太陽エネルギー部門の投資のうち約90% が 太陽光発電(1023億ドル)へ、そして残りが集光型太陽 熱発電(CSP)に投資された。太陽エネルギー部門は 2013年に過去最大級の投資の減少を記録しており、2013 年は2012年を20% 下回る投資額であった。しかし、減少の ほとんどが太陽光発電システム設置価格の下落によるもの であった。 バイオエネルギーは過去数年間で自然エネルギー投資総額 に占める割合を増しており、2007年には投資の29%を占め た。しかし、2013年には6%を占めるにとどまり、バイオマス と廃棄物エネルギーへの投資は2005年以来、バイオ燃料 は2004年以来最低水準であった。 途上国経済が引き続き風力発電と小水力発電への投資の 大部分を占めたが、先進国はその他すべての技術で途上 国経済を上回った。先進国経済で太陽エネルギーへの投 資が21% 減少し、日本に続く世界第2位の太陽エネルギー 投資国である中国で投資が大幅に増加したが、上記のよう な結果であった。 風力発電への投資上位国は上から中国、大きな差をつけ て米国、イギリス、ドイツ、カナダ、インドであった。小規模 技術は対照的な傾向を見せ、バイオマス、小水力、地熱 発電への投資は先進国で増加し、発展途上国では大幅に 減少した。バイオ燃料への投資は全世界で減少した。 50MW 以上の大規模な水力発電プロジェクトへの詳細な統 計情報は入手不可能であったが、大規模水力発電プロジェ クトは自然エネルギー投資において太陽光発電と風力発電 に次ぐ3番目に重要な部門であった。平均的なプロジェクト は完了まで4年の歳月を必要とするため、設備容量の増加 をそのまま年あたりのアセット・ファイナンスの資金量に置き換 えて解釈することはできない。しかし、ブルームバーグ・ニュー・ エナジー・ファイナンスは2013年に稼働した大規模水力発 電プロジェクトへのアセット・ファイナンスの合計は少なくとも 350億ドルであるとし、大規模水力を除く1334億ドルのアセット・ ファイナンスの4分の1以上と推測される。水力発電産業か ら提供されているデータや当報告書に記載されている情報 を考慮に入れると、50MW 以上の水力発電への投資は相 当大きくなった可能性がある2。 ■種類別の投資 2013年の世界の研究開発(R&D)i 投資は2% 減少して93 億ドルとなり、ほとんどの「グリーン経済刺激策」が2011〜 2012年期に終了したことを考慮すると、穏やかな減少であっ た。ほとんどの地域で例年どおりか、または成長が見られ たが、例外はアジア・オセアニア地域(中国とインドを除く) で、R&D への投資は12% 減少した。世界全体としては民 間部門が3年連続で公共部門を上回ったが、その差はごく わずかで民間投資が3億ドル減少し47億ドル、公共投資が 1億ドル増加し46億ドルであった。 太陽光発電への全体のR&D 支出は2013年に2% 減少し、 47億ドルになった。しかし、太陽光発電部門はその他のす べての部門の合計を上回る額の投資を4年連続で受けてい る。風力と海洋エネルギーへの R&D 投資はわずかに減少 したが、バイオマス発電、地熱、そして小水力で増加し、 バイオ燃料に関しては昨年と同程度であった。 大規模プロジェクトにおけるアセット・ファイナンスは合計 1334億ドルで自然エネルギーの新規投資合計における大半 (62%)を確保した。しかし、2年連続での下落(13.5%) となり、2009年以来最低水準であった。この下落の大部分 は設備コストの低下や、今後の不透明なエネルギー支援政 策の見通し、そして電気事業者の投資が減少したことによ ると考えられる。 風力発電(754億ドル)は3年連続で減少したが、世界の アセット・ファイナンスの半分以上を占めた。太陽光発電(444 億ドル)が後に続いたが、MWあたりのコスト低下を反映し て2年連続の減少となった。 小規模分散型自然エネルギーの設備容量は投資額全体の 28%を占めたが、2013年に25% 減少の599億ドルとなり、6 年連続で見られた成長が止まった。原因として欧州での支 援策の継続的見直しや平均システムコストの減少が考えら れる。主要市場のほとんどで新規投資の減少が見られ、 中国、ドイツ、イタリア、フランス、そして英国では50% から 80% 低下した。これらの低下は気前のよい太陽エネルギー i この章に使われている投資用語の解説は当報告書 2013 年版の補足 5「投資種類と用語」を参照。 ─ 67 ─ 第3章 ブラジル、インド、欧州、そして米国でプロジェクト助成は 減少したが、その他の地域では緩やかに増加した。中国 では過去最高額のアセット・ファイナンス投資があり、世界 体の40%を占め、世界最大の製造国であり、導入国である という地位を強固にした。 第 3 章 投資の流れ 固定価格買取制度(FIT)を実施している日本で76% 投 資が増加し230億ドルになったことと、米国で11% 増加し80 億ドルになったことにより部分的に相殺された。 自然エネルギー企業とファンドにより調達された株式市場投 資は、2013年に高い注目を受け、2012年の下落から急上 昇し、過去5年の平均的な水準にまで回復した。クリーンエ ネルギーの株式公開への新たな関心が拍車をかけ、株式 市場への投資は200% 以上増加し111億ドルとなった。すべ ての技術が成長を見せたが、小水力と海洋エネルギーが 例外であり、それぞれ81%、71% の減少であった。太陽 光発電(111% 増加)は48億ドルで他の追随を許さず、後 には風力(26億ドル) 、地熱発電(16億ドル) 、バイオ燃料(15 億ドル)が続いた。世界の96社のクリーンエネルギー関連 企 業の株 価を反 映しているWilderHill New Energy Global Index(NEX)指標は2013年には53.9% 増加し、 2013年は2007年以来最高の年となった。 2012年比で3分の2以上減少し、5億4900万ドルになった。 これは投資家に2008年以来続いている世界的な生産能力 過剰による破産の影響が残っていることを示している。過去 10年間で初めて風力発電へのVC/PE 投資が太陽光発電 への投資を上回った。風力発電は2013年に増加した唯一 の技術であり、70% 増加し10億ドルとなった。 合併および買収活動(M&A)は新規投資の2144億ドル には含まれておらず、2012年に始まった下落が未だに続い ており、2006年以来最低の水準となった。2013年の買収 資金の総額は537億ドルであり、2012年以来11%の減少で、 2011年の史上最高値から200億ドル近い減少となった。買 収または再融資された自然エネルギー資産の額面価値は 18% 低下し、399億ドルになった。対照的に、企業の買収、 売却は45% 増加し115億ドルとなっており、2012年の流れを 逆転させた。自然エネルギープロジェクトにおける取引はす べての活動の大部分を占めたが、2012年の81% から75% に低下した。 自然エネルギーにおけるベンチャーキャピタルと未公開株式 投資(VC/PE)は2013年に急落し、46% 減少の22億ドル となった。これは3年連続の減少であり、投資は2005年以 来最低水準であった。この減少は近年 VC/PEの投資を受 けた企業によるファンドの所有株式売却の成功事例が少な かったことや、多くのクリーンエネルギーベンチャーファンドの 資金残高の枯渇を受けた結果であった。米国でのVC/PE の資本調達が28億ドルから10億ドルに減少したが、米国は 相変わらず世界最大の VC/PE 市場であり、欧州の VC/ PE 投資の倍の規模であった。 ■自然エネルギー投資の見通し 2013年の自然エネルギー発電容量(50MW 以上の水力発 電を含まない)への投資は1920億ドルiで、技術コストの低 下と不透明な政策見通しが原因で、2012年の2340億ドル から減少した3。化石燃料ベースの設備容量での総投資額 は2012年の3090億ドルから低下し、2700億ドルであった。 この比較から2013年に自然エネルギーと化石燃料の差がわ ずかに拡大し、2012年比で自然エネルギー発電容量への 投資は18% 減少し、化石燃料は13%の減少であった。 太陽光発電は最大の下落を経験しており、VC/PE 投資は しかし、化石燃料への投資の大部分は既存の石炭、石油、 i この数字は自然エネルギーアセット・ファイナンスと小規模プロジェクトのためのものである。バイオ燃料や増資、R&Dなどの設備への投資は含んでいないため、本章の他で使わ れている自然エネルギー投資総額(2144億ドル)とは異なる。 ─ 68 ─ そして天然ガス発電所の更新に使われており、1020億ドル のみが化石燃料容量追加のために使われた。対照的に、 自然エネルギー容量への投資のほぼ全額が正味追加分で あり、つまり投資により総発電容量が追加されることを意味 している。2013年の正味の投資額のみを考えると、1920億 ドルで化石燃料の推計1020億ドルを大きく上回っており、4 年連続で自然エネルギーが優勢となった。50MW 以上の 水力発電プロジェクトへの投資を考慮すると、世界の自然 エネルギー容量への投資は、2013年の化石燃料発電容量 への正味の投資額の2倍をはるかに上回った。 ■投資源 数々のクリーンエネルギーファンドにとって2013年は力強い成 長の年であり、2012年に1.5%であった加重平均資産収益 率は17.1%になった。最高の業績を上げたファンドでは、太 陽光関連株への集中投資により株価が倍以上になった。 2013年の資本調達の大部分にプロジェクト志向型ファンドが 関係しており、それらは欧州で行われた。 北米ではステークホルダーに高い利益をもたらし、安定した 長期的なキャッシュフローを提供する革新的な利回り志向型 の金融商品が出現した。2つの高利回り企業i が市場に出 現し、2013年に太陽光、風力、そして水力発電プロジェク トで総額6億3100万ドルの資金を調達した。 クラウドファンディングは引き続きますます多くの国で主流の 資金調達手法となった。クラウドファンディングにより、小企 業や新規参入者は多くの小規模投資家から株式や定期支 払い、または商品と交換に資金を調達できるようになった。 ルギーへの融資を98% 増加させ88億ドル(64億ユーロ)で 過去最高水準であった。また2013年に世界銀行、EIB、 欧州復興開発銀行を含むいくつかの開発銀行は石炭火力 発電所への資金融資を縮小し、他の燃料でのプロジェクト 実行が可能でない場合に限り、石炭火力発電を支援する と表明した。米国やいくつかの北欧諸国の海外援助政策 がこれらの開発銀行の活動に参加したiv。 ■2014年初頭の投資傾向 2014年の自然エネルギー投資の回復という期待は、2013年 の同時期と比べ4%の上昇を示した第1四半期(Q1)のデー タ発表とともに高まった。2014年 Q1の世界における自然エ ネルギーへの投資は444億ドルであった。これは2013年の 第4四半期の573億ドルより少ないが、第1四半期は一年の 中で最も低い投資活動を示すことを考えると、さらに意味の ある比較対象は2013年 Q1の426億ドルである。 2014年 Q1のハイライトは、日本と米国での小規模太陽光発 電と、ケニアやインドネシアなどの新興市場で見られた自然 エネルギー発電への融資であった。世界的に小規模プロジェ クトへの投資は2013年 Q1に比べると42% 上昇しており、 212億ドルに達した。しかし大規模プロジェクトへのアセット・ ファイナンスは13% 減少し、228億ドルとなった。 米国の総投資額は2013年 Q1の軟調な数字と比べると32% 増加し48億ドル、中国は18% 増加し99億ドル、欧州は29% 減少し109億ドルであった。主導している地域は中国とインド を除くアジア・オセアニアであり、27% 増加の121億ドルとなっ た。 年金基金、保険会社、資産管理者を含む機関投資家は、 欧州を中心に引き続きますます重要な役割を果たした。国 債の倍の利回りで高い予測性が人気を呼び、記録的な水 準の投資が見られた。しかし、投資機関の資金調達総額 は、機関資産総額の割り当てと比較すると政治や規制、そ の他の障害が原因で低くとどまった。 開発銀行は2013年も重要なクリーンエネルギー投資の資金 源であったii。2012年にクリーンエナジープロジェクトの最大 の貸し手であったドイツの KfWは、自然エネルギーへの取 り組みを41% 減少させ、65億ドル iii (47億ユーロ)の融資 を行った。対照的に、欧州投資銀行(EIB)は自然エネ i 高利回り会社とは、運営段階のプロジェクトに対して高い利率で投資を行うことを目的として設立された企業形態の会社である。 UNEP/BNEF Global Trends レポートが発行された際に、大多数の開発銀行の投資データを入手できなかったことに注意。 iii ここでのアメリカドルの数字は Global Trends Report の数字(62 億ドル)とは異なる。当報告書の他の価格と比較可能にするために 2013 年 12 月 31 日のデータと OANDA 通貨換算機 (http://www.oanda.com/currency/converter/) を使い換算した。EIB の数字についても同様である。 iv 欧州諸国はデンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、イギリスを含む。 ii ─ 69 ─ 第3章 クリーン・エネルギー・プロジェクト・ボンドは2013年に過去 最高水準を達成しており、10件の確認された取引から32億 ドルを集めた。太陽光発電プロジェクトが規模で上位10位 の債券を占めており、全体のちょうど半分弱という結果になっ た。社債引受の上位10社中8社を占める銀行の企業連合 は、2014年1月に「グリーンボンド原則」を発表した。ここで、 グリーン・ボンドの構成要件や債権として扱われうる種類の 選別や発行手順、そして詳細な収益化計画発案の必要性 などを含む、先駆的なガイドラインが示された4。 第 4 章 政策の展望 第 4 章 政策の展望 自然エネルギー技術は、世界中で政策担当者から大きな注 目を集めている。これらの技術の開発と経済成長を促進す る政策を持つ国は、2013年に再び増加した。政策担当者 は、達成すべき目的のために自然エネルギーに力を入れ始 めた。主な目的は、エネルギー・サービスの維持と拡大で ある。また、社会的・政治的・経済的には、温室効果ガ スなどエネルギー使用から発生する健康や環境被害の低減、 エネルギーへのアクセス拡大とセキュリティの強化、そして 副次的な利益(教育の機会、雇用、地方の経済発展、 貧困縮小、男女平等)の創出が目的となっている。 2014年初めまでに、国、または州や地方レベルで自然エネ ルギー支援政策を採用している国は、GSR2013で報告され た127か国から増 加し、138か国となった 1 (表3および図 26・27を参照)。しかし、2013年は近年と同様、2000年代 初期から中期までに比べて政策の採用の増加率が下がっ た。これは、多くの国がすでに自然エネルギー支援策を整 備したということで部分的には説明できる。初期段階では、 先進国が自然エネルギー政策の採用拡大を主導した(そ の多くの国では、政策が実施されている)が、ここ数年は 発展途上国と新興経済国が政策の拡大を牽引した。2005 年には約15か国ほどであった自然エネルギー支援政策を持 つ国が、2014年初めには95か国まで増加した i 2 (図29およ び30を参照)。 2013年には、既存の政策の見直しに関心が寄せられるよう になった(政策の遡及的変更を含む)。支援政策の効果 や効率の改善のために調整が加えられた一方で、様々な 理由から自然エネルギーのさらなる促進を抑えるような調整 が加えられた場合もあった。とくに欧州諸国では、電力部 門への支援が削減されることになった。しかし同時に、政 策は現在も開発され、多様化しており、多様な政策メカニ ズムにまたがる特徴が集約されつつある。たとえば、当初 技術的に中立だった電力証書取引とRPS 制度に技術ごと の支援体制が導入されたり、固定価格買取制度では、一 定の額の支払いから市場価格に上乗せしてプレミアム価格 が支払われるようになったりした。 多くの国の政策担当者は、変化し続ける状況に合わせて 法律を対応させている。いくつかの国では、技術にかかる コストの減少や不正な取引慣行など、めまぐるしい展開を見 せる国内外の市場動向にあわせて政策の調整をおこなって いる。それ以外の国では、引き続き厳しい国家予算、また は変動する世論(エネルギー価格の増大をうけ自然エネルギー を非難する例もあった)を受けて政策の修正をした。また、 いくつかの国では自然エネルギーによって作られた膨大な量 の電気を既存の電力システムと統合し、管理できるような政 策を設けることで導入を促している。本報告書のこの章で 以上のような政策の概要を紹介するのは初めての試みである。 この章の目的は、国、州/地方レベルで新しく発展した政 策について示すことであり、政策の効率や機能についての 評価・分析は行わないこととする。 ■政策目標 自然エネルギー技術のさらなる増加を目指す政策目標は、 2014年の初めの時点で144か国に存在し、本報告書の 2013年版で報告された138か国から増えた(R12からR15 表を参照)。 自然エネルギーの目標は多様な形で発表されている。大多 数の目標は依然として電力部門に集中しているが、自然エ ネルギーの熱利用や冷房部門、輸送部門の目標は政策担 当者にとってますます重要なものになってきている(御述の 熱利用、交通の章を参照)。目標の他の形態としては、一 次エネルギーや最終エネルギーに占める自然エネルギーの 割合、そして特定の自然エネルギーの容量またはそのエネ ルギー生産量がある。これらの目標の大半は期限が定まっ ているが、期間が決まっているだけのものや、期限や期間 に触れていないものもある。また、自然エネルギー目標では ないが、エネルギー・アクセスを拡大する目標は、自然エネ ルギーの使用拡大を明確に述べている(第5章の途上国の 分散型自然エネルギーを参照)。 少なくとも12か国は、2013年を目標年として過去に定めた 目標を持っていた。アルジェリアは、 風 力 発 電 容 量を 10MWにするという目標を設け、2013年に10MW の風力 発電設備を導入した。中国は同年に、目標であった49GW の自然エネルギーの設備容量を設置した3。しかし8か国で 年末までに目標設定値を達成することができなかった。たと えば、2014年初めの時点で、インドは2013から2014年度 に設定された目標である4325MW の追加の自然エネルギー 設備容量に一歩及ばずにいたii 4。トンガとフィジーの両国 では最終エネルギーを100%自然エネルギーによって満たす、 という目標を達成することができなかった。それを受けて、フィ ジーは2030年までに電力供給を100%、最終エネルギーの 23%を自然エネルギーによってまかなうという目標に変更し た5。フランスは、当初の目標であった新規太陽光発電容 量1000MWに一歩届かず iii、ネパールも目標の1MW 容量 の風力発電を達成できなかった。セントルシアは全電力の 5%を自然エネルギーでまかなう、という目標を達成できず、 また南アフリカは2013年の自然エネルギーの目標発電量1万 GWhを達 成 できなかった。 韓 国 では2013年 のうちに 100MWの風力発電容量を新規導入する目標を達成するこ とはできなかった6。 2014年初め現在、目標の達成状況を確認するデータがな かった国もいくつかある。確認が取れなかった目標値は、ア ルジェリア(累計25MW の太陽光発電と25MW の集光型 太陽熱発電) 、コートジボワール(自然エネルギーは一次エ ネルギーのうちの3%) 、ネパール(通算3MW の太陽光発 電と15MW の小規模水力発電)ペルー(電力需要の5% i 2005 年の 15 か国の推定は、当時 REN21 で集められたすべての情報をもとにしている。2014 年前半の時点で、世界銀行と貸出行グループで定められている低所得・下位中産階級・ 富裕層に属する全 188 か国のうち、138 か国の発展途上国と新興経済国が存在する。 ii インドでは、25MW 以上の水力発電所を自然エネルギー源として認めていない。そのため、政策の展望の章では、インドでの国の目標とデータに 25MW 以上の水力発電につい て標記されていない。インドの会計年度は 4 月 1 日から 3 月 31 日である。 iii 「 政策の展望 」 の章では、 “太陽光発電”は、太陽光発電と(または)集光型太陽熱発電のことを指す。 ─ 70 ─ が20MW 以下の水力発電設備由来)7。 2013年には、多くの国で目標値の引き上げを伴う既存の自 然エネルギーの発電容量と発電量の目標値の見直しが行 われた。2014年1月、中国は18GW の風力発電、20GW の分散型太陽光発電を含む合計35GW の太陽光発電設 備容量(見直し前の20GW からの拡充)導入などの様々 な目標を2015年までに達成するように設定した11。また、中 国は2020年までに風力発電を200MW 導入する目標も設定 した12。インドは、2012年に25GW だった自然エネルギーの 発電設備容量を、2017年までに倍以上の55GWにすると いう計画を発表した13。タイは、固形バイオマス、農業廃 棄物、太陽光、風力由来の電力に関する長期目標を拡大 し、さらに2021年までに全体に占める自然エネルギーの割 合に関する目標を最終消費電力量の25%に設定した14 。 短期的には、同国は2014年末までに1GW の太陽光発電 の追加を計画している15。バヌアツは2014年末までに発電 量の23%を自然エネルギーでまかなうという既存の目標値に 修正を加え、2015年までに40%、2020年までに65%の目標 を設定した16。 欧州では、2020年までにポルトガルが技術ごとに累積発電 容量目標を複数制定した(固形バイオマスによる769MW のバイオマス発電、59MW のバイオガス発電、29MW の 地熱発電、400MW の小規模水力発電、6MW の波力発 電、670MW の太陽光発電、50MW の集光型太陽熱発 電、5273MW の陸上風力発電、そして27MW の洋上風 力発電を含む)17。英国では、2030年までに39GWの洋上 風力発電を展開する目標を定めている18。しかしドイツは、 洋上風力発電の容量目標を2020年までに10GW から6.5GW へ、2030年までに25GW から15GWに引き下げた19。 中東・北アフリカ(MENA)地域では、エジプトが2017年 までに、700MW の太陽光発電、2800MW の集光型太陽 熱発電を追加することを定めた5か年計画を採用した。リビ アは、既存の2020年目標として定めていた自然エネルギー 発電が占める割合を7% から20%に増加させた。そしてサウ ジアラビアは、短期的目標として6GWの太陽光発電設備導 入を2020年までに達成すると定め、これを2032年までの既 存の目標である16GW の太陽光発電容量達成に向けた第 一歩にしたいと考えている20。ラテンアメリカではチリが2025 年までに自然エネルギー発電の割合を20%にすることを表明 して既存の目標値を倍増させ、またウルグアイは、2015年ま でに電力の90%を再生可能な資源でまかなうというより高い 目標を設定した21。 地方レベルでは、カリブ共同体(CARICOM i)事務局が 15の参加国を代表して自然エネルギー電力シェアを2017年 までに20%、2022年までに28%、2027年までに47%まで達 成することを掲げた参加国共通の目標値を設定した22。これ は、各国で定める目標によって達成されることになっているが、 2014年初めの時点で具体的な各国の目標値はまだ決まって いない。また、EU、西アフリカのECOWAS 地方でも域内 共通の目標値を設定している。地域レベルでは、米国のカ リフォルニア州で、消費者が自然エネルギー由来の電気を 発電所から100% 購入できるように33%の自然エネルギー割 当義務制度(RPS 制度)の枠を超えた、600MW の自然 エネルギー発電容量を新規に導入することを求める新たな 規定を設けた23。また、米国のマサチューセッツ州では、太 陽光発電容量250MWを目標年度より4年も早く達成したこと を受け、2020年目標を1.6GWに上方修正した。また、ミネ ソタ州では、2030年までに州の電力の10%を太陽光発電で まかなうことを目標にしている24。 ■発電政策 ここ数年と同様に、2013年に制定または改訂された自然エ ネルギーの支援政策の多くは電力部門を対象としていた25 (図28を参照)。世界中で、規制政策、財政誘導策と公共 融資制度(固定価格買取制度、RPS 制度、余剰電力購 入、減税または免税、補助金、低金利ローンと一般の競 争入札)を組み合わせることで、自然エネルギー発電容量 または発電量の増加をはかっている。ほとんどの国で、様々 な機能をうまく組み合わせることで自国の情勢に合った政策 を打ち出している。 近年、固定価格買取制度をめぐっては既存の固定価格買 取制度(FIT)とプレミアム型制度(FIP)の改訂に焦点 が置かれており、2013年にはわずかに2か国が改訂された 政策を取り入れた。カザフスタンは新しい固定価格買取制 度を制定し、エクアドルは2012年で失効していた固定価格 買取制度に、インセンティブを生み出す構造を改訂して再 導入した。エクアドルのバイオマスエネルギーと地熱発電の i CARICOM はアンティグア・バーブーダ、バハマ、バルバドス、ベリーズ、ドミニカ国、グレナーダ、ガイアナ、ハイチ、ジャマイカ、モントセラト、セントクリストファー・ネイビス、 サンタ・ルシア、セント・ビンセント・グレナディーン、スリナム、そしてトリニダード・トバゴから成っている。 ─ 71 ─ 第4章 2013年に、新たな政策目標が少なくとも6か国で発表された。 アゼルバイジャンは、一次エネルギーの9.7%、そして2020 年までに20%の発電容量を自然エネルギーでまかなう目標を 設定した。またブータンは、2025年までに20MW 分の発電 容量を自然エネルギーでまかなうことを目標に揚げている。 カザフスタンは2014年までに発電量の1%、そして2020年ま でに3%を自然エネルギーで満たすことを目標として掲げてい る8。ケニアは、2016年までに発電設備容量を5000MWに 引き上げる計画を立て、2013年末に設定した1660MW か ら増加した。ここには794MWの水力発電、1887MWの地 熱発電、635MW の風力発電、423MW の太陽光発電が 含まれている9。カタールは2020年までに全体の電気の2%を 自然エネルギーで発電すること、そしてロシアは2020年まで に6GW 程度の太陽光、風力、小水力発電設備容量の導 入を目標に掲げている10。 第 4 章 政策の展望 政策マップ 図26.自然エネルギー政策を持つ国々 (2014年はじめ) 実施された 政策の数 9‒13 6‒8 3‒5 1‒2 政策なし、 または データがない国 図27.自然エネルギー政策を持つ国々 (2005年時点) 144 か国 が自然エネルギー目標を 定めた 2005 図28.自然エネルギー政策を持つ国の数 政策手法別(2010年∼2014年はじめ) 電力政策 固定価格買取制度 入札 RPS/ クォータ制 ネットメータリング法 国の数 80 70 60 50 熱利用と 冷房政策 自然エネルギー 熱利用義務付け 40 輸送政策 バイオ燃料 義務付け 20 ここで示されている数値は実施中のすべての 政策手法ではない。国の政策または準国家の 政策が1つ以上実施されている場合は数に含 まれている。 30 10 0 2010 2011 ─ 72 ─ 2012 2014 買い取り価格は変更されなかったが、風力発電(28.6% 上 昇) 、集光型太陽熱発電(19.4% 引き下げ) 、潮力発電 (27.3% 引き下げ)では価格が改められ、太陽光発電への 助成は削除された26。ガーナは、買取価格を2011年に制定 された再生可能エネルギー法の一部として定めた27。 買取価格の引き下げは数か国で続いている。この価格の 段階的な引き下げは、政策設計の段階でメカニズムとして 組み込まれているように、事前に計画されていることであり、 市場の変化に関わらず継続して財政的な支援が得られるこ とを保障することが意図されている。しかし、いくつかの欧 州諸国では、事前に計画されていなかった財政支援の縮小 (または廃止)が決定され、しかも多くの場合では以下に示 すとおり、遡及的に(既存の容量に対して)実施された。 ドイツは引き続き、四半期ごとに計画されている太陽光発電 の買取価格の引き下げを実行しており(その他の技術部門 での支援削減も行われている) 、とくに太陽光発電の価格 は毎月下げられている(新たな価格設定は三か月ごとに行 われており、引き下げ幅は前四半期の実際の導入量によっ て変わってくる)。再生可能エネルギー法の改正により、助 成の更なる縮小が見通されており、2014年はとくにさらなる 修正が予想される28。英国は、いくつかの固定価格買取制 度に対するインセンティブの強化を行ったが(下記を参照) 、 年に4回修正される価格引き下げのメカニズムによって、 50kWまでの太陽光発電システムの買取価格は結果的に引 き下げられてしまった29。イタリアは、新規太陽光発電プロジェ クトの固定価格買取制度による支援を、事前に上限として 設定されていた92億2000万ドル(67億ユーロ)i に達したと ころで終了した。事業者たちには、これまでの買取価格より も低いことを条件に財政支援をさらに7年間延ばすことができ るオプションが与えられた30。オランダでは、既存のプレミア ム制度の対象となる技術分野の見直しを行った。それとは 別に、2013年8月に予算額の上限に達したことをうけ、新 規太陽光発電プロジェクトへの支援を延期した31。 欧州のその他の地域では、固定価格買取制度を縮小、ま たは廃止するための新たな取り組みがなされている。チェコ は、2014年1月までに、すべての自然エネルギー技術に対 する固定価格買取制度の支援を廃止する法律を制定した。 また、ギリシャは固定価格買取制度の支援削減を、2013 年6月にまでさかのぼって実施することを規定した。同国では、 2014年初めにさらなる固定価格買取制度の遡及的支援の 削減が提案されている。リトアニアは、2013年初めに、固 定価格買取制度の価格を大幅に削減した32。ポルトガルは、 新規プロジェクトに対する固定価格買取制度の適用を廃止 し33、既存の風力発電に対しても支援スキームの見直しが 行われ、事業者は年間寄付金(6900〜8000ドル/MWま たは5000〜5800ユーロ/MW)を2013年から2020年の期 間に収めれば、固定価格買取制度の適用を5年から7年間 延長できることが決まった。2013年末、ポルトガルは既存の 小規模太陽光発電に対する買取価格をさらに60% 縮小す ることを決めた34。 スロバキアは、自然エネルギー技術のなかで、固定価格買 取制度の支援を受けていて、系統に接続されている発電 容量に対する優先的な支援の上限容量を10MW からわず か5MWにまで半減させた。一方で、風力発電に関しては、 図29.国家規模別の自然エネルギー政策を持つ国々の割合(2004年∼2014年はじめ) 高所得国 % 高ー中 所得国 低ー中 所得国 低所得国 80 70 60 50 第4章 40 30 20 10 0 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2014年に世界銀行が発表した国民1人あたりの総所得に基づく i 2010 2011 2012 2014年 はじめ この章や自然エネルギー白書における為替レートは 2013 年 12 月 31 日現在のものであり、OANDA 通貨換算を利用している。(http://www.oanda.com/currency/converter/). ─ 73 ─ 第 4 章 政策の展望 図30.自然エネルギー政策を持つ発展途上国と新興国(2004年、2009年、2014年はじめ) 発展途上国と新興国のうち 2004年に政策が実施されていた国 2005年∼2009年の間に政策が実施 された国 2010年∼2014年はじめの間に政策 が実施された国 政策なし、またはデータがない国 今までと同じインセンティブ構造が適用されている35。スペイ ンは、2012年に固定価格買取制度の凍結を決定する前か ら固定価格買取制度の支援を受けている既存設備につい ても制度の適用中止を決定した。また同国では、買取価格 の支払いを、市場価格(税前控除分7.5% の払い戻しが 保障されている)に置き換えた36。ウクライナは、固定価格 買取制度を受けられるプロジェクトの要件として、国内の資 源を元にした技 術 が、2013年1月で30%、2014年1月で 50%の割合で使われること要求している37。 中国は既存の太陽光発電に対する固定価格買取制度を改 訂し、日射量の多い地域の地上設置型の太陽光発電パネ ルには低めの買取価格を設定するなど、3つの領域に区分 けされたそれぞれの地域で異なった支援スキームの構築を 認めた38。日本は、2013年に買取価格を10% 削減し、2014 年初めにはさらに11% の削減を行った39。マレーシアは2013 年初め時点で24kW 以下の発電所からの FIT 買取価格を 8% 削減し、それより規模の大きい発電所からの買取価格 を20% 削減した40。 一方いくつかの国々では2013年に買取価格の上方修正や、 政策支援の期間延長を決定したところもある。デンマークは、 小規模太陽光発電に対するプレミアム制度の価格を高く設 定し、改訂された風力発電の買取価格を0.04ドル/kWh (0.03ユーロ/kWh)から、最大0.11ドル/kWh(0.08ユー ロ/kWh)に引き上げた41。フランスでは、屋根に設置され た太陽光発電システムの買取価格を5% 引き上げ、欧州で 作られた太陽光発電システムを搭載する場合は、10%の上 乗せを定めた。同国は、当初風力発電の固定価格買取 制度に対して違法な国庫補助が行われていると欧州司法 裁判所で判決を下されたが、欧州委員会はその補助の合 法性を表明した42。アイルランドは30MW の海洋エネルギー 発電容量の新規開発をサポートするために固定価格買取 制度を導入した43。英国では、10MW 規模までの地域所 有型プロジェクトの固定価格買取制度の支援を延長させる ため、5MWプロジェクトの容量上限を2倍に拡大させた44。 アジアでは、中国が分散型太陽光発電に対する新たなイン センティブとして、0.07ドル/kWh(0.42元 /kWh)を追加 で支払うことになった45。インドネシアは、固定価格買取制 度のスキームで40% の現地調達率を有する太陽光発電プ ロジェクトを扱うために政策の拡張を行った46。日本は、洋 上風力発電設備のFITの買取価格を63% 引き上げた47。タ イは、2013年に屋上設置型太陽光発電容量200MWを達 成するなど、分散型太陽光発電に対する支援を拡大する ために、FIT の新しい区分を導入した。具体的には、固 定価格買取制度の支援の契約期間を10年から25年に延長 し、また住居と事業規模の太陽光発電システムの設置を支 援するために、3段階に分かれた固定価格買取制度(建 物の規模と導入種別による)を定めた48。 その他の地域では、アルジェリアが、太陽光と風力発電技 術の固定価格買取制度の支援のため、2段階の支払い方 法(一定の価格で5年間、それ以降15年間は価格の調整 がなされる)を導入した。南アフリカは、集光型太陽熱発 電の開発を加速するために時刻によって買取価格が異なる 新しいタイプの制度を整えた49。ウガンダでは、既存の固定 価格買取制度のシステムを改訂し、追加的なインセンティブ、 金融機関からの長期にわたる資金調達へのアクセス、プロジェ クト開発者への保護を行い、また2014年には太陽光発電を 公式に適格技術として再認定した50。トルコでは2011年に 導入された固定価格買取制度の計画で初めて太陽光発電 と集光型太陽熱発電(600MW)の新規プロジェクトの申 請が始まった51。 2013年と2014年初めには、オーストラリア、カナダ、インド、 ─ 74 ─ カナダのノバスコシア州は既存の買取価格に潮汐発電を加 えた。カナダのオンタリオ州は、内部調査と州内の現地調 達要件の要求に関する世界貿易機関の要請を反映する形 で、独自の固定価格買取制度の見直しを行った。2013年 中期に現地調達割合が19〜28%(発電技術の種類による) までに縮小され、12月には現地調達割合はゼロになった54。 オンタリオ州は、風力発電に関しては、既存の価格を保っ た一方で、水力発電、バイオマスエネルギー、バイオガス については買取価格を引き上げ、太陽光と天然ガスについ ては買取価格をそれぞれ約39%、31% 引き下げた55。オン タリオ州は、容量500kW 以上のすべての自然エネルギープ ロジェクトに対し、固定価格買取制度の財政支援を競争率 の高い入札計画へ転換した56。 インドは、Gujarat Electricity Regulatory Commission は政府からの価格低減の圧力にも屈することなく固定価格 買取制度の価格設定を保持した57。米国では、メイン州全 体に固定価格買取制度の導入を確立するための法律が設 けられた。ところが、新たな固定価格買取制度の計画はこ の2年間導入されず、固定価格買取制度を奨励する州は5 つにとどまった。ロードアイランド州は、既存の固定価格買 取制度を改訂し、大規模発電システムにはすでに行われて いるように、小規模分散型発電プロジェクト(50kW から 1.5MW;種類による)に対しても、支援金額を決めるため に競争入札を行うよう要請した58。 下では、炭鉱メタン、合成ガス、燃料電池を適格技術とみ なし、リストを拡大した63。 2013年にイギリスで制定されたエネルギー法は、新規参入 者に対して2017年までに再生可能エネルギー購入義務制 度を段階的に廃止するなどのいくつかの新しい対策を立て た64。インドのタミル・ナーデュ州では、太陽光発電量が産 業用電力需要の3% から6%を占めることを求める条件を撤 廃した65。 2013年に新しいネットメータリング政策が5つの国で設置され、 全体で43か国の実施が認められた。欧州では、ギリシャが 小規模太陽光発電と小規模風力発電のネットメータリングプ ログラムを策定した。ラトビアは、2014年1月1日からネットメー タリング政策を実施している。そしてウクライナは、設備が 必要なものに対するネットメータリングプログラムを2014年1月 に始動させ、家庭用太陽光発電の設置工事の完成後5日 以内に系統へ接続することと接続要請申請書の作成を義 務付けている66。中央アメリカのホンジュラスは250kW 容量 の設備にネットメータリングの実施を許可した67。また、フィリ ピンは接続に関して新たな規定を設け、2008年に法案化さ れたネットメータリングを実施している68。 2013年、ネットメータリングの見直しを行ったのは2か国だけ であった。デンマークは,年間単位から時間単位へネットメー タリング制度を改正し、太陽光発電システムからの買取上 限を20MWまでとすることで自家発電への支払いの可能性 を制限した。また、オランダは5000kWだった支援上限を撤 回し、ネットメータリング制度の支援を受けることのできる発 電量を増やした69。 自然エネルギーで発電した電力のうち一定量を使用すること を義務付けたRPS 制度、すなわち「割当制度」は、25か 国、または米国、カナダやインドの54の州で実施されている。 2013年、新たにRPS 制度を取り入れた国や州はなかったが、 複数の州や行政地区で法律の改訂が行われた。 インドの州レベルでは、2013年、2014年初めにいくつかの 進展があった。とくにアーンドラ・プラデーシュ州、ケーララ州、 グジャラート州、ウッタラーカンド州では、屋上設置型太陽 光発電に対するネットメータリング制度が施行された70。ウッ タラーカンド州では、300W から100kW のバックアップ蓄電 池つきの新規屋上設置型太陽光発電設備、または充電池 なしの500kW 太陽光発電設備を対象に0.15ドル/kWh(9.2 ルピー /kWh)でネットメータリングを行っており71 上限は 5MWに設定されている。タミル・ナードゥ州は、既存のネッ トメータリング制度に太陽光発電の容量上限を設け、電力 消費量の90%までとした72。 米国では、2013年末までにRPS 制度を実施していた州は 29にとどまったが、この制度は政治的圧力にさらされること になった59。多数の州で、法律の縮小や廃止を促す動きが あり、また改訂にいたっては16州で行われた60。これらの改 訂をうけ、いくつかの州で行われた修正は、自然エネルギー に良い影響をもたらすものとそうでないものの両方があった。 カリフォルニア州では、立法措置を取らなくても公益事業委 員会が RPS 制度の条件引き上げをできるよう改正したが、 2014年前半現在、RPSの目標値は33%のままである61。