子供の教育 - 福岡銀行

中国
赴任時の
子供の教育
日中の経済交流が活発化するにつれ家族帯同で
中国へ赴任する方も多くなり、子供のいる家庭に
とって気になるのは現地の教育環境ではないでし
ょうか。教育環境に不安があれば家族帯同か単身
赴任かで悩むことになります。そこで、今回は中
国における日本人子女の教育事情についてお伝え
します。
1.中国現地校
中国には、日本と同じく幼稚園から大学までの
教育施設があります。外国人を受け入れる学校(中国現地校)は地方政府の認可が必要で、
一定以上の施設や教育・管理レベルを備えています。実際、日本よりも授業のスピードが早
く、教育課程が充実している場合も少なくありません。ただし、現地校では授業は中国語
で進められるため、当然ながら中国語の能力が要求されます。中国語の補習を行なう学校
もありますが、日本語しか話せない場合、入学は難しいでしょう。
幼稚園の場合は、現地校に通園させる日本人も多く、さほど問題はないように思われます。
中国での教育熱を反映し音楽や英会話など特徴のある教育内容を持つ幼稚園も多く、子供は
遊んでいるうちに自然に言葉を覚えるため抵抗が少ないようです。両親共働きが多い中国
では、保育時間は朝8時から夕方5時くらいまでであり、夏休みや冬休みもありません。
2.その他の教育施設
【 表1】現地校以外の教育施設
現地校以外での教育を考える場合、
表1のような施設があります。
香港を含めて中国全土には、8都市
日本人学校
日本国内の小・中学校と同等の教育を行う目的
で設置される全日制の学校で、文部科学大臣が
認定した学校
補習授業校
主として現地校等に通学しながら、土曜日や
平日の放課後を利用して日本国内の学校で学ぶ
国語等を学習するための教育施設
私立在外
教育施設
主として日本国内の学校法人等が海外に設置
した全日制の学校で、文部科学大臣が認定した
学校
国際学校
所在国に設置された外国人学校
主にインターナショナルスクール、アメリカン
スクール等と呼ばれている
に日本人学校が開設されています(表
2参照)。
児童生徒数が最も多い上海では2006
年4月に2校目となる分校が開校し、
2008年4月には深
で、2009年4
月には無錫で日本人学校が開校予定
です。一般に日本人学校は小中学校
で構成されていますが、大連では付属幼稚園が併設されています。中国では日本語で教育
を受けられる高校がないため、帰国して日本の高校に進学するか、現地の国際学校(主とし
て英語教育)に進学するなどを選択することになります。なお、上海や北京では学習塾が
いくつもあり、日本での進学に向けた補習や進路指導、受験対策が受けられます。
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【 表2】中国にある日本人学校
都市名
学校数
設置区分
広 州
1校
小・中
370人
上 海
2校
小・中
2,560人
蘇 州
1校
小・中
252人
大 連
1校
幼・小・中
203人
青 島
1校
小・中
86人
天 津
1校
小・中
182人
北 京
1校
小・中
694人
香 港
3校
小・中
1,693人
児童生徒数
※児童生徒数は各校へのヒアリングによる。
※深 、瀋陽、南京、寧波、無錫には補習授業校がある。
上海日本人学校(虹橋校)
3.学校の選択基準
子供の将来を見据えて、現地校にするか日本の教育機関にするかを選択することになり
ますが、主な選択ポイントは以下のとおりです。
(1)母国語の選択
主に英語を使う海外生活を考えれば国際学校で英語を習得させるのがいいですし、日本
中心の生活を考えれば日本の教育機関がよいでしょう。国際学校の場合、家庭での日本語
会話だけでは国語力向上は難しく、家庭での読み書きや通信教育などのフォローをしなけ
れば日本語の成長は鈍ってしまいがちです。
またどこの国籍の生徒が多いかに注意を払う必要もあり、例えば中国人や韓国人の多い
国際学校の場合、授業は英語中心でも子供同士の会話は中国語や韓国語となり、子供への負
荷が大きく、また英語力も中途半端になってしまうことも考えられます。一般的な中国で
の駐在期間が3∼5年程度であることもあり、大半の家庭では日本人学校に通わせています。
(2)高校の選択
日本の高校進学を希望する場合、帰国子女枠があるため、入学にあたっては海外生活が
特段不利になるようなことはありませんが、その後の授業についていくために国語や日本
史などをきちんと学んでおく必要があり、そのためには日本の教育機関を選択するのがよ
いかと思われます。
