当日配布資料

イギリス支配とアジアの社会変化
東京大学大学院人文社会系研究科
水島 司
[email protected]
I. 植民地支配以前の南インド社会
• 村の記録(次のスライド)=免税
地と手当率の網の目が、社会全
体を覆う
• 同じような様子が、近世インドの
ほぼ全域に広く見られる
ぼ全域 広く見られる
1
土地利用
植民地支配初期に作
成された史料
村落関係
の免税地
(旧)
村外者の免税
地(旧)
カースト別世
帯数
村外者の免税
地(新)
村落関係
の免税地
(新)
分配率の説明
『バーナード報告』
のページの例
分配率
手当(半々)
手当(脱穀
前)
手当(計量前)
手当の網の目:5種類の手当
1. 脱穀前に支払う
2 計量前に支払う
2.
3. 計量後に支払う
3a. 国家と耕作者が半分ずつ支払う
3b. 国家のみが支払う
これらの分配後の残りを
耕作者と国家(免税地の場合は免税地享受
者)が受領
2
表2.3.9. 脱穀前に支払われる手当の受手とその額
例:脱穀前に支払われる手当の受手と額
DUES PAID PREVIOUS TO TREADING THE CORN
C. M.M.
Artificers
職人
Potmaker
壷造り
C k
Cowkeeper
牛飼い
アンマンパダーリー寺院 Ommun Padari Pagoda
Barber
床屋
Washerman
洗濯人
パンチャンガ=ブラーミンPanjangum Braminy
ヴァイタヴェルティ=ブラVaithaverty Braminy
Yary Servant
貯水池管理人
イーシュヴァラム=ペルマ Eishverum & Permal Pagoda
Conicoply
書記
Cornmeter
計量人
Total
1.00.0
0.04.0
0 03 0
0.03.0
0.06.0
0.04.0
0.01.4
0.02.0
0.02.0
0.03.0
0.02.0
0.06.0
0.04.4
4.02.0
Note: C.M.M.- Cullum. Marakkal. Measure
1 Cullum = 12 Marakkals = 96 Measures
手当の受け手
• 床屋、洗濯人、大工、両替人、村書記、見回
り人 水飲み場 村の寺院
り人、水飲み場、村の寺院・・・・など、村の生
など 村の生
活に必要なさまざまなサービス(役割)を果た
す者や機関
• 町や県など、地域社会を超えたレベルの役人、
高名な宗教関係者、軍事関係者
高名な宗教関係者、軍事関係者・・・・など、
など、
広域にわたって何らかのサービス(役割)を
果たす者や機関
3
「手当」の特徴
1. 手当は、刈り取りから最終的な分
配ま
配までの各段階で、様々な職分を
各段階
様 な職分を
果たす関係者・機関に分配されて
いた
2. 村の総生産物が常に全体(100)
とみなされ、その一定割合が、
なされ
定割合が
様々な人々や機関、施設などに配
分されていた
計量以前に支払われる手当
C.M. M.
4.02.0
まず計量前に、
脱穀前、計量
前の2種の手
当を配分
1.11.4
6.01.4
計量後の生産物を100カッラムとした場合の分配比率
1st Share
34.08.6
47.03.2
13.02.0
4.10.0
残りから国家と国
家・耕作者が2種
の手当を配分
さらに残りから、この
村の場合、国家と耕
作者が3種の比率で
配分
脱穀前に支払われる手当
Dues Paid Previous to Treading the Corn
計量前に支払われる手当
Dues Paid Previous to Measuring the Corn
100.00.0
2nd Share
39.00.6
41.11.2
13.02.0
4.10.0
100 00 0*
100.00.0
3rd Share
43.05.0
35.07.0
13.02.0
4.10.0
耕作者の取り分
Cultivators' Net Share
国家 取 分
国家の取り分
Circar's Net Share
国家と耕作者が折半する手当
Dues Paid Half by the Circar & Half by the Cultivators
国家のみによって支払われる手当
Dues Paid by the Circar Alone
耕作者の取り分
国家の取り分
国家と耕作者が折半する手当
国家のみによって支払われる手当
耕作者の取り分
国家の取り分
国家と耕作者が折半する手当
国家のみによって支払われる手当
100.00.0*
註:
1. C.M. M. - Cullum. Marakkal. Measure
1 Cullum = 12 Marakkal = 96 Measures
2. * - 計算では100.00.0とならないが、その原因はおそらく計算間違い
であろう。計算間違いの例は、幾つかの村に見られる。
4
職分と手当の体制
1. 手当の受け手は、人々の日々の暮らしに必
要な様々なサ ビス(職分)を果たす者だけ
要な様々なサービス(職分)を果たす者だけ
でなく、寺院や軍事領主、役人など、在地社
会の外部の者も含まれていた
2. さらに、耕作者や国家までも、この手当の体
系の中で、自己の取り分を確保していた
前近世のインド社会の人々は、職分と手当
の体制の中で生きていた
ミーラース体制
• 職分と手当が結合→相続、売買、抵当さえ可
能な財産権として広く認識されていた
• この権利は、タミル語でカーニ、18世紀の植
民地資料ではペルシア語のミーラーシーと呼
ばれていた
• この職分と手当の体制=「ミーラース体制」
5
なぜ、このような分配システムが
成立したのか