ミネ ソタ州は、RPS 制度の条件に太陽光発電1.5%が含まれるよ うな改訂を行った62。コロラド州は、共同運営発電所の自然 エネルギー導入義務量を2倍にし、分散型の自然エネルギー 発電設備も義務づけとしたが、一方で、改訂された法律の 米国では、ネットメータリング制度は43州とワシントンDC、そ して4つの海外領土で行われている。2013年には新たな政 策は設けられなかったが、4つの州で既存の法の見直しが 行われた。カリフォルニア州は、ネットメータリング制度を継 続し(2014年に制度は廃止される予定だった) 、容量上限 5%の計算方法を明確にし、また、上限なしの新規ネットメー タリング制度の基盤づくりを行った73。ニューヨーク州は、太 陽光発電の容量上限を3倍に増やし、消費者の制度への 参加を求めている。バーモント州は、ネットメータリングの上 限を電力需要ピークの4% から15% へと増加させた74。他の いくつかの州では、ネットメータリング制度は電力事業者か らの反発に直面した。アリゾナ州では、ネットメータリング制 度は維持されたが、新しい太陽光発電システムに対して、 ─ 75 ─ 第4章 米国の国内レベルでいくつかの固定価格買取制度の見直 しが行われた。オーストラリア南部では、政策の改訂が行 われ、既存プロジェクトに対する買取価格の削減と、2013 年10月現在の新規プロジェクトへの支援が廃止された52。オー ストラリア西部では2013年のたった4日間の間に、家庭用太 陽光発電に対する固定価格買取制度の買取価格の半減 が決定され、後にそれが覆されるということもあった。一方オー ストラリア北部では、2013年1月をもって固定価格買取制度 を中止され、自然エネルギークレジットから財政支援が行わ れることになった53。 第 4 章 政策の展望 補足7. 革新的なエネルギーシステム:発電産業の転換 多種多様な「破壊的」 エネルギー技術(分散型太陽 光発電や風力発電など、従来のものを代替する新規の 商品、または市場)や需要側の効率化は、多くの自由 化された電力市場で、既存の電気事業ビジネスモデルに 改革を迫るものである。変動したり弱まったりする電力負 荷と多様な発電装置の変動する相対コストは既存の発電 資産の経済性を徐々におびやかしつつあり、こうした状 況は、変わりゆく市場では当たり前になるかもしれない。 新たな技術との競争は、産業に混乱を招きかねないが、 その競争自体は問題ではない。たとえば、分散型電源 は電力需要のピーク時の送電網や配電ネットワークの負荷 を減らし、これらの部門への投資の必要性を最小に抑え、 停電の可能性も減らす(そのため、配電設備にかかるコ ストを抑えることができる)。その上、化石燃料への過剰 投資、数か国での天然ガスのコスト削減、電力需要の 増加速度の低減、財政危機による需要下降により、多く の発電設備は風力発電と太陽光発電が急成長する前か ら難問に直面している。たとえば、欧州の上位20位の電 力事業者は2008年度のピークから比べて価値が半分以 下になった。太陽光発電と風力発電は、単純に混乱に 後付けされたにすぎない。 風力発電と太陽光発電のシェアの拡大は、電力価格と 火力発電からの発電量の需要を減少させた。太陽光発 電の場合、日中の電力需要ピーク時で、多くの電力会社 がより高い市場価格によって利益を得る時間帯にその傾 向が強く表れた。いくつかの卸売市場は、高発電量・低 需要時にかなりの額の価格下落(時にはマイナスに振れ ることも)を経験してきた。この価格下落は、相対的には クリーンで変動に対応できる天然ガスや石炭・亜炭をメリッ トオーダーから除外するにいたった。その結果、オースト ラリア、欧州、米国などの大きな発電所では、自然エネ ルギー発電の増加に対する支援の廃止を検討するなど、 抵抗を強めている。 毎月0.70ドル/kW が課金されることになっている75。 競争入札は年々採用が増えており、2009年にはオークショ ン制度へ転換したのは9か国だったが、2014年初めには55 か国に増加した76。中央アメリカと南アメリカの国々は、依然 として自然エネルギー競争入札を行っている主要国である。 風力発電プロジェクトを対象にオークションを数年開催してき たブラジルは、11月には初めて太陽光発電を入札対象に加 え、2.7GWの太陽光発電をA-3オークションにかけている(し かし、その競売で契約を落札した者はいなかった)。全体と して、2013年内にブラジルの競売から4.7GW 分の風力発電、 122MW 分の太陽光発電、700MW 分の小規模水力発電、 そして162MW のバイオマス発電が割り当てられた77。チリ は2013年に初めての集光型太陽熱発電を対象としたオーク ションを開催し、エクアドルは初めて太陽光発電対象のオー とくに太陽光発電モジュールの急激な下落は、従来の「発 電会社から消費者へ」という一方的な電力供給の動きか ら、「 消費者も発電者になれる」という両方向的な流れを 基盤としたモデルへの転換の後押しをしている。2013年 までに、300万戸以上の欧州の家庭で、各家庭の電力 需要をすべて太陽光でまかなっており、2014年初めまで にドイツの16% の企業が自家発電で電力需要を満たして いる。これは、前年に比べて50%の伸び率であった。 消費者からの電気料金の支払いが急激に減少したことは、 電力会社がこれまで担ってきたシステムの信頼性と予備 供給力の確保に誰が支払いを行うのか、誰がシステムの メンテナンスをするのか、また、自然エネルギーがどれだ けのアンシラリーサービスを提供できるのか、というような 疑問点を浮かび上がらせた。新たな電力事業のビジネス モデルが必要なのではないか、という意見も出てきており、 多くの電力事業者は賛成している。最近の世界的な発 電事業者の経営陣への調査によると、生き残るためには ビジネスモデルの変更の必要性は避けられないという認識 が示されており、ビジネスモデルの転換への期待がアジア に向けられている。ドイツの大規模発電事業者である EnBW 社は従来のビジネスモデルは「機能しないであろう」 とまで言っている。 いくつかの発電事業者は、自然エネルギーに対する投資 を増やすことで変化する市場への対応策を採っている。 10年前までは、欧州の発電事業者による大規模自然エネ ルギープロジェクトへの投資額は全体額の10%にも満たな かったが、現在では投資額の半分以上が将来のプロジェ クトへ当てられている。Coal India 社はインド全域に太陽 光発電プロジェクトを展開し始めた。他の発電事業者も、 従来の大規模集中型の発電から遠ざかり、もっと「川下」 の動きに焦点をあてたプロジェクトへと移行し、自然エネル ギーの動きに歩調を合わせている。また、米国のいくつ かの発電事業者は、太陽光発電から利益を得られるビジ ネスモデルを構築している。たとえば、Duke Energyと Edison International は、太陽光発電に融資をしてい る会社に投資を始めた。また、ニュージャージー州の クションを開催した。ペルーは、2016年から系統に接続され る自然エネルギープロジェクトを対象にオークションを開催し、 36億ドルを割り当てた。ウルグアイは、年間を通し、複数の 太陽光発電プロジェクトを対象にした入札を始めた78。中央 アメリカのエル・サルバドルが100MW の風力発電と太陽光 発電を割り当てるためにオークションを行った79。 欧州では、フランスが実証実験用の80MWの海洋エネルギー 発電設備の工事のために2億7500万ドル(2億ユーロ)のオー クションを開催し、一方で1000MW 洋上風力発電設備に対 して48億ドル(35億ユーロ)を割り当てるためにオークション を開催した80。また、2013年にイタリアが風力発電400MW の設備容量追加導入の支援のために2度目のオークションを 開催した。ノルウェーは、2020年までに洋上風力発電容量 を現在の3倍の2GWにするために、33億ドル分の財政支援 ─ 76 ─ PSE&Gは、太陽光発電関連の顧客に融資している。 いエネルギー効率やオンサイトの自然エネルギーへの「オン・ ビル・ファイナンシング ii」を試験的に行っている。電力事 業者の顧客は、適切と認められる前の段階にある技術や サービス供給者を選択できる一方、事業者も電力販売量 を失う代わりに融資で利益を得ることができる。 投資家たちは、エネルギー需要を満たすためのビジネスは、 資産保有に基づく従来の膨大な量の電力供給モデルか ら、サービスを基盤としたモデルに移行し、現在の顧客と の良好な関係を保ちながら、人々のニーズに応える新た な方法を考え、自然エネルギーや分散型の発電の価値を エネルギーのみの電力市場を持つ国々(ドイツなど)は、 見出すことが重要だと主張している。電力消費から収益 システムの安定性を保つ必要性を訴えるため、ますます をあげる(MWhあたりの価格)かわりに、収益はエネル 発電容量市場の採用を計画している。変動性の自然エ ギーサービス、需要電力料金、または容量をベースに価 ネルギーが電力市場で高い割合を占めるためには、より 格を決める(MWあたりの価格)ようになってくるだろうi。 柔軟性が高い発電設備も必要になってくる。従来のような ドイツでは、RWEとEnBW の両社が分散型自家発電に ピーク時にだけ稼動する発電設備はどんどん使われなくな 対応するビジネスモデルを計画しており、とくにEnBWは り、自然エネルギーのシェアが増えるごとに不利益を被るよ 2020年までに発電設備と電力取引ビジネスの80%を放棄 うになる。新しい市場のデザインには、このような予備の しようとしている。容量ベースの価格設定はエネルギー効 設備容量の増加を後押しするか柔軟性のある発電設備 率への意識の薄れや自然エネルギーへの投資への妨げ を増やすことが求められる。 となることが懸念され、ハイブリッド・モデルの活用の方が 好まれるという論議も上がってきそうだ。 電力市場は、ますます増える自然エネルギーの割合に重 点をおいた構成ができるように、ピーク、運転時、ベースロー 民間部門の革新は、効果的で実効性のある政策基盤が ド発電設備の効率的な構成と最小コストのために妥当性 必要になってくる。多数の国では、この転換をサポートす のある経済的なインセンティブを与えられなければならない。 るための規制改革の協議が進行中である。ただしここで 新しい市場のデザインは、ピーク容量の増加のような電力 疑問点が生じる。たとえば、発電事業者は市場において システムの調整のための現在利用可能な解決策と、発展 将来どのような役割を担うべきなのか、どのようなメカニズ 段階にある代替策を天びんにかける必要がある。代替策 ムによって企業がそのようなサービスを実施するために負 には、柔軟性の高い新しいガス発電所を増やすこと、様々 担をすることができるか、というようなものだ。エネルギー な規模の異なった型のエネルギー貯蔵手段を導入すること、 市場のデザインの改革には、発電設備への支払いや柔 スマートグリッドを介した需要管理を進めることが含まれる。 軟性へのプレミアムなどのアンシラリーサービスを活性化さ せたり、分散型発電システムの顧客支援と発電システム 「革新的なエネルギーシステム」の補足記事は、自然エ のコストや価値の間の調整を行い、正しい価格シグナル ネルギーの統合とシステム改革に関わるエネルギーシステ を確立させたりすることなどが含まれている(例:ネットワー ムの進歩に焦点を当てる、本報告書の定期的な特集記 クの便益への支払いや、送電と配電のコストを反映したネッ 事である。 i ここに含まれているのは、とくに電力の小売りなどの、自由化した競争市場で分 トワークへの支払い、ネットワークサービスへの手数料)。 を行った81。ロシアは、初めて自然エネルギー関連のオークショ ンを開 催し、 容 量 にして 太 陽 光 発 電 399MW を含 む 504MW 分の39のプロジェクトを選択した82。また、26億ドル (850億ルーブル)のプログラムが認可されたことで、この金 額が1.2GW の太陽光発電プロジェクトへ2020年までに公共 入札制度を活用して割り当てられることになった83。英国は、 2014年に、太陽光と風力発電の同時オークションを行うと発 表した84。 アフリカでは、エジプトが国内で初となる200MW 容量の太 陽光発電設備の建設工事のために入札を開催した。また、 南アフリカは、3回目となる集光型太陽熱設備を対象としたオー クションの日程を定めた85。クウェートは50MW の集光型太 陽熱設備建設認可を出すためオークションを開いた86。 出典:この章の巻末注99を参照。 インドは、Jawaharial Nehru National Solar Mission(ジャ ワハール・ネルー大統領による国家太陽光ミッション)の第2 段階目が始まり、全国の系統に接続された750MW 容量の 太陽光発電設備の運営許可を与えるためにオークションを 開催した。しかし、2014年初め現在、オークションはすで に2度も延期されている87。同国内では、カルナータカ州が 130MW 容量の太陽光発電のオークションを開催し、一方 でパンジャーブ州では、合計29の太陽光発電開発事業者 と総計250MW 分の設備の建設許可を交付した88。 自然エネルギーをさらに普及させるべく、他の形態のオークショ ンも展開されている。米国は、国内初となる洋上風力発電 所の建設許可をオークションに出し、その後さらに2つの洋 上風力発電所の建設許可をオークションにかけた89。 ─ 77 ─ 第4章 たとえば英国では、送電網の共通価格設定方法を導入 し、分散型発電設備は、地域の送電網に電気を提供す る発電事業者には有利なネットワーク税(クレジット)が提 案されている。米国のカリフォルニア州では、実験的に高 散型発電を広めることであり、例えば自家発電設備を可能にする規制の策定、時 間帯別料金、ピーク料金、ダイナミックプライシングや新しいエネルギーサービ スなどといった追加的なインセンティブの適用である。 ii 省エネルギーのための投資を電力会社から融資を受け、返済は毎月の電気料金の 支払いに含まれる。 第 4 章 政策の展望 多くの国は、財政的インセンティブや公的支援金を同時に 活用して、自然エネルギーの展開の妨げになるコストの問題 (自然エネルギーの高額な前払い金、化石燃料や原発に対 する依然として高額な助成金、エネルギー生産と使用時の 環境的・社会的コストの内部化ができていないこと等)を 解決しようとしている。2013年と2014年初めには、いくつか のインセンティブが見直されるか、または採用された。たと えば、インドでは2012年4月で期限切れになっていた0.01ド ル/kWh(50パイサ /kWh)の支払いを規定した発電基準 インセンティブ(GBI)が再導入され、制度の中断期に発 足したプロジェクトにも遡及して適用されることになった90。中 国では、太陽光発電事業所有者に付加価値税(VAT) の50% のリベートを払い戻す制度を導入し、水力発電に税 制上の優遇措置を設けることでさらなる成長を促そうとして いる。また、イランでは自然エネルギー発電プロジェクトに対 する基金を設立した91。 欧州では、デンマークが新しい財政支援策を打ち出し、 2013年には4610万ドル(2億5000万クローネ)を拠出し、 2014年から2020年の期間にはエネルギー集約型産業の 自然エネルギー技術導入(地域暖房、コジェネレーション、 エネルギー効率に対しても同様)を促進するために年間 9230万ドル(5億クローネ)の支援を行うことになってい る92。アイルランドの実験設備と海洋エネルギーの研究・発 展に対しては、あわせて6190万ドル(4500万ユーロ)の 支援を洋上再生可能エネルギー開発計画から受けた93。 英国ではグリーン電力証書に基づき、洋上風力発電事業 者に対する支援を0.26ドル/kWh (0.155ポンド/kWh)に 引き上げた。ただし、契約期間は20年から15年に短縮さ れた94。米国のニューヨーク州は、太陽光発電プロジェクト に対する新規助成金として10億ドルを用意することを約束 した95。 財政的なインセンティブの削減は2013年度にも行われた。た とえば、フランスは太陽光発電装置の投資税額控除を11% 引き下げた(ただし太陽熱温水システムに対する控除は継 続)。また、2013年に延長された新規の自然エネルギー事 業に対する米国の生産税額控除は、年末で期限切れとなっ てしまった(2013年に工事が始まったプロジェクト向けの控 除は継続)96。 2013年、そして2014年初め、欧州のいくつかの国では、 自然エネルギーに対する課税や料金請求(以前は自然エネ ルギー技術開発のみが対象)が遡及的に導入された。ブ ルガリアは、太陽光発電と風力発電設備の導入からの収益 の20% に課 税 する法 案を作 成した。チェコ共 和 国は、 30kW 以上の太陽光発電設備導入からの収益の10%を税 金として無期限に課税する法案を作成した。ギリシャは、自 然エネルギーの発電収益の10%を遡及的に課税する法案 を制定した97。また、自家消費した電力に対する課税が導 入、または検討がなされている。スペインは、既存の送電 網へのアクセス規制とアクセス料金に加え、太陽光発電の 自家消費分も課税することになった。ドイツは、10kW 以上 の屋上設置型太陽光発電の発電量に対して似たような課 税を求める案を提出した98。 変動性の自然エネルギー発電が急速にシェアを拡大してい ることで現れる課題に対応するために、多くの新しい政策 が世界中で制定されている。中でもシステムの統合を進め る政策が継続的に注目を集めている。例を挙げると、蓄電 の推進、需要管理(DMS) 、そして自然エネルギーの既 存送電網、またはエネルギー市場への統合を手助けするも のがある。2013年には新たな市場メカニズムが導入・再検 討された99。(補足7を参照) シンガポールでは、2013年に、電力需要ピーク時に使用で きる変 動 性の発 電 源 由来の電 力の上 限を350MW から 600MWに引き上げた100。中国は電力会社に管轄地域で 発電されたすべての太陽光発電を買い取ることを義務付け た101。インドは、自然エネルギー源のシステムへの統合が可 能 になるように、 送 電 網 の 近 代 化(Green Energy Corridor)に69億ドル(4300億ルピー)を拠出する102。 2013年そして2014年初めには、国レベル、地方レベルで 蓄電を促進させる動きが顕著に見られた。日本は、太陽光 発電システムとともに導入されたリチウムイオン電池の資本 費の3分の2をカバーする補助金制度を施行した103。カナダ は、オンタリオ州の長期エネルギー計画の規定で、競争的 調達制度に50MWの蓄電設備を含むように改めた104。プエ ルトリコはエネルギー監督機関が新規の自然エネルギープロ ジェクトに対して求めていた最低限の技術要件を改め、必 ず蓄電システムを含むことを条件とした。また、米国のカリフォ ルニア州は2020年までに蓄電容量1.3GWを達成する目標と ともに、2014年に州 内 の 投 資 家 が 所 有 する発 電 所 が 200MW の蓄電システムを購入することを義務付けた105。ま た、マサチューセッツ州ではこの先10年間で発電設備にスマー ト・グリッドを導入する計画を進め、スマート・グリッド技術へ の投資金額を増加させるように要請を行っている106。 自然エネルギーのプロジェクト開発者にとって一番の障害と 思われる許可審査を簡素化させるため、数か国では審査 プロセスの見直しを行っている。2013年にチリは自然エネル ギーの運営許可申請を700日から150日に短縮化させる規制 を議会で通した107。フランスはいくつかの風力発電許可申 請過程を、またトルコは電力事業の許可申請の改正を行っ ─ 78 ─ た108。米国は、2つの異なった法律を制定することで自然エ ネルギーの許可申請プロセスの効率化を行い、一方で規定 の見落としを修正する作業を通して小水力発電と認められ る最大容量を5MW から10MWに引き上げた109。また、米 国連邦エネルギー規制委員会(FERC)は特定(5MW 以下の容量)の自然エネルギーについて、「迅速な」接続 の手続きができるガイドラインを制定し、追加的な手続きを 不要にした110。 使われていない発電設備と不十分な送電設備のインフラ整 備という設備運営上の問題のバランスをとるために、インド のグジャラート州は、2003年のエネルギー法で電力需要が 1MW かそれ以上の消費者に保障されていた個別の系統 への接続を規制する新しい法律を制定した。それによって、 国営の電力供給会社は、州の外部からの電力供給者を含 む私的電力購入協定(PPA)には関与できなくなった111。 ■熱利用と冷房に関する政策 世界的に見ると、熱利用と冷房に使用されるエネルギーは 世界のエネルギー需要のほぼ半分を占めている112。近代的 バイオマス、地熱の直接利用、太陽熱技術を合計すると、 水力以外の自然エネルギーによって作られたエネルギー量 の大部分を占めており、世界の家庭・業務・産業界の冷 暖房需要に応える大きな潜在性を持っている。その結果、 自然エネルギーによる冷暖房技術を推進するため、各国は 2013年も引き続き目標・政策・奨励金を制定し続けている。 しかし、自然エネルギー熱利用部門は自然エネルギー電力 部門に比べて政策立案者からあまり注目されていない。 バイオガス、固体バイオマス、地下深部の地熱、太陽熱か らの熱を支援するために、技術ごとに区分した固定価格買 取制度におけるプレミアム制度(FIP)を導入した。そして 英国では、自然エネルギー熱の買取政策を継続するために 買取価格の逓減制度を制定し、2013年半ばには買取価格 が低下しはじめた117。 そのほとんどは欧州であるが、いくつかの国では、自然エ ネルギー冷暖房技術への投資を促進するために、補助金・ 投資助成金といった、財政的な奨励制度を行っている。オー ストリアでは、太陽熱システムに対する助成金を192米ドル /kWth(140ユーロ/kWth)までの2倍に増やし、システ ム設置費用の30%までをカバーできるようにした118。キプロ スでは、太陽熱冷暖房サポートプログラムを2012年の満了 に続けて再開し、補助金の形で4129米ドル/kWth(3000 ユーロ/kWth)まで投資助成金を提供予定である119。チェ コ共和国は、太陽熱利用システムの設置費用の40%まで を補助する新グリーン省エネ計画を立ち上げた120。ドイツ では、太陽熱利用冷房・産業廃熱・コージェネレーション・ 地域熱供給といった、多くの再生可能で効率の高い冷暖 房技術に対する助成を引き延ばし、5kW から500kWまで のシステム規模の投資コストの25%をまかなう121。2013 年 初めに施行されたイタリアのConto Termico 奨励制度は、 バイオマスボイラー・太陽熱システム・ヒートポンプを含む自 然エネルギー熱利用技術への初期投資への補助を行ってい る122。地域レベルでは、ベルギーのワロン地方で、自然エネ ルギー熱利用システムを建物に設置する際にかかる費用の 30〜35%を補助する補助金制度が導入された123。 2012年の熱利用部門における政策の実行は比較的遅れて いるが、2013年から2014年初めにかけて、自然エネルギー 熱利用について新たな基準を定める国々もあった。アルバ ニア共和国では、新築建物における自然エネルギー熱利用 を義務化し、太陽熱利用の最低限の割合(2014年5月まで に決定)を特定の建物の建設において設定する命令を下 した。加えて、太陽熱利用システムと関連機器の輸入の際 の関税と付加価値税も免除した114。その地球の裏側、オー ストラリアでは、国の基準局が製品性能基準を確立するた めに、世界初の太陽熱利用冷房システム基準を2013年後 半に導入した115。インドでは、2013年にさらに2つの州が省 エネルギー建築基準法(ECBC)を施行し、その結果イン ド28州のうち8州が自然エネルギー利用と省エネ基準を義務 化している116。(補足8を参照) オランダでは、これまでの冷暖房についての政策を改訂し、 第4章 EUに加盟する28か国は、自然エネルギー熱利用が占める 割合について各国の具体的な目標値を導入した。さらに、 アフリカ、欧州、中東のいくつかの国は、太陽熱温水シス テムの利用を目指しているi 113。全体としては、世界で少なく とも41か国は自然エネルギーの熱利用と冷房に関する目標 値を設け(表 R14を参照) 、少なくとも19か国は国または州 /省レベルで、自然エネルギー熱利用技術を促進するため の指令もしくは義務を設けている。 他にも、オーストラリアでは、温水のための太陽熱ヒートポン プシステムを設置する地方自治体へ、国が補助金を提供し た。インドでは、太陽熱温水システムと太陽熱によるプロセ ス加熱システムの設置を促進する、2年間の払い戻し制度 を導入した。プエルトリコでは、低所得家庭が通常の温水 器から太陽熱温水器へ交換するのを補助する、基金プロ グラムを確立した。そしてタイでは、太陽熱温水器(SWH) i 28 のすべての EU 加盟国は国家再生可能エネルギー行動計画に再生可能エネルギーによる熱利用や冷房利用の目標を定めている。他にはブータン、 中国、 インド、 ヨルダン、ケニア、 レバノン、リビア、モロッコ、モザンビーク、シエラレオネ、スワジランド、タイ、ウガンダがある。 ─ 79 ─ 第 4 章 政策の展望 補足8. 自然エネルギーとエネルギー効率の関係性: 持続可能型建築に関して さらに2つの州が省エネルギー建築基準法を施行し、エ ネルギー効率向上と自然エネルギー利用を統合し、特定 の種別の建築における太陽熱温水システムの利用を義 務化した。オーストラリアでは、約100の地方自治体が地 方自治体エネルギー効率化プログラムのもとで基金を受 け取り、建物や地域の施設にエネルギー効率の高い太 陽熱やヒートポンプシステムを取り付けた。 持続可能で包括的な成長を達成するため、自然エネル ギーとエネルギー効率化の重要な相互作用については、 近年広く認知されるようになったi。これにより、潘 基文 国連事務総長によるイニシアティブである、すべての人 のための持続可能エネルギー(SE4ALL)ii を推し進め、 2013年に産業界・投資家・国家政府からは、自然エネ 2013年にいくつかの機関の取り組みや計画がスタートし ルギーと効率性向上のための重要な自発的コミットメント た。たとえば、再生可能エネルギー・エネルギー効率パー がなされることになった。 トナーシップ(REEEP)とグローバル・ビルディング・パフォー マンス・ネットワーク(GBPN)は、共同で10兆㎡のプラ 高いエネルギー価格と、2012年には少なくとも5440億米 スエネルギー建築への仲介を始めた。これは、エネルギー ドルに上った世界の化石燃料に対する補助金を考慮する 消費建築から、必要分のエネルギーを生み出すプラスエ と、エネルギー効率化と自然エネルギー利用の向上が必 ネルギー建築へと建築のコンセプトを切り替えて、建築部 要であり、その両分野に焦点をあてれば高い成果が得 門における変化を促進するものである。加えて、国際省 られる可能性が明確になってきた。エネルギーの効率化 エネ協力パートナーシップ(IPEEC)は、省エネルギー は、低炭素エネルギー社会の未来の土台作りとなる“基 がエネルギー消費の減少と、それに関連した温室効果 本燃料”と考えられる。エネルギー効率向上と自然エネ ガス排出量削減にいかに貢献できるのかを確認するため ルギー利用が協調して発展できれば、多大な経済効果 に、建築評価ツールの調査を実施した。 をもたらし、気候変動の緩和、健康改善、エネルギーア クセス、雇用拡大、といった広範囲の副次的効果が期 2013年にはさらに、様々なグリーン建築審議会が自主的 待される。 なグリーン建築評価システムの採用を推進した。たとえば、 米国グリーン建築審議会では、新たな、そしてより厳格 iii 年間の世界一次エネルギー強度 は、2009、2010年に なLEED 等級システムを立ち上げ、世界で利用されてい 突如増加した後、再び低下傾向にある。2011~12年の る。ボトムアップのグリーン建築への要請も増えてきた。 経済成長により、エネルギー需要は GDP 成長とより関係 2013年末までに、オーストラリアのグリーンスターでは650 性が薄れてきているものだと楽観視された。 件を超えるプロジェクトが受賞したが、そのうち半分以上 は過去3年以内に受賞したものである。南アフリカでは、 すでに制定されている政策からまだ検討中のものも含めて、 グリーン建築活動は急速に広まり、36棟の建物が2013 すべて省エネルギーを促進するとすれば、一次エネルギー 年半ばまでにグリーンスターSA 等級を受賞した。 需要は BAUシナリオで2035年には7% 低下する可能性 がある。この省エネルギーの大部分は最終消費者の効 この自然エネルギーとエネルギー効率のつながりについて 率性向上によるものであり、産業部門が37%、交通部門 の補足は、GSR の定期的な特集である。 が31%、建築部門が26%を占めている。省エネルギー 量は、なおも2035年の経済的に利用できるものすべてを 資料:この章についての巻末の注116参照 活用しているわけではないが、建築部門には最大の可 能性が秘められていると期待されている。 建物の寿命を50年以上とした場合、省エネルギー量を 最大化するには非効率的な既存建築を使い続けることを 避け、一刻も早くエネルギー効率を最適化し自然エネル ギーを利用することがきわめて重要である。とくに、都市 化とビル建設が盛んな新興国においては、エネルギー効 率の向上と自然エネルギー利用を建築設計段階から取り 込んでおくことは、重要性を持つ。たとえば、インドにお いては、2030年までに建っているであろう建築物の約 70% はこれから建設されることになる。先進国では、既 存建築を改築してエネルギー効率を向上するという異なっ た課題に取り組んでいる。 これらの課題へ挑戦する上で、世界の多くの政府は建 築部門に注目している。たとえば、中国は2013年にグリー ン建築の実行を支援する新政策を発表した。インドでは、 i 自然エネルギーとエネルギー効率の相互関係性については、GSR2012 の特集セ クションを参照。 ii SE4ALL イニシアティブは、2030 年までに、近代的エネルギーサービスへの世 界的アクセス、世界全体のエネルギー構成における自然エネルギー割合の倍増と、 エネルギー効率の世界的な割合を倍増することを目指す。2014 年の早い段階で、 80 をこえる世界の発展途上国の政府がそのイニシアティブに参加した。http:// www.se4all.org/our-vision/our-objectives/ を参照。 iii 一次エネルギー強度は、エネルギー効率の代用として広く使われているが、エネ ルギー効率における多元性は含まない。 ─ 80 ─ 目指している。フィリピンでは、2011年から遅れているものの、 E10義務の実施に踏み切った132。南米では、アルゼンチン が燃料混合義務をB7からB10へ引き上げた。ブラジルでは、 この一年で、公共投資など別の形の資金援助の導入ある 国内のエタノール混合義務をE20からE25へ引き上げたが、 いは改正がなされた。南アフリカは、低所得家庭が太陽 さらにバイオ燃料混合をB5からB7へ引き上げられるかを検 熱 温 水 器を設 置 する際の全 額 補 助 金 計 画を公 表し、 討し始めた133。アフリカでは、ジンバブエがこれまで二度、 2015年までに65万戸の太陽熱温水器を生産する競争入 混合義務を引き上げてきており、当初は2013年初めにE5か 札を行って、契約を査定することを目指している125。しかし らE10へ、次にE10からE15へ、そして2014年初めまでに ながら、同時に、南アフリカは助成金の用意を遅らせ、目 E20の導入を目指す目標を設定した134。南アフリカは、2007 標100万戸の太陽熱温水器の設置を2014年から2015年 年に初めて制定されたE2とB5の混合義務法を2015年10月 に延期した126。英国は、公共施設へのヒートポンプを始め、 から施行することを目指している135。 バイオマスボイラーなどの自然エネルギー熱利用設備の設 置に、824万米ドル(500万ポンド)を割り当てた。ベルギー 同時に、バイオ燃料への支援政策を進める上で、欧州と のフランダース地方では、自然エネルギー熱利用・廃熱回 米国における農作物からのエネルギー生産が、食糧生産、 収・地域暖房ネットワークの建設に、920万米ドル(670万 土地利用、生物多様性、水資源に悪影響を与える懸念が ユーロ)を分配した127。 続いている。また、調達から廃棄までのライフサイクルでの バイオ燃料からの正味温室効果ガス排出量についても、見 少なくとも、2か国が自然エネルギー熱利用に対する低金利 直しが進められている。 貸付を採用、あるいは改正した。スペインでは、太陽熱の 活用を含めた、既存の建物のエネルギー効率を向上させる 米国においては、再生可能エネルギー燃料基準(RFS) 改修へのゼロ金利貸付政策に、1億7200万米ドル(1億 が2005年の施行以来、初めて緩和され、トウモロコシを 2500万ユーロ)を承認した128。チュニジアでは、現在の太 原料としたエタノールの混合義務レベルを、最少の540兆リッ 陽熱温水器への優遇低金利を2016年まで延長し、太陽熱 トル(144兆ガロン)から490兆リットル(130兆ガロン)と を利用したプロセス加熱暖房システムへの30% の投資税額 した136。州レベルでは、フロリダ州が E10混合義務を廃止 129 控除を開始した 。 し、メーン州が州内でエタノール混合を禁止する法律を制 定した137。欧州議会でも同様の議論が行われており、EU この部門における支援は全般的には増加しているものの、 目標である2020年までに全交通エネルギーの10%をバイオ 政策が期限満了、あるいは下方修正された例もいくつか存 燃料、電気、水素を含めた自然エネルギーで達成すると 在した。チリでは、2013年末に法律適用期間の満了により、 いう目標を、第1世代バイオ燃料の利用で達成できるのか、 太陽熱システムへの税金還付が廃止された。インドの新エ について反対派から質問が出されている138。 ネルギー省は、太陽熱への助成金援助を削減した130。 2013年にも、バイオ燃料産業に対する奨励金と公共投資を ■交通政策 利用する動きは引き続き拡大した。ブラジルは、エタノール 交通部門における自然エネルギー利用の促進政策は、ほと 製造業者に、推定4億8000万米ドル(9億7000万ブラジル・ んどがバイオ燃料の製造、促進、あるいは消費についての レアル)に上る経費を用いて税控除と低金利ローンを提供 支援に集中している。2013年中には、そのような政策を、 した139。ポーランドは、330万米ドル(240万ユーロ)の入 多くの国が奨励金と規制を組み合わせた形で施行あるいは 札を行い、自然エネルギー燃料製造業者を支援した。米 改正した。共通する政策としては、バイオ燃料製造への助 国は、藻類由来バイオ燃料の開発を進めるために1650万 成金、バイオ燃料混合の義務化、税制優遇が挙げられる。 米ドルの基金を設立した140。バイオディーゼルが急速な普及 2014年初めには、33か国にバイオ燃料混合義務法が存在 を見せるなか、中国は、国内の石油精製ディーゼル燃料 し、そのうち31は国レベルの義務法で、州/県レベルの義 業者を支援するために、輸入バイオディーゼル燃料への税 務法は26の自治体に存在する。(参照表 R18) と関税を課す法を制定した141。 2013年に新たにバイオ燃料混合義務法を導入したウクライ ナでは、当初はE5(5% のエタノールを混合したガソリン) 義務であったが、2017年までにE7へ増加させる計画を立 てた。エクアドルでは、B5(5% のバイオディーゼルを混合 したディーゼル燃料)義務を施行し、将来的(時期未定) には B10まで増やす計画がある。パナマでは、現在の E5 義務を、2015年までにE7、2016年までにE10に引き上げる ことになっている131。 2013年には、現行の多くの燃料混合義務が強化された。 インドでは、エタノール混合義務をE5から2013年末までに E10へと引き上げた。マレーシアは、B5義務の地域拡大を 開始し、2014年7月までには国内の至る所へ拡大することを 多くの国では、より多くの自然エネルギーを交通部門へ取り 入れるために追加的な選択肢を探し続けている。たとえば、 バイオメタン、自然エネルギー源から作られた水素・電気等 で走る車を増やすことが挙げられる。電気自動車(EV) に対しては多くの国で支援策があるものの、自然エネルギー 電力と直接関連性を持つことは少ない。2013年に施行され た支援策の例としてはまず、中国が EVの購入に9813米ドル (60,000中国元)の助成金を出したことである。ドイツにおい ては、電気交通社会実証プロジェクトに2億4780万米ドル (EUR1億8000万)を確約した。インドでは、国家電気自 動車ミッション計画2020の一環で、2020年までに500〜600 万台の EVを生産する計画を導入した。ルーマニアでは、 EV 購入者に対し3697米ドル(1万2000ルーマニア・レイ) ─ 81 ─ 第4章 への助成金を2021年まで延長し、現在の25% 補助から徐々 に減らす計画を打ち立てた124。 第 4 章 政策の展望 いて以下の取り組みがなされた。それはたとえば、排出量 を削減すること、地域の産業を支援・育成する事、効率向 上によりエネルギー需要を削減すること、グリッド容量が不 足する懸念をなくすこと、国家のグリッドから自立して供給 安定性を達成すること、そして気候変動に対する柔軟な対 策を取ることである。地方自治体による規制をするための権 限を使う回数は増加しており、規制の対象としては支出と 購買の決定、自然エネルギープロジェクトにおける財源の促 進・簡素化、支援と情報共有への誘導が挙げられる(参 照表 R19)。地方、州、国の間での政府間の調整を増や すことで、地方自治体における自然エネルギー普及と市場 変化をさらに促進することにつながる146。 に上る割引券を出す助成制度を制定した。南アフリカにお いては、国内におけるEV 製造工業を推進するために製造 者への奨励制度を採択し、2013年初めまでにEV 購入者 への優遇税制を設けることを検討している。英国では、プ ラグドイン・プレイシズ公共計画の構想に基づき、EV 充電ネッ トワークを拡大するための基金を設立した142。 ■グリーンエネルギー購入とラベリング グリーン購入とラベリングについての政府の新たな支援策は、 依然ゆっくりとした進展を見せている。消費者にとってグリー ンエネルギーのラベリング制度があれば、グリーン電力だけ でなくグリーンガス、グリーン熱、交通用燃料までも、利用 可能なエネルギー供給の選択肢のなかからエネルギー源を 確認して購入する機会を持つことになる。グリーン電力ラベ ルは多くの国において実施されており、そのほとんどは自発 的なものであるが、国によっては義務化されている所もある。 2013年にオーストリアでは、生産したエネルギーに対し供給 者がラベリングを行うようにするために、供給業者のラベル 制度が義務化された143。 個人向けと事業者向けの供給業者の自発的なグリーンエ ネルギー販売に加えて、事業者あるいは電力供給事業者 に対して、多くの政府はグリーン電力を供給することを要求 している。さらに、自国のエネルギー需要を満たすために 自然エネルギーを購入することを、政府が表明している。 このことは地方政府のレベルでは一般的におこなわれてい るが(次のセクション「都市と地方自治体の政策」を参 照のこと)、国家レベルでの事例もある。2013年にタイは、 州当局が太陽光発電システムを庁舎屋上に設置するのを 促進するため、1億2100万米ドル(40億タイ・バーツ)の 基金を設立した144。米国では、連邦政府に対し2020年ま でに電力の20%を自然エネルギー由来とすることを要求す る、2013年大統領令が発令された145。 ■都市と地方自治体の政策 何千もの市や町に、自然エネルギーを推進する積極的な政 策・計画・目標が存在している。政策については2013年も 継続的に活発な動きを見せており、都市と地方自治体にお 地方自治体は、しばしば国の政策を補完する活動をおこなっ ているが、州や国の政策を超える場合も多い。2013年末ま でには、インドの36都市で国のソーラー都市プログラムに応 じたソーラー都市マスタープランが完成したことで、計60の 都市がグリーン都市へと発展する支援がなされいてく147。デ ンマークでは併存している国の目標に合わせて、コペンハー ゲン市は、2035年までに電力・熱利用・冷房の100%自然 エネルギー利用、そして2050年までにはすべての部門で 100%自然エネルギーという目標に向けて活動している。一 方でフレデリスクハウン市では、2015年までに100%自然エ ネルギー利用を目指している148。グリーンズバーグ(カンザス 州) 、オースチン(テキサス州) 、サンフランシスコ(カリフォ ルニア州)といった米国のいくつかの都市では、部門別の 100% の自然エネルギー利用を目指す目標と政策を実行して きており、州や連邦政府の目標を上回るものとなっている149。 