現地校や国際学校を選択する場合は、海外帰国子女の大学入試基準となるインターナシ
ョナルバカロレア(※)などの国際的な教育プログラムを取り入れている学校かどうかに注
意を払う必要があります。例えば、大連の国際学校「楓葉国際学校」では卒業後、カナダBC
(ブリティッシュ・コロンビア)州と遼寧省の高校卒業証を取得できますが、日本の高校卒業
の資格基準を満たしていないため日本の大学受験ができず、多くはカナダか中国の大学に
進学することになります。外国人が中国の大学に入学する際は、中国の大学入試にあたる
大学入学統一試験は受験できないため、各大学の留学生用試験を受けることになります。
この合格基準は中国人向けよりも緩いことが多いようです。
※I B(International Baccalaureate)…1968年スイスジュネーブで設立されたインターナショナルバカ
ロレア機構が提供する国際的な教育プログラムで、共通の検定試験に合格すれば、加盟各国の大学入学
試験資格が与えられる制度。日本でも1979年に文部科学省より正式に大学入学資格として認められ、
国家試験等統一試験の一つとして、海外からの帰国子女の大学入試において採用されています。
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【 表3】国別在留邦人数推移(単位:万人) 【 表4】大連地区の各種学校の授業料一覧
全在留邦人数
国別邦人数
学 校 種 類
110
106
小中学部
2,400元
(36,000円)
幼稚園(4・5歳児)
35,000円
(円払い)
幼稚園部
250ドル
(26,750円)
小学部
417ドル
(44,619円)
中学部
500ドル
(53,500円)
高校部
667ドル
(71,369円)
中学部:中国語・英語クラス
3,167元
(47,505円)
高校部:中国語・英語クラス
3,667元
(55,005円)
一般
700元
(10,500円)
外国人可。英語教育あり
1,200元
(18,000円)
現地小学校
公立
10∼14元(150∼210円)
現地中学校
公立
20元
(300円)
現地高校
公立
42元
(630円)
大連日本人学校
100
全在留邦人数
101
96
370,386
37
36
35
91
90
大連楓葉国際学校
87
81
84
80
アメリカ合衆国
31
30
125,417
北京五十五中学
国際学生部
10
ブラジル
中華人民共和国
64,802
5
60,751
英 国
0
H12
H13
H14
H15
月額授業料(円換算)
H16
H17
H18
■出所:外務省海外在留邦人統計
現地幼稚園
※教材費等の各種費用は除く(年払いは月額換算)
※遼寧省の現地小中学校は今年3月から授業料無料化 ※1元=15円、1ドル=107円にて換算
4.帰国時の対応
赴任を終え日本へ帰国する場合は、中国が日本と異なる学期制をとっているため、年齢
によっては帰国時期を考慮する必要があります。一般的に小中学校は海外での学年に関わ
らず、日本では義務教育年齢に応じた学年に編入されます。高校の場合は学校毎に異なり、
①海外での履修学年、②海外での修了学年、③実年齢に応じた日本における学年、④取得
した資格などにより決定されます。
5.大連日本人学校
大連日本人学校は1994年に設立され、幼稚園と小中学部を備えています(小中学部全体
で約200人、各学年1クラス)。教師は応募により文部科学省で選考のうえ日本から派遣さ
れます。授業内容は日本の学習指導要領に沿ったものであり、授業時間も十分に確保され
ています。英語検定や漢字検定、模擬試験など日本と同様の教育を受けることが出来るよ
う配慮されているほか、現地校との交流や中国語の授業なども行なわれています。
現地特有の問題として、水道水が飲用に適さず水筒を持参しなければいけないことや、
安全管理を厳重にしなければならないこと等がありますが、外務省や日系企業の協力を得
ながら、しっかりと運営されており、学力水準は日本の平均以上だそうです。
6.最後に
得がたい経験の海外生活ですが、子供にとっては環境に馴染めず負担を強いることにも
なりかねませんし、帰国すればまた別の苦労が待っているかもしれません。事前の情報収
集を通じていろいろな選択肢を検討することで親子ともに不安を解消し、後になって海外
生活が有意義であったと子供が感じられるようにしてあげたいものです。
(福岡銀行 大連駐在員事務所 兒島 尚三)
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