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オーストラリアにおける駐在員
の個人所得税申告について
2016 年 6 月
オーストラリア国税庁(ATO)が去年8月に発表した「ATOと移民局による情報の共有
化」では、2013/14年度から2016/17年度の4年間にわたりデータ・マッチング・プロ
グラムが行われることになりました。これに伴い、一時滞在ビザ保有者の雇用におけ
る源泉徴収やフリンジ・ベネフィット税だけでなく、個人所得税申告書税務における遵
守義務を正しく管理していることなど、雇用におけるコンプライアンスの重要性が高ま
っています。ここでは、オーストラリアにおける駐在員に係る給与事務においての留意
点にふれながら駐在員の所得税申告について解説します。
給与所得者の納税義務について
日本では、給与支払者が給与所得者の年末調整をしている多くの場合、確定申告を
必要としないため、あまり所得税申告についてなじみがない人が多いのではないでし
ょうか。(前年度2014年度分の日本における確定申告者数は6人に1人の2,139万
人だったのに対し、オーストラリアでは約2人に1人の1,296万人が所得税申告をして
います)。
一方、オーストラリアでは年次源泉徴収明細書(Annual PAYG Payment Summary)
を給与支払者より受け取った場合、課税年度(毎年7月から6月末まで)が終了後、
10月31日までに所得税を自己申告する義務が発生し、税金の還付を受けるまたは
納付することになります。ただし、タックス・エージェントが代理で個人所得税申告の作
成及び提出を行う場合は通常申告期限が延長されます。
なお、給与所得者の所得税申告は個人の義務となりますが、給与支払者にはオース
トラリア の 課税対象となる給与から所得税を源泉徴収し納税する義務がありま
◆人事担当者へのポイント
当局のデータ・マッチング・プログラムの導入に伴い雇用における的確な源泉徴収の重要性が高まっている
ことや過少徴収(または海外給与分の未徴収)した場合に会社が負担する駐在員の個人所得税だけでな
く、それに対する追加コスト(フリンジ・ベネフィット税)、そして PAYG 源泉徴収及び納付義務に違反があった
場合の延滞税や罰則金、そして会社の取締役にも責任が問われることに注意しなければなりません。
オーストラリア納税者番号
また、オーストラリアでは納税者番号(Tax File Number、TFN)を用いて、所得税申告や納税手続きを行います。
TFNを通知しなかった従業員に対しては、雇用者は支払給与に対して49%(個人所得税最高税率47%とメディケ
ア税2%)のPAYG源泉徴収税を徴収する必要があります。
◆駐在員へのポイント
オーストラリアの銀行で口座を設ける場合も、金融機関に対して TFN を提出する必要があります。提出しな
い場合、利子所得に対して最高税率で源泉税が徴収されます。また、赴任期間が終わり日本へ帰国される
場合も非居住者になる旨を金融機関へお知らせし、非居住者に対する源泉徴収税率の 10%が適用される
ことで当該所得について別途申告義務はありません。
税務上の居住者区分及び課税率
オーストラリアの個人所得税制上の観点から、居住区分には「居住者」、「一時居住者」及び「非居住者」の3つが
あります。それぞれ、事実関係によって判断されるため、納税者を取り巻く状況の変化によって税制上居住区分
が変わることもあります。また、居住区分によって、図表1のように課税対象所得及び図表2と3の通りに税率が
決まります。なお、日豪租税条約に定められる免除規定の用件を全て満たすものについては、オーストラリアで
の所得税の納付義務が免除されます。
■ 税務上の居住者区分(図表1)
納税義務者
課税対象所得
税率
居住者
全世界所得
累進課税(図表2)
一時居住者※2
豪州源泉所得及び全世界勤労所得
同上
非居住者
豪州源泉所得
累進課税(図表3)
※2:短期滞在ビザ(例:サブクラス457)で赴任されているほとんどの駐在員に適用されますが、配偶者または本人が社会保
険規定上オーストラリアの居住者とみなされる場合(例、永住ビザや特別保護カテゴリー・ビザを保有する場合)は適用されな
いため十分に留意が必要です。
◆駐在員へのポイント
駐在員の方で、短期滞在ビザから永住ビザへの切替を検討することがあります。永住権への切り替えを行った
場合、税制面においてどのような影響を及ぼすのか(全世界所得課税やメディケア・レビーとメディケア・レビー・
サーチャージの支払義務など)についても検討が必要です。
オーストラリアにおける駐在員の個人所得税申告について
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■ 2015/16 年度居住者及び一時居住者の税率(図表 2)
課税所得
累進課税
税額
$0~$18,200
なし
なし
$18,201~$37,000
19%
$18,200 超の範囲につき$1 当たり 19 セント