同様に、国はしばしば地域レベルの活動を観察し、その成 功プログラムを国の政策の詳細な計画として活用することを 考えている150。たとえば、中国では国家構想を立ち上げる 前に、地方レベルでの炭素取引の仕組みを実験しており、 5都市と2県で、汚染削減と低炭素エネルギーへの投資を促 進するキャップ・アンド・トレードの仕組みを試験している151。 欧州では、民間投資の拡大や、NIMBY(Not In My Back Yard:私の裏庭にはごめんだ:施設の必要性は認め るが、自らの近くには建てないでくれ)の反対派をYIMFY (Yes In My Front Yard:私の表庭にどうぞ)という賛成 派へ変えるよう促すことで、地方や地域のエネルギープロジェ クトによる欧州の自然エネルギー容量の急速な拡大を支援し てきた152。同様に、欧州の多くの国や地方自治体では、地 域のエネルギープロジェクトの目標を達成できるように、奨励 金を拡大している。たとえば、スコットランドでは、2013年に 地域や地方が所有している自然エネルギー容量に500MW という目標を定めた。また、英国では、都市部のコミュニティ エネルギープロジェクトを支援する基金を立ち上げた153。 国の目標達成に対する都市の役割がますます重要になるに 従い、州と国の垂直統合型政策の策定と開発段階におけ る、都市の参画が拡大してきている。このようにして、新興 国と発展途上国への気候変動に対処する新しい財政の仕 組みをどのように利用するかを模索しており、例としては開 発途上国による適切な緩和行動(NAMAs)等が挙げら れる154。南アフリカでは、建物への自然エネルギーの利用を 通じて、国単位の温室効果ガス排出量を2020年までに ─ 82 ─ 世界の地方自治体は、新しい気候・エネルギー対策の計 画と目標をつくり、現行の計画と目標を改訂している。2013 年にオーストラリアのシドニー市は、2030年までに100%自然 エネルギーによる発電、熱利用、冷房を達成する目標を設 定した。日本の山梨県では、2050年までに地域の発電を 100%自然エネルギー発電にするという目標を設定した。少 なくとも一つの部門ですでに100%自然エネルギーを達成した、 もしくは今後数十年でそれを目指す41都市が地方自治体同 士の取り組みに参加している158。英国のロンドンでは、2013 年には市内のエネルギー供給インフラを見直す計画の策定 を始め、その中には自然エネルギー発電の余剰分をグリッド へ逆潮流させるために必要な変更が含まれる159。年末まで に欧州の都市は、734件の持続可能エネルギーアクションプ ランを欧州市長誓約に提出した。これにより3333の欧州の 地方自治体がアクションプランを持ち、エネルギー効率化と 自然エネルギーを利用して、2020年までに少なくとも20〜 40% の排出量の削減をすべての自治体が目指すこととなっ た160。 米国では、ワシントン(コロンビア特別区)、デモイン(ア イオワ州)、サンタバーバラ(カリフォルニア州)を含めた 50以上の地方自治体が、地域の気候変動への対策を強 化する計画を発表した。そのステップとしては、自然エネ ルギーの利用拡大と、建物や他のインフラのエネルギー効 率の向上が含まれる161。また、2013年には、アッシュビル (ノースカロライナ州)が石炭火力電力を段階的に減らし 自然エネルギー電力に移行する取り組みに、満場一致で 賛成した162。 電力事業者が公的管理か公営であれば、地方自治体や i 市民が、自然エネルギーの計画と普及においてより重要な 役割を果たすことが可能とある。同時に、目標や奨励金、 そして個人や地域による自然エネルギーに対する投資を促 進する政策を、地方自治体が直接推進することが可能にな る。2013年、ドイツのハンブルグ市では、市議会が地域の 電力グリッドの所有権を再獲得すべきかどうか住民投票を 行い、入手可能な自然エネルギーの効果的な増加と高い 電力ネットワーク料金の回避を目指した163。ドイツの少なくとも 190のコミュニティが、2005年以降に地域電力グリッドを買い 戻した164。米国では、コロラド州ボールダー市において、電 力料金を下げ自然エネルギーのシェアを上げる市営事業が 結成された。これにより、合計5000万人の米国の顧客に一 括供給している市営事業も加えた米国の1000以上のコミュ ニティにボールダー市が加わることとなった165。 米国では、すでに地域運営型電力事業者を持つ都市が、 現行の自然エネルギー電力の目標達成と、州レベルの再生 可能エネルギー導入基準制度を補完するために、固定価 格買取制度(FIT)の採用や改訂を継続した。石炭火力 発電から脱却する戦略の一環として、ロサンゼルス市は、 固定買い取り制度を2013年に開始した提案要請を組み合 わせて、350MWの太陽光発電容量を増やした166。カリフォ ルニア州パロアルト市では、FITプログラムの規模を縮小し たが、太陽光発電からの買取価格を15% 以上上げ、2013 年からすべての顧客にカーボンニュートラルな電力を供給す る計画を実施した167。コロラド州フォートコリンズ市では、ビ ジネス顧客への太陽光発電 FIT 制度を立ち上げた168。 日本では、都市において自然エネルギーを推進する公共と 民間のパートナーシップを作り、地域電力事業者の設置を 開始した。2012年には静岡県が地域電力事業者を立ち上 げ、自然エネルギー・コミュニティパワー・プロジェクトを始 めた。これは、204人の地域投資家によるおよそ20万米ドル (2000万円)の小規模市民ファンドを用いて、建設されたも のである。さらに、小田原市では地域電力事業者を作り 2013年に稼働が開始し、福島県は、2014年初めに地域の 自然エネルギープロジェクトの支援のための基金を立ち上げ た169。 市営の電力事業者を持たない都市は、現在の送配電シス テムを使って自然エネルギー電力を一括購入できるようにす る枠組みを構築するために、地域の住民や事業が州や国 政府と協働している。オーストラリアのシドニー市では、自然 エネルギーの余剰分(電力と熱両方)を市の建物間で共 有できるようにする、15の規定改正の勧告を発行した170。 米国では、2013年後半までに6つの州がコミュニティ・チョイ ス・アグリゲーション i (CCA)を法制化している171。シカゴ 市は2012年遅くにCCA 政策を採択したが、2013年までに およそ100万の電力顧客をあつめ、非原発/非石炭の電 力契約をし、その年の CO2排出量予測を16% 削減しようと した172。米国の少なくともあと4つの市が2013年中にCCAを 採択し、30を超える市が検討をはじめた173。インドでは、ガ ンディナガール市が州の固定価格買取制度に基づいて、 屋上に5MW の太陽光発電の導入を始め、そして2014年 始めの時点で、バーヴナガル、メーサナ、ラージコート、スー CCA は都市または町や都市の連合体に居住者、企業や市営施設の電力負荷を取りまとめ、エネルギー供給契約を代行して交渉することを許可している。 ─ 83 ─ 第4章 34% 削減するという国家目標の達成へ向け、都市は国とと もに参画し支援している155。アジア太平洋経済協力(APEC) は、ユージアプ(中国) 、サムイ島(タイ) 、ダナン(ベトナム) を最初の3つの事例として、低炭素型モデルタウン構想を推 進してきた156。2013年には、ブラジル、インド、南アフリカ、 インドネシアの8つのモデル都市において、低排出量開発戦 略の策定が始まり、その中には持続可能性をめざす自治体 協議会(ICLEI)が地方政府向けに作成した共通の方法 による自然エネルギーの利用も含まれる157。 第 4 章 政策の展望 ラト、ヴォドーダラー市で、合わせて25MW の屋上設置太 陽光発電の入札許可を待っている174。南アフリカでは、ポー トエリザベス市が地域の小規模自然エネルギーシステムに余 剰買取りを導入した、最初の市となった175。 他の市では先陣を切っているところがあり、たとえば市の運 営や市内の建物に自然エネルギーシステムを設置する目標 設定などが挙げられる。インドのグントゥール市、スリペルブ デュール市は2013年に、化石燃料使用削減目標を達成す るために自然エネルギーシステムを設置し、アウランガーバー ド市でも同様の目標を設定した176。米国では、ミズーリ州カ ンザスシティ市が、市における電力利用のために市が所有 する80の建物に太陽光発電を設置する契約を結んだ。カリ フォルニア州ヨーロー郡では、現地での太陽光発電で1350 万 kWh(需要の152%)を発電した。テキサス州オースチ ン市では、自然エネルギーのクレジット購入を行い、市の施 設に100%自然エネルギー電力を供給することで、市の消 費の目標値を達成した177。シドニー市では、オーストラリアで 最大の建物設置型太陽光発電システム(1.25MW)を市 営の建物に設置して、年間炭素排出量2,250トン削減へ向 けたステップの一つとしている。ニュージーランドのパーマス トンノース市では、管理棟の上に電力需要の10%を発電す る、同国では最大となる、100kW の太陽光発電の建設を 始めた178。オランダのアーメラント市では、マイクロCHP 燃 料電池による地域のスマートグリッドを立ち上げ、その燃料 電池は2013年後半に稼働を始めた。この燃料電池により、 ピーク需要負担に対応することができ、また風力と太陽光の 変動型発電のバランスをとるように調整することが可能とな る179。 建築部門において、地方自治体やコミュニティは、低エネル ギーあるいはゼロエネルギー目標、もしくは低炭素あるいはゼ ロ炭素排出目標を設定し、建築規定を改正し、自然エネル ギーの導入を受け入れるための土地利用や承認に関する政 策の改正を続けている。中国の上海市では、低炭素発展 計画の一環として、ほぼゼロ排出建築のためのグリーンエネ ルギー政策とビジネスモデルの実証実験を行っている180。イン ドネシアのジャカルタ市では、2013年の初めに、新グリーン 建築規定が義務化された181。インドのブバネーシュワル市で は、計画と建設の現行基準を修正し、大型建築物には屋 上設置型太陽光発電の設置を義務化した182。バンガロール 市、プネ市、ハイデラバード市は、国のグリーン建築査定シ ステムを導入した183。米国では、カリフォルニア州のランカスター 市とセバストポル市において、一定面積以上の土地に建て られるすべての新規建築物に、最少1~1.5kWの太陽光発 電の設置を求める土地区画規定が議会を通過した184。欧 州委員会のPOLISプログラムの下、6つの欧州の都市では、 都市建築における太陽エネルギーの可能性を最大化させる ガイドラインの作成が行われた185。 自然エネルギーシステムの投資による前払いコスト削減のた め、多くの自治体では、土地の所有者による低価格・長期 融資の利用を容易にし、そして(または)市の課金システ ムを使えるようにしている。南アフリカのケープタウン市では、 家庭用太陽熱温水器を設置するにあたり、認定供給業者 が金融機関と組んで、その温水器を新しく設置する居住者 にローンを提供するプログラムを立ち上げた186。オンタリオ市 は、ユーコン市、ノバスコシア市についで、地域振興料金 を融資資金として使う権限を認めるカナダ第3の管轄区になっ た。よって、市は不動産所有者に対し、エネルギー効率 化改修あるいは自然エネルギー設置への低金利資金を提 供し、ローンは固定資産税請求書への上乗せとして返済 される187。オンタリオ州トロント市では、自然エネルギーシス テムを1000戸の一戸建てと10棟の集合住宅に導入し、地 域振興料金を利用して貸付を行う実証プログラムを認可し た188。米国では、いくつかの州が不動産クリーンエネルギー 債権(PACE)プログラムを採択し、テキサス州が最新の 参加地域となっており、2013年時点では、米国内の多くの 市からの参加があったi 189。世 界では、2013年に、屋 内 給湯を電力から太陽熱に切り替えるプログラムの立ち上げ を続ける都市もあった。アルゼンチンのサンタフェ市では、 すべての市立児童ケアセンターで太陽熱温水器を義務化 し、2013年には34件の保育施設の改修工事で設置を行っ た190。南アフリカのケープタウン市では、毎月の返済額が設 置によって節約できる電気代以下に設定されたことによって、 中高所得家庭が太陽熱温水器をより買いやすくなった。こ のプログラムによって、2013年末までに10万 GWhの電力消 費が抑えられた。ケープタウン市は、今後5年間で、6万~ 15万台の高圧型太陽熱温水器システムの設置を目標として いる191。CO2削減量の達成のために、カナダのハリファック ス市は、ターンキー方式太陽熱温水器の提供を年あたり 1000台とする計画を立ち上げた192。インドでは、州の奨励 金が拍車をかけ、2013年時点で少なくとも8つの州の90の 市が、太陽熱温水器を建築物に関する条例から義務法化 する改正を行った193。 地方自治体が自治体所有の建物を改修する際、暖房と産 業の熱利用あるいは冷房用として自然エネルギーを導入す ることも検討されている。市に自然エネルギーを増やすには、 地域冷暖房システムが最適な手法となっている。多くの市 では、自然エネルギー熱利用のみ、あるいは熱電併給コー ジェネレーションの形態で、地域冷暖房システムを進化させ ている。シドニー市では2013年、市の目標である100%自然 エネルギー(電力・熱利用・冷房)を達成する計画を立ち 上げ、太陽光と風力で30%を、残りの部分は、建物内あ るいは公共建築物ごとにコージェネレーションやトリジェネレー ションガスエンジンを設置して供給されるものが占める(オー ストリアのギュッシング、スウェーデンのヨーテボリ、オランダ ii の主要都市に見られる) 。初期に天然ガスで供給するが、 次第に合成ガス、バイオガスへと移る194。 自然エネルギー電力を用いた電気自動車やプラグイン自動 車の利用を促進し、公共交通にバイオ燃料を利用して、よ り持続可能な交通システムへ移行しようとする市が増えてき ている。2013年には、米国インディアナ州インディアナポリス 市において、新規に購入する市の車をすべてEV か PHV i LIC と同様に、PACE は自然エネルギーシステム購入、またはエネルギー効率向上のために不動産所有者が地方自治体からローンを借用することを可能にする。借用額は、固定資 産税評価額、あるいは公共料金の支払いのような他の支払いや地方税を経由して返済される。 ii トリジェネレーション(冷却・熱・電力)は CHP(熱・電力)にもうひとつ機能を追加する。これは、熱エネルギーが空調冷房あるいは冷凍の為の冷却水に変換され、さらに言 えばそのサービスに必要とされた電力を置き替えることとなる。冷房は、地域の冷配管付きの集中熱冷却ステーション、もしくは温水配管を通り、おのおのの建物に分配される。 ─ 84 ─ と排出量の計算の規格化を図った。これにより、都市が各々 の進捗を記録し、どの活動が気候とエネルギーに有効な活 動かを見極めることが可能になった202。 さらに、2013年は公式の国際的な気候変動に対する都市 の参画の統一化と強化が見られた年でもあった。国連気候 変動枠組条約(COP19)の閣僚級会合の期間中に、初の 「都市の日」が行われ、国家の大臣と市長が、多層的な 気候変動管理を共同して強化することになった203。 にすることを義務化し、ニューヨーク市では、市の全6000 台のディーゼル車には少なくともB5燃料を使うことを要求し た195。コロンビアのボゴタ市では、50台の EVタクシーの実 証プロジェクトを実施し、大量交通システムの一環としてハ イブリッドバスを導入した(2014年には200台を計画)196。 サンパウロ市ではブラジル初のバッテリー式電動バスを、ポー ランドのルブリン市では2013年にソーラー電力供給型のバス を運行開始した197。ニュージーランドのカピティ市では、南 半球初の電動ゴミ収集車の運用を開始し、南アフリカのヨ ハネスブルグ市では、バイオガスやバイオディーゼル燃料で 運行する175台のバスの新規購入計画を発表した。また、 英国ロンドン市では廃食用油から精製したバイオディーゼル で市バスを運行する計画を発表した198。 都市が最適な手法を共有し、規模を拡大し、自然エネルギー に対する姿勢を強調し、成果を説明していくのに伴って、 地方自治体は、気候とエネルギーのデータの報告の体系的 な測定に一層重きを置き始めている。2013年末までに、カー ボン都市気候レジストリ(cCCR)では、45か国以上の414 の市から836件のエネルギーと気候に関する宣言を登録し、 これまで報告された緩和策と適応活動は4208件に上った (2012 年 から倍 増した )200。2014 年 の 早 い 段 階 で、 ICLEI、世界大都市気候先導グループ(C40) 、世界資 源研究所、世界銀行グループ下の都市連盟共同プログラム (Joint Work Programme of the Cities Alliance) 、国 連ハビタット、国連環境計画は、世界35の都市でコミュニティ レベルの温室効果ガス排出量のグローバルプロトコル(GPC) を先行実証するために協調して活動した201。C40は、市が 温室効果ガス排出量を計測・計画・緩和できるようにする、 シーメンスとの新たなパートナーシップを公表した。さらに、 C40とカーボン・ディスクロージャー(CDP)が共同プログラ ムを発表し、気候変動への活動を毎年報告する市の増加 ─ 85 ─ 第4章 また、多くの都市が、交通システム電動化に必要なインフラ 整備を普及させる規則や法律を採択している。たとえば、 カリフォルニア州パロアルト市では、2013年に建築規定を改 正して、すべての新規建築はEV 充電器用の配線を敷設 しておくことを定め、ニューヨーク市では、区画規定と建築 規定を改めて、すべての公共駐車場はEV 用配線の敷設 を義務化した199。 第 4 章 政策の展望 表3.自然エネルギー促進政策 公 的 投 資・融 資・ 助成金 付加価値税・その他税控除 消費税・エネルギー税・ 税・ 投 資・生 産 税 額 控除 初期投資助成金・ リベート バイオ燃料 義務付け 自 然エネルギ ー 熱利用義務付け 入札制度 エネルギ ー 生 産 支給金 財政優遇と公的融資 取引可能な自然 エネルギー証書 RPS 固定価格買取制度 自 然エネルギ ー 目標 ネット メータリング 規制政策 ︵プレミアム制度も含む︶ 国別 CO2 高所得国 アンドラ オーストラリア オーストリア バルバドス ベルギー カナダ チリ クロアチア キプロス チェコ共和国 デンマーク エストニア フィンランド フランス ドイツ ギリシャ アイルランド イスラエル イタリア 日本 クウェート ラトビア リトアニア ルクセンブルク マルタ オランダ ニュージーランド ノルウェー ポーランド ポルトガル ロシア シンガポール スロバキア スロベニア 韓国 スペイン1 スウェーデン スイス トリニダード・ トバゴ アラブ首長国連邦 英国 米国 ウルグアイ R* * R* R R R R R R R R R R R R R R R R R R R R R* R R R* R* R* R R R R R ○=国の既存政策、●=自治体の既存政策、★=新しい政策、R=改訂された政策、 ×=廃止された/期限切れの政策、*=自治体の政策 スペインは2012年に新規プロジェクトへの固定価格買取制度(FIT)を廃止した。それ以前に固定価格買取制度に認定されたプロジェクトへのインセンティブ は修正され続けている。 1 ─ 86 ─ 表3.自然エネルギー促進政策(続き) 公 的 投 資・融 資・ 助成金 投 資・生 産 税 額 控除 初期投資助成金・ リベート バイオ燃料 義務付け 自 然エネルギ ー 熱利用義務付け エネルギ ー 生 産 支給金 財政優遇と公的融資 入札制度 取引可能な自然 エネルギー証書 RPS 固定価格買取制度 自 然エネルギ ー 目標 ネット メータリング 規制政策 ︵プレミアム制度も含む︶ 国別 高位中所得層 R R R R R R R R R R R R R R R R ○=国の既存政策、●=自治体の既存政策、★=新しい政策、R=改訂された政策、 ×=廃止された/期限切れの政策、*=自治体の政策 2012年に期限切れとなったエクアドルのFIT(固定価格買取制度)は2013年に再開された。 パレスチナ自治区は世界銀行の国の分類では「ヨルダン川西岸とガザ」に含まれている。それらは国連による2009年「パレスチナ暫定自治区」の一人 当たりGNI(1483米ドル)を用いた。 注:表中の各国は一人当たりの国民総所得(GNI)によって分類されている。「高所得」:1万2616米ドル以上、「高位中所得」:4086∼1万2615米ドル、 「低位中所得」1036∼4085米ドル、「低所得」:1035米ドル以下である。一人当たりの所得水準とグループ分けは世界銀行による2014年データを使用 した。しかしながら、いくつかの政策でみられるように、法制化のみでは政策が有効に実施されたとはいえず、政策の実効性を欠き影響力を持たずに 政策が終わることもある。2013年に中断された政策はXで示されている。また過去に中断されたものは表には掲載していない。多くの導入された政策 は技術的な範囲に限定している。国や地方の政策が同じ政策の種類として含まれてる場合には、国の政策として示している。 2 3 出典:本章巻末を参照 ─ 87 ─ 第4章 アルバニア アルジェリア アンゴラ アルゼンチン アゼルバイジャン バーレーン ベラルーシ ボスニア・ヘルツェゴビナ ボツワナ ブラジル ブルガリア 中国 コロンビア コスタリカ ドミニカ共和国 エクアドル2 フィジー グレナダ ハンガリー イラン ジャマイカ ヨルダン カザフスタン レバノン リビア マケドニア マレーシア モルディブ マーシャル諸島 モーリシャス メキシコ パラオ パナマ ペルー ルーマニア セルビア 南アフリカ セントルシア タイ チュニジア トルコ 第 4 章 政策の展望 表3.自然エネルギー促進政策(続き) CO2 低位中所得国 アルメニア カメルーン カーボベルデ コートジボワール エジプト エルサルバドル ミクロネシア連邦 ガーナ グアテマラ ガイアナ ホンジュラス インド インドネシア レソト モルドバ モンゴル モロッコ ニカラグア ナイジェリア パキスタン パレスチナ自治区3 パラグアイ フィリピン セネガル スリランカ シリア ウクライナ ウズベキスタン バヌアツ ベトナム R R R R R R R * R R R 低所得国 バングラディシュ ベナン ブルキナファソ エチオピア ガンビア ギニア ギニアビサウ ハイチ ケニア キルギスタン マダガスカル マラウイ共和国 マリ モザンビーク ネパール ニジェール ルワンダ スーザン タジキスタン タンザニア トーゴ ウガンダ ザンビア ジンバブエ R R ─ 88 ─ R R 公 的 投 資・融 資・ 助成金 付加価値税・その他税控除 消費税・エネルギー税・ 税・ 投 資・生 産 税 額 控除 初期投資助成金・ リベート バイオ燃料 義務付け 自 然エネルギ ー 熱利用義務付け エネルギ ー 生 産 支給金 財政優遇と公的融資 入札制度 取引可能な自然 エネルギー証書 RPS 固定価格買取制度 自 然エネルギ ー 目標 ネット メータリング 規制政策 ︵プレミアム制度も含む︶ 国別 第 5 章 発展途上国における分散型自然エネルギー 発展途上国の多くの農村地域では、中央集中型電力系統 への接続は経済的に困難であり、実現するとしても数十年 かかると思われる。さらに、電力系統への接続では、持続 可能な熱利用や調理という需要に対応することはできない。 自然エネルギーシステムにより、遠隔地域および農村地域に おける近代的なエネルギー・サービスへの移行を加速させ るかつてない機会が現れている。これは、持続可能な調理・ 熱利用の器具、手頃な照明装置・通信手段・冷蔵手段の 増加、公衆衛生の改善、処理工程やその他の生産活動 のためのエネルギー・アクセスの改善によるものである。こ れらの目的は、自然エネルギーの普及を推進するための制 度、財政、法制度、規制面における支援メカニズムを確立 し、強化することによって達成されうる。同様に資金調達へ のアクセスの改善、必要不可欠なインフラ開発、自然エネ ルギーや持続可能なエネルギー源へのアクセスの欠如とい った課題を明確に認識させることにこれらの支援メカニズム は貢献することができる4。 本章では、伝統的バイオマス、炭素ベースの燃料、化石 燃料と系統ベースの電力の代替となる実行可能で競争力 のある多様な選択肢に焦点があてられている。利用可能な 技術として含まれるのは、自然エネルギーを基盤とした小規 模な独立型発電システム、バッテリー充電と通信、揚水の ためのミニグリッド、そしてたき火や非効率的なストーブの代 替となる、冷暖房や温水、低公害型の調理のための自然 エネルギーシステムであるiv。個人とコミュニティのエネルギ ー需要を満たすために、革新的で、モジュール化された、 持続可能で現地に適した自然エネルギーを基盤とした解決 策の利用が可能となっている。また一方で、エネルギー・ セキュリティの向上、燃料関連のコスト削減(化石燃料の 助成金を含む) 、労働力のスキルアップ、薪炭材の収集に かかる負担の緩和も促すことができる。 アフリカ、アジア、ラテンアメリカの発展途上国は、エネルギ ー・アクセス・プログラムに自然エネルギーを組み込むことで 生ずる、経済、環境、そして健康面における多様な便益 を認識している。これらは、大気汚染や温室効果ガスの削 減、新しい産業の形成、雇用の創出などを含む5。このよう な便益を得るために、多くの国々は伝統的な化石燃料を基 盤としたエネルギー・システムから脱却し、エネルギー・アク セスを拡大するために分散型自然エネルギーシステムを採用 し始めている6。 近年、ミニグリッドは最もダイナミックで成長率が高い分散型 自然エネルギー部門の一つとなった7。ミニグリッドは、2030 年までに全世界的なエネルギー・アクセスの達成に必要とさ れる発電容量の追加分のうち、推計45%分の寄与をすると 期待されている。それゆえ、ミニグリッドはすべての人のた めの持続可能なエネルギー(SE4ALL)構想下で設定さ れた目標を、各国が達成できるようにするための主要な役割 を担うことが期待される8。 SE4ALL 構想の狙いの一つは、2030年までに近代的なエ ネルギー・サービスへの全世界的なアクセスという目標の達 成を促すことである。SE4ALLにより、エネルギー・アクセ スの課題が政治の第一線に持ち出された一方で、エネル ギー効率の改善を合わせた自然エネルギーの潜在性が強 調された。2014年はじめまでに80か国以上の発展途上国 が当構想に参加しており、これらは対象となる人口の約半 数を含んでいる。しかし、中国とインド双方が構想に賛同し ておらず、援助国と関係機関もいまだに大規模な財政的コ ミットメントを打ち出していない9。ここ数年の進展は著しいが、 自然エネルギーへのアクセスをすべての人に実現するという 目標を達成するにはまだほど遠い。 発展途上国における分散型自然エネルギー市場は、国や 地域によって、電化や低公害型調理ストーブへのアクセス、 金融モデル、支援政策などのレベルに大きな違いがある。 この市場は、多様なレベルの様々な関係者によって形作ら れている。これらの関係者のなかには、その多くがアフリカ やアジアを含む数か国にまたがる大規模な計画を援助する 国際的または地域的な開発機関や、一般的に国家政府 が計画し履行する国家レベルのプログラムが含まれ、また、 i 主に中国、ウルグアイ、北朝鮮や東ヨーロッパの数か国 IEA, World Energy Outlook2011(Paris: IEA/OECD, 2011)とIEA, World Energy Outlook2013(Paris: IEA/OECD, 2013)によると、ラテンアメリカでは電力へのアクセスを持た ない人口はこの時期に3100万人から2400万人に減少した。一方アジアでは、電力へのアクセスを持たない人口が6000万人減少した。 iii IEA の規定により、アジアの発展途上国には、アフガニスタン、バングラデシュ、カンボジア、中国、台湾、北朝鮮、東ティモール、インド、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、ネパール、 パキスタン、ラオス、フィリピン、シンガポール、スリランカ、タイ、ベトナム、そして他の国が含まれる。 iv 国際金融公社の規定によると、これらの解決策にはすべての携帯型のソーラーランタン、手動クランク技術やペダル発電技術などが含まれる。 ii ─ 89 ─ 第5章 近代的なエネルギーサービスへのアクセスは持続可能な発 展に不可欠である。しかし、13億人もの人々が電力にアク セスできず、26億人以上の人々が調理や熱利用において 伝統的バイオマスに頼っている1 (表参照 R20・R21を参照)。 さらに、推計2億〜3億人i が、調理や熱利用に石炭を燃料 とした伝統的調理用ストーブを利用している2。2011〜2013 年の間、いくつかの国々で大幅な前進が見られたものの、 世界で電力へのアクセスを持たない人々の総数は基本的に 変わっていないii。ラテンアメリカとアジアの発展途上国iiiでの 電力供給が改善された一方で、他の地域では大幅に遅れ ている。インドでは、電力へのアクセスを持たない人口が 1700万人増加して合計3.06億人となり、電力へのアクセス を持たない世界の人口の半数はアフリカに存在する3 (参照 図31、P.93)。 第 5 章 発展途上国における分散型自然エネルギー 補足9. 分散型自然エネルギーの定義と範囲 この版のGSRでは、農村地域の自然エネルギーという以 前の章が「発展途上国の分散型自然エネルギー」に改 名された。これは、分散型の特性を持つ発展途上国に おけるエネルギーに関連する発展の範囲を正確に示すた めである。 エネルギー・システムは以下の場合に分散型とみなされる。 (1)エネルギー生産システムが比較的大規模で集中して いるものよりも、むしろ比較的小規模で、分散しているとき (屋 上設置型の小規模太陽光発電など) 、 (2)中央集中型ネッ トワークから独立したエネルギー生産と配分が生じるとき、 (3) これら両方の場合、である。本章の目的に照らして、「分 散型エネルギー」は双方の条件にあてはまることとする。 分散型エネルギーは、発展途上国の都市や農村地域に 電化、調理、熱利用、そして冷房のためのエネルギー・ サービスを提供しており、これらのエネルギーはどの都市 集中型システムからも独立して生産され、供給されている。 電力システムは主要な三種に分類することができる。そ れは、大規模な中央集中型系統システム、ミニグリッド、 そして独立型系統である。三種類すべてが分散型の要 素を持つと言えるが、後の二種のみが完全な分散型の性 質を持つ。世界中の大半の人々、とくに先進国の人々は 大規模な統合された発電、送電、そして配電ネットワーク である電力グリッドのエネルギー・サービスを受けている。 ミニグリッドはサイズが多様で、通常独立した分散型ネット ワークを通して一まとまりの家庭や事業者にサービスを提供 しており、遠隔地でのサービスが最も一般的である。独 立型系統は個々の家庭やビジネスで用いられており、発 電されている場所ですべてのエネルギーが消費される。 分散型電化システムには多様な利用法がある。先進 国では電力システムを強化するために分散型発電設備が よく採用されており、信頼性を高めている。中央集中型 系統システムでは農村地域や遠隔地域に住む数百万人も の人々に電力を届けられていない発展途上国においては、 分散型自然エネルギーシステムは電力アクセスの提供の 点から重要である。世帯あたりの需要は小さくとも、多数 の家庭やビジネスが集まることで、ミニグリッドを整備する ための費用を十分に正当化できる負荷が生じる。ゆえにミ ニグリッドは、人口密度の高い地域に実行可能な策を提 供しているのである。独立型の家庭用電力システムは大 抵の場合、主に照明や電話の充電に使われる数百ワット 分に需要が限られている現在の農村地域の家庭にとって、 最も実行可能性が高い選択肢である。 2013年は分散型自然エネルギー市場において最も革新的 な実現が行なわれていたとも言える、一般家庭と直接取組 んでいるコミュニティレベルのビジネスや実践者などが含ま れる。 自然エネルギー分野における多様性と関係者の多さ、分散 型の特性を持つエネルギー供給と消費、協調の不十分さな どのため、データ収集や影響評価が困難となっている。そ のため、統合された信頼性のあるデータが不足している。 しかし、多くの個々のプログラムや国ごとのデータを閲覧す ることは可能である。本項では、発展途上国の都市や農 村地域における分散型自然エネルギー市場の現状を描き、 2013年に稼働中の分散型自然エネルギー分野における主 要ネットワークと計画の全体像を紹介することを目指す(参 照表 R22とR23を参照)。 ■分散型自然エネルギー技術 農村地域や遠隔地域に住む人々は、エネルギー・アクセス の改善を3つの方法で行っている。それらは、 (1)独立型 装置やシステムを利用した、家庭レベルでの発電、熱利用 と調理(2)コミュニティレベルのミニグリッドシステム、 (3) 系統が都市を超えて広がるグリッドベースの電化である10。 本項では、エネルギー・アクセスを改善する最初の2つの方 法に焦点を当てる(参照 補足9参照)。 農村地域や遠隔地域における電気や調理、冷暖房のため の分散型自然エネルギー技術の利用と設置数は、2013年 に増加した。この拡大は、財政的余力の改善、資金調達 の可能性の拡大や現地の資源に関する知識、また消費者 の特定の需要を満たすのに適した高度な技術などによる直 接的な結果である。 ここ数年の劇的な価格減少によって、非常に小規模なもの でさえも太陽光発電はより手頃なものとなった。ソーラーラン タンやソーラーピコPVシステム(SPS)(最大容量 1〜 10W) 、大きめのソーラーホームシステム(SHS)(10〜 200W)などの人気が、2013年に上昇し続けた。ソーラー ピコPVシステム(SPS)は自分で簡単に設置することができ、 今や照明、通信、バッテリーや携帯電話の充電といった、 基本的なサービスにおいて広く利用できる。ソーラーホーム システム(SHS)で動くエンドユーザー機器が増えつづけて おり、農村地域におけるこれらのシステムへの関心が高まっ ている。最も成功したソーラーホームシステム(SHS)プロ グラムの一つはバングラデシュで行われたものであり、2013 年5月現在で200万台以上のシステムが導入されている11。 小型風力発電機(50kWまで)は、近年の新素材と無線 技術の台頭によって性能が向上した。2013年に、小型風 力発電機は主に発電における変動を容易に制御することが できるバッテリーの充電、遠隔通信、灌漑、揚水のために 使われた12。 小規模で分散型の風車の設置促進に最も成功したプログラ ムの一つは、中国の内モンゴルで行われたものである。 2013年はじめの時点では、この地域には13万台のシステム (それぞれ200〜1000W)が稼働し、50万人に電気を供給 ─ 90 ─ 1kWほどの小規模なミクロまたはピコ水力システムは、地域 住民に手頃な電力を供給するものとして多くの国々で一般 的となっている14。概して、これらの水力システムは最低20 年間確実に稼働し、堆積物を取水口のスクリーンから取り除 くことを除けば最低限のメンテナンスで済む。ネパールでは、 2012年の終わりまでに2500台のミクロまたはピコ水力システ ムが設置され、総発電容量は20MWとなった15。それに加 えて、南インドではいくつかの1kWのシステムが設置されたが、 これらの大半は民間機関によるものであり、政府の援助を 受けていない16。 より多くの国々でエンジンを用いた発電装置に燃料を供給 するために、ココナッツやジャトロファ、その他の原料からと れる植物油がディーゼルの代替として用いられている。タイ では、使用済み調理油から電力を発電するためのバイオデ ィーゼルが小規模に生産されている17。インドやベトナム、 その他の国々では、乾燥した木材、雑草やもみ殻から作 られたバイオガスがエンジンの燃料としてますます利用され ており、ミニグリッドに電力を供給するための発電装置を動 かしている18。 ミニグリッドは世界中でますます普及してきている19。自然エ ネルギー統合のためのモジュラー技術の使用を含めた、こ こ数年の技術革新は、自然エネルギーを動力源としたミニグ リッドの規模拡大につながった20。それに加えて、電力管理 や最終消費者向けサービスのための情報・通信応用技術 の発達により、課金や計量、負荷管理、そして遠隔故障 診断についての改良が見られた。電力アクセスを増やすた めのインドの計画の一部として、2013年半ばまでに80以上 の村がガス化装置や現地で入手可能なバイオマス残さ(現 地の農家から手に入れたカラシの茎、トウモロコシの穂軸、 そして牧草などを含む)を利用した稼働中のミニグリッドを 保有していた21。 の消費をたき火に比べて40〜60% 減少させる強制排気型ス トーブやガス化ストーブなどがある25。このような効率的なバ イオマス調理用ストーブは、5〜25ドルという低価格で販売さ れている26。 これらの改良型調理用ストーブは、主に森林の薪、作物残 さ、家畜糞尿などの資源からとれた伝統的バイオマスを燃 料としている。その他の多種にわたる燃料は、はるかに小 規模になるが家庭の調理でも使われている。これらの燃料 としては、エタノール、バイオガス、木質ペレット、太陽光、 非自然エネルギーとされる石炭、灯油、液化石油ガスが含 まれる27。 簡素な嫌気性発酵装置技術によって、家畜糞尿や作物 残渣、その他の有機廃棄物原料を資源とした調理用のク リーン・バイオガスを生産できる。これらのバイオガスシステ ムは温暖な気候でいっそうよく機能するが、多様な条件下 でも機能し、システム数が増え続けている。バイオガスは、 家畜(と人間の)排泄物とが日常的に回収できる推定1億 5500万世帯の家庭と営利農家に最も適している28。バイオ ガス技術の採用と普及の拡大はまだ多くの国々で実現され ていないが、これは高い資本コストのためであり、貧困家 庭は小規模な装置さえも購入できない状態となっている29。 しかしながら、近年多くの国際的プログラムによって、家庭 用のバイオガスシステムの設置が急増している国々があ る30。中国では2013年に180万台のバイオガス設備が追加 され、合計4350万台を超えた。その結果、中国は小規模 なバイオガス設備において現在も世界を先導している31。イ ンドでは2012年、12万5000台の設備が建設され、2013は じめまでには設備数が合計470万台近くとなった32。ネパー ルでは、2013年中頃までに29万500台のバイオガス設備が 稼働しているが、これはおそらく政府による複数年の消費 者向け補助金がある程度影響していると見られる。さらに ケニアでは、9000台以上の設備が設置済みである33。 農村地域の熱利用や冷房分野は、技術の発達と同時に、 低公害型の調理、温水や暖房のための近代的バイオマス や太陽熱システム利用の恩恵に関する住民向けの教育プロ グラムの人気が上昇したことで発展した22。ACCES(The Africa Clean Cooking Energy Solutions Initiative) は、サハラ以南のアフリカにおける低公害型調理法の事業 ベースの大規模な拡大や採用を促進するために設立され た。このプログラムの段階的実施は、26か国のアフリカの国々 から集まった130以上の出資者の協議の下、2013年に始ま った23。しかし、現時点で改良型調理ストーブが国際的に 大規模に設置されたという成功例はきわめて少ない24。 低公害型調理用ストーブのデザインは非常に多様であり、 いまも新型が登場し続けている。いくつかのモデルは代替ク リーン燃料を使っているが、一方で他の改良型ストーブは 伝統的なバイオマスを使っている。しかし、そのストーブは 燃焼過程の効率が向上しているので、同じ熱量を生み出 すために消費される燃料は少なくなる。高性能のバイオマ ス調理用ストーブとしては、排出物を著しく低下させ、燃料 ─ 91 ─ 第5章 していた。当計画の成功は、ここ20年にわたって制度枠組 みが安定していたことによるものであった13。 第 5 章 発展途上国における分散型自然エネルギー 適切な状況下では、太陽熱調理器具によって時間、労力、 金銭、そして可燃性燃料の需要を抑えることができる。ネ パールの、とくに難民キャンプやヒマラヤ山脈付近の小さい村々 において、多数の太陽熱調理器具が配備された34。しかし、 一時は人気であった太陽熱調理器具も、現在では衰退傾 向にある35。太陽熱調理器具は、しばしば日中の暑さを避 けてたき火で調理をする習慣がある人々にとっては馴染み が薄く、これらのストーブに適応するためには訓練と継続的 管理が必要となる36。 