1 力学と微分方程式

1.1 変数分離法
物理学補足資料
1.1 変数分離法
1 力学と微分方程式
微分方程式の解法には基本的に積分が含まれる.高校で
未知関数とその導関数を含む方程式は微分方程式 (differen-
習う積分法の範囲内で理解が可能な方法が変数分離法で
tial equation) と呼ばれ,その内,独立変数が一つのものを常微
ある.すなわち,
分方程式(ordinary d.e.) という.また,微分方程式に含まれる
dy
= f (y)g(x)
dx
導関数について最も高い階数を以って,微分方程式の階数と
いう.Newton の運動方程式,
m
d2 r
=F
dt2
(
t,
dr
,r
dt
)
(2)
の形の常微分方程式の両辺を f (y) で割って,x で積分す
ると,
(1)
∫
は r(t) についての 2 階の常微分方程式である.力学におい
ては,
1 dy
dx =
f (y) dx
∫
g(x) dx
(3)
となり,右辺は g(x) の定積分,左辺は 1/f (y) の置換積
( i ) 現象を観察・解析して数理モデルを立てて,式 (1) の右辺
分である.従って,左右の定積分を独立に実行し,一般
として適切な関数を与える(主として物理学).
解は
∫
( ii ) 常微分方程式 (1) を解く(主として数学).
という 2 つの段階に分けて考え,それぞれに習熟することが
大切である.第一段階の,数理モデル化の過程を学習するこ
1
dy =
f (y)
∫
g(x) dx + C
(4)
と求められる.
とが物理学の範疇であり,十分に時間を掛けて学習しなけれ
ばならない.第二段階の,数学により解析解を導く(解を既知
1.1.1 速度のべき乗に比例する抵抗力
の関数で表現する)ことは重要ではあるが,時間の制約により
( i ) 水平で滑らかな床面上を動く小物体に,速度 v(> 0) に比
例する粘性抵抗 −bv が働く場合の運動方程式は,
詳細に講義できない.そこで,簡単に常微分方程式の解き方
をまとめておく.厳密な扱いは,数学科目の「常微分方程式」
m
を履修されたい.
なお,多くの場合,常微分方程式の解が存在することは明
dv
dv
b
= −bv ⇔
=− v
dt
dt
m
(5)
であり,変数分離して
∫
らかではあるが解析解を求めることが困難であるといった状
1
dv =
v
∫
ているといっても過言ではない.実は,現在では解の挙動を
b
b
dt = − t + C ′
m
m
両辺を指数の肩にのせて,elog x = x より
数値計算によって把握できるので,解析解が得られなければ
v(t) = Ce− m t
log v =
況が生ずる.むしろ,解析解が得られるものだけを取り上げ
−
b
(6)
(7)
その力学現象が理解できないという風に悲観する必要はない.
なる一般解を得る.初期条件として v0 = v(0) > 0 を付
機会があれば「数値計算学」も是非履修されたい.
すると,
v(0) = C = v0 .
(8)
よって,特解
v(t) = v0 e− m t
b
(9)
を得る.なお,(9) が (5) を満たしているかどうかを確か
めることは,初等関数及びその積の微分は関数で表現で
きることから,以下のように容易である.
b
dv
b
b
= − v0 e− m t = − v
dt
m | {z }
m
v
( ii ) 地表付近で落下する小物体に,粘性抵抗 −bv が働く場合
の運動方程式は,鉛直下向きを v の正として,
m
1
dv
dv
b
= mg − bv ⇔
=g− v
dt
dt
m
(10)
1.1 変数分離法
物理学補足資料
である.これも変数分離が可能であり,
)
b
v−g
m
∫
∫
1
=−
dv
=
dt = t + C ′
b
v
−
g
m
両辺に −b/m を掛けた後に指数の肩にのせて
)
b
b
m( −bt
v − g = Ce− m t ⇔ v =
Ce m + g
m
b
−
m
log
b
なる一般解を得る.与初期条件に対しては,
(
v0 =
(19)
であるから,特解
(11)
v(t) =
(12)
b2
mt
1
+ v0−1
(20)
が得られる.検算は以下の通り.
− bm2
dv
1
b2
b2 2
=(
) = − · (b
) =− v
−1 2
−1 2
b2
2
dt
m
m
t + v0
m t + v0
| m {z
}
なる一般解を得る.自然な初期条件,v0 = 0 の場合には,
0 = C + g ∴ C = −g.
1
1
∴ C=
C
v0
(13)
v2
よって,
)
b
mg (
1 − e− m t
v=
b
問題 1 (粘性抵抗と動摩擦力が働く水平運動) 粗い水平床