• 「程良さ」のない、過大さと過小さの両極端だ
けの環境
• Capital intensive development vs. Labour
intensive development (ヨーロッパの資本集
約型発展対東アジアの労働集約型発展)
• そのいずれでもない南アジアのresource d
dependent development(資源依存型発
d
d l
(資源依存型発
展)?=さまざまなリスクに対応するために、
高度に複雑なシステムが展開
17‐18世紀の経済発展と政治混乱
1. インド綿布取引の増大
2. 植民地都市の急成長
3. 村と都市の間での農産物取引の拡大と村落
領主層の成長
4. 地域経済の自立化と政治権力の拡散
6
18世紀後半の政治混乱から
イギリスによる植民地支配の開始
カルナータカ戦争
(1744-61):ナワー
ブやニザームの従属、
フランスの敗退
政治的中軸の喪失
在地勢力の自立化
風見鶏化
マイソ ル戦争
マイソール戦争
(1767-69, 80-84,
90-92, 99)
イギリスによる植民地
支配の開始
イギリス東インド会社の
植民地行政の目的
• 度重なる戦争と膨大な軍事費負担→インド側
への債権増大→代償としての徴税権獲得
• 統治の目的=税収の確保
• 徴税政策の根幹=誰から、どの空間単位で、
どれだけの額を、どうやって?
幾つもの空間単位(ザミンダーリー、マハール、
村落、地片)、納税者(ザミンダール、村落領
主、ライヤット)、期間(短期、長期)、査定方
式(固定、変動)を組み合わせた制度を試行
7
初期の試行制度:ライヤットワーリー制と村落請負制
内陸の乾燥・低生産地域=ライヤットワーリー制(後述)
沿岸部の灌漑・高生産地域=村落請負制
村の有力者達が共同で村全体の税支払いの責任を
持ち、村民から徴収する
イギリス本国からの指令
ザミンダーリー制へ(1801-)
ザミンダーリー制
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•
ザミンダーリー制(間接統治):広
大な領域(ザミンダーリー)を入札
でザミンダールに所有させる。ザ
ザ
ダ
所有さ る ザ
ミンダールは、村々のライヤット
(農民)から地代を徴収し、政府
に入札した額の地税を支払う。
•
地税をきちんと支払えず破産す
を
払 ず破産す
るザミンダールが多く、失敗
•
ライヤットワーリー制へ
8
ライヤットワーリー制の特徴
1. ライヤットワーリー制:個々のラ
イヤットが、個々の地片に課され
た税を支払う
2. ライヤット=基本的には、個々の
地片を耕作する自営農
3. 国家と地片、国家とライヤットの
間にある在地社会や村落、村落領
主層などを排除(次のスライド参
照)
1.リソースからの地片の切り離し
• 空間単位として、ザミンダーリー、郷(マガン)、
村 地片など多様
村、地片など多様
• 空間の中にある様々なリソース(風、雨、水の流
れ、陽の光、土地の傾き・・・)の中から地片のみ
を切り離し、それに排他的な所有権を設定して
特権的な地位を与える=空間の切片
• 在地社会、村落のいずれもが、数百から数万の
地片へと分解され、社会単位としての役割を喪
失
9
2.中間者の権益剥奪
•
•
•
在地社会のリソースに対しては、様々な
人々や機関の権益が埋め込まれていた
→それら全てを分解し、個々の地片への権
益へと単純化していく
在地社会や村落全体に権益を有していた
領主層の権益を排除し、彼らを単なるライ
ヤット(=地片の所有者)へと変身させる
ミーラース体制の単位であった在地社会も、
村落リーダーの下で基本的社会単位となり
つつあった村落も、解体へと運命づけられ
る
ミーラース体制解体へ
• 手当を廃止し、地税に吸収
• サーヴィスカーストへの手当も廃止され、農民と
の関係は、個々の、あるいはコミュニティー間の
相互関係(=ジャジマニ制)に置き換えられる
• 免税地の一部は残したが、従来の地域的再生
産体制とは切り離された、個人的な財産として
扱う
ミーラース体制は、その手足を奪われ、解体
10
ミーラーシダールのカースト構成複雑化の意味
• 村々のミーラーシダールのカースト構成は複雑
化した
• 新たなミーラーシダールが参入していたことを示
す
• ミーラーシダールを中心とした村落のまとまりは、
崩壊過程にあ た とを示唆する
崩壊過程にあったことを示唆する
• その結果としての村落構造の激変を、二つの村
の例で見ておく
小結
• イギリスの植民地支配、特にそ
イギリ
植民地支配 特にそ
の最初期に導入された土地制度
=近世インドの人々の生き方、
社会体制を根本的に変化させる
ものだった
11
マレー半島での土地制度とその意味
• マレー半島でも、インドと同様に、イギリス支
配の下で 同様な地片分割が行われた
配の下で、同様な地片分割が行われた
• 但し、マレー半島の大半は人口希少な新たな
開発空間であったために、在地社会というよ
うなものは存在しなかった
• しかし
しかし、イギリスが導入した土地制度は、その
イギリスが導入した土地制度は その
後のマレー半島の歴史展開に、大きな意味を
もった
マレー農村での小農的土地保有の形成
1. 初期の土地割り当ては、大半が4エー
カー以下
2. 一つの保有の地片数は、大半が1な
いし2
3. 植民地支配の最初期に、小農的土地
保有が形成される
12
ゴムブーム以降の新たな傾向
1.従来の未開発地域への中国人、
インド人など、非マレー人の進出
2.マレー人の土地の抵当化→ナッ
トゥコ タイ チ ティヤ ルの登
トゥコッタイ・チェッティヤールの登
場
ナットゥコッタイ・チェッティヤール(N.C.)
