森林地理空間情報誌 LA FORET 都道府県における森林地理空間情報の整備と活用 − Vol.2 − 岐阜県における空中写真のデジタル化 岐阜県林政部林政課 1.はじめに 岐阜県では、地域森林計画策定の基礎資料とな る森林簿、森林計画図、森林基本図(以下「森林簿 情報」という。)を作成するため、県内の5森林計画 区を対象に、5年に1回の周期で空中写真撮影を 行っています。 今回は、岐阜県における空中写真のデジタル化と その活用について紹介します。 2.空中写真撮影とデジタル化の経緯 岐阜県では昭和39年度に空中写真撮影(アナロ グ撮影方式、白黒撮影、撮影縮尺:1/20,000)に着手 しました。昭和53年度からは、起伏の激しい地形の 判読、利用を考慮し、撮影縮尺を1/16,000に変更し ました。平成15年度からは、森林GISの背景画像と して活用することを想定し、カラー撮影に切り替え、 平成16年度からは、簡易デジタルオルソの整備を 始めました。 平成18年度に第2期森林GISが稼働してからは、 オルソ画像を背景として取り込み、オルソ画像と森林 基本図を重ねて見ることができるようになりました。ま た、外部公開型GIS「県域統合型GIS」にオルソ画 像を取り込み、誰もが自由に閲覧できるようになりま した。 平成19年度には、全国に先駆けて空中写真の撮 影方式をデジタル方式に切り替えました。 【オルソ画像とのズレ】 ・道路、建物の位置がオルソ画像と 比べてズレが発生している。 図−1 PAGE 10 和仁 礼二 3.オルソ画像の活用による森林簿情報の更新 岐阜県が平成16年度に作成したオルソ画像は、 県域統合型GISの構築に併せて購入した全県の高 分解能衛星画像を基に、一定の精度(5m以内)を 保ちつつ低価格(従来の4分の1程度の経費)で作 成した簡易オルソと呼ばれる画像です。 このオルソ画像の導入により、これまで分からな かった新たな2つの問題が判明し、これらに対応する ことで、森林簿情報の飛躍的な精度向上につながり ました。 ①オルソ画像と森林基本図の位置ズレ オルソ画像と森林基本図の重畳により、位置情報 を持たない空中写真を用いて森林基本図を修正し ていたことが原因による道路や建物などの地物の位 置ズレ、市町村単位で作成していたため分からな かった隣接市町村との等高線、境界の不一致が明ら かとなりました(図-1参照)。この問題への対応は4以 降で詳述します。 ②オルソ画像と森林計画図の不整合 オルソ画像と森林計画図との重畳により森林界が 写真と一致しない箇所や開発されているのに修正さ れていない箇所などが多数見つかりました(図−2参 照)。 この問題については、判明した箇所から随時画面 を見ながら修正をすることで対応しました。 【市町村界付近のズレ】 ・市町村界付近の等高線や道路が 一致していない。 森林基本図の問題 第2号 図−2 森林データの間違い例 4.共有空間データの作成と空中写真撮影への デジタル方式の導入 森林基本図とオルソ画像との位置ズレを解消する ため、県では、レーザープロファイラにより全県のDE M(標高)データを取得し、等高線を自動発生する 手法で一から作成し、「道路台帳地図」「都市計画基 本図」「固定資産税台帳図」と統合した数値地図「岐 阜県共有空間データ」としてとりまとめました。 数値地図「岐阜県共有空間データ」は、国土地理 院との度重なる調整により、公共測量成果として承 認を得ており、更新にあたってもその都度、承認を 得る必要があります。 しかし、これまでの空中写真撮影と簡易オルソ画 像を用いた更新では、公共測量成果としての精度基 準を満たさないため承認は得られません。そのため 公共測量成果としての精度をクリアし、承認が得られ る撮影及び図化修正方法の見直しが必要となり、デ ジタル撮影方式の導入検討に至りました。 ②必要な積算基準がない 従来のアナログ撮影方式は、積算基準が定められ ていますが、デジタル撮影方式は、カメラの種類によ り性能が大きく異なることや、普及して間もないことか ら設計に必要な積算基準がありませんでした。 そこで、岐阜県では、デジタル撮影方式に対応す る「航空写真製品仕様書」「デジタルオルソ製品仕様 書」を独自で作成することで対応しました。 また、公共測量成果の承認についても、国土交通 省公共測量作業規程第16条(機器等及び作業方 法に関する特例)により、製品仕様書・精度証明書 の提出をもって公共測量成果物としての承認を得る ことができました。 積算は、デジタル航空カメラを保有する航測会社 に、製品仕様書と撮影範囲を提示した上で、撮影 コース計画や撮影枚数、積算歩掛の見積もり依頼を 行い、その中で最も安価な撮影枚数及び歩掛を採 用して積算しました。 (1)デジタル撮影方式の課題と対応 ①デジタル撮影方式に対応した仕様書がない デジタル撮影方式の場合、既存の仕様書では使 用できないため、デジタル航空カメラでの撮影内容 を示す仕様書を作成する必要がありました。 