第45回 企業間取引決済サービス (1) ソリューションの内容 与信・請求・回収業務の代行サービス ば代金回収上のリスクはなくなるが、購入側にとって 手間やリスクが発生することになり、取引自体を忌避 される事態にもなりかねない。このような問題に対する 日本国内における企業間の商取引は、長い間、その 解決策のひとつとして提供されているソリューションが 特殊性や閉鎖性が指摘されてきた。購入商品の決定に 企業間取引決済サービスだ。 おいては、本来、重視されるべきコスト・パフォーマン 企業間取引決済サービスとは、商品供給事業者に代 スよりも、購入意思決定者と営業担当者の人間関係が わって、 企業間取引における決済業務、 具体的には与信、 重視されることが多く、特別な理由なしに取引相手の 変更が行われるようなことは稀であった。 請 求、 回 【図表】 主な企業間取引決済サービス 収といった 提供企業名 佐川フィナンシャル (株) しかし近年、その状況は一変しつつある。長引く経 業務を行う 済の停滞は、同等品質の商品であればより低コストの サービスで ものを選択することを余儀なくしており、本質的なコス ある。簡単 ト・パフォーマンスによる取引相手の変更が頻繁に行 な手続きに われるようになった。さらに、インターネットの普及が、 よる与信と 商品供給側にとっては販売したい商品の訴求を、購入 ともに、実 側にとっては購入したい商品の探索をそれぞれ容易に 際 の 請 求、 しており、従来の属人的な営業活動を伴わない新規取 回収までを 引の発生に寄与している。さらに、FTAやTPPなどに 行うことが より経済のグローバル化が一層進展しそうな情勢を考 大きな特徴 えると、今後このような動きが加速していくことは間違 であり、商 いないと言えるだろう。 品供給事業 ただし、新規取引を始める際にはいくつかの解決す 者にとって べき問題があり、そのひとつが決済だ。従来、日本の は代金回収 企業間の決済方法は“掛け売り” 、すなわち商品納品時、 上のリスク または月1回の締日などに発行される請求書に基づく後 と手間を軽 払いが一般的であった。このような形態は信用をベー 減させるこ スとしており、実績のある取引先が相手であれば問題 とで、新規 はないが、新規取引の場合は一定のリスクを伴う。取 取引の可能 引金額が一定以上であれば、信用調査などを実施する 性を大幅に ことも可能であるが、比較的少額の取引の場合、いち 拡大するも いち信用調査を行うことは非現実的である。また、前 のと言える 払いや代引き、クレジットカード決済などを適用すれ だろう。 48 201 2013-2 ○ 名 称 SAGAWA B2B決済サービス 主な対象業種 ・佐川急便の配送が伴うものであれば業 種不問 (公序良俗に反するものは除く) 費用の目安 決済手数料 (詳細はお問い合わせください。) 初期費用、 月額費用なし (利用分のみへ の手数料課金) 特 徴 ・与信限度額 法人最大500万円 個人事業主最大300万円 ・バイヤー (取引先) の申込手続きが簡 単 (申込書記入のみ、別途徴求書類な し) 弊社は佐川急便という物流会社をグル ープに持つ強みを生かし、 幅広い業種の 方と接点があるため、 特定の業種に縛ら れることなく、 さまざまなノウハウで臨機応 変に対応できる点が強みです。例えば、 提供企業から 佐川急便セールスドライバーによる決済 のコメント サービスのアフターフォローや、 物流と決 済の情報をひも付けた複合的なサービ スを展開することで、 お客さまに安心感 や決済機能の付加価値を提供できるサ ービスとしております。 問い合わせ先 お客様サポート http://www.sagawab2b.jp/ b2b-info@sg-financial.co.jp 03-6214-0626 IT /アウトソーシング 2) 企業間取引決済サービスで実現できること “決済” への不安解消により 新規取引の可能性を拡大 ることが可能であることから、この利用によって現実 的には“決済” への不安を理由とする新規取引への躊躇 がほぼ解消されると言えよう。 また、特にB to B通販実施企業など、少額取引を数 企業間取引決済サービスが、その提供先である商品 多く行う企業においては、請求書発行や未回収時の督 供給事業者にもたらす最大のメリットは、言うまでも 促などの作業の発生量が多く、そのための固定的な人 なく新規取引の可能性の拡大である。 