寺さんのもっと健康セミナー17 子供の発達障害 子供の発達障害 1.はじめに 高齢者の認知症に続いて、今度は小学校に通い出してから起こる子供の発達障害 に関する重要な記事を書いてみましょう。 本セミナーは皆さんや、皆さんのお子さんに対するもので はなく、お孫さんや親族のお孫さんに関することになります。 私が小学校に通っていた時代にも、50 人に 1 人ぐらいは学校に通えない子供がいました。 ところ が現在小学校に通っていてもまともに授業についていけない子供は、50 人に 5 人以上います。 どうしてこんなに異常を示す子供が増えてしまったのでしょうか。 「自閉症」 、 「アスペルガー症候群」 、 「学習障害」、 「注意欠陥多動性障害」、など病名がきちんとつく ようになっていますが、それだけ異常な子供が多いということを示しています。 ダウン症のような遺 伝子の欠陥がある子供も 50 年前からおびただしく増えています。 心当たりのある方は奥さんにも読んでもらい、活用していただくようお願いします。 2.子供の発達障害とは 最近は大人だけでなく子供の精神疾患が増えています。 それが発達障害です。 発達障害は「自閉症」 、 「アスペルガー症候群」 、 「学習障害」、 「注意欠陥多動性障害」などで、皆さんの お孫さんやご親族のお孫さん、あるいはその周辺で発達障害の子供がいるという話はよく聞かれると思 います。 (1)自閉症 幼児期には「目が合わない」 「他の子供に関心を持たない」「言葉をしゃべり始めるのが遅い」 といった形であらわれます。 また「ひとり遊びばかりする」 「人のまねをしない」 「表情が乏 しい」などの状態も自閉症児に見られます。 現在軽い症状の人まで入れると 100 人に一人い ます。 男女比では男子に多く、自閉症患者の近親者では 5~10 倍の割合で発生しています。 1 寺さんのもっと健康セミナー17 子供の発達障害 (2)アスペルガー症候群 自閉症の一つですが、自閉症と違うのは幼児期の言葉の遅れがないことです。 「独特の表情 や身振り、声の抑揚、姿勢などがある」 「親しい友人が持てない」 「尊大で態度が横柄だが、子 供では変わった面白い子と写る」 「冗談や皮肉、比喩などがわからない」 「狭い範囲の独特なも のに興味をしめす」 「体の動きがぎこちない」といったことが特徴とされています。 (3)学習障害(LD) 知的発達の遅れはないのに、読み書きの能力や計算能力の障害が現れている症状です。 読み書き能力の障害とは「文字を一つずつ拾って読む」「単語や文節を途中で区切って読む」 「確認するように指でおさえながら読む」 「読めない文字を読み飛ばす」 「文末などを勝手に変 えて読む」といった症状で 30 人に一人います。 (4)注意欠陥多動性障害(ADHD) 注意力が維持できず、行動に多動性や衝動性が見られます。 「一つの行動に集中できない」 「物をなくしたり、忘れやすい」 「すぐに気が散ってしまう」 「行 動を順序立ててできない」といたことが起こります。 学齢期の子供の 3~7%がこの状態にいます。 医療現場でこのような発達障害は国際診断基準(ICD-10)やアメリカ精神医学会の診断基準(DSMIV)をもとに、診断が下されるのが一般的で、現れている現象で仕分けが行われています。 そして医 者から出されるのは薬です。 でも子供の心はそう単純に色分けできるものではありません。 成長期であるため、困った症状があ っても知的障害がない、あるいは知能が高い子供も正常な子供と区別がつかないことも少なくありませ ん。 これは「先天的な脳の機能障害」ではなく「後天的な脳の機能障害」と考えるべきではないでし ょうか。 注意すべきは症状の背景に何があるかということでしょう。 症状が出ている子供の脳では どんなことが起きているのかを探っていくというアプローチ、それも栄養からのアプローチが必要なの です。 上の4種類の障害を抱えている子供で、栄養が関係していないケースはほとんどありません。 精神科医を受診するとほんのちょっとした栄養不足に対しても、症状に応じて薬が出されるわけです が、それが効かないと分かると次から次へと薬が変わっていき、種類も増えてきます。 