は じ め に

は じ め に
私のパソコンはマイクロソフト社のXPを使用しているので、
「インターネッ
ト」のアイコン(命令指示のボタン)をクリック(作動)すると、最初の画面
はMSN Japan のサイト(画面)が映し出される。ためしにそこの検索エン
ジンに「生涯学習」という単語を入れてみると、366,363 件のサイトがヒット
(表示される)した。それではと思って比較のために「学校教育」を入れると、
352,101 件となっており、意外にも生涯学習よりも低い数字が示された。別の
Gooという検索サイトでは「生涯学習」が 447,000 件、
「 学校教育」は 1,540,000
件となっており、こちらではまだ3倍の開きがあった。これはあくまでもネッ
ト上の中で、単語として検索できる範囲内という限定にすぎないが、それでも
一定の傾向を見て取ることができよう。生涯学習という言葉が政策課題として
提起(1981 年の中央教育審議会答申)されてから4半世紀がたとうとしている
中で、生涯学習は学校教育との比較でみれば、まだ幾分の差があるものの、認
知度においては完全に定着しているといっても過言ではない。
様々なところで情報が、いつでも、どこへでも、そしていくらでも行き交う
ようになった。パソコンはもちろん携帯電話の普及は、21 世紀に入って急速に
拡大してきているだけでなく、多機能を備えて、もはや電話という範疇とはい
えないような状態になってきている。教育基本法の精神に基づき制定されてい
る社会教育法第3条は「国及び地方公共団体は、……すべての国民があらゆる
機会、あらゆる場所を利用して、自ら実際生活に即する文化的教養を高め得る
ような環境を醸成するように務めなければならない。」と規定しているが、現代
ほどそういった意味での客観的条件は整いつつあるといえるだろう。しかし主
体的な条件、つまり実際にこの社会に暮らしている生身の人間が、果たしてそ
れを十分に発揮できるように成長しているかどうかは、極めて疑問である。
コミュニケーションという言葉があるが、それは「伝える」という一方通行
の意味ではなく「意思を通じ合わせる」という意味であり、ラテン語の com(共
に)と munis(義務を果たす、喜んでする)から来ているし、共同体という意
味でのコミュニティも同じ語源である。情報の伝達と言葉はやりとりされてい
るが、それらは本当に com なものなのかどうか? 言葉だけがうわすべりをし
ながら、内実はうすっぺらなものになってはいないだろうか? 30 万のパソコ
ンを買って、金利と併せて 90 万円を支払う契約をしたために生活に困って、私
のところに相談に来た卒業生がいた。虐待や孤独死だけにとどまらず、社会全
体の中から孤立する家族や個人が存在し、また家族の中でも孤立主義がはびこ
る社会状況が進みつつある。筑波大学名誉教授の門脇厚司さんは、数年前から
「社会力の低下」という言葉を使って、人と人の関係性が切れていく現実に警
鐘を鳴らし続けている。だます−だまされる、知らせない−放置される……、
これだけの社会にありながら、なぜ今なお、人と人が分断される事態が進行し
ているのか?
教育の目的をどのようにとらえるかは、人によって様々であろうが、最大公
約数的に言えば「人と社会が幸せになるために学ぶ」ということになるだろう。
人間はまともか、社会はまともに機能しているか、そして何より政治や行政は
まともなのか? そういった「自分たちの今と未来を見据えることによって展
望を切り開く」ために、生涯にわたって学ぶ意義がある。しかしそれは何かに
強制されるものでもなく、また自分のリズムとテンポが保障されながら、学ぶ
場所と機会が多様に幾度でも「求め、提供される」ことが必要なはずである。
この生涯学習市民意識調査は、吹田市民の幅広い層からの意識動向を探るこ
とによって、今後の施策の基礎資料とするために、2003 年 11 月から 12 月にか
けて実施したものである。それは、現在進行中の生涯学習推進懇話会による「生
涯学習推進計画」策定(吹田市としては2度目となる)の基礎資料として利用
されることが第一次的な目的であるが、それにとどまらず吹田市民の学びと生
活に関する貴重なデータともなるはずである。各種の統計データや意識調査に
は、それぞれの固有性とともに短所と長所が存在するが、そういったデータと
つきあわせることによって、また別の機会に、吹田市のまちづくりや未来づく
りに役立つことは間違いない。同時にこういったデータは、行政当局者が所定
の「仕事」をするための占有物ではなく、何よりも一人ひとりの市民のモノ(道
具・財産)である。ここでは、正確にデータ分析をおこない、できるだけわか
りやすい表現でそれらを示すことに務めることによって、様々な機会に多様な
活用の仕方を工夫することが可能となるように配慮しているつもりである。
この調査報告書は、吹田市からの依頼に基づき、大阪大学大学院・人間科学
研究科の教育環境学講座が、調査の実施と分析をおこなってきた。特に調査票
の回収とデータの整理そして分析・考察については、
「社会教育学・多文化教育
学」研究分野の助手と院生・学生が中心となって、討議を繰り返し、まとめた
ものである。
最後に、もとよりこのような意識調査は、多くの市民の皆様のご理解によっ
て初めて可能となったものであり、年末のあわただしい中でご協力いただいた
ことに感謝申し上げたい。
2004(平成 16)年3月
大阪大学大学院・人間科学研究科・教育環境学講座
社会教育学・多文化教育学研究分野
教授
小野田正利
助手
遠藤 和士