$37,001~$80,000*
32.50%
$3,572+$37,000 超の範囲につき$1 当たり 32.5 セント
$80,001~$180,000
37%
$17,547+$80,000*超の範囲につき$1 当たり 37 セント
$180,001~
47%*
$54,547+$180,000 超の範囲につき$1 当たり 47 セント
※2016/17年度の連邦予算案の施策には所得税率32.5%の所得税基準枠を2016年7月1日より8万ドルから8万7,000ド
ルまで引き上げることや、18万ドルを超える課税所得に対する時限的2%の予算均衡化税は17年6月30日をもって廃止する
改正点が含まれています。上記の税率には2%のメディケア・レビーは含まれていません。民間保険に加入していない個人に
対して発生するメディケア・レビー・サーチャージ(健康保険税課徴金)も含まれていません。
■ 2015/16年度非居住者の税率(図表3)
課税所得
$0~$80,000
$80,001~$180,000
$180,001~
累進課税
32.50%
37%
45.00%
税額
$1 当たり 32.5 セント
$26,000+$80,000 超の範囲につき$1 当たり 37 セント
$63,000+$180,000 超の範囲につき$1 当たり 45 セント
◆人事担当者へのポイント
オーストラリアでは従業員が年度期間中に赴任または帰任した場合は同課税年度内において、「居住者」と「非
居住者」の期間の両方にまたがるため、給与・賞与を支給する時点において従業員の税務上居住者区分に従っ
て、「居住者」または「非居住者」に対する源泉徴収税率をそれぞれ適用しなければなりません。また、グロスア
ップ精算を行うことで源泉徴収税の過払いを防ぐことが望ましい。
主な所得控除及び税額控除項目
■経費控除
オーストラリアにおいては、日本のように給与所得控除という一律の控除項目はありませんが、必要経費(Work
Expenses)として控除を認められるためには「課税所得の獲得に係る支出または損失」かつ「その性質が資本的
または私用目的でないこと」が必要条件となります。
一般的に、業務随行のために掛かる経費などで、会社より立替精算を受けていないものについては所得控除の
対象となります。ただし、出張に同伴した家族のための旅費などは私用目的と見なされるため、必要経費として
控除が認められません。
また、控除経費が合計300ドルを超える場合には、その控除額を証明するため領収書などの書類が必要です。
※旅費に関しては、上記に加え、連続6泊以上を伴う場合には、行われたビジネスの「性質」、「日付と時間帯」及び「行われた
場所」などの詳細が記載された日誌のような記録を残さなければならないことがあるため、注意が必要です。
オーストラリアにおける駐在員の個人所得税申告について
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◆駐在員へのポイント
駐在または現地採用(永住者)の雇用形態に関わらず、業務に直接関連する情報誌や専門誌などに掛かる
定期購読の費用は必要経費として控除が認められます。また、万一病気やけがになった際に収入を保障して
もらうために加入する保険に関しても、一部の保険費用については控除が認められる場合があります。登録
されているオーストラリアの慈善団体への寄付、個人の税務申告に関連して発生する経費も控除することが
できます。
■人的控除(税額控除)
経費控除以外に、所得税負担額を緩和するものとして、人的要素などを考慮する税額控除項目があります。それ
ぞれに特定条件や調整後課税所得(Adjusted Taxable Income, ATI※)の制限が設けられているため、全ての
納税者に適用されるものではありません。下記に、いくつかの税額控除項目を取り上げます。
※年間調整後課税所得額(ATI)とは、個人の課税所得の他にReportable Fringe Benefits(調整後額)、退職年金(雇用者
申告対象分及び個人控除額分)拠出額、特定非課税政府補助金、特定非課税海外所得、投資純損失額(金融と不動産投資)
や養育費などを合算した収入審査のための指標を指す。

低所得者控除(最大控除額445ドル)

医療費控除(19/20年度以降当該項目は 適用できなくなります)
扶養(障害・介護)者税額控除
プライベート健康保険控除


※人的控除項目において、低所得者控除項目以外は一時居住者に適用しません。
税額控除項目
低所得者控除
税控除額
(2015/16)
$445
医療費控除
(2019/20 年度
以降当該項目は
適用できなくなり
ます)
補填された金額を
差し引いた純支
出額の最大 20%
扶養(障害・介護)
者税額控除
$2,588
豪州個人健康保
険控除
支払保険料の最
大 37.72%まで
特定条件内容
年間課税所得が$37,000 以下の場合は税額控除全額適用。$37,001 から
$66,667 未満の所得に対しは、$1 ごとに 1.5 セントの税額控除額が減額されます。
