寺さんのもっと健康セミナー (その8) 花粉症

寺さんのもっと健康セミナー
(その8)
2月に近づくと杉花粉症に悩まされる人が出てきます。
花粉症
花粉症に悩ま
される人は年を追うごとに増えてきて、いまや日本国民の3人に一人が何
らかの花粉症にかかっているようです。 読者の中にも程度の差こそあれ、
花粉症(特に杉に対する)が治らないかと思っておられる方が多いと思い
ます。
ここではそんな方に耳鼻咽喉科とは違ったアプローチで改善を図
れる方法をお教えしましょう。
今回はアレルギー
の中でも花粉症だけに焦点を当てて書きました。
なお文中でわかりにくい用語には (*) をつけて、末
尾に説明を書いておきました。
図1.主な花粉症の時期
1.花粉症のメカニズム
人は自分とは違ったものが体内に入ってくると、これを排除する能力があるから生きています。
花粉が目や鼻の粘膜に付くと花粉からタン白質(抗原)が出ます。
これが体内に入ると、白血球
の一つである好中球(*) や NK 細胞(*) が抗原を異物と判断して食べてくれます。 好中球や NK 細
胞が抗原を食べきれない時は、マクロファージ(*) が抗原を食べてくれます。 この時マクロファー
ジの表面には抗原の種類が表示されます。
この表示に基づいてリンパ球の一つのヘル
パーT 細胞(*) が B 細胞(*) に抗体を作るよ
う指令を出します。 B 細胞は抗原に応じた
「IgE 抗体(*)」を作り、 作られた IgE 抗
体は体内にある肥満細胞(*) の表面にくっつ
きます。
この肥満細胞はヒスタミン(*) や
ロイコトリエン(*) といった化学物質を大量
に含んでいるため、これがアレルギー発症に
つながります。 (図2参照)
通常花粉のタン白質は人体には無害なた
め、わざわざ抗体を作り免疫系を駆使して抗
原を攻撃する必要はありません。 サプレッ
サーT 細胞(*) というものが働いて、抗体の
生産を止めれば抗体はできません。
ところが
図2.アレルギーのメカニズム
なぜかは分かってませんが、人によって
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花粉症
サプレサーT 細胞が働かないことがあります。 こうすると抗体ができてしまいます。
花粉症になるかならないかは、ここできまります。
次に同じ花粉が粘膜にくっつくと、抗原
となるタン白質が体内に入ります。 タン
白質が肥満細胞の表面にある IgE 抗体に結
合すると、ヒスタミンやロイコトリエンな
どの化学物質が飛び出してきます。 この
結果くしゃみや鼻水が止まらなくなった
り、目がかゆくなる、のどが腫れる、頭が
痛くなるという症状が出てきます。 (図
3参照) IgE 抗体の量が増えると肥満細
胞から化学物質が出るが、その閾値は人に
よって違うため、花粉症が出ない人もいる。
しかし抗体量は年々蓄積されているため、
ある時急に症状が出ることになります。
そして一度出ると元には戻りません。
図3.花粉症のメカニズム
本来 IgE 抗体は寄生虫などを腸から排出させるために役立つ抗体で、鼻粘膜などの細菌には IgA
抗体が働きます。 花粉症では IgA 抗体ではなく IgE 抗体が出てくる理由ははっきりわかっていま
せんが、IgA 抗体の原料であるビタミン A やグルタミンなどの栄養欠損や、日常生活の無菌化によ
って IgA 抗体の出番がなくなったのも一因と言われています。
部屋の汚れを増やし IgA 抗体を活性化すると IgE 抗体の活性化が抑えられるという報告もありま
す。
昔の子供は青ばな、緑ばなを垂らしていました。
現代は青ばななんか垂らしている子供は
見かけませんね。 青ばなは粘膜にあるはねばねばした IgA 抗体が抗原にくっついて、粘膜表面の
繊毛運動により排出された残骸なのです。
さらに難しいことを書くと、マクロファージが抗原
を感知して出すサイトカインによって、ヘルパーT細
胞(Th0)が Th1 とか Th2 に分化します。
(図4参照)
IL-12 が出ると Th1 という細胞性免疫を活性化する
ヘルパーT 細胞に変わりますが、PGE2 が出ると液性
免疫を活性化するヘルパーT 細胞に変化します。 こ
れが IgE 抗体を作るのです。
ω6系不飽和脂肪酸
の摂取慮が多いと、PGE2 の産生が過剰に行われ、ア
レルギー体質になりやすくなると考えられています。
