●研究所めぐり テルモ株式会社湘南センター テルモ株式会社研究開発本部 CV 開発 数野 公正†,板持 洋介†† Kimimasa KAZUNO, Yosuke ITAMOCHI 界の開発拠点と連携することで開発領域の拡大やスピード 湘南センター 1. アップを推進している。また,海外グループ会社での開発 当社は,北里柴三郎博士をはじめとする医学者らの手に を強化し,海外諸国の医療ニーズにマッチした開発活動を よって,1921 年に設立された。「医療を通じて社会に貢献 推進するとともに,世界規模での技術交流を行い,それぞ する」という企業理念を掲げ,体温計から始まり人工臓器 れの開発特性を生かした新しい技術価値の創造にチャレン の製造・開発まで,医療の安全を守るための製品の普及, ジしている。 高度医療機器の開発へとステージを広げてきた。 この他,身体に負担の少ない診断・治療機器,心筋の再 湘南センターは,神奈川県湘南地区西部の中井町に位置 生医療,新興国向け機器開発など,コア技術の応用から新 し,周辺は北に丹沢山塊,西に富士山を望む緑豊かな自然 しい領域開発に至るまで,様々な次世代技術の開発を行っ 環境が広がっている。1990 年に,研究開発の拠点として研 ている。一方,富士宮工場・愛鷹工場・甲府工場といった 究開発センターが,薬事・臨床開発・知的財産部門などの 国内工場とも力を合わせ,海外グループ会社との活発な交 拠点として情報管理センターが設置された。また,隣接敷 流や共同開発を通じて,独自のモノづくりに取り組んでい 地に 2002 年,総合医療トレーニングセンターとしてテル る。 モメディカルプラネックス(後述)がオープンした。この ように,当社の開発から医療技術向上に係わるトレーニン 3. Pranex) グ施設までが湘南センターに集結している。 テルモメディカルプラネックスは,新たな医療技術の創 研究開発センター 2. テルモメディカルプラネックス(Terumo Medical 造と普及を目指して設立された,総合医療トレーニング施 本センターは,研究・開発・評価という 3 つの機能を柱 設である。病院や居宅と同等の医療環境を再現した空間で, として成り立つ。それぞれが機能を発揮し,連携を行いな 医療従事者の実践的なトレーニングや,商品開発のための がら,人にやさしい医療の実現へ向けて,新たな医療機器 コラボレーションが行われている。施設の名称である「プ や医薬品の開発に取り組んでいる。 ラネックス(Pranex)」は,医療関係者が行う「医療手技の 日本の研究開発センターを核に,世界から広く求めた技 実践・実習」を意味する「Practice」と,研究開発センター 術シーズを発展・融合させながら,次世代の技術開発を進 の別館を表す「Annex」を合わせた造語で,同施設設立の目 めている。近年では mergers and acquisitions(M&A)や提 的を表現している。2002 年のオープンから,のべ 8 万人を 携を通じて開発のグローバル化を進め,米国・欧州など世 超える医療関係者に訪れて頂く施設となった。 4. ■著者連絡先 テルモ株式会社研究開発本部 CV 開発 (〒 259-0151 神奈川県足柄上郡中井町井ノ口 1500) E-mail. † [email protected] †† [email protected] 254 研究紹介 1) 人工肺システム 各種心臓疾患,胸部大動脈瘤の手術は,生体の肺,心臓 への血流を一時的に遮断して行う。手術中これらの機能を 人工臓器 42 巻 3 号 2013 年 代行するため,静脈血をガス交換して動脈血にする人工肺, のトップメーカーであったバスクテックの技術および 30 そして全身への血流を確保するための血液ポンプからなる 年以上の実績を融合させて,新しい製品を世の中に送り出 人工心肺システムが用いられている。 す環境が整った。 近年では高いガス交換性能,低充填量,加工性,使いや 人工血管のようなリスクの高い埋込型医療機器の世界に すさといったことから,一般的な開心術にはポリプロピレ あって,なかなか新素材を取り入れた人工血管が出てこな ン製の多孔質中空糸膜を使用したホローファイバー型人工 い中,テルモは開発を進めていた血液シール性能を有した 肺が主流となっている。 生物由来タンパクを使用しないエラストマー素材を取り入 我々は 1981 年に世界で初めて,多孔質中空糸を用いた れ,これまで以上に術中・術後の漏血低減を追求した大口 膜型人工肺,キャピオックス ®Ⅱを世の中に送り出した。 径人工血管トリプレックス ® を開発して世の中に送り出し また,高い品質と安定性を確保するために,ポリプロピレ た。これは,テルモの素材・技術と,バスクテックのグロー ン製多孔質中空糸膜を自社で開発し,早い段階から一貫生 バルに製品を提供してきた長年の実績・経験がもたらした 産を行っている。市場のニーズや時代に合わせて,新たな ひとつの成果であるといえる。 チャレンジを行いながら新商品を開発し続け,現在では安 テルモの研究開発本部では,素材の選定・評価,加工成 全性を高めた動脈フィルター一体型人工肺,キャピオック 形を行うチームから,生物学的な安全性・機能性,物理化 ス ®FX を 2008 年に販売開始し,全世界に供給している。 学的な性能を評価する評価チームまで,素材を検討する キャピオックス ® Ⅱを全世界に供給開始し,世界初の多 様々なチームと,医療機器を開発するチームとが連携して 孔質中空糸膜を用いた人工肺が誕生してから,30 周年を迎 開発を進め,さらに試作や製品製造を担うチームにより試 えることができた。現在では人工肺システムのみならず, 作・製造が行われており,実際に透析用人工血管グラシル ® percutaneous cardio pulmonary support(PCPS)補助循環シ はここで製造されている。 ステムのさらなる進化を目指し,日々研究を進めている。 これまでに実績を積んできた素材・技術をベースに,さ 2) 人工血管 らに医療現場で使いやすく,また実現されていない領域に テルモは,心臓・血管治療分野での事業拡大のため, 使用可能な医療機器を開発し,世の中に貢献していきたい 2002 年に人工血管のトップメーカーである英国バスク と考えている。 テック社を買収した。それまでテルモが 10 年以上独自に 開発を進めていた人工血管の技術と,既に世界で人工血管 本稿のすべての著者には規定された COI はない。 人工臓器 42 巻 3 号 2013 年 255
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