• 南インドで最も有力な金融コミュニティー
• 植民地時代に、東南アジア全域にネット
ワークを拡大する
• 南インドでのインド人による工業進出の
先駆
• 本拠はマドラス管区の Pudukottai State
にあるNattukottai 地域(地図参照)
13
マレー人の破産を恐れた植民地政府の対応
マレー留保地法施行
1913年マレー留保地法
• マレーシア保留地でのマレー人から非マレー人へ
レ シア保留地での レ 人から非 レ 人
の土地移動禁止(3年以内は除く)
1933年マレー留保地法
• 完全に禁止
• マレー人の間での取引は続くにせよ、実質的には、
マレー人以外への土地所有が生じなくなったという
意味で、共同体的土地所有が植民地支配下で新た
に編成されたことを意味
政策結果
1. その後、小農的土地保有が継続
2. 他方、マレー農村には資金が行か
ず、マレー農民が非農業部門に進
出することを極めて困難にした マ
出することを極めて困難にした→マ
レーシア社会の分化をもたらす
14
まとめ
•
•
•
•
•
•
•
アジアの多くの地域は、18世紀から19世紀にかけてイギリス、フランス、オラン
ダ、アメリカ、スペイン、ポルトガルなど、様々な西欧諸国の植民地支配を受けた。
それらの中で、最も広い地域を支配し、「帝国の平和」を導いたのはイギリスであ
る。
その支配下では、植民地統治の効率化を目指して様々な制度が導入され、社会
が再編されていった。
その中でも、最も重要な役割を果たしたのは、人々の生きる空間にあり、それま
で誰のものでもあり、かつ誰のものでもなかった様々なリソースを区切り、そこに
単一の排他的な権利を設定するという考え方である。
インドの場合、その考え方が最も端的に示され、実行されたのが土地制度であり、
それによって、インド社会は根本的な変容を遂げることになった。
他方、マレー半島の場合、在地社会というものが存在せず、そこに導入された土
地制度 下
地制度の下で、地片を担保とした金融が広汎に展開し、マレー農村は根本的な
地片を担保とした金融が広汎に展開し
農村は根本的な
変化を遂げるかに見えたが、その初期の段階で、政策により、土地の実質的な
非商品化とマレー人共同体によるいわば共同体的な土地所有へと再編され、そ
の結果としてマレー人社会の固定化がなされた。
このように、イギリスの植民地統治政策は、アジア社会に大きなインパクトを与え
たと言うことができ、修正主義歴史観はこうした事実を無視した歴史観であるとい
うことができよう。
参考文献(水島)
1. 「移民・コミュナリズム・国民統合―マレー半島のインド人」 『移動の
地域史』山川出版社 1998.
2. 「空間の切片」 杉島敬志編 『土地所有の政治史』 風響社 1999.
3. 「多民族国家と地方都市」坪内良博編著 『地域形成の論理』 京都
大学学術出版会、2000.
4. 「マラヤ―スズとゴム」『岩波講座東南アジア史6 植民地経済の繁栄
と凋落』岩波書店、2001.
5. 「イギリス植民地支配の拡張とインド人ネットワーク」『現代南アジア6.
世界システムとネットワーク』東京大学出版会、2003.
6. 「インド近世をどう理解するか」『歴史学研究』 821号 2006.
7. 「都市の成長と右手・左手の抗争」『南アジア史3 南インド』山川出版
社 2007.
8. 「中世的世界から近世・近代へ」「イギリス東インド会社のインド支配」
『南アジア史2 中世・近世』山川出版社 2007.
9. 『前近代南インドの社会空間と社会構造』東京大学出版会、2008.
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