極端なケース は十種類以上の薬を処方され、挙句の果ては貴重な 10 代の人生を暗いものにしてしまいます。 こん な患者が分子整合栄養医学のクリニックを訪れて、障害の原因を調査し、その原因をなくすことによっ て、薬から離脱し自分の人生に明るみが出てくるケースが非常に多いのが実態です。 今回は栄養医学クリニックの医師の治療法を書いてみましょう。 2 寺さんのもっと健康セミナー17 子供の発達障害 私たちの体は食べ物からできていることは誰でも知っています。 脳を形づくるもの食べ物ですし、 心の状態には脳内の神経伝達物質が関係しており、これも食べ物からできています。 つまり心と食べ物は密接に関係しているわけです。 発達期の子供の心に異常が出た場合も、まず日 常の食べ物を調べるのが筋でしょう。 「学校の給食は栄養の必要量やバランスが理想的なはず」と考 えられていますが、本当でしょうか? カロリーの面は十分ですが、脳の栄養という観点ではお粗末と 言わざるを得ません。 特に牛乳のように毎日同じものが出されるのは問題です。 日本では一般的に知れわたっていませんが、欧米の精神科では毎日同じ食材をとっていることがアレ ルギーそれも「脳アレルギー」の原因となると判断します。 食品アレルギーはよく聞く言葉ですが、 脳アレルギーとは何でしょうか。 3.脳アレルギー 「脳アレルギー」というのを聞いた方はいないと思いますが、花粉症や蕁麻疹といった IgE 抗体によ るものとは違って、IgG 抗体や IgA 抗体でできるものなのです。 IgE 抗体によるものはすぐに反応が 出るので、特定の食物が原因ということがわかるのですが、IgG 抗体や IgA 抗体は特定の食品を食べて も、数時間から数日たってからしか反応が出ないし、眠くなるとかだるくなるといったように普通のア レルギー反応とは違うため、アレルギーとは気がつくことが出来ません。 また IgG や IgA 抗体反応は病院の検査では見つけることができません。 なぜなら保険がきかないた め、日本では検査する施設がありません。 米国に血液を送って調べてもらうしかないのが現実です。 それではなぜ「脳アレルギー」なんかになるのかを説明しましょう。 私たちの体には粘膜というものがあります。 口やのどから始まる消化器管や気管支などですが、そ の面積は 400m2 にもなります。 驚くことに皮膚の 200 倍もの面積になります。 一番広い粘膜は消 化管で、表面には細菌やウイルス、微生物などの外敵から身を守るために備わっている免疫システムが 備わっています。 細菌やウイルス、微生物などの抗原に対して免疫がはたらいていれば問題はないの ですが、抗原によっては免疫が過剰に反応してしまうことがあります。 その結果体にいろいろな症状 がでます。 これがアレルギーです。 3 寺さんのもっと健康セミナー17 子供の発達障害 腸には異物に対するバリア機能があるのです が、その先兵は腸粘膜で分泌される粘液で成人で は一日に数リットルから数十リットルになりま す。 悪いものが入ってくると分泌量が増えて、 毒素を下痢として早く排出します。 腸粘膜の下には糖衣と呼ばれる薄い層があっ て、ここに消化酵素が分泌されタン白質をアミノ 酸に分解します。 分解するともとの食材が持っ ている特性がなくなります。 つまり抗原ではな くなります。 こうなればアレルギーは起こりま せん。 しかし糖衣での分解が不十分だと、特性が残っ てしまい、それが抗原となってアレルギー反応を 誘発する。ある特定の食品に対して食物アレルギ ーがあるということは、その食品の特性をなくす ところまで分解できていないということなので す。 タン白質が細かいアミノ酸にまで分解さ 図1 腸粘膜の構造 れれば、特性つまり抗原性はないので、 タン白質が抗原性のない小分子で血液中に吸収される アレルギーが出ることはありません。 場合は問題ないが、大きな分子のままで吸収されると アレルギー反応を引き起こす。 糖衣でのタン白質分解は非常に重要ですが、 しっかり分解するには腸粘膜が、いい状態にある ことが条件です。 