本発表の詳細

4年生の教室に持ち込まれた動物のその後と
児童の関わり
藤村菜穂1)
Tex by
内山文子2)
竹内一男3)
Naho FUJIMURA , Fumiko UCHIYAMA , Kazuo TAKEUCHI
1) 八王子市立長房小学校・東京都
2)大田区立矢口東小学校・東京都
3)玉川大学教育学部・東京都
1.児童・学校の状況
東京都西部郊外と南東部の公立小学校で、4年生各1クラスの教室に児童や教師が持ってきた動物
に児童がどのように関わったかをまとめた。ほとんどの児童は動物が好きで、担任が興味を示すと
次々に持ち込み大変である。
N 小学校…団地に囲まれていて、その周辺に一戸建て住宅がある。近くに川が
・八王子市立
流れている。
・大田区立
H小学校…駅から近く、商店や住宅が集まっているところである。
両校とも4学年2クラスであり、3年生から持ち上がりで担任していることが共通している。
2.持ち込まれた動物
N小学校
12種類
トカゲ
メダカ
カイコ
アリ
ヒメモノアラガイ
カブトムシ
14種類
ハムスター
カエル
モンシロチョウ
H小学校
(共通)
カメ
ヤモリ
キンギョ
(オタマジャクシ)
カニ
ザリガニ
クモ
ヤゴ
バッタ
カマキリ
オカダンゴムシ
アゲハチョウ
3.飼育した動物とその状況
・
カエル(オタマジャクシ)…オタマジャクシからカエルになるまで育てた。その後、逃がし
たり持ち帰らせたりした。中には「くさい、逃げる」等の理由で嫌う児童がいた。
・
アゲハチョウ…児童がもってきた蛹で、羽化を確認しアゲハチョウを逃がした。
・ メダカ…飼育途中に数匹死んでしまった。産卵を確認し、成長する様子を観察することがで
きた。
・
ヒメモノアラガイ…小さくてよく見えないから好きではないと言う児童もいた。しかし、交尾や産
卵を観察してから興味を持つ児童が増えた。
・
ハムスター…担任が持ち込んで飼い始めた。飼育当番を決め、交代で世話をしている。週末
は係で順番を決めて持ち帰った。長期休暇中は、担任と児童が相談して日程を調節し、輪番
で各自の家で飼育した。
4.飼育しなかった動物の理由
<理由>
・
トカゲ
・
アリ
→
・
飼育方法(餌の問題)
・
飼育を続ける意志
・ オカダンゴムシ
責任を持って飼えないものは教室では飼わせなかった。持ち帰らせるか、逃がした。
5・死と動物
―
ハムスターとカメの死を通して
―
N小学校…3年生の10月から2匹の個別飼育を始めた。最初の頃は休み時間に大勢が取り合っ
て触っていたが、時が経つに従い人数が限られるようになった。好きな子どもは継続して休み時間
などに触っていた。
1匹は5ヶ月後、逃げ出してトイレで溺死していた。児童になぜ死んだかを説明し、死体を見た
い児童には見せ、校庭の隅に埋葬した。翌日の朝は花でいっぱいであった。死に対して漠然としか
とらえない子や、悲しそうにしながらも、またもらってきて欲しいと思う子も1、2人ではなかっ
た。かけがえのない命の大切さを児童と話し合い、ハムスターの気持ちになり、気を遣い飼育する
ことの大切さを認識させ、残された1匹をかわいがった。
5.死と動物
カメの死:N小学校でのハムスターの死の時と同じ様子が、H小学校でカメが死んだ時にも見られ
た。飼育していた 2 匹のカメのうち、1 匹が病気で死んだのだが、注意深く子どもたち
の話を聞いていると、
「かわいそう。
」
「お墓を作ろう。」
「どうして死んでしまったのか。」
という言葉のほか、
「もう 1 匹買ってくればいい。」という意見や、逆に「簡単に買って
きてすませようとするのはよくない。」という意見など、さまざまな声が聞かれた。そ
こで、N小学校同様、全員で命の大切さについて話し合う時間を設けて、考えることに
した。結果、一人ひとり感じ方、捉え方は多少異なるものの、その後のカメの飼育につ
いては、残された 1 匹のカメを大切に育てるということになった。
以上2つの例から、動物の死が子どもたちに与えることとして、次の2つを挙げること
ができると考える。①命の尊さを感じ、考えるきっかけ、②その後の飼育活動の変化で
ある。
①については、2校共に時間が設定されたように、やはり、動物の死が起きた際には教
師側の配慮で、命の大切さについて話し合う機会を作ることが重要である、と考える。
また、②については、実際に子どもたちは、動物の死後、より一層病気やけがに対して
配慮しながら世話をするようになった。
6.飼育してよかった動物
ハムスター:直接生き物の温もりを感じながら触れ合う、という体験を積み重ねることによって、
より身近に、より愛着をもって動物に接することができるようになった。具体的な例と
しては、ハムスターにつけた名前でよび、自然に話しかけるようになったこと、細かい
動きや変化までよく観察するようになったことなどが挙げられる。⇒
生命尊重・自然
愛護の心の育成、生き物への興味・関心。 また、自分たちで責任をもって行う、とい
う約束を守って世話をすることができた。この責任感にあふれた世話振りは、子どもた
ちの自信にもつながっている。⇒
飼育における責任感の育成。 とにかく、動物好き
な子どもたちは多いので、制限をかけなければいくらでも動物を持ちこんでくる。しか
し、そこで教師は、自分の責任で飼える範囲の動物を飼うということをつねに意識しな
がら、飼育環境を整えるとともに、子どもたちの認識を育てていく必要がある、と考え
る。
7.ハムスターの今後
話し合い前に聞いた子どもたちの気持ちとしては、以下のようであった。
飼いたい人に飼ってもらう。生き物係に任せる。3学期の生き物係の多いほうのクラス
で来年も飼う。飼う人がいなければ大学に返す。(N小のみ)
職員室で買う。先生の
受け持ったクラスで飼う。
話し合いや相談を重ねた結果、現在、両校ともに、この4月から家で飼育をする人がク
ラスの中でほぼ決まっている。人におしつけるのではなく、自分たちの中で責任をもつ
という結果に落ち着いた。
学校の飼育活動においては、あれもこれもと飼育するのではなく、飼育のねらいと、そ
の後の飼育状況の見通しをもってすすめることが重要である、といえる。今飼育してい
る生き物をつねに注意させ、よく観察し、世話させることで、生き物の不思議さや命を
大切にする心が育つのではなかろうか。