他の調理技術でも同じことが言える。改良型調理ストーブ が実験室から一般家庭で実際に利用されるまでの道のりは 容易ではない。普及啓発、改良型調理用ストーブの試験 および実演、実行可能な財政構造などはしばしばすべてが、 人々が伝統的調理用ストーブから脱するために必要とされ るのである。多くの発展途上国の家庭では、伝統的調理 用ストーブと同じような仕組みで動く改良型ストーブが文化 的に受け入れられてきた。しかし、伝統的バイオマスが比 較的容易に市場で入手できる地域では、深刻な市場の課 題に直面し続けている37。寒冷気候では、調理用ストーブ がしばしば暖房のために使われているが、これは調理用ス トーブの構造や燃料の選択に影響を与えうる。 ■政策の枠組み 発展途上国のいたる所で、系統の拡張だけではエネルギー・ アクセスを拡大することが不可能であるという認識が高まり つつある。また、国の政策、規制、目標が、分散型自然 エネルギー市場で広まる投資や財政モデルを決定する重要 な役割を担うという認識も広がっている38。その結果、ます ます多くの国々が、オフグリッドの解決策を地域のより広い 発展政策や枠組みに統合してきている39。ますます多くの政 府がトップダウンアプローチから脱却し、幅広い関係者層を 基盤とした、エネルギーシステムの発展・管理に取り組む現 地の民間部門への支援と、新規投資につながりやすい環 境の提供を行う枠組みへと転換してきている。 エネルギー・アクセス改善のためにこれまでに発展してきた 政策の枠組みの大半は、電化に重きをおくものばかりで、低 公害型調理や冷暖房へ焦点を当てるものは限られてきた。 自然エネルギーの利用促進やそれに伴う障壁を扱う政策は、 自然エネルギー系統の設置や当部門への投資誘導を促進 するための重要な役割を担っている。組織的、法的、制度 的な枠組みが進化するにつれて、自然エネルギー計画も進 展し続けている40。たとえば、消費者の需要拡大と政府の 積極的な政策に対応して、バングラデシュでは一日1000台 以上のソーラーホームシステム(SHS)が設置されている。 それと同様に、サハラ砂漠以南ではピコ電力照明システムを 売る生産者数が、2008年から2012年の間に4倍増加した41。 ブラジル、中国、インド、南アフリカは、大規模なオフグリッ ド自然エネルギープログラムの展開をけん引してきた。これら のプログラムは、エネルギー・アクセスと持続可能性という2 つの課題に取り組む上で大きな影響力を持っている42。これ らの国々における自然エネルギー戦略の重要な成功要因は、 政府の支援や実質的で持続的な公的資源配分によって支 えられている幅広い長期的な地方電力化計画を含めている ことである。 たとえば、ブラジルの「すべての人々に電気を」という計 画は、数10年にわたり地方に住む1500万人の人々に自然 エネルギーを供給する取り組みで、2013年末に完了した。 その戦略には、自然エネルギーを中心としたミニグリッドへの 資本金の85%をカバーする助成金、前払い式メーターの利 用許可、そして地方の協同組合を実行機関として参入させ ることが含まれていた43。当計画は内閣レベルで概念化と調 整が計られ、地方の電力協同組合を介して実施されたが、 財源の75%は連邦政府から来ており、残りの25%は州政府 と執行事務局から来ている44。 中国では、1998年から2012年の間に3600万人の人々がオ フグリッドの電力源を通して電力へのアクセスを獲得した。 中国の第12次5か年計画の一環として、多くの中国の地元 電力事業が2014年末までに個々のオフグリッドPV 発電所を 設置することが見込まれる。この計画は、これらオフグリッド PV 発電所の長期的な運転・維持管理のための体制を、 2015年末までに確立する目的がある45。 オフグリッド自然エネルギー電力計画における融資、交付金、 減税といった財政的なインセンティブは、高額の先払い費用 という課題に対応するために多くの国でうまく用いられてきた。 国によって手法は異なるが、最も一般的なのは、遠隔地域 で電化計画を発展させる際に、系統管理者が自然エネル ギー技術を採用することを促す補助金を提供することであ る46。たとえばバングラデシュでは、5年間の支払猶予付き の長期的な低金利ローンと同時に、自然エネルギーシステ ムの資本コストの3分の1までをまかなう交付金の提供が行わ れている47。マリやセネガルでは、初期投資の資本コストの 上限80%までの投資補助金と共に、自然エネルギー優遇 措置のための融資金を提供する地方電化基金を設立し た48。タイではバイオガスや太陽熱温水器プロジェクトの10 〜30%に投資交付金を提供しており、これには遠隔地域に おける村落規模のオフグリット・プロジェクトが含まれる49。ブ ─ 92 ─ ラジルのいくつかの州やその他多くの発展途上国では、分 散型自然エネルギー市場が免税により利益を得ている50。 固定価格買取制度に基づく買取価格によって魅力的な投 資報酬が生まれる制度環境では、長期的で安定した政策 の枠組みがミニグリッドの開発を促進するのに重要であ る51。現在多くの国々では、しばしば投資補助金の形で公 的融資を通じてミニグリッドの発展を支援している。買取価 格のみでは商業上持続性がないか、消費者が必要とする 財源を出せないか、または人口密度が低いために分散型ネ ットワーク確立に必要な費用が増えるような市場に対しては、 補助金によって個人の開発者が参入することを促進でき る52。ミニグリッドに補助金を出す国々としては、投資費用の 80%までの補助金を提供しているマリ、インド(90%まで) 、 アフガニスタン(90%)が含まれる53。ミニグリッドや独立型 システムを持つ孤立した地域の数はますます増えており、輸 入されるディーゼル燃料よりも自然エネルギー源を当てにして いる54。しかし、すべての国が小規模事業やミニグリッドの 開発を支援しているわけではない。また、いくつかの国では、 ミニグリッドは実際のコストを反映していない厄介な制度や買 取価格という課題に直面している55。 分散型自然エネルギーを支援するインセンティブやプログラ ムに融資するために、発展途上国は公共部門と民間部門 の両方を同時に活用している。設置されたソーラーホームシ ステム(SHS)や太陽光発電装置の数において最も重要 な官民パートナーシップ・プロジェクトは、アルゼンチンやバン グラデシュ、中国、インド、インドネシア、モンゴル、ベトナ ムで実施されている56。これらのプロジェクトは、国政府と主 要な援助資金提供団体が共同で実施しており、石油ランタ ンやディーゼル燃料を使った発電機を、移動可能で持続可 能な手頃な代替エネルギーに取り代えることに焦点を当てて いる57。タイは、化石燃料のエネルギー消費に対する税金 を一部利用して自然エネルギーの普及に融資を行うという非 常に発展した戦略を策定している。これにより、化石燃料 による社会的、環境的コストの内部化と、自然エネルギー への平等な条件整備を促進している58。 公式の目標は、依然として自然エネルギー・アクセスの拡大 を図る計画の基礎的な構成要素である。電化を目標として いる国々には、バングラデシュ、ボツワナ、中国、エチオピア、 ガーナ、マラウイ、マーシャル諸島、ネパール、ルワンダ、 南アフリカ共和国、タンザニア、ザンビアが含まれる(参照 R20参照)。 いくつかの国は、電化や低公害型調理に対する新規目標 を2013年に設定した。たとえば中国は、2015年末までに電 力へのアクセスを持たない残りの270万人に電力を届けるた めの計画を発表した。系統の拡大を通じて270万人のうち 推定150万人の人々に電力を供給し、他はオンサイト型の PV 発電所を通して電力を供給する59。ガーナは、2020年ま でに100% の電力アクセス達成を目標とする国としては初め てSE4ALL 構想に加入し、当目標はSE4ALLのターゲット よりも10年前倒しとなっている。現在、ガーナの人口の35% (620万人以上)はいまだにエネルギー・アクセスを持ってい ない60。2013年には、フィジーも低公害型調理燃料やストー ブへのアクセス率を、2015年までに現在の82% から100%に する目標を立てた61。 しかし、補助金が交付される小規模プロジェクトの展開は、 エネルギー・アクセスの改善に対してわずかしか貢献してい ない。これは主に、取引にかかる費用が高く、長期戦略が 図31.電化地域の人口の割合、電化率と人口増加の対比 % 8 7 6 + 8.2 総人口の増加率 + 6.8 電力を使用する人口の増加率 出典:本章の 巻末注1と3を 参照 2013 年までの電化地域の人口 5 + 4.3 + 3.5 3 + 2.3 + 3.0 + 2.6 2 第5章 4 + 1.5 1 アフリカ 43% アジアの発展途上国 ラテンアメリカ 83% 95% ─ 93 ─ 中東 91% 第 5 章 発展途上国における分散型自然エネルギー 2013年に調理や熱利用のシステム改善に向けた計画を再 検討した。インドの改良型調理ストーブ国家プログラムは、 州レベルではいくつか成功例はあるが、消費者の認識の欠 如、持続可能な資金源の不足、調理用ストーブの性質や 維持費関連の問題によって国家レベルでは困難を極めてい る70。それまでは調理用ストーブの支払い部分に焦点を当て ていたが、品質管理と監視を行いつつ低公害型のバイオマ スを燃焼させることによって健康上の利益をもたらすことを目 指した、より幅広い計画へと焦点が移動した。伝統的バイ オマス、木炭、石炭を燃料とした調理用ストーブなどを使 用すると、黒色炭素やその他の微粒子の排気によって健康 や環境に深刻な影響を及ぼす可能性がある。このような排 気物により、世界中で毎年400万人に早死にをもたらしてい る。さらに、伝統的バイオマスを使用することで、土地の劣 化や森林破壊を加速させる可能性がある71。それゆえ、新 規戦略は国家レベルでも受け入れられている72。 欠如していること、さらに必要最低限のエネルギー需要を 満たすことのみに集中しているためである62。そのため、も し対象となる人口の収入を著しく上昇させることが目標であ るなら、電化プログラムには電力の営利的利用を促進する 一連の専門的な活動を含むべきだとする見解が、現在広く 受け入れられている63。さらに、地元住民の活発な参入や 地域または国家の組織や機関の能力開発は、分散型エネ ルギーの実施を成功させるために不可欠である64。 この目的のためにいくつかの国々では、エネルギー計画や 意思決定に現地の人々を活発に関わらせ、エネルギーに関 する知識の向上を図り、地域または国家の組織や機関の 能力開発に投資している65。たとえばネパールは、マイクロ 水力関連の訓練や研修会を通じた意識の向上と人材の能 力開発を通じて、地域の人を動かすこと、農村地域の持 続可能なエネルギーを開発すること、制度や人材を開発す ることに重点をおいている66。 すでに成立している大多数の政策は今のところ電化に焦点 を当てているが、多くの発展途上国は100% エネルギー・ア クセス達成へ向けた取り組みの一環である、調理や熱利用 のシステムの改善に着目したプログラムも採用している。す べての人々のエネルギー・アクセスが達成済み、もしくは達 成が近いラテンアメリカやカリブ海のいくつかの国々では、 焦点が調理や熱利用分野へ向けられている67。 たとえばホンジュラスでは、低公害型調理用ストーブの普及が National Scaling up Renewable Energy programme に含まれているが、当計画は新しいビジネスモデルの開発 や民営部門の能力強化を可能にすることで、低公害型調 理用ストーブの市場に変革をもたらすことを目指すものであ る68。当計画は、構成部品の耐久性や性能の改善を含む 調理用ストーブのデザインと性能の改善、製品の基準と厳 格な監視や管理の強化、そして直接的な報奨金、マイク ロ融資、環境関連サービスへの支払いを組み合わせること で、製品購入を容易にすることに焦点を当てている69。 インドは調理用クリーンストーブの普及を支援してきており、 ■業界とビジネスモデル 歴史的に、エネルギー・アクセス計画は国政府と地方自治体、 国際開発機関、NGOによって考案され、実施されてきた。 しかしこの10年の間に、農村地域の市場へのエネルギー・ サービスの供給は、中央集権型で公共部門主導の手法か ら、自然エネルギーが重要な役割を持つ官民パートナーシッ プやベンチャー企業に着目した進め方へと発展してきている。 携帯電話産業と同様に、物品・サービス市場の急激な成 長がオフグリッドの低収入顧客によるものだという認識がより 高まり、またこれらの顧客のための新規事業や財政モデル が現れることで、農村地域のエネルギー市場はますます潜 在的なビジネスチャンスとして見なされるようになってきてい る73。さらに、とくに自然エネルギーを中心とした独立型調理・ 電力システムは、遠隔地域の家庭や企業へのエネルギー・ サービス提供におけるコスト効率の高い選択肢であるという 認識が高まりつつある。これは、技術改良が続き、費用が 下落することで、ますます顕著となってきている。 その結果、分散型自然エネルギー市場に定着する関係者 が増えており、これらは国際企業から中小企業・中小規模 計画などに及ぶ74。多くの企業は、アフリカ、アジア、ラテン アメリカに家庭用のエネルギー系統や機器を販売しており、 中にはすでに数万から数十万の顧客を持つ企業もいる75。 営利的貸し手や銀行、ソーシャル・ベンチャー投資家、地 域開発銀行、慈善家、政府や国際開発機関などが、分 散型自然エネルギーの資金調達に積極的に従事している。 しかし、資金調達への参入は国により異なり、これは政治 的安定性、支援政策、幅広い法的枠組み、その他の要 因によって変わる。 複数のステークホルダーによる革新的なビジネスモデルが次々 と登場しており、農村地域の多様なエネルギー・ニーズに対 して、顧客に合わせ、かつ財政的に持続可能な自然エネ ルギーを基盤としたサービスを提供している。このようなビジ ネスモデルの特徴としては、官民パートナーシップ、現金払 い方式の少額決済法、ワンストップショップ、フランチャイズ やサービスモデルが含まれる。 ─ 94 ─ の支払いの不履行があった際にキャッシュフローが厳しくな るという課題に直面する80。 ワンストップショップモデルの採用も拡大している。このモデ ルでは、一つの機関が自然エネルギーホームシステムの販 売と消費者のローンの組みたての双方を行う。このモデル はバングラデシュで一般的であり、そこでは1つの機関が15 %の頭金でソーラーホームシステム(SHS)を販売し、6% の利子がある3年のローン、アフターサービス、長期の製品 保証を提供している。さらに、このモデルはバングラデシュ の農村地域に技術訓練を提供し、自身の自然エネルギービ ジネスのオーナーになれるように(とくに女性の)事業家の 養成を行っている81。 現金払い方式の少数決済計画は、最も一般的なビジネス モデルの一つである。これは、値段や支払日が消費者の 現金収支やエネルギー消費のパターンに対応しているので、 太陽光電池式の充電器などの太陽光発電技術でとくに効 果的である77。このような仕組みの下では、消費者は一般 的に2〜5W の太陽光発電パネル付きの持ち運び可能な太 陽光発電の充電器や、LEDライトの点灯や携帯などの機 器の充電に利用することが出来る制御装置などのために、 少額の先払い手数料を支払う。そして、必要なエネルギー 分の金額を消費量に合わせて先に、または定期的に支払 う。携帯電話の既存の流通システムは、現金払い方式の 少数決済事業の効率を上げる。なぜなら、消費者が携帯 電話の利用料金を支払うのと同様に、わずかな増額分を携 帯電話で支払うことができるからである。通常、太陽光発 電装置は18か月で支払いを終えるため、その後は顧客が 太陽光発電装置を所有し、以後発電される電力は無料で 受け取ることとなる78。 サハラ砂漠以南のアフリカでは、現金払い方式のシステム を通じてエネルギーを入手する家庭が増えおり、消費者は 石油と同様のエネルギー・サービスを受けるために必要な 費用の約半分しか支払う必要がない79。現金払い方式の 少数決済は、2013年にインドでオフグリッドや分散型太陽光 発電を提供するために実施された。しかし、解決を必要と する難題がまだいくつかある。たとえば、現在インドの市場 では債務返済の手段が欠乏しているため、会社は消費者 フランチャイズモデルでは、農村地域の起業家が小規模企 業を経営するよう訓練を受ける。これと似たモデルは、イン ドの「Lighting a Billion Lives Campaign」で採用され、 電化が不十分な村々に、充電されたソーラーランタンを日ご とに貸し出す事業を行う、太陽光ビジネスの起業を支援し ている83。 とくに道路が未整備であったり道路自体が存在しなかったり する地域や雨季には、農村地域の消費者に電力を届ける のは困難である。そのため、フランチャイズや他のビジネス モデルを通した供給網やアフターサービスの提供は、技術 者やエンジニアが消費者の近くに住み、働くことで、製品 や製造者の信頼を勝ち取ることに貢献している。同時に、 システムに必要な修理が迅速に行われ、システムの稼働を 保証する助けにもなっている84。 ミニグリッドを動かす小規模分散型ビジネスである小規模電 力事業は、発展途上国の農村地域でもますます多くみられ るようになっている。小規模電力事業の規模は多様であり、 様々な発電技術に基づいており、家庭の必要最低限の需 要に加えて、揚水、製粉、研削などの生産用途に必要な 十分なエネルギーを供給する。自然エネルギーを中心とした 小規模電力事業は高度なメンテナンスが必要となる可能性 があるものの、このような会社の多くは、費用を削減し、デ ィーゼル燃料と比べてコストの安定化をはかれるので、ミニ グリッドシステムに自然エネルギーを使用している85。月払い は家庭にとって大きな出費であるかもしれないが、すでに石 油の利用や電化製品の充電サービスのために同じような出 費をすでに行っている地域の多くにとっては、ミニグリッドシ ステムは魅力的である86。 調理・熱利用の市場で利用されるビジネスモデルも、多様 である。調理用ストーブを製造する企業はしばしば、地域 の情勢や基準に適した調理用ストーブを製造するために、 地域の人々を雇っている87。国をまたいで商売を行い、高 ─ 95 ─ 第5章 官民パートナーシップモデルは、エネルギー・アクセス計画 の実施と融資のために官民双方が共同で動いた1990年代 に広まった。すべての流動資産を民間部門が所有してい た一方で、発電所や配電線などの固定資産は公共部門が 所有していた。発電所は村落委員会によって管理されてお り、消費者の需要を基に設計されている。そして、消費者 はエネルギー需要量と支払能力に応じてエネルギー・ブロッ クを割り当てられる。このモデルはフィリピンやネパール、そ の他のアジアの国々で再現されている76。 賃借の取引では、エネルギーシステムを実際に所有すること となる前に消費者は長期間または一定期間エネルギーシス テムを賃借するので、高い前払い料金を節約することになる。 ホンジュラスとドミニカ共和国では、企業がソーラーホームシ ステム(SHS)をリースやリース後所有契約を通して提供し ている82。 第 5 章 発展途上国における分散型自然エネルギー 品質だが一般的に高価な製品を提供する企業が、調理・ 熱利用部門にますます参入してきている。これらの企業はし ばしば、消費者に製品の利便性を伝えるために公共部門 の協力者と共に活動している88。 クラウド・ファンディング i も、エネルギー・アクセスの提供に おいて重要な役割を担うようになってきている。これは、分 散型オフグリッドの市場への融資にとって非常に重要な財政 源であり、通常1つのシステムにつき数千米ドルという小規 模投資を当てにしている89。これまでは、高い取引費用が 必要であるために多くの主要な投資家は小規模の融資を避 ける傾向にあった。クラウド・ファンディングにより、個々の民 間の投資家がインターネット上での地域の協同者へ支払うこ とが可能となっている。そして長い時間をかけて、今度は 協同者は、投資家に配当を渡す資金提供者にお金を払い 戻す90。近年の代表例としては、ウガンダの1万9000世帯分 の照明や携帯電話の充電のための太陽光発電装置に融 資するのに、1万5000ドルの資金調達を行ったポータルサイ トがある91。 発展途上国のいたる所で、技術革新と価格の減少により、 農村地域や遠隔地域などの新しい市場へ自然エネルギー を急速に普及させることが可能となってきている92。特定の 国や地域に適応したビジネスモデルと組み合わせた自然エ ネルギー技術は、近代的なエネルギー・サービスへのアクセ ス達成、生活の質の向上、人間の健康や環境の健全性を 改善できる、信頼性のある手頃な手段であると証明されて いる。 i クラウドファンディングは、中小企業や新興企業が、数多くの小規模な投資家から、株式の保有や定期的支払、製品、またはそれらの組合せと引き換えに資本を集める仕組みである。 ─ 96 ─ 第 6 章 世界のエネルギー移行をたどる いまだかつてない勢いを見せた自然エネルギーの10年 加の影響である2。自然エネルギー市場とその技術開発は、 携帯電話のように急速に開発の進む技術と比較しても、そ れに劣らぬ早さで進歩している。 Christine Lins(REN21事務局長) Hannah Murdock(REN21事務局) 自然エネルギーはこの10年間に予想を上回る進化を遂げた。 世界全体で導入された設備容量とすべての自然エネルギー 技術によるエネルギー生産量は大幅に増加し、支援策は世 界中のすべての地域のより多くの国にまで拡大している。 REN21は2004年に設立されてから、国際機関としては世 界で初めて自然エネルギーの発展状況の調査を開始した。 そして自然エネルギーの現状の世界的展望をもっとも包括的 にまとめた報告書を毎年継続的に発行している。過去10年 間で、自然エネルギーを取り巻く環境がこれまで以上に複雑 となるにつれ、REN21の報告書である『自然エネルギー世 界白書(GSR)』もますます包括的になった。GSRの初版 はたった1人の著者と、専門家の小規模なネットワークの情 報をもとに執筆されたが、今日では執筆活動に協力し合っ て参加する500人を超える国際ネットワークの人々によって作 成されている。 水力発電は世界全体の自然エネルギー発電容量ならびに発 電量において継続して最大の割合を占めている3。2004 年 の時点では、その他の自然エネルギー発電技術の規模は 水力発電に比べるとかなり小さかったが、今日では水力以 外の自然エネルギー発電量が大きな割合を占める国が増え ている。発電に関しては水力発電が世界的に先行している が、自然エネルギーのエネルギー生産量では、バイオマス が最大の割合を占めている。世界の一次エネルギーに占め る伝統的なバイオマスの割合は変わらないかもしくは減退し た一方で、近代的バイオマスは過去10年の間に普及した4。 REN21が創立10周年を迎える今年は、自然エネルギー技 術が過去10年間に歩んだ目を見張るような進歩を振り返ると 同時に、自然エネルギーが約束する未来について考えるた めの良い機会となるだろう。 この急成長の根底にはいくつかの要因がある。1970年代 以降に、エネルギーに関する重大な危機が数回起こり、石 油危機が起こるたびに経済が停滞したため、国家の安全 保障ならびに経済保障におけるエネルギーの役割を強調す ることとなった。そして同時期に、先導的役割を果たしてい たドイツ、デンマーク、スペイン、米国など一握りの国々が、 初期の自然エネルギー市場を作り上げるという重要な役割 を担った。この自然エネルギー市場の創設が、初期の技術 躍進と規模の経済の進展を促し、過去10年間に渡る爆発 的な市場拡大の条件を整え、それを加速させた。また、 気候変動の緩和策と適応策の重要性が高まり、市場拡大 の勢いをさらに後押しすることとなった。 世界の熱利用、電力、交通利用部門における自然エネル ギーの貢献度は着実に高まりつつある。すなわち、世界の 総エネルギー消費のうち自然エネルギーが占める割合の上 昇は緩やかなものとなっている。これは主に発展途上国や 新興経済国で顕著に見られる人口およびエネルギー需要増 風力電力の設備容量は2004年当初に比べて8倍以上増加 した。現在は世界中に存在している好調な風力発電市場 も、2004年にはヨーロッパとアメリカなどの数か国にしか存在 しなかった。2013年末までに、中国、インド、ブラジルなど の急成長を遂げた新興経済国を含む24か国が1000MWを 超える風力発電容量を保有していた5。風力タービンの平均 新規設備容量は過去10年間で2倍以上に増え、技術の進 歩によって風力発電のコストは大幅に減少した。これにより、 風力発電は今日では多くの市場で、新たな化石燃料に対 抗しうる競争力を身につけた6。 太陽光発電は最も急成長した自然エネルギー技術で、 2004年から2013年末にかけて、全世界における太陽光発 電の設備容量は53倍もの並外れた増加を経験した7。技術 の進歩、工業生産の規模拡大、太陽電池と太陽光モジュー ルの効率性改善により、過去10年で太陽光発電のコストは 劇的に低下した。新規設備容量が2倍になるごとに設備コ ストが18〜22%減少する(学習率が18〜22%である)太陽 光発電は、過去20年間に太陽光モジュールの価格が劇的 に下落し、2011年から2012年のみで価格が60%も下落した 8 。太陽光発電業界においてもっとも目覚ましい発展を遂げ たのは、現在世界全体のモジュール製造で首位の中国で ─ 97 ─ 第6章 ■予想以上の拡大 2000年代初頭は、すべての部門において世界の自然エネ ルギー投資、設備容量、および統合の面で上昇傾向が見 られた。にもかかわらず、主要な予測のほとんどが10年後 に展開された自然エネルギーの驚異的な発展を予想してい なかった。自然エネルギー業界、国際エネルギー機関、世 界銀行、グリーンピース、その他団体が2020年に到達する として発表していたシナリオを2010年の段階ですでに大きく 上回ってしまった1。 第 6 章 世界のエネルギー移行をたどる ある。また、10年前にはほぼ存在しなかった中国の市場は、 2013年には世界最大の市場にまで拡大した9。 同時期に、集光型太陽熱発電の設備容量は10倍近い増 加を見せた10。投資がこれまでの主要市場であったスペイン と米国以外に移り、南アフリカや中東・北アフリカ(MENA) 、 さらにはアジアや中南米でも開発が進んでいる。 発電と発熱のための地熱エネルギー利用も順調に拡大して いる。また、発電のための海洋エネルギー技術も過去10年 の間に大きく進化した。 発電部門はこの10年間で目覚ましい進歩を遂げたが、温 水および室内暖房、プロセス加熱そして冷房のための地熱、 太陽熱、バイオマスを含む熱利用技術が10年の間に著しく かつ重大な成長をしたにもかかわらず、自然エネルギーの 熱利用および冷房部門は遅れをとっている11。最終エネル ギー需要において冷暖房の占める割合が電力よりも大きいこ とを考えると、この部門での自然エネルギーの成長を促すこ とはとくに重要だと言える。 交通部門においては、バイオ燃料形態での自然エネルギー 利用が2013年末までの10年間に急成長を遂げた。バイオ ディーゼル燃料の生産は15倍に増加し、もともと生産量の 多かったエタノールも4倍近い成長を見せた12。この10年の 間にガス化バイオ燃料は交通部門において小規模ながらも 市場拡大の兆しを見せ、自然エネルギーと電気を利用した 交通手段を結びつける試みも現れ始めた13。 ■変動の10年 2004年以来、自然エネルギーの可能性が広く認められると 同時に自然エネルギーに対する世界的な見解は大きく変わっ たが、大規模な普及を実証する必要があった。この10年 間に、多くの自然エネルギー技術の継続的な技術的進歩 や急速な普及によって、とくに電力部門において自然エネル ギーが持つ可能性は実現できるということが実証された。 今日、自然エネルギー技術はエネルギー安全保障の向上や 気候変動の緩和、さらには気候変動に順応するために役 立つ手段とみなされているだけでなく、輸入燃料への依存 を減らすことにより、直接的にも間接的にも経済的利益をも たらす投資対象としてますます認識されている。また、地 域の空気の質や安全性を向上させ、エネルギーアクセスと その安全保証を促進し、経済発展を促し雇用を増やすこと も認識されている14。 ここ数年に自然エネルギーの展開が拡大するうえで、コスト が減少し続けたことは重要な役割を果たした。現在、自然 エネルギー技術の一部は環境やその他の外部性を考慮に 入れなくても、従来の発電技術と比べコストの面で競争力 を持つようになっている15。 その結果、多くの企業はエネルギーの効率化対策をはかり ながら自然エネルギーに移行することで、エネルギーコスト を削減できる上に、持続可能性への関心に対する取り組み にも貢献することを認識しはじめた。そしてますます多くの 企業がその規模に関わらず、電力会社やその他の供給者 から自然エネルギーを購入するか、その施設内に自然エネ ルギー設備を設置して運営している。さらにここ数年で、 家庭レベルでの自家発電の割合が増加し、協同組合形式 または地域所有型の自然エネルギープロジェクトも発展して いる。 自然エネルギー市場の驚異的な成長と世界的な拡張によっ て、製造業者の数と製造規模が大幅に拡大し、自然エネ ルギー技術の設置とメンテナンスに携わる雇用の増加につな がるとともに、新しい市場への進出も促した。これは、とく に同時期に業界再編を体験した太陽光発電と風力発電業 界によくあてはまる。 10年前は、自然エネルギーの製造および設置のほとんどが 欧州と米国、そして日本で行われていた。それ以降、自然 エネルギーの市場および製造、そして投資は他の地域に移 行した。また中国は、過去10年間にわたって毎年自然エネ ルギー部門への投資を増やし、自然エネルギーの生産と新 規設備容量において世界のリーダーに躍り出た16。アフリカ、 アジア、中南米、中東の発展途上国や新興経済国には、 これらの地域のエネルギー需要の増加と自然エネルギーに 対する注目の急速な高まりを受け、ますます多くの資金が投 入されている。 新興経済地域における自然エネルギーへの海外からの直 接投資や民間資本の流動化も、技術部門から地域なども 含んだ過去10年間の成長に貢献したと言える。このような 傾向があるとはいえ、市場を牽引しているのは2004年に世 界市場を牽引していた国々である。これらの国々は、初期 の技術投資と政策の制定を通して、技術革新と市場拡大 への道を開いた国々でもある。 自然エネルギーが世界に広がる中、発展途上国の遠隔地 や農村部でも自然エネルギー利用の増加が見られた。自然 エネルギー技術が進歩し、また価格の減少、その土地の自 然エネルギーに対する知識の向上などが起こり、そして新 ─ 98 ─ 過去10年にわたり、世界の人口は大幅に増加したにもかか わらず、全体のほぼ25%だった近代的エネルギーサービス にアクセスできない人の割合は10%近くも低下した18。この 進歩に対して自然エネルギーは大きな役割を果たした。しか し、これは世界全体で同じように起きたわけではなく、アフリ カの多くの地域は依然として近代的エネルギーサービスにア クセスすることができないままでいる。自然エネルギーは他の エネルギー手段に比べ、迅速かつ低価格でエネルギーアク セスを持続可能なかたちで供給することができる特有の立 場にある。国連事務総長の「すべての人のための持続可 能なエネルギー(SE4ALL)」イニシアティブは2012年に発 足し、エネルギーアクセス部門における国際的な開発、自 然エネルギー普及、エネルギーの効率化をさらに促進する ことを目的としている。いくつかの国はすでにエネルギーアク セス率100%という目標を掲げており、SE4ALLは他の国々 も同じ目標を目指すことを促している19。 またこの10年は、一連の組織的変化をもたらした。ドイツの ボンで開催された2004年自然エネルギー会議の結果を受け て「21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク」 REN21が設立された。民間と公共の両部門から鍵となる 要因を集め、世界が自然エネルギーへと迅速に移行するこ とを促進するため、REN21は多くのステークホルダーによる「有 志連合」として設立されたのである。創立から5年後には、 国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が設立され、自 然エネルギーの促進に対する世界の国々の関心を証明する かのように、2014年初頭の時点で130か国がメンバーとして 登録している。10年間を通して、国際エネルギー機関(IEA) は自然エネルギーに関する分析業務の規模を拡大し、それ ぞれの機関が密接に連携して自然エネルギーの評価が向 上するように努めている。 原因は、数か国における政策の先行きの不透明さがあげら れるが、太陽光発電に対するシステムコストの大幅な下落 も一因となっている25。民間市場での自然エネルギーへの投 資は過去10年の間に上下したが、2005年に急増して以来、 つねに数十億ドルの水準を保っている26。 商業銀行が自然エネルギー部門に参入し始めたのは2004 年だが、その当時投資家の多くが自然エネルギー技術のほ とんどが実証されていないリスクの高い技術だと考えていた。 しかし今日では商業銀行に加えて、年金基金や保険会社、 エネルギー産業に関わっていない数社を含む大企業、長期 の安定した利益を求める投資家なども投資を行っている。 自然エネルギーが経済的に競争力を持ち、投資家たちがま すますその価値を認識しつつある今、さらなる成長の鍵とな るのは初期投資にかかるコストを克服するための効果的な 金融ツールを開発することである。そして2004年以来、金 融業界では様々なイノベーションが生まれている。最近では、 投資会社によってSustainable Yield Bonds(米国) 、 Green Bonds(フランスと米 国 ) そして Renewable Financing Company Bonds(英国)などが発行されて いる27。クラウドファンディングや、リースなどの新たな所有モ デルのような、さらなるイノベーションは、個人やコミュニティ による自然エネルギー投資を可能にしている。 ■進化する政策環境 世界の政策環境は、投資家を引きつけ、規模の経済を活 用し、自然エネルギー技術の進歩を支える市場を作り出す ことにより、その技術の拡大を大きく促してきた。このことが コストの低下につながり、最終的には持続的な成長を支える ことになった。とくに、ドイツ、デンマーク、そしてスペインといっ た一握りの国々が先頭にたち革新的な政策を打ち出すこと で、過去10年間に見られた変化の多くを推進してきた。今日、 ドイツが打ち出した自然エネルギーとエネルギー効率化によ る持 続 可 能な経 済 への転 換を目指 すエネルギー政 策 「Energiewende」や、デンマークが2050年をめどに自然 エネルギー100%を目指すといった政策があることでこれから ■投資の増加 これらの発展を受け、全世界における自然エネルギー設備 容量ならびに燃料への投資は、2004年から2013年にかけ て5倍以上の増加を見せた20。またそれぞれの発電設備容 量の正味の増加量を見ると、2009年以来自然エネルギーに 対する全世界の年間投資額が化石燃料への投資額を越え たことがわかる21。自然エネルギー技術に関する研究開発 への全世界の総投資額は、公共と民間の両方合わせてこ の10年で2倍近くに増加した22。 発電所規模での発電プロジェクトへの投資(アセットファイナ ンス)は、自然エネルギー部門の成長において最も重要な 役割を担ってきた。近年この部門への投資は若干減少した ものの、2004年から2011年にかけては33%の年複利成長 率を達成した23。小規模分散型の発電容量への投資は 2004年以来大幅に増えており、2011年に記録した過去最 高額よりも若干減少しただけにとどまっている24。この減少の ─ 99 ─ 第6章 たなビジネスモデルと資金調達モデルが生まれたことによって、 農村部における自然エネルギー発電はより利用しやすい価 格となり、その活用と規模も多様化した17。さらに、自然エ ネルギーシステムとそのサービスが広がると同時に、電化製 品、管理システム、携帯電話その他の技術の進歩もコスト を減少させる要因となった。 第 6 章 世界のエネルギー移行をたどる 地域レベルでの重大な変化もこの10年間に起こった。10年 前、ほとんどの地方自治体は自然エネルギーによるその地 域へのエネルギー供給への潜在的な役割を考えもしなかっ た。しかしこの10年の間に、多くの地方自治体が州や県、 政策を通して直接的に自然エネルギーを促進している国の または国以上にエネルギー効率の向上を組み合わせた自然 数は、2004年の45か国から3倍の137か国に増えている。 エネルギー促進への取り組みを行い、これを牽引している。 そして、かつてないほど多くの発展途上国や新興経済国が 世界中にある何百もの地方自治体は、雇用拡大の希望や 自然エネルギー目標を掲げ、支援政策を制定している28。 エネルギーコストの削減、公害問題への取り組み、そして 政策目標は電気に加え、暖房、冷房そして交通部門にも 焦点を広げるとともに、その目標はますます大胆になっている。 持続可能性目標の実現のために、自然エネルギー目標を掲 げ自然エネルギーの普及を後押しする財政的インセンティブ もしくはその他政策を制定している30。市長誓約(Covenant また並行して、暖房と冷房における自然エネルギーの利用 を促進するための政策的枠組みの広がりや、一定額(プレ of Mayors)やイクレイ−持続可能性をめざす自治体協議会 ミアム)を上乗せする固定価格買取制度の進化、さらには (ICLEI)などの地方自治体での持続可能性手段を支援す 技術別政策手段の活用などと政策メカニズムの進化も見ら ることに専念している国際団体は、会員数が飛躍的に急伸 れる。世界中で、固定価格買取制度を伴った自然エネル し、その影響力が世界中に広まるのを目の当たりにしている。 ギー目標が自然エネルギー市場が設立されるうえで最も大き な影響を与えた。固定価格買取制度は、今ではどの大陸 世界中の地域、都市、地方、島さらには国レベルの自治 にも存在しており、もっとも最近制度を導入した国々には、ヨ 体が、自然エネルギー100%の未来を目指し、それぞれが ルダン、ナイジェリア、ルワンダ、ウガンダ、パレスチナ自治区、 独自に転換への道のりを歩みはじめた。彼らは自然エネルギー カザフスタンそしてエクアドルなどが含まれている29。 に関する誤った認識を払拭するだけでなく、エネルギー効 率化と省エネルギーに密接に結びついた自然エネルギー 変動型の自然エネルギーは、多くの国々、とくにヨーロッパ 100%の達成は技術的に可能であり、また経済的に有利で の電力部門で急速に高い割合を占めるようになった。しか かつ社会的に望ましいことを証明した31。 し既存の発電システムは、このような状況に対応できるよう に設計されてはいなかった。これを受けて、システムのバラ 世界の大部分における自然エネルギーの展望はますます開 ンスと柔軟性向上、現存する発電システムへの経済的補償 けたものの、とくに欧州のいくつかの国は、ここ数年間で自 などに取り組むための、市場設計に着目した政策メカニズム 然エネルギーに対する支援を遡及的に縮小した場合があっ ができつつある。政策は送配電インフラの拡大および改良 た。これは経済が停滞した結果として電力需要が減少した に対する必要性への取り組みや、エネルギー貯蔵、スマート・ 場合、または従来の電力の過剰生産が行われている国でと グリッドなどの新しいツールや技術を自然エネルギー支援の くに見られた。それでも、現在まで、EUは最終エネルギー ためにこれまで以上に活用している。 消費量における自然エネルギーのシェアを2020年までに20% にまで増やすという、加盟国により設定された拘束力を持つ 今日までは欧州がこれらの変革の中心であったが、自然エ 目標に向けて順調に進んでいる32。報告によれば、EU 加 ネルギーのシェアが拡大するにつれて他の地域の国々も急 盟国のうちブルガリア、エストニア、スウェーデンの3か国は 速に同じ方向へ向かっている。能力形成などといった地域 2020年の目標をすでに2012年の段階で達成したとされる の価値創出を促す政策も、多くの国々で現われ始めている。 33。また EU では2030年に向けた気候変動・エネルギー目 近年では、自然エネルギーの割合が拡大し続けるにつれ、 標の協議が進められている。 系統連系の義務付けや優先給電に焦点を置く規制がます ます重要になっていきている。 ■自然エネルギーの有望な未来 電力、冷暖房、そして交通のために供給される自然エネル ギー技術の利用は、2004年に比べ今では世界中に広がっ ており、最近の傾向が示唆しているように、世界全体で持 続的に成長している。