特 別寄稿 経済・産業分析シリーズ 経済・産業分析シリーズ 二桁成長を目指すインド経済の課題 入 柿 秀 俊 目 はじめに 1.インド経済の現状と展望 2.インドの経済改革の特徴 次 3.貧困問題と中間層の台頭 4.ガバナンス改善とインフラ整備 終わりに インドは世界金融危機の影響による景気減速をいち早く克服し、再び9%台の高成長路線に復帰する勢いだ。 目標とする二桁成長が視野に入ってきたが、それを達成するためには政府の政策遂行能力の改善と巨大な貧困問 題の克服が不可欠である。インド政府はこれまで同様漸進的な対応を続けると思われるが、新たな成長ステージ に適応するには不安材料も多い。 はじめに 「インドは何世紀もの時を同時に生きている。 代さながらの暮らしを続ける人々とが当たり前の 国民はいつでもどこでも、多宗教、多文化、多言 ように共存している。地理的にも拡大前のEUに 語、多民族からなる社会のありとあらゆる矛盾に 匹敵する国土に、言語、民族、宗教などどれをと 包まれて暮らしている」。 「インドという言葉は 『赤 ってもEU27カ国の多様性に引けをとらない28州 道』がそうであるように、単なる地理用語にすぎ が存在する。 ない」。前者はインドの女優シャバナ・アズミが インドの経済社会は多様性に満ちており、イン スリランカ国会で行った演説の有名な一節、後者 ドの人々は矛盾を抱える社会の構造に極めて自覚 はチャーチル元英国首相の言葉であり、いずれも 的である。そんな構造の中でインドが二桁成長を インドの持つ多様性をよく表現している。インド 達成するための課題を考えてみたい。 には世界の先端を行く経営者や技術者と、原始時 入柿 秀俊(いりがき ひでとし) 独立行政法人 国際協力機構 人事部審議役。1982年東京大学法学部卒業。同年、海外経 済協力基金に入社、政府開発援助業務を担当。以降、組織改編により国際協力銀行を経て、 2009年10月から現職。インドネシア、インド、パキスタン、中央アジア、中東に対する 円借款業務を担当。86年から89年および07年から09年の二度にわたりニューデリーに駐 在。 ©日本証券アナリスト協会 2010 63
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