(14)
面上を動く小物体に,速度 v(> 0) に比例する粘性抵抗 −bv
が働く場合の運動方程式を立てなさい.ただし,床と小物体
を得る.なお,(14) は以下に示すように,確かに (10) を
との動摩擦係数を µ とする.また,初期条件 v0 = v(0) > 0
満たしている.
に対する特解を変数分離法により導きなさい.ま検算もしな
[ (
)]
b
dv
mg
b −bt
m
=
− − e
= ge− m t
(†)
dt
b
m
)
(
)
b
b
b
b mg (
− v=− ·
1 − e− m t = −g 1 − e− m t
m
m b
b
dv
= −g + ge− m t = −g +
| {z }
dt
さい.
問題 2 (慣性抵抗と動摩擦力が働く水平運動) 粗い水平
床面上を動く小物体に,速度 v(> 0) の 2 乗に比例する慣
性抵抗 −b2 v 2 が働く場合の運動方程式を立てなさい.ただ
し,床と小物体との動摩擦係数を µ とする.また,初期条件
(†) より dv
dt
v0 = v(0) > 0 に対する特解を変数分離法により導きなさい.
以上,(i) (ii) いずれも解は指数関数となる.(ii) の落下運動
ま検算もしなさい.
については抵抗が働かない自由落下を記述する 1 次関数とは
明らかに関数が異なる.しかし,自由落下を b → 0 の極限と
例題 2 (慣性抵抗が働く落下運動) 地表付近で落下する小
考えて,近似式 ex + 1 + x (x ≪ 1) により計算すると,
v+
mg
b
{
(
)}
b
mg b
1− 1− t
=
· t = gt
m
b m
物体に,慣性抵抗 −b2 v 2 が働く場合の運動方程式を立てなさ
い.また,自然な初期条件 v0 = v(0) = 0 に対する解を導き
(15)
なさい.
となって形式的には一致する.
[解] 下向きに正を取って,運動方程式は
例題 1 (慣性抵抗が働く水平運動) 水平で滑らかな床面
m
上を動く小物体に,速度 v(> 0) の 2 乗に比例する慣性抵抗
√
β
β−v
log √
−
g
β+v
√ [
]
√
√
β
− log( β − v) + log( β + v)
=
g
]
∫ [
1
2β
1
1
√
· √
=
+√
dv
g 2 β
β−v
β+v
∫
∫
dv
=
dt = t + C ′
=
g − bm2 v 2
√
両辺に −g/ β を掛けて後に指数の肩にのせて,
√
β−v
− √g t
√
= Ce β
β+v
− √g t
1 − Ce β √
∴ v(t) =
β
− √g t
1 + Ce β
√
件 v0 = v(0) > 0 に対する特解を変数分離法により導きなさ
い.また,得られた解が与微分方程式を満たすことを検算し
なさい.
[解] 運動方程式は,
dv
= −b2 v 2
dt
(16)
であり,変数分離によって
∫
dv
=
v2
1
∴ v(t) = b2
mt + C
1
=−
v
∫
b2
b2
dt = t + C
m
m
(21)
であり,変数分離によって,
−b2 v 2 が働く場合の運動方程式を立てなさい.また,初期条
m
dv
= mg − b2 v 2
dt
(17)
(18)
2
(22)
(23)
1.2 同次と非同次
物理学補足資料
なる一般解を得る.ここに,β = mg/b2 である.自然な初期
両辺に ω を掛けて,sin をとれば,
条件 v(0) = 0 より,明らかに C = 1 であるから,特解
− √gβ t
v(t) =
1−e
− √gβ t
√
β
1+e
が得られる.また,
√ t → ∞ 極限では v →
ωx
± √ = sin(ωt + ωB)
A
√
A
⇔ x=±
sin(ωt + ωB)
ω
∴ x(t) = C1 sin(ωt + C2 )
(24)
√
β すなわち,終速
mg
度 v∞ = β =
に漸近する.なお,終速度は速度の変
b2
化がなくなる定常値と考えられるから,式 (21) の左辺を 0 と
√
問題 6
運動を解析しなさい.
問題 7 (水平釘に掛けられた紐の運動) 滑らかな細い釘に
問題 4 (粘性抵抗が働く放物運動) 一様重力 g が働く水平
長さ 2L,線密度 λ の細い紐が掛けられている.左右の長さを
面上において,初速 v0 ,傾角 θ で投げ上げられた質点に速度
少しずらして静に手を離すとすべり始める.紐の先端の位置
v に比例する抵抗力が働く場合の運動を解析しなさい.また,
x(t) を求めなさい.なお,左右同じ長さになっている時の先
到達距離 χ(θ) 及び最大到達距離 χm とそれを与える傾角 θm
端の位置を原点にとると計算し易い.
を求めなさい.