腸粘膜がいい状態というのは粘膜の網の目が細かいということです。 細かければ 大きな分子は糖衣まで通過せず、粘膜の機能を十分に果たしていることになります。 ところが機能が低下した粘膜は網の目が粗い状態になっており、大きな分子も通してしまいます。 これが「リーキーガット症候群」と呼ばれる腸粘膜の疾患です。 生まれたばかりの赤ちゃんの消化官は未熟で、母乳しか受け付けません。 母乳に含まれているタン 白質や脂肪は消化できますが、消化官が未熟なうちに離乳食を与えると、アミノ酸にまで消化されない タン白質がそのまま吸収されてしまいます。 これが「リーキーガット症候群」です。 脳の血管には血液脳関門という機能があって、血液で運ばれてくるもののうち脳に害のないものだけ を通過させています。 この脳関門が整ってくるのが生後6カ月頃からで、12カ月くらいになってよ うやく完成します。 つまり、脳関門ができあがる前に離乳食を与えると、本来脳関門でシャットアウ トされるはずの未消化タン白質が、脳細胞に入ってしまうのです。 これが「脳アレルギー」と言われ る所以です。 まだ十分にメカニズムが解明されたわけではないですが、結果として精神障害を引き起 こすのは確かです。 4 寺さんのもっと健康セミナー17 子供の発達障害 4.腸粘膜と脳アレルギー このような腸粘膜が粗くなる「リーキーガット症候群」につながる腸の機能低下は何が原因で起こる のかというと、それには4つ考えられます。 (1)腸粘膜の未成熟 前の章で書いたように生後6カ月までの赤ちゃんの腸はリーキーガットの状態です。 (2)粘膜の栄養不足 腸粘膜は最も組織の入れ替えが激しく(4日で全部入れ替わります)、栄養状態の影響を大き く受けます。 栄養不足は腸の機能を低下させます。 (3)抗生物質の影響 腸には 100 兆個も腸内細菌がひしめき合ってバランスをとっていますが、風邪をひいた程度 で抗生物質を使うと、腸内にいる善玉菌や悪玉菌を根こそぎ減らしてしまうため、バランスを 崩してしまいます。 この状態だと細菌がくっつきやすくなります。 (4)カンジダ感染 抗生物質で腸内細菌のバランスが崩れると、カビの一種の常在菌であるカンジダ菌がつきやす くなります。 これが腸粘膜の網目を粗くしてしまうのです。 上記はいずれも腸粘膜の機能を破綻させる原因ですが、粘膜の破綻からアレルギー形成までの過程は、 腸管免疫という精巧につくられた人体の不思議な働きで成り立っています。 ここで腸管免疫という新しい言葉を説明しましょう。 腸管は食材を通して異物が一日に何回も通過す る大変危険な場所です。 そのため免疫に関するリンパ球の 60%~70%は腸管に存在し、異物混入を厳 重に見張っています。 体に害を与える異物のほとんどが、体の悪さをしない食材と一緒に流れてくる ので、腸管は「腸管免疫寛容」という働きによって、体にとって有益なものと有害のものを区別して処 理しています。 小腸は判断をいちいち脳に聞かず、独自に判断をします。 この働きは体にとって害 のない多くの物質に対して、免疫を抑制し、抗体を作らないようにするというのが基本です。 腸粘膜の機能破綻によって抗原として取り込まれた食材由来のタン白質により、腸管免疫寛容が十分 に機能しなくなり、IgG や IgA 抗体が形成され、 「脳アレルギー」を引き起こしてしまいます。 5 寺さんのもっと健康セミナー17 子供の発達障害 「脳アレルギー」の原因となる食物に対する IgG や IgA 抗体を作らせないようにするためには、腸 管内の細菌バランスを整え、粘膜から粘液を十分分泌させ、粘膜を丈夫にすることで、大きな分子の侵 入を許す「リーキーガット症候群」を防ぎ、抑制系の T リンパ球を元気にさせておくという、多段階の バリアーを一つひとつ整備することが大切です。 5.脳アレルギーの4つのタイプ 「脳アレルギー」には4つのタイプがあります。 よく知られている即時型アレルギーの IgE タイプ、遅発性にため気づきにくい IgG タイプ、粘膜にあ らわれる IgA タイプ、現代人に多い糖質依存型タイプです。 厳密な診断の際には血液検査が必要ですが、「脳アレルギー」が起きているかどうかは、ある程度判 断することが可能です。 