"Shunka Shuto" 太田 康雄 Mr. Ota, Yasuo

散歩の効用
太田 康雄
Ota, Yasuo
Executive Officer for the Americas, Japan Bank for International Cooperation
Essay from Board Member
ニューヨークに赴
人々の喧騒の中にいたとは、到底信じら
らず知らずのうちにストレスが溜まり、
任してもうすぐ 2
れない。この緑の中をしばらく歩き、東
些細なことにイライラすることもある。
年になる。住まい
に行くと、メトロポリタン美術館。ここ
このような時、セントラルパークの緑の
はミッドタウンで、
までで、約 1 時間。私の散歩の半分が終
中を 10 分も歩くと、頭の中はカラッポ
セントラルパーク
わり、年間会員パスで美術館に入り、部
になり、イライラもどこかに消えてしま
ま で 徒 歩 10 分 位
屋の中央にあるベンチに腰を下ろして、
う。そのまま歩き続けると、身体の中か
のところ。仕事の関係で中南米に出張す
印象派の絵などを眺め、そして、またセ
ら活力が出てきて、気持ちが前向きにな
ることが多いが、ニューヨークにいる週
ントラルパークを通って、アパートに戻
る。また、それまで悩んでいたことも、
末は、出来るだけ、セントラルパークを
る。
散歩をしながら、ふと考えると、思わぬ
アイデアが浮かんでくることがある。こ
歩くことにしている。たいていはセント
ラルパークの南から入り、馬車や人力車
休日に散歩をするようになったのは 10
れも散歩の効用である。重要なことはい
を横目に見ながら、北に向う。そういえ
年ほど前からであろうか。人間ドックで
ろいろな角度から考えた方が良いが、机
ば、セントラルパークの馬車はどうなる
運動不足を指摘されたことがきっかけ
の上では無意識のうちに視野が狭くなり
のだろうか。動物虐待ということで廃止
だったように思うが、よくは覚えていな
がちであり、電話やメールで思考が中断
すべきという議論もあるようだが、馬車
い。学生の頃に運動をやっていたことも
することも多い。3つ目の効用は、やは
に乗って楽しそうにしている家族連れな
あって、ジョギングをはじめたのだが、
り、運動不足の解消であろうか。ただし、
どを見ると、与えられた仕事をきちんと
会社に入って体重が増えたせいか長続
私の場合、これまでのところ、残念なが
こなし、御者や観光客から大切にされて
きせず、すぐに散歩に切り替えた。自宅
らダイエットの効果は殆どみられない。
いるのであれば、馬の方も気分は悪くあ
近くの井の頭公園がいつもの散歩コース
るまい、などと勝手な想像をしながら、
で、気が向いた時は、井の頭線、京王線
散歩好きの私としては、ニューヨークに
ぶらぶらと足を進める。シープ・メドウ
と乗り継いで、高尾山まで行き、一日中、
セントラルパークがあって、本当に良
の東側を通って、ベセスダの噴水まで行
山の中を歩いた。
かった。あとどれくらい、ニューヨーク
で勤務できるかはわからないが、これか
き、池沿いに少し歩いて、森の中に入る。
ここが、私の最もお気に入りの散歩道だ。
散歩の効用についてはいろいろな人が紹
らも週末はセントラルパークで散歩をし
人も余り多くなく、静かに森林浴を楽し
介しているが、私にとっての散歩は、ま
よう。そして、些細なことは気にせず、
める。日本の公園と違って、アップダウ
ずは気分転換とストレス解消である。20
一日一日を大切にしながら、自分なりの
ンがあるのも嬉しい。ついさっきまで、
年近く前にボストンで1年過ごしたこと
道を歩んでいこうと思う。
車のクラクションと肩がぶつかりそうな
はあるが、海外駐在は今回が初めて。知