第4回(11月10日)

現代数学への流れ
浪川 幸彦
November 10, 2006
1 数学の基本題材と基本的方法
1.3 指数対数関数と自然対数の底
これから指数・対数関数,三角関数について考えていく。これらの性質について皆さんは
よく知っている(初日のレポートで,その「知識」が意外にあやふやであることは自覚され
たはずだが)。しかしこれからは注意深く,そこでどんな性質が用いられているか,その根
拠のどこが明確でどこが曖昧かをきちんと意識しながら進もう。
1.3.1 線型関数の特徴付け
まず次のような考察から始めよう。
Proposition 1.3.1. y = f (x) を実数 R 全体で定義された連続関数とする。さらにこれが加法
を保つ,すなわち
f (x1 + x2 ) = f (x1 ) + f (x2 ), x1 , x2 ∈ R
とすると,実数 a ∈ R が存在して,f (x) = ax と書ける。つまり y = f (x) は線型関数で
ある。
Remark. すなわちこの性質は(連続性の仮定の下に)線型関数を特徴付けている。
Idea of Proof. 1. f (0) = 0 ∵ f (0) = f (0 + 0) = f (0) + f (0);
2. f (nx) = nf (x). 数学的帰納法;
3. f (−x) = −f (x) ∵ f (x) + f (−x) = f (x + (−x)) = f (0) = 0;
4. a = f (1) と置けば,2. で x = 1 と置くことにより,任意の整数 n ∈ Z に対し f (n) = an.
5. x = m/n と置いて,2. を用いることにより,f (m/n) = a(m/n). つまり
任意の有理数 q ∈ Q に対して
1
f (q) = aq
(∗)
IM06w-4
2
6. 任意の実数 x は有理数列 {qn }, qn ∈ Q で近似できる(qn → x(n → ∞))ので
f (x) = lim f (qn ) = lim aqn = ax
n→∞
n→∞
Remark. 1)連続性がないとこの命題は成り立たない。ただし (∗) 式までは正しい。
2)関数の増減は a の正負によって次のように変わる:
• a>0
単調増加
• a=0
一定
• a<0
単調減少
3)y = f (x) = ax は(至る所)微分可能で f # (x) = a.
1.3.2 指数関数の特徴付け
Theorem 1.3.2. y = f (x) を実数 R 全体で定義された連続正値関数とする。さらにこれが加
法を乗法に換える,すなわち
f (x1 + x2 ) = f (x1 )f (x2 ),
x1 , x2 ∈ R
とすると,実数 a > 0 が存在して,f (x) = ax と書ける。つまり y = f (x) は指数関数である。
Remark. 1)すなわちこの性質は(連続性の仮定の下に)指数関数を特徴付けている。
2)指数関数 y = ax の定義はできており,これに対して上の性質は成り立つものとする(逆
に言えばここは曖昧なまま)。
Idea of Proof. 前節の命題の証明の仕方をそのまま繰り返す[講義ではやってみせるが,必ず
自分でも証明してみること]
Proposition 1.3.3. 指数関数 f (x) は 次の性質を持つ:
• a>1
単調増加
• a=1
一定
• a<1
単調減少
Idea of Proof. 上の論法を繰り返すことで例えば a > 1 のとき x > 0 ⇒ f (x) > 1 を示し,上
の性質を使う。
さらに x > 0 では a が大きくなるほど指数関数の値は大きくなり,x < 0 では逆になること
に注意しよう。
IM06w-4
3
1.3.3 指数関数の微分=増大度
ここで指数関数の微分の求め方を考える:
ah − 1
が存在する(すなわち ax は x = 0 で微分可能である)こ
h→0
h
とを承認すると,指数関数 ax は至る所微分可能で
Proposition 1.3.4. b = lim
(ax )# = bax .
Proof.
ah − 1 x
ax+h − ax
= lim
a = bax .
h→0
h→0
h
h
lim
Definition 1.3.5. 先の注意から,b = 1 となる a > 1 がただ一つ存在する。これを自然対数の
底とよび,e で表す。
Remark このとき (ex )# = ex となる。
ah − 1
が存在することを証明せよ。
h→0
h
Exercise 1. b = lim
Exercise 2. 命題と定義から,通常の e の定義を導け。
1.3.4 まとめ
指数関数は,加法の世界を乗法の世界へと写す。
そのスケールが x = 0 のところで同一になるのが ex である(⇔ (ex )# = ex )。
これに対し,逆に乗法の世界を加法の世界に写すのが対数関数で,自然対数は x = 1 のと
ころでそのスケールが同じになるものとして特徴付けられる。
Exercise 3. (極限の存在を仮定した上で)b = log a となることを示せ。
1.4 三角関数と円周率
1.4.1 三角関数の定義と加法公式
三角関数については大まかな話に止める。
Definition 1.4.1. 単位円周上の “角”θ の座標 (cos θ, sin θ) により余弦関数・正弦関数を定義
する。
IM06w-4
4
Remark. ピタゴラスの定理から
sin2 θ + cos2 θ = 1.