件費が収益を圧迫してしまうケースも多いことから、 企業間取引決済サービスは、比較的小規模の取引を 企業間取引決済サービスの利用によって経営の安定化 対象に、与信枠に一定の限度を設定。大規模な取引で を図れるといった側面も、無視できないメリットと言 あれば信用調査などを実施してもそのコストを吸収す えるだろう。 (株) ネットプロテクションズ NP企業間決済 ヤマトフィナンシャル (株) クロネコあんしん決済サービス (株) ラクーン Paid (ペイド) ワダツミ (株) iAny (アイエニー) ・製造メーカー、 卸売業、 ITサービスなど、 BtoB向けに事業を行っている全業種 ・宅急便を利用するすべてのBtoB商取 ・アパレル、 雑貨、 食品、 印刷など (そのほ ・公序良俗に反しない業種全般 個人事業主 (メーカー、 卸を中心 (特に月数十万∼100万円程度の小口 引企業、 かの業種も対象範囲) に大手∼中小問わずに利用中) 取引の多い企業に適応) 取引金額に対して3%前後 (基本プラン) 初期登録料:1万円 月額管理料:1万円 集金代行手数料:3.0% 保証料:2.0% (非課税) 年間利用料:5万円 保証料:取引金額の3∼4.5% ・請求書の発行から代金回収・督促まで ・情報の流れ、 モノの流れ、 お金の流れの 代行 ・自社の販売管理などの基幹システムと すべてをワンストップで管理可能 ・要望に応じてセグメント・ターゲッ トにフォ 連携可能 ーカスしたダイレクトメールやアウトバウン ・バイヤーからの入金がない場合も販売 ド・コールなどによる購入者拡大のアプロ 代金を100%お支払い ・与信∼請求∼回収までをすべて代行 受発注業務、 ロジスティクス業務な ・個人事業主もバイヤー登録が可能 ・新規の顧客も事前申込不要で、 即日の ーチ、 どのアウトソーシングもワンストップで手配 ・審査時間は最短30分 掛け売りが可能 ・バイヤーの与信枠は30万∼500万円 ・個人事業主にも対応できるので、顧客 可能 ・長年の代引決済と宅急便で培ってきた (500万円以上も相談可能) 層が拡大 小口決済ノウハウを有しており、 BtoB商 ・Web上で決済が完結 ・支払遅延や貸倒での未回収を保証 取引における圧倒的なスピード納品、 業 ・加盟サプライヤーと会員バイヤーがボ ーダーレスに取引ができるマーケッ ト型 務リードタイム圧縮に適している ・仕入先の審査請求を販売者 (加盟店) ・ショッピングカートへの導入をスムーズ にする 「Paidカート連携サービス」 を提供 からのeメールによる申し込みに簡便化 ・企業間ECサイ ト構築サービスと多数連携 当サービスは、 あらゆる法人取引におい て、 “請求書による月末締め翌月末支払 い” の掛け売りを実現可能にする決済サ ービスです。最大の特徴は、業界で唯 一、顧客側からの書面などでの事前申 込の必要がないことです。事前申込のな い掛け売りは、 25%以上のニーズがあり ます。 このニーズに応え、取引に二の足 を踏んでいた新規顧客の開拓や、決済 条件が理由で他社へ流れてしまった休 眠顧客の掘り起しのお役に立てていた だければと思います。 販売者の皆さまに販売チャネル拡大、 未 回収リスクゼロ、 代金回収手間なしのサ ービスを提供。 また、 購入者の皆さまには 毎月まとめて一括後払い、 最長65日の 支払いサイト、 口座振替・銀行振込・コン ビニ払いから選べる支払方法を提供して います。 さらに、 販売者の皆さまには、 ご要 望に応じて国内最大級の法人データベ ースを活用したターゲット・リスト作成から ダイレクトメール、 アウトバウンド・コールな どで新規取引先拡大、 新規商圏拡大、 反復取引拡大のお手伝いも行います。 BtoBグループ http://www.netprotections.com/bto b/ [email protected] 03-4577-9630 流通決済事業部 http://www.yamatofinancial.jp/so/a nsin_pay.html [email protected] 0120-69-5090 月額利用料:1万9,800 円∼ サービス料:取引金額の1%∼ ・洗練されたユーザー・インターフェース (UI) ・意思決定を助けるビジネス・インテリジェ ンス (BI) 機能 ・ソーシャル・コラボレーション (SNS) 機能 ・モバイル (iPhone/ iPad) 対応 ・アプリケーションの拡張性 ・小額からの保証が可能 ・保証だけではなく早期支払いサービス (ファクタリング) も付与 Paid( ペイド) は、東証マザーズ上場の (株) ラクーンが提供する企業間取引向 企業間の商取引における決済に保証を け掛売決済サービスです。