保護者の授業参画を通じた教師との信頼形成 - N 県K 市H 小学校

保護者の授業参画を通じた教師との信頼形成
-N県K市H小学校「道徳いっしょ会議」を事例として-
学校教育専攻
発達臨床コース
朝賀
壮也
1.研究の目的と方法
現在の学校教育現場において教師は、保護者をはじめとする地域住民から批判的な視線
で見つめられている。この今日的な課題に対し、文部科学省は、保護者や地域住民への信
頼回復を目的とし、学校評議員制度やコミュニティ・スクールなどの実施を促している。
しかし、学校評議員制度は主に地域住民を対象にしている事、コミュニティ・スクールは
行政からの指定が必要である事などの理由から、個々の教師が取り組みやすい状況にある
とは言えないと考える。
ま た 、 保 護 者 は 学 校 に 対 し 、 参 与 意 識 を も っ て い る ( 上 野 .2000 ) と 述 べ て い る こ と か
ら、保護者と教師の話し合いの場が必要であると考える。
そこで、本研究では、N県K市H小学校で展開されている保護者参画型の道徳の時間
(「 道 徳 い っ し ょ 会 議 」) の 取 り 組 み を 、 教 師 と 保 護 者 の 直 接 対 話 の 場 と し て 捉 え 、 直 接
対話が保護者の信頼形成にどのように関わっているのかを、調査分析によって明らかにす
ることを目的とする。
2.本研究の構成
序
章
本研究の意図と方法
第1章
保護者の信頼、意識、教育期待の全体的な傾向
第2章
保護者の意識と信頼の関わり
第3章
「道徳いっしょ会議」への参加及び保護者の意識や行動と信頼の変化
終
結論と残された課題
章
3.研究の概要
第 1 章 で は 、「 道 徳 い っ し ょ 会 議 」実 施 前 後 で 、保 護 者 の 意 識 や 信 頼 の 変 化 を 分 析 し た 。
その結果、4月時点では、教師との面識がないことから中程度の信頼をもっている保護者
が多いことが分かった。
第 2 章 で は 、 保 護 者 の 意 識 と 信 頼 の 関 わ り に つ い て 、「 道 徳 い っ し ょ 会 議 」 に 参 加 す る
ことに注目して分析を行なった。
その結果、意識面で上昇することが信頼と最も関連が強いことや、保護者が学校に要望
をするなどの行動は、意識の変化に比べ、信頼との関連が弱いことが分かった。
ま た 、 保 護 者 は 「 道 徳 い っ し ょ 会 議 」( 直 接 対 話 の 場 ) を 通 し て 、 意 見 や 要 望 を す る と
いう行動が増加する傾向があることが分かった。
第 3 章 で は 、「 道 徳 い っ し ょ 会 議 」 へ の 参 加 及 び 保 護 者 の 意 識 や 行 動 と 信 頼 の 変 化 を 分
析した。また、数量化Ⅲ類分析を用いたパタン分析を行った。その結果得た知見は以下の
通りである。
保護者の意識、行動と信頼の上昇との関わりから保護者を以下のような4つのタイプに
分類することができる。
①信頼が高く継続する保護者は、参加に対して消極的で、参加した時は発言が少ない。
意識面で満足している傾向がある。②信頼が上昇した保護者は、参加に対する意識がやや
高い傾向がある。参加することによって意識の上昇が見られることから、意識の上昇が信
頼の上昇につながったと考えられる。③信頼が中程度で継続する保護者は、参加に対し消
極的な傾向がある。そのため、教師との接点が少なくなり、結果として意識の上昇が見ら
れないという傾向がある。④信頼が低く低迷する保護者は参加意欲が他の保護者に比べて
高い傾向がある。他の保護者に比べて発言が多く、行動によって信頼が上昇する傾向があ
る 。( 表 1 参 照 )
表1
信頼変化
信頼変化と保護者の意識や行動
間接関与
直接関与
懇談会で満足する保護者が多い
意
識
意見をしやすいと感じて
お 便 り で 満 足 す 「 道 徳 い っ し ょ 会 議 」 へ の 参 加 いる
る保護者が多い
信頼継続
意欲はあまりない
要望を聞いてもらえると
実 際 の 要 望 は 他 の 保 護 者 群 と 変 感じている
わらない
懇談会で意見しやすいという意識と信頼変化の関連が弱い
4月時点で担任を知っているか7月時点までに担任を知ったと意識している
懇談会と信頼変化の関連は弱い
意見しやすいという意識