普段の食生活、食傾向、体の調子、気持ちの状態や変化、特徴的な行動・・ をチェックすることで、 アレルギーがあるかどうか、そのアレルギーがどんなタイプなのかが見えてきます。 それには下の チェックリストを使います。 これは子供に限らず大人にも使えます。 脳アレルギーチェックリスト □ 小麦、卵、乳製品などの食物アレルギーがある 食物アレルギータイプ □ 花粉、ハウスダストなどのアレルギーがある ↑ □ ぜんそく、アトピー性皮膚炎である ↑ □ 朝食や昼食のメニューがほぼ毎日同じである 偏食タイプ □ 好物や習慣で毎日欠かさずとっている食材がある ↑ □ 野菜、果物のなかで、同じ種類のものをよく食べる ↑ □ 肉、魚介類のなかで、同じ種類のものをよく食べる ↑ □ 偏食である ↑ □ 以前は好きでなかったのに、やたらと食べるようになった食べ物がある ↑ □ 食後に頭痛がしたり、落ち着きがなくなる ↑ □ 抗生物質をよくとる 腸内環境タイプ □ 母乳をあまり飲んでいない ↑ □ 生後 12 カ月以内に離乳食を始めた ↑ □ 慢性的に下痢または便秘である ↑ □ トイレ(大)は臭い、ガスが臭い ↑ □ 米、パンを毎日大量に食べる 砂糖アレルギータイプ □ 甘いお菓子や清涼飲料水をほぼ毎日とる ↑ □ 食後に眠くなったり、集中力が落ちる ↑ 6 寺さんのもっと健康セミナー17 子供の発達障害 アレルギータイプを詳しく説明すると (1) 食物アレルギータイプ(IgE 抗体) 私たちが一般的にアレルギーと呼んでいるのが「IgE」タイプのアレルギーです。 Ig とは Immuno Groblin の略で、免疫に関係しているグロブリンというタン白質のことです。 免 疫グロブリンには IgE だけでなく、IgA、IgD、IgG、IgM の5種類が存在しています。 抗 原となる異物が侵入してくるとこれらの免疫グロブリンは抗体を作りますが、その抗体の主 成分が免疫グロブリンなのです。 ます。 抗体は抗原と結合して抗原抗体複合体というものを作り この複合体はインターロイキンという情報物質を出して、白血球やリンパ球を活性 化させ、細菌などの異物を死滅させます。 その作業の過程で起こるのがアレルギーです。 IgE は細菌やウイルスに対抗するため、すぐに活動します。 サバを食べると皮膚がかゆく なったり、花粉を吸いこむとくしゃみや鼻水が出るのは IgE タイプのアレルギーです。 IgE タイプのアレルギーは即時性のためすぐにわかります。 (2)偏食タイプ(IgG 抗体) 発達障害を持つ子供には偏食傾向がみられます。 好んで食べるものが抗原となっている可能 性があります。 毎日欠かさず食べる食品も抗原となっていることがとても多いです。 その 代表は乳製品と卵です。 これらを毎日とっている子供に IgG タイプのアレルギーが起こっ ている可能性はおおいにあります。 IgG の抗原抗体複合体は補体が仲介しているため、反応が遅くなります。 数時間~数日たっ てから反応が現れるため、分からずに過ごしてしまうところに怖さがあります。 また IgG 抗体の半減期は 20~24 日と長いため、抗体を除去するのに3カ月程度はその食材を 絶つ必要があります。 (3)腸内環境タイプ(IgA 抗体) IgG 抗体は血管に入ってきた抗原に対して働きますが、粘膜の外側(体の外)で働くのが IgA 抗体です。 IgA 抗体が十分あれば、抗原は粘膜に入る前に排除されます。 IgA 抗体の働き が悪いと抗原に IgA 抗体がくっついたまま、粘膜を通過して血液に入ってきます。 血中に IgA 抗体があるということは、本来入れてはいけないものを排出できず、入れてしまっている わけなので、腸粘膜がかなり弱っていることを知らせるシグナルともいえます。 母乳には赤ちゃんの粘膜を守るために IgA 抗体が大量に含まれております。 ~8カ月から自分で IgA 抗体を作るようになります。 したがってそれまでの間は母乳をた っぷりあげて IgA 抗体が不足しないようにすることが大切です。 はなるべく遅いほうがいいということになります。 