「新しい舞踊」論におけるリズム概念の意義…古後奈緒子…

持 続 の切 断面, す な わ ち 「瞬 間」 に表 れ る 身体 運
動 の象 徴 作 用 に よっ て, 人 間存 在 が 時 空 を超 え た
反 復 の うち に認 識 され る とい う壮 大 な リズ ム観 を
うち だ した。 両 者 の リズ ム の捉 え方 か ら創 作 の 指
「
新 しい 舞踊 」 論 にお け る
リズ ム概 念 の 意 義
大阪大学大学院 古後奈緒子
針 を得, 舞 踊 創 作 を既 成 音 楽 か ら解 放 す るか た ち
で発 展 させ た のが ヴ ィーゼ ン タ ー ルで あ る。
次 に, ドイ ツ の 身体 文 化, モ ダ ン ダ ンス 運 動 に
お い て, 第 一 次 大 戦 以 降 さ か ん に な っ た ダ ル ク
ロ ー ズ批 判 が 注 目 され る。 そ の 中で, ドイ ッ全 土
19世 紀 末 期 以 降 ヨー ロ ッパ にお い て, 「リ ズ ム」
は様 々 な分 野 に 表 れ, この 時代 に登 場 した新 しい
舞 踊 芸 術 を論 じる 際 に も頻 繁 に用 い られ た概 念 の
一 つ で あ る。 した が って, リズ ム概 念 を鍵 に舞 踊
論 を読 み解 くこ とで, 舞 踊 に投 影 され た 時代 の理
念 が 明 らか に な る と考 え られ る。 この よ うな 問題
意 識 を 出発 点 と して, 1900年 以 降 に ドイ ツ語 圏 で
発 表 さ れ た舞 踊 に関 す るマ ニ フ ェス ト, 理 論, 批
に わ た る組 織 化 を展 開 した ボ ーデ は, ク ラー ゲ ス
に論 理 的支 柱 を得 て ダ ル ク ロ ー ズの 態 度 を批 判 し,
音 楽 を全 面 否 定 して 身体 の リズ ム に沿 う独 自の リ
ズ ム体 操 メ ソ ッ ドを確 立 した。 一 方 で ブ ラ ンデ ン
ブ ル グ は, ラバ ン派 へ の 発 展 段 階 に ダ ル ク ロー ズ
を置 き, 身体 運 動 の 自立 した発 展 可 能 性 をそ こ に
見 る。 一 方 で, 教 育 と舞 台 創 作 の 実 践 にお い て,
リズ ムが 再 び既 成 の音 楽 作 品 に還 元 され る点 を批
判 す る。 彼 の論 は さ ら に, 身 体 運 動 を造 形 性 を中
心 と して 芸 術 的 に発 展 させ る可 能 性 を示 唆 して い
る。 そ こ に は, 音 楽 の くび きか ら解 放 され た 空 間
評 な ど にお け る リ ズ ム の 語 用 を確 認 す る作 業 を
行 っ た。 そ の結 果, 当 時 リズ ム概 念 が 一 義 的 に用
い られ て い た わ け で は な く, 多様 な外 延 と内包 を
備 え て い た こ と, さ ら に, 多 義性 を 問題 視 して行
われ た定 義 付 け の試 み が, メ ソ ッ ド開発, 舞 台 舞
踊 制 作 の実 践 に具 体 的 な 影響 をお よぼ して い た こ
とが 明 らか に な った 。 発 表 で は, ジ ャ ック=ダ ル
ク ロ ー ズ の リズ ム教 育 論, ヴ ィー ゼ ンタ ー ル周 辺
の 舞 踊 言 説, 第一 次 大 戦 後 の ドイ ツ の モ ダ ンダ ン
ス論 とい う三 つ の 言 説 空 間 に例 を と り, そ の 中 で
芸 術 と して舞 踊 を 自立 させ よ う と した モ ダ ン ダ ン
スの 綱 領 との 一 致 を認 め る こ とが で き る。
以 上 の 論 点 を整 理 す る と, 発 表 で 取 り上 げ た
様 々 な リズ ム論, あ るい は リズ ム の 語 用 は, リズ
ムの 救 済 とい う試 み にお い て 一 つ の 基 本線 を描 き
リズ ム概 念 が 果 た した役 割 をそ れ ぞ れ の含 意 と と
もに ま とめ た。 三 つ の言 説 空 間 にお け る リズ ム概
念 は, 以 下 の よ うに説 明 され, 相 互 に 関係 づ け ら
れ る。