お 便 り と 信 頼 変 「道徳いっしょ会議」への参加 が信頼の上昇に強く関連
化の関連は弱い
信頼上昇
意欲は中程度
する
実際の要望は他の保護者群と変 要望を聞いてもらえると
わらない
感じている
懇談会で意見しやすいという意識と信頼変化の関連が弱い
4月時点で担任知らないが7月時点までに担任を知ったと意識している
懇談会で不満を感じている保護者がやや多い
意見をしやすいと感じる
お 便 り で 不 満 を 「 道 徳 い っ し ょ 会 議 」 へ の 参 加 という意識が中程度
感 じ て い る 保 護 意欲はあまりない
中程度継続
者が多い
要望をやや聞いてもらえ
実 際 の 要 望 は 他 の 保 護 者 群 よ り ないと感じている
少ない
懇談会で意見しにくさを感じていることが信頼と関連する
7月時点でほぼ担任を知らないという意識をもっている
懇談会で不満を感じている保護者が多い
意見をしやすいと感じて
お 便 り で 不 満 を 「 道 徳 い っ し ょ 会 議 」 へ の 参 加 いない
感 じ て い る 保 護 意欲は高い
信頼低迷
者がやや多い
要望を聞いてもらえない
実 際 の 要 望 は 他 の 保 護 者 群 と 変 と感じている
わらない
懇談会で意見しにくさを感じていることが信頼と関連する
7月時点で全員が担任を知らないという意識をもっている
以上のように保護者のタイプによって、信頼変化のパタンが異なることが明らかになっ
た。
このように得られた知見から、教師が保護者と良好な信頼関係を構築するためには、保
護者の信頼形成のタイプの違いを考慮する必要があると考えられる。前述の保護者の信頼
形成の4つのタイプに中で、信頼形成で特に考慮が必要と思われるのは、参加意欲が高く
直 接 関 与 を 志 向 す る タ イ プ の 保 護 者 で あ る 。そ れ は 、こ の タ イ プ の 保 護 者 の 信 頼 形 成 に は 、
意 図 的 な 直 接 関 与 の 場 ( 本 研 究 で は 「 道 徳 い っ し ょ 会 議 」) の 設 定 が 必 要 だ と 考 え ら れ る
からである。
つ ぎ に 、「 道 徳 い っ し ょ 会 議 」 が 教 師 と 保 護 者 の 信 頼 形 成 に 、 ど の よ う に 関 わ っ た か を
分 か り や す く 説 明 す る た め に 、 マ ー ト ン の 言 う 機 能 論 ( 新 井 .1994 )を 通 し て 以 下 の よ う に
概観した。
教師にとって、保護者と直接対話の場をもつことは、道徳で保護者の意向を反映させる
ことや、子どもにとってよりよい道徳の時間を実施することを意図しており、機能論では
顕在的機能にあたる。教師が意図せぬ効果としては、高い参加意欲を持つ保護者の欲求を
満たすことや、保護者同士が知り合うことにより保護者が安定することなどが潜在的順機
能にあたる。潜在的逆機能としては、担任と接することで担任に対する信頼が低下する事
などが考えられる。
以上のように、行政的な手順を踏まずに単独学校でできる保護者参画型の事例を通し
て、保護者の信頼形成に関わる意識と行動を分析したことにより得た知見から、今後の教
師と保護者の信頼形成には以下のようなことが有効だと考える。
まず、保護者との直接対話の場を意図的に設定することである。それは、直接対話の場
を設定することが、信頼が上昇しにくく参加を志向するタイプの保護者の参加意欲に応え
得る可能性があると考えるからである。
また、本研究では教師と保護者の直接対話の場において、参加した保護者の信頼が低下
(潜在的逆機能)してしまう可能性を指摘している。教師は、直接対話によって潜在的逆
機能が起きないように研修をするなどの対策を講じる必要があると考える。
4.今後の課題
本研究の事例は、学校評議員制度やコミュニティ・スクールと相反するものではない。
今後は、それらを連携させ、より効果的な信頼回復の取り組みが必要と考える。
ま た 、本 研 究 の 事 例 か ら は 、他 の す べ て の 学 校 で 同 じ 知 見 が 得 ら れ る と は 言 い 切 れ な い 。
そこで、同様な調査を他の学校でも行い比較検討する必要があると考える。
また、直接対話によって起きる可能性があるとして指摘した、潜在的逆機能としての信
頼低下が起きないような、教師の研修内容を開発する必要もあると考える。
指導
大前
敦巳