10年前は、環境対策を理由に従来 の燃料から脱却したい人々にとって、自然エネルギーはとて も魅力的であった。今日では、自然エネルギーがもたらす環 境的な便益に加えて、経済の牽引役を果たすことや、雇 用促進、収入源の多角化、さらには新しい技術開発を触 発するなどの利益をもたらすことも示している。 の数十年間に高い目標を目指すよう、世界の多くの国々を 刺激している。 過去10年の間に、世界全体の発電における原子力発電が 占める割合が減少している一方で、自然エネルギーが占め る割合は増え続けている34。水力以外の自然エネルギーが、 高いシェアを達成するという考えは10年前までは急進的とさ れていたが、今日では多くの専門家によって実現可能だと 考えられている。世界中のいくつかの地方、地域、国が数 十年の間にひとつ、もしくは複数の部門で自然エネルギー ─ 100 ─ 100%を実現しようとしている。 にもかかわらず、自然エネルギー部門は今でもなお数々の 難題を抱えている。化石燃料と原子力発電に対する巨額 の補助金は依然として存在し続けており、自然エネルギー に対する金銭的なインセンティブをいまだに遥かに上回って いる。多くの国ではその資源を非在来型化石燃料の調査と 採掘に注いでいる一方で、ほとんどの政府が化石燃料の 採掘とその利用にかかる外部費用を内部化することに消極 的である。 世界全体の気温上昇を2度以内に保つには、エネルギー効 率の向上に加え、自然エネルギーのさらなる発展、そしてよ り多くの資本が継続的に投入されなくてはならない。それを 可能にするのは、安定的で予測可能な政策的枠組みが重 要となる。容易に達成できると見なされているエネルギー効 率化を組み込んだ総合的な政策手段が世界全体の自然エ ネルギーへの移行をさらに促進するだろう。 第6章 この10年間は、自然エネルギーに移行する計画を軌道に乗 せたが、完全に目標を達成するためには協調的かつ継続 的な努力が必要となる。ますます大胆な目標と、革新的な 政策、そして技術の進歩によって自然エネルギーはこれから も期待以上の成果をもたらし続け、よりクリーンなエネルギー の未来を育んでいくだろう。 ─ 101 ─ 表R1. 世界の自然エネルギー設備容量とバイオ燃料生産(2013年) 2013年新規 2013年末累積 5 88 地熱発電 0.5 12 水力発電 40 1,000 海洋発電 ∼0 0.5 太陽光発電 39 139 集光型太陽熱発電(CSP) 0.9 3.4 風力発電 35 318 3 296 地中熱利用1 1.3 23 温水用太陽熱集熱器2 44 326 エタノール生産 4.6 87 バイオディーゼル生産 2.7 26 水素化植物油(HVO) 0.4 3 発電(GW) バイオマス発電 暖房/温水(GWth) 近代的バイオマス熱利用 輸送燃料 2013年の推計値は地熱直接利用の地中熱ヒートポンプの合計を含まない。139ページの方法論の注を参照。 太陽熱集熱器の容量はガラス管式/非ガラス管式の温水用システムに限られている(2013年末に合計3.6GWthを生産している空気集熱器は含まれていな い)。追加分は正味分で、総追加分は57GWthと見積もられている。過去の表では非ガラス管式温水集熱器を含めていなかった。 1 2 注:値はGWやGWth、10億リットル未満を四捨五入している。ただし、5以下の値は少数第2位で四捨五入している。合計値は表中の値を加算したものでは ないため、この四捨五入された数値を加算しても合計とは異なる。 四捨五入は入手可能なデータの不明点や不整合を考慮したためである。より正確なデータについては、表R2からR10、「技術別の市場と産業の傾向」およ び関連する巻末注を参照のこと。 出典:本節の巻末1を参照 ─ 102 ─ 表R2. 自然エネルギーの発電容量 世界統計と上位地域/国(2013年) 世界 技術 EU 28か国 BRICS 中国 米国 ドイツ GW スペイン イタリア インド GW バイオマス発電 88 35 24 6.2 15.8 8.1 1 4 4.4 地熱発電 12 1 0.1 ∼0 3.4 ∼0 0 0.9 0 水力発電 1,000 124 437 260 78 5.6 17.1 18.3 44 海洋発電 0.5 0.2 ∼0 ∼0 ∼0 0 ∼0 0 0 太陽光発電 139 80 21 19.9 12.1 36 5.6 17.6 2.2 3.4 2.3 0.1 ∼0 0.9 ∼0 2.3 ∼0 0.1 318 117 115 91 61 34 23 8.6 20 自然エネルギー 発電容量 (水力発電含む) 1,560 360 599 378 172 84 49 49 71 自然エネルギー 発電容量 (水力発電を除く) 560 235 162 118 93 78 32 31 27 80 470 50 90 300 960 690 510 20 集光型太陽熱発電 (CSP) 風力発電 一人当たりの容量 (W/人、水力発電を除く) 注:世界統計は、表に掲載されていない国のデータも反映している。表は水力発電を含まない自然エネルギー発電容量の上位6か国を示している。水力発電 を含んだ場合、国々と順位に多少の変化が起きる。数値は制作時点での入手可能な最新データに基づいている。入手可能なデータの不明点や不整合を考慮 して、数値は1GW未満を四捨五入している。ただし、世界のすべての自然エネルギーデータ(水力を含むまたは含まない)の発電容量は10GW未満、 20GWを下回るものについては少数第2位、一人当たりの数値は10W未満でそれぞれ四捨五入されている。合計値は表中の値を加算したものではないため、 この四捨五入された数値を加算しても合計とは異なる。実証事業を含まない50MW以下の発電容量は「∼0」と表示している。より正確なデータについて は、「世界の概要」や「技術別の市場と産業の傾向」の章および関連する巻末注を参照のこと。各数値は実際の容量の変更ではなく、数値の改善により修 正されているため、毎年の増加を把握するために前報告書の表と比較することは適当でない。水力発電容量の合計には純揚水式発電容量は含まれていな い。すなわち、世界全体の自然エネルギー設備容量の合計(そしていくつかの国での合計)にも同様のことが言える。また、2012年末に、世界の水力発電 容量として合計990GWがGSR2013にて報告されている。この数値は下方修正され、世界全体の再生可能エネルギーの合計にも影響を与えた。バイオマス 発電のデータが反映しているのは未焼却の有機構成物のみである。詳しい情報については、139ページの方法論注を参照のこと。 出典:本節の巻末注2を参照 ─ 103 ─ 表R3. 木質ペレットの世界貿易 (2013年) 輸出国 輸入国 売買高 オーストラリア EU-27 31 ベラルーシ EU-27 134 キロトン 1 ボスニア・ヘルツェゴナ EU-27 187 カナダ EU-27 2,093 カナダ 日本 50 カナダ 韓国 50 カナダ 米国 30 クロアチア EU-27 165 エジプト EU-27 16 EU-27 スイス 39 EU-27 ノルウェー 18 ノルウェー EU-27 60 ロシア EU-27 642 セルビア EU-27 55 東南アジア1 日本 100 東南アジア1 韓国 100 ウクライナ EU-27 159 米国 EU-27 2,828 その他 EU-27 19 中国、マレーシア、タイ、ベトナムが主に含まれる。 出典:本末の巻末注3を参照 ─ 104 ─ 表R4. 世界のバイオ燃料生産 上位16か国とEU27か国(2013年) 国 燃料用 エタノール バイオ燃料 水素化植物油 (HVO) 合計 2012年の生産量 との比較 10億リットル 米国 50.3 4.8 55.4 +1.2 ブラジル 25.5 2.9 0.3 28.4 +4.1 ドイツ 0.8 3.1 3.9 +0.2 フランス 1.0 2.0 3.0 +0.1 アルゼンチン 0.5 2.3 2.7 -0.3 オランダ 0.3 0.4 2.5 変化なし 1.7 中国 2.0 0.2 2.2 -0.1 インドネシア 0.0 2.0 2.0 +0.2 タイ 1.0 1.1 2.0 +0.5 カナダ 1.8 0.2 0 0.93 0.2 0.9 コロンビア 0.4 ベルギー 0.4 スペイン 2.0 +0.1 1.8 +0.9 1.2 +0.3 0.6 0.9 変化なし 0.4 0.8 変化なし 0.4 0.3 0.7 -0.2 オーストラリア 0.3 0.4 0.6 変化なし EU-27 4.5 10.5 1.8 16.8 1.3 世界 87.2 26.3 3.0 116.6 7.7 シンガポール ポーランド 0.9 注:表内のすべての数値は1億リットル未満を四捨五入している。差が5000万リットル未満である場合、2012年との比較の列では、「変更なし」としてい る。エタノールの数値は燃料用エタノールのみである。表の順位は、エネルギー含有量ではなく、2013年に生産されたバイオ燃料の全体積(予備データ) による。合計値は表中の値を加算したものではないため、この四捨五入された数値を加算しても合計とは異なる。 出典:本節の巻末注4を参照 ─ 105 ─ 表R5. 世界の地熱発電容量と新規導入量 上位6か国(2013年) 2013年新規 2013年末 MW GW 米国 84 3.4 全容量の上位国 フィリピン 20 1.9 インドネシア 0 1.3 メキシコ 10 1.0 イタリア ニュージーランド 1 0.9 196 0.9 正味追加分の上位国 ニュージーランド 196 0.9 トルコ 112 0.3 米国 84 3.4 ケニア 36 0.2 フィリピン 20 1.9 メキシコ 10 1.0 465 12 世界総計 出典: 本節の巻末注5を参照 ─ 106 ─ 表R6. 世界の水力発電容量と新規導入量 上位6か国(2013年) 2013年新規 2013年末 GW GW 中国 28.7 260 ブラジル 1.5 86 全容量の上位国 米国 0.2 78 カナダ 0.5 76 ロシア 0.7 47 インド 0.8 44 中国 28.7 260 トルコ 2.9 22 ブラジル 1.5 86 ベトナム 1.3 14 インド 0.8 44 ロシア 0.7 47 世界総計 40 1,000 正味追加分による上位国 注; 追加容量は0.1GW未満を四捨五入し、世界総計は1.0GW未満を四捨五入する。データは、様々な計算方法や方法論を反映した多くの情報源を元にして おり、ときには大きく異なる場合もある。さらなる情報や統計については、「水力発電」の節および「技術別の市場と産業の傾向」の章の関連する注釈や 139ページの方法論の注釈を参照のこと。 出典: 本節の巻末注6を参照 ─ 107 ─ 表R7. 世界の太陽光発電容量と新規導入量 上位10か国(2013年) 国 2012年末 2013年新規 2013年末 GW ドイツ 32.6 3.3 35.9 中国 7.0 12.9 19.9 イタリア 16.4 1.5 17.6 日本 6.6 6.9 13.6 米国 7.2 4.8 12.1 スペイン 5.4 0.2 5.6 フランス 4.0 0.6 4.6 英国 1.8 1.5 3.3 オーストラリア 2.4 0.8 3.3 ベルギー 2.7 0.2 3.0 他の世界各国 13.8 6.5 20.2 世界総計 100 39 139 注:各国は2013年末の設備容量の順に並べられている。2013年新規容量の上位国は中国、日本、米国、ドイツ、英国、イタリア、インド(1.1GW追加して 合計2.3GW)、ルーマニア(1.1GW追加して合計1.2GW)、ギリシャ(1GW追加して合計2.6GW)、オーストラリアとなった。2012年末の合計容量の上 位10か国はドイツ、イタリア、米国、中国、日本、スペイン、フランス、ベルギー、オーストラリア、チェコ共和国となった(GSR2013表5を参照)。各 国および残りの世界データは0.1GW未満を四捨五入し、世界合計は1GWth未満で四捨五入している。四捨五入は入手可能なデータの不明点や不整合を考慮 したためである。四捨五入によって、これらの数値を加算した合計と異なってくる場合がある。日本とスペインのデータは直流(DC)分で報告されたデー タから変換されている。データは、様々な計算方法や方法論を反映した様々な情報源を元にしており、ときには大きく異なる場合もある。さらなる情報に ついては、「太陽光発電」の節や「技術別の市場と産業の傾向」セクションの関連する巻末注を参照のこと。 出典 : 本節の巻末注7を参照 ─ 108 ─ 表R8. 世界の集光型太陽熱発電(CSP)設備容量と新規導入量(2013年度) 国 2012年末 2013年新規 2013年末 1,950 350 2,300 507 375 882 MW スペイン 米国 アラブ首長国連邦 0 100 100 インド 0 50 50 アルジェリア 25 0 25 エジプト 20 0 20 モロッコ 20 0 20 オーストラリア 12 0 12 中国 0 10 10 タイ 5 0 5 2,540 885 3,425 世界総計 注:表は、2013年末の時点で稼働中の商業用CSPの設備容量を持つ国々を含む。さらにいくつかの国々は、年末までに稼働する小規模な実験的プラントを持 っており、フランス(少なくとも0.75MW)、ドイツ(1.5MW)、イスラエル(6MW)、イタリア(5MW)、韓国(0.2MW)が含まれる。GSR2013はチ リの10MWを含めたが、この設備はプロセス加熱用であったため、削除された。国のデータはMW未満を四捨五入し、世界合計は5MW未満の数値を丸めて いる。四捨五入は入手可能なデータの不明点や不整合を考慮したためである。四捨五入によって、これらの数値を加算した合計と異なってくる。 出典 :本節の巻末注8を参照 ─ 109 ─ 表R9. 世界の太陽熱温水器設備容量と新規導入量 上位12か国(2012年) 2012年新規 2012年合計 GWth 国 GWth ガラス管式 非ガラス管式 合計 ガラス管式 非ガラス管式 合計 中国 44.7 0 44.7 180.4 0 180.4 米国 0.2 0.5 0.7 1.9 14.3 16.2 ドイツ 0.8 0 0.8 11.4 0.4 11.8 トルコ 1.1 0 1.1 10.8 0 10.8 ブラジル 0.4 0.4 0.8 4.2 1.6 5.8 オーストラリア 0.2 0.5 0.6 2.1 3.0 5.1 インド 1.0 0 1.0 4.5 0 4.5 オーストリア 0.1 ∼0 0.1 3.1 0.4 3.4 日本 0.1 0 0.1 3.1 0 3.1 イスラエル 0.2 ∼0 0.2 2.9 ∼0 2.9 ギリシャ 0.2 0 0.2 2.9 0 2.9 イタリア 0.2 0 0.2 2.4 ∼0 2.4 その他の世界各国 4.3 0.3 4.6 28.2 4.0 32.1 世界総計 54 1.7 55 258 24 282 注:国は設備容量の順に並べられている。データはガラス管式集熱器および非ガラス管式集熱器を対象としたものであり、空気集熱器は2013年末に世界で 合計約1.7GWthが追加されている。世界全体での追加分は総追加容量であり、世界総計には廃止分の設備を置き換えた設備容量を含んでいる。各国とその 他の世界のデータは0.1GWth未満で四捨五入をしており、世界の合計は追加分の非ガラス管式の容量を例外として、1GW未満を四捨五入している。四捨五 入によって、これらの数値を加算した合計と異なってくる。数MWthの小さい値については、“∼0”で示されている。国際的に認められている換算に従 い、100万㎡=0.7GWthとする。2012年は、確実性の高い世界のデータおよびほとんどの国の統計が利用可能な直近の年である。2013年末までに330GWth (温水集熱器325.9W、空気集熱器3.6GWを含む)の太陽熱温水器設備容量が稼働したと推計されている。2013年の詳細および情報源については、「太陽 熱利用」の節や「技術別の市場と産業の傾向」の章の関連する巻末注を参照のこと。 出典: 本節の巻末注9を参照 ─ 110 ─ 表R10. 風力発電設備容量と新規導入量 上位10か国(2013年) 国 2012年末 2013年新規 2013年末 中国1 60.8 / 75.3 14.1 / 16.1 75.5 / 91.4 米国 60.0 1.1 61.1 ドイツ 31.3 3.2 / 3.6 34.3 / 34.7 スペイン 22.8 0.2 23 インド 18.4 1.7 20.2 イギリス 8.6 1.9 10.5 イタリア 8.1 0.4 8.6 フランス 7.6 0.6 8.3 カナダ 6.2 1.6 7.8 デンマーク 4.2 0.7 4.8 その他の世界各国 41 7 48 283 35 318 GW 2 世界総計 1 中国については左側のデータが年末までに系統に接続されたか稼働中として公式に追加された量であり、右側のデータは総導入量である。世界合計は、中 国の高い方の数値を含んでいる。 2 ドイツについては、左側のデータは年度末に系統に接続されたものであり、右側のデータは総導入量である。洋上に追加された容量の約355MWは年末ま でに系統接続がなされていない。追加分のうち236MWはリパワリングである。 注:各国は2013年末の時点での設備容量の合計順に並べられている。2013年の追加分の上位国は中国、ドイツ、英国、インド、カナダ、米国、ブラジル、 ポーランド、スウェーデン、ルーマニアであった。2012年末の上位10か国は10番めであったポルトガル以外は同じだった。各国のデータは0.1GW未満で四 捨五入している。その他の世界各国と世界のデータはGW未満で四捨五入している。四捨五入は入手可能なデータの不明点や不整合を考慮したためであ る。そこでは、合計は加算されておらず、その差は四捨五入や既存のプロジェクトのリパワリングまたは除外によると考えられている。データは、様々な 計算方法や方法論を反映した多くの情報源を元にしているおり、ときには大きく異なる場合もある。さらなる情報については「技術別の市場と産業の傾 向」中の「風力発電」の節および関連する巻末注を参照のこと。 出典: 本節の巻末注10を参照 ─ 111 ─ 表R11. 自然エネルギーへの投資の世界的傾向(2004年∼2013年) 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 10億米ドル 段階別新規投資 技術調査 政府の研究開発 1.9 2.1 2.3 2.7 2.8 5.1 4.6 4.6 4.5 4.6 企業の研究開発 3.2 2.9 3.1 3.5 4.0 4.1 4.2 5.1 5.0 4.7 0.4 0.6 1.2 2.2 3.3 1.6 2.5 2.5 2.4 0.8 未公開株式(増資) 0.3 1.0 3.0 3.6 6.7 2.9 3.1 2.6 1.7 1.4 公開株式市場 0.3 3.7 9.0 22.2 11.5 13.0 11.4 10.7 3.7 11.1 24.8 44.1 72.3 100.9 124.3 109.8 144.2 180.3 154.2 133.4 開発/商業化 ベンチャーキャピタル 製造業 プロジェクト アセットファイナンス (再投資資本) 0.0 小規模分散型 8.6 10.3 9.5 14.1 22.3 33.6 62.5 77.2 80.0 59.9 新規投資合計 39.5 64.5 99.6 145.9 171.2 168.4 226.7 279.4 249.5 214.4 M&Aトランザクション 8.9 26.2 35.7 58.5 59.3 64.2 58.4 73.4 60.3 53.7 48.3 90.8 135.3 204.3 230.6 232.7 285.2 352.8 309.9 268.2 太陽光発電 12.1 16.3 21.7 38.7 59.5 62.9 100.3 157.8 142.9 113.7 風力発電 14.5 25.1 32.1 56.6 69.3 73.0 94.8 85.9 80.9 80.1 バイオマス/廃棄物エネルギー発電 6.2 8.0 10.6 13.2 14.1 13.6 14.2 15.5 11.1 8.0 水力発電(50MV未満) 1.7 4.9 5.4 5.5 7.2 5.4 4.8 6.8 6.0 5.1 バイオ燃料 3.7 9.2 27.6 29.3 19.2 10.4 8.9 9.4 6.6 4.9 地熱発電 1.3 1.0 1.4 1.9 1.8 2.7 3.5 3.7 1.8 2.5 海洋エネルギー 0.0 0.1 0.9 0.7 0.2 0.3 0.2 0.3 0.2 0.1 39.5 64.5 99.6 145.9 171.2 168.4 226.7 279.4 249.5 214.4 合計投資額 (0.1) (0.7) (3.0) (3.6) (1.7) (5.8) (3.7) (1.8) (1.5) 新規技術投資 新規投資合計 注:他に断りがないかぎり、または投資決定のタイミングを反映しないかぎり、データはブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)の デスクトップデータベースの出来高に基づいている。自然エネルギー計画は、すべてのバイオマス、地熱、1MW以上の風力発電、1MWから50MWの水力 発電プロジェクト、別々に見積もられ、小規模分散型容量と呼ばれる1MW以下の太陽光発電、すべての海洋エネルギープロジェクト、少なくとも100万リ ットルかそれ以上の年間生産容量を有するすべてのバイオ燃料プロジェクトを含んでいる。四捨五入によって、これらの数値を加算した合計と異なってく る。この表のカテゴリーについて、詳しくはGSR2013の補足5を参照のこと。 出典:本節の巻末注11を参照 ─ 112 ─ 表R12. 自然エネルギーの一次および最終エネルギーにおける割合(2011/2012年の実績および目標値) 一次エネルギー 割合(2011/2012)1 国 目標値 EU28か国 最終エネルギー 割合(2012)1 14% →2020年までに18% アルバニア 目標値 →2020年までに20% →2020年までに38% →2030年までに40% アルジェリア 62% アンゴラ 38.9% アルゼンチン →2020年までに45% オーストリア 2 アゼルバイジャン →2020年までに9.7% バルバドス →2012年までに10% →2016年までに20% →2020年までに13% ベルギー 63% ベリーズ ボスニア・ヘルツェゴビナ →2020年までに40% ボツワナ →2016年までに1% 42% ブラジル ブルガリア →2020年までに16% ブルンジ →2020年までに2.1% 11% カナダ 8.1% チリ 9.2%(2013) 中国 7.1% コロンビア コートジボワール 12% →2013年までに3% →2015年までに5% →2020年までに20% クロアチア →2020年までに13% キプロス チェコ共和国 →2015年までに9.5% →2020年までに13.5% 2 コンゴ民主共和国 96% デンマーク →2020年までに35% →2050年までに100% ドミニカ共和国 5.2% エクアドル 66% エジプト →2020年までに14% エルサルバドル 54% エストニア →2020年までに25% フィジー →2030年までに23% フィンランド →2015年までに25% →2020年までに38% →2025年までに40% フランス 7.9%(2011) ガボン →2020年までに80% ドイツ2 12%(2013) ギリシャ2 グレナダ →2020年までに23% →2020年までに18% →2030年までに30% →2040年までに45% →2050年までに60% →2020年までに20% →2020年までに20% グアテマラ 60% ─ 113 ─ →2026年までに80% 表R12. 自然エネルギーの一次および最終エネルギーにおける割合(2011/2012年の実績および目標値) ( 続き) 一次エネルギー 割合(2011/2012)1 国 目標値 最終エネルギー 割合(2012)1 目標値 8.7% ギアナ 44% ホンジュラス →2020年までに14.65% ハンガリー 2 5.5% インド →2025年までに25% インドネシア アイルランド →2020年までに16% イスラエル →2020年までに50% →2020年までに17% イタリア 5.1% ジャマイカ 日本 7.1% →2020年までに10% ヨルダン 0.1% →2015年までに7% →2020年までに10% →2020年までに15% →2030年までに20% コソボ →2020年までに25% ラオス →2025年までに30% ラトビア →2020年までに40% レバノン →2020年までに12% リビア →2020年までに10% リトアニア →2025年までに20% →2020年までに23% ルクセンブルク →2020年までに11% マケドニア →2020年までに28% →2020年までに54% マダガスカル マラウイ →2020年までに7% マリ →2020年までに15% →2020年までに10% マルタ →2015年までに15% →2020年までに20% モーリタニア モーリシャス 15% →2025年までに35% モルドバ →2020年までに20% モンゴル →2020年までに20∼25% →2020年までに17% モンテネグロ →2020年までに33% オランダ2 →2020年までに16% ニュージーランド 39%(2013) 31%(2013) ニカラグア ニジェール 52% →2020年までに10% ノルウェー パラオ →2020年までに67.5% →2020年までに20% パレスチナ自治区 →2020年までに25% パナマ 61% ペルー ポーランド 48% →2020年までに15% →2020年までに12% 25% ポルトガル →2020年までに24% ルーマニア サモア →2020年までに31% →2030年までに20% 0.6% セネガル ─ 114 ─ 表R12. 自然エネルギーの一次および最終エネルギーにおける割合(2011/2012年の実績および目標値) ( 続き) 一次エネルギー 割合(2011/2012)1 国 目標値 最終エネルギー 割合(2012)1 目標値 セルビア →2020年までに27% スロバキア →2020年までに14% スロベニア →2020年までに25% 3.2% 韓国 →2015年までに4.3% →2020年までに6.1% →2030年までに11% スペイン2 14% セントルシア →2020年までに20.8% →2020年までに20% スリナム 50% スウェーデン 48%(2011) 2 スイス タイ 18% トーゴ 3.4% トンガ トルコ →2020年までに50% →2020年までに24% →2021年までに25% →2013年までに100% 3% →2023年までに30% ウクライナ →2020年までに11% 英国 →2020年までに15% 米国 ウルグアイ 9.3% →2015年までに50% ベネズエラ ベトナム 53% →2020年までに5% →2025年までに8% →2050年までに11% とくに記載のない場合、国の割合は2011/2012年のデータである。 EU28か国に含まれるすべての国における最終エネルギーの目標は、EU指令2009/28/ECに基づき設定されている。オーストリア、チェコ共和国、ドイ ツ、ギリシャ、ハンガリー、スペイン、スウェーデンの政府は上表で示されているEUの目標よりも高い目標を設定している。また、オランダ政府はより意 欲的に設定していた目標をEU指令の設定値まで引き下げた。 1 2 注:関連する目標が別に示されている場合を除いて、割合については10%を超えるものについては小数第1位で四捨五入されている。 ここに記載のある国には他の種類の目標を持っている場合もある(それらについては表R13、R14、R15を参照)。 出典:本節の巻末注12を参照 ─ 115 ─ 表R13. 発電量における自然エネルギーの割合(2012年の実績および目標) 国 割合 目標 (2012)1 EU27か国 23.8% アルジェリア 0.8% アンティグア・バーブーダ 0% アルゼンチン2 割合 目標 (2012)1 国 ハンガリー 7.8% →2020年までに11% インドネシア 12% →2025年までに26% イラク 8.6% →2030年までに2% →2015年までに5% →2020年までに10% →2030年までに15% アイルランド 20% →2020年までに42.5% イスラエル 0.4% →2014年までに5% →2020年までに10% →2016年までに8% イタリア 31% →2020年までに26% →2017年までに5% →2030年までに40% オーストラリア 9.6% →2020年までに20% オーストリア ジャマイカ 4.7% →2020年までに15% 75% →2020年までに70.6% カザフスタン 15% →2014年までに1% →2020年までに3% アゼルバイジャン バハマ バングラデシュ →2020年までに20% 0% →2020年までに15% →2030年までに30% 3.8% →2015年までに5% →2020年までに10% →2029年までに29% バルバドス ベルギー 14% →2020年までに20.9% →50%(期限なし) ベリーズ ブルガリア 12% →2020年までに20.6% カーボヴェルデ 21% →2020年までに50% チリ3 38% →2025年までに20% →2015年までに50% →2020年までに100% クック諸島 コスタリカ 92% →2021年までに100% クロアチア 48% →2020年までに39% キプロス 4.9% →2020年までに16% チェコ共和国 10% →2020年までに14.3% デンマーク4 48% →2020年までに50% →2050年までに100% →2020年までに100% ジブチ ドミニカ国 14% →100% (期限なし) ドミニカ共和国 14% →2025年までに25% エジプト 9.2% →2020年までに20% →50% (期限なし) エリトリア エストニア 12% →2015年までに18% フィジー 67% →2030年までに100% フィンランド 40% →2020年までに33% フランス 16% →2020年までに27% ガボン 40% →2020年までに70% ドイツ ガーナ2 25% →2025年までに40∼45% (2013) →2035年までに55∼60% →2040年までに65% →2050年までに80% 0% →2020年までに10% ギリシャ 16% →2020年までに40% グアテマラ 64% →2027年までに80% ガイアナ ホンジュラス 44% →10% (期限なし) キリバス →2030年までに15% クウェート ラトビア 64% →2020年までに60% →2020年までに12% レバノン →2021年までに30% リベリア リビア 0% →2020年までに20% リトアニア 23% →2020年までに21% ルクセンブルク 36% →2020年までに11.8% マダガスカル マレーシア →2020年までに75% 0% (水力を除く) 49%(水力含む) 5% →2015年までに5% →2020年までに9% →2030年までに11% →2050年までに15% →2017年までに16% モルディブ マリ 57% →2015年までに10% →2033年までに25% マルタ 0.8% →2020年までに3.8% 5 →2020年までに20% マーシャル諸島 モーリシャス 21% →2025年までに35% メキシコ 15% →2026年までに35% →2020年までに20∼25% モンゴル オランダ 12% →2020年までに37% ニュージーランド 72% →2025年までに90% ニカラグア 43% →2018年までに74% →2020年までに90% 16.4% →2020年までに10% ナイジェリア6 →2020年までに100% ニウエ パレスチナ自治区 0.4% →2020年までに10% フィリピン 29% →2020年までに40% ポーランド 11% →2020年までに19.3% ポルトガル 48% →2020年までに45% →2020年までに2% →2030年までに20% カタール →90% (期限なし) ルーマニア 25% →2020年までに43% →2022年までに60% →2038年までに80% ロシア 16% →2015年までに2.5% →2020年までに4.5% ─ 116 ─ 7 表R13. 発電量における自然エネルギーの割合 (2012年の実績および目標) ( 続き) 国 セネガル 表R13附属. 発電目標値を持たない国における 自然エネルギーの割合 割合 目標 (2012)1 10% 国 →2021年までに15% ソロモン諸島 韓国 スイス 60% →2015年までに50% 30% 台湾 5.3% タンザニア 4.9% トーゴ 8.5% 米国 13% 85% スロベニア 29% →2020年までに39.3% カナダ 53% 南アフリカ 2.6% →2030年までに9% カンボジア 2.4% カメルーン 74% 中国 21% コロンビア 81% コートジボワール 23% キューバ 3.7% →2020年までに38.1% 7.9% (水力を除く) 30%(水力含む) スリランカ 28% →2016年までに10% →2020年までに20% セントクリストファー・ネイビス 0.4% →2015年までに20% →2013年までに5% →2015年までに15% →2020年までに30% →2015年までに30% →2020年までに60% スーダン 47% →2016年までに10% スウェーデン 58% →2020年までに62.9% タイ8 7.6% →2021年までに10% 東ティモール →2020年までに50% トケラウ諸島 →100% (期限なし) トンガ →2015年までに50% チュニジア トルコ 1.2% →2016年までに16% →2030年までに40% →2023年までに30% 3% (水力を除く) 27%(水力含む) →2020年までに100% ツバル 3.7% 0.5% ブラジル 17% 割合 (2012)1 ベラルーシ →2020年までに24% セントビンセント・グレナディーン ウガンダ 79% →2017年までに61% 英国スコットランド 12% →2015年までに50% →2020年までに100% ウクライナ 8% →2030年までに20% ウルグアイ 60% →2015年までに90% バヌアツ →2014年までに23% →2015年までに40% →2020年までに65% ベトナム →2020年までに5% イエメン →2025年までに15% とくに記載のない場合、各国の割合は2011/2012年のデータである。 目標値は大型水力発電を除いている。 3 チリの目標は40MW以上の水力発電を除いている。 4 デンマークは2012年3月に2020年までに電力消費量の50%を風力発電によ って供給する目標を設定している。 5 マリの目標は大型水力発電を除いている。 6 ナイジェリアの目標は30MWの以上の水力発電を除いている。 7 ロシアの目標は25MW以上の水力発電を除いている。 8 タイは6MW以上の水力発電設備を自然エネルギー源と分類していないた め、6MW以上の大型水力発電は国の割合および目標から除かれている。 9 インドは25MW以上の水力発電設備を自然エネルギー源と分類していない ため、25MW以上の大型水力発電は国の割合および目標から除かれてい る。 2 100% 20% セントルシア 1 アルバニア スロバキア スペイン 国 ボスニア・ ヘルツェゴビナ →2020年までに5% →2030年までに15% セーシェル 割合 (2012)1 エクアドル 55% エルサルバドル 62% エチオピア 93% グレナダ 21% ベネズエラ 64% ザンビア 96% 1% アイスランド 100% インド9 14% イラン 5% 日本 13% ヨルダン 0.4% ケニア 73% レソト 100% マケドニア 17% モルドバ ウズベキスタン 2% (2011) モンテネグロ 52% モロッコ 8.9% モザンビーク 90% ノルウェー 98% パプア ニューギニア 38% ペルー 55% セルビア 27% 注:とくに記載のない場合、目標およびそれに対応する割合はすべて水力 発電を含む自然エネルギーを表している。関連する目標が別に示されてい る場合を除いて、割合について10%を超えるものは少数第1位で四捨五入し ている。ここに挙げられていない多くの州や県、地方自治体が追加的な目 標値を持っている。米国およびカナダでは現行のRPS制度に沿った事実上 の州・地方レベルの目標値があるが、国家レベルの目標はない(表R17、 R19を参照)。表中のいくつかの国々は別の形式の目標を掲げている(表 R12、R14およびR15を参照)。準国家目標に関しては、より多くの情報を 含むため、政策の展望の章(第4章)および表R19を参照。既存の割合は最 も確からしい数値であるが、より正確な国の統計データが発表された時に は訂正する必要があるかもしれない。掲載データの出典は計算手法を明記 していない報告もよくあるので、当表の発電量に占める割合は異なった手 法で計算されたものが混在している可能性がある。そのため、各国間のデ ータは直接比較できるものではなく、整合性をとったものではない。 Observ’ ERによる情報が寄稿者からREN21に提出された数値とは異なる場 合は、寄稿者からREN21に提供された数値が優先されている。 出典:本節の巻末注13を参照 ─ 117 ─ 表R14. 熱利用と冷房における近代的自然エネルギーの割合(2012年の実績と目標) 国 割合 目標 国 割合 目標 オーストリア 2020年までに全熱利用と冷房供給 の32.6%を自然エネルギーでまかなう リビア 2015年までに80MWth、2020年までに 250MWthまで太陽熱温水を増加させる ベルギー 2020年までに全熱利用と冷房供給の 11.9%を自然エネルギーでまかなう リトアニア 2020年までに全熱利用と冷房供給の 39%を自然エネルギーでまかなう ブータン 2025年までに太陽熱による冷暖房を 3MW相当まで増加させる ルクセンブルグ 2020年までに熱利用と冷房の全最終 消費中8.5%を自然エネルギーでまかなう ブルガリア 熱利用と冷房の23.8%を自然エネルギー でまかなう マルタ 2020年までに全熱利用と冷房供給の 6.2%を自然エネルギーでまかなう モロッコ 2012年までに280MWth(40万㎡)、 2020年までに1.2GWth(170万㎡) まで 太陽熱温水を増加させる モザンビーク 農村地域に10万の太陽熱温水暖房を 導入する (目標年次なし) オランダ 2020年までに全熱利用と冷房供給の 8.7%を自然エネルギーでまかなう ポーランド 2020年までに全熱利用と冷房供給の 17%を自然エネルギーでまかなう ブラジル 9.1% (2012) 2015年までに太陽熱温水を280GWth (4億㎡) まで増加させる 中国 クロアチア 熱利用と冷房の19.6%を自然エネルギー でまかなう キプロス 熱利用と冷房の23.5%を自然エネルギー でまかなう チェコ共和国 熱利用と冷房の14.1%を自然エネルギー でまかなう デンマーク 2020年までに全熱利用と冷房供給の 39.8%を自然エネルギーでまかなう エストニア 2020年までに全熱利用と冷房供給の 17.6%を自然エネルギーでまかなう フィンランド 2020年までに全熱利用と冷房供給の 47%を自然エネルギーでまかなう ポルトガル 33% 2020年までに全熱供給の30.6%を自然 エネルギーでまかなう ルーマニア 2020年までに全熱利用と冷房供給の 22%を自然エネルギーでまかなう シエラレオネ ホテル、 ゲストハウス、飲食店における 太陽熱温水器の普及率を2015年までに 1%、2020年までに2%、2030年までに5% まで増加させる 2030年までに住宅部門における太陽熱 温水器の普及率を1%まで増加させる フランス 16.5% 2020年までに全熱利用と冷房供給の 33%を自然エネルギーでまかなう ドイツ 9.3% 2020年までに全熱利用と冷房供給の 14%を自然エネルギーでまかなう スロバキア ギリシャ 2020年までに全熱利用と冷房供給の 20%を自然エネルギーでまかなう 2020年までに全熱利用と冷房供給の 14.6%を自然エネルギーでまかなう スロベニア ハンガリー 2020年までに全熱利用と冷房供給の 18.9%を自然エネルギーでまかなう 2020年までに全熱利用と冷房供給の 30.8%を自然エネルギーでまかなう スペイン インド 2012年から2017年にかけて5.6GWth (800万㎡)分の太陽熱温水を新規導入 する アイルランド 2020年までに全熱利用と冷房供給の 15%を自然エネルギーでまかなう イタリア 2020年までに熱利用と冷房の全供給の 17.1%を自然エネルギーでまかなう 2020年までにバイオマスエネルギーを 熱利用と冷房で5670ktoe活用する 2020年までに地熱を熱利用と冷房で 300ktoe活用する 2020年までに太陽熱温水暖房で1586 ktoe活用する ヨルダン 2020年までに家庭用の太陽熱温水の 30% (2010年時点で13%) をまかなう ケニア 1日に温水を100リットル以上使用して いるビルの太陽熱温水の年間需要の 60%をまかなう ラトビア 2020年までに全熱利用と冷房供給の 53.4%を自然エネルギーでまかなう レバノン 2009年から2014年の間に133MWth (19万㎡) の太陽熱温水が新規に導入 された 注:熱利用と冷房に関する目標は各国間で規格化されていないため、上表 では一般的な比較のために様々な形の目標を掲載している。 