開始1年で 付けることで、安心を手にする。そして、 450社を超える企業に導入いただいて 万一の際の安心を手にするだけでなく、 います。個人事業主・法人を問わずバイ 現在の中小企業が置かれている資金調 ヤーを対象とし、 審査スピードが早く限度 達が難しい環境の中で、資金調達に変 額も広いため、 幅広い顧客とスムーズな わる早期支払いサービス (ファクタリン 決済が可能です。簡易に導入したい場 グ) が付与されていることが一番の大き 合や、 自社のB to Bサイトや基幹システ なポイントです。 ムと自動連携したい場合など、 企業のニ ーズに合わせて柔軟に対応できます。 Paid事業推進部 http://paid.jp/ [email protected] 03-6684-9505 営業部 http://www.iany.jp [email protected] 03-6661-2172 2013-2 201 49 ○ 3) 必要な「ヒト、モノ、カネ」 佐川急便(株)を中核とするSGホールディングス 経理担当部門のスリム化にも貢献 グループで物流決済事業やファイナンスサービスの 提供を手掛ける佐川フィナンシャルが2010年8月に提 企業間取引決済サービスの利用に当たって、新た 供を開始した「SAGAWA B2B決済サービス」は、初 な人的リソースは必要ない。それだけでなく、この 期費用や月額費用を必要としない手数料課金のみと サービスがBPO(Business Process Outsourcing)サー いう利用しやすさと、法人では最大500万円、個人事 ビスとしての側面も持ち、請求書発行や未回収時の 業主でも最大300万円という比較的余裕のある与信 督促などの作業を代行するものであることを考える 限度額設定により、企業間取引の活性化を強力にサ と、むしろ経理担当部門のスリム化に貢献するサー ポートするサービスだ。佐川急便の配送が伴うもの ビスであると言えよう。 であれば業種を問わずに対応しており、佐川急便セー また、新たな設備投資も必要ない。利用の申し込 ルスドライバーによる決済サービスのアフターフォ みをWebサイト経由で受け付けているサービスが多 ローや、物流と決済の情報をひも付けた複合的なサー いことからインターネット接続環境は必須であるが、 ビスを展開している点も大きな特徴である。 現状においてそのような環境が整備されていない企 eコマースを中心とする通信販売を対象に、コン 業はほぼ皆無だろう。 ビニエンスストアや郵便局、銀行での後払い決済を サービス利用の費用は、登録料、月間または年間 代行する日本初のサービス「NP後払い」で圧倒的な の利用料、および取引金額に応じた手数料というか 実績を誇るネットプロテクションズが2011年4月に提 たちで構成されているケースが多い。登録料、月間・ 供を開始した「NP企業間決済」 。この最大の特徴は、 年間の利用料は数万円程度、取引金額に応じた手数 業界で唯一、顧客側からの書面などでの事前申込の 料は1 ~ 5%程度に設定されている場合が多いが、提 必要がないことだ。これにより、あらゆる法人取引 供事業者によって若干の差異があるので、事前に十 において“請求書による月末締め翌月末支払い”の掛 分な比較を行い、自社の取引状況に適したサービス け売りが可能となり、その意味で取引に二の足を踏 を選択することが望ましい。 んでいた新規顧客の開拓や、決済条件を理由に他社 へ流れてしまった休眠顧客の掘り起しをサポートし (4) 主なソリューション ている。 ニーズの拡大に伴い 2000年ごろからサービス提供企業が増加 ヤマト運輸(株)を中核とするヤマトホールディン 現在、日本国内で提供されている主な企業間取引 ている「クロネコあんしん決済サービス」は、情報の 決済サービスとしては、佐川フィナンシャル(株)の 流れ、モノの流れ、お金の流れのすべてを一元的に 「SAGAWA B2B決済サービス」 、 (株)ネットプロテ 管理することを可能とするサービスだ。 