問題 5 (万有引力下での落下運動) 地表からの高さ h が大
た万有引力
1.1.3 積分公式
Mm
F = −G 2
r
変数分離法では不定積分が必要不可欠である.以下の基本
的な公式は導き方も併せてしっかりと覚えるべきである.
を受ける.ここに,G は万有引力定数,R, M は地球の半径と
質量である.この場合の質点の運動を解析しなさい.ただし,
∫
dx
1
x
=
arctan
(a ̸= 0)
x2 + a2
a
a
∫
x − a
dx
1
(a ̸= 0)
(iii)
=
log 2
2
x −a
2a
x + a
∫
dx
x
x
√
( iv )
= arcsin = − arccos
(a > 0)
a
a
a2 − x2
∫
√
dx
√
(v)
= log x + x2 + a
2
x +a
∫
dx
( vi )
2
ax + bx + c

2ax + b − √b2 − 4ac 
1


√
√
log 

2 − 4ac
2 − 4ac 
b
2ax
+
b
+
b




(b2 −4ac > 0)


=
2
2ax + b


√
arctan √
(b2 −4ac < 0)

2
2

4ac
−
b
4ac
−
b







 −2
(b2 −4ac = 0)
2ax + b
1.1.2 単振動
単振動の微分方程式
(25)
は,このままでは変数分離ができないが,両辺に v = dx/dt
を掛けて t で積分すると,
∫
(26)
(27)
(28)
と変形できる.さらに,両辺の平方根をとって
(29)
これは変数分離が可能であり,
)
(
ωx
1
± arcsin √
ω
A
∫
∫
dx
= dt = t + B
=± √
A − ω 2 x2
dx
= log |x + a|
x+a
( ii )
これはかなり煩雑な計算になる
√
dx
= ± A − ω 2 x2
dt
∫
(i)
地球の中心を通る直線上で運動しているものとする.
v=
紐の質量は一定であるが,紐の片側の質量が変化するので,それに応じて
力すなわち加速度も変化するという問題.少し難しい.
きい所では,質点 m は地球の中心との距離 r = R + h に応じ
∫
dv
1
dt = vdv = v 2
dt
2
∫
∫
1
dx
x dt = xdx = x2
dt
2
∴ v 2 = −ω 2 x2 + A
次に示す 2 階の常微分方程式の一般解を求めな
d2 x
= +ω 2 x
dt2
v および速度の 2 乗 v 2 に比例する抵抗力が働く場合の,落下
v
(33)
さい.
問題 3 (粘性抵抗,慣性抵抗が同時に働く落下運動) 速度
d2 x
= −ω 2 x
dt2
(32)
が得られる.
して求めることができる.

(31)
1.2 同次と非同次
例題 2 の微分方程式は例題 1 のそれに定数項 g が加わった
(30)
だけなのに,随分と面倒な計算をすることになった.二つの
3
1.2 同次と非同次
物理学補足資料
常微分方程式を
dv b2 2
+ v =0
dt
m
dv b2 2
+ v =g
dt
m
(34)
(35)
のように書き直してみると,右辺の項が 0 と非 0 の場合に分
類できる.0(という特別な場合)と非 0 とでは挙動が異なっ
ていても不思議はないと何となく想像できるであろう.一般
に,以下のように,関数 y(x) およびその n 次導関数 y (n) を
左辺に整理し,右辺には独立変数 x のみを含む関数を記すこ
とにして,
F (y (n) , y (n−1) , · · · , y ′ , y, x) = g(x)
(36)
• g(x) ≡ 0 である場合を同次(または斉次)方程式
• g(x) ≡ 0 でない場合を非同次(または非斉次)方程式
と分類する.
4