7 そして生後7 つまり離乳食を始めるの 寺さんのもっと健康セミナー17 子供の発達障害 (4)砂糖アレルギータイプ(低血糖症=糖質依存型) 「さっきまで元気に遊んでいたのに、急にぐったりしてしまった」 「ゴロゴロしてからでない と、次の行動に移れない」などという子供は、精製穀物や砂糖、甘い菓子や飲料を好んで食べ ることが多いです。 これは食後の血糖値が急に上がった反動で、血糖値が急に下がってしま う症状(反応性低血糖症)です。 食事をしても血糖値が上がらなかったり(無反応性低血糖 症) 、血糖値が上昇と下降を繰り返すケース(乱高下型血糖症)もあります。 下に各種血糖値変化の分類を示します。 正常 反応性低血糖症 無反応性低血糖症 乱高下型血糖症 低血糖症は腸の粘膜と深くかかわっています。 腸粘膜が弱っていると粘膜の網の目が粗く なり、食べたものの吸収速度が速くなります。 吸収が速いと血糖値が急に上がり、また急角 度で下降し低血糖となります。 この血糖値の乱高下が低血糖症の特徴です。 これは一般的 には低血糖症ですが、砂糖による「脳アレルギー」とも言えます。 上記のように子供の精神的トラブルは食べ物と密接に関わっており、実に 90% は日常の栄養が関係 しています。 この考え方はヨーロッパや米国、カナダでは一般的ですが、日本の医学会は栄養という 視点をまったく欠いているため、その端緒にもついていないのが実態なのです。 さて本稿は小学生や中学生の発達障害を書いていますが、子供の栄養障害は生まれてからの食事だけ で決まるわけではありません。 栄養不足は子供がお腹の中にいるときから始まっているのです。 お母さんがタン白質や鉄などの栄養不足であれば、当然胎児も栄養不足になり低体重で生まれてきます。 材料がなければ胎児の体は作れません。 しかし「ひょっとして私も妊娠中栄養不足だったかも」というお母さんも、悲観することはありません。 今からでもできることはあります。 不足している栄養を補っていけば「脳と体の栄養不足」は改善で きるのです。 8 寺さんのもっと健康セミナー17 子供の発達障害 さらにこの話は子供だけではなく、大人も同じです。 過敏性腸症候群になる人は腸が弱いと考えら れます。 抗生物質をよく飲む人も腸内環境が悪くなっていると考えられます。 大量のアルコールを 飲む人も、飲み会のあとに下痢をする場合は腸が弱っている状態です。 サラリーマンの中には、いつも同じ定食屋に通ったり、同じメニューのものを食べる人がいます。 毎日同じタン白質、同じ炭水化物を食べるという傾向があれば、「脳アレルギー」になります。 「脳アレルギー」は子供だけの問題ではなく、大人の問題でもあります。 子供の「脳アレルギー」改善に親も一緒に取り組んでみると、親の方も調子が良くなったということに なります。 次章にアレルギー改善方法を解説しましょう。 6.脳アレルギーの改善方法 アレルギータイプ別に改善方法を説明します。 (1) 食物アレルギータイプ(IgE 抗体) 食物アレルギーはすぐ発症するので、アレルギーの元になる食材はすぐわかります。 乳 幼児に発症した食物アレルギーは 6 歳前後で急減しますが、成人しても症状が改善しない場 合があります。 このアレルギー対策はアレルギーの原因となる食材を食べないようにする ことが第一条件です。 2013 年には学校の給食で不用意にアレルギー食材を食べたため、ア ナフィラキシーショックで小学生が死んだこともあります。 抗原と結合する IgE 抗体を抑制するものは、不飽和脂肪酸の EPA とビタミン E です。 EPA は二重結合を5つ持っているため、非常に酸化されやすい。 EPA の過酸化脂質への抑 制が必須で、ビタミン E と一緒に摂取しなければなりません。 なお EPA はアトピー性皮膚 炎の改善にも有効ですが、一定期間(3~4ケ月間毎日)摂り続けることが大切です。 (2) 偏食タイプ(IgG 抗体) 毎日食べるもの、好んで食べるものに注意しましょう。 抗原はタン白質で出来ています。 特に卵と乳製品は朝食や給食に出てくるので要注意です。 