オーストラリアのビットコイン取引課税

2014 年 11 月
ジャパン・ビジネス・サービス
ニュース・レター
オーストラリアのビットコイン取引課税
オーストラリア税務当局(以下、ATO)は2014年度の税務申告シーズンに向けてビット
コインの税務上の取扱いに関するガイドライン及び税務通達草案を発表しました。ビット
コインは通貨でなく資産であるというATOの見解は諸外国の税務当局も共有しているも
のですが、ATOの通達草案はまだ不明瞭な部分を残しています。ここでは、ビットコイン
取引の課税についてATOの提案する税務上の取扱いを、代替案やアメリカとイギリスに
おける取扱いを通じて説明します。なお、執筆時においては日本の税務当局によるビッ
トコインの公式な税務上の取り扱いは発表されていません。
オーストラリアにおけるビットコインの流通
裕子カーンズ
EY 税務ディレクター
ジャパン・ビジネス・サービス
オーストラリア登録税理士。2006
年EYシドニー事務所入所。オー
ストラリアにおける法人税務申告
代行や税務調査対応、そして
M&A、グループ再編、事業の設
立・売却などに関わる税務アドバ
イスの提供を通して日系多国籍
企業のお客様のオーストラリアで
の事業をサポート。
ビットコインは暗号化されたデジタル通貨であり、IT技術によりその生成が制限され、
また、 流通においてもIT技術によりその管理が行われています。国の中央銀行による
規制はないものの、本質的にオンライン通貨として取引が行われており、コインデスク
(www.coindesk.com)の調査によるとその流通額は2014年9月30日現在で約50億米
ドルにまで増加しており、また、コインジャーのウェブサイト(www.coinjar.com)ではオー
ス ト ラ リ ア に お い て 、 約50万 人 の 利 用 者 が い る と 報 告 さ れ て い ま す 。 「ABA
Technologies」は既にシドニー、メルボルン及びキャンベラにビットコインATMを設置して
おり、2016年末までに100台以上を設置する予定としています。なお、当初はビットコイ
ンを歓迎する主要金融機関もありましたが、現在ではオーストラリアの銀行各行は距離
を保っています。
通貨なのか? それとも外国通貨なのか?
ビットコインは仮想(バーチャル)通貨と称されていますが、その特徴は一般的に認可
されている通貨とは大きく異なります。例えば、その価値は金貨や法定通貨により裏書
されているわけではなく、あくまでも市場で取引当事者が付するものとなっています。ビッ
トコインはデータを「採掘する」プロセスにより得られますが、市場流通総数は2,100万と
恣意的に上限が決められています。オーストラリアの税法上「通貨」は定義が無いため、
規定の意図や背景を考慮し、その言葉の通常の意味に基づいて解釈する必要がありま
す。また、税法上「外国通貨」として認められるためには、まず「通貨」であることが必要
です。
ATOは、下記の2件の判例を引用し、ビットコイン
は通貨ではないと判断しました。
▶現状のビットコインの一般社会における利用や
受け入れ状況はビットコインが普及しているという
のには十分でない[Moss v. Hancock [1899] 2
QB 111]
▶流通貨幣として一般的に認められていると言え
な い [Travelex Limited v. Commissioner of
Taxation [2008] 71 ATR 216]
上記が、ATOがビットコインを通貨としては認め
ず資産として取扱うこととした根拠であり、この判
断に基づき税務上の取扱いを提案しています。し
かし、この考え方が少なからず短絡的であると言
えなくもなく、例えば、ビットコインまたはほかのデ
ジタル通貨がより市場で受け入れられ流通した場
合、その時点でまたその税務上の取り扱いの見
直しが必要となるのでしょうか?
現在提案されているオーストラリアにおけ
る税務上の取り扱い
ATOが発表したガイドラインおよび税務通達に
おける税務上の取り扱いは以下の通りです。
▶ビットコインは税務上、外国通貨ではなく資産
(CGT対象)として取扱う。通常の事業活動として
の売買若しくは交換のために保有している場合に
は、棚卸資産として取り扱うこととなる。
▶原則として、個人においては事業を行っていない
限りビットコインによりモノやサービスの対価を支
払ったとしても、所得税及びGSTの対象とはならな
い。また、その原価が1万豪ドル以下であれば、
キャピタル・ゲイン(ビットコインの購入時の時価と
売却時の時価との差額)は課税対象とはならない。
▶法人はビットコイン取引額を通常の収入の一部
として記帳することが求められ、ビットコインを提
供した場合にはGSTの対象となる。また、モノおよ
びサービスの対価としてビットコインを受け取った
場合においてもGSTの対象となる。▶事業としてビ
ットコインの採掘を行う場合には、その収益に対
応する採掘費用は損金として取り扱われることと
なる。
▶ビットコインを給与の支払いに使用する場合には、
フリンジ・ベネフィット税の対象となり得る。
▶取引が課税対象となる場合には以下の情報を
保存する必要がある。