7.6% 2020年までに全熱利用と冷房供給中 (2012) 18.9%を自然エネルギーでまかなう 2020年までにバイオマスエネルギーを 4653ktoeまで増加させる 2020年までに地熱を9.5ktoeまで増加 させる 2020年までにヒートポンプを50.8ktoe まで増加させる 2020年までに太陽熱温水暖房を644 ktoeまで増加させる スワジランド 2014年までに太陽熱温水を公共の建物 の20%に導入する スウェーデン 2020年までに全熱利用と冷房供給の 62.1%を自然エネルギーでまかなう タイ 2022年までにバイオマスエネルギーを 8200ktoeまで増加させる 2022年までにバイオガスを1000ktoe まで増加させる 2022年までに生物由来の都市固形廃 棄物を35ktoeまで増加させる 2022年までに30万の太陽熱温水シス テムを稼働させる、 および100ktoeまで 増加させる ウガンダ 2012年までに4.2MWth(6000㎡)、 2017年までに21MWth(3万㎡) まで 太陽熱温水器を増加させる 英国 2020年までに全熱利用供給の12%を 自然エネルギーでまかなう 出典:本節の巻末注14を参照 ─ 118 ─ 表R15. その他の自然エネルギー目標 国 分野/技術 割合 目標 EU28か国 輸送 2020年までにEU-28各国は輸送部門の最終需要の10%を自然エネルギーで まかなうことを要求されている アルジェリア 太陽光発電 2013年までに25MW、2015年までに241MW、2020年までに946MW、2030年までに2.8GW 集光型太陽熱発電(CSP) 2013年までに25MW、2015年までに325MW、2020年までに1500MW、2030年までに7200MW 風力発電 2013年までに10MW、2015年までに50MW、2020年までに270MW、2030年までに2000MW 電力 2016年までに3GW 地熱発電 2016年までに30MW 電力 2020年までに発電量の33% 電力 2020年までに発電量の100% アルゼンチン オーストラリア (南オーストラリア州) (タスマニア州) オーストリア バングラデシュ 固形バイオマスおよびバイオガス 2010年∼2020年で200MW追加 によるバイオマス発電 水力発電 2010年∼2020年で1000MW追加 太陽光発電 2010年∼2020年で1200MW追加 風力発電 2010年∼2020年で2000MW追加 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の11.4% バイオマス発電(固形バイオマス) 2014年までに2MW バイオマス発電(バイオガス) 2014年までに4MW バイオガス発酵槽 2016年までに15万基 太陽光発電 2015年までに500MW 農村のオフグリッド太陽光発電 2015年までに250万件 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10.14% 最終エネルギー 2020年までに自然エネルギーの割合を20% 電力 2020年までに自然エネルギーを8TWh/年 ベナン共和国 農村のオフグリッド電力 2025年までに農村のエネルギーの50%を自然エネルギーへ ブータン 電力 2025年までに20MW ベルギー (ワロン地域) バイオマス発電(固形バイオマス) 2025年までに5MW ブラジル ブルガリア カナダ (ニューブランズ ウィック州) (ノバスコシア州) 太陽光発電 2025年までに5MW 風力発電 2025年までに5MW バイオマス発電 2021年までに19.3GW 小水力発電 2021年までに7.8GW 風力発電 2021年までに15.6GW 水力発電 2011年までに (容量にして)80MWを運転、2017∼2018年までに3基(174MW) 太陽光発電 2014年までに80MWの太陽光発電パークの運用 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の7.8% 電力 2016年までに10%割合を増やす、2020年までに電力の40%を発電する 電力 2015年までに発電の25%、2020年までに40% (プリンスエドワードアイランド島) 風力発電 2030年までに2011年より30MW増加 (オンタリオ州) 電力 2022年までに10.7GW 水力発電 2025年までに1.5GW 太陽光発電 2025年までに40MW 風力発電 2025年までに5GW ─ 119 ─ 表R15. その他の自然エネルギー目標(続き) 国 分野/技術 割合 目標 バイオマス発電 2015年までに13GW 水力発電 2015年までに290GW 太陽光発電 2014年までに10GW追加、2015年までに35GW(うち分散型発電20GW) 集光型太陽熱発電(CSP) 2015年までに1GW、2020年までに3GW 風力発電 2015年までに100GWを系統に接続、2020年までに200GW 系統に接続している電力 2015年までに発電量の3.5%、2020年までに6.5% 電力(オフグリッド) 2015年までに発電量の20%、2020年までに30% クロアチア 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10% キプロス 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の4.9% チェコ共和国 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10.8% デンマーク 風力発電 2020年までに電力中の割合50% 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10% ジブチ 太陽光発電 2017年までに農村電化の30% エジプト 太陽光発電 2017年までに700MW 集光型太陽熱発電(CSP) 2017年までに2.8GW 風力発電 2020年までに発電量の12%および7200MW エリトリア 風力発電 発電量の50% (期限なし) エストニア 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の2.7% エチオピア バイオマス発電(バガス利用)103.5MW(期限なし) 中国 コロンビア 地熱発電 2015年までに75MW、2018年までに450MW、2030年までに1GW 水力発電 2015年までに10.6GW(90%以上が大規模)、2030年までに22GW 風力発電 2014年までに770MW バイオマス発電 2020年までに13.2GW 水力発電 2020年までに14.6GW 風力発電 2020年までに884MW 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の20% 海洋発電および洋上風力 2020年までに6GW 風力発電 2020年までに25GW 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10.5% 風力発電 2020年までに洋上風力を6.5GW、2030年までに洋上風力を15GW 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の20% 太陽光発電 2030年までに2.2GW 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10.1% 太陽光発電 2025年までに電力の6% 風力発電 2025年までに電力の2% ギニアビサウ 太陽光発電 2015年までに一次エネルギーの2% ハンガリー 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10% インド1 電力 2014年に4.3GW追加 電力 2012年から2017年までに30GW追加 バイオマス発電 2012年から2017年までに2.7GW追加 小水力発電 2012年から2017年までに2.1GW追加 太陽光発電とCSP 2012年から2017年までに10GW追加、 2010年から2022年までに20GWを追加で系統に 接続、 2010年から2020年までにオフグリッドで2GW追加、 2010年から2022年までに2000 万台の太陽光照明装置を追加導入 風力発電 2012年から2017年までに15GW追加 フィンランド フランス ドイツ ギリシャ ギニア ─ 120 ─ 表R15. その他の自然エネルギー目標(続き) 国 インドネシア 分野/技術 割合 水力、太陽光、風力 2025年までに一次エネルギー中 (組み合わせて)1.4% バイオ燃料 2025年までに一次エネルギー中10.2%のシェア 地熱発電 2025年までに12.6GW 水力発電 揚水発電 イラク 目標 2025年までに2GW(0.43GWのマイクロ水力発電を含む) 2 2025年までに3GW 太陽光発電 2025年までに156.8MW 風力発電 2025年までに0.1GW 太陽光発電 2016年までに240MW 集光型太陽熱発電(CSP) 2016年までに80MW 風力発電 2016年までに80MW アイルランド 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10% イタリア バイオマス発電 2020年までに3.8GWの容量、1万9780GWh/年の発電量 地熱発電 2020年までに920MWの容量、6750GWh/年の発電量 水力発電 2020年までに17.8GWの容量、4万2000GWh/年の発電量 太陽光発電 2017年までに23GW 風力発電(陸上) 2020年までに12GWの容量、1万8000GWh/年の発電量 風力発電(洋上) 2020年までに680MWの容量、2000GWh/年の発電量 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10.1% (2899ktoe) をバイオ燃料でまかなう バイオマス発電 2020年までに3.3GW、2030年までに6GW 地熱発電 2020年までに0.53GW、2030年までに3.88GW 水力発電 2020年までに49GW 日本 海洋発電(波力および潮力) 2030年までに1.5GW 太陽光発電 2020年までに28GW 風力発電 2020年までに5GW、2030年までに洋上を8.03GW 電力 2018年までに1GWの設備容量 太陽光発電 2020年までに300MW 集光型太陽熱発電(CSP) 2020年までに300MW 風力発電 2020年までに1GW カザフスタン 電力 2020年までに1.04GW ケニア 地熱発電 2016年までに1887MW、2030年までに5000MW 水力発電 2016年までに794MW 太陽光発電 2016年までに423MW 風力発電 2016年までに635MW 太陽光発電 2030年までに3.5GW 集光型太陽熱発電(CSP) 2030年までに1.1GW ヨルダン クウェート 風力発電 2030年までに3.1GW ラトビア 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10% レバノン バイオマス発電(バイオガス) 2015年までに15∼25MW 水力発電 2015年までに40MW 風力発電 2015年までに60∼100MW 電力 2030年までに260MW 農村のオフグリッド電力 2020年までに農村電化の35%を自然エネルギーでまかなう リベリア バイオ燃料 2015年までに全輸送燃料の5% リビア 太陽光発電 2015年までに129MW 集光型太陽熱発電(CSP) 2020年までに125MW、2025年までに375MW 風力発電 2015年までに260MW、2020年までに600MW、2025年までに1000MW 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10% レソト リトアニア ─ 121 ─ 表R15. その他の自然エネルギー目標(続き) 国 分野/技術 割合 目標 ルクセンブルグ 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10% マラウイ 水力発電 2014年までに346.5MW マレーシア 電力 2.1GW(大規模水力発電を除いて) ;11.2TWh/年もしくは10%を自然エネル ギーで供給する (期限なし) ;2015年までに全容量の6%、2020年までに11%、 2030年までに14%、2050年までに36% マルタ 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10.7% ミクロネシア 電力 2020年までに都市部で10%、農村部で50% モロッコ 電力 全発電容量の42% 水力発電 2020年までに2GW 太陽光発電と集光型太陽熱発電(CSP) 2020年までに2GW 風力発電 モザンビーク ネパール 2020年までに2GW バイオ発酵槽 1000基導入(期限なし) 水力、太陽光、風力 それぞれ2GW(期限なし) 太陽光発電 8万2000件家庭用ソーラーシステムを導入(期限なし) 揚水用風力 3000か所導入(期限なし) 自然エネルギーに基づいた 生産システム 5000導入(期限なし) マイクロ水力発電 2013年までに15MW 太陽光発電 2013年までに3MW 風力発電 2013年までに1MW オランダ 輸送 2013年までに輸送部門の最終エネルギー需要の5%、2020年までに10% ナイジェリア バイオマス発電 2015年までに50MW、2025年までに400MW 小水力発電 2015年までに600MW、2025年までに2000MW 大規模太陽光発電(1MW以上) 2015年までに75MW、2025年までに500MW ノルウェー パレスチナ自治区 フィリピン ポーランド ポルトガル 風力発電 2015年までに20MW、2025年までに40MW 集光型太陽熱発電(CSP) 2015年までに1MW、2025年までに5MW 電力 2016年までに30TWh/年 電力 スウェーデンとの共通電力証書市場で2020年までに26.4TWh バイオマス発電 2020年までに21MW 太陽光発電 2020年までに45MW 集光型太陽熱発電(CSP) 2020年までに20MW 風力発電 2020年までに44MW 電力 2030年までに2010年の3倍の発電容量 バイオマス発電 2010年から2030年までに277MW追加 地熱発電 2010年から2030年までに1.5GW追加 水力発電 2010年から2030年までに5398MW追加 海洋発電 2010年から2030年までに75MW追加 太陽光発電 2010年から2030年までに284MW追加 風力発電 2010年から2030年までに2.3GW追加 洋上風力 2020年までに1GW 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10% 電力 2020年までに15.8GW バイオマス発電(固形バイオマス) 2020年までに769MW バイオマス発電(バイオガス) 2020年までに59MW 地熱発電 2020までに29MW 水力発電(小規模) 2020年まで400MW ─ 122 ─ 表R15. その他の自然エネルギー目標(続き) 国 分野/技術 割合 目標 ポルトガル (続き) 海洋エネルギー (波力) 2020年までに6MW 太陽光発電 2020年までに670MW 集光型太陽熱発電(CSP) 2020年までに50MW 風力発電 2020年までに陸上5.3GW、洋上27MW 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10% 太陽光発電 2014年までに1.8GW カタール 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10% ルーマニア 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10% ロシア 小水力、太陽光、風力 2020年までに組み合わせて6GW ルワンダ バイオガス発電 2017年までに300MW 地熱発電 2017年までに310MW 水力発電 2017年までに340MW 小水力発電 2015年までに42MW 電力(オフグリッド) 2017年までに5MW サモア 最終エネルギー 2030年までに現在の全エネルギー供給中のシェアを20%増加する サウジアラビア 電力 2020年までに24GW、2032年までに54GW 太陽光発電とCSP 太陽光発電とCSP 2020年までに太陽光発電を6GW、 2032年までに合計41GW(CSP25GWと太陽光発電16GW) 地熱発電、廃棄物発電3、風力発電 2032年までに組み合わせて13GW 太陽光発電 2017年までに150MW 風力発電 1.4GW(期限なし) スロバキア 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10% スロベニア 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10.5% 南アフリカ 電力 韓国 電力 セルビア 2030年までに17.8GW (すべての発電量の目標値は年間発電量である) 2015年までに1万3016GWh(全発電量の2.9%) 2020年までに2万1977GWh(4.7%) 2030年までに3万9517GWh(7.7%) バイオマス発電(固形バイオマス) 2030年までに2628GWh スペイン バイオマス発電(バイオガス) 2030年までに161GWh バイオマス発電(埋立地ガス) 2030年までに1340GWh 地熱発電 2030年までに2046GWh 水力発電(大規模) 2030年までに3860GWh 小水力発電 2030年までに1926GWh 海洋発電 2030年までに6159GWh 太陽光発電 2030年までに2046GWh 集光型太陽熱発電(CSP) 2030年までに1971GWh 風力発電 2013年までに100MW、2016年までに900MW、2019年までに1.5GW、2030年 までに1万6119GWh/年 最終エネルギー バイオエネルギー (固形バイオマ ス、 バイオガス、 生物由来の都市 固形廃棄物) 2020年までに0.1% 地熱、海洋発電、 ヒートポンプ 2020年までに5.8% 水力 2020年までに2.9% ─ 123 ─ 表R15. その他の自然エネルギー目標(続き) 国 分野/技術 割合 目標 スペイン (続き) 太陽光発電 2020年までに3% 風力発電 2020年までに6.3% 電力 バイオマス発電(固形バイオマス) 2020年までに1.4GW バイオマス発電(生物由来の都市固形廃棄物) 2020年までに200MW バイオマス発電(バイオガス) 2020年までに400MW 地熱発電 2020年までに50MW 水力発電 揚水発電 2020年までに13.9GW 2 2020年までに8.8GW 海洋発電 2020年までに100MW 太陽光発電 2020年までに7.30GW 集光型太陽熱発電(CSP) 2020年までに4.8GW 風力発電(陸上) 2020年までに35GW 風力発電(洋上) 2020年までに750MW 輸送 スリランカ スーダン バイオディーゼル 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の11.3% エタノール/バイオ-ETBE 2012年または2013年までに輸送部門の最終エネルギーの7%、2020年までに2313ktoe 輸送用途電力 2020年までに4.7GWh/年(2020年までに自然エネルギー由来で501ktoe) 電力 2015年までに発電量の10% 輸送 2020年までに輸送部門の最終エネルギー需要の20%をバイオ燃料で満たす バイオマス発電(固形バイオマス) 2031年までに80MW バイオマス発電(バイオガス) 2031年までに150MW 水力発電 2031年までに54MW 太陽光発電 2031年までに350MW 集光型太陽熱発電(CSP) 2031年までに50MW 風力発電 2031年までに320MW 電力 2020年までに年間の自然エネルギー発電量を25TWh増加する (2002年比) 電力 2020年までにノルウェーとの共通電力証書市場で26.4TWh 輸送 2030年までに化石燃料を使用しない輸送手段 電力 2035年までに12TWh/年、2050年までに24.2TWh/年 水力発電 2035年までに43TWh/年 バイオマス発電 2020年までに140MW、2025年までに260MW、2030年までに400MW 太陽光発電 2015年までに45MW、2020年までに380MW、2025年までに1.1GW、2030年までに1.8GW 集光型太陽熱発電(CSP) 2025年までに50MW 風力発電 2015年までに150MW、2020年までに1GW、2025年までに1.5GW、2030年までに2GW 台湾 太陽光発電 2013年までに130MW タジキスタン 小水力発電 2020年までに100MW タイ 輸送 スウェーデン スイス シリア エタノール 2022年までに900万リットル/日 バイオディーゼル 2022年までに600万リットル/日 先進的バイオ燃料 2022年までに2500万リットル/日 電力 バイオマス発電(固形バイオマス) 2021年までに4.8GW バイオマス発電(バイオガス) 2021年までに600MW バイオマス発電(生物由来の都市固形廃棄物) 2021年までに400MW ─ 124 ─ 表R15. その他の自然エネルギー目標(続き) 国 タイ (続き) 分野/技術 割合 目標 地熱発電 2021年までに1MW 水力発電 2021年までに6.1GW 海洋発電(波力および潮力) 2021年までに2MW 太陽光発電 2021年までに3GW、2014年に1GW追加 風力発電 2021年までに1.8GW トリニダード・ トバコ 電力 2020年までにピーク需要(もしくは60MW) の5% チュニジア 電力 2016年までに1GW(16%)、2030年までに4.6GW(40%) バイオマス発電(固形バイオマス) 2030年までに300MW 太陽光発電 2030年までに1.9GW 集光型太陽熱発電(CSP) 2030年までに300MW 風力発電 2030年までに1.5GW トルコ 風力発電 ウガンダ バイオマス発電(生物由来の都市固形廃棄物 ) 2012年までに15MW、2017年までに30MW 2023年までに20GW 3 地熱発電 2012年までに25MW、2017年までに45MW 水力発電(大規模) 2012年までに830MW、2017年までに1200MW 小水力発電(マイクロ水力) 2012年までに50MW、2017年までに85MW 太陽光発電(住宅太陽光システム) 2012年までに400kW、2017年までに700kW バイオ燃料 2012年までに7億2000万リットル/年、2017年までに22億リットル/年 (アブダビ) 電力 2020年までに設備容量の7% (ドバイ) 電力 2030年までに設備容量の5%、1GW導入 風力発電 2030年までに洋上風力39GW 輸送 2014年までに輸送部門の最終エネルギー需要の5%、2020年までに10. 3% ウルグアイ バイオマス発電 2015年までに200MW 風力発電 2015年までに1GW ベトナム バイオマス発電 2020年までに50MW 水力発電 2020年までに19.2GW アラブ首長国連邦 英国 イエメン ジンバブエ 風力発電 2020年までに1GW バイオ燃料 2015年までに輸送部門の石油エネルギー需要の1%、 2025年までに5% バイオマス発電 2025年までに6MW 地熱発電 2025年までに200MW 太陽光発電 2025年までに4MW 集光型太陽熱発電(CSP) 2025年までに100MW 風力発電 2025年までに400MW 輸送 2015年までに輸送部門の最終エネルギー需要の10% インドは25MW以上の水力発電設備を自然エネルギー源と分類していないため、25MW以上の水力発電は割合および目標から除かれている。 揚水水力発電はエネルギー源ではなく、エネルギーの貯蔵手段である。そのため、転換損失を伴い、自然エネルギーおよび非自然エネルギー由来の電力 を動力源とする。揚水発電設備は調整電源として、とくに変動型の自然エネルギーの調整で重要な役割を担うため、ここに含めた。 3 都市固形廃棄物(MSW)のデータが生物由来でないもの(プラスチック、金属など)を含んでいるのか、あるいは生物由来のバイオマスのみの割合な のかを判断することはかならずしも可能ではない。ウガンダでは主に生物由来の廃棄物が利用されている。 1 2 注:とくに記載のない場合を除き、設備容量の目標値はすべて累積設備容量に関連している。目標値は少数第2位で四捨五入されている。自然エネルギー の目標は各国間で標準化されていないので、上表は一般的な比較のために様々な形の目標を掲載している。この表に掲載している国は一次エネルギー、 最終エネルギー、電力、熱利用と冷房の目標も持っている場合がある(表R12、R13およびR14を参照)。表R15は輸送エネルギーの目標を掲載している が、バイオ燃料の混合規制については表R18(国および州/地域のバイオ燃料混合規制)を参照のこと。輸送部門の目標が道路での輸送に限定されたもの なのかどうかを判断することはかならずしも可能ではない。さらに、目標はバイオ燃料の活用のみか、より広範な自然エネルギー由来の輸送手段(すな わち、電気自動車や水素製造への自然エネルギー利用)を含む場合がある。 出典:本節の巻末注15を参照。 ─ 125 ─ 表R16. 固定価格買取制度(FIT) を採用している国/州/地域の累計数1 年 累計数 該当年に新規導入した国/州/地域 1978 1 米国2 1990 2 ドイツ 1991 3 スイス 1992 4 イタリア 1993 6 デンマーク、 インド 1994 9 ルクセンブルグ、 スペイン、 ギリシャ 1997 10 スリランカ 1998 11 スウェーデン 1999 14 ポルトガル、 ノルウェー、 スロベニア 2000 14 2001 17 アルメニア、 フランス、 ラトビア 2002 23 アルジェリア、 オーストリア、 ブラジル、 チェコ共和国、 インドネシア、 リトアニア 2003 29 キプロス、 エストニア、 ハンガリー、韓国、 スロバキア共和国、マハラシュトラ州(インド) 2004 34 イスラエル、 ニカラグア、 プリンスエドワード島(カナダ)、 アンドラ・プラデシュ州とマドヤ・プラデシュ州(インド) 2005 41 カルナタカ州、 ウッタランチャル州、 ウッタル・プラデシュ州(インド)、 中国、 トルコ、 エクアドル、 アイルランド 2006 46 オンタリオ州(カナダ)、 ケララ州(インド)、 アルゼンチン、 パキスタン、 タイ 2007 56 南オーストラリア州(オーストラリア)、 アルバニア、 ブルガリア、 クロアチア、 ドミニカ共和国、 フィンランド、 マケドニア、 モルドバ、 モンゴル 2008 70 クイーンズランド州(オーストラリア)、 カリフォルニア州(米国)、チャスティスガル州、 クジャラート州、ハリアナ州、 パンジャブ州、 ラジャスターン州、 タミル・ナドゥ州、西ベンガル州(インド)、 イラン、ケニア、 フィリピン、 タンザニア、 ウクライナ 2009 80 オーストラリア首都特別地域、 ニューサウスウェーゼル州、 ビクトリア州(オーストラリア)、 ハワイ州、 オレゴン州、 バーモント州(米国)、 日本、 セルビア、南アフリカ、台湾 2010 85 ボスニア・ヘルツェゴビナ、マレーシア、 モーリシャス、マルタ、英国 2011 92 ロードアイランド州(米国)、 ノバスコシア州(カナダ)、 ガーナ、 モンテネグロ、 オランダ、 シリア、 ベトナム 2012 97 ヨルダン、 ナイジェリア、 パレスチナ自治区、 ルワンダ、 ウガンダ 2013 98 カザフスタン 98 合計数3 累計数はその年の時点で固定価格買取制度(FIT)が法的に導入された数を示している。 米国のPURPA政策(1978年)は後に発展するFITの原型である。 「合計」には後日政策が減退した7か国(ブラジル、チェコ共和国、モーリシャス、スペイン、南アフリカ、韓国および米国)が差し引かれ、固定価格 買取制度が導入されていることは明らかだが制度の施行年が不明な7か国(ホンジュラス、モルディブ、ペルー、パナマ、セネガル、タジキスタンおよび ウルグアイ)が含まれている。 1 2 3 出典:本節の巻末注16を参照 ─ 126 ─ 表R17. RPS/クォータ政策を採用している国/州/地域の累計数1 年 累計数 該当年に新規導入した国/州/地域 1983 1 アイオワ州(米国) 1994 2 ミネソタ州(米国) 1996 3 アリゾナ州(米国) 1997 6 メーン州、マサチューセッツ州、 ネバダ州(米国) 1998 9 コネティカット州、ペンシルベニア州、 ウィスコンシン州(米国) 1999 12 ニュージャージー州、 テキサス州(米国)、 イタリア 2000 13 ニューメキシコ州(米国) 2001 15 フランドル (ベルギー)、 オーストラリア 2002 18 カリフォルニア州(米国)、 ワロン地域(ベルギー)、英国 2003 21 日本、 スウェーデン、マハラシュトラ州(インド) 2004 34 コロラド州、ハワイ州、 メリーランド州、ニューヨーク州、ロードランド州(米国)、 ノバスコシア州、オンタリオ州、 プリンスエドワード島(カナダ)、アンドラ・プラデシュ州、 カルナタカ州、マドヤ・プラデシュ州、オリッサ州(インド)、ポーランド 2005 38 コロンビア特別区、 デラウェア州、 モンタナ州(米国)、 クラジャート州(インド) 2006 39 ワシントン州(米国) 2007 45 中国、 イリノイ州、 ニューハンプシャー州、 ノースカロライナ州、 オレゴン州(米国)、北マリアナ諸島(米国) 2008 52 ミシガン州、 ミズリー州、 オハイオ州、 (米国)、 チリ、 インド、 フィリピン、 ルーマニア 2009 53 カンザス州(米国) 2010 56 ブリティッシュ・コロンビア州(カナダ)、韓国、 プエルトリコ (米国) 2011 58 アルバニア、 イスラエル 2012 59 ノルウェー 2013 59 該当国無し 79 合計数2 1 「累計数」は、その年の時点でRPS/クォータ政策を導入した数を示している。 政策が施行された年順で示されている。表中の多くの政策が、後の年に改訂されたか更新された。また、いくつかの政策は撤廃されたか、廃止された可 能性がある 2 「合計数」ではRPS/クォータ政策を持つと考えられる20の区域を加えるが、どの年に制定されたか不明である(ガーナ、インドネシア、キルギスタ ン、リトアニア、マレーシア、パラオ、ポルトガル、セネガル、南アフリカ、スリランカ、アラブ首長国連邦、およびチャッティースガル州、ハリヤ ナ、ケララ、パンジャブ、ラジャスタン、タミールナド、ウッタラーカンド州、ウタルプラデシュおよび西ベンガル)。米国では、法律上拘束力のない RPS政策(グアム、インディアナ、ノースダコタ、オクラホマ、サウスダコタ、米国バージン群島、ユタ、バーモント、ヴァージニアおよびウェストバ ージニア)目標を持った10の州/領域がある。同様に、カナダでも3つの州(アルバータ、マニトバおよびケベック)が法的拘束力はないが、政策目標を 設定している。イタリアのRPSは政府の方針により廃止されたことが明らかになっているが、2013年初頭段階ではまだ有効だった。 出典:本節の巻末注17を参照 ─ 127 ─ 表R18. 国および州/地域のバイオ燃料混合規制 国 規制内容 アンゴラ E10 アルゼンチン E5およびB10 オーストラリア ニューサウスウェールズのE4およびB2、 クイーンズランドのE4 ベルギー E4およびB4 ブラジル E20とB5 カナダ 国レベル:E5およびB2 州レベル:ブリティッシュ・コロンビアでE5およびB4,アルバータでE5およびB2,サスカチュワンでE7.5およびB2, マニトバでE8.5およびB2;オンタリオでE5 中国 9つの省でE10 コロンビア E8 コスタリカ E7およびB20 エクアドル B5 エチオピア E5 グアテマラ E5 インド E10 インドネシア B2.5とE3 ジャマイカ E10 マラウイ E10 マレーシア B5 モザンビーク 2012年から2015年にE10、2016年から2020年にE15、2021年からE20 パナマ 2015年4月までにE5とE7、2016年4月までE10 パラグアイ E24およびB1 ペルー B2およびE7.8 フィリピン E10 とB5 南アフリカ 2015年10月時点でE2およびE5 韓国 B2.5 スーダン E5 タイ E5およびB5 トルコ E2 ウクライナ E5、2017年までにE7 米国 国レベル:再生可能燃料基準2(RFS2)は2022年までに年間1360億リットル (360億ガロン)の再生可能燃料と輸送燃料 の混合を要求している。2013年の再生可能燃料基準(RFS)は492.1億リットル (130億ガロン) に低減された。 州レベル:ミズリー州とモンタナ州でE10、ハワイ州でE10、 ルイジアナ州でE2とB2、マサチューセッツ州で2012年までに B4、2013年までにB5(どちらもその年の7月1日までに)、 ミネソタ州で2013年までにE10、B5およびB10、2015年までに E20、 ニューメキシコ州で2012年7月1日以降B5、 オレゴン州でE10およびB5、ペンシルベニア州でバイオディーゼル生産 量が4000万ガロンに到達した1年後にB2、1億ガロンに達した1年後にB5、2億ガロンに達した1年後にB10、4億ガロンに 達した1年後にB20、 ワシントン州でE2とB2、そして州内の原料の菜種油の処理容量が必要量の3%を満たした180日後 にB5へ拡大。 ウルグアイ B5、2015年までにE5 ベトナム E5 ザンビア E15およびB5、2014年にE20 ジンバブエ E5、E10およびB15に増加予定 注:フィリピンのB2規制は、国のバイオ燃料委員会に承認され次第B5に上方修正される予定。メキシコはグァダラハラの都市で試験的なE2規制化を行っ ている。ドミニカ共和国は、2015年のB2およびE15の目標を設定しているが、現在混合義務化は行っていない。チリは、E5とB5の目標を設定している が、現在混合義務化は行っていない。フィジーは将来的な義務化の期待を伴った自主的なB5とE10混合を2011年に承認した。ケニアの都市キスムでは E10の義務化がある。ナイジェリアは、E10の目標を設定しているが、現在混合義務化は行っていない。 表R18はバイオ燃料混合義務のみを並べており、追加的な輸送およびバイオ燃料目標は表R15:その他のエネルギー目標に含まれている。 出典:本節の巻末18を参照 ─ 128 ─ 表R19. 都市および地域のエネルギー政策:主な事例 エネルギーにおける自然エネルギー導入割合目標1、すべての消費者 ボルダー・コロラド州・米国 2020年までに総エネルギーの30% カンガリー・アルバータ州・カナダ 2036年までに総エネルギーの30% ケープタウン・南アフリカ 2020年までに総エネルギーの10% 福島県・日本 2040年までに総エネルギーの100% ハンブルク・ドイツ 2020年までに総エネルギーの20% 、2050年までに100% ホーラ・インド 2018年までに総エネルギーの10% 2 長野県・日本 2050年までに総エネルギーの70% パリ・フランス 2020年までに総エネルギーの25% シュレフテオ・スウェーデン 2020年までに、 バイオマス、水力発電あるいは風力発電のエネルギーの純輸出を行う ベクショー・スウェーデン 2030年までに総エネルギーの100% 電力における自然エネルギー導入割合目標、すべての消費者 アデレード・オーストラリア 2014年までに15% アムステルダム・オランダ 2025年までに25%、2040年までに50% アスペン・コロラド州・米国 2015年までに100% オースティン・テキサス州・米国 2020年までに35% ケープタウン・南アフリカ 2020年までに15% ランカスター・カリフォルニア州・米国 2020年までに100% マルメ・スウェーデン 2020年までに100% ミュンヘン・ドイツ 2025年までに100% 長野県・日本 2020年までに10%、2030年までに20%、2050年までに30% サンフランシスコ・カリフォルニア州・米国 2020年までに100% サンホセ・カリフォルニア州・米国 2022年までに100% シュレフテオ・スウェーデン 2020年までに100% 台北・台湾 2020年までに12% ウルム・ドイツ 2025年までに100% ウェリントン・ニュージーランド 2020年までに78から90% 自然エネルギー導入設備容量または発電目標 アデレード・オーストラリア 2020年までに住宅および商業施設に2MWの太陽光発電 エスキルスチュナ・スウェーデン 2020年までに48GWhの風力発電と9.5GWhの太陽光発電 ロサンゼルス・カリフォルニア州・米国 2020年までに1.3GWの太陽光発電 サンフランシスコ・カリフォルニア州・米国 2020年までにピーク需要(950MW) の100% 自治体によるエネルギー購入目標 コックバーン・オーストラリア 2020年までに市庁舎で使用するエネルギーの20% ゲント・ベルギー 2020年までに市が使うエネルギーの50% ヘップバーンシャー・オーストラリア 公共建築物において市が使うエネルギーの100%,公共照明の8% クリスティアンスタッド・スウェーデン 2020年までに市が使用するエネルギーの100% マルメ・スウェーデン 2030年までに市が使用するエネルギーの100% ポートランド・オレゴン州・米国 2030年までに市が使用する電力の100% シドニー・オーストラリア 市内で使用する建物の使用電気の100%、街灯の20% 1 ハンブルグとベクショーの目標は輸送エネルギーも含んでいる。福島県、ホーラと長野県の目標は輸送エネルギーを含んでいない。他の目標に関しては 言及がない。 2 ホーラの目標はエネルギー効率対策によって推計されるエネルギー消費を5%削減することを含んでいる。 ─ 129 ─ 表R19. 都市および地域のエネルギー政策:主な事例(続き) 熱関連の規制 アムステルダム・オランダ 2040年までに少なくとも20万軒の家のための地域暖房導入(バイオガス、 バイオマス、廃棄物熱の利用) チャンディーガル・インド 産業、 ホテル、病院、刑務所、食堂、住宅団地でおよび政府での太陽熱温水暖房、 および2013年 時点での居住用建物での義務的な使用 ルルド・ポルトガル 2013年時点で良好な日照条件にあるスポーツ施設や学校のすべてに太陽熱システムの利用を 義務化。 