(T1)
sin(θ1 + θ2 ) = sin θ1 cos θ2 + cos θ1 sin θ2 ;
(T2a)
cos(θ1 + θ2 ) = cos θ1 cos θ2 − sin θ1 sin θ2 .
(T2b)
Theorem 1.4.2 (加法公式).
Exercise 4. これを幾何学的に証明せよ。
1.4.2 「角度」をどう定義するか?
Reflection. 前項の三角関数の定義で「角度」は幾何的な「量」であって,
「数」ではない。
「関
数」と見るためには,
「角度」を「数」とみなす方法を指定しなければならない。
1)通常の度数法は円周の 1/360 を 1◦ とする。
2)これに対し,弧度法は周の「長さ」そのものを「角度」とする。半径と等しい円弧の
長さが「1 ラジアン」である。
これは単位円に糸を巻き付けると考えればよい。これによって(直径が乗っている)直線
と円周とは同じスケールで測られる(つまり実数と同一視される)ことになる。
このときの円周の長さが 2π である。円周を一周すると元に戻ることから,
三角関数は周期 2π を持つ.
(T3)
Remark. ただしこのとき「円周の長さ」が厳密に定義されていなければならない。このため
には積分(線積分)の概念が必要になる。
1.4.3 三角関数の導関数
さて,角度をラジアンで考えることは,円周を「速さ1」の等速円運動で回ることに他なら
ない。特に
sin h
=1
θ = 0 で速さ 1 ⇔ lim
h→0 h
であることに注意すれば
Theorem 1.4.3. 三角関数は微分可能で
(cos θ)# = − sin θ
(sin θ)# = cos θ
IM06w-4
5
Proof. 加法公式により,θ = 0 の場合に帰着される(指数関数の場合と同様)。
Remark. 円に接線を引くとして,幾何的に証明することも可能である。直感的に分かりよい。
Corollary 1.4.4.
(cos θ)## = − cos θ
(sin θ)## = − sin θ
Exercise 5. 従来の度数法を用いて角度を表したら,三角関数の微分はどうなるか?
1.4.4 まとめ
三角関数は「直線の世界」を「円の世界」へと写す。
このときの「長さ」と「角度」のスケールを合わせると,
「周期」として円周率が出てくる。
アンケートに対して
●後半の内容について再度お聞きた結果は次のようでした:
テーマ3(数体系)26名;テーマ4(幾何)56名;テーマ5(解析)19名。
そこで後半は幾何を中心とし,数体系の話を加味したものとします。
詳細計画は追ってお知らせします。
●前回の Exercise 1 の略解は以下の通りです。
y = ax2 + bx + c
= a(x − α)(x − β)
= a(x − p)2 + q.
(1)
(2)
(3)
·(2) → (1)[解と係数の関係]b = −a(α + β), c = aαβ
·(3) → (1) b = −2ap, c = ap2 + q
b2
−b2 + 4ac
b
·(1) → (3) [平方完成]p = − , q = − + c =
2a
4a
4a
!
−q
·(3) → (2) α, β = p ±
a
√
−b ± b2 − 4ac
·(1) → (2)[解の公式]α, β =
2a
α+β
a
·(2) → (3) p =
, q = − (α − β)2
2
4
(1) → (3) はその上のプロセスを逆に解くことで,(1) → (2) は (1) → (3) → (2),(2) → (3)
は (2) → (1) → (3) というプロセスで得られることに注意しましょう。解の公式の証明を見
IM06w-4
6
たことがないという方がいましたが,これでその証明が得られています。自分で確かめて下
さい。特に (3) → (2) の計算をすると平方完成のありがたさが分かります。なお (2) → (3)
は方程式の理論(ガロア理論)の立場から見るとき,大切な式です。
●「のだめカンタービレ」の本は生協でも売っていますから,もっと読みたい方は是非。な
お現在テレビでも放映中(フジテレビ系[東海地方は東海テレビ]月曜日 21 時から)です。
しかしテレビでは残念ながらこのシーンにまでは至らないでしょう。
● e, π, i の間には,神秘的な関係式 eπi + 1 = 0 が成り立ちます。この式は小川洋子の小説
「博士の愛した数式」で一躍有名になりました。実際この公式は数学者の間で最も好まれる
ものであることが分かっています(Mathematical Intelligencer のアンケート)。その代表例と
して(数学者ではなく物理学者ですが)Richard Feynman が14歳の時にこの公式に感動し
て書いたノートがあります(出典:Paul J. Nahin, Dr. Euler’s Fabulous Formula [この本の題
名は偶然かも知れませんが小川洋子のそれととてもよく似ていますね])。
連絡先等
• 研究室:理1号館 506 号室
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