取引日

豪ドル換算額
オーストラリアのビットコイン取引課税

取引内容

取引の相手(ビットコイン・アドレス)
この場合の取扱いは・・・? そして、税務
上の取扱いの代替案
しかし、上述のATOの見解においては、ビットコ
イン取引時における時価の変動から生ずる利益
若しくは損失の取扱いは明確にされていない部分
もあります。
例えば、法人がその商品の対価としてビットコイ
ン(販売時の時価800豪ドル)を受取り、その後、
そのビットコインを使用する場合に発生しうる問題
を考えてみます。 対価として受取った800豪ドル
を数週間後に仕入の支払いとして使用する場合
に、その価値が1,000豪ドル又は500豪ドルに変
動している可能性があります。 この使用時に発
生する200豪ドルの利益または300豪ドルの損失
についての具体的な税務上の取扱いは明確にさ
れていません。
さらに、ビットコインを複数回にわたり購入し、そ
の後、使用する場合におけるATOの見解は、その
複数あるビットコインのうち、その使用したビットコ
インの購入時の価格(=時価)をその都度把握す
るよう求めており実務上非常に煩雑な処理になり
うる可能性があります。
代替案として、税務においてはビットコインを外
国通貨として取扱い、外国通貨と同様の税務処
理を行うべきであるとの見解があります。この方
法によれば、その時価の変動から生ずる利益若
しくは損失の処理方法は、特定のビットコインにつ
いてその保有目的が販売目的若しくは投資目的
(販売目的であれば通常の収益、投資目的であ
ればCGTの対象)による判断によらないため、より
明確であると考えられます。
アメリカ及びイギリスにおけるガイドライン
アメリカ内国歳入局(IRS)は2014年3月に、ビッ
トコインを含むデジタル通貨に対する税務上の取
扱いを質疑応答の形で発表しました。そこでは、
デジタル通貨は法定通貨として認められず税務
上は資産として取り扱うべきである旨が説明され
ています。そして、その取引から発生する利益お
よび損失は、その保有目的(販売用か若しくは投
資用か)により判断されるとしています。
UK HMRC Policy paper – Revenue and
Customs Brief 9 (2014)によると、イギリスにお
いてはビットコインの区分について一概に定義す
ることをせず、それぞれの取引実態を考慮しケー
ス・バイ・ケースで判断することとしており、法人税に関しては、通貨の
為替変動より生ずる利益または損失は課税所得に含まれ、仮想通貨
の税務上の取扱いは外国為替換算および金銭貸与に関わる規定が適
用されるとしています。
ATOの最終見解の発表日は未定
ATOの税務通達草案に対するパブリック・コメントは既に2014年10
月3日で締め切られていますが、最終通達の発表日は未定です。ただ
し、2014年10月2日に発表されたオーストラリア政府の上院経済参考
委員会(Australian Senate Economics References Committee)によ
るビットコインを含めたデジタル通貨の効果的な規制体制に関する調査
の報告書は2015年3月が提出期限となっています。
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