ミュンヘン・ドイツ 2058年までに (2009年基準) パッシブソーラーデザインで熱需要を80%減少(熱、 プロセス熱、 また は水加熱を含む) ナント・フランス 2017年までに都市住民の半数のため、 バイオマス・ボイラーからの熱を供給するために地域 暖房システムを拡張 化石燃料の削減、すべての消費者 ヨーテボリ・スウェーデン 2050年までに総エネルギーの100%を非化石燃料に マドリッド・スペイン 2020年までに化石燃料の使用量を20%削減(2004年基準) ソウル・韓国 2030年までに化石燃料と原子力の使用量を30%削減(1990年基準) ベクショー・スウェーデン 2030年までに総エネルギーの100%を非化石燃料に ヴィジャヤワーダ・インド 2018年までに化石燃料の使用量を10%削減(2008年基準) CO2排出削減目標、すべての消費者 オーフス・デンマーク 2030年までにカーボンニュートラル ボトロップ・ドイツ 2020 年までに50%削減(2010年基準) シカゴ・イリノイ州・米国 2050年までに80%削減(1990年基準) コペンハーゲン・デンマーク 2015年までに20%削減、2025年までにカーボンニュートラル ダラス・テキサス州・米国 2030年までにカーボンニュートラル ハンブルク・ドイツ 2020年までに40%削減、2050年までに80%削減(1990年基準) マルメ・スウェーデン 2020年までに排出量0 ニューヨーク・ニューヨーク州・米国 2030年までに30%削減(2005年基準) オスロ・ノルウェー 2030年までに50%削減(1991年基準)、2050年までにカーボンニュートラル シアトル・ワシントン州・米国 2050年までにカーボンニュートラル ストックホルム・スウェーデン 2015年までに一人当たりのCO2排出量を3トンに削減(1990年の一人当たり5.5トン基準) 東京・日本 2020年までに25%削減(2000年基準) トロント・オンタリオ州・カナダ 2020年までに30%削減、2050年までに80%削減(1990年基準) ─ 130 ─ 表R19. 都市および地域のエネルギー政策:主な事例(続き) 都市計画 を目指しており、以下 グラスゴー・スコットランド・英国 「Sustainable Glasgow」は、2020年までに 30%のCO2削減(2006年基準) のように排出削減目標を振り分けている。熱電供給/地域暖房9%、 バイオマス2%、 バイオガスと 廃棄物6%、他の自然エネルギー3%、輸送3%、燃料転換3%、エネルギー制御システム6%。計画 では、新しい建物はすべて地域熱供給システムから暖房を得るか、 あるいはより低炭素な選択肢 を利用する。 また、風力発電による年間76GWhの発電、低炭素輸送(バイオガス/EV)のための 財政的なインセンティブなども含む。 香港・中国 香港が中国における 「最もグリーンな地域」 になるために以下の戦略が挙げられている。2020年ま でに発電構成のうち、石炭火力発電を10%未満に制限する。2020年から2030年にかけて、既存 の石炭火力発電を段階的に廃止していく。海水を使用する地域冷房インフラの構築/事業に投 資する。2020年までに埋め立て地と廃水からのバイオガスを用いて10万世帯の電力需要を満た す。すべての政府施設およびスイミング・プールに太陽熱温水器を導入する。2020年までに全電 力需要の1∼2%をまかなうよう、風力発電を導入する。2020年までに、E10およびB10を達成する。 さらに、政府関連施設に太陽光発電を導入、自然エネルギー技術の情報を提供するウェブサイ ト、 ニュース/イベント、教育ツール、そして自然エネルギー設備の供給者に関する情報の提供に より、市民の関心を高めることを目指す。 マルメ・スウェーデン 「2020年までのクライメイト・ニュートラル」は主に、 エネルギー構成を太陽光発電、風力発電、水力 発電またバイオガスを中心とするものに変更するというものである。当都市は、 さらに2020年までに 一人当たりエネルギー消費の20%減(2001∼2005年における年間使用量の平均を基準とする) を目標とする。主要な戦略は、地域熱供給の拡張、100%の再生可能エネルギー地区の開発、旧 型の乗り物を100%「環境に配慮した乗り物」へ置換、EVのインフラ整備である。 ソウル・韓国 シドニー・オーストラリア 2030年までに、 ソウルは以下の目標を設定する。エネルギー消費を20%減少。温室効果ガス排出 の40%(1990年基準)削減。太陽電池、廃棄物回収および環境配慮施設を含む10のグリーンテク ノロジーの促進により100万人の環境技術関連分野での雇用創出。国内市場の成長のために、 ソ ウルは、初期資金調達、資本借り入れ、 中小企業への信用担保、2030年までに研究開発への1 億ドルの投資(技術/年ごとに2万ドル)、海外マーケティングの支援を提供している。 「Decentralised Energy Master Plan 2030」 は、都市がいかにして温室効果ガス排出を大きく 削減できるかを骨子とし、計画立案での全体的なアプローチを行っている。2030年までに2006年 基準で排出量を70%削減し、電気、冷暖房における自然エネルギーの割合を100%にすることを目 標とする。 また、電源構成としては、太陽光と風力発電で30%、 そして廃棄物回収からの熱エネル ギーのトリジェネレーションで70%である。360MWのバイオガス発電を用いたトリジェネレーションは 2030年までに15の低炭素地域に電力を供給し、天然ガスやバイオガスを用いた分散型電源や送 電設備は電気、熱、冷気を送るために開発され、11のエネルギー・プラス建築をセントラルパークに 建設予定である。 は、2020年までに炭素排出0、廃棄物0、 および健全な生態系の達成を目 バンクーバー・ブリティッシュ 「Greenest City 2020」 コロンビア・カナダ 標とする行動計画であり、長期の達成目標および2020年目標を含む10の小目標からなる。2020年 以降に建設されたすべての建物にカーボン・ニュートラルの目標を設定。太陽熱温水器の設置の ための支援金。建物におけるEVの充電ステーション設置。2020年までに環境関連の雇用数を2 倍(2010年基準以上) にする。 横浜市・日本 「横浜エネルギー・ビジョン」 は温室効果ガス排出量を2020年までに1人当たりで30%、2050年まで に80%(1990年基準)以上の削減を、環境配慮型の建物、EV、太陽光発電、風力発電、 バイオマ ス、 バイオガスおよび太陽熱温水器の使用を通じて目指す。2013年までに1300台のEV、4000個 のスマートメーター、 および4400の太陽熱システムの導入、太陽熱温水器装置導入およびEV購 入のための補助金、 自然エネルギーとエネルギー効率化の低金利ローンという中期目標および、 「横浜スマートシティプロジェクト」 の試案を含む。 出典:本節の巻末19を参照 ─ 131 ─ 表R20. 地域および国別電力アクセス 地域/国 電化率 非電化人口 電気を利用できる 人口の割合(%) (2011)1 百万人(2011) すべての発展途上国 77.0 1,257 アフリカ 43.0 600 北アフリカ 99.0 1 サハラ以南のアフリカ 31.8 599 新興アジア 83.0 615 東南アジア 77.6 134 ラテンアメリカ 95.0 24 中東 91.0 19 アフガニスタン 16.0 23.8 アルジェリア 99.3 0.2 アンゴラ 38.0 12.0 2 アルゼンチン 97.0 1.1 バーレーン 99.0 0.0 60 61 バングラデシュ バルバドス 98.0 ベリーズ 96.2 ベナン 28.0 7.0 ボリビア 87.0 1.3 ボツワナ 55.0 1.1 ブラジル 99.0 1.4 ブルネイ 99.7 0.0 ブルキナファソ 13.0 14.0 カンボジア 34.0 9 カメルーン 54.0 9.0 カーボヴォルデ 87.0 64.0 チリ 99.5 0.0 割合(%) →2021年までに100% 中国 99.8 3.0 コロンビア 97.0 1.2 コスタリカ 99.2 0.0 コートジボワール 59.0 8 キューバ 98.0 0.3 北朝鮮 26.0 18.0 コンゴ共和国 9.0 62.0 ドミニカ共和国 96.0 0.4 エクアドル 96.0 0.7 エジプト >99.0 0.3 エルサルバドル 92.0 0.5 エリトリア 32.0 4.0 エチオピア 23.0 65.0 ミクロネシア連邦3 目標 1 4.0(rural) →2015年までに100% →2015年までに75% ガボン 60.0 1.0 ガーナ 72.0 7.0 グレナダ 82.0 グアテマラ 82.0 ─ 132 ─ →2016年までに80% 2.7 →2020年までに100% 表R20. 地域および国別電力アクセス (続き) 地域/国 電化率 非電化人口 電気を利用できる 人口の割合(%) (2011)1 百万人(2011) ギニア 15.0 8 ギニアビサウ 15.0 1 ガイアナ 82.0 ハイチ 28.0 7.3 ホンジュラス 83.0 1.3 インド 75.3 306.0 インドネシア 73.0 66.0 イラン 98.0 1.3 イラク 98.0 0.7 イスラエル 99.7 0.0 ジャマイカ 93.0 0.2 ヨルダン 99.0 0.0 ケニア 19.0 34.0 クウェート 100 0.0 ラオス 78.0 レバノン 100 0.0 レソト 19.0 2.0 リベリア 15.0 3 リビア 99.0 0.0 マダガスカル 14.0 18.0 マラウイ 7.0 14.0 マレーシア 100 0.0 マリ 18.0 13 割合(%) 100(urban) マーシャル諸島 モーリシャス 99.0 メキシコ 97.6 モンゴル 88.0 0.0 モロッコ 97.0 1.0 モザンビーク 20.0 19.0 ミャンマー 13.0 43.5 ナミビア 60.0 1.0 ネパール 76.0 7.0 ニカラグア 78.0 1.3 ニジェール 8.0 14.0 ナイジェリア 52.0 84.0 98 0.1 69.0 56.0 オマーン パキスタン パレスチナ自治区 目標 1 4 0.0 →2015年までに95%(農村部) →2030年までに30% 99.4 パナマ 88.0 0.4 パラグアイ 98.0 0.1 ペルー 90.0 3.0 フィリピン 70.0 28.0 カタール 100.0 0.0 サウジアラビア 99.0 0.3 セネガル 42.0 7.3 ─ 133 ─ →2012年までに16% 表R20. 地域および国別電力アクセス (続き) 地域/国 電化率 電化率 電気を利用でき 電気を利用でき るる 1 1 人口の割合 (%) 2011) 人口の割合 (%) (( 2011) 非電化人口 非電化人口 百万人(2011) シエラレオネ 15.0 5 シンガポール 100 0.0 南アフリカ 85.0 8.0 南スーダン 1.0 スリランカ 85.0 3.0 スーダン 29.0 25.0 スリナム 90.0 シリア 93.0 1.5 タンザニア 15.0 39.0 99 1 22.0 0.9 トーゴ 27.0 5.0 トリニダード・ドバゴ 99.0 0.0 チュニジア 99.5 0.1 ウガンダ 15.0 30.0 アラブ首長国連邦 100 0.0 ウルグアイ 99.0 0.0 タイ 東ティモール 目標 目標 1 割合(%) →2019年までに100% →2014年までに100% ベネズエラ 99.9 0.1 ベトナム 96.0 4.0 イエメン 40.0 14.9 ザンビア 22.0 11.0 ジンバブエ 37.0 8.0 →2030年までに51%(農村部)、 90%(都市部)、 66%(全国) 注 : 割合および目標は別段の定めがない限り国におけるものである。オフグリッドや農村電化に関する他の目標は表R15を参照。 1 中国、ガーナ、南アフリカは2013年のデータを反映しており、その他は2011年のものである。 2 新興アジアは以下のように分割される。「中国および東アジア」はブルネイ、カンボジア、中国、インドネシア、ラオス、マレーシア、モンゴル、ミャ ンマー、フィリピン、シンガポール、韓国、台湾、タイ、東ティモール、ベトナムおよびその他のアジア諸国を含む。なお、南アジアにはアフガニスタ ン、バングラデシュ、インド、ネパール、パキスタンおよびスリランカが含まれる。 3 ミクロネシア連邦における農村電力化率は首都をもつ4島(都市と見なされている)以外の島々を示す。 4 パレスチナ自治区の電化率は国の電力系統に接続されている村の数を示す。 出典:本末の巻末注20を参照 ─ 134 ─ 表R21. 調理用エネルギー源を伝統的なバイオマスに依存している人口 地域および主な国 人口 百万人 2011年の割合(%) アフリカ 696 67% ナイジェリア 122 75% エチオピア 77 93% コンゴ共和国 62 94% タンザニア 41 94% 南アフリカ 6 13% ケニア 33 83% その他のサハラ以南のアフリカ 335 74% 1 1% 1,869 51% インド 818 66% 中国 446 33% 北アフリカ 新興アジア1 バングラデシュ 143 88% インドネシア 103 42% パキスタン 112 63% ミャンマー 48 9% その他の新興アジア 648 36% ラテンアメリカ 68 15% ブラジル 12 6% 中東 9 4% 全発展途上国 2,642 49.4% 世界全体2 2,642 38.1% 1 新興アジアとは以下の区分である;中国および東アジアとはブルネイ、カンボジア、中国、インドネシア、ラオス、マレーシア、モンゴル、ミャンマ ー、フィリピン、シンガポール、韓国、台湾、タイ、東ティモール、ベトナム、およびその他アジア諸国を含む。なお、南アジアにはアフガニスタン、 バングラデシュ、インド、ネパール、パキスタン、およびスリランカが含まれる。 2 OECD および東ヨーロッパ / ユーラシアの国々を含める。 出典:本節の巻末注21を参照 ─ 135 ─ 表R22. 電力アクセス拡大のためのプログラム:主な事例 名称 概要 アフリカ、 カリブ地域、太平洋(ACP)諸国 ACP-EU(アジア・カリブ海・太平洋・ 地方自治体や地域社会を関与させることにより、 の貧困・都市周辺地域で身近で持続可能なサービスを増加させるための共同融資手段。 EU) エネルギー基金 ACP-EU Energy Facility アフリカ・EUエネルギー協力プログラム 2020年までに自然エネルギーの使用を増加させ、少なくとも1億人の人々に近代的な電力を 使用可能な状態で提供するというアフリカとEUのエネルギー協定の政治目標に貢献する Africa-EU Renewable Energy プロジェクトの準備のための支援活動、能力開発 Cooperation Programme(RECP) プログラム。政策助言、民間部門の提携、 などを行う。 アフリカ自然エネルギー基金 African Renewable Energy Fund(AREF) 南アフリカを除くサハラ以南のアフリカで、 中小規模の自然エネルギープロジェクトに投資する プライベート・エクイティ・ファンド。雇用を創出するとともに、政府が自然エネルギーや炭素排 出量の目標を達成するよう援助することを目的とする。AfDBとSE4ALLは共同スポンサー・ 主要投資家である。 アジア開発銀行̶「すべての人にエ アジア開発銀行の電力アクセスへの投資を強化するイニシアティブ。2008年から2013年まで ネルギーを」 イニシアティブ に、 アジア開発銀行の48億ドルの投資は1560万世帯(7800万人)以上に恩恵をもたらした。 Asian Development Bank-Energy for All Initiative Capital Access for Renewable Energy Enterprises Programme (CARE2) ケニア、 タンザニア、 ウガンダ、 そしてルワンダでビジネスへの資本供給の増加や資本の効果 的な活用を通じ、 自然エネルギー市場の拡大を目指す700万ドル規模のプログラム。CARE2 はスウェーデン国際開発協力機構の支援を受けている。 クリーンスタート CleanStart 国連資本開発基金と国連開発計画が展開したプログラムで、貧しい家庭や零細企業家が 安価なクリーンエネルギーのためのマイクロファイナンスを利用する手助けをする。2017年 までに再現可能で規模拡大が可能な方法で少なくとも250万人の人々がエネルギー貧困の 状態から脱却することを目指す。 Energising Development (EnDev) オーストラリア、 ドイツ、 オランダ、 ノルウェー、 スイス、英国のイニシアティブ。2018年の末までに アジア、 アフリカ、 ラテンアメリカの24か国と共同で、少なくとも1500万人に近代的なエネルギー サービスへの持続可能なアクセスの提供を目的としている。2013年中期の段階で、EnDev により1100万人に近代的なエネルギーサービスが行き渡っている。 Energy, Ecodevelopment and Resilience in Africa (EERA) エネルギーの意思決定者が国家のエネルギー政策枠組の評価や、 どのようにしてエネル ギー政策がベニン、 マリ、 トーゴにおける気候対応力や持続可能なエネルギー目標を支える ことが可能になるのかを把握することを支援するプロジェクト。 欧州・アフリカインフラ信託ファンド EU-Africa Infrastructure Trust Fund(ITF) 欧州とその加盟国、 そして銀行からの補助金や融資を組み合わせたファンドで、 とくに発電 における地方のインフラプロジェクトを支援する。2013年の末までに、36の補助金が計3億 3300万ドル (2億4000万ユーロ) のプロジェクト投資のために承認された。 GIZ ̶ HERA Poverty-oriented Basic Energy Services 自然エネルギーへのアクセスと、 その持続可能で効率的な利用を促進するプロジェクト。 支援を通じ250万個の効率的なストーブが過去6年で生産、販売された。 クリーン調理ストーブ普及のための 世界連盟 Global Alliance for Clean Cookstoves クリーンで効率的な家庭の調理方法の活況な世界的市場を作ることで、命が救われ、生活 が改善され、女性の権利が向上し、 そして環境が守られることを目的とした官民パートナー シップ。2020年までに1億世帯でクリーンな調理用コンロと燃料が使用されることを目標として いる。 グローバルエネルギー効率化・再生 公共・民間資金を用いた中小規模の自然エネルギー・エネルギー効率化プロジェクトを支援 可能エネルギーファンド するための持続可能な開発ツール。EU、 ドイツ、 ノルウェーがスポンサーで、欧州投資銀行 グループが助言を行う 。 Global Energy Efficiency and Renewable Energy Fund(GEEREF) 傑出したオフグリッドのための世界 LEAP賞 Global LEAP Awards for Outstanding Off-Grid Products Global Lighting and Energy Access Partnership (Global LEAP) 世界で最も優れた低圧の直流オフグリッド設備を決める国際的なコンテストで、第1ラウンド (2014年5月に賞を与えられる) は室内灯や薄型カラーテレビのためのエネルギー効率が 良く、高品質なオフグリッドのLED電気製品を特定することを目的としている。 10か国以上の政府と開発パートナーを含むクリーンエネルギー大臣会合のイニシアティブ。 オフグリッド使用のための超効率的な技術への市場の転換を奨励する質保証システムや プログラムを支援している。 ─ 136 ─ 表R22. 電力アクセス拡大のためのプログラム:主な事例(続き) 名称 概要 IDEAS ̶ Energy Innovation Contest 地域内で再現でき、普及が可能な革新的エネルギーソリューションを推進することにより、 ラテンアメリカとカリブ地域での自然エネルギー、 エネルギー効率、 エネルギーアクセス分野に おける革新的なプロジェクトの実施を支援するイニシアティブ。 IRENA ̶ アブダビ開発ファンド Abu Dhabi Fund for Development (ADFD) 電力アクセス拡大のための革新的で再現可能なアプローチを提供し、 ミレニアム開発目標と すべての人のための持続可能なエネルギー (SE4ALL)目標の社会経済的な問題、 そして エネルギー安全保障問題に取り組む自然エネルギープロジェクトを支援するファンド。 ラテンアメリカ・カリブ地域 Latin America and Caribbean (LAC SE4ALL) 26か国のラテンアメリカ・カリブ諸国にて進行中で、米州開発銀行から資金提供されている LAC SE4ALLイニシアティブを支援するプラットフォームを準備するためのプログラム。国連 の 「すべての人のための持続可能なエネルギーを」 イニシアティブと統合・協働している。 アフリカに光を Lighting Africa 国際金融公社(IFC)と世界銀行のプログラムで、手頃で持続可能な市場を身近にし、低所 得家庭のための近代的なオフグリッド照明機器を、 そしてアフリカ中の零細企業の発展を 加速させることを目標とする。2014年初頭に、Lighting Africaプロジェクトによって770万人 がクリーンで安全な電気を使用できるようになった。 アジアに光を Lighting Asia 電気アクセスのないインドの農村部に住む4億人の人々に、近代的なオフグリッド照明を提供 するためのプログラム。2015年の末までに少なくとも200万人に提供することを目標とする。 パワー・アフリカ Power Africa 70億ドル以上の資金援助と融資保証で、 サハラ以南のアフリカにおける電気アクセスの問題 に取り組むための米政府のイニシアティブ。 アフリカの経済的潜在能力に見合った電力アク セスを満たすことを目的としている。 低所得国での自然エネルギー拡大 戦略気候基金(SCF)のプログラムは、世界の最貧国で自然エネルギー市場の拡大と技術の (SREP)Scaling Up Renewable さらなる導入のために設立された。 エチオピア、 ホンジュラス、 ケニア、 リベリア、 モルディブ、 ネパール、 そしてタンザニアで実証されている。 Energy in Low Income Countries マリ、 SNV Netherlands Development Organisation ̶ Biogas Practice 複数の主体による部門の開発手法を通じて、SNVは世界中の国家的なバイオガスプロジェ クトの準備と実施を支援する。2013年末までにパートナーと提携して、SNVは57万9000基の バイオガスプラントをアジア、 アフリカ、 ラテンアメリカの発展途上の18か国に導入した (2013年 だけでも7万4000基)。 アフリカのための持続可能なエネル ギーファンド Sustainable Energy Fund for Africa(SEFA) アフリカ開発銀行が管理するファンドで、5700万ドルのデンマーク政府による財政支援が ある。技術援助や能力育成、投資資本、指導(のための補助金) を通じて、 アフリカでの中小 規模のクリーンエネルギーやエネルギー効率化のプロジェクトを支援する。 すべての人のための持続可能な エネルギーイニシアティブ Sustainable Energy for All Initiative(SE4ALL) 国連総合事務総長の潘基文の世界的なイニシアティブで、2030年にむけて普遍的な電力 アクセスとクリーンな調理法の達成、 自然エネルギー源による世界の電力供給シェアの倍増 と、 エネルギー効率の改善率の倍増の3つの目標を定めている。 ─ 137 ─ 表R23. 電力アクセス拡大のためのネットワーク:主な事例 名称 概要 African Bioenergy Development 国連貿易開発会議(UNCTAD)が開始したプラットフォームで、関心のあるアフリカ諸国が Platform 複数の利害関係者間の双方向性を有した分析手法を通じて人と経済の発展を進めるため に、 バイオエネルギーが持つ潜在能力の発展を支援することを目的とする。 そして金融メカニズム アフリカ自然エネルギー同盟(AREA) アフリカにおける自然エネルギーの加速的な拡大にむけた政策、技術、 についての情報や意見交換のための世界中の様々な利害関係者によるプラットフォーム。 African Renewable Energy Alliance アフリカのためのクリーンエネルギー 青年ボランティアがアフリカで自然エネルギーを促進し、 エネルギー貧困を解決(緩和)する (CLENA) Clean Energy for Africa ことを目的とした5か年環境計画(2012∼2016)。 CTI 民間資金調達支援ネットワーク 初期段階で有望と認定されたクリーンエネルギープロジェクトのビジネスプラン、投資速度、 Private Financing Advisory Network そして成長戦略などの発展のための助言をする国際的なネットワーク。 ENERGIA International 2014年初頭までにアフリカとアジアで活動中の22の組織を含んだ、男女間の問題、女性の 社会進出と持続可能なエネルギーに焦点を置いた国際的なネットワーク。 自然エネルギー 100%世界キャンペーン 自然エネルギー 100%目標が緊急かつ発展途上国と先進国の両方にて実行可能だという Global 100% RE ことを証明することを目的とした初の世界的なキャンペーン。 HEDON Household Energy Network 知識格差の認識を広め、協力関係を築き、情報共有を育むことにより、事業者を後押しして 家庭の電力アクセスへの障害を解決することを目的としたネットワーク。 RedBioLAC ラテンアメリカとカリブ地域における嫌気性消化ガスの研究と普及、 そして有機性廃棄物の 処理と管理に取り組む機関の複数国家間ネットワーク。 UN Foundation Energy Access Practitioner Network 190か国以上の1600人を超える人数で構成されているネットワークで、2030年までに普遍的 な電力アクセスを可能にするために、市場主導の分散型エネルギー活動を支援する。 「ネットワークのネットワーク」 として普遍的な電力アクセスの達成に向けた世界的アプローチ の発展を援助する。 ─ 138 ─ 方法論に関する注釈 この2014年版報告書は、2005年以降の8つの「自然エネ ルギー世界白書」(GSR)の内容を踏襲している(2008年 は例外)。読者はこれまでの詳細については過去の版から 知ることができる。 この報告書において示されている、2013年の国および世界 全体の設備容量、発電量、成長、投資に関するデータの ほとんどは予備的なものである。情報やデータが矛盾して いたり、部分的であったり、または古い場合には、必要に 応じて専門家による判断で調整されている。巻末には参考 文献、補足情報、関連する仮定などの追加的な詳細を提 示した(補足1の自然エネルギーのデータおよび関連課題を 参照のこと)。 それぞれの報告書は、数千の発表もしくは未発表の参考 文献に基づいて作成されている。具体的には、国際機関 や企業団体の報告書、国や地域、技術分野の貢献者によ り提出された数百のアンケート調査を経て本報告書作成に 携わる者たちのコミュニティが提供した意見、および数回に およぶ公式・非公式での再検討からのフィードバック、多く の世界的専門家との個人的な情報交換による追加情報、 様々な電子ニュースレター、ニュース報道やその他の情報 源が含まれている。 本報告書に記されているデータのほとんどは、各執筆者が 上記の情報源の助けを借りて地道に集めたものである。主 要な国々の特定の分野における最近の変化、成長率や世 界的な動向をもとに、古いデータから推定したデータも含ま れている。その他のデータは、かなり特定した狭い範囲に 注目しており、おおむね第三者機関が作成したと言える。 本報告書は対象となる年ごとにこうしたデータ要素を統合的 にまとめた報告書である。 本報告書は、自然エネルギー市場と産業、政策動向、お よび発展途上国におけるエネルギー利用拡大のための自然 エネルギー関連の促進にかかわる、あらゆるデータを世界 規模で正確に取り上げることを心がけている。その目的は それぞれの報告書で最良のデータを提供することだ。した がって、年ごとの変化を確認するために本報告書以前のバー ジョンとデータを比較するべきではない。 集計および報告に関する注釈 多くの論点は自然エネルギーの設備容量と発電量を算 出する際に生じる。こうした問題のいくつかを下記に 示す。 1.設備容量 vs エネルギーデータ 本報告書は、過去1年における電力、熱、輸送燃料の 生産量だけでなく、設備容量の増加分および総量も正 確に推計することを目的としている。これらの測定は、 技術ごとに異なるものの、不確実性の影響をある程度 受けている。市場と産業の傾向の章では、生産される エネルギーの推計を可能な限り含めているが、データ に制約があるため、電力や熱の設備容量のデータに着 目している。これは、設備容量のデータは、概して高 い確実性を持って推計できるからである。さらに、実 際の熱生産および発電量の値は、ほとんどの国で通常 12か月およびそれ以後にしか入手できず、ときには全 く公表されない。また、設備容量のデータは時間の経 過とともに投資の傾向をよく反映したものに近づいて いく。 2.建設済の容量 vs 連系済および稼働中容量 過去数年にわたって、太陽光発電と風力発電の市場で、 系統に接続されているが公式にはまだ稼働していると 判断されていない設備の容量、あるいは建設が済んで いるが年末までに系統に接続されなかった設備(つま り、その年に設置されて次の年に系統に接続される設 備)の容量が増加している。この現象は、2009年から 2013年の中国の風力発電の導入においてとくに顕著で あった。最近では太陽光発電市場での同様の現象がい くつかの欧州の国で見られる。 本報告書は、2012年版から前年に系統に連系された容 量、または電力供給を始めた設備の追加容量(たとえ ば、オフグリッドで利用する設備の容量)のみを算出 することにしている。しかし、たとえば中国などにお いて、利用可能なデータに伴う制約、例外が設けられ ることも考えられる。このアプローチからの逸脱が判 明している点は技術の節および/または巻末注にまと めている。 この理由は、本報告書の情報元が複数の導入量の測定 方法を有していることや、多くの公的機関が系統連系 の統計を報告しているためである。そのため、数多く の国で実際の導入量のデータを得ることがますます 困難になっている。欧州太陽光発電協会(European Photovoltaic Industry Association)や世界風力エネ ルギー会議(Global Wind Energy Council)を含むい くつかの自然エネルギー産業団体は、導入済みの設備 容量から稼働中ないし系統連系済みの設備容量へと集 計、報告を転換し始めている。 3.バイオマス発電のデータ 本報告書は、複雑さや制約があることを考慮し(本報 告書の図5、および2012年版 GSR の補足2を参照のこ と)、バイオマスエネルギー開発に関する最良かつ最 新のデータを提供するよう努めている。熱生産と発電 の総設備容量およびバイオマスエネルギーの総生産量 を評価する際に生じる問題に加え、バイオマスを燃料 とするコージェネレーションシステム(CHP)に関す る報告が国によって異なっているという問題がある。 本書の示すバイオマス発電のデータは、固形バイオマ ス、埋立地ガス、バイオガス、液体バイオ燃料を用い たバイオマス専焼発電および CHP システムの設備容量 ─ 139 ─ とエネルギー生産量を可能な限り含めている。 における電力調整で重要な役割を果たしている) 4.地熱とヒートポンプ 本年度より、地中熱(地熱)ヒートポンプの容量と生 産量は地熱エネルギーの章に含まれていない。地中や 空気(空気熱)、水を源とした(水熱)ヒートポンプ はいずれも補足4で説明されている。そのため、地熱 の節で示した地熱の容量と利用量の推計は本報告書の 他の箇所で示した数値よりも低い場合がある。この変 更は図1には反映されているものの、他の技術に比べ てとても小さいため、数値には反映されていない。 この計測手法は業界関係者の間では慣例となってい る。国際水力発電協会は純揚水発電の数字を区別して 調査・報告を行っている。また、いくつかの国では従 来型の水力や他の自然エネルギー源のデータから揚水 発電のデータを区別して報告している。 この調整を行った理由は、1)地中熱ヒートポンプは3 種類あるヒートポンプのうちの一つであるが、違いは 熱源や放熱器でしかなく、他の種類と一緒にするほう がよいため 2)世界各地に設置されたヒートポンプ の容量と生産量のデータが著しく乏しいため 3)ヒー トポンプの生産量のうちの自然エネルギー部分を明確 にする共通の方法論が欧州で考案されたものの、世界 全体で特定の技術および稼働中の設備の効率が不明確 なことから、ヒートポンプで生産された、もしくは使 用可能な自然エネルギーの生産量のデータがさらにあ いまいになっているためである。(補足4を参照) 5.水力発電のデータの修正と揚水発電の取り扱い 2012年末時点における世界全体の設備容量は990GW だったが、本報告書の2013年版では、主により良質な データの利用が可能になったことから、この報告書で は30GW 少ない数値に修正された。この減少には揚水 発電容量のさらなる除去も反映されている(以下を参 照)。 また、世界の水力発電容量の修正は、本報告書以前の バージョンで報告された世界の自然エネルギーによる 発電容量に影響を及ぼす。このため、こうしたデータ は本報告書以前の統計データと直接比較すべきではな い(しかし、本報告書の15ページの自然エネルギー指 標の表にある過去の容量のデータはこの変更を反映し ている点を注記しておく)。本報告書以後で、さらに データを改善できるよう現在取り組んでいるところで ある。 6.太陽熱利用のデータ 本報告書以降、世界全体の容量データおよび上位12か 国の項目に、水を熱伝達媒体(熱媒体)として使用す るあらゆる太陽熱温水器を含めることとした。本報告 書の過去のバージョンでは主にガラス管式集熱器(平 板型と真空管型の両方)に焦点を当てていたが、この 報告書では全体を通してスイミングプールの熱利用で 広く使われている非ガラス管式温水器も含めている。 この変更は、本報告書の過去のバージョンと比べて、 上位10か国の順位ならびに世界全体の容量に関する報 告データに影響を与えている。 太陽熱集熱器のデータについては、ほとんどの国がガ ラス管式の情報のみを収集している。ガラス管式集熱 器は世界全体における太陽熱の累積設備容量の90%以 上および新規設備容量の95%以上を占めている。その ため、本報告書以前のバージョンでは、すべての種類 の温水器の詳細データを所有する国とそうではない国 とが混合しないように、主にガラス管式温水器に焦点 を当てていた。しかし、非ガラス管の大きな市場のほ とんどが今では非ガラス管式温水器のデータを収集し ており、いずれの市場でもデータが改善されているこ とから、本報告書から非ガラス管式温水器のデータを より充実させている。 太陽エネルギーを利用した空気式集熱器(空気を熱媒 体に利用する太陽熱集熱器)のデータについてはさら に不明確で、これらの集熱器は市場全体でほとんど存 在感がないことを注記しておく。特定されている場合 には太陽熱空気式集熱器が含まれる。 産業プロセス、あるいは二段および三段の吸収式冷凍 機に利用される集光型太陽熱システムについては、太 陽熱利用と冷房の章で取り上げている。パラボリック・ トラフ式、ディッシュ式、フレネル式の集熱器などの システムは、集光型太陽熱システム(CSP)関連の他 の設備に比べて小型ではあるが、発電では使われない 高温(一般に摂氏120~250度で最大で摂氏400度)を 供給するのに適している。 また、本報告書は2012年版以降、純揚水発電容量(蓄 電目的で貯水池間の水の移動だけに使われる容量)を 除いた水力発電の発電容量の報告を試みている。この ように区別して報告するのは、揚水発電がエネルギー の供給源ではなく、むしろエネルギー貯蔵の手段だか らである。変換損失も含まれることや、再生可能か再 7.その他 生不可能かに関係なくあらゆる電力形態により供給さ れる可能性がある。しかし、従来型の水力発電施設は、 この報告書の技術データに関する編集内容は、2014年 5月17日まで、そのほかの内容については5月1日まで 通常の発電能力から区別されていない、もしくはそれ のものである。 に追加した揚水機能が備えられている。本報告書では 純(もしくは増加分の)揚水発電の要素のみを区別し この報告書では、2013年12月31日現在の為替相場レー 分離することを目的としている(補足3でも記されて トで、OANDA 為替換算ツールを用いて計算している いるように、揚水発電は、とくに電源構成において、 変動する自然エネルギー源が大部分を占めている系統 (http://www.oanda.com/currency/converter/) ─ 140 ─ 用語集 吸収式冷凍機 空調あるいは冷凍システムの駆動のために、任意の エネルギー源(太陽光、バイオマス、廃熱等)から熱 エネルギーを用いる冷却装置のことである。これらの 熱源は機械式圧縮機の電力消費を置き換えることがで きる。吸収式冷凍機は、従来の(蒸気圧縮機)冷房シ ステムと二つの点で異なる。まず冷却装置の熱吸収過 程は、機械的なものというより本来熱化学的なもので ある。次に、フロンとも呼ばれるクロロフルオロカー ボ ン(CFCs) や ハ イ ド ロ ク ロ ロ フ ル オ ロ カ ー ボ ン (HCFCs)よりも水が冷却材として循環する。冷却装置 は、一般的には地域熱供給や廃棄物由来、熱電併給か らの熱でエネルギーを供給されており、地熱、太陽エ ネルギー、あるいはバイオマス資源からの熱で運用す ることもできる。 バイオディーゼル 大豆、アブラナ(キャノーラ)、アブラヤシなどの油 料種子作物のほか、廃食用油や動物性油脂などその他 の油源から精製される燃料のことである。バイオディー ゼルは、定置型の熱と電力用途のほか、車、トラック、 バス、およびその他車両において搭載されるディーゼ ルエンジンに使用される。水素化植物油(HVO)の項 目を参照。 バイオマスエネルギー バイオマスエネルギーとは、あらゆるバイオマスか ら生み出されるエネルギーのことで、バイオマス熱、 バイオマス電力およびバイオ燃料などを含む。バイオ マス熱は固形バイオマス(例として乾燥薪)あるいは その他の液体または気体のエネルギー体の燃焼から生 じるものである。バイオマス熱はタービンやエンジン の駆動によって発電機を稼働させる蒸気を生み出すこ とで直接利用、もしくはバイオマス電力を生成するこ とができる。あるいは、バイオメタン、埋立地ガス、 または合成ガス(バイオマスの熱ガス化から生成)の ような気体エネルギーの担体は、ガスエンジンにエネ ルギーを供給するために使用できる。輸送用途のバイ オ燃料は、時折バイオマスエネルギーという言葉の下 に含まれることがある(バイオ燃料の項を参照)。 バイオ燃料 バイオマスを原料とした液体燃料と気体燃料を幅広 く指す(あらゆる液体、そして気体燃料がバイオマス を原料としている)。液体燃料のエタノールやバイオ ディーゼル、そしてバイオガスを含むバイオ燃料は、 車両エンジンの燃料や、熱電供給のための定置型エン ジン、そして家庭の暖房や調理にも利用されている(た とえば、エタノールゲルなど)。 いまだ試験段階、あ るいはデモンストレーション用など、初期の商用段階 の技術ではあるが、持続的な生産が可能な非食用のバ イオマス原料から先進的なバイオ燃料が作られている。 例外として、水素処理された植物油(HVO)はいくつ かのプラントで商用的に生産されている。 バイオガス/バイオメタン バイオガスは、メタンガスと二酸化炭素から成り立つ 混合ガスで、有機物の嫌気性消化(酸素のない環境での 微生物群による分解)によって生成される。有機物およ び/または廃棄物は消化槽でバイオガスに変換される。 適切な原料として、農業残渣、動物排せつ物、食品産業 廃棄物、下水汚泥、バイオマスエネルギー転換目的作 物、そして一般廃棄物の有機成分が含まれている。未加 工のバイオガスは熱や電力を生み出すために燃焼させる ことができる。また、スクラビングと呼ばれる簡単な工 程でバイオガスから二酸化炭素、シロキサン、硫化水素 などの不純物を取り除いてバイオメタンに変換すること ができる。バイオメタンは天然ガス供給網に直接注入す ることができるほか、腐食の恐れもなく内燃機関で天然 ガスの代わりに使用できる。 バイオマス バイオマスは、化石燃料と泥炭を除いた生物由来の 原料であり、エネルギーの化学的貯蔵(もとは太陽か ら受け取ったもの)と広い範囲のエネルギー担体への 変換に利用できる。これらは液体バイオ燃料、バイオ ガス、バイオメタン、熱分解油、固形バイオマスペレッ トを含む多くの形態をとり得る。 バイオマスペレット 乾燥し細かく砕かれた廃材や農作物残さなどのバイオ マスを圧縮させたバイオマス固形燃料。バイオマスペ レットを加熱することで生成された焙焼ペレットは、キ ログラム当たりの高いエネルギー含量、ならびに優れた 研削性、耐水性、および保存性を有する。ペレットは一 般的に、直径約1cm、長さ3〜5cm の筒形の形状である。 ペレットは取り扱い、貯蔵、運送が容易であり、熱利用 や調理等に活用されるほか、発電やコージェネレーショ ンシステム(熱電供給設備)でも利用される。 