■加齢による体脂肪の増加と体への影響 年齢が上がるにつれて、体重の中で“脂肪組織”の占める割合が増えてきます。例えば 女性の場合、高齢になると、20 歳頃の体脂肪量と比べ 2 倍近くまで増えます。年齢と共に 脂肪組織が増えやすい傾向があり、この傾向は男性の方にも言えます。一方、 “除脂肪組織” と呼ばれる筋肉や骨は年齢と共に減っていきます。筋肉の量は体の部分によっても減り方 が異なり、特に大腿、太ももの前の方の筋肉が大幅に減るという特徴があります。脂肪が 増えるということは、最近よく言われておりますメタボリックシンドロームと関連するの ではないかということですが、実はその通りです。男性は年齢が上がるにつれてメタボリ ックシンドローム予備軍が増えていきます。女性はと言いますと、男性と比べるとメタボ リックシンドロームになりにくいのですが、メタボリックシンドロームの疑いがある人は、 40 代、50 代と比べて、高齢者は 2 倍から 3 倍ほど増えます。ですから、男性よりも伸び 率が大きくなるという特徴があります。メタボリックシンドロームは糖尿病や高血圧の原 因になりますので、そういう病気を高齢になるほど起こしやすいということになりますし、 実際に糖尿病も増えています。このように肥満によって起こる健康障害は主に 2 型の糖尿 病、脂質代謝異常、高血圧、痛風、それから心筋梗塞や狭心症、脳梗塞などという生活習 慣病が挙げられます。それ以外に変形性膝関節症といったものもご存知だと思います。 沖縄県は長寿県として知られていました。1984 年、昭和 60 年は日本で第 1 位の長寿 県だったのですが、男性は平成 2 年に 5 位に転落しました。2000 年には 26 位まで落ち ており“沖縄クライシス”として有名です。メタボリックシンドロームになりやすい人の 人数を見ると、沖縄が多いことがわかります。BMIが 25 以上、つまり肥満の人の割合が 増えているということに起因しています。ちなみに、沖縄の中でも高齢者の方はやはり長 寿です。つまり若い人がメタボになって寿命が短くなっているということです。アメリカ などの欧米の食生活が入ってきたり車に乗るようになったため、寿命が短くなるという現 象が起こっています。肥満は寿命に関係するものだということです。 脂肪と言いましても、 “皮下脂肪”と“内臓脂肪”があることをご存知だと思います。皮 下脂肪を除去する手術があり、手術前と手術後にいろんな指標をとりました。糖尿病のな い人と糖尿病のある人で比べたのですが、確かに手術をした人は体重や体脂肪は減りまし たし腹囲も減りましたが、血圧は変わりません。他にも、血糖値も変わらないし脂質も変 わらない。後でお話しする、脂肪から出る様々な物質も変わりません。つまり、皮下脂肪 を取っても健康状態、代謝は変わらないと言われています。ですから、体の健康に直結す るのは内臓脂肪だろうと考えられていますし、むしろ最近、皮下脂肪は良いことをしてい るという説も出てきています。 内臓脂肪が多いとどうして悪いかということの 1 つの説明ですが、昔は脂肪組織という のはエネルギーを貯めるところだと理解されていました。しかし、随分前に脂肪からいろ んな物質が分泌されているということが分かり、最近では、 「脂肪というのは内分泌臓器と 同じなんだ」、 「ホルモンを出しているところと一緒なんだ」と理解されています。その中 で内臓脂肪が増えると、血液の中に悪玉菌が増えるということがわかりました。例えば、 現在、慢性炎症と病気との関係が非常に注目されています。歯が痛いとか、どこか怪我を すると炎症が起こりますが、そのような炎症は急性炎症と言います。一方、病気と関係す るのは慢性炎症でした。動脈硬化も慢性炎症であるということです。つまり、内臓脂肪が 増加することで炎症を惹起するような物質、炎症性のサイトカインと言うのですが、それ が増え、血圧を上げるような物質、インスリンの効き目を悪くするような物質、血栓を起 こす物質、そういうものが増えてきます。芸能人の松村さんが心筋梗塞になられましたが、 肥満の方は非常にリスクが高いです。もちろん脂肪組織からは善玉も出ています。悪玉が 減ると、糖尿病や動脈硬化を起こしにくい物質が出ているのです。それが減るということ で、結果として代謝異常をおこす、特にインスリンの効きを悪くするので糖尿病、高血圧 になりやすく、悪性腫瘍も増えてくると言われています。ですから内臓脂肪はできるだけ 増やさないほうが良いと、完全に無くす必要はないですが、内臓脂肪が増えると病気に繋 がるということは、沖縄の例からいっても間違いなさそうだということです。
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