タン白源は一種類に偏らず、魚、 肉、鶏、大豆製品といったさまざまな材料をまんべんなくローテーションしながら食べること です。 タン白質の種類を変えることによって、IgG アレルギーを解決させられます。 肉を食べる 9 寺さんのもっと健康セミナー17 子供の発達障害 なら、日によって豚肉や、牛肉、鶏肉に変える。 魚を食べるときも同様にサンマやサケ、ア ジ、ブリ、イカなど種類を変えることを基本に考えてください。 唐揚げが好物で大量につくってしまい、連日唐揚げがメイン料理になる、といったことは避け てください。 アレルギー抗体をつくりやすい食材に卵と乳製品があります。 これらは朝の定番メニュー ですが、卵や乳製品はそれぞれ「オフ日」を作るようにしてください。 休腸日を作るのです。 (3) 腸内環境タイプ(IgA 抗体) 必要な栄養素を脳にきちんと届けるには、口から入ってきた栄養素を最終的に体に取り込む 小腸の働きがとても重要です。 前にも書きましたが、小腸には1億個もの神経細胞があって、 脳とは独立して腸管の働きをコントロールしています。 脳神経細胞が出す神経伝達物質と同 じものを腸の神経細胞も出しています。 腸が出す神経伝達物質により、ぜん動運動が促進さ れ、腸液が放出されます。 脳を安眠に導くセロトニンは小腸で作られる方が多いというのも 興味深いですね。 腸の神経細胞は腸粘膜にあるため、粘膜の機能が低下すると「脳アレルギ ー」になります。 それを防ぐには、腸の粘膜を強化したり、腸内環境を整えることがポイン トとなります。 腸の粘膜を強くするにはタン白質、ビタミン A が必要です。 まず小腸細胞のエネルギー源はグルタミン(タン白質)です。 エネルギー源がなければ小腸 は働くことができません。 次に腸粘膜のバリア機能を果たしている IgA 抗体の材料は、グル タミンとビタミン A です。 さらに腸粘膜にあるパイエル板の樹状細胞はビタミン A によっ て、免疫に関係する T 細胞や B 細胞といったリンパ球を活性化します。 腸内環境を整えるのは乳酸菌です。 乳酸菌などの善玉菌の食材となる食物ファイバーも大 切です。 (4) 砂糖アレルギータイプ(低血糖症=糖質依存型) 糖質は脂肪、タン白質と並んでエネルギー源として、体には非常に重要な栄養素です。 糖 質はブドウ糖となって、体温を作り出したり、筋肉を動かしたり、脳を活動させるためにも働 いています。 血液中に溶け込んだブドウ糖の濃度を示す値が血糖値で、食後は緩やかに上昇 したあと緩やかに下降し、3~4時間後には空腹時とほぼ同じ値となり、それ以下には下がら ないのが正常な状態です。 血糖値は一日のなかで上がったり下がったりを繰り返しています。 その変動は何を食べたかによって大きく変わります。 血糖値を上げる食べ物を知る手がかりとなるものにグリセミック・インデックス(GI 値) とグリセミック・ロード(GL 値)いうものがあります。 GI 値はブドウ糖を 100 とした場合 に対するそれぞれの食材の数値を示したもので、値が大きいものほど血糖値の上がり方が速く 10 寺さんのもっと健康セミナー17 子供の発達障害 なります。 GL 値というのは実際の一食分を目安に換算したものなので、より実用的な目安 となっています。 代表的な食品の GI 値と GL 値 GI 値 GL 値 1食の重量(g) 白砂糖 110 110 100 あんパン 95 33 70 食パン 91 28 60 じゃがいも 90 22 140 精白米 84 47 150 うどん 80 52 250 そうめん 68 44 250 5分づき米 58 32 150 さつまいも 55 33 190 豆腐 42 1 150 チーズ 35 0 20 納豆 33 2 50 卵 30 0 50 牛乳 25 3 210 プレーンヨーグルト 25 1 100 紅茶 10 0 150 食材 GI 値 60 以下は食べても OK、 61~70 は要注意、71 以上はなるべく食べないようにする。 GI 値が低くても GL 値(一食分の目安量をもとに換算)が高いものは注意する。 肉類、魚介類は炭水化物をほとんど含まないため、GL 値はほぼ 0。 