政策アセットミックスの重要性~90%と40

2010 年 5 月 19 日
R&I レポート
vol.14
政策アセットミックスの重要性~90%と 40%~
年金事業部
チーフアナリスト 舎利弗 孝通
いうまでもなく、政策アセットミックスは、年金基金が運用目標を達成するために、リスク許
容度に応じて中長期的な視点で策定する資産配分(アセットアロケーション)である。ここでは、
米国での先行研究を紹介しつつ、アセットアロケーションの重要性に関して解説を行いたい。
アセットアロケーションの重要性の火付け役となった最初の論文が、1986年にブリンソン、フ
ッド、ビーバウワー(Gary P. Brinson, L. Randolph Hood, and Gilbert L. Beebower)が発表
した論文「Determinants Of Portfolio Performance」(ポートフォリオ・パフォーマンスの決定
要因)である。この論文の発表から、すでに20年以上が経過し、実に多くの議論が積み重ねられ
てきた。なぜなら、「ポートフォリオのリターンの93.6%がアセットアロケションにて決定され
る」としたこの論文の結論は、当時、アセットアロケーションの重要性を数字で、しかも圧倒的
な割合で示した事で、非常に大きなインパクトがあったからである。そして、これがアセットア
ロケーションの重要性をめぐる本格的な議論の契機ともなったのである。
一方、この論文への反論としてよく知られているのが、2000年に、イボットソンとカプラン
(Roger G. Ibbotson, Paul D. Kaplan)が発表した「Does Asset Allocation Policy Explain 40,
90, or 100 Percent of Performance?」(アセットアロケーションはパフォーマンスの40、90、
100パーセントを説明する?)である。この論文は、「アセットアロケーションは、長期にわたる
リターンの変化量の90%を決定し、一方でリターンの異なる複数のファンドにおいて、その差異
の40%の要因となる」と結論づけている。
実は、表題の90%と40%という数字は、この2つの論文を表象しており、この2つの数字の意味
を理解しておくことが重要である。年金基金からみると、①90%というのは、それぞれ個々の年
金基金の過去からのリターンが政策アセットミックスで説明される割合であり、②40%というのは、
年金基金間のリターン格差が政策アセットミックスで説明される割合である。アセットアロケー
ションの議論では、この90%と40%というのはよく混同して使用されている場合があるが、もとも
と説明している対象が異なっているという点には留意する必要性があろう。
更に、米国での研究だけでなく、わが国の年金基金に関して、弊社でも同様の実証分析を行っ
たことがある(分析期間は1999年4月~2006年3月)。それによると、政策アセットミックスの説
明割合として、ブリンソン等と同じ手法で95.3%、イボットソン等と同じ手法で56%という結論
を得ている。
このように、政策アセットミックスによって年金基金のリターンやリスクが大きく左右される
ことは疑いのない事実であり、今後も年金基金にとって政策アセットミックスの決定、変更が重
要な課題であることは間違いない。
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