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図4.ヘルパーT細胞(Th0)の分化
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結局、衛生的な環境とビタミン A やグルタミン不足、ω6系不飽和脂肪酸の増加が花粉症を作り出
したと言えます。
花粉症患者からすると子供のころが羨ましい時代でしたが、今から昔の時代に
戻るわけにはいきません。
それで別の対策が必要になってきます。
2.医学による対症療法
医療機関での治療法(6以外は対症療法)
1.肥満細胞からヒスタミンが出るのを抑制するもの
―― 抗アレルギー薬(化学伝達物質遊離抑制薬、肥満細胞安定薬)
一般に数日たたないと効果がでません。
2.ヒスタミンなどの化学伝達物質の作用を抑えるもの
―― 抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬
即効性がある。
副作用は眠気や口の渇き
3.上記の両方ができるもの
―― 第二世代抗ヒスタミン薬
数日たたないと効果がでません。 副作用は少ない。
内服薬と点鼻薬・点眼薬
4.ステロイド薬
限られた対象ではなく、すべてのアレルギーを抑制するが、免疫力を下げるため、
長期投与により感染症や副作用をまねくことがあります。
5.レーザー手術
鼻粘膜にレーザー光を当てて粘膜を焼き、細胞を変質させて鼻水、鼻づまりを抑え
る治療法です。
効果は長くて2年で、繰り返し治療が必要です。 繰り返し
治療による後遺症はまだ分かっていません。 目には効果がありません。
6.減感作療法
このアレルゲン免疫療法には皮下注射によるものと舌下免疫療法があります。
根治療法に近いものですが、数年間の通院が必要なため患者の負担は大きいです。
舌下免疫療法はアレルギー源の花粉エキスを毎日1回、2年間、舌の下に垂らして
自己免疫を作るものです。
これは根治療法ですが、保険は効かず自由診療とな
ります。
3.栄養素による対処方法
1章に書いた花粉症の実態から、症状を根源から断つ方法は
1.粘膜の強化 ――
タン白質、ビタミン A、ヘム鉄(*) で粘膜の角化異常、萎縮を抑え、
抗原が粘膜の中に入るのを防ぐ。
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花粉症
コンドロイチン硫酸で細胞間結合組織を強くし、保水力を上げる。
ビタミン A とヘム鉄で粘膜にある繊毛運動を活性化し、抗体で包み込
んだ抗原を排出しやすくする。
ビタミン A、グルタミンで IgE の代わりに IgA が働くようにする。
2.IgA の活性化 ――
3.IgE 炎症の抑制 ――
EPA(*) で細胞膜の不飽和脂肪酸をω3系に変えることによって、
PGE2 が作られず、IgE が作られないようにする。
4.ヒスタミンの分泌抑制
ビタミン C はヒスタミン、ロイコトリエンの分泌を抑制
――
します。
5.ヒスタミンの消去
――
カルシウムは天然の抗ヒスタミン剤です。
マグネシウムも一緒にとらないと、Ca が細胞内に過剰流入する
ため、血管攣縮が起き、頭痛、心筋虚血、高血圧をまねく。
6.ω6系不飽和脂肪酸の削減
――― 肉より魚(ω3系不飽和脂肪酸)中心の食生活に変
える。
上記のなかでは粘膜の強化が最も重要です。 筆者はタン白質、ビタミン A、ビタミン C、ヘム
鉄を十分に摂ってきたため、杉花粉が多かった2011年春の花粉症はほとんど出ませんでした。
栄養素による改善はうそではなかったです。
4.栄養素の一覧表
栄養素
タン白質
摂取量
1g/体重 1kg
食品
肉、魚、卵、大豆、乳製品
(豚肉 100g x タン白質分 20% x 調理熱損失
70% x 吸収率 70% = 10g )
グルタミン
肉、魚、卵、海藻、豆類、ごま
ビタミン A
30,000 IU
レバー、うなぎ、卵黄、チーズ
ビタミン C
3,000mg
青菜類、いちご、かんきつ類、いも、トマト
カルシウム
500mg
牛乳、乳製品、小魚、豆腐、モロヘイヤ
マグネシウム
500mg
魚介類、肉類、ほうれん草、バナナ
ヘム鉄
24mg
コンドロイチン硫酸
EPA
レバー、赤身肉、魚、乳製品(牛乳にはない)
下注
1,000mg
いわし、さばなどの青魚、
(海棲動物)
注)コンドロイチン硫酸はタン白質と糖から生合成されますが、加齢とともに生合成能力は落ちます。
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摂取を控えるもの:
ω6系多価不飽和脂肪酸
(その8)
花粉症
(サラダ油、陸上動物性脂肪)
脂肪は EPA を含む魚の方がいいですね。 これは心臓疾患を防ぐのと同じ
です。
耳鼻咽喉科で花粉症の対症療法を続けるのもいいですが、栄養素で根本療法をするのも一つの
選択枝です。
5. 参考文献
分子整合栄養医学協会講演資料
分子整合栄養学概論
インターネット
花粉症 Wikipedia、
あなたも十歳若返る
加藤
肥満細胞 Wikipedia
久美子著
NHK TV 特別番組「アレルギー対策」
6. 用語の説明
分かりにくい用語に説明をつけます。
好中球、NK 細胞: 白血球には好中球、好塩基球、好酸球、単球(血管から出るとマクロファー
ジになる)
、以外にリンパ球があります。
リンパ球には NK 細胞、T 細胞、B 細胞、
樹状細胞があります。 好中球、NK 細胞、樹状細胞は体内に入ってきた細菌を真っ先に
食べた後、細菌を酸化して殺します。 ちなみに NK は Natural Killer のことです。
インフルエンザに感染すると、好中球、NK 細胞がウイルスを食べます。 抗体ができる
には4日(新型ウイルスの抗体は 10 日)かかるので、それまでは頑張らなくてはなりま
せん。
1個のウイルスは1日で 100 万個にも増えるため、日ごろの栄養不足で好中球
や NK 細胞の数が少ないと発症してしまいます。 新型インフルエンザに対抗するには
あらかじめ必要な栄養を摂って、好中球と NK 細胞を増やしておかなければなりません。
これが免疫力をつけるということです。
ヘルパーT 細胞: T 細胞のなかで抗体を出すよう B 細胞に指令を出す役目を持つ。
キラーT 細胞: T 細胞の一種で抗体がくっついた抗原を食べて殺す役目を持つ。
サプレッサーT 細胞:
T 細胞の一種で B 細胞が抗体をつくらないよう指示する役目を持つ。
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IgE 抗体: リンパ球の中の B 細胞表面にあるグロブリンが変化した糖タン白質
(Immunoglobulin)で、特定のタン白質(抗原)に結合することによって、キラーT 細胞
やマクロファージが認識しやすくして体外排除する。 ちなみに、抗体には IgA、
IgD、IgE、IgG、IgM の5種類あり、それぞれ攻撃する分野が違う。
肥満細胞: 粘膜や結合組織にある細胞で、炎症や免疫反応などの生体防御機構に重要な役割を
持っている。
膨れた形をしているため肥満細胞と呼ばれている。 細胞内にヒス
タミンなどの化学伝達物質があり、細胞表面についた抗体に抗原が結合すると、中
の化学伝達物質が放出される。
ヒスタミン:
知覚神経を刺激して、かゆみを感じさせたり、くしゃみ反射を起こす。
また
分泌中枢を刺激して腺から鼻汁の分泌も増やす。
ロイコトリエン: 血管を広げ、水分などが染み出ることにより粘膜が腫れあがり、鼻詰まりが
起こる。
PGE2:
植物油や陸上動物性脂肪は不飽和脂肪酸で、細胞の中で水素が取られる(酸化される)
ことにより、アラキドン酸になる。アラキドン酸からさらに反応が進むと、ホルモン
に似た性質を持つプロスタグランディンやロイコトリエンなどができます。
これは
その細胞内だけで働く局所的ホルモンですが、生体恒常性を保つ重要な役目をはたし
ています。
PGE2 は数あるプロスタグランディン A、B、C、D、E、・・・の内の一
つで、Th2 分化にかかわるだけでなく、血管を収縮させたり、末梢血管を拡張させた
りしています。
またガンの発現を促進することもわかっています。
ヘム鉄: 動物性タン白質と化合した鉄で小腸での吸収率は 30~40%。 他方ほうれん草や
プルーンなど植物性タン白質と化合したものは非ヘム鉄といい、吸収率は 5%未満と
低い。
ω6系不飽和脂肪酸: 植物油や陸上動物性脂肪は、二重結合炭素が鎖の端から6番目より始
まっている。
ω6系不飽和脂肪酸の摂取が、魚に含まれるω3系不飽
和脂肪酸の摂取より多いと、心臓疾患が増えるという調査結果が出てい
る。 PGE2 はω6系不飽和脂肪酸からできる。
EPA: ω3系多価不飽和脂肪酸で、青身魚に多く含まれている。 ω3系不飽和脂肪酸はω6系
不飽和脂肪酸とは性質が違っている。
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