まず, リズ ム の 定 義 付 へ の 要 請 は, 同時 代 を様 々
な危 機 と と もに認 識 す る 時代 精 神 にお い て, この
概 念 が 相 矛 盾 す る二 つ の 語義 を備 え て い た こ とか
ら起 こ っ た と言 う こ とが で きる。 この 時 代(に 認
識 され た危 機 とは), ル ネ ッサ ンス に端 を発 す る近
代 の 合 理 主 義 の帰 結 と して, 人 間が 自然 や 共 同体
か ら乖 離 して しま っ た こ と と ま とめ られ る。 リズ
ム は人 間 の 身体 に備 わ る 自然 で あ り, 諸 々の 乖 離
を調 和 的 な統 合 へ と導 く媒 介 的 な手 段 とみ な され
た 。 一 方 音 楽 芸 術 の慣 習 に お い て は, 合 理 主 義 的
出 す 。 まず, リ ズム の 救 済 とい う問 題 意識 を具体
的 に準 備 したの が, ダル ク ロー ズ で あ る。 世 紀 末
以 降 の モ ダニ ス ムの 意 識 形 成 の 中 で, か た や 多 く
の 社 会 的 要 請 を担 った リズ ム が 出現 し, か た や音
楽 ター ム と して の リズ ム(拍 子)が 存 在 して い た 。
両 者 は時 代 の コ ンテ クス トの 中 で 相 反 す る性 格 を
持 ち, 音 楽 の 領 域 で 一 つ の もの とな る と き, 自ず
と新 しい リ ズ ム が 伝 統 的 な リ ズ ム に 従 う 関 係 に
あ っ た。 この こ と を図 らず も顕 在 化 させ た の が ダ
ル ク ロー ズで あ り, モ ダ ン ダ ンス の展 開 は そ の 意
識 的 な乗 り越 え と して 導 き出 され た と捉 え られ る 。
モ ダ ン ダ ンス は身 体 の リズ ム 能 力 の 開 発 とい う軸
を ダル ク ロー ズ に得 な が ら も, リズ ム の救 済 の た
め に音 楽作 品 へ の 従属 か ら抜 け だ そ う とす る 。 そ
の 際, リズ ム と拍 子 の切 り離 し とい う主題 が, 実
な還 元 の 結 果, リズ ム は規 則 的 な拍 子 と同 一 視 さ
れ て い た。 リズ ム を音 楽 教 育 に役 立 て よ う と した
ジ ャ ッ ク=ダ ル ク ロ ー ズ は, 前 者 の 問 題 意 識 に立
ち身 体 運 動 の リズ ム を称 揚 す る一 方 で, 音 楽 の 慣
践 を率 い る 理 念 や 作 業仮 説 とな っ た と捉 え られ る 。
二 つ の ダル ク ロー ズ批 判 に お い て は, 遍 在 す る リ
ズ ム は, 自然 の 生動 か ら脱 時 間へ と向 か う外 向 き
の 線 を描 くと同 時 に, 身体 に備 わ る秩 序 に 向 か っ
て 内 へ と沈 潜 す る 。 こ の二 つ の軌 跡 が具 体 的 に示
され た こ とで, 音 楽 か らの解 放 とい うモ ダ ンダ ン
ス の 綱 領 の 内 実 の 一部 が 明 らか に され, 同 時 に,
習 に と らわ れ, リズ ム を後 者 の 意 味 で の 拍 子 か ら
解 放 しえ なか っ た。
これ に対 し, 世 紀 末 の文 芸 サ ー クル と第 一 次 大
戦 後 の ドイ ツ にお け る舞 踊 論 は, リズ ム と拍 子 の
区 別 を通 して, 音 楽 へ の従 属 か らの 解 放 とい う実
践 を導 い た と捉 え られ る。
まず, ビ イは, リズ ム を主 観 にお け る 生 の現 象
と客 観 的 な 記 号 と に区 別 し, 自然 の 生 動 に主 観 的
に感 受 され る リズ ム を舞 踊 創作 の原 点 に お くべ き
だ と唱 え た 。 一 方 で ホ ー フマ ンス ター ル は, 時 間
散 在 す る個 々 の取 り組 みが 舞 踊 史 的 に 関係 づ け ら
れ た と考 え る。'
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