「宅急便」を クションズの「NP企業間決済」 、ヤマトフィナンシャ 利用するすべてのB to B商取引企業、個人事業主に未 ル(株)の「クロネコあんしん決済サービス」 、 (株) 回収リスクゼロ、代金回収手間なしの決済サービス ラクーンの「Paid(ペイド) 」 、 ワダツミ(株) の「iAny を提供するだけでなく、要望に応じて、セグメント・ (アイエニー) 」 などが挙げられる。 50 201 2013-2 ○ グスグループで総合物流決済サービスの提供を手掛 けるヤマトフィナンシャルが2008年11月から提供し ターゲットへのダイレクトメールやアウトバウンド・ IT /アウトソーシング コールによるアプローチ、受発注業務、ロジスティ れるべきであり、それはサービス利用以前の新規取引 クス業務などのアウトソーシング業務をワンストッ 数、取引金額との比較によって容易に実施できるだろ プで手配できる点が大きな特徴である。 う。もちろん、サービス利用には一定のコストがかか 流通・決済・保証事業を手掛け、2006年4月には東 るため、新規取引の拡大量がコストに見合うものであ 証マザーズに上場も果たしたラクーンが2011年10月 るかどうかについても検証する必要があるが、その際 に提供を開始した「Paid」 は、アパレル、雑貨、食品、 にはサービス利用による経理担当部門のスリム化の成 印刷などの業種を主なターゲットとする企業間取引 果や、新たに獲得した顧客のLTV(Life Time Value= 決済サービスだ。最短30分という審査スピードを実 顧客生涯価値) なども考慮するべきである。 現しながら、30万~ 500万円という与信枠を提供して おり、バイヤーからの入金がない場合も販売代金を 100%支払うことを保証している。自社のB to Bサイ トや基幹システムとの自動連携など、企業のニーズ に合わせて柔軟に対応している点も人気を博してお (6) 有効活用のポイント 条件面だけでなく 対応品質の吟味も必要 り、サービス提供開始から1年で、450社を超える企 商取引において決済は非常に重要であるが、特に 業に導入されている。 商品提供事業者側にとっては、決済の利便性を提供 ファクタリング・手形買い取り・財務コンサルティ することは本質的な差別化要因にはなり得ない。従っ ング事業などを手掛けるワダツミが2012年6月に提供 て、リスクや手間をかけて決済の利便性を追求する を開始した「iAny」は、保証に加え、早期支払いサー ことは、得策ではない。企業間取引決済サービスの ビス(ファクタリング)を付与している点を最大の特 利用は、むしろ、コアな業務、例えば、付加価値の 徴とする企業間取引決済サービスだ。特に中小企業の 高い製品の開発や顧客企業が望む品揃えの実現など 多くが難しい資金調達環境に置かれている中で、売り にリソースを集中するという観点から、導入を検討 上げを早期に現金化できることは、財務状況を安定さ されるべきであろう。特に多数の小規模取引を積み せる上で大きなメリットであると言えるだろう。 重ねることにより成立するビジネスモデルにおいて は、今後、必要不可欠なサービスになっていくこと (5) 活用における効果の指標 新たに獲得した顧客のLTVなども 考慮した費用対効果の検証が 求められる も考えられる。 利用する上で注意すべきポイントとして、自社で実 施する場合と同等のレベルの代金回収業務が展開され ているかどうかという点が挙げられる。企業間取引決 済サービスを利用していようが、顧客企業にとって支 企業間取引決済サービスを利用することによるマー 払先はあくまでも商品提供企業であり、代金回収業務 ケティング上の最大のメリットは、前述の通り、新規 において不備があれば、それは商品提供企業の不備と 取引に伴う“決済”への不安を払拭し、新規取引の可 して認識され、取引中止といった事態をも招きかねな 能性を拡大することである。 い。従ってサービス提供事業者の選択においては、料 従って、サービス利用の効果は、サービス利用によ 金などの条件面だけでなく、顧客企業との対応品質な り新規取引がどの程度活性化されたかによって測定さ ども十分に吟味する必要があるだろう。 2013-2 201 51 ○
© Copyright 2024 Paperzz