また、公共測量の申請についても、民有林空中 写真測量作業規程に該当しないことから、公共測量 の承認が受けられませんでした(現在は公共測量作 業規程の準則への改定等により解決されつつありま す)。 (2)デジタル撮影方式の特徴 ①位置情報の正確な把握 写真撮影時にGPS/IMUユニットとデジタル航 空カメラが連動することで、撮影機を予定撮影地点 に誘導し、決められた位置で撮影することが可能と な り ま す。ま た、撮 影 し た カ メ ラ 位 置 は、カ メ ラ の シャッターと連動したGPSにより測量され、3次元座 標値として記録可能となります。さらに、IMUを搭載 することにより、写真一枚ずつの撮影時のカメラ位置 PAGE 11 森林地理空間情報誌 LA FORET だけではなく、傾きなどの姿勢も記録できるようにな ります。 これにより、記録したデータのみで正確な撮影位 置情報を把握することができ、地上での作業を大幅 に省くことができます。 ②作業工程の省略 アナログ撮影方式では、フィルムの現像処理や、 アナログ情報として記録された画像をデジタル画像 に変換するスキャニング等の処理が必要ですが、デ ジタル撮影方式の場合、その工程が必要なくなり工 期を短縮することができます。 また、スキャニング工程におけるフィルム読み取り 時の歪み誤差の影響もなくなり、より正確な位置情 報を取得することができます。 ③撮影範囲 デジタル航空カメラには、Digital Mapping Camera (通称DMC)とUltra Cam D(通称 UCD)の2種類が あります。アナログ航空カメラと撮影範囲を比較する と、撮影縮尺が1/10,000の場合、アナログ航空カメラ の 撮 影 範 囲は「縦 2.11km × 横 2.11km」にな り ま す が、デジタル航空カメラ「DMC」の場合、撮影範囲 は「縦0.93km×横1.68km」と小さくなるため撮影枚数 が増えます。また、「UCD」の場合では、撮影範囲 は「縦0.68km×横1.04km」とさらに小さくなります。 図−3 ただし、アナログ航空カメラに比べデジタル航空カ メラのほうが高解像度、高色深度であることから、同 じ地上解像度で判断する場合、デジタル航空カメラ は撮影高度を上げることが可能となります。「DMC」 の場合、撮影高度を上げることで撮影範囲を1.5倍 まで広げることが可能となります(図―3参照)。 ④撮影経費 撮影経費は撮影日数に大きく左右されます。 アナログ撮影とデジタル撮影の撮影モデル数を比 較すると、デジタル撮影のほうが約1.7倍と多くなり撮 影コースも増えますが、飛行速度はアナログ撮影200 km/h に対しデジタル撮影250km/hと約1.3倍速い 航空機材により実施しています。 平成18年度に実施したアナログ撮影と平成19年 度に実施したデジタル撮影を比較すると、ほぼ同じ 撮影面積で撮影日数はどちらも3日間となり、設計金 額もほぼ同じとなりました。 ⑤陰影処理が可能 デジタル撮影方式では、アナログ撮影方式と比較 して高い色諧調をダイレクトに取得できるため、従来 では判読できなかった陰影部を、画像処理により補 正することで鮮明に表現し判読性能を向上すること ができます(図−4参照)。 同一縮尺で撮影したときの撮影範囲 PAGE 12 第2号 5.おわりに 岐阜県ではデジタル撮影方式に変更して、今年 度で3年目となります。 デジタル撮影は、撮影高度が高いことから地上と の空間が多くなり、アナログ撮影に比較して、天候に 左右されやすくなります。 岐阜県の場合、6月の梅雨入り前までは天候が安 定しており、「太陽高度が高く影の影響が少ない」、 「樹種界が明確に表れる」などから最も空中写真撮 影に適している時期です。この時期に撮影出来るよ う早期発注を行う必要があります。 また、岐阜県では、財政事情の悪化から毎年予 算が削減されており、撮影エリアを縮小せざるを得な い状況にあります。そこで、今年度からは、計画区内 で空中写真撮影を実施している市町村に対し、デー タの提供を求め、そのデータを加工して利用すること で経費の削減を図り、計画区全てのオルソ画像の作 成を行うことにしました。今後も、市町村の協力を仰 ぎながら、計画区全てのオルソ画像の作成を継続し ていきたいと考えています。 森林調査は、職員の削減もあり、以前のように現 地調査まで手が回りません。森林簿情報の更新は、 空中写真(オルソ画像)のみに頼っているのが現状 です。 今後も、いろいろな知恵を出しながら、空中写真 撮影を継続し、森林簿情報の更新と精度向上に取り 組んでいきたいと考えています。 以上 補正前 陰影部の林況が 判読できない 補正後 陰影処理により 判読可能になる PAGE 13 図−4 陰影処理
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