※実質年間課税所得$20,542 までは所得税が掛かりません(通年居住者の場合)
障害者補助費または介護費、並びに所定老齢者介護費を対象に、扶養家族構成と年
間調整後課税所得の基準に従い、医療費の純支出が一定額を上回った場合のみ
※家族構成が配偶者と 12 歳の子供一名、かつ調整後課税所得額が$180,000 以
下の場合は、純支出額が$2,218 を超えた金額に対して 20%の税額控除が認めら
れる
所定障害者または所定介護者を扶養している場合のみ、対象扶養者一名につき最大
税額控除可能額
※調整後課税所得が$100,000 以下が条件
納税者の年齢と扶養家族構成に従い、それぞれ調整後課税所得の条件が設けられて
いる
※家族構成が配偶者と 12 歳の子供一名、かつ納税者が 65 歳未満の場合、最大
27.82%までの保険料控除が認められる(夫婦合計調整後課税所得額が$180,000
以下の場合)
◆21 歳未満、21-25 歳 full time study
その他の留意点
■スーパーアニュエーション(退職年金)
日本の厚生年金保険の場合、将来公的年金を受けるため従業員が会社と保険費を折半して給与から拠出しま
すが、オーストラリアでは、雇用主が従業員に代わって給与の9.5%をオーストラリアの基準に準拠する退職年金
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基金に対して退職年金保証料(Superannuation Guarantee Charge、SGC)を拠出する義務(強制退職年金加
入制度)があります。この拠出率は21/22税務年度より10%となり、その後25/26税務年度までの間、徐々に
12%に上昇します。
ただし、日本とオーストラリアは2国間社会保障協定を締結していることから、雇用者はオーストラリアで就業する
日本人駐在員の日本での年金拠出を継続して行い、派遣前に日豪社会保障協定厚生年金保険適用証明書
(Certificate of Coverage)を申請し、入手することによって、オーストラリアでのスーパーアニュエーション制度
への拠出義務の免除を受けることができます。
また、上級経営幹部として任命される駐在員についても同制度において免除措置があります。
◆人事担当者へのポイント 当該免除措置が受けられない場合、駐在員(一時居住者)のために拠出した積立
金については、本人がオーストラリアを出国しビザが無効になった上、退職年金出国脱退一時金(Departing
Australia Superannuation Payment)を申請し本人が払戻しを受け取ることができます。
■メディケア・レビー(健康保険税)
税務上居住者とみなされる個人は一般的にメディケア・レビー(2%)が課税されます。また、課税所得などが一
定基準を超え、かつ十分にプライベート健康保険に加入していなかった場合は、メディケア・レビーに加え、メディ
ケア・レビー・サーチャージ(最大1.5%)がそれぞれ課税所得額などに応じて算出され課税されます。
ただし、一時居住者ビザでオーストラリアで就業している日本人の場合、通常メディケア・レビーの免除を受けるこ
とができます。免除を受ける 条件とし て、毎年年度末後にメディケア資格証明書( Medicare Entitlement
Statement)を申請する必要があります。
メディケア資格証明書とは、メディケアの受給資格がないためにオーストラリアの税務申告においてメディケア・レ
ビーの免除を受けられるということを確認するための書類です。
◆人事担当者へのポイント メディケア資格証明書は所得税申告の際にメディケア・レビーの免税申請のため
に必要とし、ATO によって免除が認められた場合還付金として受け取れます。メディケア資格証明書の申請
を行う前提を事由に支払給与に対する PAYG 源泉徴収税率に含まれる 2%のメディケア・レビーの徴収義務
が自動的に免除されることではありません。
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+61 2 8295 6247
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Human Capital-Employment Taxes
+61 2 9248 9325
[email protected]
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Partner
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Adelaide
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諸貫 健太郎 Kentaro Moronuki
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