ブリケット 穀物のわらを含む固形バイオマス燃料から作られる 可燃性物質のブロックであり、木製ペレットの製造と 似た工程で圧縮される。直径は5〜10cm、長さは6〜 15cm であるため、ペレットよりも遥かに大きい。ブリ ケットは自動的な処理が容易ではないが、燃料用丸太 の代替として使用することができる。 設備容量 熱生産設備あるいは発電所の定格容量とは、潜在的 に発生させることができる瞬間的な熱や電力の出力、 あるいはそのような一連のユニット(例として風力発 電ファームや太陽電池パネル一式など)における潜在 的な総出力を指す。導入済み設備容量とは、(たとえ ば、系統に電気を供給する、使用可能な熱を提供する、 あるいはバイオ燃料を製造するなど)稼働中か停止中 かの区別を設けずに建設されたすべての設備を指す。 設備稼働率 ある期間内(通常は1年間)の発電設備あるいは熱生 ─ 141 ─ 産設備の実際のエネルギー生産量と、その設備が同じ 期間内に中断することなく運用された際に生成される 理論上のエネルギー生産量との比率のことである。 資本補助金 資産(例として太陽熱温水器)の初期投資コストの 一部をまかなう補助金のことである。例として、これ らには購入者補助金、払い戻し、または電力事業者、 政府機関、政策金融機関による一回限りの支払いなど がある。 熱電併給設備(CHP)/ コージェネレーション設備 コージェネレーション施設は、化石燃料やバイオマ ス燃料の燃焼、もしくは地熱、太陽熱を利用して熱供 給と発電を同時に行う設備。火力発電プロセスから排 出される「廃熱」を回収する施設を指すこともある。 集光型太陽光発電(CPV) 鏡やレンズを用いて相対的に小さな面積の太陽電池 セルに太陽光を集光させて発電する技術(太陽光発電 の項を参照)。低・中・高集光型 CPV システム(使用 されているレンズや反射板のデザインによって異なる) は直射日光を集光させると最も効率的に稼働する。 集光型太陽熱発電(CSP) 太陽熱発電(STE)とも言われる。鏡を用いて太陽 光を集光し、ソーラーレシーバーの作動流体を熱して、 タービンあるいは熱エンジン/発電機を駆動して発電 する技術。鏡面は様々な組み合わせで配置されるが、 すべて太陽光線をレシーバーへ送る。商用の CSP シス テムには、パラボリック・トラフ式、リニアフレネル 式、タワー式、ディッシュ/エンジン式の4種類があ る。前者の2つの技術は線集システムで太陽エネルギー を集束して400℃の熱を生み出すことができ、後者の2 つは点集システムで800℃以上の熱を生成できる。これ らの高い熱量によって、熱エネルギー貯蔵を簡単かつ 効率的で安価なものにできる。貯蔵量を追加するには 通常、熱を保存するために流動体(最も一般的なのが 溶解塩)を使い、送電網に統合するために必要な柔軟 性を CSP 発電施設に与える。 変換効率 エネルギー変換装置からの有用なエネルギー出力と 入力の比率。たとえば、太陽電池モジュールの変換効 率とは、発電量と太陽電池モジュールが受けた太陽エ ネルギーの比率であり、仮に、100kWh の日射量を受け 10kWh の電力を生成すると、変換効率は10%となる。 クラウドファンディング 多数の人(群衆)から少額の資金を集めてプロジェ クトやベンチャーの資金を調達する活動。一般的にイ ンターネットやソーシャルメディアを活用する。クラ ウドファンディングを通じて集められたお金で、貸し 手がベンチャーの株を買う必要はなく、ベンチャーが 成功しても資金が戻る保証もない。しかし、株式比率 および/または計画支払いなどの商品で、資金提供者 ク ラ ウ ド に報酬を与えるタイプもある。 分散型発電 消費地の近くに分散して設置された一般的に小規模 なシステムによる発電。 エネルギー 物体が「仕事」をなし得る能力で、熱、光、運動、 化学、位置、電気など様々な形態となる。一次エネル ギーとは、石炭、天然ガス、再生可能資源などのよう な天然資源に含まれるエネルギー(エネルギーの潜在 量)を指し、最終エネルギーとは、最終的に使用され る施設へ供給されるもの(コンセントへの電気など) を指す。そこではエネルギーが使用できる形となり、 照明や冷蔵その他のサービスを提供できる。一次エネ ルギーが使用可能なエネルギーに変換される際、つね にエネルギー損失を伴う。 エネルギーサービス企業(ESCO) システムの所有権を保持しつつ、長期的に自然エネ ルギーシステムからエネルギーサービスを販売し、消 費者から定期的に集金、必要な管理サービスを提供す るなど、様々なエネルギーソリューションを提供する 企業。ESCO は、電気事業者、協同組合、NGO、また は民間企業からなり、かつ一般的に消費者の周辺地、 もしくは現地にエネルギーシステムを設置している。 また、 (建築や工業など)システムのエネルギー効率改 善および、省エネルギーやエネルギー管理の手法につ いてアドバイスすることができる。 ENERGIEWENDE(エネルギーヴェンデ) ドイツ語であり、意味は“エネルギーシステムの転 換”。原子力や化石燃料から脱却し、エネルギー効率改 善と自然エネルギーを主軸にしたエネルギーシステム への移行を指す。 エタノール(燃料) バイオマス(主に、トウモロコシ、サトウキビ、ま たは小穀物、穀草類)を原料として製造される液体燃 料で、典型的なガソリンエンジン(定置型または車両 用)では、少量の割合でガソリンを代替できる。また、 「フレックス燃料車」に用いられているような、若干改 良されたエンジンでは高い純度で使用できる(大抵は エタノールが85% 以上、ブラジルでは100%) 。エタノー ル生産には、燃料用ではなく、工業、化学、飲料用で 利用されているものもあることを注記しておく。 サービス料金モデル 電気サービスを消費者に提供するための取り決め。 民間企業が設備の所有権を保有し、メンテナンスやサー ビス契約期間を通じて部品交換を行う責任を負う。 サービス料金モデルは、リースや ESCO モデルでも可 能である。 固定価格買取制度 自然エネルギーを系統に接続して販売する際に、一 ─ 142 ─ 定期間において固定された保証価格を設定する制度。 通常、自然エネルギー発電事業者の送電線への接続が 保証される。固定価格もしくは最低価格(固定買取価 格の項を参照)を定めるか、市場価格や費用に基づい た価格に上乗せ額(プレミアム)を定めるかは政策に よって異なる(固定プレミアムの項を参照)。固定価格 買取制度は、たとえば発電会社が入札手続きの資格を 得る必要があるなど、時には入札と組み合わせること もある。他にもさまざまな方式があり、熱利用のため の固定価格買取制度も開発されている。 固定プレミアム(FIP) 固定価格買取制度のひとつ。自然エネルギー発電事 業者は市場価格で電力を販売するが、高い費用を補う ために市場価格にプレミアムが上乗せされることで、 自然エネルギー生産に備わる経済的リスクが緩和され る。プレミアムは固定プレミアム価格(一定期間にお いて市場価格に上乗せされた定額) 、あるいは変動プレ ミアム価格(正確な額は市場価格、電力需要、決めら れた上限額あるいは下限額などの他の基準で決まる) で設定される。通常、固定プレミアム価格の場合、発 電事業者にとって市場リスクが高くなる一方、変動プ レミアム価格の場合は、少なくとも市場価格の不安定 さとそれによるリスクをいくらか緩和できる。 固定価格買取(FIT) 固定価格買取制度の基本型となる。電力を系統に接 続して販売する際に(通常は送電系統へのアクセスと 送電が優先されるか保証される)、単位(通常 kWh か MWh)ごとの保証最低価格が一定期間において保証さ れる。 最終エネルギー 一次エネルギーから変換、送電、配電による損失を 除いたもので、消費者に届けられて、熱や温水、照明 などのサービスの提供が可能となる。最終エネルギー の形態には、電力や地域熱供給、力学的エネルギー、 灯油や燃料油などの液体炭化水素、または天然ガス、 バイオガス、水素などの多様なガス燃料がある。最終 エネルギーによってのみ、精油所や発電所の損失など、 最終消費者の上流で発生する変換ロスを説明できる。 財政的インセンティブ 所得税などを介して、または税の還付や補助金の形 で公共財政からの直接支払いにより個人、世帯、企業 が財政への支払いを軽減できる経済的インセンティブ。 発電 風力エネルギー、太陽エネルギー、天然ガス、バイ オマスなど、一次エネルギー源からエネルギーを電気 や有用な熱へ変換するプロセス。 地熱 地殻から、通常、熱水や蒸気の形で放出される熱エ ネルギー。火力発電所における発電のほか、建物、産 業や農業における様々な温度での暖房のために直接利 用される。 グリーンエネルギー購入 一般家庭、企業、政府、産業の顧客による、自然エ ネルギー(通常は電気だが、熱や輸送燃料も含まれる) の自主的な購入。方法としては、エネルギー取引業者 や電力会社から直接、また自然エネルギー証書(RECs、 またはグリーンタグ、発電源証明とも呼ばれる)の取 引を介した間接購入がある。多くの場合、政府の支援 政策や規制がもたらす成果を越えて、自然エネルギー の設備容量や発電の追加需要を生み出すことができる。 ヒートポンプ 外部の電力または熱エネルギーで駆動する冷凍サイ クルを使って、熱源から放熱器へ熱を移動させる機器。 加熱モードでは、地面(地熱)や周囲空気(空気熱)、 水(熱水)を熱源として利用し、冷却モードでは、放 熱器として利用する。ヒートポンプの最終エネルギー の出力は、固有の効率や運転条件次第で、投入エネル ギーの数倍にもなることがある。ヒートポンプの出力 は最終エネルギーベースでは少なくとも一部が再生可 能である。しかし、一次エネルギーベースでは再生可 能な要素ははるかに少なくなりうる。これは投入され たエネルギーの構成とエネルギー源に左右され、電力 の場合には発電プロセスでの効率が含まれる。ヒート ポンプの投入エネルギーを完全に再生可能なものにす れば、出力エネルギーも完全に再生可能となる。 水力発電 高い位置から低い位置に流れる水を捉え、その位置 エネルギーを利用した発電方法。発電方式には、 河川 の流れ込み式のもの、大規模な貯水池を利用するもの、 そして低落差での流水式発電技術(最も開発が遅れて いる)がある。 水力発電は、大規模なものから小規模 のものまである。通常、10MW を超えるものを大型水 力と呼ぶが、国によって定義は異なる。小規模設備は、 それぞれ「小」、「ミニ」、「マイクロ」、「ピコ」といっ た接頭語が、規模に応じてつけられる。 水素化植物油(HVO) 廃棄された料理用油や油脂、植物油から水素を用い て酸素を取り出して生成する“ドロップイン”バイオ 燃料。脂肪酸メチルエステル(FAME)としてトリグ リセリドから生成されるバイオディーゼルと比べて、 ディーゼルやジェット燃料と容易に混合できる炭化水 素燃料となる。 投資 将来の有利な収益性を期待した価値のある商品の購 入。この報告書において、自然エネルギーへの新たな 投資とは、技術研究開発、実用化、生産施設の建設や 事業開発(風力発電所の建設、太陽光発電システムの 購入と設置を含む)への投資を指す。投資総額は、新 規投資に加え、合併 · 買収(M & A)活動(企業や事業 の再建および売却)のことをいう。 ─ 143 ─ 投資税額控除 自然エネルギーへの投資に対する、全額もしくは部 分的な税額控除であり、プロジェクト開発者、企業、 ビル所有者などの収入や納税義務から控除される。 ジュール、キロジュール、メガジュール、ギガジュー ル、テラジュール、ペタジュール、エクサジュール ジュール(J)はエネルギーや仕事を表す単位で、1 ワットの電力を1秒間つくりだすのに必要なエネルギー 量である。たとえば、リンゴひとつを1メートル持ち上 げるために必要なエネルギーは1ジュールであり、安静 にしている人から熱として放出されるエネルギーは、 毎秒約60J である 。キロジュール(kJ)は、1000(10 の3乗)ジュールに等しいエネルギー単位。メガジュー ル(MJ)は、100万(10の6乗)ジュールに等しいエネ ルギー単位。石油1バレルの潜在的化学エネルギーおよ び燃焼させたときに発生するエネルギー量は、約6GJ で ある。 1トン分の乾燥木材は、約20GJ のエネルギーを 含む。 リースまたはリース後所有契約 リース会社(一般的には、仲介会社、協同組合、また は NGO)が、独立型自然エネルギーシステムを購入し、 それらを顧客の用地内に設置する。顧客がリース期間に わたってすべての支払いを終えるまで、リース会社が所 有権を保持し続けるサービス規約。リース期間は、大 抵、消費者金融の支払い期日よりも長いので、月額料金 を低く抑えることができ、より多くの階層の人々がシス テムを手頃な価格で利用することができる。 均等化発電原価(LCOE) 事業の存続期間にわたって、現在の収益価値と費用 価値が等しいとしたプロジェクトのエネルギー出力原 価(たとえば、USD/kWh や USD/GJ)。 義務化 対象となる集団(消費者、供給者、エネルギー生産 者)に最低限の、またしばしば後に増加するような自 然エネルギーに関する目標を要求する手法。目標値に は、全体の供給量に占める割合や、定められた生産容 量などがある。コストは一般に消費者が負担する。自 然エネルギー割当基準(RPS)、建築基準や自然エネル ギーの熱生産、発電技術の導入を求める義務化制度が ある(しばしば、エネルギー効率化のための投資と組 み合わされる)。自然エネルギー熱購入義務や輸送燃料 へのバイオ燃料の混合規定などもある。 競争的営業許可モデル 民間企業または NGO が競争過程を経て選択され、顧 客の要望に応じて、サービス地域におけるエネルギー サービス提供について独占的な義務が与えられる方式。 この方式により、与えられた状況下で、最も適したコ スト効率の良い技術を営業許可取得者に選択させるこ ととなる。 メリットオーダー 利用可能なエネルギー源(とくに発電)をエネルギー 生産の短期的限界コストに基づいて昇順に並べ、順序 付けする方法。限界コストが最も低いエネルギー源か ら先に利用して需要を満たし、最も高いエネルギー源 を最後にする。メリットオーダー効果とは、より安い 変動のあるコスト(限界コスト)で運転する発電所の 市場参入によって、メリットオーダーあるいは供給曲 線に併せて市場価格が推移することである。このため (需要の変化がないと想定した上で)生産コストが最も 高い発電所を市場から外し、市場により低価格の電力 を受け入れることができる。 ミニグリッド 配電網を通じて地域全体に電力を供給する小規模の 電力網。最近までは大半のミニグリッドがディーゼル 燃料に頼っていた。だが、水力由来のミニグリッドの 技術が成熟し、農作物残さやバイオガス由来のガス火 力発電のミニグリッド技術も成熟しつつある。また、 再生可能エネルギーやほかの技術(蓄電池群など)と いった様々な技術を取り入れた、インバーターと接続 するミニグリット利用の開発が急速に進んでいる。 近代的バイオマスエネルギー 効率の良い家庭用小型家電機器から産業利用の大規 模転換プラントまで暖房や発電、コージェネレーショ ン(熱電併給) 、輸送燃料などの近代的利用に活用され る、固形や液体、ガスなどの形態のバイオマス燃料を 燃焼させて生成したエネルギー(伝統的バイオマスエ ネルギーとは対照をなす)。 ネットメータリング 発電設備を所持する消費者が、電力会社から供給さ れる正味の電力量(総消費量-自家発電量)のみ料金 を支払う規制制度。売買単価のそれぞれ異なる買電 メーターと余剰電力の売電メーターの二つを設置する 場合は、「ネットビリング」とも言われる。 海洋エネルギー 波(表面を吹く風によって生成された)、潮汐、海 流、塩分濃度、海水の温度差を利用した発電方式で、 前者は海面上の波浪を利用し、波力エネルギー変換器 を通して発電する。後者は、風力でタービンが回る風 力発電と同様に、潮汐によって海水が移動する際の運 動エネルギーがタービンをまわして発電する仕組みに なっている。潮せき止めダムは潮汐活動のある河口に 設置されたダムで、潮の満ち引きを利用して発電する。 ペイ・アズ・ユー・ゴー(PAYG)少額決済スキーム 消費者が分割払いで近代的エネルギーを取得し、携 帯電話のショート・メッセージ・サービス(SMS)を 使いさまざまな額のエネルギークレジットを購入でき る、柔軟なメータリング・ソリューション。顧客は先 に少額を支払い、ニーズに応じて、どれだけのエネル ギークレジットを買い、購入を続けるかを決定する。 ─ 144 ─ 仕事率 単位時間当たりに転換されるエネルギーの比率で、 ワット(ジュール / 秒)と表される。 一次エネルギー 最終消費者に供給される有用な最終エネルギーに変 換される前の、天然に存在しているエネルギー源(石 炭、石油、天然ガス、ウラン鉱石、地熱、バイオマス エネルギーなど)の理論上、利用可能なエネルギー含 量。一次エネルギーを他の形態の有用な最終エネルギー (電力や燃料など)に変換するには損失が伴う。一次エ ネルギーのなかには前もって変換されずに、最終エネ ルギーとして最終消費者レベルで消費されるものもあ る。 生産税額控除 特定施設の出資者や所有者に対する、その施設から の自然エネルギー生産量(電力、熱、バイオ燃料生産) に応じた、年次の税額控除。 競争入札制度 オークションまたは入札とも言う。公的機関が一定 の自然エネルギー供給や設備に対して、通常は価格に 基づいた入札をかける調達制度。売り手は、許容しう る最低価格を提示するが、通常、一般的な市場価格を 超える価格で応札される。 揚水発電 余剰電力を使用して、低位の貯水池から高位の貯水 池に水を汲みあげ、必要な時に流れを反転させて発電 する。揚水発電は発電というより蓄電手段であり、シ ステム全体の効率は80~90% 程度となる。 規制政策 対象の行為を誘導し制御するためのルール。自然エ ネルギーにおいては、たとえば自然エネルギー利用割 当基準(RPS)、固定価格買取制度、バイオ燃料混合の 義務化、および自然エネルギー熱利用の義務化などの 義務や割り当て。 自然エネルギー証書(REC) 自然エネルギーによる一単位(一般的には1MWh の 電力だが、熱でもありうる)分のエネルギー生産を証 明する証明書。REC に基づく制度では 、証書は蓄積す ることにより、自然エネルギーの利用割合義務の目標 達成につながるほか、消費者と発電社間の取引を可能 にする。また、自主的なグリーン電力購入の手段とし ても用いられる。 自然エネルギー目標 政府(地域、州、国または地域レベル)による、将 来のある時点までに達成を目指す自然エネルギーの公 約、計画、目標値。法制化によるか、規制機関や省庁 によって制定されるかは国によって異なる。 自然エネルギー割当基準(RPS) 電力事業者や企業群、消費者に、設備容量や電力あ るいは熱の生産量や販売量において、あらかじめ定め られた割合で自然エネルギーを供給あるいは利用する よう政府が義務付ける制度。違反すれば、罰金が科さ れる場合と科されない場合がある。こうした政策は法 域によって「自然エネルギー電力基準(renewable electricity standard)」、「自然エネルギー義務付け (renewable obligations)」、「 義 務 付 け 市 場 シ ェ ア (mandated market shares)」などと呼ばれている。 スマートエネルギーシステム 電気と電気以外(熱、ガス、燃料も含む)の双方に ついて、相互に接続されたエネルギー技術とプロセス の全体的な効率とバランスを最適化するためのシステ ム。 刻々と変化する需要と供給の管理や、電気、熱、 燃料ベースの設備システムの監視を通じて実現される。 さらに、消費者用機器、家電製品、およびサービスの 制御と最適化、分散型エネルギー(マクロとミクロの 両規模)のよりよい統合、ならびに供給者と消費者の コスト最小化により高められる。 スマートグリッド 情報通信技術を利用して、発電事業者、電力網管理 者、消費者や電力市場関係者の需要と供給能力を調節 する電力網。最大限効率的にシステム全体を運営する こと、コストや環境負荷を最小限に抑え、信頼性、弾 力性、安定性を最大限にすることを目的としている。 太陽熱集熱器 太陽エネルギーを熱エネルギー(熱)へ変換する機 器。一般的に家庭用給湯に使用されるが、暖房、産業用 熱供給、熱冷却器の駆動の際にも使用される。世界で最 も一般的に使用される太陽熱集熱器は真空管型と平板 型で、水のみ、もしくは水とグリコールの混合液を熱媒 体として作動する。エネルギーが熱に変換され、熱媒体 を通じて運ばれる前に、太陽からの照射が(断熱用)ガ ラスに当たることから、ガラス管式集熱器と言われる。 非ガラス管式集熱器は、プラスチック製の単純な集熱器 で低温熱利用に活用され、スイミングプール用集熱器と 呼ばれることが多い。非ガラス管式またはガラス管式の 空気集熱器は、熱媒体として水ではなく空気を使用し、 農業や工業目的で乾燥した空気を予熱、もしくは燃焼さ せる。 ソーラーホームシステム(SHS) 小型太陽光発電モジュール、バッテリー、充電制御 器などから構成される独立型システム。小型電子機器 を動かし、照明やラジオなど、少量の電気を家庭に供 給できる。大抵の場合、農村地域や送電網に接続され ていない遠隔地域に用いられる。 太陽光発電(PV) 太陽放射(光)を電気に変換する技術。太陽光発電 セルは半導体から構成され、太陽光を利用し原子から 電子を分離させて、電流を生み出す。モジュールは、 ─ 145 ─ ワット毎時、キロワット毎時、メガワット毎時、ギガ ワット毎時、テラワット毎時 ワットは電力の単位で、エネルギー変換や転送率を あらわす。キロワットは1000(10の3乗)ワットに等し い。メガワットは100万(10の6乗)ワットに等しい。 ギガワットは10億(10の9乗)ワットに等しい。テラ ワットは1兆(10の12乗)ワットに等しい。メガワット 電 力(MWe) は 電 力 を 表 す 単 位 で、 メ ガ ワ ッ ト 熱 (MWth)は熱エネルギーを表す単位である。仕事率と は、エネルギーの消費または生産率であり、たとえば、 電力100ワット(100W)の電球を1時間使用すると100 太陽光発電・熱利用(PV-T) ワット時(Wh)のエネルギーを消費することになる。 太陽光発電モジュールの下に太陽熱集熱器を据え付 これは、0.1キロワット時(kWh)であり360キロジュー けた太陽光発電と太陽熱利用のハイブリッドシステム。 ル(kJ)とも言える 。同じエネルギー量で25W の電球 太陽放射を電力と熱エネルギーに変換する。太陽熱集 を4時間点灯させることができる。キロワット時(kWh) 熱器は太陽光発電モジュールから不要な熱を取り除く は1kW の固定した電力を1時間使用するためのエネル ため、より効率的に稼働できる。 ギー消費量を表す単位。 単体の太陽光発電セルを相互接続することで形成され る。単結晶モジュールは、多結晶シリコンモジュール よりも効率性に優れるが、比較的高価である。 薄膜太 陽光発電の素材は、既存の外壁にフィルムのように貼 付けたり、屋根瓦のような建築部材に結合させたりし て使用できる。建物一体型太陽光発電(BIPV)は電力 を生産し、従来の建物の屋根や外壁などの一部の代替 として設置できる。両面受光型太陽電池モジュールは 両側での太陽光(直射光と反射光)を受けて発電する 両面パネルで、主に BIPV 分野で使われる。 ソーラーピコシステム(SPS) 非常に小型の家庭用太陽光発電であり、ソーラーラ ンプや情報通信技術(ICT)装置などを、1W ~10W ほ どの出力で稼働させる。大抵の場合その際の電圧は12 ボルトまでである。 太陽熱温水システム(SWH) 太陽熱集熱器、貯蔵タンク、水道管とその他の部材 から構成される装置。 太陽エネルギーを有用な熱エネ ルギーに変換し、家庭用給湯、暖房、プロセス加熱な どに使用する。有用なエネルギー需要の特性(飲料水、 給湯、空気乾燥など)と、必要とされる温度帯に応じ て、適切な太陽熱集熱器が設置される。太陽熱温水シ ステムには2種類あり、ポンプ式は、機械式ポンプによ り集熱ループを通じて熱媒体液を循環させる(アクティ ブシステム)。一方、自然循環式は、自然対流によって 起こる浮力を利用する(パッシブシステム)。 補助金 人為的に消費者がエネルギーに支払う価格を下げる、 または生産コストを下げる政策。 伝統的バイオマス 薪束、炭、農作物残さや森林残さ、動物の排泄物な どの固形バイオマスで、通常は持続不可能な方法で作 られ、概して発展途上国の農村地域で汚染物質を排出 する非効率的な料理用ストーブやかまど、たき火など で燃やし、料理や燃料、暖房、または小規模の農業・ 工業加工に用いられる(近代的バイオマスエネルギー と対照をなす)。 焙焼ペレット 固形燃料でペレットの形をしていることが多い。材 料となる木を低酸素環境下で200~300℃で焙焼して生 成される。高いエネルギー密度と粉砕性、そして防水 性など固体燃料として有用な性質を持つ燃料。 ─ 146 ─ エネルギー単位と換算 単位 キロ (k) 体積/容積 = 103 1立方メートル = 1000ℓ メガ (M) = 6 10 1米ガロン = 3.78ℓ ギガ (G) = 109 1英ガロン = 4.55ℓ テラ (T) = 10 ペタ (P) = 1015 エクサ (E) = 1018 例: 12 1 TJ = 1,000 GJ = 1,000,000 MJ = 1,000,000,000 kJ = 1,000,000,000,000 J = 1012 J 1 J = 0.001 MJ = 0.000001 GJ = 0.000000001 TJ エネルギー単位換算表 Toe = 1 Mtoe = 1 0.024 0.948 0.278 41.868 1 39.683 11.630 1.055 0.025 1 0.293 3.600 0.086 3.412 1 例: 石油換算トン 41.9 PJ 1 MWh x 3.600 = 3.6 GJ 燃焼熱 (高位発熱量) 太陽熱利用システム ガソリン1ℓ = 47.0 MJ/kg = 35.2 MJ/ℓ(密度 0.75 kg/ℓ) 1百万m² = 0.7 GWth エタノール1ℓ = 29.7 MJ/kg = 23.4 MJ/ℓ(密度 0.79 kg/ℓ) ディーゼル1ℓ = 45.0 MJ/kg = 37.3 MJ/ℓ(密度 0.83 kg/ℓ) バイオディーゼル1ℓ= 40.0 MJ/kg = 35.2 MJ/ℓ(密度 0.88 kg/ℓ) 太陽熱のデータは一般的に認められている計算方法に基づいて、 平方メートル (㎡) からギガワットサーマル (GWth) に換算されている。 注: 1) これらの値は燃料と温度によって変化しうる。 2) 約1.5ℓのエタノールは、 ガソリン1ℓと同等と 見なされる。 ─ 147 ─ 略語一覧 (英語参考用) BIPV BNEF BOS BRICS CDM CHP CO2 CPV CSP DRE DSM ECOWAS ECREEE Building-integrated solar photovoltaics Bloomberg New Energy Finance Balance of system Brazil, Russia, India, China, and South Africa Clean Development Mechanism Combined heat and power Carbon dioxide Concentrating solar photovoltaic Concentrating solar (thermal) power Distributed renewable energy Demand-side management Economic Community of West African States ECOWAS Centre for Renewable Energy and Energy Eficiency German Renewable Energy Law EEG – “Erneuerbare-Energien-Gesetz“ European Marine Energy Centre EMEC U.S. Environmental Protection Agency EPA Energy service company ESCO European Union (specifically the EU-28) EU Electric vehicle EV Feed-in premium FIP Feed-in tariff FIT Free, Prior and Informed Consent FPIC Energy Fund of Mozambique – “Fundo de Energia“ FUNAE Global Alliance for Clean Cookstoves GACC Global Environment Facility GEF Global Futures Report GFR Greenhouse gas GHG Ground-source heat pump GHP Renewables Global Status Report GSR GW / GWh Gigawatt / gigawatt-hour Gigawatt-thermal GWth Hydropower Sustainability Assessment Protocol Hydrotreated vegetable oil International Energy Agency International Finance Corporation Intergovernmental Panel on Climate Change International Renewable Energy Agency Kilowatt / kilowatt-hour Light-emitting diode Levelised cost of energy Square metre Middle East and North Africa Microfinance institution Municipal solid waste Million tonnes of oil equivalent Megawatt / megawatt-hour Non-governmental organisation National Renewable Energy Action Plan Organisation for Economic Co-operation and Development Public-private partnership PPP Production tax credit PTC Solar photovoltaics PV Renewable portfolio standard RPS UN Sustainable Energy for All initiative SE4ALL Solar home system SHS Solar pico system (pico PV) SPS Solar water heater / solar water heating SWH TW/TWh Terawatt/terawatt-hour UNIDO United Nations Industrial Development Organization USD United States dollar VAT Value-added tax Wp Watt-peak (nominal power) WTO World Trade Organization HSAP HVO IEA IFC IPCC IRENA kW/kWh LED LCOE m2 MENA MFI MSW Mtoe MW/MWh NGO NREAP OECD フォトクレジット Page 13 Page 13 Page 13 Page 14 Page 14 Page 21 Page 23 Page 24 Page 31 Page 32 Page 35 Page 39 Page 45 Page 48 Page 52 Ethanol fuel plant at the countryside shutterstock Green mountain / shutterstock Tidal power generation / shutterstock Photovoltaic cells / shutterstock Wind power, Netherlands / shutterstock Galizia, Spain / shutterstock City Train in Frankfurt, Germany / Art Konovalov Electric car to rent, Brussels / Artens shutterstock Biofuel factory / Aigars Reinholds Geothermal power station in northern Iceland / shutterstock Dam, Vietnam / Duc Den Thui Solar power station / shutterstock Solar thermal electric generating plant shutterstock Vacuum solar water heating system / shutterstock Page 53 Page 55 Page 55 Page 59 Page 67 Page 68 Page 69 Page 71 Page 78 Page 79 Page 82 Page 83 Aerial view of a wind farm / B. Brown Offshore Windfarm, Denmark / V. Schlichting Aragon, Spain / Pedrosala, shutterstock Workers install solar panels, California, USA / Spirit of America Kartell small hydro power plant in St. Anton, Austria / VOITH Construction of aerogenerator, Czech Republic / shutterstock New family homes with solar panels on the roof / shutterstock Wind Turbine on Lantau Island / shutterstock Residential photovoltaic solar system / Mana Photo SWH / Alexander Tihonov Free Recharging Station / shutterstock Solar panels on the roof of administrative building / Mik Lav 版権・コピーライト Renewable Energy Policy Network for the 21st Century REN21 Secretariat c/o UNEP 15 rue de Milan 75441 Paris, France ─ 148 ─ Page 85 New London Routemaster, April 5, 2014, London / Ron Ellis Page 89 Offgrid Solar India/ UNWTO Page 90 Bar Zimbabwe / Phaesun Page 91 Cookstove / Himalayanstove Page 92 Mini grid, Kenya/ Practical Action Page 94 Man with solar cooker, Zanskar, Ladakh, India / Falk Page 95 Lighting / EnDev Page 96 DRE Solar-Wind / Phaesun Page 97 Wind power plants at Thar desert, India / shutterstock Page 98 Solar paneled covered parking, Arizona / Tim Roberts Page 99 High voltage electricity pillars in desert / Protasov AN Page 100 Wind turbine with clouds / shutterstock 日本語版作成にあたって(Global Status Report 2014) 本報告書は21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク(REN21)により、世界の研究者の協力を得て作成 された「Renewables 2014 Global Status Report 」 (主筆:ジャネット・L・サウィン、名誉主筆:エリック・マー ティノー)を認定 NPO 法人環境エネルギー政策研究所の責任で、日本語翻訳したものです。 REN21は2004年にボンで開催された自然エネルギー国際会議(以下 RE)2004を契機として発足したネットワー クです。初版の Global Status Report 2005は、RE2004のフォローアップ会議として、2005年11月に開催された北 京自然エネルギー国際会議で発表され高い評価を受けました。自然エネルギーに関する草の根の視点からの包括 的な国際レポートが存在しなかったことから、その続編が待ち望まれ、2006年改訂版、2007年版、2009年改訂版、 2010年版、2011年版、2012年版、2013年版そして2014年版へと発展しています。 環境エネルギー政策研究所は、自然エネルギーが初めて国際交渉のメインテーマとして取り上げられた RE2004 のフォローアップに積極的に取り組んでおり、この報告書にも執筆者として貢献しています。また、当研究所所 長飯田哲也が REN21の運営委員を務め、2007年からは事務局運営にも携わっています。当研究所シニアフェロー であるエリック・マーティノーも名誉主筆として本報告書作成に貢献しています。 REN21(英語)http://www.ren21.net/ Global Status Report2014(英語) http://www.ren21.net/ren21activities/globalstatusreport.aspx 本報告書の日本語版作成は、環境エネルギー政策研究所の会員、サポーターの皆様からのご支援によって可能に なりました。また、翻訳にあたっては下記のインターン、ボランティアの皆様にご協力を頂きました。 この場を借りて、皆さまに厚くお礼申し上げます。 (五十音順) Arthur Hinsch さん、石田侑さん、大鷹悠馬さん、小川丈明さん、荻野聡美さん、川口和希さん、黒木正恵さん、 小林由美さん、佐々木知子さん、庄司友さん、白幡真澄さん、田中光平さん、中田淳さん、西内寛子さん、 早出彩さん、辺見怜さん、松尾史郎さん、真鍋理人さん、宮基恒さん、宮本正明さん、宮澤大喜さん、 山本真之さん、Roberta Huebner さん、渡邊勇輝さん、Braxton Bridgers さん 発行日:日本語訳2014年12月 発行所:認定 NPO 法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP) 日本語版翻訳 :山下紀明、渡邊素子 日本語版編集 :山下紀明、渡邊素子、前薗みのり 認定 NPO 法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP) 〒164-0001 東京都中野区中野4-7-3 Tel: +81 (0) 3 5942-8937 Fax: +81 (0) 3 5942-8938 URL: http://www.isep.or.jp/ 印刷:株式会社アールムーン 〒105-0004 東京都港区新橋3-3-13 Tel: +81 (0) 3 5532-8856 Fax: +81 (0) 3 5532-8857 URL: http://www.rmoon.jp 本報告書は独立行政法人環境再生保全機構地球環境基金の活動助成により作成されています。 環境エネルギー政策研究所は、活動を支えてくださる会員の方々を募集しています。持続可能なエネルギー政策 を実現するための研究や政策提言を続けていくために、みなさまのご支援・ご寄付をお待ちしています。 RENEWABLES GLOBAL STATUS REPORT ISBN 978-3-9815934-2-6 REN21 c /o UNEP 15, Rue de Milan F-75441 Paris CEDEX 09 France www.ren21.net
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