上の表を見ると、成長期の子供が日常食べている食材には、血糖値を上げるものが非常に多 いということが言えます。 2014 年 2 月に WHO(世界保健機構)が1日に摂る砂糖の量を従来の 50g から 25g に半減 すると発表しました。 日本だけでなく世界中で糖分の摂りすぎによる疾病が増えているから なのですが、大人だけでなく子供も同じです。 ところが子供に大好きな「清涼飲料や甘い菓子は駄目、ご飯やうどんも駄目」といっても、 友達が食べているからなかなか制限することができません。 せめて食事ではご飯から先に食 べるのではなく、野菜から始めて、次に肉や魚類、最後にご飯やうどんを食べさせるという解 決法はいかがでしょうか。 こうすれば血糖値の急上昇はなくなります。 忙しい朝食も同じ順序です。 11 寺さんのもっと健康セミナー17 子供の発達障害 7.成長期の子供の脳と体に必要な栄養 脳の構成物質は脂肪とタン白質ですが、成長期の子供にはこの2つの成分の質と量のバランスが 大切です。 赤ちゃんの脳は胎内ですでに活発に動き出しており、神経細胞はさかんに分裂を 繰り返し、小さい脳の容積いっぱいにその数を増やし始めています。 生まれた後はさらに神経細胞の 形成が進み、神経伝達をおこなう軸索、先端のシナプス、神経伝達物質を受けとる樹状突起などが急に 増えて、情報ネットワークづくりが次第に整っていきます。 生まれたばかりの頃はひとつの神経細胞 に 2500 個程度あるシナプスは、2歳の終わり頃には5~6倍にその数を増やします。 ほとんどの神 経細胞は2歳で分裂を終了しますが、大脳の一部と小脳は6歳まで分裂を繰り返します。 その後も情 報ネットワークを広げる作業が続いていき、12歳で成熟期を迎えます。 その後は脳のバックアップ 機能が充実してきます。 脳細胞数は変わらないけれども、脳の構成物質は毎日入れ替わっています(新陳代謝)。 その材料 としていい脂やタン白質を摂れば、脳の機能は向上します。 細胞や細胞膜だけでなく、神経伝達物質 もタン白質で作られているので、材料の質と量は何歳になっても重要なわけです。 タン白質が不足すれば心のトラブルを招くことになります。 成長期の子供が順調に発育するには、 いい脂やタン白質といった基本的材料が大人より多く必要なのは自明です。 もちろんそれ以外のビタ ミン B 群や鉄、亜鉛といったミネラルも多く必要となります。 食事して 30 分も経たないうちにもう 腹が減ったということもまれではありません。 それだけ成長期は栄養を必要としているのです。 こ んな時は量だけでなく質の高い食材を食べさせてあげれば、心身ともにすくすくと育ってくれるはずで す。 12 寺さんのもっと健康セミナー17 子供の発達障害 8.栄養素と食品 前の章で上げた栄養素を多く含む食品を下にまとめます。 ただ代表的なので、他の食材はここに書 かれた分類から推定して選んでください。 症状 食物アレルギー (IgE) 偏食アレルギー (IgG) 腸内環境アレルギー (IgA) 低血糖症 脳と体の栄養素 改善策 食品 EPA 青身魚(イワシ、サバ、サンマ、サケなど) ビタミン E ホウレン草、大豆、卵、イワシ など タン白質のローテー ション タン白質 卵、肉、魚介類、乳製品、大豆製品 ビタミン A レバー、卵、チーズ 乳酸菌 ヨーグルト、味噌、漬物、キムチ 食物繊維 穀物、いも、豆、果物、海藻、きのこ 糖分を減らす 清涼飲料水、甘い菓子、ご飯、うどん、パン GL 値の低い食材 5 分づき米、豆腐、納豆、肉魚類、 食べる順番 食事は野菜から始めて、肉魚類、最後にご飯 脂肪 青身魚(イワシ、サバ、サンマ、サケなど) タン白質 卵、肉、魚介類、乳製品、大豆製品 ビタミン B 群 緑黄色野菜、肉類、卵、魚介類、豆類 鉄 肉魚類、乳製品、 卵や植物に含まれている鉄は吸収率が低い 亜鉛 魚介類、牛乳、豆、海藻 9.参考文献 800 円 子どもの困ったは食事でよくなる 溝口 徹著 青春出版社 分子整合栄養学概論 金子 雅俊 分子栄養学研究所 13
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